白銀御行は研ぎ澄まされたナイフのような男だ。
ストイック、という言葉は彼のためにあるのだろう。国を背負う有力者の子弟のみが通う秀知院学園で、平民であるにも関わらず特待生として通い、生徒会長にまで登りつめている。
しかしながらその目的はある一人の少女と釣り合いのとれる人間になるため、というのだから彼の内面を知らぬ人間――つまりこの世のほぼ全ての人間は彼のことを品行方正でひたすらに努力家な人間、程度の認識だろう。
実際彼は人からそう思われる、そう認識されるに足る努力は払ってきた。芸術や運動に比べて勉強というものはある程度の頭脳の他は意志と覚悟でどうにでもなる。だから彼の最も特異なところといえばそれだけの労力を払える精神性で――
そしてそれはこの殺し合いの場ではある意味最も必要なものであった。
ストイック、という言葉は彼のためにあるのだろう。国を背負う有力者の子弟のみが通う秀知院学園で、平民であるにも関わらず特待生として通い、生徒会長にまで登りつめている。
しかしながらその目的はある一人の少女と釣り合いのとれる人間になるため、というのだから彼の内面を知らぬ人間――つまりこの世のほぼ全ての人間は彼のことを品行方正でひたすらに努力家な人間、程度の認識だろう。
実際彼は人からそう思われる、そう認識されるに足る努力は払ってきた。芸術や運動に比べて勉強というものはある程度の頭脳の他は意志と覚悟でどうにでもなる。だから彼の最も特異なところといえばそれだけの労力を払える精神性で――
そしてそれはこの殺し合いの場ではある意味最も必要なものであった。
白銀が目覚めたのはオフィスビルと思わしき部屋にある椅子の一つであった。覚醒した意識を確かめるように頭を振り立ち上がる。そして見知らぬ室内を一瞥した。
(ドッキリだよな? ドッキリだろ。ドッキリであってくれ!)
そしてアホになっていた。
「……冷静になろう、最初から考え直すんだ。」
少しして普段のテンションを取り戻した白銀は、室内に置いてあったライフルを玩びながら一人呟いていた。
「なるほど、室内には銃器に銃弾。口径も合っているな。それにハサミなどの近接武器に使えそうな文房具もある。殺し合うには申し分ないな。」
カチリカチリと、ライフルの安全装置をいじる。そして次々に武器になりそうなものを目についた鞄へと詰め込んでいく。
そして積み上げた鞄が小山となった頃に、どうやってこれを持ち歩くのかと思い直して。
そして積み上げた鞄が小山となった頃に、どうやってこれを持ち歩くのかと思い直して。
「俺は何と戦おうとしてるんだ。」
ひたすらに動かしていた手を、止めた。
(冷静になれてないな。いやそりゃなれないな。よし、そのことに気づけただけ落ち着いてきた。)
ふっ、と息を吐いて白銀は銃を手に置いた。手の筋肉はひきつったように固かった。胃のむかつきは強い吐き気をもたらしている。ほんの微かな音にも敏感に反応する耳はどこかの足音を捉えていた。
(些細なことにも過敏に反応している。足音なんてどこでも――)
白銀はガチャリと大きな音を立ててライフルを掴み上げた。その音に自分に舌打ちしそうになり、また苛立ちと恐怖が増す。
ここに来てから全く普段の自分ができていない。冷静なつもりで空回りし、考え過ぎてヘマをする。こんな姿を生徒会のメンバーに見られたらどうなるか。
ここに来てから全く普段の自分ができていない。冷静なつもりで空回りし、考え過ぎてヘマをする。こんな姿を生徒会のメンバーに見られたらどうなるか。
(なんで今石上の顔が浮かんだんだろう。)
なんか生暖かい目を向けてきた生徒会会計の姿が出てきた。これはいったいどういうことであろうか。
そこでハッと気づく。
そこでハッと気づく。
(なんで俺だけがここにいると思ってた!)
頭に生徒会の人間が浮かんでようやくその考えに行き着いた。いやその考えをしたくなかったからか。この殺し合いに生徒会や同じ秀知院の人間、それに家族が巻き込まれている可能性が全く抜けていた。
そしてそうこうしているうちに扉が開いた。足音の主はなんの因果かこの部屋へと足を踏み入れた。
そしてそうこうしているうちに扉が開いた。足音の主はなんの因果かこの部屋へと足を踏み入れた。
「うおおっ!?」
「危なぁっ!?」
「危なぁっ!?」
ライフル弾がバラ撒かれる。部屋の中の物が無茶苦茶に撃ち抜かれる。
それが白銀御行と関織子ことおっこの出会いだった。
それが白銀御行と関織子ことおっこの出会いだった。
「本当に申し訳無かった。なんと謝ればいいのか……」
「顔を上げてください、ええっと……」
「白銀御行だ。秀知院学園で生徒会長をしている。もちろんこんな殺し合いには乗っていない。」
「あ、関織子です。花の湯温泉の春の屋っていう温泉旅館で若おかみをしています。おっこって呼んでください。」
「いや関さんとてもじゃないがそんな。」
「いやもう逆におっこでお願いします。」
「それじゃあとてもじゃないが申し訳無い。まさかあんな愚行をしてしまうとは……本当に許してくれ! なんでもするから!」
「そんなこと言われても……ん、今何でもするって言いましたよね?」
「え、それは……」
「じゃあおっこって呼んでくださいね。」
「顔を上げてください、ええっと……」
「白銀御行だ。秀知院学園で生徒会長をしている。もちろんこんな殺し合いには乗っていない。」
「あ、関織子です。花の湯温泉の春の屋っていう温泉旅館で若おかみをしています。おっこって呼んでください。」
「いや関さんとてもじゃないがそんな。」
「いやもう逆におっこでお願いします。」
「それじゃあとてもじゃないが申し訳無い。まさかあんな愚行をしてしまうとは……本当に許してくれ! なんでもするから!」
「そんなこと言われても……ん、今何でもするって言いましたよね?」
「え、それは……」
「じゃあおっこって呼んでくださいね。」
和服を着た少女、おっこにそう言われて白銀は押し黙る。
銃を乱射してしまった身でその被害者をあだ名で呼ぶなどあってはならないことだが、その本人に言われればしかたがない。
すさまじく申し訳無さそうな顔で「おっこ、ちゃん」と弱々しく言うと、少女はニッコリと笑って「はい!」と言った。
銃を乱射してしまった身でその被害者をあだ名で呼ぶなどあってはならないことだが、その本人に言われればしかたがない。
すさまじく申し訳無さそうな顔で「おっこ、ちゃん」と弱々しく言うと、少女はニッコリと笑って「はい!」と言った。
「あたしは気がついたら隣のビルに居たんですけど、ここってどこでしょうか。それに殺し合いって……」
「ああ、まだ信じられないが。これを見てほしい。」
「すごいお荷物ですね。どこかご旅行の途中でしたか?」
「いや、ここで集めた。」
「えっ! まだ始まって五分ですよ!」
「五分? まだそれしか……じゃあ、関さん、おっこちゃんは随分早く動いたんだな。」
「うーん、知らない人のビルに入ってちゃみたいなんで慌てて出てきて、窓から白銀さんが見えたんで話を聞いてみようと思っただけなんで。あ、ノックもなく入ってすみませんでした。」
「いや、気がついたらここにいたのは一緒だ。」
「そうなんですか……困りましたね。こういう時は警察に連絡していいんでしょうか?」
「たぶん、警察はいないだろうがな……」
「ああ、まだ信じられないが。これを見てほしい。」
「すごいお荷物ですね。どこかご旅行の途中でしたか?」
「いや、ここで集めた。」
「えっ! まだ始まって五分ですよ!」
「五分? まだそれしか……じゃあ、関さん、おっこちゃんは随分早く動いたんだな。」
「うーん、知らない人のビルに入ってちゃみたいなんで慌てて出てきて、窓から白銀さんが見えたんで話を聞いてみようと思っただけなんで。あ、ノックもなく入ってすみませんでした。」
「いや、気がついたらここにいたのは一緒だ。」
「そうなんですか……困りましたね。こういう時は警察に連絡していいんでしょうか?」
「たぶん、警察はいないだろうがな……」
白銀の言葉に頭の上にはてなマークを浮かべつつ、おっこは受話器をとる。
1・1・0と押された番号は呼び出し音がなれど、取る人間はいなかった。
1・1・0と押された番号は呼び出し音がなれど、取る人間はいなかった。
「留守なのかな……? 白銀さん、警察の番号って110ですよね?」
「電話線を切られている、いや、それなら呼び出し音は鳴らないか。つまり。」
「つまり?」
「つまり、この会場に警察はいない。」
「電話線を切られている、いや、それなら呼び出し音は鳴らないか。つまり。」
「つまり?」
「つまり、この会場に警察はいない。」
このビルに置いてあるものは武器を除けば日本で手に入るものばかりだ。つまりこの殺し合いの主催者は国家権力をも超越した存在であると言える。
「それどころか、犯人は現実では考えられない、超常的な存在のようだ。おっこちゃん、さっきの光景を思い出せるかな?」
「それは――あれ?」
「だろ? たぶん、あのツノウサギっていう喋るウサギのことは覚えていると思う。でも。」
「おかしいわ……『誰かに襲われてたのにその誰かが思い出せない』……ううん、あたし、あそこで誰かと話してたんだと思う。でもその『誰かも話していたことも思い出せない』……!」
「だろう? 薬物か何かの影響かと思ったが、それにしては明瞭な部分とそうでない部分の落差が大きすぎる。まるで魔法でも使われたみたいだ。」
「それは――あれ?」
「だろ? たぶん、あのツノウサギっていう喋るウサギのことは覚えていると思う。でも。」
「おかしいわ……『誰かに襲われてたのにその誰かが思い出せない』……ううん、あたし、あそこで誰かと話してたんだと思う。でもその『誰かも話していたことも思い出せない』……!」
「だろう? 薬物か何かの影響かと思ったが、それにしては明瞭な部分とそうでない部分の落差が大きすぎる。まるで魔法でも使われたみたいだ。」
そうおっこに話す白銀は、いつの間にか普段の冷静さを取り戻していた。
誰かに向かって自分の考えを伝えるということは余計なことから思考を逸らす。そしておっこが持つ雰囲気と彼女が振ってくる話題が彼のアウトプットを正常化させていた。
誰かに向かって自分の考えを伝えるということは余計なことから思考を逸らす。そしておっこが持つ雰囲気と彼女が振ってくる話題が彼のアウトプットを正常化させていた。
「ひとまずもう一度落ち着いて話し合おう。嫌なことを言うけれど、知り合いが巻き込まれているかもしれないからね。」
「そうですね。あたしの知り合いは――」
「そうですね。あたしの知り合いは――」
二人は手近な椅子に座ると遅まきながら自己紹介と知り合いの情報交換を始める。
白銀御行の灰色の頭脳はゆっくりとしかし確実に回り始めた。
白銀御行の灰色の頭脳はゆっくりとしかし確実に回り始めた。
【0000過ぎちょい 都市部にあるビルの一室】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
状況を把握する
●小目標
おっこちゃんと話す
【目標】
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●小目標
おっこちゃんと話す
【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
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●小目標
白銀さんと話す
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白銀さんと話す