自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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某年 某月某日 日曜日

 目が覚めたら、夜が明けていた。昨日頭を使わなかったせいか、5時前まで寝ていたようだ。
急いで顔を洗って井上食堂に駆けつけたが、先客の顔を見る事になってしまった。
食材は持ち込みだし食事の量や質に差が出る訳ではないのだが、何となく悔しい思いがする。

 出社して資料室への入室手続きをしていたら、記入欄のすぐ上に知った名前を見つけた。
また先客がいるらしいと思って特別資料室に入ると、確かに入江が座っていた。
涼しい顔をしてペンを走らせている。そして、その手許には「魔法場の統一理論」があった。
話を聞くと、偵察用機材に使う新しいプログラムを任されたので、その参考にするのだという。
仕方が無いので関係ありそうな開発資料などを読んで本が空くのを待つ事になった。

 1時間後、やっと「魔法場の統一理論」に向かう。
一緒に読んでいた開発資料の欄外に書き込み。特徴的で見覚えのある、微妙に縦長の文字。清水の筆跡だ。
奴の専門は回路の設計だったから、本に纏まる前の統一理論を研究していたのかもしれない。
書き込みの内容が統一理論の理解を助けてくれた。天上の清水に感謝する。

 昼食は林亭で。入江も一緒だった。先週の日曜日にも入江に貸しを作っているので
一品奢ってもらう事にした。しかし後で言われたのが「出張手当が入ったら、お返しに2品ほど宜しく」の一言。
何か言い返そうかとも思ったのだが、あの場で反論していたら大人気無かったろう。何も言えなかった。
 午後からは入江がそのままプログラミングに入り、松本先輩も会社に現れたので電力が不足した。
そのため送電量を増やしてもらったが、手続きに1時間近くかかってしまった。

 勉強が進むにつれ、魔法場というものが何となく理解できそうな物に思えてきた。
魔法を使う者にしか理解できないであろう事柄もあるが、魔法を使えば周辺に様々な影響が出る事は確かだ。
 センサに使われているという、魔石の特徴というのも何となく掴めてきた。水晶に近い特性を持っていて
圧力や振動ではなく、魔法の影響を受けると電流を発生するようなのだ。開発中の魔法センサはおそらく、
影響を受ける魔法によって魔石の挙動が違うという特性を利用しているのだろう。
 本来の使用方法は魔力を封じ込めておいて、様々な魔法の力を増幅させるというものらしい。
生成には高温高圧と長い時間と継続した魔力が必要で、人工的に合成するには厳しい条件が
揃っているようだ。水晶に似た鉱物だというから、圧力容器に魔力を送り込む事で合成できそうな気も
するのだが、自分が思いつく位なのだから、技本の誰かが思いつかない筈が無い。
おそらくそう簡単にはいかないのだろう。あるいは今頃、合成の実験でもやっているのかもしれない。


某年 某月某日 月曜日

 今日の仕事はプログラミングの手伝いだった。昨日、入江が話していたプログラムらしい。
PC上の仮想環境で動かしてみる。魔法による影響を想定した外乱を送り込むと、動作が一瞬乱れた。
引き続いて他の外乱を加えると、動作が停止して「装置の不具合発生により任務に遅延発生」と判定された。
この状態から外乱に強いプログラムに練り上げていくのだという。

 自衛隊撮影による、敵の策源地攻撃の映像が公開されていた。公開されたのは金曜日だ。
センサ試験の後片付けでニュースも見れず、その後もばたばたしていたので気付くのが遅れてしまったようだ。

 滑走路へ進んでいく迷彩模様の機体。RF-4EJが飛び立っていった。画面が切り替わった。
航空写真が映り、拡大される。森の中に開けた場所があった。草葺き屋根らしい円形が数十戸。

 空に星が輝き、暗い森の中を進む自衛隊員たち。草が激しく擦れる音がして、急に映像が横へ流れた。
カメラの動きが収まり、映し出されたのは顔に迷彩を施した隊員と、その足元で粗末な服を着て横たわる
欧米風の顔をした男。敵の歩哨だろうか、傍らには鈍く光る刀が落ちていた。映像が切り替わり、
柵で囲まれた広場のような場所が映し出された。奥には建物も見える。これが敵の策源地らしい。

 空が白み始めている。そこへ力強く空気を叩く音が響いた。AH-64DJ改の登場だ。
空からの映像に切り替わった。白黒画面でやや粗い映像だが、むしろそれが新鮮に思えた。
ロケット弾が打ち込まれ、建物が白い光に包まれる。音に驚いて飛び出してきたらしい不運な奴が
30mm機関砲を浴びて、それほど明るくもない飛沫になった。勇敢にも、弓矢と思われるもので
応戦しようとする敵がいた。数秒後、それは原形を留めていなかった。ヘリからの射撃は止まったが
空からの目で見る限り、敵兵は次々と倒れていく。どうやら地上の部隊から射撃が行なわれているらしい。
木製らしい柵は、既に銃撃でバラバラになっているようだ。あちこちで薄明るい飛沫が飛び散っている。
こういうのはあまり鮮明な映像では見たくない気がする。

 森の中へ逃げ込もうとした敵には周辺警戒を行なう自衛隊員からの銃撃が待っている。
木の陰に隠れて、周囲の様子を窺う隊員たち。周り中から断続的に発砲音が聞こえてくる。
遠くから誰かが画面に向かってきた。画面横に棒状のものが見え、破裂音と共に彼は地面に転がった。
戦闘帽にものものしい装備を装着した隊員が何かに気付き、合図をした。
それを受けて樹の上に向けて銃撃が行なわれると、湿った音を立てて大きな物体が落下した。
 ヘリの音が遠ざかって行きカメラが向きを変えると、突入する隊員たちの姿が映った。
軽機関銃のものと思われる発砲音も聞こえる。ヘリからの映像で見た射撃の主はこれだったのだろうか。

 日が昇り始めた頃、カメラは焼け残った建物に踏み込んだ。後に敵の武器庫と判明した建物だそうだ。
映し出されたのは、投石器だったと思われる大きな消し炭。近くには焼けた岩も幾つか転がっていた。

 今回の映像は少し生々しかった。再生する前に確認画面が出たのも無理はない。
テレビでは戦闘時の映像は流さず、ショッキングな映像が含まれる旨も告知されていたようだ。
 この作戦で殺害した敵の数は386名。これは意外と少ないらしい。前回討ち漏らしたと見られる負傷者もいた。
たぶん敵方は前回の戦闘で、かなり消耗していたのだろう。そして態勢が整う前に殲滅されたと思われる。
我が方にも負傷者が出ている。木の上に潜む敵に襲われて、隊員2名が重傷を負ったそうだ。
死者が出なかったのは幸いだった。負傷した隊員も、治療すれば現役復帰できる程度の怪我で済んだらしい。

 まあ何にせよこの戦果なら、今後の交渉も非常に有利に進むだろう。
上手くすれば、緩衝地帯の森の向こうに広がる草原を手に入れられるかもしれない。
そうなれば適性作物の調査を行なって、来年か再来年には大陸からの食料が増えて、国内での
食料価格も安定する事になるだろう。ついでに鶏肉の値段も少しは下がってくれると嬉しいのだが。


某年 某月某日 火曜日

 以前提案した、グライダーによる移動計測試験を行なう事が決定した。
この案の他には、センサを馬に乗せて走らせて計測する試験や、ロケットで加速した後に小型の
木製グライダーを分離させる計測試験などが採用されたそうだ。試験の日程などは追って通達が来るとの事。
 こうやって見ると、馬に乗せる方法は60km/h以下、羽布グライダーはおそらく300km/h以下、そして
ロケットで加速するグライダーはそれ以上の速度で試験を行なえる。たぶん速度の違う3種類の方法を
比較するという意味合いがあるのだろう。
なお、会社で提案した空挺投下による試験は引き続き検討を続ける事になったそうだ。

 で、試験を行なう予定の場所というのが……矢臼別演習場。北海道だ。
確かに、周囲に人工物が無くて平坦な地面がある環境など、なかなか国内にあるものではない。
東富士演習場も候補に挙がったらしいが、機密保持の観点から矢臼別演習場に決定したそうだ。
 という事は、である。近いうちに北海道に出張という事になるのだろうか。
この試験は自分が言いだしっぺなのだから、やはり自分が参加することは確実なのだろう。
北海道まで船を使って1日ちょっと。試験に5日間。帰りは親潮に乗って1日弱。丸1週間は
見ておかねばなるまい。ひょっとして東京で過ごしている時間の方が短いんじゃないか?

 夕方のニュース、太平洋を航行中の自衛艦「しんげつ」が外国船を拿捕した。
試験運用を兼ねて周辺警戒中だった新型艦載ヘリ「SH-60L」が、不審な航跡を発見したため接近した所
弓矢および火球魔法による攻撃を受けた。この攻撃による損害は無く、これを受けて「SH-60L」は
直ちに搭載機銃による反撃を開始。敵方に死傷者を出した。この際、海上に数名が落下するところを
ヘリの搭乗員が目撃したそうだ。その後「しんげつ」乗員が乗り移って船内を制圧、乗員を拘束した。
当該船舶は「しんげつ」に曳航されて最寄の沖縄基地に向かっているそうだ。

 当該船舶は黒潮に乗っており、拿捕されていなければ2日程度で九州から四国、3日から4日もあれば
房総半島の沿岸部まで到達していた可能性があったらしい。
 当該船舶に搭乗していたと思われる魔法の術者は行方不明。周辺の捜索が行なわれたが、
海上にそれらしきものは確認されなかったという。たぶん溺れて海中に沈んだかしたのだろう。
しかし国内に潜入する可能性も捨てきれないため、警察や自衛隊は警戒態勢を強化したそうだ。

 このところ外国船に関するニュースが多いような気がする。
「毛の無くなった毛生えクッシー」に関する情報はすっかり影を潜めてしまった。まあ、話題の主が
姿を消してしまったので仕方の無い事ではあるのだが。今頃、釧路の商店街はどうなっているのやら。


某年 某月某日 水曜日

 4時前に起床、5時に朝食。このところ雨続きで、夜明け空が見えない。
もう梅雨入りなのだろうか。天気予報の精度はまだ高くない。気象衛星の6機体制が整うのはまだ先の話だ。

 入江の作ったプログラムは、ひとまず形になったそうだ。
そんな訳で、それを実装した機材の試験に取り掛かった。かなり大掛かりな機材で、試験項目も多い。
今日だけでは終わらせることが出来ず、明日に持ち越しとなった。今のところ動作に問題は無さそうではある。
しかし明日は外乱を大きくした状態での試験だ。泉さん謹製の外乱てんこ盛りに、どこまで耐えられるやら。

 昼過ぎに技本から車が来ていた。何か会議が行なわれていたが、自分には何の通達も無かった。
矢臼別での試験に関するものではなかったという事なのだろうか。初夏とは言え、北海道は寒そうだ。
まだ東京の気候に慣れ始めたばかりの自分にしてみると、出来れば夏になってからとかにして欲しい。
まあもうすぐ梅雨だからその間じめじめしない北海道で過ごすのも悪くない、という気もしないではないのだが。

 高校の元同級生で、神主の伊東が夕方のニュースで紹介されていた。
毎年、神社の畑で収穫した野菜を氏子たちに分け与えているそうだ。インタビューに答える顔は
幸せそうというか、妙に微笑んでいた。どうもあの手の表情は好きじゃない。なんとなく、後ろにある
感情や考えを隠しているような気がしてしまう。単に自分が宗教嫌いだという事もあるのかもしれないが。

 得体の知れない怪物が、かつてフィリピンがあった辺りに存在するドンゴワナ諸島付近の海上に
出没しており、退治するために護衛艦2隻が出動したそうだ。あわよくば捕獲して持ち帰るために、
「第6図南丸」と「第170日東丸」が同行しているという。怪物退治のために自衛隊が出動するという事案は
年に数回あるが、その度に巨大な烏賊や蛸だったり、凶暴な鯨や海竜だったり、様々な怪物が現れる。
 今回の出動は友好関係にある現地住民の要望を受けてのもので、現地住民の証言によると
なんとも気味の悪い怪物だとの事。現地の言葉では「プス・サイギツム」と呼ばれているそうだ。
いったい、どんな化け物が出てくるのやら。まさか「毛の無くなった毛生えクッシー」じゃないだろうな……

 ネットサーフィンしていたら、さっそく「プス・サイギツム」の正体についての様々な考察が飛び交っていた。
海竜派と巨大軟体動物派が真っ向から対立して、賑やかな事この上ない。
やっぱり皆、ナマモノ話が大好きである。これから察するに毛生えクッシー騒動の時はどんな状態だったか、
大方の見当がつく。気になる人にはちょっと見せたくないものだったろう。
30分程度だったが、楽しませてもらった。19時を回ったので切り上げて、日記を書いて寝る事にする。


某年 某月某日 木曜日

 昨日に引き続き試験を行なう。プログラムの練り直しとなりそうだ。
入江に結果を伝え、データを渡した。午後からは部内会議があった。

 18時、薄暮の公園へ風呂上りの散歩に出かけた。梅雨に入る前の貴重な晴れ間だと考えたからだ。
それにその公園にいれば周囲は自然な光景で、落ち着いて過ごせるという事もあった。
自転車を自宅に置いて公園を散歩していると、外人が通りかかった。会釈してすれ違おうとしたのだが、
その見覚えのある外人に話しかけられた。だから足を止めて話を聞こうとした。

 彼は近所で見かける、在日ドイツ人のはずだった。その彼が突然、異様な気配を漂わせ始めた。
あの気配には覚えがある。九州にいた頃にすれ違い、そして10日ほど前の日曜日にも見かけた奴だ。
もう一度その顔を見ると、そいつは違う顔をしていた。目つきも、口元も、顔の輪郭も、そして髪の色も。
自分が何か叫んだかは覚えていない。公安が5~6人駆けつけてきて、そいつの周りを取り囲んだ。

 そいつは不敵な笑みを浮かべて言った。
「我が名はジャック・キール・ブラウン。以後、お見知り置きを……もしも可能であるならば」
次の瞬間、その姿が突然消えた。向こう側でそいつを取り囲んでいた公安が一人、宙を舞った。
あれはおそらく隠蔽魔法だろう。姿を隠しておいて、囲みを破ったに違いない。

 その後は大騒ぎだった。人通りも落ち着き始めた時間帯で、一般人には気付かれていなかっただろうが
静かな公園と住宅地が緊張した雰囲気に包まれていた。発砲音や叫び声こそ聞こえなかったが、
車が辺りを走り回ったり公安が盛んに連絡を取り合ったりしていた。

 新島まで付いてきていた公安が自分を家まで送ってくれた。
その際、部屋で幾つか状況を聞かれた。出来るだけ正確に答えたつもりだが、どこまで正確に伝わったか
自信が持てない。その後で、明日はいつも通りに出勤するように、と言われた。
 むろん今日の騒ぎについては口外無用である。そして何かあった時にはここに連絡するように、と
電話番号とメールアドレスを書いた紙を渡されたので、携帯端末に登録しておいた。

 あの異世界の男は一般人になりすまして潜伏していたのだろうか。
しかし、だとしたら何故あの男に一般在留許可が出されていたのだろうか。パスポートの提示や
大使館の記録との照合、身辺調査も行なわれるから、怪しい人物はそこで引っ掛かったはずである。
ひょっとして、許可された人物と入れ替わったりでもしたのだろうか。だとしたら、本来許可された人物は
どこに消えたのだろうか。考え始めるときりがなくなってくる。

 とにかく今は、山本と名乗ったあの公安の言った通りにするしかない。
今の自分にできるのは、深く考え過ぎずに普段どおりの生活を送る事だけなのだろう。

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