自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

003

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匿名ユーザー

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ノービス王国暦139年豊潤の月三日  聖なる森  

この日は朝から火の精霊が元気だった。  
聖なる森の守護者としてこれほど気分が悪くなる事はそうそうないが、今の状況はそれ以上ね。  

「なんなのだあいつらは」  

風の精霊を使って遠見をしていたターレフの方が震えている。  

「あら、ターレフは随分とお怒りのようね」  
「お怒り?当たり前だ。あいつらを見ろ」  

相当腹を立てているみたいね、物見に来たというのにそんな大声出してどうするのよ。  

「意味もなく草を刈っている。  
秣にするわけでもない、もちろん本人が食べるわけでもない。  
しかもどうだ?信じられない事に集めた草を焼こうとしているぞ。よりにもよって俺たちの目の前でだ。  
俺はもう我慢できそうもない」  
「あらいやだ、こんな昼間から誰かと交わるつもりはないわよ?」  

一瞬で彼の顔が赤くなる。  
『エルフに交渉を任せる愚か者はいない』という諺の通りね。  
まあ、本当の意味は高慢なものに交渉は出来ない、というものらしいけど。  
しかし『婆さんゴーレムを投げる』といい、人間の諺っていうのは面白いわね。  

「そ、それでどうする?やるか?」  
「だから、こんな昼間から誰かと」「それはどうでもいい。奴らだよ」  

あぁ、これだから馬鹿は嫌いなのよね。  
若いからって愚かな振る舞いが何でも許されるわけではないのに。  

「あのねぇ、敵か味方かもわからない連中相手に勝手に事を起こしていいわけがないでしょ?」  
「でも奴らは聖なる森のほとりで火を使っている」  
「それは戦う理由にはなるかもしれないけど、貴方の判断で部族の総意と取られそうな行動をしていい理由にはならないでしょ?」  
「しかし奴らは愚かな人間に過ぎないじゃないか。精霊魔法の一つでもやれば尻尾を巻いて逃げ出すさ」  

あーちょっとまって、頭痛くなってきた。  
まったく、部族長も『若い者の経験になるから』とかいう理由でこんなの押し付けないでよ。  
ただでさえ最近は南の砂漠化や西の連合王国の件で大変だっていうのに。  

「ちょっと考えてみて」  
「何をだ?」  
「聖なる森のそばで、最後に人間が火を使ったのはいつだか知ってる?」  
「知ってるさ、今から100年前だろ、連合王国とかいう愚劣な人間の集団に、聖なる森の守護者にして誇り高き我々エルフが哀れみをもって教育を与えた話だな」  
「いい?ターレフ、その下らない修飾語をたくさん思いつく脳みそで考えてみて?」  

私はイライラしながら口を開いた。  
そう、私は表に出る事を許されたエルフの代表者。  
こんな馬鹿相手にいちいち声を荒げるわけにはいかないわ。  

「人間がこの森の近くで火を使ったのは100年前。それから100年こんな事はなかった」  
「ああそれで?」  

あーこの顔は何も考えていない顔ね。  
大方、聞き流してさっさと飛び出そうとでも考えているんだわ。  

「100年っていうのはね、人間にとってはとても長い時間なの。  
私たちはこの森にいる限り時間という概念とは切り離されているけど、彼らは違うわ」  

ここで言葉を切ってターレフの顔をしっかり見る。  
うん、とりあえず聞いてはいるみたいね。  
理解しているかどうかはわからないけど。  

「今あそこにいる彼らを20歳と仮定すると、100年前の出来事は遥かな祖先が体験した話よ。  
それでも今まで何事もなかったのに、今ここで、急に火をたく理由はなんなのかしら?  
それも、あんなに無防備に、当たり前のように」  

だから調べる必要があるのよ、と続けようとした私をさえぎって、この馬鹿は口を開いた。  

「わからん。とりあえず今重要なのは、奴らがここで火をたいているという事じゃないのか?」    
「わからないからこそ、調べる理由があるんでしょ?  
それとも何?貴方は死体と会話する能力を持っているのかしら?」  

実際、戦う事自体には問題はない。  
私はこれでも名の知れた精霊使いだし、ターレフは馬鹿とはいえ表に出る事を許されたエルフだ。  
あそこにどれだけの人間がいるかは知らないけど、森の中から精霊魔法を使えば一方的に叩けるだろう。  
でも、戦う前に確かめるべき事があるでしょうがっ!!  

「彼らが火を使っていることは私もわかっている。今重要なのは“なぜ”火を使っているか、でしょ?」  
「なんだ、そんな事はわかっているさ。奴らは愚かで鈍重な人間なんだ。聖なる森の守護者にして誇り高き」「ねえターレフ」  

彼がたくさんの修飾語を使おうとしているところで私は口を挟んだ。  

「今度私の前でその下らない修飾語の集団を使ったら、貴方の表に出る権利を永久に剥奪するわ。わかった?」  
「わ、わかった」  

慌てて頷いている。  
エルフ族にとって、表に出て無事に帰ってくるという事は、成人になった事を意味している。  
この資格を剥奪されるという事は、村中から軽蔑のまなざしを向けられつつ一生を送る事になる。  
あまり脅迫みたいな事は言いたくなかったんだけど、しょうがないわよね。  

「よろしい、それで?」  
「い、いや、何しろ100年前だ。忘れてしまったんではないかと」  

ああ神様、この愚か者に罰をお与え下さい。  
それもとびっきり重い奴を。  
そしてもうだめだ、こんなのと一緒に行動は出来ない。  

「ターレフ、貴方に重要な仕事を任せるわ。  
いいこと?私が戻ってくるまで、この木を見守り続けるの。  
私が許可するまで絶対に行動しない事、返事以外に口を開かない事。  
それだけ守れば今日のところは見逃してあげるわ。返事は?」  
「わ、わかりました」  


さて、と。  
短刀がいつでも抜けるようになっている事を確認する。  
周囲には異様に火の精霊が多いけど、大丈夫、風や水の精霊もいる。  
念には念を入れて先に風の精霊の加護を得ておこう。  
小声で呪文を詠唱する。これでどこから矢が飛んで来ても大丈夫。  
よし、準備完了ね。  
後ろを見れば、馬鹿はひたすらに木を眺めている。  
うん、これで邪魔される事もないでしょう。  
立ち上がり、海岸に向かって歩き始める。  
どこからか見ていたのか、あちらは気づいたようだ。  
何人かが集まってくるのが見える。  
あの鉄の棒は何かしら?魔力は感じられないし、あんなゴツイ魔法使いってのは聞いたことないわね。  

「そこの貴方たち!」  

私は声を張り上げた。  
今にして思えば、私のこの言葉から全てが始まったのよね。  



西暦2020年1月13日  15:34  隣の大陸  橋頭堡建設地  

「なんだ?」  

空気が綺麗なせいか、どうも視界がクリアだ。  
まあ日中なんだからクリアなのは当たり前だが、こいつはちょっと常軌を逸してるんじゃないか?  
何しろ草刈をしている部下たちの額に光る汗までもがしっかりと見える。  
おまけに草を刈った鎌の端から微量に飛び散った草の汁もはっきりとだ。  
意識を集中してみる。  

「ハァハァハァハァ」  

草刈をする隊員たちの、荒い息がはっきりと聞こえる・・・・不愉快だ。  
って、それはどうでもいい。  
どうしてここまで感覚が鋭敏になっているんだ?  

「・・・今日のところは見逃してあげるわ。返事は?」  
「あ?何か言ったか?」  
「は?・・・いえ、何も」  

振り向いて尋ねた俺に、三曹は最初は怪訝そうな、そして次に優しい発音で答えた。  
安心しろ、俺はまだ狂っていないはずだ。  
そうとも、視界の端で全裸のちっちゃい妖精さんが踊っていたりなんてしないさ。  
うん、隊員の構えるMINIMIから、小さなドラゴンさんがこっちに挨拶していたりもしない。  
俺の抱えている89式小銃の銃身に、小さいが戦闘服を着た少女が腰掛けていたりするはずがない。  
  
「なあ三曹、俺は疲れているのかな?」  
「大丈夫ですよ三尉殿、こんないい天気です、幻聴の一つや二つ、聞こえてくるものです」  
「そうだよな、うん・・・うん?」  

何かが気になり、俺は振り返った。  

隊員たちが汗をかきつつ草を刈るその向こう。  
鬱蒼と茂った森の中。  
誰かがいる。  
二人だ。  
銃火器は持っていなさそうだ。  

「三曹、戦闘配置」  
「はい?・・・・・了解しました、ダマテンで」  

そのまま彼は監視塔の下を向き、なぜか持ち込んでいた砂袋を落とした。  
大した音はしなかったが、それを見ていた隊員は、静かに最寄の倉庫へと入っていく。  
直ぐに扉が開き、リアカーを押す隊員たちが現れた。  
あれは、休憩を取っていた第二分隊か。  
シートの下には・・・金属の擦れる音からして89式小銃、MINIMIもあるな。あとこの重い音は弾薬箱か?  
  
「MINIMIまで必要か?」  
「えっ?」  

三曹は一瞬凍りついた。  
だが、直ぐに感心する目になり、答えた。  

「自分は必要かと考えます、三尉殿」  
「そうか、外の連中はどうする?下げるか?」  
「順番にしましょう、一番外側からで」  

小声で命令が伝えられていくのがわかる。  
外側から下がれ、騒ぐなうろたえるな。自衛官はうろたえない。  
なんつーか、まあ普通に動いてくれればいいさ。  

「よーし作業終了!戻って飯にするぞ!」  
「飯だー!喰うぞー!」  

元気良く陸士長たちが叫び、そこに陸士たちの声が加わる。  
おいおい、あんなに大きな声を出していいのかよ。  
ま、相手は動いていないみたいだしいいか。  
ゆっくりと、しかし確実に隊員たちはゲートを越える。  
それに比例して銃を構えた隊員たちがゲート周辺に散らばる。  
よし、今のところは順調だ。  

「そこの貴方たち!」  

不意に女性の声が響いたのはその瞬間だった。  
森から現れたのは、20代と思われる背の高い女性。  
腰に短剣、全身は随分と機能的に見える戦闘服。  
しかし銃火器の類は一切なし。投降者か?  
いや、それにしては態度がでかい。  

「発砲用意、許可があるまで撃つな」  
「わかってます。欧米系みたいですな」  
「ああ、SASとかそういうのかな?」  
「一人である理由がわかりません」  
「とりあえず話してくる。いざという時は任せたぞ」  
「御武運を」  
「交渉ごとには必要ないな、それは」  

手早く会話を済ませ、俺は監視塔から降りた。  
はて、ロープを使った登攀はこんなに簡単なものだったか?  
まあいい。  

「そこで止まれ!」  

今まで出したことのない脚力を発揮した俺は、今すぐ習志野からお呼びがかかりそうな素早さで相手の前に出た。  
ここなら監視塔からの銃撃の邪魔にはならないだろう。  
しかしこいつ、実に良い女だ。  
半透明の妖精さんがまとわりついていない事を除けば。  
耳が妙に長いのは別にいい。  

「何者だ?何のようだ?」  

安全装置を外してある小銃をさり気なく掴みつつ尋ねる。  
森の中にいるもう一人は・・・何をやっているんだ?  
ひたすらに木を睨みつけているが。  

「それはこちらの台詞ね」  

うん、やはり良い声だ。  
しかし質問に質問で返されるのは好みではないな。  

「質問しているのはこちらだ。  
姓名と所属、目的を言え」  
「偉大なる精霊王に仕える森の精霊エルフ第一氏族人界全権大使よ。出来ればもう少し丁寧な物言いをしてくれると嬉しいわ」  

いまなんつった?  
精霊王?エルフ?  
  
「そうかい、自分は陸上自衛隊第一次朝鮮PKO派遣隊の佐藤三尉だ。  
貴方が今踏み込んでいるのは我々の駐屯地の敷地内にあたる。申し訳ないが目的を教えてもらおう」  
「面白いことを言うわね。ここは遥か伝説の時代より我々エルフの物よ。  
目的は、よりにもよって聖なる森の傍で火なんかを焚いた理由よ」  
「聖なる森?まぁそれはいい。そちらの国土を侵したことは謝罪します。  
しかし我々も理由があってのことです。よろしければこちらの駐屯地で理由を説明させていただきたいのですが・・・そうもいかないな」  

運悪くぶつかったヤクザに睨まれた事がある。  
怒り狂った陸曹にどやしつけられた事もある。  
だが、ここまでの殺気は初めてだ。  
背後の森には、この“全権大使殿”に似たような格好をした連中が大勢いる。  
弓矢に長剣、投擲ナイフのようなもの。  
なんでもござれだな。  

「後ろの方々はご友人ですか?  
見たところ友好的には見えづらい格好をしていますが・・・全員伏せろ!応戦しろ!!」  

尋ねている間に相手は矢を放った。  
目標は・・・リヤカー周辺か!  

「敵襲!敵襲!!」  

銃声とは一味違う音が鳴り響き、続いて空気を切る音と共に矢が降ってくる。  
硬い何かが柔らかい何かに突き刺さる、そんな一生忘れられない音が聞こえ、続いて隊員たちの絶叫が響き渡る。  

「応戦しろ!そこじゃない!向こうだ!!」  

ようやくの事応射を始めた部下たちだったが、初の実戦に浮き足立っているらしい。  
どうしてあれほどはっきりと見える相手に当てられないんだ!  

<<あっちよ>>  

89式に腰掛けた少女が指差す。  
その先には、今まさに矢を放とうとしている敵が一人。  
この少女が何者かはどうでもいい、まずは攻撃だ。  

PAN!!  

銃声が一つ鳴り、命が一つ消えた。  

<<こっち>>PAN!!  
<<むこう>>PAN!!  

何なんだこの少女は、俺の知らない間に、自衛隊は個人用フェイズドアレイレーダーでも開発してたのか?  
それと銃口から歓声を挙げて飛び出しているこの小さなドラゴンはなんなんだ?  

「三尉!下がってください!危険です!!」  

四方八方に銃弾と破壊を撒き散らしている監視塔から三曹の叫びが聞こえてくる。  
言われんでも下がるさ。  

「畜生、第三氏族ね」  

なぜか一緒に避退している全権大使が忌々しそうに呟く。  

「お友達ですか?」  
「そんなようなも・・伏せて!!」  

いきなり突き飛ばされ、俺は地面へと勢い良く飛び込んだ。  
痛い。空気を切る音。着弾点はここか。畜生。  
よりにもよって、俺は民間人らしい女性を盾にしつつ死ぬのかよ。  

「偉大なる風の精霊王よ、我に力を」  

女性の声、そして突風。  
俺が知覚できたのはそれだけだった。  
いや、正確にはもう一つ。  
<<与えよう>>という、脳に直接響くような音だ。  
とにかく、それだけだった。  
俺や彼女に矢が突き刺さる事はなく。  
周囲にですら矢は来なかった。  

「なんなんだ?」  
「聞け!第三氏族よ!第一氏族との戦いを望まぬのであれば直ちに兵を引けぃ!!」  

彼女が叫んでいるのが聞こえる。  
なんだ?  
こいつは本当に偉いのか?  
俺の疑問に答えるように、森の中の連中はあれやこれやといいつつも次第に下がっていった。  

「衛生!急げ!!」  
「痛い!いたぃぃぃ!!!」  
「あ、足が、誰か、俺の足がうごかねぇ」  

背後から隊員たちの絶叫が響く中、こうして俺たちの第一ラウンドは終わった。  
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