(着心地は良いけど、早くお風呂に入りたいな。)
鬼殺隊の黒衣装に身を包んだ三谷亘は、そう思いながら片腕に手を当てつつ早足で移動していた。
虎と化した李徴に助けられたのはついさっき。いつまた蜘蛛の鬼(姉)が戻ってくるかわからないので急いでいたのだが、チクリと焼けるような痛みを感じて下を向けば、腕の数カ所が僅かに溶けていた。ほんの飛沫程度がかかったほどだろうが、それでも火傷のような傷になっている。もし旅人としての装備でなく普通の服だったのなら、今頃溶けていたのは服ではなく自分だったとゾッとした。
幻界での旅路ではこのぐらいの傷は日常茶飯事だが、だからこそワタルは早く手当てしなければと急ぐ。ちょっとした傷でも、運が悪ければ悪化する。悪化すれば、かかれる病院なんてない。そういった経験が素早い行動をさせていた。
虎と化した李徴に助けられたのはついさっき。いつまた蜘蛛の鬼(姉)が戻ってくるかわからないので急いでいたのだが、チクリと焼けるような痛みを感じて下を向けば、腕の数カ所が僅かに溶けていた。ほんの飛沫程度がかかったほどだろうが、それでも火傷のような傷になっている。もし旅人としての装備でなく普通の服だったのなら、今頃溶けていたのは服ではなく自分だったとゾッとした。
幻界での旅路ではこのぐらいの傷は日常茶飯事だが、だからこそワタルは早く手当てしなければと急ぐ。ちょっとした傷でも、運が悪ければ悪化する。悪化すれば、かかれる病院なんてない。そういった経験が素早い行動をさせていた。
(シャワー? こんなところに?)
溶けた靴に足を取られながらもなんとか数百メートルほど移動したところで繁華街に出た。そこで見つけたのが漫画喫茶である。ワタルたち旅人は幻界でも言葉が通じるように女神より加護を受けているのか、ここでも問題なく文字が読めた。とりあえず入ってみる。当然無人だ。
「使わせてもらいまーす……」
RPGなら都市型のダンジョンと言ったところか。少し抵抗はあるが施設をタダで使わせてもらうことにする。シャンプーはもちろんメリットを選んでひとっ風呂浴び、清潔にした傷口には手当てをしていく。深手ではないがわずらわしい。服もいくらかあったが、肌着だけ着て鬼殺隊の服を引き続いて着ることにした。少し汚れているが、この装備のスペックは実感している。そしてドリンクバーとアイスクリームで一息入れたところで、ふとパソコンに目が行った。
「久しぶりだなあ。点いたり……したっ。」
駄目で元々、電源を入れると、スリープだったのかすぐに立ち上がった。これには驚くが、ネットが使えないなら意味ないかと思い直していくつか動かしてみる。もしこれがネットに繋がっているのなら助けを呼べるのだが、そうは上手くは行かないらしい。極めてシンプルな理由でネットはできなかった。ブラウザのアイコンが無いのだ。
「あれ? これどうやるんだっけ、カッちゃんが前言ってた気もするけど……」
試行錯誤するも、ただの小学生であるワタルには手に余る。幻界での冒険もデジタルリテラシーには寄与しない。飲もうとしたコップが空なのに気づくと、諦めてドリンクバーに立った。
久々に飲むコーラを、ボタンを押して注いでいく。ふと、ワタルは閃いてコップを手にパソコンの前に戻った。そしてアイコンの一つを押す。あきらかにブラウザとは違うのでスルーしていたが、そのマスコットのようなアイコンには見覚えがあった。オープニングにいたツノウサギだ。
はたして、表示されたのは掲示板だった。いわゆる、専ブラである。特定のサイトだけ閲覧できるものだが、ワタルが気になったのは書いてある文面であった。
久々に飲むコーラを、ボタンを押して注いでいく。ふと、ワタルは閃いてコップを手にパソコンの前に戻った。そしてアイコンの一つを押す。あきらかにブラウザとは違うのでスルーしていたが、そのマスコットのようなアイコンには見覚えがあった。オープニングにいたツノウサギだ。
はたして、表示されたのは掲示板だった。いわゆる、専ブラである。特定のサイトだけ閲覧できるものだが、ワタルが気になったのは書いてある文面であった。
1066:やっちゃう名無しさん sage 01:48:47 ???/???
大太刀ハーッ逝ったーっ
大太刀ハーッ逝ったーっ
1067:やっちゃう名無しさん sage 01:49:49 ???/???
弱き者…
弱き者…
1068:やっちゃう名無しさん sage 01:50:00 ???/???
こマ?
こマ?
1069:やっちゃう名無しさん sage 01:50:12 ???/???
超スピード!?
超スピード!?
1070:やっちゃう名無しさん sage 01:50:13 ???/???
賭けたマーダーが全滅したというの? 進行者であるこの私の…
賭けたマーダーが全滅したというの? 進行者であるこの私の…
1071:やっちゃう名無しさん sage 01:50:59 ???/???
1070
ギャンブルが弱ぇ奴なのか…!?
1072:やっちゃう名無しさん sage 01:51:02 ???/???
ふーざーけーるーなー
ふーざーけーるーなー
1073:やっちゃう名無しさん sage 01:51:37 ???/???
糞が
糞が
糞が
あ^〜糞が
糞が
糞が
糞が
あ^〜糞が
1074:やっちゃう名無しさん sage 01:51:58 ???/???
やってしまいましたなぁ
やってしまいましたなぁ
1075:やっちゃう名無しさん sage 01:52:01 ???/???
ちくわ大明神
ちくわ大明神
1076:やっちゃう名無しさん sage 01:52:30 ???/???
なんだコイツは
人が話している途中に
なんだコイツは
人が話している途中に
1077:やっちゃう名無しさん sage 01:52:56 ???/???
大場大翔殺す
大場大翔殺す
1078:やっちゃう名無しさん sage 01:52:57 ???/???
待って待って待って喧嘩しない
待って待って待って喧嘩しない
「なんだこれは……」
そこにあったのはクソみてェな掲示板だった。
書かれている言葉の意味はわからないが、民度が低いことはわかる。
こうはなりたくない。
だが贅沢は言っていられない。彼らに助けを求めても力になってくれそうにないが、幻界のハイランダー達にも連絡が行くかもしれない。とにもかくにも書き込もうとしたところで、しかし打ち込んでいた文字を消して一端ROMる。ネチケットを義務教育で学んでいるのもあって、まずは掲示板の流れを見ようとログを遡っていく。
その中でワタルの目があるレスに止まった。
書かれている言葉の意味はわからないが、民度が低いことはわかる。
こうはなりたくない。
だが贅沢は言っていられない。彼らに助けを求めても力になってくれそうにないが、幻界のハイランダー達にも連絡が行くかもしれない。とにもかくにも書き込もうとしたところで、しかし打ち込んでいた文字を消して一端ROMる。ネチケットを義務教育で学んでいるのもあって、まずは掲示板の流れを見ようとログを遡っていく。
その中でワタルの目があるレスに止まった。
978:やっちゃう名無しさん sage 01:25:34 ???/???
首輪から聞こえる悲鳴、一人称視点での臨場感あるもがき、楽しませてもらっている
頑丈な少年に出会えたことに感謝
首輪から聞こえる悲鳴、一人称視点での臨場感あるもがき、楽しませてもらっている
頑丈な少年に出会えたことに感謝
980:やっちゃう名無しさん sage 01:25:44 ???/???
顔がね…
顔がね…
981:やっちゃう名無しさん sage 01:26:20 ???/???
それはよくない
それはよくない
(これボクのことだ!)
ワタルはハッと首輪に手をやり、ついで口を手で抑えた。
この書き込みにあるワタルというのは他ならぬ自分のことだろう。蜘蛛の鬼(姉)というのも、自分を襲ってきた女の特徴と一致する。
そして首輪から聞こえる悲鳴という文章、これが意味するのは首輪に盗聴器のようなものが仕掛けられているということだろう。なんならカメラも仕込んであるかもしれない。
そしてなによりワタルが戦慄したのは、この掲示板の目的だ。彼らは楽しんでいる。ワタルが、そしてワタルを含めた人達が殺し合わされるのを!
この書き込みにあるワタルというのは他ならぬ自分のことだろう。蜘蛛の鬼(姉)というのも、自分を襲ってきた女の特徴と一致する。
そして首輪から聞こえる悲鳴という文章、これが意味するのは首輪に盗聴器のようなものが仕掛けられているということだろう。なんならカメラも仕込んであるかもしれない。
そしてなによりワタルが戦慄したのは、この掲示板の目的だ。彼らは楽しんでいる。ワタルが、そしてワタルを含めた人達が殺し合わされるのを!
(!? まずい! 今こうして見てるのも彼らに見られているかもしれない!)
蜘蛛の糸に見えたものは、地獄の釜の蓋だった。迂闊に書き込んでいれば、すぐさま見ていたことがバレただろう。なんなら今もう既にバレているかもしれない。
ワタルは慌てて首輪にタオルを巻いた。肩から掛けたままにしていたのが不幸中の幸いか。とりあえずこうしていればカメラはごまかせるかもしれない。だいぶ気休めだが、やらないよりマシだ。
ワタルは恐る恐る掲示板を読み進める。新しいレスがいくつもあるが、ワタルに関することは無い。それが気づかれていないからなのか、それともなにか目的があってなのかわからず、心臓がギリギリと痛む。
少しして蜘蛛の鬼(姉)の書き込みがあったときは本当に心臓が飛び出そうになった。どうやらミモザという少女を襲っているらしい。一方別の場所では蜘蛛の鬼(母)が鈴鬼なる鬼と合流したらしく、その後は蜘蛛の鬼についての書き込みが続いた。
ワタルは慌てて首輪にタオルを巻いた。肩から掛けたままにしていたのが不幸中の幸いか。とりあえずこうしていればカメラはごまかせるかもしれない。だいぶ気休めだが、やらないよりマシだ。
ワタルは恐る恐る掲示板を読み進める。新しいレスがいくつもあるが、ワタルに関することは無い。それが気づかれていないからなのか、それともなにか目的があってなのかわからず、心臓がギリギリと痛む。
少しして蜘蛛の鬼(姉)の書き込みがあったときは本当に心臓が飛び出そうになった。どうやらミモザという少女を襲っているらしい。一方別の場所では蜘蛛の鬼(母)が鈴鬼なる鬼と合流したらしく、その後は蜘蛛の鬼についての書き込みが続いた。
(なんでカッコつけてるんだろう。名前ないのかな。)
読んでいくうちにこの殺し合い進んでいることが実感させられる。既に数十名の脱落者が出ているというが、それはつまり数十名の死者が出ているということだ。殺し合いが始まってまだ2時間もしないのに、あまりに人が死にすぎている。思わず気分が悪くなるワタルだったが、レスが一時的に途絶えたので最初の方の書き込みを確認しようかと考えたところで、視界の端を何かが動くのを捉えた。
慌てて振り返る。目を凝らしてみても何も見つからないが、そこで初めて自分が入り口からすぐの席にいることを思い出した。パソコンは他にもあるだろうと思いついて、席を移動する。どうやらこの漫画喫茶はいくつかのフロアがあるようだ。それが店として大規模なのか否かはわからないが、とりあえず一通り店を調べてから改めて掲示板を調べようと思い直した。
慌てて振り返る。目を凝らしてみても何も見つからないが、そこで初めて自分が入り口からすぐの席にいることを思い出した。パソコンは他にもあるだろうと思いついて、席を移動する。どうやらこの漫画喫茶はいくつかのフロアがあるようだ。それが店として大規模なのか否かはわからないが、とりあえず一通り店を調べてから改めて掲示板を調べようと思い直した。
(これ、エアガンじゃないのか。本物の銃がなんでここに?)
まず気になったのは、今まで無視していた、床に落ちている拳銃やショットガンだ。割と苦労して木刀を手に入れたのに、なんでこんな簡単に銃が手に入るんだ?と思いエアガンだと決めつけていたが、一つ持ってみれば本物だとわかる。ますます洞爺湖と印された木刀の存在意義がわからなくなるが、それはそれとして銃よりも剣のほうが使い慣れているので持っていくのはこちらにする。よく考えてみれば銃など使い方もわからなければ撃ったこともないのだ。それよりはまだわかりやすい武器だ。それにこの木刀、不思議と頼りになる気がする。もしかしたら何か特別な木刀なのかもしれない。
その後も床に落ちるライフルなどを避けつつ、フロアを探索する。ひとまず人影は見当たらない。次は上のフロアをと思い、非常階段で行くことにした。いないとは思うが、待ち伏せを警戒して一応用心はする。
扉を開けると、無骨な鉄階段だった。足音が響きそうだなと思うが、靴をスリッパに履き替えているので大丈夫かなと思い直す。もっといい靴を探さないとと考えながら一歩足を踏み出して、ワタルは無意識に視線を彷徨わせていた景色の中に人影を見つけた。
その後も床に落ちるライフルなどを避けつつ、フロアを探索する。ひとまず人影は見当たらない。次は上のフロアをと思い、非常階段で行くことにした。いないとは思うが、待ち伏せを警戒して一応用心はする。
扉を開けると、無骨な鉄階段だった。足音が響きそうだなと思うが、靴をスリッパに履き替えているので大丈夫かなと思い直す。もっといい靴を探さないとと考えながら一歩足を踏み出して、ワタルは無意識に視線を彷徨わせていた景色の中に人影を見つけた。
かける言葉が見つからなかった。
居想直矢は、灰原哀を連れて近くの公園に来ていた。あの酒場での惨劇の後、死体に囲まれていた2人。直矢は逃げるようにその場を離れた。
彼にできることはそのぐらいだった。たかが心を読める程度の能力では、子供が子供を殺す異常事態など、対処のしようがなかった。最低限、逃げなければという意識だけがあり、しかし誰かに助けを求めるのは怖く、だが誰にも頼れなのも怖い。
恐怖と、それを上回る混乱と困惑が、直矢の足を動かしていた。
居想直矢は、灰原哀を連れて近くの公園に来ていた。あの酒場での惨劇の後、死体に囲まれていた2人。直矢は逃げるようにその場を離れた。
彼にできることはそのぐらいだった。たかが心を読める程度の能力では、子供が子供を殺す異常事態など、対処のしようがなかった。最低限、逃げなければという意識だけがあり、しかし誰かに助けを求めるのは怖く、だが誰にも頼れなのも怖い。
恐怖と、それを上回る混乱と困惑が、直矢の足を動かしていた。
「ハァ……ハァ……おえ……」
「大丈夫か……」
「大丈夫か……」
哀が嘔吐く声を聞いて、彼は自分の周りの景色が変わっているのを自覚した。これまでのことが夢の中のことのように、現実感がまるで無い。いちおう自分がこれまで歩いてきたことはわかるが、どうやってここまで来たか、元の場所に戻るにはどうすればいいかはまるでわからない。
「公園で休もう。」
目についたものから、とりあえず目的地を決めた。頭がうまく働かない。死という根源的な恐怖、それが直矢を絡めとる。気が滅入る赤い霧を見ても、思い出すのは死体から流れる血だ。そして彼の持つ異能力により、霧からは負の感情を感じる。平常時ですら負担になっていたそれは、ただでさえストレスに苛まれている彼に容赦なく襲いかかる。頭が割れるように痛むのは過度のストレスからか。
公園の水飲み場の蛇口をひねる。手で水をすくい、顔を洗う。バシャバシャと音を立てて顔を洗う。冷たさで頭も心も冷静になってくれと。そして顔を上げると、電信柱が動いているのが見えた。
公園の水飲み場の蛇口をひねる。手で水をすくい、顔を洗う。バシャバシャと音を立てて顔を洗う。冷たさで頭も心も冷静になってくれと。そして顔を上げると、電信柱が動いているのが見えた。
「……」
もう一度顔を洗う。もう一度顔を上げる。
電信柱が斜めに傾いて動いていた。しかも何か重いものが動く音も聞こえる。
その直後、公園の木々の切れ目から現れたのは、大砲だった。
電信柱が斜めに傾いて動いていた。しかも何か重いものが動く音も聞こえる。
その直後、公園の木々の切れ目から現れたのは、大砲だった。
「なにっ。」
思わずつぶやく直矢の前に現れたのは、8,8cm Flugabwehrkanoneだった。
第一次世界大戦後、ドイツが開発した高射砲、つまりは空に向けて撃つための大砲である。
優秀な兵器であるために歩兵や戦車に向けても使われることがあった。
その砲弾は上空8000メートル、横に向けて撃てば15キロ先まで届き、厚さ10センチの装甲を2キロ以内なら貫通する。
それほどまでの射程と破壊力を持つ砲撃を4秒に一度行えるのがこれだ。
第一次世界大戦後、ドイツが開発した高射砲、つまりは空に向けて撃つための大砲である。
優秀な兵器であるために歩兵や戦車に向けても使われることがあった。
その砲弾は上空8000メートル、横に向けて撃てば15キロ先まで届き、厚さ10センチの装甲を2キロ以内なら貫通する。
それほどまでの射程と破壊力を持つ砲撃を4秒に一度行えるのがこれだ。
「ううぅ……あれはアハトアハト……」
「知っているのか灰原。」
「名前はね。さすがに実物は初めてよ……」
「知っているのか灰原。」
「名前はね。さすがに実物は初めてよ……」
口元を手で抑えながら、青い顔で灰原は黒の組織にいた時のことを思い出した。VTOL機や潜水艦まで保有するのだ、当然高射砲に関する資料もあった。とはいえ灰原の専門分野とは畑違いだったので、あくまでも大雑把な性能しか知らないのだが。
「あんなものまで……アイツらも大概だけど……戦争でもする気なの……?」
「なんだあっ。」
「なんだあっ。」
自分の記憶へと潜り込みかけた灰原を、直矢の声が引き戻す。
公園の入り口を横切っていくアハトアハトは、4輪の台車のようなものに載せられている。
そしてそれは、一人の少女によって手押しされていた。
人知を超えた怪力の少女に思わず叫び声も出る。
公園の入り口を横切っていくアハトアハトは、4輪の台車のようなものに載せられている。
そしてそれは、一人の少女によって手押しされていた。
人知を超えた怪力の少女に思わず叫び声も出る。
「■■■!? ■■■!」
「何語なんだ……」
「何語なんだ……」
直矢の声に気づいたのか、大砲を手で押していた少女はこちらを向いた。
紹介しよう、彼女はシェーラひめ。
さばくの東のはて、古き王国シェーラザードのハールーン王のひとり娘にして、世継ぎのひめ、シェーラザードである。
紹介しよう、彼女はシェーラひめ。
さばくの東のはて、古き王国シェーラザードのハールーン王のひとり娘にして、世継ぎのひめ、シェーラザードである。
「ここどこなのかしら。また変なことになっちゃったわね。」
とりあえず地面に嵌っていたマンホールを外してみて指先でコインのようにくるくる回しながら、シェーラは首をひねっていた。
黒い瞳と黒い髪は黒曜石のように艷やかで、黙っていれば美少女ではある。エキゾチックな衣装と合わせて、近くにいる少年を惑わせるだけの魅力は持っている。
これで足元にうっかりへし曲げてしまった銃器などがなければさぞモテただろう。
黒い瞳と黒い髪は黒曜石のように艷やかで、黙っていれば美少女ではある。エキゾチックな衣装と合わせて、近くにいる少年を惑わせるだけの魅力は持っている。
これで足元にうっかりへし曲げてしまった銃器などがなければさぞモテただろう。
シェーラはアラビアンな世界の人間であり、こんなコンクリートジャングルなど生まれてこの方見たことなかった。
とはいえ悪い魔法使いに目の前で親を殺され(まだ死んでない)国を滅ぼされ(まだ滅びきってない)自分も狙われている(本人自身はそこまで狙われてない)身の上だ、絶体絶命の状況もそこそこ慣れてはいる。
それにこれまでの冒険で、見たことのない景色はたくさん見てきた。なんか中華っぽいのになんかレパント海っぽいのに、とにかく砂漠のオアシスにいては一生見ることのなかったものばかりだ。異様な景色も、『ここは砂漠とは違う』ぐらいの軽い認識であった。それでいて自然体のまま警戒や洞察はできているのはさすがの旅歩きの経験だが、それはともかく、彼女は見つけた銃をさっそく「えいっ」ってやってブッ壊していた。
砂漠の世界に銃器などない。彼女が知る大砲の仲間みたいなものだろうと思って、ちょっとこう、ブンってやったら壊してしまった。これにはシェーラも驚き、謝りつつ元の場所にそっと置いておいた。どうせ自分をさらった悪い奴が用意したものだろうけど、だからといって雑に扱ってはいけない。
そう、シェーラは怪力なのだ。
とはいえ悪い魔法使いに目の前で親を殺され(まだ死んでない)国を滅ぼされ(まだ滅びきってない)自分も狙われている(本人自身はそこまで狙われてない)身の上だ、絶体絶命の状況もそこそこ慣れてはいる。
それにこれまでの冒険で、見たことのない景色はたくさん見てきた。なんか中華っぽいのになんかレパント海っぽいのに、とにかく砂漠のオアシスにいては一生見ることのなかったものばかりだ。異様な景色も、『ここは砂漠とは違う』ぐらいの軽い認識であった。それでいて自然体のまま警戒や洞察はできているのはさすがの旅歩きの経験だが、それはともかく、彼女は見つけた銃をさっそく「えいっ」ってやってブッ壊していた。
砂漠の世界に銃器などない。彼女が知る大砲の仲間みたいなものだろうと思って、ちょっとこう、ブンってやったら壊してしまった。これにはシェーラも驚き、謝りつつ元の場所にそっと置いておいた。どうせ自分をさらった悪い奴が用意したものだろうけど、だからといって雑に扱ってはいけない。
そう、シェーラは怪力なのだ。
さて、アハトアハトは7トンほどである。
この重さ、アフリカゾウと同じぐらいである。
シェーラも昔はゾウを持ち上げて足の裏に刺さったトゲとか取ってあげたものだ。
つまり、シェーラは7トンの物でも問題なくリフトアップできる。
この重さ、アフリカゾウと同じぐらいである。
シェーラも昔はゾウを持ち上げて足の裏に刺さったトゲとか取ってあげたものだ。
つまり、シェーラは7トンの物でも問題なくリフトアップできる。
「なんか強そうなのがあったわ! これなら壊れなさそうね!」
そして落ちていたアハトアハトを拾った。
銃はよくわからないが、大砲なら使ってる人を見たことがある。もし使えなくても砲丸投げに使える砲弾も手に入った。
片手でアハトアハトを持ち上げ、もう片方で一緒に落ちていた弾薬運搬車も持ち上げる。
銃はよくわからないが、大砲なら使ってる人を見たことがある。もし使えなくても砲丸投げに使える砲弾も手に入った。
片手でアハトアハトを持ち上げ、もう片方で一緒に落ちていた弾薬運搬車も持ち上げる。
「うわああっ! 大砲が練り歩いている!?」
「あら? どこから?」
「あら? どこから?」
そうして歩いていたところ、非常階段から顔を出したら顔面に砲口が直撃しそうになったワタルの叫び声に気づき、出会ったという次第であった。
「ていうことがあったんだ。」
「どういうことなの……」
「どういうことなの……」
ワタルからの説明に、灰原は目が点になる。
自分のせいで人が死んだとか、まだ酒が残っていているとか、そんなもんを問答無用で吹き飛ばす怪物を超えた怪物の登場に、ただただ圧倒されていた。
自分のせいで人が死んだとか、まだ酒が残っていているとか、そんなもんを問答無用で吹き飛ばす怪物を超えた怪物の登場に、ただただ圧倒されていた。
「■■■? ■■■■■■。」
「そうだね。」
「何語?」
「そうだね。」
「何語?」
なお、シェーラひめの言葉は当然日本語ではないため、灰原も直矢も何言ってるかわからない。ワタルだけが旅人として女神に与えられた加護か何かによって世界が違う者とも交流できるのでコミュニケーションが取れている状態だ。
ちなみにシェーラひめの方針は仲間との合流なのだが、そんなことをわかるわけがない2人は、ただただ困惑と衝撃と恐怖を味わっているだけだった。まるでヒグマか何かが人間に擬態しているような、人間と変わらない外見で人間では絶対できないことをすることへの嫌悪感、不気味の谷現象のようなものを感じずはいられない。
それは正常な人間の反応なのだが、すっかり異世界に慣れているワタルからすると、異様にこちらから距離を取る感じがして、殺し合い故に信頼されてないのかと少し悲しくなった。
ちなみにシェーラひめの方針は仲間との合流なのだが、そんなことをわかるわけがない2人は、ただただ困惑と衝撃と恐怖を味わっているだけだった。まるでヒグマか何かが人間に擬態しているような、人間と変わらない外見で人間では絶対できないことをすることへの嫌悪感、不気味の谷現象のようなものを感じずはいられない。
それは正常な人間の反応なのだが、すっかり異世界に慣れているワタルからすると、異様にこちらから距離を取る感じがして、殺し合い故に信頼されてないのかと少し悲しくなった。
「とりあえず、ボクたちは学校に行こうと思うんだ。もし友達が巻き込まれていたら、きっと向かうからね。」
「学校か……あれを転がしてか?」
「学校か……あれを転がしてか?」
あれというのはもちろんアハトアハトだ。
さすがに担ぐのは危ないのでシェーラひめには転がしていってもらったのだが、彼女からすれば買い物カートを転がすようなものだ。遅いからと乗せられたワタルが軽く恐怖を感じるスピードでシェーラひめは押した。
そんなシェーラひめは、公園のトイレに落ちていた軍刀を検めている。彼女は剣の腕にもそれなり以上の自信がある。単なる腕力任せではない王家の者として鍛えられた流麗な刀さばきと、それはともかく腕力に耐えられず振り下ろしたらブッ壊れた軍刀が、灰原と直矢を戦慄させた。
さすがに担ぐのは危ないのでシェーラひめには転がしていってもらったのだが、彼女からすれば買い物カートを転がすようなものだ。遅いからと乗せられたワタルが軽く恐怖を感じるスピードでシェーラひめは押した。
そんなシェーラひめは、公園のトイレに落ちていた軍刀を検めている。彼女は剣の腕にもそれなり以上の自信がある。単なる腕力任せではない王家の者として鍛えられた流麗な刀さばきと、それはともかく腕力に耐えられず振り下ろしたらブッ壊れた軍刀が、灰原と直矢を戦慄させた。
「あらら。刃はすごいのになまくらね。」
「見栄えはいいけど、不良品だったのかな。」
「見栄えはいいけど、不良品だったのかな。」
そんな2人に気づかず、ワタルは刀に目が行っている。シェーラひめほどの剣速の持ち主は見たことなくとも、シェーラひめ以上の剣の使い手はハイランダーに加わってから目にすることがあった。確かに彼女のフィジカルは凄いと思うが、技量ではもっと上を知っているし、魔法が使えない以上はやはり限界もあることを幻界での冒険で理解していた。
(こいつらも異能力者か?)
そして直矢が自分の知識から考え出した答えは、彼らが常人ではないということだ。シェーラひめは怪力、ワタルは翻訳といったところだろうか。彼は彼の経験で状況を受け止める。
(──そう。ふざけた夢ね。)
そして灰原は、これが幻覚だと確信を強めた。
自分が犯した罪に立ち向かい、なんとか立ち上がろとした矢先に見た現実離れした光景は、彼女に自身の正気を否定させるには充分だった。
自分が犯した罪に立ち向かい、なんとか立ち上がろとした矢先に見た現実離れした光景は、彼女に自身の正気を否定させるには充分だった。
「いいわ、行きましょう。」
「灰原?」
「ここでこうしていても仕方ない……そうでしょう?」
「灰原?」
「ここでこうしていても仕方ない……そうでしょう?」
そう言って見せた表情に、直矢はシェーラひめを見た時よりも戦慄した。
灰原は、笑っていた。
灰原は、笑っていた。
「なんなんだ……何が起きてるんだ……」
ワタルが心配そうに声をかけるのも気にせず、毒づかずにはいられなかった。
【0206 『北部』繁華街の公園】
【三谷亘@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
脱出する。あの掲示板は……
●中目標
怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す。
●小目標
学校に向かう。
【目標】
●大目標
脱出する。あの掲示板は……
●中目標
怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す。
●小目標
学校に向かう。