「―以上がアルバート・W・ウィスク少佐からの報告であり、また少佐本人は負傷者らを撤退させるため残った者を連れ連合軍に対し壮絶なる特攻を行い、戦死した物と思われます。」
秩序同盟軍本部では、ケーン会戦から始まる敗北の報告が行われていた。
ストームゲート市からの報告はウィスク少佐の副官の中尉が行い、たった今報告が終わった。
報告をし続けている中尉の顔は、敬愛する上官の死を思い渋面を作っている。
「…俄かには信じられん。負け戦だからといって負けの正当性を主張しようとしているのではないのかね?」
同盟軍の将軍の一人が疑問を露呈すると、何人かがそれに続いた。
「だが実際に派遣軍5万と少しが壊滅したのは事実だ。グラディオス殿も捕虜になったそうじゃないか?彼以上の才覚を持った人物を私は知らんな。」
「貴殿!それは我々が無能だと言う事か!事の次第によっては―」
「今はそんな事を議論している場合ではなかろう!それより軍の再編を!」
「これ以上の軍派遣は我が国は無理だ。防衛戦力の確保が難しくなる。」
「我が国もだ、これ以上の戦費負担は出来ん。兵は出せる所が出せば良いだろう。」
「貴殿ら!それでも同盟の将か!今こそ汚らわしい亜人共を皆殺しにする好機なのですぞ!」
「それよりも、『帝國』とやらの情報も無いのだ。これ以上の戦争継続は厳しいのでは?」
それぞれが己の主張を出し合い会議は喧々諤々となった。
―言いたい事ばかりを…、あまりにも醜い…。
ギリっと、噛み締めた奥歯が音を立てる。
少佐の命令を遂行しようとした中尉だったが、厳しい山越えや薬の欠如など怪我人達には厳しすぎる撤退となり10人程がその命を落とした。
「…少佐。これでは貴方は一体何の為に死んだのですか…?」
中尉の言葉は、叫びあう将軍達の声に掻き消された。
「君、待ちたまえ。」
会議場を出た中尉は、後ろからの呼び止めに足を止め振り返った。
「何か御用でありましょうか?閣下。」
「いや何、もっと詳しく君の報告が聞きたくてな。あの様子では…な?」
呼び止めた将軍―飛竜軍司令官カール・ブラスト少将―が首だけで後ろで今も議論を続ける将軍達を指し示す。
「はっ…、承知いたしました。それでは?」
「いや、もう一人聞きたい人物が居るのでな。君は先に私の部屋で待っていてくれ給え。」
「了解しました!」
「いやあ、待たせて済まない。」
少将の部屋で待つ事20分少々、この部屋の主が帰ってきた。
中尉は立ち上がると敬礼を取る。
「さ、君も入りたまえ。…まだ傷は痛むかね?」
「いえ、閣下。手当ても済んでおりますので…。」
少将の後に続き一人の青年―まだ少年の面持ちを携えているが―が入室した。
「ああ中尉、紹介しよう。彼は、飛竜軍のピーター・ヴァンド軍曹だ。」
「宜しくお願いいたします、中尉殿。」
ピーターからの握手に中尉は答え、握手を交わす。
「君は、確かケーン平原からの撤退者だったかな?」
「自分の事をご存じで?」
「ああ、確か救護所で君を見た覚えがあるよ。」
「さて、立ち話も何だ。座ろうじゃないか。」
カール少将はそういうとソファに座った。
二人もそれに続き、ソファに座る。
「それではヴァンド軍曹、君から聞こうか。」
「はい、閣下。全てお話いたします。」
ピーターは自分の部隊に起こった出来事、自分の愛竜を奪った『鉄の鳥』について話を切り出す。
語っていく内に、戦友達の死と懐いていた飛竜の事を思いその目は涙に濡れて行く。
やがて軍曹の口からは嗚咽しかでなくなってしまった。
「ふむ…、飛竜より早い『鉄の鳥』か…。ありがとう、ピーター。辛い事を思い出させてしまったな。」
「いえ…、閣下。この様な醜態を晒してしまいました…、どうかお許しを…。」
「良いんだよ。では、中尉。次は君だ。」
「は、閣下。」
要塞都市として名高かったストームゲートの防壁を姿も見せずに破壊した攻撃。
その正確さ、威力。どれを取っても桁違いであると。
「自分は直接交戦はしておりません。ですから、敵の歩兵については分かりません…。」
「いや十分だよ、中尉。これではっきりした。」
暫く目を瞑っていたブラスト少将は、断言した。
「帝國とやら、我々が全軍を持ってしても勝てぬだろう。」
「少将!?」
「そ、そんな…。」
少将の発言に、二人は愕然とした。
―仮にも将軍がそんな軽々しく断言して良いのか!?
中尉の心は激しく波打つ。
「制空権は向うにある時点で、勝率は低くなった。そして、長距離から一方的に攻撃が可能。それに、足並みの揃わぬ上層部…。」
ふぅ、と溜め息をつくと少将は首を横に振った。
「これで勝てと言うのがどだい無理な話さ。」
そう言うと少将は、一口紅茶を飲んだ。
「うん、美味い。君達も飲みたまえ、冷めてしまうぞ?」
少将に指摘され、ヴァンド軍曹は慌てて、中尉は気を静めるために紅茶を含んだ。
「美味いだろう?私は紅茶に凝っていてねぇ、オールランドからわざわざ取り寄せたんだよ。」
ハハっと笑いながら少将が紅茶について語ろうとしたその時、乱暴にドアがノックされた。
「入りたまえ。」
先程まで、笑顔で紅茶について語ろうとした姿は何処かへと消え歴戦の兵の顔となる。
入室の許可を得て、一人の兵士が入ってきた。
彼の報告に中尉達の背は凍えた。
「ゴライアス陥落!司令官のドルン・アンデス大佐は行方不明との事です!」
「ゴライアスももう落ちたか、後一週間は持つかと思ってたんだがね。」
これは本格的に不味いなぁ、人事の様に呟いた少将の懸念はかなり離れているはずの会議場からの罵声に消えかけたのだった―
「では、約束通りあの土地は帝國が管理致します。」
本土からやって来た二人の大使―と、言っても一人は形だけの華族出身者である―とアルタート王国の外交大臣との間で条約が執り行われていく。
アルタート太陽王国東部に存在する『死の湖』、『悪魔の水飲み場』と呼ばれる大規模石油地帯―アルタート人達は認識していないが―と今後の食糧提供・武器供給についてだ。
「食糧はまだ備蓄がありますので、輸出は可能です。しかし、あの『湖』は…。」
「貴方方も持て余していたのでしょう?」
「確かにそうです。作物は育たない、近寄れば具合が悪くなる…。頭痛の種でした。それを管理して下さると仰られるのであればこちらとしては喜んで…。」
「では、決まりですな。こちらに署名をお願いします。」
「分かりました…。」
アルタート側の大臣は渡された書類に署名を施した。
「結構。これで、無事に済みました。」
「いやはや、一時はどうなるかと思いましたが…。本当に有難う御座います、天使様。」
そう言うと、大臣は深々と頭を下げた。
「いえ、同盟国として当たり前の事をしたまでですよ。」
にっこりと笑いながら帝國側の大使、吉田茂はそう嘯くのであった。
「天使とはねぇ…、彼らを騙している様で後ろめたくなるよ。」
宛がわれた控室でもう一人の特別大使が吉田に話しかける。
上等なソファに座り、酒を飲んでいるのでそのように感じられはしなかった。
吉田は、と言うと窓辺の近くで愛用の葉巻を楽しんでいた。
「彼等が、勝手に呼んでいるだけですよ。我々は、一度も名乗らなかったし今も否定も肯定もしていないだけです。」
「確かにそうだが…。」
「良いでは有りませんか。彼等は自分達で我等の都合のいい様に思ってくれて、自主的に協力までしてくれているのですから。」
これからも大切にしなければなりませんな、と締めくくると再び葉巻を口に咥えた。
「…君は、どちらかと言うと天使よりも悪魔だな。」
苦笑を浮かべる特別大使に吉田は、煙を吐き出すと答えた。
「そうでなければ、欧米列強との交渉など出来ませんでしたよ。」
コンコンコンとノックがなり、一人の老使用人が入って来た。
「失礼致します、天使様方。大臣閣下から会食のお誘いを言いつかりました…。」
「おや、もうそんな時間かね?いやすっかり忘れていたよ。」
「では、参りましょうか。君、案内してくれ。」
さて、願わくは英国で味わった様な料理で無ければ良いんだがな。
吉田は、そう思うと特別大使と共に部屋を出た。
中将の肩書ゆえに貴賓牢へと入れられ、もう二週間になるか。
ジョージ・グラディオス中将は、椅子に座り日記を書いていた。
時折、目を擦りながら書いていく。
ここ暫くは、あまり寝付く事が出来ずにいた。
年齢もそう若くないグラディオスには、いささか辛い物であったがそれでも眠れなかったのだ。
「…私も蒙碌したかな。」
グッと腕を伸ばすと、ノックが鳴らされた。
「中将閣下、昼食であります。」
アルタート軍の鎧を着けた兵士が昼食の乗った盆を持ってきた。
「うん、置いておいてくれ。後で貰おう。」
カチャリと盆を机に置くと、兵士は牢から出た。
「それでは、後で下げに参ります。」
ふぅ、と一息つき盆に目をやる。
パン、肉入りのスープ、野菜の盛り合わせ、牛肉のステーキ、そして酒。
「何時見ても、美味そうなのは良いのだがな。」
自分と共に囚われた兵士達はどうだろうか、きちんとした食事を与えられているだろうか。
同盟軍一の勇将と謳われた将軍は今、何もしていない時が来るとそればかりを考えていた。
スッとスプーンを取り、スープを一掬いし口に含む。
しっかりとした強い味が感じられる。
次にステーキ(ナイフを使わなくて良いように最初から切られている)を口にいれ、付け合わせの野菜も食べる。
ステーキは良く焼かれており、野菜も瑞々しい新鮮な野菜だ。
肉と野菜を飲み込むと、パンを二つに割る。
ふわり、と割れた片方を頬張る。
最後に酒で流し込んだ。
「…今頃、会議は大荒れか?いや、ブラスト少将が居るからそれほど荒れはせぬか。」
国は違えど優秀で、何処か飄々とした盟友の顔が思い浮かぶ。
戦争継続か、休戦か。二つに一つだが、彼なら上手く取りまとめてくれるだろう。
「私に出来る事は、ただ待つのみか…。」
グラディオスは、そう言うと残りの食事に取り込む事を決めた。
秩序同盟軍本部では、ケーン会戦から始まる敗北の報告が行われていた。
ストームゲート市からの報告はウィスク少佐の副官の中尉が行い、たった今報告が終わった。
報告をし続けている中尉の顔は、敬愛する上官の死を思い渋面を作っている。
「…俄かには信じられん。負け戦だからといって負けの正当性を主張しようとしているのではないのかね?」
同盟軍の将軍の一人が疑問を露呈すると、何人かがそれに続いた。
「だが実際に派遣軍5万と少しが壊滅したのは事実だ。グラディオス殿も捕虜になったそうじゃないか?彼以上の才覚を持った人物を私は知らんな。」
「貴殿!それは我々が無能だと言う事か!事の次第によっては―」
「今はそんな事を議論している場合ではなかろう!それより軍の再編を!」
「これ以上の軍派遣は我が国は無理だ。防衛戦力の確保が難しくなる。」
「我が国もだ、これ以上の戦費負担は出来ん。兵は出せる所が出せば良いだろう。」
「貴殿ら!それでも同盟の将か!今こそ汚らわしい亜人共を皆殺しにする好機なのですぞ!」
「それよりも、『帝國』とやらの情報も無いのだ。これ以上の戦争継続は厳しいのでは?」
それぞれが己の主張を出し合い会議は喧々諤々となった。
―言いたい事ばかりを…、あまりにも醜い…。
ギリっと、噛み締めた奥歯が音を立てる。
少佐の命令を遂行しようとした中尉だったが、厳しい山越えや薬の欠如など怪我人達には厳しすぎる撤退となり10人程がその命を落とした。
「…少佐。これでは貴方は一体何の為に死んだのですか…?」
中尉の言葉は、叫びあう将軍達の声に掻き消された。
「君、待ちたまえ。」
会議場を出た中尉は、後ろからの呼び止めに足を止め振り返った。
「何か御用でありましょうか?閣下。」
「いや何、もっと詳しく君の報告が聞きたくてな。あの様子では…な?」
呼び止めた将軍―飛竜軍司令官カール・ブラスト少将―が首だけで後ろで今も議論を続ける将軍達を指し示す。
「はっ…、承知いたしました。それでは?」
「いや、もう一人聞きたい人物が居るのでな。君は先に私の部屋で待っていてくれ給え。」
「了解しました!」
「いやあ、待たせて済まない。」
少将の部屋で待つ事20分少々、この部屋の主が帰ってきた。
中尉は立ち上がると敬礼を取る。
「さ、君も入りたまえ。…まだ傷は痛むかね?」
「いえ、閣下。手当ても済んでおりますので…。」
少将の後に続き一人の青年―まだ少年の面持ちを携えているが―が入室した。
「ああ中尉、紹介しよう。彼は、飛竜軍のピーター・ヴァンド軍曹だ。」
「宜しくお願いいたします、中尉殿。」
ピーターからの握手に中尉は答え、握手を交わす。
「君は、確かケーン平原からの撤退者だったかな?」
「自分の事をご存じで?」
「ああ、確か救護所で君を見た覚えがあるよ。」
「さて、立ち話も何だ。座ろうじゃないか。」
カール少将はそういうとソファに座った。
二人もそれに続き、ソファに座る。
「それではヴァンド軍曹、君から聞こうか。」
「はい、閣下。全てお話いたします。」
ピーターは自分の部隊に起こった出来事、自分の愛竜を奪った『鉄の鳥』について話を切り出す。
語っていく内に、戦友達の死と懐いていた飛竜の事を思いその目は涙に濡れて行く。
やがて軍曹の口からは嗚咽しかでなくなってしまった。
「ふむ…、飛竜より早い『鉄の鳥』か…。ありがとう、ピーター。辛い事を思い出させてしまったな。」
「いえ…、閣下。この様な醜態を晒してしまいました…、どうかお許しを…。」
「良いんだよ。では、中尉。次は君だ。」
「は、閣下。」
要塞都市として名高かったストームゲートの防壁を姿も見せずに破壊した攻撃。
その正確さ、威力。どれを取っても桁違いであると。
「自分は直接交戦はしておりません。ですから、敵の歩兵については分かりません…。」
「いや十分だよ、中尉。これではっきりした。」
暫く目を瞑っていたブラスト少将は、断言した。
「帝國とやら、我々が全軍を持ってしても勝てぬだろう。」
「少将!?」
「そ、そんな…。」
少将の発言に、二人は愕然とした。
―仮にも将軍がそんな軽々しく断言して良いのか!?
中尉の心は激しく波打つ。
「制空権は向うにある時点で、勝率は低くなった。そして、長距離から一方的に攻撃が可能。それに、足並みの揃わぬ上層部…。」
ふぅ、と溜め息をつくと少将は首を横に振った。
「これで勝てと言うのがどだい無理な話さ。」
そう言うと少将は、一口紅茶を飲んだ。
「うん、美味い。君達も飲みたまえ、冷めてしまうぞ?」
少将に指摘され、ヴァンド軍曹は慌てて、中尉は気を静めるために紅茶を含んだ。
「美味いだろう?私は紅茶に凝っていてねぇ、オールランドからわざわざ取り寄せたんだよ。」
ハハっと笑いながら少将が紅茶について語ろうとしたその時、乱暴にドアがノックされた。
「入りたまえ。」
先程まで、笑顔で紅茶について語ろうとした姿は何処かへと消え歴戦の兵の顔となる。
入室の許可を得て、一人の兵士が入ってきた。
彼の報告に中尉達の背は凍えた。
「ゴライアス陥落!司令官のドルン・アンデス大佐は行方不明との事です!」
「ゴライアスももう落ちたか、後一週間は持つかと思ってたんだがね。」
これは本格的に不味いなぁ、人事の様に呟いた少将の懸念はかなり離れているはずの会議場からの罵声に消えかけたのだった―
「では、約束通りあの土地は帝國が管理致します。」
本土からやって来た二人の大使―と、言っても一人は形だけの華族出身者である―とアルタート王国の外交大臣との間で条約が執り行われていく。
アルタート太陽王国東部に存在する『死の湖』、『悪魔の水飲み場』と呼ばれる大規模石油地帯―アルタート人達は認識していないが―と今後の食糧提供・武器供給についてだ。
「食糧はまだ備蓄がありますので、輸出は可能です。しかし、あの『湖』は…。」
「貴方方も持て余していたのでしょう?」
「確かにそうです。作物は育たない、近寄れば具合が悪くなる…。頭痛の種でした。それを管理して下さると仰られるのであればこちらとしては喜んで…。」
「では、決まりですな。こちらに署名をお願いします。」
「分かりました…。」
アルタート側の大臣は渡された書類に署名を施した。
「結構。これで、無事に済みました。」
「いやはや、一時はどうなるかと思いましたが…。本当に有難う御座います、天使様。」
そう言うと、大臣は深々と頭を下げた。
「いえ、同盟国として当たり前の事をしたまでですよ。」
にっこりと笑いながら帝國側の大使、吉田茂はそう嘯くのであった。
「天使とはねぇ…、彼らを騙している様で後ろめたくなるよ。」
宛がわれた控室でもう一人の特別大使が吉田に話しかける。
上等なソファに座り、酒を飲んでいるのでそのように感じられはしなかった。
吉田は、と言うと窓辺の近くで愛用の葉巻を楽しんでいた。
「彼等が、勝手に呼んでいるだけですよ。我々は、一度も名乗らなかったし今も否定も肯定もしていないだけです。」
「確かにそうだが…。」
「良いでは有りませんか。彼等は自分達で我等の都合のいい様に思ってくれて、自主的に協力までしてくれているのですから。」
これからも大切にしなければなりませんな、と締めくくると再び葉巻を口に咥えた。
「…君は、どちらかと言うと天使よりも悪魔だな。」
苦笑を浮かべる特別大使に吉田は、煙を吐き出すと答えた。
「そうでなければ、欧米列強との交渉など出来ませんでしたよ。」
コンコンコンとノックがなり、一人の老使用人が入って来た。
「失礼致します、天使様方。大臣閣下から会食のお誘いを言いつかりました…。」
「おや、もうそんな時間かね?いやすっかり忘れていたよ。」
「では、参りましょうか。君、案内してくれ。」
さて、願わくは英国で味わった様な料理で無ければ良いんだがな。
吉田は、そう思うと特別大使と共に部屋を出た。
中将の肩書ゆえに貴賓牢へと入れられ、もう二週間になるか。
ジョージ・グラディオス中将は、椅子に座り日記を書いていた。
時折、目を擦りながら書いていく。
ここ暫くは、あまり寝付く事が出来ずにいた。
年齢もそう若くないグラディオスには、いささか辛い物であったがそれでも眠れなかったのだ。
「…私も蒙碌したかな。」
グッと腕を伸ばすと、ノックが鳴らされた。
「中将閣下、昼食であります。」
アルタート軍の鎧を着けた兵士が昼食の乗った盆を持ってきた。
「うん、置いておいてくれ。後で貰おう。」
カチャリと盆を机に置くと、兵士は牢から出た。
「それでは、後で下げに参ります。」
ふぅ、と一息つき盆に目をやる。
パン、肉入りのスープ、野菜の盛り合わせ、牛肉のステーキ、そして酒。
「何時見ても、美味そうなのは良いのだがな。」
自分と共に囚われた兵士達はどうだろうか、きちんとした食事を与えられているだろうか。
同盟軍一の勇将と謳われた将軍は今、何もしていない時が来るとそればかりを考えていた。
スッとスプーンを取り、スープを一掬いし口に含む。
しっかりとした強い味が感じられる。
次にステーキ(ナイフを使わなくて良いように最初から切られている)を口にいれ、付け合わせの野菜も食べる。
ステーキは良く焼かれており、野菜も瑞々しい新鮮な野菜だ。
肉と野菜を飲み込むと、パンを二つに割る。
ふわり、と割れた片方を頬張る。
最後に酒で流し込んだ。
「…今頃、会議は大荒れか?いや、ブラスト少将が居るからそれほど荒れはせぬか。」
国は違えど優秀で、何処か飄々とした盟友の顔が思い浮かぶ。
戦争継続か、休戦か。二つに一つだが、彼なら上手く取りまとめてくれるだろう。
「私に出来る事は、ただ待つのみか…。」
グラディオスは、そう言うと残りの食事に取り込む事を決めた。