自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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Turo428

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369 :虚無への砲弾 ~異界の王~:2007/02/12(月) 13:28:38 ID:eqgsRyJs0

    その神殿は、小高い丘の中腹にあった。
    かつてはこの地方の信仰を一身に集めた光の神の神殿。
    しかし、長きに渡る戦乱、そしてかの『王』の跳梁によって大陸全体が疲弊荒廃した結果、すっかり寂れてしまっていた。

    その中心たる大聖堂に、大きな穴が開いている。
    開いた穴からは、二本の幅広い轍が出来ていて、聖堂の中の大理石の床、聖堂の外の石畳を刻み込んでいる。
    それらを作ったのは、異世界の戦車、E-79。

    「協力……するって言ったんですか。あの隊長が?」
    「ああ、さっきみんなとあの婆さん達の前に明言してたろ。その……俺達を呼んだ理由、化け物を倒す為に協力するって」

    E-79の傍らで数本の煙が、丘の上の神殿に差し込む夕闇の空に向かって立ち上っている。
    ガンプ曹長とクリシュ軍曹、マイヤー上等兵の紙巻き煙草の煙だ。
    末期に作られたもので有るため、平時のモノに比べれば酷く不味い。
    だが、それでも吸えないよりは比べものにならないので、黙って吸っている訳だ。
    煙草が苦手なヨハネス一等兵は、3人から少し離れた位置で異世界の果実を囓っていた。
    林檎に似た甘みと酸味を持つ新鮮な果実は、代用食と不味いレーションばかりを食べていた彼の舌を大いに楽しませている。

    「でもよぉ、何で俺達がンな化け物とやり合わなくちゃならねェンだよ? 祖国の為でもねぇ、関係ない奴らの為に戦わなきゃいけないなんてふざけてるぜ」
    「そりゃそうだ。でも、俺等がドイツに戻る手段がそれしか無いならそうするしかない」

    不満げなガンプのぼやきに対し、夕陽を眺めながらクリシュが紫煙を吐き出しながら応じる。

    「加えて俺等は、召喚されてなきゃ彼処でおっ死んでたよ。あん時の残弾は溜弾加えても14発しかない」
    「……そ、そりゃそうだけどよぉ」
    「つまりはそう言う事だ。あの時、こちらを補足していたアカ共の戦車は有視界内だけでも10両近く。あのまま戦い続けても結果は見えていた」
    「……やられてたよなぁ。弾より敵の方が多いんだもの」
    「ああ、確かにこんな世界に引っ張り込まれて『化け物を倒せ』と言われるのは業腹だけど、文句は言えないって事だな」

    勿論、これは結果論だ。
    彼等がもし、順調に米軍の戦線へ移動する途中で引き込まれた場合、ドイツ戦車兵達の態度や感情はまるっきり変わっていただろう。

    「しかし、その化け物というのは何でありますかクリシュ軍曹殿」
    「よくわからん。あの婆さんは『滅ぼされた王の思念』とか言ってたが……亡霊退治なんてどうやれってんだか」
    「そう言うのは神父や呪い師のやる事ですよね」
    「間違っても、俺等戦車兵のやる事じゃない。なのに何で選ばれたんだかなぁ」

    安っぽい紙巻き煙草の紫煙がゆっくりと立ち上る。
    思えば、こうして戦火を意識しないで寛げるのは久し振りだ。
    極度に戦局が悪化した1945年では、彼等ドイツ兵が心穏やかに過ごせる場所なんて、ドイツ本国内ですら無かったからだ。
    絶え間ない空襲に波状攻撃、移動中もヤーボや黒死病に追い回され、あらゆる建物は砲撃と爆撃の対象にされておちおち寝ていられない。
    だが、ここにはライミーやトミー、ボリシェビキも敵よりも自軍の兵士を処刑するのが好きな野戦憲兵も居ない。
    明確な敵が居ないだけ、彼等にとっては寛げる空間であった。

370 :虚無への砲弾 ~異界の王~:2007/02/12(月) 13:29:44 ID:eqgsRyJs0
    大神殿のバルコニー。
    そこから、シュトライバーは丘の下を眺めていた。
    緑の野、森、川、山。
    よく見てみると、夏のウクライナに似ているかもしれない。
    あの、バックフロントが縦横無尽に張り巡らせられた、戦車の墓場。

    「う……」

    視界が、滲む。
    世界が、焼ける。
    滲んだ視界は、夕焼けの様に紅く燃えていた。
    燃える世界は、葉を繁らせていない森の中のようだった。
    木々は、葉の代わりに火を纏っていた。
    森に、呼ばれている。そんな気がして、シュトライバーは前に歩き出そうとした。

    「そのまま進めばバルコニーから落ちて死ぬるぞ。良いのか?」

    後ろから聞こえた大司祭の声に、意識が現実に呼び戻される。
    滲んだ世界は消え、先程まで映っていた世界が戻っていた。

    「……」

    大司祭の方には振り向かず、シュトライバーは丘の下に広がる平原の方をじっと見つめ続けている。
    大司祭も彼が見ている方を見る。何も見えない平原。だが、彼女は其処から何かを感じていた。

    「御主も、解るのかの?」
    「ああ、感じる。あの時と、同じ雰囲気だ」

    ベルリン郊外で破棄されていたティーガー戦車。
    あれに『王』が憑依し、動き出したあの日の雰囲気。
    胸の中がざわつく。ざわつきがシュトライバーに告げる。

    王が、居る、と。

    「先程、我が神より神託を受けた。王が、お主に気付いたと。近々、こちらに来るじゃろうて」
    「そうか、それは好都合だ。俺は使命を果たす。ただ、それだけだ」

    淡々とした口調で語るシュトライバーの背中を見つめながら、大司祭は更に告げる。

    「それだけ、なのか。お主にとっては」
    「ああ、俺は使命を果たすだけだ。それ以外の術を知らない。そうする事しか出来ない」
    「正しく修羅の道、じゃな。そのような生き方では、生きる事自体が地獄になるぞ」
    「何を言っている。俺にとっては元の世界でも異世界でもどこでも地獄だ」

    大司祭に対してそう呟くと、E-79のある大聖堂の方へとシュトライバーは歩み去った。

    「……哀れな男よ。知らず知らずの内に運命に呑まれ翻弄され、駆り立てられて行くとは……ごほっ」

    大司祭の呟きに答える者はなく、彼女が密かに吐血したのを見た者も居なかった。

371 :虚無への砲弾 ~異界の王~:2007/02/12(月) 13:31:41 ID:eqgsRyJs0

    少女は、荒土の上で呆然としていた。
    そして、遠離る『それ』を見送っていた。


    数時間前、彼女の村は見た事も無い軍隊の襲撃を受けていた。
    鉄で全てが構成され、火を噴く恐ろしい塊。鉄の棒を構え、火を放ち遠くにいる人間を殺傷出来る兵士。
    彼等はいきなりやって来たかと思うと、立ち塞がった自警団を皆殺しにし、怯える村人達に意味の解らない質問を浴びせ付けた。
    そして、村人達がその質問に答えれないと解ると、彼等は悪魔と化した。

    酒と食料は、残らず略奪された。
    男衆は不要と判断されたの兵士達によって虐殺された。
    若い女達は組み敷かれ、徹底的に辱められた。
    少女は母親によって辛うじて逃がされ、床下の地下倉庫の通気口からその悪夢の一部始終を涙を流しながら見つめていた。
    自分の故郷が、理不尽な者達によって蹂躙され、滅ぼされるのを。

    しかし、本当の破局はその後から来た。
    少女には、理解出来ない存在は、一通り自分達の欲望を満たした彼等が家捜しを始めた頃に村へとやって来た。

    嵐のような『それ』に気付いた鉄の塊と、兵士達は一斉に火や火の塊を『それ』に浴びせかけた。
    一切の攻撃は、全く無意味だった。あらゆる攻撃は『それ』の纏った嵐によって悉く逸らされた。

    ようやく彼等が自分達が『それ』を打倒する事が不可能なのを悟った時には既に全ては終わっていた。
    村全体が嵐に被われ、全てが吹き飛んでいった。
    鉄の塊も、兵士達も、村も、全てが吹き飛んだ。

    そして地下室の最深部に転がり落ちた少女だけが、生き残った。
    『それ』は、彼女一人に見送られ、平原の果てに去っていく。
    その平原が尽きる所にあるもの、それは。

    「あっち、大神殿のある方向……」

    少女の呟きが、滅びた村の跡地に空しく響いた。


    続く

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