「いったい何が目的でこんなことしてんのかねぇ。」
駅のホームの椅子に体を投げ出し、空を見上げる。空は赤く、視界の隅に見える看板には日本語のようで日本語でない文字が書かれている。
これが超能力で作られた空間なのかそれとも幻覚なのかは区別がつかないが、とにかくろくでもない状況だということはわかった。
あらためて周囲を見渡す。さっきの珍獣の演説の場には、自分を含め相当な人数がいた。記憶はやけに曖昧だが、だいたいは明斗と同じ学生だったように思う。そして珍獣に襲いかかった連中、あれもおそらくは明斗のようなサイキッカーだろう。でなければあんな風に反応はできない。で、大事なのは自分の知り合いが巻き込まれているかだ。
明斗の通う東都学園は、表向きはセレブ向けの私立だがその実はサイキッカーを集めた学校だ。遺伝や環境やらでサイキッカーというのはある程度生まれやすさというものがある。そういったサイキッカーの界隈が集まり、サイキッカーならではの生きづらさを子弟が抱えないように、というのがお題目だ。実際はサイキッカーよりもカモフラージュ用の富裕層の生徒のほうが多いのだがそれはともかく、明斗はサイキッカーを集め『ウラ部活』というものを主催していた。
サイキッカーの能力は基本的に証拠が残らない。そのためトラブルが起きれば自力救済もやむなし、となるのだがそんなことを個人でやるのはもちろん酷だ。しかも一貫校なので中学3年生が小学1年生をサイキッカーでイタズラ、なんてこともできてしまう。他ならぬ明斗やウラ部活のメンバーも、自身や親しい人間がそのような被害にあったことから創部した身だ。
とはいえさすがにこの規模のサイキックはお手上げだ。前は洗脳能力っぽいサイキッカーとゴタったが、今回はまるで能力の内容が読めない。前回のような洗脳か、夢を見せる幻覚能力か、自分の理想の領域に引きずり込む結界能力か。おまけにこの首輪。これはなんなのか。これも一つのサイキックのうちなのかそれとも別なのか。考えるべきことが規模が大きすぎて手のつけようがない。
これが超能力で作られた空間なのかそれとも幻覚なのかは区別がつかないが、とにかくろくでもない状況だということはわかった。
あらためて周囲を見渡す。さっきの珍獣の演説の場には、自分を含め相当な人数がいた。記憶はやけに曖昧だが、だいたいは明斗と同じ学生だったように思う。そして珍獣に襲いかかった連中、あれもおそらくは明斗のようなサイキッカーだろう。でなければあんな風に反応はできない。で、大事なのは自分の知り合いが巻き込まれているかだ。
明斗の通う東都学園は、表向きはセレブ向けの私立だがその実はサイキッカーを集めた学校だ。遺伝や環境やらでサイキッカーというのはある程度生まれやすさというものがある。そういったサイキッカーの界隈が集まり、サイキッカーならではの生きづらさを子弟が抱えないように、というのがお題目だ。実際はサイキッカーよりもカモフラージュ用の富裕層の生徒のほうが多いのだがそれはともかく、明斗はサイキッカーを集め『ウラ部活』というものを主催していた。
サイキッカーの能力は基本的に証拠が残らない。そのためトラブルが起きれば自力救済もやむなし、となるのだがそんなことを個人でやるのはもちろん酷だ。しかも一貫校なので中学3年生が小学1年生をサイキッカーでイタズラ、なんてこともできてしまう。他ならぬ明斗やウラ部活のメンバーも、自身や親しい人間がそのような被害にあったことから創部した身だ。
とはいえさすがにこの規模のサイキックはお手上げだ。前は洗脳能力っぽいサイキッカーとゴタったが、今回はまるで能力の内容が読めない。前回のような洗脳か、夢を見せる幻覚能力か、自分の理想の領域に引きずり込む結界能力か。おまけにこの首輪。これはなんなのか。これも一つのサイキックのうちなのかそれとも別なのか。考えるべきことが規模が大きすぎて手のつけようがない。
(とにかく、部活のメンバーが巻き込まれている可能性は高い。家族もな……合流の宛もないし、地図に書いてる文字も読めないし、どうするか……)
自分でもらしくないなと思いながら、端正な顔を曇らせて、空を見上げて考え込む。と、その耳にかすかに音が聞こえてきた。目を横に向けると、遠くから光がだんだんと大きくなってくる。電車だろうか。
「まずは、他の参加者から話を聞いてみるか?」
色々考えた末に出した結論はいつもどうりのものだった。明斗にとってサイコメトラーとしての能力は確かに特異なものだが、別にそれ頼りというわけではない。むしろ一番得意なのはコミュニケーション、特に女の子とだ。なぜなら。
「顔がいいっていうのはどういう時でも得だよな♪」
彼はイケメンなのだ。
身長高い、頭良い、運動もできて、顔も良い。
ハッキリ言って勝ち組だ。死角はない。
明斗は立ち上がると、近くの自販機を姿見代わりに身なりを整えた。人と会うには第一印象から、スマートな少年として運命的な出会いをする。保守的なオジサンにはウケが悪いが、髪もアクセサリーも、全てねらったJCなら落とせるだけの用意はしている。
ショータイムだ。停車した電車の扉が開くと同時に乗り込む。駅に落ちていた武器は、拳銃だけズボンに差し込み手ぶらだ。会話さえできるのならそうそう撃たれるものでもない。
車内に足を踏み入れると、息を呑む気配がした。小学生ほどの女の子だろうか。ちょっとメイ子に似てるなと部活の仲間を思い出しながら「こんにちは」と声をかけた。
身長高い、頭良い、運動もできて、顔も良い。
ハッキリ言って勝ち組だ。死角はない。
明斗は立ち上がると、近くの自販機を姿見代わりに身なりを整えた。人と会うには第一印象から、スマートな少年として運命的な出会いをする。保守的なオジサンにはウケが悪いが、髪もアクセサリーも、全てねらったJCなら落とせるだけの用意はしている。
ショータイムだ。停車した電車の扉が開くと同時に乗り込む。駅に落ちていた武器は、拳銃だけズボンに差し込み手ぶらだ。会話さえできるのならそうそう撃たれるものでもない。
車内に足を踏み入れると、息を呑む気配がした。小学生ほどの女の子だろうか。ちょっとメイ子に似てるなと部活の仲間を思い出しながら「こんにちは」と声をかけた。
「こ、こんにちは。あの……」
「ああ、参加者だよ。君も?」
「は、はい。あの! 星降奈って言います。えっとその、なんていうか。」
「西塔明斗。明斗って呼んで。友達を探してるんだけど、会わなかった? 同じ制服着てるんだけど。」
「すみません、明斗さんが初めてあった人です。それで、あの、こ、殺し合いって……」
「ああ、なんか言ってたね。イヤだねぇ、そういう野蛮なの。一緒にサボらない? 誰も殺したり殺されたりなんてしたくないでしょ。」
「ほんとうですか! はい! わたしも実は、戦いをやめようって思ってて。」
「ああ、参加者だよ。君も?」
「は、はい。あの! 星降奈って言います。えっとその、なんていうか。」
「西塔明斗。明斗って呼んで。友達を探してるんだけど、会わなかった? 同じ制服着てるんだけど。」
「すみません、明斗さんが初めてあった人です。それで、あの、こ、殺し合いって……」
「ああ、なんか言ってたね。イヤだねぇ、そういう野蛮なの。一緒にサボらない? 誰も殺したり殺されたりなんてしたくないでしょ。」
「ほんとうですか! はい! わたしも実は、戦いをやめようって思ってて。」
ほら、上手く行った。明斗は内心も外面もニンマリとした。まずは一人だ。
少し前までは怯えた様子だったのが一気に明るい顔になったのを見て、明斗は手応えを感じた。
少し前までは怯えた様子だったのが一気に明るい顔になったのを見て、明斗は手応えを感じた。
明斗が出会ったフルナもどうやらサイキッカーのようだった。用語や東都学園についての知識に差はあるが、別に珍しいことでもないので気にしない。なにぶんしっかりとした組織というものが無い界隈なので、多少のバラツキは常だ。
「電気をあやつる異能力者、か。スマホとか外で充電できそうだね。」
「ぜんぜんそんなことないですよ。この間もバチッとやって家電を壊しちゃって。」
「それでフリースクールに行ってるんだ。いや、知らなかったわ、東都以外にもそういう所あるって。」
「明斗さんの学校って、異能力者の学校なんですよね?」
「うーん、そうとも言えるし、そうでもないとも言える、かな。そのへん色々説明すんのタルくて──ああ、次の駅だ。」
「ぜんぜんそんなことないですよ。この間もバチッとやって家電を壊しちゃって。」
「それでフリースクールに行ってるんだ。いや、知らなかったわ、東都以外にもそういう所あるって。」
「明斗さんの学校って、異能力者の学校なんですよね?」
「うーん、そうとも言えるし、そうでもないとも言える、かな。そのへん色々説明すんのタルくて──ああ、次の駅だ。」
最初に会った他の参加者としては当たりだろう。フルナからは他の信頼できそうなサイキッカーの情報も手に入った。明斗としては、残留思念を読み取るという居想直矢なる中学生とは特に話してみたい。同じタイプのサイキッカーというのが気になるポイントだし、そうでなくても彼の能力はこのバトルロワイアルで大きく役に立つだろう。
電車の減速するGを感じつつ、明斗は立ち上がる。ここまではパーフェクト。後はヤバい敵とエンカウントしないことを祈る。この駅で降りるかどうか、状況を見定めなければならない。
微かな音を立てて電車が完全に停止すると、開いたドアから油断なく、しかしそれをフルナに悟られぬように降りた。ホームに人はいない。いや、いた。人じゃないが。
電車の減速するGを感じつつ、明斗は立ち上がる。ここまではパーフェクト。後はヤバい敵とエンカウントしないことを祈る。この駅で降りるかどうか、状況を見定めなければならない。
微かな音を立てて電車が完全に停止すると、開いたドアから油断なく、しかしそれをフルナに悟られぬように降りた。ホームに人はいない。いや、いた。人じゃないが。
「い、犬?」
「わぁ、かわい……くない。ちょっとこわい……」
「わぁ、かわい……くない。ちょっとこわい……」
黒くてデカい犬がいた。思わずカッコ悪い声が出たがこれは仕方がないと思う。だって犬だもん。思いっきりあからさまに犬が、自分たちと同じように首輪を着けてお座りしている。あれも参加者、なのだろう。
「まあ、あんな変なモフモフが開いたバトルロワイアルなら犬がプレイヤーでもおかしくないのかもしんねーけど……なんで犬と殺し合わせようなんて思ったんだ?」
「キミも誘拐されちゃったの?」
「フルナ、あんま近づかないほうがいいぜ。」
「はい。でも、この子なんだか悲しそうです。」
「犬なりにわかってるのかもな。いや、そんわけ、あるのか? コイツもサイキッカーだったりして。」
「そうだ、明斗さんの異能力でこの子のこと、わかりませんか?」
「……噛まないよな?」
「たぶん。」
「たぶんかぁ……」
「キミも誘拐されちゃったの?」
「フルナ、あんま近づかないほうがいいぜ。」
「はい。でも、この子なんだか悲しそうです。」
「犬なりにわかってるのかもな。いや、そんわけ、あるのか? コイツもサイキッカーだったりして。」
「そうだ、明斗さんの異能力でこの子のこと、わかりませんか?」
「……噛まないよな?」
「たぶん。」
「たぶんかぁ……」
犬は明斗たちの話がわかっているのかいないのか、変わらずお座りしている。と、後ろでドアが閉まる音がした。あっと思うがもう遅い。犬について話している間に電車は出発してしまった。
「やるしかないな。おーいワン公、噛まないでくれよな。殺し合いになんて乗ってないんだからさ。」
やむを得ない、明斗は呼びかけながら犬に近づくと体に触れた。頭を触ろうとすると嫌がったので背中に手を回す。顔が近づいてしまいちょっと怖いが、そこしか触らせてくれそうにないので仕方がない。さて……
「さすがに犬だと何考えてるかわかりにくいな。えーっと、まずは名前は……カザン、か?」
ピクリと犬ことカザンの体が震えたどうやら当たりらしい。
「なんだ、めちゃくちゃ読みにくい……名前だけしか読み取れない……あ、読める、これさっきの話か。お前、さっき何言ってのかわかるんだな。」
「どうですか、カザンちゃん?」
「コイツ、スッゲーかしこいよ。こんな賢い犬触ったことない。だいたい食べたいとか寝たいとかなのに、コイツは誰かを探したいって思ってる。女の子だ……竜堂、ルナ?」
「どうですか、カザンちゃん?」
「コイツ、スッゲーかしこいよ。こんな賢い犬触ったことない。だいたい食べたいとか寝たいとかなのに、コイツは誰かを探したいって思ってる。女の子だ……竜堂、ルナ?」
ワフ、とカザンは小さく吠えた。竜堂ルナなる女の子を探しているらしい。
「お前の飼い主か? ハチ公みたいな犬だな。どうする、一緒に来て探すか? お前の心も少しはわかるぜ?」
明斗の問いかけに、カザンは再び小さく吠えた。そして明斗から離れるとホームから出ていこうとする。ついてこいと言わんばかりに明斗達を振り向いた。
「すっごくかしこいですね、あの子。」
「ドーベルマンは賢いって言うしな。じゃ、行こっか。」
「はい。」
「ドーベルマンは賢いって言うしな。じゃ、行こっか。」
「はい。」
更に当たりを引いた。そう思って明斗はフルナと共にカザンの後に続いた。
(──当たりだ。こいつらに竜堂ルナを探させる。タイもルナを探すだろうし都合が良い。)
彼らは知らない。犬だと思ったカザンは、妖怪であることを。
彼は二人の話から明斗が読心術を使えると察すると、いつでも殺せる体勢をとらせてわざと心を読ませた。そして、彼と彼の相棒であるタイが命を狙う少女、ルナを探させるように誘導した。
ルナを探す過程でタイを見つけられればそれで良し、見つけられずともルナを殺せれば一応良し、という考えだ。
そしてこのカザン、前のループと違うところがある。それは服毒していたはずが解毒されていたということだ。
元々カザンはルナ抹殺のために刺し違える覚悟で猛毒を飲んでいたが、今回はそれが無い。僅かな寿命のために無差別マーダーをやらせるよりも、頭を使わせてマーダーないし危険対主催でもやらせた方が結果的にロワのためになる、という主催の判断によるものだ。
彼は二人の話から明斗が読心術を使えると察すると、いつでも殺せる体勢をとらせてわざと心を読ませた。そして、彼と彼の相棒であるタイが命を狙う少女、ルナを探させるように誘導した。
ルナを探す過程でタイを見つけられればそれで良し、見つけられずともルナを殺せれば一応良し、という考えだ。
そしてこのカザン、前のループと違うところがある。それは服毒していたはずが解毒されていたということだ。
元々カザンはルナ抹殺のために刺し違える覚悟で猛毒を飲んでいたが、今回はそれが無い。僅かな寿命のために無差別マーダーをやらせるよりも、頭を使わせてマーダーないし危険対主催でもやらせた方が結果的にロワのためになる、という主催の判断によるものだ。
(それまで利用させてもらうぞ、小童ども。)
カザンが秘めるのは決死の殺意。それを誰にも読み取らせる気などなかった。
【0010 都市部・駅】
【西塔明斗@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?(サイキッカーですけど、なにか?シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
知り合いが巻き込まれていないか調べる。
●中目標
フルナを守る。
●小目標
竜堂ルナを探す。
【目標】
●大目標
知り合いが巻き込まれていないか調べる。
●中目標
フルナを守る。
●小目標
竜堂ルナを探す。
【星降奈@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
よくわからないけど誰かが傷つくのはイヤ。
●中目標
明斗さんと一緒にいる。
●小目標
竜堂ルナを探す。
【目標】
●大目標
よくわからないけど誰かが傷つくのはイヤ。
●中目標
明斗さんと一緒にいる。
●小目標
竜堂ルナを探す。