第2話 星は舞い降りた
1481年 10月18日 午前11時 シホールアンル帝国首都ウェルバンル
首都ウェルバンルは、人口が320万を超える大都市である。
本来は、北大陸西端に首都があったのだが、1230年に当時の皇帝オエイレ帝が、
大陸東のウェルバンルに遷都して以来、ウェルバンルは発展してきた。
ウェルバンルから東10ゼルドにはシホールアンルでも有数の港町、シギアルがあり、そこから
首都に流れて来る商人も多い。
同時に、海軍の一大根拠地としても知られており、多数の軍艦が停泊し、海軍工廠には
建造中の新鋭戦艦、竜母、巡洋艦などが、それぞれの分野の職人によって徐々に作られつつある。
そのウェルバンルの郊外に佇む小さめの城(と言っても、普通の貴族の家よりは大きい)。
ここが、シホールアンルを統べる主の家である。
そして、そこに住んでいる主は、
首都ウェルバンルは、人口が320万を超える大都市である。
本来は、北大陸西端に首都があったのだが、1230年に当時の皇帝オエイレ帝が、
大陸東のウェルバンルに遷都して以来、ウェルバンルは発展してきた。
ウェルバンルから東10ゼルドにはシホールアンルでも有数の港町、シギアルがあり、そこから
首都に流れて来る商人も多い。
同時に、海軍の一大根拠地としても知られており、多数の軍艦が停泊し、海軍工廠には
建造中の新鋭戦艦、竜母、巡洋艦などが、それぞれの分野の職人によって徐々に作られつつある。
そのウェルバンルの郊外に佇む小さめの城(と言っても、普通の貴族の家よりは大きい)。
ここが、シホールアンルを統べる主の家である。
そして、そこに住んでいる主は、
「陛下!今日と言う今日は言わせて貰いますぞ!!」
侍従長に怒られていた。
「くそ、うるせえのがまた来たよ。」
皇帝のオールフェス・レリスレイは、顔を背けるが、
「うるさいではありません!」
侍従長は顔を真っ赤にして怒鳴った。
彼が怒っている理由は、昨日、オールフェスが宮殿から抜け出し、首都をぶらぶら歩き回っていた事である。
彼が怒っている理由は、昨日、オールフェスが宮殿から抜け出し、首都をぶらぶら歩き回っていた事である。
「このシホールアンルにも、敵国のスパイが紛れ込んでいるかもしれませんのですぞ。
2週間前なぞ、陛下は暗殺者に襲われたではありませんか!」
「暗殺者?ああ、あの雑魚ね。あれで暗殺者とは、バルランドの奴らも底が知れるもんだね」
2週間前なぞ、陛下は暗殺者に襲われたではありませんか!」
「暗殺者?ああ、あの雑魚ね。あれで暗殺者とは、バルランドの奴らも底が知れるもんだね」
そう言って、オールフェスが豪快に笑い飛ばした。
オールフェスは、時折宮殿を抜け出ては、首都の露店や酒場などをぶらりと回っている。
オールフェスが皇帝の座についた7年前から、彼の散歩は続いている。
散歩をする度に、侍従長に怒られるのだが、オールフェスは気にしていない。
彼から言えば、散歩はストレスを解消するための手段である。しかし、その散歩の際に、3度ほど、彼は暗殺者に襲われていた。
しかし、その暗殺者は、密かに援護していた護衛の返り討ちに会ったり、オールフェス自身が直接討ち取っている。
彼は剣術や格闘も得意であり、精鋭で名高い首都親衛警備軍のベテランと戦っても、普通に勝っている。
オールフェスは、時折宮殿を抜け出ては、首都の露店や酒場などをぶらりと回っている。
オールフェスが皇帝の座についた7年前から、彼の散歩は続いている。
散歩をする度に、侍従長に怒られるのだが、オールフェスは気にしていない。
彼から言えば、散歩はストレスを解消するための手段である。しかし、その散歩の際に、3度ほど、彼は暗殺者に襲われていた。
しかし、その暗殺者は、密かに援護していた護衛の返り討ちに会ったり、オールフェス自身が直接討ち取っている。
彼は剣術や格闘も得意であり、精鋭で名高い首都親衛警備軍のベテランと戦っても、普通に勝っている。
「何度も申し上げますが、陛下はシホールアンルの王なのです!
その王が、勝手に城を抜け出し、挙句の果てに暗殺者に襲われるなど、あってはならない事です!」
「あったじゃねえか。」
「それはあなたが・・・・・・・はぁ」
その王が、勝手に城を抜け出し、挙句の果てに暗殺者に襲われるなど、あってはならない事です!」
「あったじゃねえか。」
「それはあなたが・・・・・・・はぁ」
侍従長は言いかけたが、すぐにやめた。
いつもなら、あなたが外をうろつき回っているからだ!と怒鳴り返しているのだが、今日はそれを言うのも疲れた。
いつもなら、あなたが外をうろつき回っているからだ!と怒鳴り返しているのだが、今日はそれを言うのも疲れた。
「おっ、元気がないな?」
「私から元気を無くしたのは、陛下であります。」
「私から元気を無くしたのは、陛下であります。」
侍従長は、顎に伸びた白髭を荒々しく撫でながら言う。
「それよりも、大会議室に皆様がお待ちになっておられます。」
「そうか。今すぐ行くよ。」
そう言うと、オールフェスは足早に侍従長の元を離れた。
「陛下、今日こ」
「さってと!大事な話をしないといかんなぁ!」
「さってと!大事な話をしないといかんなぁ!」
後ろの声を掻き消して、彼は大会議室の扉を押し開けた。
早く移動しないと、侍従長からくどくど言われるのは確実なので、彼はいつも別の事を言ったりして逃げている。
大会議室には、長テーブルと、椅子に座る5人の男がいた。
5人中、3人は年を取っているが、2人はオールフェスと比べても同年代なのか、かなり若い。
早く移動しないと、侍従長からくどくど言われるのは確実なので、彼はいつも別の事を言ったりして逃げている。
大会議室には、長テーブルと、椅子に座る5人の男がいた。
5人中、3人は年を取っているが、2人はオールフェスと比べても同年代なのか、かなり若い。
「おはようございます、陛下」
まばらではあるが、5人の高官はオールフェスに挨拶をしてきた。彼も微笑みながらおはようと返す。
彼が玉座に座ってから、話は始まった。
彼が玉座に座ってから、話は始まった。
「さて、聞きたい事はいくつかあるが、まずは南大陸戦線の話を聞こうか。」
先ほどまでへらへらしていた彼の表情が、真剣なものになる。
1人の初老の男が立ち上がった。陸軍総司令官のギレイル元帥である。
1人の初老の男が立ち上がった。陸軍総司令官のギレイル元帥である。
「南大陸戦線の戦況ですが、依然として、わが軍が有利であります。」
その言葉に、オールフェスは頷く。ギレイル元帥は続けた。
「しかし、敵の重要防衛線、ヴェルラ線はやはり守りが堅く、味方の損害は増えつつあります。
今現在、ヴェルラ線は突破できておりませんが、防衛線自体には侵攻部隊や竜母部隊の攻撃で
かなりのダメージを与えており、3~4日ほどで突破できるでしょう。」
「順調だね。」
今現在、ヴェルラ線は突破できておりませんが、防衛線自体には侵攻部隊や竜母部隊の攻撃で
かなりのダメージを与えており、3~4日ほどで突破できるでしょう。」
「順調だね。」
玉座のオールフェスは首を縦に振った。
「ヴェルラ線をどれだけ早く抜けるかが、今後の戦局に影響してくる。
今は順調かもしれないが、戦いとは相手がいる事だ、思わぬ所で足をすくわれないように気をつけろ」
「わかりました。」
今は順調かもしれないが、戦いとは相手がいる事だ、思わぬ所で足をすくわれないように気をつけろ」
「わかりました。」
ギレイル元帥はそう言って、席に座った。それと同時に、海軍総司令官が立ち上がる。
「レンス元帥、ガルクレルフの港は使い物になりそうか?」
「その港についてですが、南大陸連合軍は我が地上軍の攻撃が急なためであったのか、
港湾施設を破壊せずに撤退してきました。ガルクレルフは泊地としての機能は充分備わっており、
港から少し離れた内陸は草原地帯となっていますので、大量の物資が備蓄可能です。」
「工事は進捗しているか?」
「順調です。現地人の奴隷も大量に投入して、作業に当たらせているため、予定通り1月には
ある程度の物資を備蓄できるようになります。現時点では物資の備蓄はいまいち出来ませんが、
艦隊の補給程度なら可能です。」
「よし。それならいいぞ。」
「その港についてですが、南大陸連合軍は我が地上軍の攻撃が急なためであったのか、
港湾施設を破壊せずに撤退してきました。ガルクレルフは泊地としての機能は充分備わっており、
港から少し離れた内陸は草原地帯となっていますので、大量の物資が備蓄可能です。」
「工事は進捗しているか?」
「順調です。現地人の奴隷も大量に投入して、作業に当たらせているため、予定通り1月には
ある程度の物資を備蓄できるようになります。現時点では物資の備蓄はいまいち出来ませんが、
艦隊の補給程度なら可能です。」
「よし。それならいいぞ。」
レンス元帥が一通り説明を終えると、今度は国外相が立ち上がった。
「まあ、何度も似たような質問をすると思うが、その後、南大陸の奴らはこっちの降伏交渉に乗ってくるか?」
「乗ってくるどころか、打診するたびに文句が帰ってきます。
昨日の回答には、使者を送って来い、すぐに首を跳ねてやる、という魔法通信が届いていました。」
「乗ってくるどころか、打診するたびに文句が帰ってきます。
昨日の回答には、使者を送って来い、すぐに首を跳ねてやる、という魔法通信が届いていました。」
「まっ、南大陸の住人は俺の政策が気に入らないんだろう。まあ、北大陸のみならず、
南大陸も取ろうとしたら、流石に欲張りと言われても仕方がないか。」
南大陸も取ろうとしたら、流石に欲張りと言われても仕方がないか。」
オールフェスは苦笑しながら言う。
「そもそも、鍵さえ渡せば、南大陸に攻め込まなかったんだが、いずれはこういう事が来るはずだったんだ、
少しくらい早まったってどうってことないな。」
少しくらい早まったってどうってことないな。」
玉座にふんぞり返りながら、彼は呟く。
オールフェスのそもそもの目的は、鍵を手に入れる事だったのだが、その鍵は、今や南大陸にある。
鍵のくせに、逃げやがって。内心で彼は毒づくが、彼は国外相に話を続けさせる。
オールフェスのそもそもの目的は、鍵を手に入れる事だったのだが、その鍵は、今や南大陸にある。
鍵のくせに、逃げやがって。内心で彼は毒づくが、彼は国外相に話を続けさせる。
「他にはないか?」
「陛下、先日より準備を進めていました、マオンド共和国への訪問の準備が整いました。」
「準備ができたか。マオンドの同盟関係を強調するために、フレル、君に苦労掛けるが」
「私の事など、大丈夫です。」
「陛下、先日より準備を進めていました、マオンド共和国への訪問の準備が整いました。」
「準備ができたか。マオンドの同盟関係を強調するために、フレル、君に苦労掛けるが」
「私の事など、大丈夫です。」
フレル国外相は自信に満ちた表情で言い放った。
「マオンドからの増援、必ず呼び寄せてまいります。」
「ああ、期待している。」
「ああ、期待している。」
オールフェスは頷く、物事は、すべて順調に行っていた。
1481年10月18日 午後7時 バルランド王国ラウーイス
外がピカッと青白く光り、直後に雷の音が鳴り響いた。
「うお、雷か。」
机で書類を書いていた、ラウス・クレーゲルは、ローブについていたフード帽を頭に被せた。
「雷が怖いのかい?」
後ろの仲間が冷やかしに言ってきた。
「怖くはないさ。でもな、集中している時にこんな音を鳴らされりゃ、気が散る。」
苦々しげに顔を歪めつつ、彼は仕事を続けた。
「最後の最後なんだから、間違えるなよ。」
「誰が間違えるか。君は俺と付き合って5年になるだろう?やると決めたのは
キッチリ終わらしてるよ。失敗無しで。」
「誰が間違えるか。君は俺と付き合って5年になるだろう?やると決めたのは
キッチリ終わらしてるよ。失敗無しで。」
半ば自慢するかのようにラウスは言い放つ。
ラウス・クレーゲル、バルランド王国の魔術師では5本の指に入ると言われるベテラン魔術師であり、
その能力は、魔法に関しては1番の実力を持つミスリアルの魔術研究者らも、認めているほどだ。
顔立ちはどこか頼りなさげで、疲れてそうな表情をいつも浮かべている。
体系は痩せ型で、いかにも勉強だけが取り得という雰囲気を醸し出している。
年は26歳でまだ若いが、全体的には実年齢を20年ほど上回っているように感じられる。
ラウスが、今紙に書いている術式の魔法に取り掛かったのは1年前の事である。
ラウス・クレーゲル、バルランド王国の魔術師では5本の指に入ると言われるベテラン魔術師であり、
その能力は、魔法に関しては1番の実力を持つミスリアルの魔術研究者らも、認めているほどだ。
顔立ちはどこか頼りなさげで、疲れてそうな表情をいつも浮かべている。
体系は痩せ型で、いかにも勉強だけが取り得という雰囲気を醸し出している。
年は26歳でまだ若いが、全体的には実年齢を20年ほど上回っているように感じられる。
ラウスが、今紙に書いている術式の魔法に取り掛かったのは1年前の事である。
当時、北大陸の国が、次々とシホールアンル帝国に飲み込まれていく中、
バルランドはミスリアルと共同である魔法を開発する事を決めた。
その魔法とは、どこかの異世界から強力な軍事力を持つ戦力単位を呼び出し、それを南大陸に侵攻してくるで
あろう、シホールアンルにぶつけて、侵攻を止めようと言うものである。
最初、この話を聞いた時、ラウスは
バルランドはミスリアルと共同である魔法を開発する事を決めた。
その魔法とは、どこかの異世界から強力な軍事力を持つ戦力単位を呼び出し、それを南大陸に侵攻してくるで
あろう、シホールアンルにぶつけて、侵攻を止めようと言うものである。
最初、この話を聞いた時、ラウスは
「どこぞの御伽噺から、ネタを引っ張り出してきた?」
と本気で疑った。しかし、ミスリアル側では、この魔法は理論上では可能であり、
時間と召喚に用いる際のモノが整えば出来るらしい。
一番の問題は、召喚が成功するか、成功しても、それはこっちの役立つもので、こっちの味方になるか、である。
不承不承ながらも、共同開発メンバーに抜擢されたラウスは、1年前から仕事に取り組み始めた。
彼が作っているのは、相手が召喚される時に繋がる、トンネルの入り口部分、というのを担当している。
いくつか細分化されて、小管魔法は作られているが、このトンネルの入り口部分と言うのが大変であり、
術式の基礎を作るのに4ヶ月も掛かった。
それを煮詰めるのにさらに6ヶ月、そして、今が最終段階の校正である。
この校正で、術式の不備点を加えれば、召喚魔法は完成する。
別の部分は既に完成しており、後はラウスが作る部分のみが残っていた。
時間と召喚に用いる際のモノが整えば出来るらしい。
一番の問題は、召喚が成功するか、成功しても、それはこっちの役立つもので、こっちの味方になるか、である。
不承不承ながらも、共同開発メンバーに抜擢されたラウスは、1年前から仕事に取り組み始めた。
彼が作っているのは、相手が召喚される時に繋がる、トンネルの入り口部分、というのを担当している。
いくつか細分化されて、小管魔法は作られているが、このトンネルの入り口部分と言うのが大変であり、
術式の基礎を作るのに4ヶ月も掛かった。
それを煮詰めるのにさらに6ヶ月、そして、今が最終段階の校正である。
この校正で、術式の不備点を加えれば、召喚魔法は完成する。
別の部分は既に完成しており、後はラウスが作る部分のみが残っていた。
とりとめのない会話からさらに2時間が経ち、午後9時を過ぎた。
「終わった。」
何気なく、ラウスは呟いた。
連日10時間以上は机に向かっているから、彼の顔色はやや青白くなり、目の下にくまが出来ている。
連日10時間以上は机に向かっているから、彼の顔色はやや青白くなり、目の下にくまが出来ている。
「何が出来た?」
「コレだよ。」
「コレだよ。」
彼は、後ろの同僚に紙を見せた。
「流石はバルランドで指折りの魔術師、仕事が速いぜ。」
「お世辞を言うなよ。」
「お世辞を言うなよ。」
そう言いながら、ラウスはまんざらでもないように笑みを浮かべる。
その笑みも、疲れのためか、やや引きつっている。
その笑みも、疲れのためか、やや引きつっている。
「それに、お前より遅く終わってるんだから、自慢に出来ねえよ。」
「俺より多い箇所をやっているんだから仕方ないさ。さあ、早く報告に行かないと、リーダーが首を長くして待ってるぜ。」
「俺より多い箇所をやっているんだから仕方ないさ。さあ、早く報告に行かないと、リーダーが首を長くして待ってるぜ。」
同僚の魔術師、ヴェルプ・カーリアンは自分の赤い髪を掻き毟りながら立ち上がる。
「確かにね。さて、行くとするか。エルフの旦那が待っているからな。」
そうぼやきながら、2人は立ち上がった。
ドアを開けると、そこには薄暗い部屋があり、その真ん中に置かれた、大きめの机を取り囲み、
椅子に座って話をしている3人の人影があった。
2人が入ってくると、その3人は振り向いた。
ドアを開けると、そこには薄暗い部屋があり、その真ん中に置かれた、大きめの机を取り囲み、
椅子に座って話をしている3人の人影があった。
2人が入ってくると、その3人は振り向いた。
「術式が完成しました。」
ラウスはそう言って、1人のエルフの男の元に歩み寄った。
そのエルフは肌が浅黒く、背は大きいながら、体全体のバランスが取れている。
顔達は端整であり、見るものを惹き付けるものがある。
そのエルフは肌が浅黒く、背は大きいながら、体全体のバランスが取れている。
顔達は端整であり、見るものを惹き付けるものがある。
「どれ、見せてみろ。」
氷のような声でそう言い、男は何十枚もの紙を手にとって、1枚1枚、素早く見ていく。
「うん・・・・・うん・・・・・・見事だ。」
全てを見終わり、ダークエルフの男は頷いた。
彼の名はレイリー・グリンゲル。ミスリアル王国では一番の腕を持つ魔術師である。
年は30歳と、ラウスと大して変わらない。
彼の名はレイリー・グリンゲル。ミスリアル王国では一番の腕を持つ魔術師である。
年は30歳と、ラウスと大して変わらない。
「これで、足場は揃った。後は、やってみるだけだな。」
そう言うと、皆が納得したように頷いた。
「鍵の持ってきた図面が、この後、どのような結果をもたらすかは判前とはしない。
だが、俺達はそれを基にして作った、この魔法に掛けてみるしかない。」
だが、俺達はそれを基にして作った、この魔法に掛けてみるしかない。」
レイリーはそう言うと、席を立った。
「さて、3時間ほど休んだら、最後の仕上げをやろう。」
1941年10月19日 午前2時 アメリカ合衆国カリフォルニア州
「やっぱり、人は訓練すれば使い物になるなぁ」
ウィリアム・ハルゼーは、ソファーの向かいに座る元同級生、ハズバンド・キンメルに語りかける。
「君の訓練のやり方がうまいからな。」
「うまいか・・・・まあ、俺の手にかかれば、ヒヨッコなんざ半年で一人前にして見せるさ。」
「うまいか・・・・まあ、俺の手にかかれば、ヒヨッコなんざ半年で一人前にして見せるさ。」
そう言って、ハルゼーは豪快に笑い飛ばす。2人とも、片手にはウィスキーの入ったグラスを手にしている。
キンメルが住んでいる官舎に、ハルゼーが押しかけたのは午後11時を過ぎた時であった。
17日に、キンメルは太平洋艦隊司令長官に就任したが、就任してからは、ハルゼーとは儀礼的に挨拶を交わしたのみである。
18、19日は、ハルゼーは直率の第8任務部隊をサンディエゴ沖で訓練させた。
彼の旗艦であるエンタープライズがサンディエゴに入港したのは、午後8時の事で、ハルゼーは9時に基地を出て、
少しの休憩を取った後にキンメルの住む官舎に、ウィスキーのビンを持って、
キンメルが住んでいる官舎に、ハルゼーが押しかけたのは午後11時を過ぎた時であった。
17日に、キンメルは太平洋艦隊司令長官に就任したが、就任してからは、ハルゼーとは儀礼的に挨拶を交わしたのみである。
18、19日は、ハルゼーは直率の第8任務部隊をサンディエゴ沖で訓練させた。
彼の旗艦であるエンタープライズがサンディエゴに入港したのは、午後8時の事で、ハルゼーは9時に基地を出て、
少しの休憩を取った後にキンメルの住む官舎に、ウィスキーのビンを持って、
「太平洋艦隊司令長官、就任おめでとう!」
と叫びながら強引に入ってきた。
それ以来、ハルゼーとキンメルは2時間以上も話し続けている。
それ以来、ハルゼーとキンメルは2時間以上も話し続けている。
「まあ、自分でもよくよく思うよ。伸びたいという人間は変われるのだな、と。
10ヶ月前のあいつらは酷かった。標的に爆弾を当てるのは一部の奴だけで、他はほとんど外しやがる。」
「急降下爆撃は難しいと聞いていたが?」
「難しい。だが、それをこなすのが艦爆乗りだ。VB-6の奴らは最初、ほとんどが腰抜けだった。」
10ヶ月前のあいつらは酷かった。標的に爆弾を当てるのは一部の奴だけで、他はほとんど外しやがる。」
「急降下爆撃は難しいと聞いていたが?」
「難しい。だが、それをこなすのが艦爆乗りだ。VB-6の奴らは最初、ほとんどが腰抜けだった。」
ハルゼーは、右手を急降下してくるドーントレスに擬し、左手を標的に擬して説明する。
「本来、急降下の時には、最低でも高度を1000か、それ以下の800辺りまでに下げないといかん。
しかし、10ヶ月前の奴らは、ほとんどが高度1500か2000近い高度で爆弾を投げ落としていた。
あれじゃ当たるものも当たらん。あまりに酷いものだから、あと4回訓練するうちに高度をもっと下げん
かったら、全員船から放り出してやると艦長に言ったよ。まあ、パイロットには直接言わなかったが、
あれから奴らは変わり始めたね。」
「お前は乱暴だからな。直接そいつに言わんでも、お前が言ったとされれば、若い連中は誰でもビビルぞ。」
「せっかくブルのあだ名を頂いているんだ。それらしい部分は見せんとな!」
「やり過ぎて、下の連中から敬遠されるなよ。」
しかし、10ヶ月前の奴らは、ほとんどが高度1500か2000近い高度で爆弾を投げ落としていた。
あれじゃ当たるものも当たらん。あまりに酷いものだから、あと4回訓練するうちに高度をもっと下げん
かったら、全員船から放り出してやると艦長に言ったよ。まあ、パイロットには直接言わなかったが、
あれから奴らは変わり始めたね。」
「お前は乱暴だからな。直接そいつに言わんでも、お前が言ったとされれば、若い連中は誰でもビビルぞ。」
「せっかくブルのあだ名を頂いているんだ。それらしい部分は見せんとな!」
「やり過ぎて、下の連中から敬遠されるなよ。」
キンメルの忠告に、ハルゼーは苦笑した。
「やり過ぎないようにはしてるんだが、どうもうまくいかないね。
まあ、そこはなんとか考えながら、適度に抑えていくさ。」
「やり過ぎないようにはしてるんだが、どうもうまくいかないね。
まあ、そこはなんとか考えながら、適度に抑えていくさ。」
彼はグラスのウィスキーを飲み干し、ビンを取って空のグラスに注ぐ。
途中で、キンメルのグラスに残っているウィスキーの量を見る。
途中で、キンメルのグラスに残っているウィスキーの量を見る。
「あまり残ってないな。注ごうか?」
「いや、自分でやるよ。」
「いや、自分でやるよ。」
キンメルは断るが、
「司令長官閣下に入れさせたら失礼であります。ここは中将である、私に。」
と、ハルゼーはわざとおどけたような口調で言った。
「それじゃあ仕方ないな。」
キンメルは苦笑したが、ここは“部下”のすすめを受ける事にした。
グラスに注ぎ終わり、ハルゼーはビンをテーブルに戻す。
キンメルは苦笑したが、ここは“部下”のすすめを受ける事にした。
グラスに注ぎ終わり、ハルゼーはビンをテーブルに戻す。
「とりあえず、見た限りでは、TF8の錬度は上がっている事だな?」
「まあ、そうなるな。」
「まあ、そうなるな。」
ハルゼーは頷く。
「しかし、世の中物騒なものだな。」
「ああ。その通りだ。」
「ああ。その通りだ。」
キンメルは神妙な表情でそう呟いた。
「物騒ではあるが、君が言っていた持論も証明されているぞ?飛行機は戦艦に勝てる、と。」
「その通りだ。とは言っても、俺が直接、その立役者になれなかったのが少し不満なとこだが、
キンメル、君としてはどう思う?まだ戦艦を信じるかね?」
「そうだなあ・・・・」
「その通りだ。とは言っても、俺が直接、その立役者になれなかったのが少し不満なとこだが、
キンメル、君としてはどう思う?まだ戦艦を信じるかね?」
「そうだなあ・・・・」
キンメルは腕を組んで考え込んだ。
欧州の戦争では、戦艦はもはや過去の時代のものと示されている。
ビスマルク撃沈然り、タラント奇襲然り。
いずれも、洋上で威風堂々と波を蹴散らしていた戦艦は、飛行機と言うちっぽけな、
しかし、俊敏な行動力と、獰猛な攻撃力を備えた新時代の兵器に取って代わられた事を、如実に表していた。
今や、日本海海戦、第1次大戦で栄華を極めた戦艦も、航空機の援護無しでは作戦は満足にこなす事が出来ない時代になった。
長年、戦艦こそが海戦の主役と考えていたキンメルも、最近ではハルゼーの言う事が正しいと感じるようになっている。
欧州の戦争では、戦艦はもはや過去の時代のものと示されている。
ビスマルク撃沈然り、タラント奇襲然り。
いずれも、洋上で威風堂々と波を蹴散らしていた戦艦は、飛行機と言うちっぽけな、
しかし、俊敏な行動力と、獰猛な攻撃力を備えた新時代の兵器に取って代わられた事を、如実に表していた。
今や、日本海海戦、第1次大戦で栄華を極めた戦艦も、航空機の援護無しでは作戦は満足にこなす事が出来ない時代になった。
長年、戦艦こそが海戦の主役と考えていたキンメルも、最近ではハルゼーの言う事が正しいと感じるようになっている。
「はっきり言えば、未だに戦艦という艦種は好きだし、昔の考えから抜け切れてはいない。
あの敵を圧する主砲の砲声、威風堂々と驀進する姿・・・・実に素晴らしい物だった。」
「だった・・・・か。」
「だった、だよ。」
あの敵を圧する主砲の砲声、威風堂々と驀進する姿・・・・実に素晴らしい物だった。」
「だった・・・・か。」
「だった、だよ。」
キンメルはウィスキーを1口飲んでから話を続ける。
「でも、今はそは感じなくなって来た。むしろ、今は空母や航空機に興味を引かれることが多く
なっているな。空母といえば、来年竣工するエセックスだが、まあ、私の口から言っても
つまらんと思うが、あれはなかなかいい艦だな。」
「君もそう思うか?」
「思うさ。27000トンの基準排水量に悪くない航続力と速度。
100機以上の航空機を積める搭載能力。防御もヨークタウン級に比べて上がっている。
水雷防御が今ひとつなのは少し気に入らないが、上からの攻撃には結構強いと思う。」
なっているな。空母といえば、来年竣工するエセックスだが、まあ、私の口から言っても
つまらんと思うが、あれはなかなかいい艦だな。」
「君もそう思うか?」
「思うさ。27000トンの基準排水量に悪くない航続力と速度。
100機以上の航空機を積める搭載能力。防御もヨークタウン級に比べて上がっている。
水雷防御が今ひとつなのは少し気に入らないが、上からの攻撃には結構強いと思う。」
「ふむ。お前も見る目があるじゃないか。」
ハルゼーはニヤリと笑みを浮かべた。
「対日戦が無くなったので、建造数は削られたが、それでも14隻が竣工する。
14隻だ。ヨークタウン級の3隻とは比べ物にならん。」
「まさに、持てる国のなせる業、と言う事か。とは言っても、14隻のエセックスを作ったところで、
敵地に対しての地上攻撃ぐらいが関の山じゃないか?」
「ジャップがこっちに喧嘩吹っ掛ければ、エセックス級も結構役に立つだろうが、今じゃあ
イタ公もフリッツも、イワンも主要艦艇は奥に引っ張り込んでいるからな。
まあ、元々は27隻作る予定で、めぐり巡って14隻に削減されたとはいえ、それでも多すぎるな。」
「敵艦隊が出て来ても、イギリスやフランスの海軍が得物を横取りしようとするから、出番はあまり無いかもしれん。」
「いっそ、エセックス級や建造中の新鋭戦艦を全部作らんで、戦車や航空機を作ったほうがいいかも知れんな。」
14隻だ。ヨークタウン級の3隻とは比べ物にならん。」
「まさに、持てる国のなせる業、と言う事か。とは言っても、14隻のエセックスを作ったところで、
敵地に対しての地上攻撃ぐらいが関の山じゃないか?」
「ジャップがこっちに喧嘩吹っ掛ければ、エセックス級も結構役に立つだろうが、今じゃあ
イタ公もフリッツも、イワンも主要艦艇は奥に引っ張り込んでいるからな。
まあ、元々は27隻作る予定で、めぐり巡って14隻に削減されたとはいえ、それでも多すぎるな。」
「敵艦隊が出て来ても、イギリスやフランスの海軍が得物を横取りしようとするから、出番はあまり無いかもしれん。」
「いっそ、エセックス級や建造中の新鋭戦艦を全部作らんで、戦車や航空機を作ったほうがいいかも知れんな。」
ハルゼーがそう言うと、2人は思わず失笑した。
「そうなら、海軍は今まで違って小ぢんまりとした艦隊編成になるだろうなあ。そうなると、寂しいものだね。」
キンメルはいささか寂しげに呟く。
「同感だね。」
ハルゼーはそう言う。
右手に持ったグラスを顔に近づけ、新たに一口含もうとした時、視界が暗転した。
右手に持ったグラスを顔に近づけ、新たに一口含もうとした時、視界が暗転した。
来たれ・・・・・・召喚されるものよ・・・・・
来たれ・・・・・・異形なる物共よ・・・・・我らの危機を救うために・・・・・
異界のモノ達よ・・・・・その英知・・・・・その力・・・・・我らに役立てる為に・・・・・
我らが世界へ・・・・・舞い降りよ・・・・・・・
唐突に、襟に、ヒヤッとした冷たい液体が流れた。
「?・・・・・うわ、クソったれ!」
最初、何か分からなかったが、ハルゼーは誤って、襟の部分にウィスキーをこぼしてしまった。
彼はグラスを置いて、慌てて胸ポケットのハンカチで、首や襟を拭いた。
彼はグラスを置いて、慌てて胸ポケットのハンカチで、首や襟を拭いた。
「ん?どうした、何か起きたのか?」
キンメルが、少し遅れてハルゼーに問いかけた。
「いや、ちょっと酒をこぼしちまってな。」
その時、彼はキンメルが額を抑えているのを見た。
「どうした?もう酔っ払ったのか?」
「それはこっちのセリフだよ。君だって、少し眠たそうな顔しているじゃないか。」
「それはこっちのセリフだよ。君だって、少し眠たそうな顔しているじゃないか。」
そう言い合った時、2人は首をかしげた。
「なあ、ハズバンド。さっき、一瞬だけ目の前が真っ暗にならんかったか?」
「いや。でも、訳の分からん声見たいのが聞こえたな。なんだったかな・・・・日本のオキョウと似ているような」
「なんだいそれは?」
「いや。でも、訳の分からん声見たいのが聞こえたな。なんだったかな・・・・日本のオキョウと似ているような」
「なんだいそれは?」
ハルゼーは目を丸くして言う。
「う~ん・・・・・・俺もさっぱり分からん。」
そう言った後、キンメルはおもむろにウィスキーのビンを取った。
(本当に酔ってしまったのかな?)
そう思った彼だが、この時、少し酔いも入ってきたため、彼は疲れとアルコールのせいで少し眠くなって、
空耳を聞いたのだろうかと思った。
(昔はこれぐらい何ともなかったが、年には勝てんか。)
(本当に酔ってしまったのかな?)
そう思った彼だが、この時、少し酔いも入ってきたため、彼は疲れとアルコールのせいで少し眠くなって、
空耳を聞いたのだろうかと思った。
(昔はこれぐらい何ともなかったが、年には勝てんか。)
「これぐらいで酔っ払うとは、俺も年を取っちまったな。」
ハルゼーもどこか悔しげに言ってくる。
「奇遇だな。私も今同じような事を思ったよ。」
「ほう?本当に偶然だな。」
「まあ、こんな時もあるだろう。」
「ほう?本当に偶然だな。」
「まあ、こんな時もあるだろう。」
キンメルは肩をすくめた。
「嫌だよ」
誰かが泣いている・・・・・ここは、どこ?
薄暗い部屋?
薄暗い部屋?
「何を言うんだ。君がいれば、全ては」
「嫌だって言ってるじゃない!!!!」
「嫌だって言ってるじゃない!!!!」
泣きながらも、その緑の髪をした女性は怒鳴る。
黒服の男が、困ったような顔をする。
どこか優しげな表情だが、その目は、何を考えているか分からない。傍目から見れば、曇った目だ。
黒服の男が、困ったような顔をする。
どこか優しげな表情だが、その目は、何を考えているか分からない。傍目から見れば、曇った目だ。
「何が世界統一よ。そんなものは夢物語だわ!」
「夢じゃないよ。」
「夢じゃないよ。」
軽薄そうな笑みを浮かべる。まるで、女を馬鹿にしているかのようだ。
「現に、君はここにいる。君にある」
「もうやめて!聞きたくない!!」
「もうやめて!聞きたくない!!」
彼女は耳を塞いで、顔を背ける。
「あたしの気持ちも知らずに・・・・・これまでどんな扱いを受けてきたか分かる?」
「わかるさ。」
「わかるさ。」
しかし、女性は首を激しく横に振る。
「ふざけるな!生まれた時から、化け物って言われた事はある?孤独になったことはある?」
「・・・・・・・」
「私は、ここから去る。」
「鍵は、自力では逃げないモノなんだけどね。」
「邪魔をするというのなら、私も力ずくで、前へ進むのみ。」
「・・・・・・・」
「私は、ここから去る。」
「鍵は、自力では逃げないモノなんだけどね。」
「邪魔をするというのなら、私も力ずくで、前へ進むのみ。」
涙が一瞬にして枯れ、女性の怒気が凄まじくなっていく。
少女といっていいその華奢な体から、無限の力が噴き出してくるような感じがする。
少女といっていいその華奢な体から、無限の力が噴き出してくるような感じがする。
「私の名前は、鍵なんかじゃない。ちゃんとした名前があるの。フェイレという名が」
ジリリリーン!ジリリリリリリリーン!
唐突にまどろみから、現実の世界に引き戻された。
唐突にまどろみから、現実の世界に引き戻された。
「今は・・・・・何時かな?」
まだまぶたが重いが、キンメルは月明かりに青白く移る時計を見た。
5時を少し回ったところだ。
電話がけたたましく鳴り響いている。
5時を少し回ったところだ。
電話がけたたましく鳴り響いている。
「誰だ・・・・・こんな時間に・・・・」
キンメルは忌々しげに呟いて、電話の受話器を取った。
「もしもし・・・・・今何時だと思っておるか。」
キンメルは目を擦りながら、怒りを含んだ口調で言う。
「司令長官閣下、おはようございます。」
「お早うと言うには早すぎると思うがね。何か緊急の用かね?」
「お早うと言うには早すぎると思うがね。何か緊急の用かね?」
電話の相手は、残業をしていた参謀長のスミス少将である。
「はっ。実は、2時間前から異変が起きまして」
「異変?」
「異変?」
その時、キンメルは目が覚めた。
「まさか・・・・・ドイツが攻めてきたのか!?」
キンメルはそう叫んだ。
近年、アメリカとドイツの関係は悪い。
近年、アメリカとドイツの関係は悪い。
アメリカは、イギリスに駆逐艦50隻を供与し、その他の物資も、イギリスやフランスに与えている。
そればかりか、つい最近までは、米駆逐艦が英輸送船団を護衛するのがたびたび見られた。
これは、ルーズベルト大統領が、もし、米駆逐艦が雷撃を受けた時に、
それを口実に独・伊に宣戦布告をする、と言う事を企んでいるのだが。
どうしてどうして、ドイツ、イタリア側はアメリカの意図を見透かしており、米駆逐艦が護衛している時は、
攻撃は一切やらなかった。
最近では米駆逐艦の護衛も付かなくなり、ここ1週間ほどは、大西洋艦隊の艦艇はほとんどが本土の港に引っ込んでいる。
だが、キンメルは、ついにドイツがアメリカに対し、牙を向いたと思っていた。
そればかりか、つい最近までは、米駆逐艦が英輸送船団を護衛するのがたびたび見られた。
これは、ルーズベルト大統領が、もし、米駆逐艦が雷撃を受けた時に、
それを口実に独・伊に宣戦布告をする、と言う事を企んでいるのだが。
どうしてどうして、ドイツ、イタリア側はアメリカの意図を見透かしており、米駆逐艦が護衛している時は、
攻撃は一切やらなかった。
最近では米駆逐艦の護衛も付かなくなり、ここ1週間ほどは、大西洋艦隊の艦艇はほとんどが本土の港に引っ込んでいる。
だが、キンメルは、ついにドイツがアメリカに対し、牙を向いたと思っていた。
果たして、
「どこの国も、わが国には攻めておりません。」
「はぁ?」
「はぁ?」
キンメルの当ては外れてしまった。
「では、異変というのは何だね?」
「実は、その・・・・小官もいささか混乱しておりますが、とりあえず報告いたします。
本日未明、午前1時頃から、ハワイ、ウェーク、グアム、フィリピンから届けられる電報が
一切届かなくなりました。」
「そうか。通信機の故障とかではないのかね?」
「いえ、アラスカとは連絡が取れるので、故障は考えにくいでしょう。」
「では、磁気嵐が発生しているのではないか?」
「そうだと、説明は付くのですが。実を言うと」
「実は、その・・・・小官もいささか混乱しておりますが、とりあえず報告いたします。
本日未明、午前1時頃から、ハワイ、ウェーク、グアム、フィリピンから届けられる電報が
一切届かなくなりました。」
「そうか。通信機の故障とかではないのかね?」
「いえ、アラスカとは連絡が取れるので、故障は考えにくいでしょう。」
「では、磁気嵐が発生しているのではないか?」
「そうだと、説明は付くのですが。実を言うと」
スミス少将の声音はどこか力無い。しかし、続きを聞いて、キンメルは唖然となった。
「ワシントンから、各種電波放送や電報が全く届かなくなったと言う情報が、ここにも届けられたのです。」
「何だと?そんな事は聞いた事が無いぞ。まあいい、わしも司令部に行く。
それまでに、起こった異変について纏めておいてくれ」
「何だと?そんな事は聞いた事が無いぞ。まあいい、わしも司令部に行く。
それまでに、起こった異変について纏めておいてくれ」