「動かないで。」
朱堂ジュンは出会い頭に刀を持った少年へと拳銃を突きつけた。
一時間以上は歩いていて油断していたために間近になるまで気づかなかったのを考えると、先手を取れたのは僥倖だ。
もしかしたら相手も、同じように油断していたのかもしれない。
とっさに抜刀はしたもののそこで動きが止まり、だから額へと銃口の狙いをつけられた。
一時間以上は歩いていて油断していたために間近になるまで気づかなかったのを考えると、先手を取れたのは僥倖だ。
もしかしたら相手も、同じように油断していたのかもしれない。
とっさに抜刀はしたもののそこで動きが止まり、だから額へと銃口の狙いをつけられた。
「片手を頭の上に置いて、もう片方の手で刀を地面に突き刺して。」
「くっ……! 乗っているのか?」
「早く! 刺したら下がって、うつ伏せに寝転がって。」
「くっ……! 乗っているのか?」
「早く! 刺したら下がって、うつ伏せに寝転がって。」
有無を言わせずに武器を置かせる。勝負では主導権を握った方が勝つ。
悔しそうな顔で言うとおりにする少年に内心でわずかにほっとしながら、それでも油断無く少年の背中に膝立ちになり、今一度頭に銃を突きつけた。
そこで、頭の後ろで組まれた手から紙片が覗いていることに気づく。
「もらうよ」と言って奪い取ると――
悔しそうな顔で言うとおりにする少年に内心でわずかにほっとしながら、それでも油断無く少年の背中に膝立ちになり、今一度頭に銃を突きつけた。
そこで、頭の後ろで組まれた手から紙片が覗いていることに気づく。
「もらうよ」と言って奪い取ると――
『装備:命の百合 場所:一本杉の根本 説明:どんな傷も癒やす蜜を出す百合。器一杯飲めば永遠の命が得られる。』
「わたしだけじゃなかったんだ」自然と言葉が漏れる。
それを聞いてか、少年は伏せていた目を上げる。
ジュンと目が合う。
その目は、彼女を負かした少年の目にそっくりだった。
それを聞いてか、少年は伏せていた目を上げる。
ジュンと目が合う。
その目は、彼女を負かした少年の目にそっくりだった。
朱堂ジュンは小さい頃から足が速かった。
走るのが好きだから速くなったのか、走かったから走るのが好きになったのかは覚えていないが、ジュンの好きという気持ちと走る速さは比例して増していった。
親はそんなジュンを応援した。
その甲斐もあって彼女の努力は実り、いまやジュンは将来を有望視されるアスリートにまでなった。あと数年もすればオリンピックの育成選手にもなり得るだろう。そんな時だ。
ジュンの母親は病に倒れた。
治る見込みは無かった。
彼女を今まで支えてきた存在は、近い将来、彼女がアスリートとして大成するよりも確実に早く死ぬことになった。
だが、そんな時だ。
ラストサバイバル、人生逆転のゲームに参加するチャンスが巡ってきたのは。
毎年小学6年生が、優勝者にはなんでも願いが叶うという景品のために、命がけで戦うゲーム。
それがラストサバイバル。
ジュンはそれに参加した。
種目はひたすら休みなく歩き続けるサバイバルウォーク。長距離をメインとする彼女が勝つためにあるような競技だった。
そして彼女は敗北した。
最終盤までトップにいながら、ノーマークだった少年に最後の最後に負け、願いを逃した。
母親を助ける手段を失った。
彼女は泣いた。
叫んだ。
そして後悔した。
何が足りなかった? 覚悟が足りなかった。
何が足りなかった? 決意が足りなかった。
決死さが足りなかった。必死さが足りなかった。死ぬと決めたと書くから決死なのだ。必ず死ぬと書くから必死なのだ。彼はそれを持っていた。自分が死ぬことを覚悟していた。その意気を感じた。
そしてその上で、楽しんでいた。
彼は、自分の命を捨てることすらも楽しんでいたと、彼女はあれを振り返って感じた。
だから、彼女は決めた。
たとえ命を失ってもではなく、必ず命を失うと決めて戦うと。
走るのが好きだから速くなったのか、走かったから走るのが好きになったのかは覚えていないが、ジュンの好きという気持ちと走る速さは比例して増していった。
親はそんなジュンを応援した。
その甲斐もあって彼女の努力は実り、いまやジュンは将来を有望視されるアスリートにまでなった。あと数年もすればオリンピックの育成選手にもなり得るだろう。そんな時だ。
ジュンの母親は病に倒れた。
治る見込みは無かった。
彼女を今まで支えてきた存在は、近い将来、彼女がアスリートとして大成するよりも確実に早く死ぬことになった。
だが、そんな時だ。
ラストサバイバル、人生逆転のゲームに参加するチャンスが巡ってきたのは。
毎年小学6年生が、優勝者にはなんでも願いが叶うという景品のために、命がけで戦うゲーム。
それがラストサバイバル。
ジュンはそれに参加した。
種目はひたすら休みなく歩き続けるサバイバルウォーク。長距離をメインとする彼女が勝つためにあるような競技だった。
そして彼女は敗北した。
最終盤までトップにいながら、ノーマークだった少年に最後の最後に負け、願いを逃した。
母親を助ける手段を失った。
彼女は泣いた。
叫んだ。
そして後悔した。
何が足りなかった? 覚悟が足りなかった。
何が足りなかった? 決意が足りなかった。
決死さが足りなかった。必死さが足りなかった。死ぬと決めたと書くから決死なのだ。必ず死ぬと書くから必死なのだ。彼はそれを持っていた。自分が死ぬことを覚悟していた。その意気を感じた。
そしてその上で、楽しんでいた。
彼は、自分の命を捨てることすらも楽しんでいたと、彼女はあれを振り返って感じた。
だから、彼女は決めた。
たとえ命を失ってもではなく、必ず命を失うと決めて戦うと。
「オレは藤山タイガ。EDF第3師団K部隊だ。」
突然の言葉でジュンは我に帰る。
ほんの僅かな間だろうが、自分の内面に沈みこんでいた。
それに気づくと同時に、なぜ?と思う。なんで少年は名乗ったのか。
ほんの僅かな間だろうが、自分の内面に沈みこんでいた。
それに気づくと同時に、なぜ?と思う。なんで少年は名乗ったのか。
「名前あるんだろ、名乗れよ。」
「なんで。」
「なんでって、じゃあなんて呼べばいいんだよ。」
「そうじゃなくて、わたし、君を殺す気なんだけど。」
「本当に殺す気あるなら話しかけないで撃つだろ。」
「なんで。」
「なんでって、じゃあなんて呼べばいいんだよ。」
「そうじゃなくて、わたし、君を殺す気なんだけど。」
「本当に殺す気あるなら話しかけないで撃つだろ。」
ギリ、と頭に銃口を押しつける。
ますます、少年があの子に重なって見えた。
ますます、少年があの子に重なって見えた。
「違うって言ったらどうする。」
「妹がいる。」
「は?」
「もしかしたら、妹もここにいるかもしれない。できればでいい。殺すのは後回しにしてくれないか。間違っても殺し合いに乗るようなヤツじゃないんだ。」
「ちょっと待って、君言ってることわかってる?」
「ムチャクチャだよな。でも、こうして話してるってことは、ちょっとは頼めるんじゃないかって思って。」
「……」
「頼む。オレを殺すのは、まあ、ホントはすごい嫌だし、助けてほしいけど、でも殺るんなら、妹だけは殺さないでほしい。」
「妹がいる。」
「は?」
「もしかしたら、妹もここにいるかもしれない。できればでいい。殺すのは後回しにしてくれないか。間違っても殺し合いに乗るようなヤツじゃないんだ。」
「ちょっと待って、君言ってることわかってる?」
「ムチャクチャだよな。でも、こうして話してるってことは、ちょっとは頼めるんじゃないかって思って。」
「……」
「頼む。オレを殺すのは、まあ、ホントはすごい嫌だし、助けてほしいけど、でも殺るんなら、妹だけは殺さないでほしい。」
「タイガくん、もし君が優勝したら、妹さんの次でいいから、わたしの、母親を助けてくれない?」
「……は?」
「前さ、これと似たようなゲームに参加したことがあるんだ。それは本当に死ぬようなことはなかったんだけれど、首輪じゃなくて腕輪みたいなのつけてさ。優勝したらなんでも願いが叶うっていうの。」
「……ギャンブルの話か?」
「そんな感じ。鞘をこっちに投げて。」
「……は?」
「前さ、これと似たようなゲームに参加したことがあるんだ。それは本当に死ぬようなことはなかったんだけれど、首輪じゃなくて腕輪みたいなのつけてさ。優勝したらなんでも願いが叶うっていうの。」
「……ギャンブルの話か?」
「そんな感じ。鞘をこっちに投げて。」
そのまま回り込むと、突き刺さっていた刀の下へと行く。銃で腰の鞘を抜くように示すと、飛んできた鞘を片手で掴み、銃をポケットへと押し込んだ。
タイガは動かなかった。
刀を地面から抜き、鞘へとしまう。今度は納刀したそれで立ち上がるように指示した。
タイガは動かなかった。
刀を地面から抜き、鞘へとしまう。今度は納刀したそれで立ち上がるように指示した。
「今度のこれも、似たようなものなんじゃないかな。優勝したら願いが叶うとか、そんなふうな。少なくとも優勝できなかった子よりは生きてる可能性が高いでしょ。だから、もし君が優勝したら、わたしの家族に会いに行ってほしい。それで、できる限りでいいから助けてほしい。わたしが優勝してもそうするから。」
「無理だな。」
「無理だな。」
拳銃を抜く。
「オレの親は行方不明だ。お前に見つけられるのか。」
「心配しないで。わたしの親も病気で長くないから。」
「……なのに、そんなこと頼むのか?」
「だから、頼むの。恨むんなら地獄で恨んどいて。」
「勝手に地獄行きにするんじゃねえ。」
「地獄みたいなものでしょ、ここも、ううん、その前も。あはは、この先もか。ずっと地獄じゃん。」
「何がおかしい。」
「心配しないで。わたしの親も病気で長くないから。」
「……なのに、そんなこと頼むのか?」
「だから、頼むの。恨むんなら地獄で恨んどいて。」
「勝手に地獄行きにするんじゃねえ。」
「地獄みたいなものでしょ、ここも、ううん、その前も。あはは、この先もか。ずっと地獄じゃん。」
「何がおかしい。」
ギラついた目をタイガは向ける。
それ目掛けてジュンは、刀を投げ渡した。
「うわっ!」と情けない声を上げてタイガは受け止める。
それ目掛けてジュンは、刀を投げ渡した。
「うわっ!」と情けない声を上げてタイガは受け止める。
「……一人よりは二人のほうがマシでしょ。今は殺さないでおく。代わりにわたしの前を歩いて戦って。断ったら撃つ。」
そしてタイガの足元に向けて発砲した。
「オーケー?」
「……クソ、わけわかんねえ……!」
「オーケー!?」
「くっ……オーケーだ! オーケーだよ!」
「あと振り返っても撃つから。」
「……クソ、わけわかんねえ……!」
「オーケー!?」
「くっ……オーケーだ! オーケーだよ!」
「あと振り返っても撃つから。」
刀を腰に、手を頭の上に置かせて前を歩かせる。
ジュンはわからないように、銃をポケットへと入れた。
ジュンはわからないように、銃をポケットへと入れた。
「今の銃声何かしら。ねえ?」
「……さあ。」
「……さあ。」
折れた枝を手に取る。
超能力で先を尖らせる。
そして投げる! を、繰り返す!
超能力で先を尖らせる。
そして投げる! を、繰り返す!
ドス「あぶな!」ドスッ「ちょ」ドドス「ま」ドドスドドスドス「待って」ドドスドドスドス「助けて!」ドドスドドスドス「お願いします!」ドドスコスッ「わああああああああああ!!!???」
「返事ぃ!」
「はい……」
「はいじゃないわ、何かって聞いとんねん。耳義足なん?」
「耳が義足ってなんだよ……」
「なんでツッコミだけはちゃんと話すねん!」
「いたーい!?」
「はい……」
「はいじゃないわ、何かって聞いとんねん。耳義足なん?」
「耳が義足ってなんだよ……」
「なんでツッコミだけはちゃんと話すねん!」
「いたーい!?」
サイキックで浮かした小石をケツへと直撃させる。
悲鳴を上げてゴロンゴロンと地面を転がる少女、玉野メイ子を前に、名波翠は何度目かのため息をついた。
翠は超能力者だ。こういう異常事態にも何度か遭遇したことはある。さすがに爆弾だか毒だかが入った首輪をつけて殺し合えなどと言われたことはないが、それこそ神の一柱や二注と遭遇したこともあるので、多少の動揺はあれど比較的冷静だった。
そんな彼女が最初に出会ったのがメイ子だったのだが、その出会いが最低だったために、こうして翠はメイ子を折檻している。で、具体的に何をしたかというと。
悲鳴を上げてゴロンゴロンと地面を転がる少女、玉野メイ子を前に、名波翠は何度目かのため息をついた。
翠は超能力者だ。こういう異常事態にも何度か遭遇したことはある。さすがに爆弾だか毒だかが入った首輪をつけて殺し合えなどと言われたことはないが、それこそ神の一柱や二注と遭遇したこともあるので、多少の動揺はあれど比較的冷静だった。
そんな彼女が最初に出会ったのがメイ子だったのだが、その出会いが最低だったために、こうして翠はメイ子を折檻している。で、具体的に何をしたかというと。
「たく……なんで能力者ってのはこう性格悪いやつ多いんやろ。」
「翠さんはいい性格してますよね。」
「やっぱお前の心覗くわ。」
「ちょ、霊視はやめてください。」
「おあいこやろが。」
「翠さんはいい性格してますよね。」
「やっぱお前の心覗くわ。」
「ちょ、霊視はやめてください。」
「おあいこやろが。」
頭の上に手を置こうとする翠と、それに抵抗するメイ子。と同時に二人の周りに不可思議な力が満ちる。メイ子の頭から何かを引っ張ろうとするそれとそれを妨害しようとするそれはまさしく異能。その正体は、サイコメトリーだ。
メイ子は強力な霊視能力を持つ。その力で最初出会った参加者である翠の人となりを知ろうとしたのだが、それが彼女の地雷だった。
翠は人の心を見ることを嫌う。自分が見ることは極めて自重するし、見られるのももちろん嫌だ。というか一番嫌いな超能力の使い方だ。それを、殺し合いの場でやられた。
こうしてプッツンした翠は能力者特有の勘の良さで自分を見ている存在に気づき、殺意のイメージを見せることでメイ子の動揺を誘い、位置を掴むとサイキックでやきを入れたという次第である。
だが肝心の問題はそれだけではない。
メイ子は強力な霊視能力を持つ。その力で最初出会った参加者である翠の人となりを知ろうとしたのだが、それが彼女の地雷だった。
翠は人の心を見ることを嫌う。自分が見ることは極めて自重するし、見られるのももちろん嫌だ。というか一番嫌いな超能力の使い方だ。それを、殺し合いの場でやられた。
こうしてプッツンした翠は能力者特有の勘の良さで自分を見ている存在に気づき、殺意のイメージを見せることでメイ子の動揺を誘い、位置を掴むとサイキックでやきを入れたという次第である。
だが肝心の問題はそれだけではない。
『(痛いって言ってるのに……この人頭おかしい……)』
(コイツ全然反省しとらんな。)
(コイツ全然反省しとらんな。)
コイツにだけは自らに課した戒めを一回外して心を見る。そう決めて顕になった心のアレさ加減に、翠は、ちょっと引いた。
ようするに、メイ子はクズだった。
こう言ってしまってはなんだか、メイ子は割とクズだ。性格の悪さは自他ともに認めている。仲が良い友達がいないためにむしろバレてないだけで外に見えてる部分よりももう少しクズである。
割と人のことを言えた立場でない翠からしても結構なヤバさだ。こういうふうになっちゃいけないって思ってサイコメトリーを封じてるところもある。
ようするに、メイ子はクズだった。
こう言ってしまってはなんだか、メイ子は割とクズだ。性格の悪さは自他ともに認めている。仲が良い友達がいないためにむしろバレてないだけで外に見えてる部分よりももう少しクズである。
割と人のことを言えた立場でない翠からしても結構なヤバさだ。こういうふうになっちゃいけないって思ってサイコメトリーを封じてるところもある。
(コイツから目を離したらアカンのは間違いないな。しかも銃声、これ一人でどうにかするには手が足りんわ。蘭、どこおんねん。どうせ一緒に巻き込まれてるんやろ?)
転校して以来様々な事件を共に解決してきた相棒に問いかける。その相棒は鬼と忍者の死合から逃れるために森の中を逃げていたのだがそんなことまではさすがにわからず。とにかくこのダメ人間を放置はしておけないと思案していたところで、気配を察知。
「翠さん、あの。」
「わかってるから静かに。騒いだら後がヒドイよ。」
「ヒエッ」
「わかってるから静かに。騒いだら後がヒドイよ。」
「ヒエッ」
小走りに二人で木の影へと隠れる。
現在地は森の中の小道。互いにポケットに入っていた変な紙片を頼りに動いていたからだが、妙な場所で遭遇することになった、と思ったことで、そういえばこの紙の内容はどっちも同じだったな、じゃああの二人も、と思い直す。
遠目に見えた感じからすると、変な服を着た男と、ロン毛の男。後ろの方が背が高く、手前の方も運動神経は良さそうだ。それになりより、あの二人からは『何か』を感じる。
現在地は森の中の小道。互いにポケットに入っていた変な紙片を頼りに動いていたからだが、妙な場所で遭遇することになった、と思ったことで、そういえばこの紙の内容はどっちも同じだったな、じゃああの二人も、と思い直す。
遠目に見えた感じからすると、変な服を着た男と、ロン毛の男。後ろの方が背が高く、手前の方も運動神経は良さそうだ。それになりより、あの二人からは『何か』を感じる。
(あ、後ろの方は女の子のやったわ。背高いなあ。手足もスラッとしてるし。モデル体型やん。うちの方が髪ツヤツヤやしカワイイけれども。)
(ん? あれ? 前歩いてる男の子の方刀持ってない? 何で帯刀してんの?)
(……そもそも、なんで頭の上に手を……もしかして……)
「これは、まずいな……」
(ん? あれ? 前歩いてる男の子の方刀持ってない? 何で帯刀してんの?)
(……そもそも、なんで頭の上に手を……もしかして……)
「これは、まずいな……」
二人組ということは話ができそうだと思ったが、あの様子はおかしい。まるで人質がするかのようなポーズを前を歩いている方はしている。しかも刀らしきものを持っているのに。そしてさっきの銃声。
「あの女の子、銃持ってる……?」
しかもセリフとられた。
(それいまうちが言おうとしてたのに……)
「逃げていいですか?」
「うん、そうしよう。」
「え、あ、うん。」
「急いで。でも静かに。まだ気づいてないし、この霧なら森の中に向かえばバレない。行くよ。」
「逃げていいですか?」
「うん、そうしよう。」
「え、あ、うん。」
「急いで。でも静かに。まだ気づいてないし、この霧なら森の中に向かえばバレない。行くよ。」
だがすぐに頭を切り替えると、メイ子の手を引いて森の奥へと小道を走り出す。
相手が森の外から来たから気づけたが、内に入ってしまえばそうそう見つかることはない。なにより、こちらには超能力者が二人いる。勘の良さでは明らかに上だ。
だがその考えは最悪の形で裏切られることになった。
最初に気づいたのはまたも翠だった。
嫌な予感がした。
それも今まででも割とヤバ目の。
普段の彼女ならば、ここで引き返すなり何なりしただろう。
だが横にいるメイ子という能力者がその判断を取らせなかった。
リスクはあれども、危険性のある能力者を、武器を持った相手と合わせたくないという考えが、より大きなリスクを感じさせる方へと向かわせた。
一際大きな杉が森の中で見えた。と同時に、嫌な気配が増した。
いる。
何か超常的な存在が。
それは杉の下に咲く、百合の花の前にいた。
「金ピカだぁ……」というメイ子の感想通りの、黄金の甲冑に身を包んだ騎士がいた。
明らかに自分たちとは世界観からして違うそれを見て二人は確信する。
あれはこちら側の存在だと。
相手が森の外から来たから気づけたが、内に入ってしまえばそうそう見つかることはない。なにより、こちらには超能力者が二人いる。勘の良さでは明らかに上だ。
だがその考えは最悪の形で裏切られることになった。
最初に気づいたのはまたも翠だった。
嫌な予感がした。
それも今まででも割とヤバ目の。
普段の彼女ならば、ここで引き返すなり何なりしただろう。
だが横にいるメイ子という能力者がその判断を取らせなかった。
リスクはあれども、危険性のある能力者を、武器を持った相手と合わせたくないという考えが、より大きなリスクを感じさせる方へと向かわせた。
一際大きな杉が森の中で見えた。と同時に、嫌な気配が増した。
いる。
何か超常的な存在が。
それは杉の下に咲く、百合の花の前にいた。
「金ピカだぁ……」というメイ子の感想通りの、黄金の甲冑に身を包んだ騎士がいた。
明らかに自分たちとは世界観からして違うそれを見て二人は確信する。
あれはこちら側の存在だと。
「……驚きだ。」
先に声を発したのは、黄金の騎士の方だった。
まるで今意識を取り戻したのかのように、手を握り、手を開き、手にした剣を二度三度と素振りする。
翠は自分への強い関心を感じた。
理屈ではなくわかった。返答を間違えれば殺されると。
まるで今意識を取り戻したのかのように、手を握り、手を開き、手にした剣を二度三度と素振りする。
翠は自分への強い関心を感じた。
理屈ではなくわかった。返答を間違えれば殺されると。
「あれは夢か幻か……トパーズはこの剣にある……」
「オレたち以外にもここに来たやつがいたのか。どうする?」
(ウソやろ? 早すぎる!)
「オレたち以外にもここに来たやつがいたのか。どうする?」
(ウソやろ? 早すぎる!)
黙っていた翠達の後ろから声が聞こえた。
振り返らなくてもわかる。さっきの二人だ。
翠は知る由もないが、ジュンは命の百合を手に入れるためにタイガを急かしていた。実のところ、ここに来るまでの二組の移動スピードはほぼ同じで、翠達が一分も止まっていれば追いつくとまでは行かずとも姿が見えるまで近づけるほどであった。
振り返らなくてもわかる。さっきの二人だ。
翠は知る由もないが、ジュンは命の百合を手に入れるためにタイガを急かしていた。実のところ、ここに来るまでの二組の移動スピードはほぼ同じで、翠達が一分も止まっていれば追いつくとまでは行かずとも姿が見えるまで近づけるほどであった。
「待て……そこの二人、離れろ。これはヤバい。」
(言われなくてもわかっとるわ。)
「言われなくてもわかってるよ!」
(お前は声デカイ!)
(言われなくてもわかっとるわ。)
「言われなくてもわかってるよ!」
(お前は声デカイ!)
タイガの注意も翠にとっては今更のものだ。今は何よりも騎士を刺激したくない。だがその願いとは裏腹に状況は更に悪化する。
騎士が振り返った。
本来ならば怪人が背を向けるという状況だが、翠には確信的にわかった。
絶対に何かマズイ。
騎士はフラフラと周囲を見渡して、はたと気づいたのか、杉の根本にある百合へと目を落とした。
そして這いつくばった。
まるで小さな子猫にそうするかのように、両手で百合を囲うようにし、しかし触れずにそのまま、そのまま。
騎士が振り返った。
本来ならば怪人が背を向けるという状況だが、翠には確信的にわかった。
絶対に何かマズイ。
騎士はフラフラと周囲を見渡して、はたと気づいたのか、杉の根本にある百合へと目を落とした。
そして這いつくばった。
まるで小さな子猫にそうするかのように、両手で百合を囲うようにし、しかし触れずにそのまま、そのまま。
「ハ、ハハ、フハハハハハハハハハハ!」
大声で笑い始めた。
逃げよう。翠は決意した。
これはヤバい。笑うのは、ヤバい。だから逃げる。が、体が動かない。
逃げよう。翠は決意した。
これはヤバい。笑うのは、ヤバい。だから逃げる。が、体が動かない。
(念動力!)
「こ、この人も……!」
「なんだ!?」
「うわっ!?」
「こ、この人も……!」
「なんだ!?」
「うわっ!?」
四人全員同時に宙を舞う。
その感覚をただ一人理解できたのは翠だけだった。
いわゆるサイコキネシスに近いそれに、自身も同じ系統の力をぶつけて相殺を図る。
その感覚をただ一人理解できたのは翠だけだった。
いわゆるサイコキネシスに近いそれに、自身も同じ系統の力をぶつけて相殺を図る。
「しまった――」
反射的にそれをやってしまってから気がついた。同じ能力者同士ならば、真っ先に警戒するのは当然、同じ能力者であると。
「まずはお前からだ。」
(バリアで――間に合わ」
(バリアで――間に合わ」
ザクリ、と自分の腹に太い剣が差し込まれる。
それと同時に感じた。
この騎士は空っぽだ、と。
それと同時に感じた。
この騎士は空っぽだ、と。
(この、イメージは――)
「離せ!」
「離せ!」
タイガが刀を騎士の甲冑の隙間に差し込む。ジュンの撃った銃弾が胴体へと突き刺さる。
それを全く意に介さず、黄金の騎士は自由になっていたメイ子を再び宙へと上げると、地面へと叩きつけた。これで二人目。
それを全く意に介さず、黄金の騎士は自由になっていたメイ子を再び宙へと上げると、地面へと叩きつけた。これで二人目。
「手ごたえが無い!? グッ……」
剣で刀を断ち切られ、裏拳で殴られタイガが地面を転がる。翠からすれば名も知らぬ変な服の少年が無力化し、これで三人目。
「終わりだ。」
「こんな、ところで。」
「こんな、ところで。」
そして四人目となるジュンが袈裟懸けに斬られる。
都合十五秒。それで四人の参加者が無力化した。
都合十五秒。それで四人の参加者が無力化した。
(あ~アカンは、これ死んだわ。)
もはや指一本も動かせなくなった翠は、ぼうっと黄金の騎士を見ながらどこか他人事に思った。
今までもさんざんわけのわからないことに首を突っ込んだり巻き込まれたりしてきたが、今回だけは運が無かったようだ。いや、判断ミスもある。ふだんなら仲間がカバーしてくれるところが、一人ではどうにもならなかった。別に能力が使えるとかそういうのではなく、物の考え方だとか、気の使い方だとか、そういったところが足りていなかった。
今までもさんざんわけのわからないことに首を突っ込んだり巻き込まれたりしてきたが、今回だけは運が無かったようだ。いや、判断ミスもある。ふだんなら仲間がカバーしてくれるところが、一人ではどうにもならなかった。別に能力が使えるとかそういうのではなく、物の考え方だとか、気の使い方だとか、そういったところが足りていなかった。
(ああ、凛さん。最期にあなたに一目会いたかった……)
「この人……もう、人じゃない……これはむしろ……」
「お前……最期の最期まで……見せ場取るなや……」
「……まだ生きてたんですね……」
「もう、死ぬけどな……」
「この人……もう、人じゃない……これはむしろ……」
「お前……最期の最期まで……見せ場取るなや……」
「……まだ生きてたんですね……」
「もう、死ぬけどな……」
自分でも何故喋れているのかわからない程の血が出ながら翠は喋る。もしかしたら、単にメイ子がテレパシーを受けやすい体質で喋っている気になっているかもしれないが、もうどうでも良かった。
『最期ついでに教えてよ、アイツの正体。付喪神みたいなもんかなって思ったんやけど。』
「さっき……あの人を……『見』ました……すごく、長い時間生きてます……でも、あの人の身体が見えなく、ごぶっ。」
『逆か。元人間ってパターンか。ああ、だからさっきの花か。あれが命の百合なら、永遠の命っていうのは本当ってことか。肉体が滅びても魂は不滅、ってハリウッド映画でなんかあったわ。』
「さっき……あの人を……『見』ました……すごく、長い時間生きてます……でも、あの人の身体が見えなく、ごぶっ。」
『逆か。元人間ってパターンか。ああ、だからさっきの花か。あれが命の百合なら、永遠の命っていうのは本当ってことか。肉体が滅びても魂は不滅、ってハリウッド映画でなんかあったわ。』
納得がいった。ホラー映画みたいな不死身の怪物というわけだ。
得心がいってスッキリすると、いよいよ意識が遠のく。今まで色々な事件に巡り合ってきたからか、いつの間にか真相というものに興味を持つようになっていたようだ、と死の間際に自分の変化に気づく。
それは走馬灯のようなものだろうか。自分が死ぬまでのカウントダウンを、翠はハッキリと知覚していた。
多分次が最後の超能力だ。もうろくにコントロールはできそうにない。もう少し血が出ていなければ、あの命の百合を引き寄せて何かして助かったのかもしれないが、ちょっと無理そうだ。だから。
得心がいってスッキリすると、いよいよ意識が遠のく。今まで色々な事件に巡り合ってきたからか、いつの間にか真相というものに興味を持つようになっていたようだ、と死の間際に自分の変化に気づく。
それは走馬灯のようなものだろうか。自分が死ぬまでのカウントダウンを、翠はハッキリと知覚していた。
多分次が最後の超能力だ。もうろくにコントロールはできそうにない。もう少し血が出ていなければ、あの命の百合を引き寄せて何かして助かったのかもしれないが、ちょっと無理そうだ。だから。
(メグ子、もし凛さんや蘭に会ったら、「翠さんはみんなを守って悪い化物と刺し違えました」とか言っとけよ。こういう死に方すると記憶に残るから。)
最大出力のサイキックを放つ。
狙いと言える制御はできないが、その行き先は黄金の騎士。
ジュンを持ち上げその血を命の百合へと垂らしていた背中に思い切りぶち当てる。
叫びを上げて正面の一本杉へとぶちあたった敵に構わず、より一層強く力を放ちめり込ませていく。
だがそこまでだ。
さっき翠がそうしたように、同じ系統の能力で相殺にかかられる。
最後に一際強く、切り裂くように力を放つも、ダメ。鎧を軽く砕くも、それで痛みを感じている素振りを見せるも、黄金の騎士は止まらない。
狙いと言える制御はできないが、その行き先は黄金の騎士。
ジュンを持ち上げその血を命の百合へと垂らしていた背中に思い切りぶち当てる。
叫びを上げて正面の一本杉へとぶちあたった敵に構わず、より一層強く力を放ちめり込ませていく。
だがそこまでだ。
さっき翠がそうしたように、同じ系統の能力で相殺にかかられる。
最後に一際強く、切り裂くように力を放つも、ダメ。鎧を軽く砕くも、それで痛みを感じている素振りを見せるも、黄金の騎士は止まらない。
(勝った。)
翠は最期にそう思って息絶えた。
そして彼女のサイキックもやみ、黄金の騎士がめり込んだ身体を起こした瞬間。
一本杉はバタリと倒れはじめた。
とっさに避けようとするも、先に木と騎士の間に挟まれて死んだジュンの死体が邪魔になりワンテンポ遅れる。
トンを超える重さを受けて、黄金の甲冑はクシャリと歪む。
最期は叫び声を上げる間もなく、黄金の騎士は動かなくなった。
その身体から流れるように、ジュンだったものの血が地面へと染み込む。
それを受けて命の百合はキラキラと輝く黄金の蜜を花へと湛える。
辺りに芳醇な香りが漂った。
一本杉はバタリと倒れはじめた。
とっさに避けようとするも、先に木と騎士の間に挟まれて死んだジュンの死体が邪魔になりワンテンポ遅れる。
トンを超える重さを受けて、黄金の甲冑はクシャリと歪む。
最期は叫び声を上げる間もなく、黄金の騎士は動かなくなった。
その身体から流れるように、ジュンだったものの血が地面へと染み込む。
それを受けて命の百合はキラキラと輝く黄金の蜜を花へと湛える。
辺りに芳醇な香りが漂った。
【0130 森の中】
【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
主催者をぶちのめして生き残る
【目標】
●大目標
主催者をぶちのめして生き残る
【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
まず死にたくない、話はそれから
【目標】
●大目標
まず死にたくない、話はそれから
【脱落】
【朱堂ジュン@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【黄金の騎士・ゴール@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】
【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【黄金の騎士・ゴール@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】
【残り参加者 275/300】