ブラスト少将が会議場に戻った時、同盟軍の将官達は議論―と、呼べるかどうかも怪しい―を繰り広げていた。
「さて、どうやって諌めようか。」
自分にあてがわれている椅子に座り少しばかり思考する。
がやがやとした中で一人集中し考える。
「…各々方、宜しいか?」
「如何されたブラスト少将?」
「先程、伝令が悪い報告を持ってきました。」
「悪い報告?それは…」
「ゴライアスが陥落し、司令官も行方不明との事です。」
「なんと!」
ざわざわと再び騒がしくなる。
先程と違う点を挙げれば、その漏れ聞こえる声のほとんどが不安に駆られている事だろうか。
「そこで提案をさせていただきたい。」
ブラスト少将が凛とした声で発言すると、ピタリと示し合わせたかのようにざわめきが止まる。
「…提案とは何かね?少将。」
「奴らを打ち破る奇策でも思いつかれましたか?」
「奇策?いや、奇策といえば奇策ですな…」
ふっと、笑うと少将は俯いた。
―これから私の言う事に何人が賛同するやら
「で、少将。その案とは?」
グッと顔を上げ会議場にいる将官達を睨み付けるように見渡す。
「連合及び帝国に対し、停戦条約を申し込みましょう。」
「急に騒がしくなりましたね…」
「そうだな…」
少将が退室してから30分ほどしただろうか会議場のほうから怒号とも絶叫ともとれる声が聞こえてきた。
ピーターは隣の中尉に話しかける。
「少将閣下はあのように仰られましたが実際どうなるのでありましょうか?」
「さてな…、だが我々軍人がやる事は一つだ。」
中尉はカップに残った紅茶を飲み干すとソーサーに置いた。
「上の命令に従うんだ、善かれ悪しかれな。」
澄んだ瞳で中尉はピーターの質問に答えた。
何の迷いもない、そうであるべきだと信じて疑っていない眼である。
「そうですよね…、そうなんですよね…」
その眼から逃れるようにピーターは俯いた。
目の前にあるカップにはまだ紅茶が残っている。
「どうした、軍曹?」
「中尉殿…、自分は恐ろしいのであります…」
頭を抱え込みとピーターは震えだした。
「今でも夢に出るのです…、あの鉄の鳥達が…」
「誰だって恐ろしいさ…」
窓からさす光がだんだんと橙色へと変わっていく、いつの間にかかなりの時間が経っていたらしい。
中尉はその夕日が今まで流れた兵士達の血のように思えた。
「少将!やはり私は納得がいかん!」
ダンっと、机を叩き一人の将軍が反論した。それに続けとばかりに幾人かの将軍も騒ぐ。
「いや、少将の言う通りだろう!ここは休戦なり停戦なりして戦力の増強と敵の情報を集めるべきだ!」
少将の発言の後、会議は荒れた。
戦争を続けるべきだと言う主戦派と、休戦して情報と戦力を集めようと言う休戦派である。
最も、参加している将軍の三分の二程が停戦派であり主戦派の将軍達は押されている形にある。
―なんとかいけるか?
ブラスト少将はなんとか自分に傾き始めた『流れ』に感謝した。
「大体だ!このような事態、飛竜軍がしっかりとしていれば起こらなかったのではないのか!?」
「…私も部下も、己に課せられた任務を遂行いたす為に日夜努力をしております。現に緒戦は我々飛竜軍の作戦でストームゲートもゴライアスも容易に落ちたではありませんか。」
痛い所を突かれたとばかりに主戦派―特に陸軍の―将軍は押し黙った。
「大体、戦え戦えと仰いますが兵は?武具は?兵糧は?戦は将ばかりでするものではありませんぞ。」
その一言が決定的だったのか、しんと会議場が静かになった。
「停戦を結ぶとしても諸国の王から許可を頂くのに時間もかかる。その間に同盟から攻撃される可能性は?」
「確かに可能性はあります、ですから一つ私が向こうへ交渉へ行きその間は休戦を確約してまいります。」
ブラスト少将の発言に停戦派の将軍はざわめきだす。
「何も少将が行かれなくても…」
「そうです!他の者に行かせるべきです!」
「いえ、私が行きます。」
だが、そんな将軍達の声を抑え、ブラスト少将は主張した。
「…宜しい。では、ブラスト少将。君に使者を任せよう。」
主戦派の一人の将軍がブラスト少将の目を見据え、厳かに言った。
その声にはこれ以上の議論を許さないというかのようにも聞こえる。
「了解いたしました。では、これより出発いたします。」
サッと敬礼をするとブラスト少将は会議室を出ていく。
それに続き停戦派の将軍達も自分に充てられた部屋へと帰っていく。
会議場に残ったのは主戦派の将軍達だけだ。
「…良いのですか?バークレイ中将。」
「何がかね?」
「ブラスト少将の事ですよ!王の命令も無しに停戦交渉とは!」
「まぁ、良いではないか。兵がいないというのも又事実。」
「しかし…。」
「確かに目障りでは有るがな。今はいかしてやるさ…」
まだ何か言いたげな将軍達を残し、アークノール共和国軍中将、エルデガン・バークレイは席を立った。
「それで、向こうの戦況はどうなっている?」
帝國で急遽開かれた会議で帝國宰相はその場の全員が知りたがっている事を聞いた。
「アルタート側の要求通り二都市の解放に成功いたしました。その後、油田地帯の割譲も調印されたと吉田大使から報告がされました。」
油田地帯割譲の言葉を聞き、張り詰めた糸が緩んだような空気が会議場に広まる。
「ようやく帝國にも大規模油田が手に入ったか…」
「精製が済めば統制も解除できるな…」
「それで、新しく見つかったという島は?」
「新竜島は現在も調査中ですが、島の中央部の森林地帯に天然ゴムも発見されました。」
おお、という驚きの声が上がる。
新竜島は、帝國からほど近くに現れた―というより帝國の方が現れたのだが―島であり、ここでも石油が有るのを確認され、将来的には植民化される予定の島である。
「しかし、とんとん拍子で事が進んでいますな。」
「良いことじゃないか。少なくとも元の世界よりも良くなっている。」
帝國が元の世界から『転移』―急に帝國全土が強い光に包まれ外国や台湾・朝鮮にいた帝國人達が国内に戻っていた―して数ヶ月、帝國もようやくこの世界について知り始めていた。
元の世界でいう中世レベルの文明、人間以外の種族、例を挙げればキリが無いが転移当初、帝國はあまりの出来事に絶望した。
いままで大勢の血を流し、湯水の用に金をかけインフラを整備した直轄領。
もう二度とその資金を回収する事は無いのか!
そう思えばそれも理解できるという物である。
「それでは食糧は?どうなった?」
「アルタートから輸出は可能だそうです。クラークン王国からも輸入があります。」
「食糧も何とかなりそうか…」
一時はどうなるかと思ったがなんとかなりそうだ、各々の心にそんな思いが過った。
「さて、どうやって諌めようか。」
自分にあてがわれている椅子に座り少しばかり思考する。
がやがやとした中で一人集中し考える。
「…各々方、宜しいか?」
「如何されたブラスト少将?」
「先程、伝令が悪い報告を持ってきました。」
「悪い報告?それは…」
「ゴライアスが陥落し、司令官も行方不明との事です。」
「なんと!」
ざわざわと再び騒がしくなる。
先程と違う点を挙げれば、その漏れ聞こえる声のほとんどが不安に駆られている事だろうか。
「そこで提案をさせていただきたい。」
ブラスト少将が凛とした声で発言すると、ピタリと示し合わせたかのようにざわめきが止まる。
「…提案とは何かね?少将。」
「奴らを打ち破る奇策でも思いつかれましたか?」
「奇策?いや、奇策といえば奇策ですな…」
ふっと、笑うと少将は俯いた。
―これから私の言う事に何人が賛同するやら
「で、少将。その案とは?」
グッと顔を上げ会議場にいる将官達を睨み付けるように見渡す。
「連合及び帝国に対し、停戦条約を申し込みましょう。」
「急に騒がしくなりましたね…」
「そうだな…」
少将が退室してから30分ほどしただろうか会議場のほうから怒号とも絶叫ともとれる声が聞こえてきた。
ピーターは隣の中尉に話しかける。
「少将閣下はあのように仰られましたが実際どうなるのでありましょうか?」
「さてな…、だが我々軍人がやる事は一つだ。」
中尉はカップに残った紅茶を飲み干すとソーサーに置いた。
「上の命令に従うんだ、善かれ悪しかれな。」
澄んだ瞳で中尉はピーターの質問に答えた。
何の迷いもない、そうであるべきだと信じて疑っていない眼である。
「そうですよね…、そうなんですよね…」
その眼から逃れるようにピーターは俯いた。
目の前にあるカップにはまだ紅茶が残っている。
「どうした、軍曹?」
「中尉殿…、自分は恐ろしいのであります…」
頭を抱え込みとピーターは震えだした。
「今でも夢に出るのです…、あの鉄の鳥達が…」
「誰だって恐ろしいさ…」
窓からさす光がだんだんと橙色へと変わっていく、いつの間にかかなりの時間が経っていたらしい。
中尉はその夕日が今まで流れた兵士達の血のように思えた。
「少将!やはり私は納得がいかん!」
ダンっと、机を叩き一人の将軍が反論した。それに続けとばかりに幾人かの将軍も騒ぐ。
「いや、少将の言う通りだろう!ここは休戦なり停戦なりして戦力の増強と敵の情報を集めるべきだ!」
少将の発言の後、会議は荒れた。
戦争を続けるべきだと言う主戦派と、休戦して情報と戦力を集めようと言う休戦派である。
最も、参加している将軍の三分の二程が停戦派であり主戦派の将軍達は押されている形にある。
―なんとかいけるか?
ブラスト少将はなんとか自分に傾き始めた『流れ』に感謝した。
「大体だ!このような事態、飛竜軍がしっかりとしていれば起こらなかったのではないのか!?」
「…私も部下も、己に課せられた任務を遂行いたす為に日夜努力をしております。現に緒戦は我々飛竜軍の作戦でストームゲートもゴライアスも容易に落ちたではありませんか。」
痛い所を突かれたとばかりに主戦派―特に陸軍の―将軍は押し黙った。
「大体、戦え戦えと仰いますが兵は?武具は?兵糧は?戦は将ばかりでするものではありませんぞ。」
その一言が決定的だったのか、しんと会議場が静かになった。
「停戦を結ぶとしても諸国の王から許可を頂くのに時間もかかる。その間に同盟から攻撃される可能性は?」
「確かに可能性はあります、ですから一つ私が向こうへ交渉へ行きその間は休戦を確約してまいります。」
ブラスト少将の発言に停戦派の将軍はざわめきだす。
「何も少将が行かれなくても…」
「そうです!他の者に行かせるべきです!」
「いえ、私が行きます。」
だが、そんな将軍達の声を抑え、ブラスト少将は主張した。
「…宜しい。では、ブラスト少将。君に使者を任せよう。」
主戦派の一人の将軍がブラスト少将の目を見据え、厳かに言った。
その声にはこれ以上の議論を許さないというかのようにも聞こえる。
「了解いたしました。では、これより出発いたします。」
サッと敬礼をするとブラスト少将は会議室を出ていく。
それに続き停戦派の将軍達も自分に充てられた部屋へと帰っていく。
会議場に残ったのは主戦派の将軍達だけだ。
「…良いのですか?バークレイ中将。」
「何がかね?」
「ブラスト少将の事ですよ!王の命令も無しに停戦交渉とは!」
「まぁ、良いではないか。兵がいないというのも又事実。」
「しかし…。」
「確かに目障りでは有るがな。今はいかしてやるさ…」
まだ何か言いたげな将軍達を残し、アークノール共和国軍中将、エルデガン・バークレイは席を立った。
「それで、向こうの戦況はどうなっている?」
帝國で急遽開かれた会議で帝國宰相はその場の全員が知りたがっている事を聞いた。
「アルタート側の要求通り二都市の解放に成功いたしました。その後、油田地帯の割譲も調印されたと吉田大使から報告がされました。」
油田地帯割譲の言葉を聞き、張り詰めた糸が緩んだような空気が会議場に広まる。
「ようやく帝國にも大規模油田が手に入ったか…」
「精製が済めば統制も解除できるな…」
「それで、新しく見つかったという島は?」
「新竜島は現在も調査中ですが、島の中央部の森林地帯に天然ゴムも発見されました。」
おお、という驚きの声が上がる。
新竜島は、帝國からほど近くに現れた―というより帝國の方が現れたのだが―島であり、ここでも石油が有るのを確認され、将来的には植民化される予定の島である。
「しかし、とんとん拍子で事が進んでいますな。」
「良いことじゃないか。少なくとも元の世界よりも良くなっている。」
帝國が元の世界から『転移』―急に帝國全土が強い光に包まれ外国や台湾・朝鮮にいた帝國人達が国内に戻っていた―して数ヶ月、帝國もようやくこの世界について知り始めていた。
元の世界でいう中世レベルの文明、人間以外の種族、例を挙げればキリが無いが転移当初、帝國はあまりの出来事に絶望した。
いままで大勢の血を流し、湯水の用に金をかけインフラを整備した直轄領。
もう二度とその資金を回収する事は無いのか!
そう思えばそれも理解できるという物である。
「それでは食糧は?どうなった?」
「アルタートから輸出は可能だそうです。クラークン王国からも輸入があります。」
「食糧も何とかなりそうか…」
一時はどうなるかと思ったがなんとかなりそうだ、各々の心にそんな思いが過った。