自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月30日  18:30  日本国  東京都千代田区外神田4-14-1  

常時消されている巨大なディスプレイが鈍い音を立てて起動する。  
全く先の見えない未来と、電力制限のためにほとんどの商店が閉店しているこの街で、すがるべき何かを求める人々が上を見上げた。  
通常の五分の一しか運行していない電車が、薄暗い駅を通過する。  
勇ましい音楽が流れ、日本国旗が映し出される。  

「日本政府広報!」  

ミサイルを放つ艦隊、疾走するホバークラフト、小銃を連射する兵士たちが次々と画面に現れる。  
画面が切り替わるごとに人々は歓声を上げた。  
吹き飛ぶ港湾、なぎ倒される敵兵。  
血しぶきを見ても、人々は歓声以外の何も上げなかった。  

「日米合同平和維持部隊は、連合王国に対し積極的な平和維持活動を実施。  
日本国民全てに脅威を与えた連合王国政府は、首都陥落と独裁者が排除された事により、1月30日1420時、無条件かつ無期限の停戦に合意した」  

一同は静まり返った。  
首都の陥落と国家指導者の排除による無条件無期限停戦?  
つまり、つまりそれは。  

「親愛なる日本国民諸君。  
自由と平和を愛する日本国は、圧制を打倒した」  

爆発のような凄まじい歓声が上がった。  
異世界移転からさほど時間を待たずに死んだ街は、人々の歓声によって一時的に蘇った。  

「救国防衛会議は、全会一致で積極的な民主化支援活動を決定。  
数日中にインフラの復旧および近代化のための部隊を派遣する。  
それと同時に、地域経済の活発化のため、食料の買い付けを大々的に開始する。  
この幸運を、親愛なる国民諸君と共に喜びたい。  
我々は、平和と友人、そして食料を同時に手に入れる事に成功したのだ」  

人々はより一層高い歓声を上げた。  
いきなり始まった戦争、それがあっという間に終わり、いつの間にか食料の供給源まで手に入ったのだ。  
これを喜べないわけがない。  
もちろん彼らは知らない。  
その影に、自衛隊の恐るべき作戦がある事を。  



西暦2020年1月30日  21:00  日本本土  防衛省  救国防衛会議  

「いやはや、国民の皆さんは無邪気ですな」  

情報本部から回ってきた資料を眺めつつ、鈴木は愉快そうに言った。  
戦争アレルギーが完全に消滅している事を実感した統幕長たちも、安堵の笑顔を見せている。  
もちろん、国民に嘘がばれなかったからではない。  
夕方の放送は、真実を語っていた。  
だが、全てを語っていたわけではなかったのだ。  

「知恵が回る奴は直ぐに気がつくだろうな」  
「そうでしょうな。その前に次の手を打たないといけません」  

統幕長の言葉に鈴木が頷いた。  
そして今までこの会議で最も立場の低い、そう、代理で来ている文部科学省の男よりも立場の低い男が口を開いた。  
彼は、全国農業共同組合連合会から来ている男だった。  
誰もが成果を誇らしげに報告するこの会議の場で、決して彼の責任ではない事で日々言い訳を言わされている男だった。  
ちなみに、空気に耐えかねた前任者たちのおかげで、会議発足から一年と経っていないのに、16代目連絡員だった。  

「先ほど報告が入りました。  
地質調査チームを中心とする第一次調査班は、舞鶴港を出たそうです。  
機材、肥料などを満載した第二次調査班も現在準備を整えています」  
「うん、護衛に関しては陸上自衛隊に任せてくれ。  
成分的に安全が確認され次第、直ぐに入植を始めないといけない。期待しているよ」  
「お任せ下さい。  
アメリカ並みの広大な農場を建設してご覧に入れます」  

今まで農業活性化を唱えていたばかりに組織内で閑職に回されていた彼は、充実感で一杯だった。  
かつて彼は、良くて同情、大抵の場合には侮蔑の表情で見られていた。  
JAや農林水産庁で、政府主導による国産農作物の大々的な増産を唱えるという事は、そういう事だった。  
今は違う。  
誰もが彼の事を気まずそうに見る、眩しそうに見る。  
今まで飲み屋で彼と意見を共にしていた若手たちは、喜んで彼の後ろを付き従っていた。  
そしてそれを疎ましく思った上層部は、彼を救国防衛会議に送り込んだ。  
持つのは一週間か、二週間か?  
上層部の人間は楽しみにその日を待っていた。  
全ては裏目に出た。  
彼は精神も体も病まずに帰ってきた。  
武装した自衛隊員を連れて。  
  
「貴方方では日本は救えない。  
これは私の意見でもあり、救国防衛会議の決定でもあります」  

彼は楽しそうにそう語り、上層部全ての者の地位の保持を交換条件として、物理的に不可能でない限り彼の提案を受け入れさせた。  
責任はいらない、だが権限は貰う。  
そういう事だった。  
責任無き権限、それは実に魅力的なものだった。  
その日から、彼の春は始まった。  

「当たり前の事だが、言ったからにはやってもらうぞ」  

回想に耽った彼を、統幕長の言葉が現実へと引き戻した。  

「もちろんです閣下。我々にご期待下さい」  

「さて、ところで食料はどうなっている?」  
「何も言わないでも彼らは出してくれますが、まだまだ足りませんな。  
回収部隊の方はそれなりに成果を上げていますが、もう一頑張りが必要なようです」  

当然の事ながら、自衛隊は食料の強制徴収など行っていなかった。  
ただ装甲車輌とトラックの集団で、支配者が変わった事を伝えて回っただけである。  
一個機械化歩兵中隊と、一個大隊を乗せられるだけの空のトラック部隊は、各地の村で食料を積載しつつ、大陸東部を走り回った。  
衛星写真と航空偵察のおかげで、この大陸の通行できそうな地域はわかっていた。  
そして、その地域の範囲内にいくつもの街があることも。農地があることも。  
だが、それだけではなかった。  
殲滅した敵軍の食料庫。  
そこには大量の備蓄物資があった。  
もう食べる者がいない以上、回収してよろしいですね?  
偶発戦闘を終えた現地部隊からの報告に、救国防衛会議は狂喜した。  
かくして、首都制圧部隊は治安の回復もそこそこに、行ける範囲の敵軍に対する全面攻勢を開始した。  
現地住民に可能な限り恨まれず、かつ敵軍の戦力を減少させ、食料を手に入れるための全面攻勢を。  



西暦2020年2月14日  23:40  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

あぁやっぱりね。  
負傷者を満載した車輌部隊が逃げ込んでくるのを監視塔から眺めつつ、佐藤は内心で呟いた。  
悪霊だの魔法だの、上層部が真に受けてくれるわけがなかったが、だからとは言っても、その結果を見るのは辛かった。  

「受け入れを急がせろ。  
それと、本土に緊急連絡、救国防衛会議の誰かが出るまで呼び出し続けろ」  
「一尉?」  

三曹が怪訝そうに見る。  
今日の睡眠は恐らく潰れるというのに、佐藤の声には奇妙なまでの力があった。  

「もう我慢の限界だ。  
これ以上無駄な犠牲を払うわけにはいかない。  
上の連中に現地の状況と敵への対抗手段を認めさせて、何が何でもあそこに展開するぞ」  

父親譲りの固い決意を抱いて、彼は無線機を手に取った。  
彼の要請は速やかに救国防衛会議へと伝えられ、そして意外な事にあっさりと通った。  
二時間後には彼の部隊は石油採掘拠点へと到着しており、ダークエルフの魔術師たちと共に鎮圧を開始していた。  


「撃てぇ!」  

最新兵器と魔法の組み合わせは、自衛隊の前に立ちふさがる全てを打倒した。  
号令と共に発砲される銃弾は肉体を持った敵を粉砕し、空を飛び回る悪霊に対してはダークエルフたちの魔法が放たれた。  
戦術というものから程遠いところにいる敵軍は、文字通りあっという間に粉砕された。  
ただ一体を除いて。  

「撃て撃て撃て撃てぇ!連中に我々の血の重さを思い知らせてやれ!!」  

大声で叫びつつ佐藤は最前線を突き進み、必死にその脇を駆け抜ける三曹が周囲に目を光らせる。  

<管理棟正面です!敵の抵抗激しく殉職多数!増援を!!>  

無線機から悲鳴が流れ出る。  
すぐさま佐藤は部下たちを率い、そこへと向かった。  
既に周囲には敵の姿などない。  

「一尉!助けてください!」  
  
今まで何故か敵を寄せ付けなかった管理棟前には、無数の死体と骸骨が合わさって出来た醜悪な化け物がいた。  
垂れ下がった片腕から血を流した陸士長が悲鳴を上げ、直後に飛んできた頭蓋骨によって絶命する。  

「なんだ、なんだありゃあ」  

誰かが漏らした呟きが、一同の内心を代弁していた。  
その巨大な化け物は、管理棟の二階まで届こうかという巨大な物だった。  
小銃弾程度では歯が立たない。  

「撃てぇ!」  

それでも佐藤は命令を下した。  
こんなものを見て、何もしなければ精神が狂ってしまう。  
彼の意見に同調するところ大だった部下たちは、言われるまでもなく発砲を開始した。  
嫌な音を立てて銃弾を受け取る化け物。  
それの返答は、人体のパーツだった。  
小銃を握り締めた手が、恐怖に歪んだ頭部が、半長靴を履いたままの足が、勢い良く飛び出し、数名の陸士を殺傷する。  

「あれは、あれは」  

恐怖に歪んだ声を出したシルフィーヌが、飛来する死体を気にせず叫んだ。  

「逃げて!あれはゾンビロードよ!!」  

「ぞんびろーど?」  

彼女を物陰へと引っ張り込みつつ佐藤は訪ねた。  

「ただのゾンビとは違うのか?」  
「全然違います」  

怯えた表情のまま彼女は答えた。  

「ゾンビロードは、怨念が凝り固まって出来た化け物です。  
あれに殺された人間は、いずれあれの体の一部となります。つまり」  
「時間が経てば経つほどに、強く、巨大になってくるわけか」  

その証拠に、殉職した自衛官たちの死体が、何かに吹き飛ばされたかのような勢いでゾンビロードの肉体に飛び込んでいく。  
正面装甲は二割増しかな。  
頭の中の、どこか冷静な部分で佐藤はそう考えた。  
もちろん体は悲鳴を上げつつ、小銃を連射している。  

「ききませんっ!一尉!伏せてください!!」  

三曹が必死に佐藤を瓦礫の影へと引っ張る。  
他の陸士たちも彼を引っ張り、そして佐藤が瓦礫の影に身を隠すと同時に、コンクリートに人体が激突、湿った音を立てて潰れた。  



西暦2020年2月15日  02:05  ゴルソン大陸  石油採掘拠点  

戦闘はこう着状態だった。  
瓦礫や建物の影に身を潜めた自衛隊隊員たちに、その後殉職者は出ていなかった。  
だが、残り一体になった敵は、元気良く攻撃を続けていた。  

「畜生、なんとかならんのか」  

物陰に身を潜めたまま、佐藤は忌々しそうに呟いた。  
自家発電装置によって照明が途切れていない無人の管理棟に照らし出された敵は、声のようなものを上げつつ攻撃を続行している。  
と、唐突に照明が消えた。  
誰も燃料を補給しなかったために、遂に発電機が止まったのだろう。  
草木も眠る丑三つ時。  
だが、目の前に化け物がいる以上、幽霊に怯える必要はない。  
とはいえ、幽霊にはそんな事は関係なかった。  

「いちいっ!」  

三曹が可愛らしい叫び声を出す。  
指差す方を見ると、管理棟の窓という窓に人影がある。  
一階から三階まで、全ての窓に自衛隊員らしい人影があり、不思議な事に、敵はそのことに気づいていないようだった。  

「誰だ?どこの部隊だ?」  

佐藤は部隊の特定を試みた。  
しかし、管理棟内にいる隊員たちは、一言も発さず、そしてうつむいているために顔もわからない。  


「誰なんだあいつらは」  

佐藤が呟いた途端、状況は動いた。  
うつむいていた自衛官たちは、一斉に窓を『すり抜け』、化け物へと取り付いた。  
髑髏を投げ捨て、死体を引き剥がす。  
突然襲い掛かられた化け物は、死体の集合体である腕を振り回してそれを追い払おうとするが、幽霊に物理攻撃は通じない。  
必死の抵抗も空しく、化け物は徐々に形状を変化させた。  

「一尉!見てください!!」  

胴体を強制的に解体されているゾンビロードの、その胸の中に一つの腐った死体があった。  
生前はさぞかし良い暮らしをしていたのだろう。  
腐った肉や血液に犯されてもなお仕立ての良さを感じさせる服装。  
頭部が特に破損しているが、とにかく肉つきの良い体。  
佐藤は知らなかったが、それは打倒されたはずの圧制と貧困の原因、連合王国国王だった。  
それを見た彼は、誰に言われるまでもなく理解し、そして命令した。  

「撃てぇ!真ん中の奴だ!!!」  

彼の命令に、部下たちは従った。  




・・・そして戦闘が終わったとき、彼らは目にしたのです。  
自分たちを助けてくれた英霊たちが、空へと登っていくのを。  
かくして英霊は去り、日本と民主主義は守られました。  
建物へと入った彼らは、直ぐに理解しました。  
建物の中に作られた、護国神社。  
それは内側から破裂したように壊れていました。  
まるで、無数の普通科隊員が飛び出したかのように・・・  

皆さんもゴルソン大陸で窮地に陥った時には、この地に散った英霊の事を呼んでみてください。  
ひょっとしたら、もしかしたら、英霊が、あなたの事を助けてくれるかもしれません。  


ゴルソン大陸冒険ガイド  P241  自衛隊の目撃した神秘その33より抜粋  

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