自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月14日  18:39  隣の大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地  正面ゲート  

施設の働きにより、基地はさらなる発展を遂げていた。  
監視塔には車輌のガラスを取り外して設置された窓が用意され、サーチライトも拡声器も重火器も増強されている。  
また、施設の建設よりも優先されてトーチカが設置され、さらには警戒に当たる車輌も増えている。  
まあ無理もない、今は臨戦態勢どころか戦闘配置だ。  
遠い将来満杯になる予定の倉庫よりもこちらが優先されてしかるべきだ。  

「それに、我々はこの基地の眼に、耳に、盾に、剣になるべき存在ですからね」  
「ああ、それが小銃一つで立ちんぼじゃあ、いざという時に何があるかわからない」  
「そういえば、お聞きになりましたか三尉殿」  
「海兵隊の話か?」  
「ええ」  

転移当時の日本には、合衆国各地からかき集められた兵士と兵器と物資が満ち溢れていた。  
何しろ直ぐ隣の半島では冷戦時代以来の代理戦争が盛大に執り行われており、日本列島はアメリカ本土と半島の間に存在している。  
世界最高峰の民間の港湾、空港設備、そしてアメリカ軍の恒久基地を持ち、食品などもレーション以外は全て購入できる。  
治安は良好、現地軍は友好的かつ強力とくれば、これを後方支援基地として使用しない手はない。  
そんなこんなで、小は再編成中の大隊から大は空母機動部隊まで、日本は『第二の占領時代』と揶揄されるほどに米軍が駐留していた。  

「連中、どうやら政府に脅されて我々の指揮下に入るらしいですよ」  
「はて?俺が聞いた話では、再編成中の陸軍と海兵隊がそっくりそのままここに派遣されてくるって話だったぞ」  
「もうそこまで話が進んでいるのでしょうか?まあ、ありえないことではないでしょうが」  

自衛隊の偵察衛星から情報を受け取ったアメリカ軍は、座標的にはあるはずの地点にアメリカ大陸の欠片も発見できずに発狂しかけた。  
一応大陸らしいものはいくつか発見できたが、そこに2019年のアメリカの痕跡を見出すことは出来なかった。  
それどころか、ロシアも中国もイギリスもフランスも。  
あるべきところに陸地がなかったり、陸地はあっても痕跡は見つけられなかった。  
そして、その結果が二人の会話である。  
在日米軍を含む日本駐留中の全アメリカ軍は、自衛隊の指揮下に入る事となったのだ。  
兵士の頭数が増える事に現場指揮官たちは大喜びしたが、上層部の人間たちはそこまで無邪気には喜べなかった。  
なにしろ、頭数は増えたが、彼らを食わせるべき食料は減る一方なのだ。  
JAに脅迫に近い要請をしてはいるが、長年の政策が功を奏し、食料自給率は向上予定のグラフすら完成していない。  
燃料はタンカーや国家・民間備蓄基地からの供給を統制する事により、推定で半年分。  
だが、人間は石油で腹を膨らませる事はできない。  
これでは近代文明の切れ端と共に全員が息絶えてしまう。  

その絶望的な未来を回避するため、日本人たちは実に懐かしい手法を取る事にした。  
すなわち、戦争による領土拡大と資源獲得、および海外移民政策である。  
正直な所、彼らには時間がなさ過ぎたのだ。  
外務省の異様なフットワークの良さも、書類作成が間に合わないほどの増援部隊派遣も、全てはそのためだった。  
そして佐藤たちがいるこの基地は、大陸への玄関として、万が一の際のダンケルクとして、認識されていたのである。  

「うるせぇなぁ」  

二人が話す監視塔の上を、AH-64DJの編隊が通過する。  
自衛隊的感覚では調達が未完の新型機、という位置づけになるこのヘリコプターは、明らかにオーバーキルになるであろうこの戦場へ投入されていた。  
まあ、あのまま朝鮮半島に到着していたとしても、仕事の内容はあまり変わらなかっただろうが。  

「・・・ん?ありゃあ、昨日の奴か」  

空から地面へと視線を移した佐藤は、一瞬で昨日の女性を発見した。  
その言葉に三曹は内心驚きつつもライトを動かし、彼女をライトアップする。  

「どうぞ三尉殿」  
「ありがとう」  

マイクを受け取った佐藤は口を開いた。  

<<はい、そこで止まってください。直ぐにそちらへ行きます>>  

するすると監視塔から降り、ダッシュ。  

「こんばんわオリーブドラブさん」  
「こんばんわサトーサンイ。シャーリーンでいいわよ。で、早速なんだけど」  
「交渉ですか?」  
「ええ」  
「それならばこちらへどうぞ。外務省の、まあ、我が国の貴方のような立場の人間が来ています」  

すぐさま基地内へと誘導する。  
目的地は外務省臨時出張所。  
この世界にとっての災いが、その第一段階を開始しようとしていた。  


西暦2020年1月14日  20:10  隣の大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地  外務省臨時出張所  

「はじめまして、オリーブドラブ人界全権大使閣下。  
この基地の司令を勤める、吉永健三一等陸佐です。以後お見知りおきを」  
「こちらこそよろしくお願いしますヨシナガさん」  

臨時出張所には基地司令を始め、陸海空のこの大陸における責任者と外務省から来たらしいスーツの男が揃っていた。  
互いににこやかに挨拶し、そして椅子に腰掛ける。  

「早速ですが、本日のご用件は?」  
「第三氏族と話をつけてきました。今後、聖なる森の周辺で用なく火を焚かない事を条件に、先の戦闘に関しては不問とするそうです」  
「ほう?それはありがたい。ちなみに、用なく、というのは?」  
「戦死者を弔う時や、料理、それから照明などですね」  
「私の元に入っている情報では、あなた方は随分と火がお嫌いなようですが」  

先日作成した報告書を見つつ、吉永一佐が言う。  

「私たちは確かに火は嫌いですが、さすがに人間に生活するな、とまで指示するような立場ではありませんから。  
それに、我々エルフとて火で明かりを、暖を取りますし、料理で火を使い、死者を火葬します。  
私たちだけ良くて、あなた方人間はダメというのは通らないでしょう」  
「いやまったく、そう言って頂けるとありがたい!」  

吉永一佐との会話に突然外務省の男が割り込んできた。  
周囲の自衛官たちからは冷たい視線が注がれるが、どうやら彼は気にしないようだ。  

「あなたは?」  

シャーリーンが不思議そうに見る。  

「ああ、これは申し遅れました。  
私、外務省新大陸課の鈴木と申します。  
エルフの皆さんとの交渉は、今後全て我々外務省の人間が担当いたします。  
どうか、よろしくお願いいたします」  

いきなり喧嘩を吹っかけてきたな、おい。  
居並ぶ自衛官たちの表情が硬くなっていく。  

「あらそうなんですか?それではよろしくお願いします。  
それで、早速ですが先ほどの件については?」  
「ええ、ええ、直ぐに条約に調印いたしますとも。何か証文のようなものはありますか?」  

二人の会談は俺たちを除外して順調に進んでいく。  
いや、まあ外交を外交官が行うのは当然だから別にいいんだ。  
ただなぁ、こうも露骨に線引きをされると、気分的に面白くない。  

「これです」  

シャーリーンは、その豊かな胸元から一枚の妙な紙を取り出し、机の上に置く。  
凄い場所から取り出すな。  
なになに?誓約書、双方は・・・っておい。  
これ、アルファベットじゃないか!  

「!!あ、ああ、なるほど、ここに私の名前を書けばいいのですね?」  

ペンで『書名欄』と書かれたところを指しつつ鈴木が尋ねる。  
少し動揺しているところを見ると、  

「そうです」  
「では早速・・・はい、どうぞ」  
「ありがとうございます。先の不幸な出来事は互いに忘れ、よりより明日のために生きていきましょう」  
「全く同意します。それでですね、この件はこれで終わりとしまして、いくつか伺いたい事があるのですが・・・」  
「構いませんよ。何でしょうか?」  

立ち並ぶ俺たち下っ端や、椅子に座ったままの佐官たちをそのままに、鈴木はこの世界についての質問を始めた。  


同日  22:40  隣の大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地  正面ゲート監視塔  

「お疲れ様であります三尉殿」  
「ああ、本当に疲れた」  

監視塔に戻った俺を、三曹と眠そうな部下たちが迎えてくれた。  
すぐさまコーヒーが人数分用意され、振舞われる。  

「それで、交渉はどうでした?」  
「担当が外務省に移ったんだが、退出が促されなかったおかげで二時間立ちっぱなしだよ。  
だが、非常に興味深い情報を大量に得たよ」  
「おお、それは素晴らしいですな、それで、例えば?」  

現在休憩中の両者の対談は、素晴らしい成果を着々と挙げつつある。  
まずはこの世界、どうも地動説が主流らしいが、いくつかの大陸と国家があることはわかっているらしい。  
まあこれは本土からの情報で、人工衛星が壊れずに稼動し続けている事から、地球に酷似した惑星である事が判明しているからどうでもいい。  
俺たちがいるのはゴルソンという大陸の東の果て、エルフの国家共同体のようなものがある『聖なる森』のすぐそばらしい。  
東に俺たちの駐屯地、位置関係を考えるならば、それよりも更に東に進むと本土がある。    
逆に、森を挟んで西には連合王国と呼ばれる国があるそうだ。  
何でも昔にエルフと揉めたらしく、詳しい情報は不明とのこと。  
森の南には砂漠が広がっているらしく、入った者の命を奪う毒の沼地があちこちに広がっているらしい。  
森を抜けて北に向かうと、しばらくは草原が、さらにその先には岩場が広がっているとのこと。  
その先に何があるかは調べた事がないそうだ。  

「となると、この大陸とやらには、エルフとか言う連中と、その連合王国とやらしかいないってことですか?」  
「そうなるな。開拓団と大規模な増援、どうやら、政府は満州国をもう一度作る気なのかもしれんな」  
「冗談じゃありませんぜ三尉殿」  

肩をすくめつつ三曹は言った。  

「あの森を見てください、今すぐにでも自然保護区にしたくなるような立派な森だ」  
「木を大切にしましょう?」  
「まさかまさか、自分が言いたいのは、自分たちにはベトナム戦争パート2をやるような余裕はないし、そんな装備も持っていないということです。  
大体、食料も燃料も余裕がないのにそんな事は出来ないでしょう」  
「となると、北を開拓か」  
「本当に満州国パート2か」  

まぁ、どっちにしろ俺たちに選択権はないか。  
日本の食料自給率は低い。  
頑張ってシムシティするにしろ、連合王国とやらとドンパチやって略奪するにしろ、早くしないと選択肢が狭まるどころか国が崩壊する。  
やれやれ、これは面倒だ。  
悩む自由はあるのに、行動に自由がないのがさらに面倒だ。  
何しろ俺たちは特別職国家公務員。  
上から命令されれば、どんな善行も、悪行もしなければならない。  
そして、現在の国の状況は、このまま座視すれば、緩慢な死を待たねばならない状態。  
ならば、と誰もが考える状態だ。  
この先何を命じられるのかは、考えるまでも無いだろう。  
実に面倒だ。  


同日同時刻  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地  司令官室  

「やれやれ、驚きましたよ」  

煙草を吸いつつ鈴木が言う。  
一時休憩という事で、彼は自衛官たちと共にこの部屋に来ていた。  
彼の失言により、上は一佐から下は一士まで、到着時にあった好意的な印象は欠片も残っていない。  
しかし、同期や恩人や恋人を、容赦の無い流言や陰謀で陥れてまで昇格をし続けた彼は、そこを気にするような男ではなかった。  

「まさかこんな世界できちんとした英語の文章を見る事になるとはね。  
皆さんもあれを見たでしょう?」  
「彼女が持っていた外交文章ですな」  
「そうです、あれは文法もアルファベットの形も完璧な英語です。  
まぁ言語の形として完成度が高いとかいう話はどっかで読みましたし、そんなこともあるんでしょうなぁ。  
それよりも」  

煙草を灰皿に押し付け、鈴木はにこやかに尋ねた。  

「彼女たちのレベルの武装をしている相手に、皆さんはどれくらいの期間で戦争を終わらせられますか?」  

一気に室温が下がる。  
  
「私の見たところ、彼女たちの文明は銃器など持っていないでしょう。  
よくて18世紀、下手をすればそれよりも昔、その程度の文明でしょう。  
ありったけの装備と補給、それと米軍の支援。  
それで皆さんは、どれくらいの期間で戦争を終わらせられますか?」  
「ちょ、ちょっと待ってくれ、いきなり何を言っているんだ?」  

オーバーなアクションをしつつ、吉永一佐が遮った。  
ついさっき停戦交渉が済んだばかりの相手と戦争?  
この男は何を言っているんだ?  

「別に彼女たちと戦争をしようというのではありません。  
森林地帯では空爆の効力は低いでしょうし、陸上部隊の投入は危険すぎますからね。  
それよりも、連合王国とやらですよ」  

二本目の煙草に火をつけつつ、鈴木は笑顔のまま続けた。  

「聞けば、連合王国は港を持っているそうですし、都合がいいことに、王都はその港町にあるとの事。  
陸海空の総力と、アメリカ海兵隊の増援をもってすれば楽勝ですよね?」  
「そ、それはまあ、あのレベルの技術力しか持っていないと仮定すれば、問題はない。  
だがしかしね、会った事もない相手といきなり戦争というのはどういうことなんだ?」  
「簡単な話ですよ」  

紫煙を吹き出しつつ、鈴木は言った。  

「日本は、大規模な食糧の確保が今年度中に出来なかった場合、崩壊します」  

彼の言葉は、室内を静まり返らせるのに十分だった。  

「もちろん事前に交渉はします。  
我々外務省の人間は、食料買い付けのために世界中を駆け巡る予定ですし、開拓団には北の草原とやらを農地に変えてもらいます。  
ですが、それだけでは時間が足りないのです」  
「だが、一時的な略奪では、今年度はしのげても、来年度は無理なんじゃないか?」  
「仰るとおりです一佐殿。  
しかし、この冬を越せなければ、来年度の心配をする事もできない。  
大切なのは、今です。  
それに、開拓団だけでは人手が足りません。国民が必要としているのは、米だけではないのですから」  

吉永一佐は黙り、目の前にいる若い外務官僚を見た。  
我々が命を張る理由はわかった。  
文字通りの侵略戦争をしなければいけないことも。  
しかし、拒否する事はできない。  
軍人にとって、国民の命と国益ほど重い物はないからだ。  

それに、悪いほうばかりではない。  
事前に手を尽くして無理ならば、という但し書きがついている。  
現時刻をもって戦闘開始、というわけではないんだからな。  

「まぁ、そういうことならば、まずは活発な偵察活動からですな。  
強襲上陸したはいいけれど、右も左もわからないでは戦いようがありませんから。  
一応確認しますが、本国からの許可を得ているんですよね?」  
「もちろんです、私が今ここにいるのは、そちらの上、統合幕僚会議からの正式な依頼ですよ」  
「ならば否応はありませんな。空自と海自の方もよろしいですか?」  
「正式な命令が届き次第、ですな」  
「明朝一番で偵察を出しましょう」  

あまり乗り気ではなさそうな一等海佐と、今すぐにでも出撃命令を下しそうな一等空佐が答える。  
階級が同一の指揮官がそれっている辺りが、この大陸派遣隊を取り巻く混乱した状況を表しているな。  
そんな事を考えつつ、鈴木は時計を見た。  
うん、そろそろ情報収集活動を再開しようか。  
ゆっくりと立ち上がる。  
同じ事を考えているらしい自衛隊指揮官たちも立ち上がる。  
彼らは、再び外務省臨時出張所へと向かった。  


西暦2020年1月15日  18:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地  正面ゲート  

「それでは失礼します」  

国防色のM-14大使はそう言って頭を下げると、森の中へと消えていった。  
日付をまたいでも『会談』は終わらず、その後翌朝の七時まで続いた。  
何しろ、聞けば答えてくれる相手がいるのだ、情報収集活動としてこれほど楽な事はない。  
もっとも、人から聞いた話だけで判断材料とするのは危険である。  
その為、地形に関しては実際に偵察活動および測量を行う事によって確認する事となったらしい。  
それによって今後彼女から入る情報の正確性を確認しようというのだそうだ。  
しかし、ここで仮眠を取ってから帰還するとは、なんとも豪胆な事で。  

「陸上の偵察は出さないのでしょうか?」  

先ほどからひっきりなしにヘリコプターが離陸し、北へ南へ西へと飛び去っている。  
監視塔で共に双眼鏡を握っている三曹が尋ねてくる。  

「バイク自体は頑丈でも、乗っている偵察隊員は生身の人間だからな。  
ブービートラップや弓矢でも簡単に死んでしまう。  
それに、地形がどうなっているのかわからないのでは87式を出せないだろう?」  
「まぁそりゃそうなんですが・・・」  
「どうした?珍しく歯切れが悪いじゃないか」  
「いや、その」  

三曹は口ごもった。  
この27歳のWACは、モデルでも通用するであろう外見と、90式の零距離射撃にも耐えるのではないかと思われる巨大な胸部装甲を持っている。  
何でも歯切れ良く喋り、恐らく文字だけで表記すると30近い男性の『鬼軍曹』を想像する程に口が悪い。  
その彼女が口ごもるとは珍しい。  
何か重いものが落ちる音がしたのは、その瞬間だった。  

「?」  

音がしたのは彼の後ろだった。  
見ると『敵味方識別帳』と書かれた分厚い本が落ちている。  

「なんだこりゃ?いつの間に支給されたんだ?」  

なぜか拾わせまいと邪魔をしてくる三曹をすり抜け、本を手に取る。  
最初のページには、自衛隊の書式には従っていないタイトルがあった。  

「なになに?ファンタジー作品における魔法生物設定資料集~これで異世界に行っても大丈夫!~第32巻?」  
  
中身を見る。  
吐き気を催すほど、あるいはトイレの個室で主砲による連続射撃を行いたくなるほどにリアルに書かれた生物の群れがあった。  
  
「なんだあこりゃあ?私物か?」  
「は、はい、申し訳ありません。自分の私物です」  
「そうか、しかしこりゃあ、役に立ちそうなものだな」  

他のページを確認する。  
エルフのページか。  

「なになに?実在はしていたけど、思っていたよりも高慢ではないようだ?」  
「え、ええ、伝え聞くところによるともっと高慢だとばかり思っていたので」  

いつの間にか双眼鏡で森を眺めつつ三曹。  
いきなりどうしたんだ?  

「三尉殿」  
「なんだ?」  

上官に話しかけているというのに、双眼鏡を手放そうとはしていない。  
失礼な奴だ。  
それに何処を見ているんだ?そっちは海だぞ。  

「可愛らしい女の子みたいだ、とか、思ってませんよね?」  
「ああ、大丈夫だ。脳内でもちゃんと彼と表記している」  
「ならいいです」  

あぶないあぶない。  
こいつはなんか自分を男性と考えるなんとか同一性障害らしい。  
それで自衛隊に入ったそうだ。  
が、あいにくと自衛隊は男女差別が厳しい。  
なにしろ、数年前までは戦闘部隊への配置は形だけだったほどだ。  
ここ数年続く好景気で、さすがに人手不足も限界となった現在では、逆に珍しくもない。  
軍隊だけあり制度改正までは長かったが、こうと決まった後はあっという間にこの状態だ。  
今じゃあWACなんて珍しくもなんともない。  


「ヘリが何かを見つけたら、我々が出張るという事はあるのでしょうか?」  
「俺たちは正門警護が任務だからなぁ。  
でもまあ、本土から警務隊が到着したらありえるな。とはいえ、表に出たいか?」  
「はい、出たいです」  

三曹は即答した。  
今度は空を眺めている。  

「危険だぞ、いつドラゴンやらオークやらが出てくるかわからんぞ?」  
「構いませんよ。交戦許可さえいただければ、我々には銃火器があります。  
車輌だってありますし、支援要請すればきっとアパッチや特科の支援もあるでしょう?」  
「まあ、見殺しにされる事はないだろうな」  

ただでさえ人手不足の自衛隊で、交戦による大量消耗など許されるはずもないからな。  
減り続ける人員を護るため、特に陸上自衛隊では少数で多数を殺せる兵器の増強に走り続けている。  
戦闘ヘリ部隊の増員、車輌の増強、特科の完全自走化。  
陸海空の相互支援の促進とデータリンクによる総合的な戦闘能力の向上。  
予算獲得のためのお題目ではなく、国防のための戦闘能力を維持するために、自衛隊にはそれが必要だった。  
  
「だったら、むしろこの新世界を楽しまないと」  
「お前なぁ、相手が大昔の装備だったとしても、矢を射られて、あるいは剣で切られれば俺たちは死ぬんだぞ?」  
「その前に射殺すれば問題はないでしょう?」  

まあそうだけどな。  
あっさりと射殺とか言うなよ。おっかない奴だな。  

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