智科リクトと嘴平伊之助の2人は、我妻善逸の死体からほど近い廃村に来ていた。
野山で獣同然に生きてきた伊之助にとって、血や肉片を辿ることは造作もない。更に周囲にはいくつもの同じ足跡や不自然に倒された下草がある。容易に見つかったそこは、まるで人の気配を感じない無人の村。伊之助から見れば先進的な、リクトから見れば旧時代的な村だが、伊之助が気になったのは視覚ではなく嗅覚に訴えるものであった。
野山で獣同然に生きてきた伊之助にとって、血や肉片を辿ることは造作もない。更に周囲にはいくつもの同じ足跡や不自然に倒された下草がある。容易に見つかったそこは、まるで人の気配を感じない無人の村。伊之助から見れば先進的な、リクトから見れば旧時代的な村だが、伊之助が気になったのは視覚ではなく嗅覚に訴えるものであった。
「血のにおいが強くなった。火薬のにおいもだ。」
不機嫌さを隠しもしない言い方でずんずん進む。直ぐに臭いの元は2人の前に現れた。
先に伊之助と会っていなければ目を疑っていただろう。リクトが見たところ、馬か何かの着ぐるみの上から警備員の制服を着たような巨体だった。首は無く、体の各所に銃で撃たれたような跡がある。そして首輪には一発の銃弾が撃ち込まれていて、全身が硬直していた。
先に伊之助と会っていなければ目を疑っていただろう。リクトが見たところ、馬か何かの着ぐるみの上から警備員の制服を着たような巨体だった。首は無く、体の各所に銃で撃たれたような跡がある。そして首輪には一発の銃弾が撃ち込まれていて、全身が硬直していた。
「死後硬直かな? 銃で撃ったあとに首をはねた。」
また血の気が下がる感覚を覚えながら、冷静になるように努めてリクトは言う。自分にできることは科学の知識を使うこと。人間なのかも怪しい死体ではどこまでやれるかはわからないがやるべきことはやる、そう気合を入れ直すリクトの耳に聞こえたのは、底冷えするような「違う」という伊之助の声。
「首ハネてから撃ったんだろ。善逸と同じで手足の傷から血がほとんど出てねえ。なのに、首の周りは血まみれになってやがる。」
「なるほど……」
「なるほど……」
伊之助の言葉に感嘆と嫌悪が混じった声をあげた。
大して身の上話などしていないが、伊之助の言葉には説得力を感じさせる凄みがあった。獣として生きてきた経験から、生き物と死肉の血の流れ方は安全な食事に直結するため理解している。ゆえにわかる。
大して身の上話などしていないが、伊之助の言葉には説得力を感じさせる凄みがあった。獣として生きてきた経験から、生き物と死肉の血の流れ方は安全な食事に直結するため理解している。ゆえにわかる。
「この鉄砲ヤローは死体を撃ちやがった。善逸も同じヤローに殺されたんだ」
怒気を顕にした声に、リクトにかける言葉は無かった。
死体が残っていることから鬼ではないのだろうが、この頸を撥ねたのは善逸だと直感で理解していた。鬼殺隊でもなければ頸などそうそう撥ねられないからだ。そして、2つの死体には同じ大きさの銃の傷があった。なら、状況は簡単だ。
おそらく善逸は馬人間と戦っていた。そして頸を撥ねたところを銃で撃たれた。耳の良い善逸なので、隠れ潜む相手に気づかないはずがない。撃たれないと思った相手でなければ、躱せないということはないだろう。
つまり、善逸は騙し打ちされた。味方だと思っていた相手に撃たれ、死んだ後まで撃って壊された。状況を五感で分析すると、伊之助はそう結論づけた。
死体が残っていることから鬼ではないのだろうが、この頸を撥ねたのは善逸だと直感で理解していた。鬼殺隊でもなければ頸などそうそう撥ねられないからだ。そして、2つの死体には同じ大きさの銃の傷があった。なら、状況は簡単だ。
おそらく善逸は馬人間と戦っていた。そして頸を撥ねたところを銃で撃たれた。耳の良い善逸なので、隠れ潜む相手に気づかないはずがない。撃たれないと思った相手でなければ、躱せないということはないだろう。
つまり、善逸は騙し打ちされた。味方だと思っていた相手に撃たれ、死んだ後まで撃って壊された。状況を五感で分析すると、伊之助はそう結論づけた。
「銃持ってるヤローが善逸殺したヤローだ。探すぞ!」
言うが早いが伊之助は刀を地面に突き刺して、両手を広げた。
『漆ノ型 空間識覚』。
伊之助だけが使える獣の呼吸により、元から高い触覚の感覚を極限まで高める技術である。
それは今までも何度か使ってきたが、今回の空間識覚は常よりもなお鋭く気配を読み取る。赤い霧の阻害も、生き物が全くいない森という好条件で無理矢理にねじ伏せて、全集中により捉えた。
感知範囲ギリギリに動く気配。
『漆ノ型 空間識覚』。
伊之助だけが使える獣の呼吸により、元から高い触覚の感覚を極限まで高める技術である。
それは今までも何度か使ってきたが、今回の空間識覚は常よりもなお鋭く気配を読み取る。赤い霧の阻害も、生き物が全くいない森という好条件で無理矢理にねじ伏せて、全集中により捉えた。
感知範囲ギリギリに動く気配。
「誰かいるぞ! リクト! 着いて来い!」
そうと決まれば、猪突猛進しようとして。
「待ってください! お願いがあります!」
「あぁ!? 後にしろ!」
「あぁ!? 後にしろ!」
刀を抜いて駆け出した伊之助は、思いっきりつんのめった。
ガラの悪い叫びを浴びせる。元々あってないような堪忍袋の緒は善逸の死によりマカロニより短くなっている。少し前の自分なら置いてってると思いながら次の言葉を待てば、リクトは馬人間の死体を指差した。
ガラの悪い叫びを浴びせる。元々あってないような堪忍袋の緒は善逸の死によりマカロニより短くなっている。少し前の自分なら置いてってると思いながら次の言葉を待てば、リクトは馬人間の死体を指差した。
「秀人! みんなとさっき会ったところで待ってて!」
そう言い残すと、シスター・クローネは本気で走り出した。体形からは想像もつかないような本格的な走りに、追われている次元大介は目を剥く。
なんであんなメイド服みたいな格好で、足場の悪い暗い森をマラソンランナーのような速度で走りながら銃を撃てるんだ。
なんであんなメイド服みたいな格好で、足場の悪い暗い森をマラソンランナーのような速度で走りながら銃を撃てるんだ。
「くそーっ、傷が開いちまってきたぞ。」
悪態をつきながらジグザグに、それでいて距離を稼ぐように走る。先の廃村でのダメージが残っている中でこのクロスカントリーは流石に堪える。おまけに相手は走りながらでも正確な銃撃を加えてくる。しばらく走ったが、逃走に専念させてもらえない。
こうなっては仕方がない、殺す気はないが痛い目で黙らせてやろうとも思うが、手負いで帽子もない自分では、一発で黙らせられないため却下だ。バッドコンディションですぐに無力化できるほど甘い相手ではない。
こうなっては仕方がない、殺す気はないが痛い目で黙らせてやろうとも思うが、手負いで帽子もない自分では、一発で黙らせられないため却下だ。バッドコンディションですぐに無力化できるほど甘い相手ではない。
「うおおおおお! 猪突猛進! 猪突猛進!!」
「なにっ。」
「なんだぁっ。」
「なにっ。」
「なんだぁっ。」
どうするべきか、そう悩む次元の横合いから聞こえてきたのは、やたら気合の入った奇声。なにかめんどくさいのがまた来てるともうげんなりしてるが、藪から顕れたそれを見て、次元は咥え煙草をしていたら落としたであろうほどに口をぽかんと開けた。
頭はイノシシだろうか。獣の頭にムキムキの上半身、和服っぽい下半身の、二刀流男。エキセントリックな格好をしているやつがエントリーしてきた。その頭には、なぜか落としたはずの次元愛用の帽子を被っている。そして腕輪のように、血のついた首輪を着けていた。
頭はイノシシだろうか。獣の頭にムキムキの上半身、和服っぽい下半身の、二刀流男。エキセントリックな格好をしているやつがエントリーしてきた。その頭には、なぜか落としたはずの次元愛用の帽子を被っている。そして腕輪のように、血のついた首輪を着けていた。
「猪突猛進だからイノシシなのか?」
「お前ら! 金髪のいけすかねえヤロー見なかったか!」
「お前ら! 金髪のいけすかねえヤロー見なかったか!」
そして開口一番、叫んだ。両手の刀をそれぞれに向ける。思わず終わっていた追いかけっこ、クローネと視線が交差する。木陰に隠れながらどう返答すべきかを考えたのは、次元の一番の失敗だった。
「金髪の男の子なら見かけたわ!」
次元がなにか言うより早くクローネは叫び返した。クローネは善逸より伊之助の情報を得ている。おおかた仲間の仇討ちにでも来たのだろうと、必要最低限のことを言った。死に目にあったことを話してお前が殺したなどと疑われればたまらない。
「ああ、さっき襲われたぜ!」
一方の次元は、伊之助の「いけすかねえヤロー」という彼なりの言葉、廃村に亡くしてきた帽子、そして腕の首輪から、自分と同じように廃村で襲われたと判断した。あの廃村には自分たちより先に誰かがいたことは、帽子を探しがてら見つけた足跡でわかっている。一度逃げてから次元と入れ替わりでもう一度廃村に行ったのだろうと思い、嫌な予感を感じた。
(──そういやあの足跡って、渡辺直美の──)
「『捌ノ型 爆裂猛進』!!」
咄嗟に飛び退いた、自分の体が見えた。
隠れていた木ごと頸をぶった斬られている。
隠れていた木ごと頸をぶった斬られている。
「──チックショウ、ドジ踏んだぜ。」
「土に還れ。」
「土に還れ。」
らしくないミスを重ねた。そう後悔するが、あまりにも遅い。
走馬灯すら見る間もない、神速の踏み込み。
上弦の陸・堕姫すらも驚愕させた、善逸の霹靂一閃に匹敵する高速移動。
かすかに五エ門の顔が浮かび、次いでルパンの顔が浮かんで、次元の意識は闇に落ちた。
走馬灯すら見る間もない、神速の踏み込み。
上弦の陸・堕姫すらも驚愕させた、善逸の霹靂一閃に匹敵する高速移動。
かすかに五エ門の顔が浮かび、次いでルパンの顔が浮かんで、次元の意識は闇に落ちた。
「ハァ……ハァ……伊之助さん、速すぎるよ……どこ行ったんだろう。」
同じころ、リクトは廃村から少しした森を、善逸の日輪刀を抱えて走っていた。
彼が伊之助を呼び止め頼んだのは、馬人間から首輪を外すことだった。これから先、首輪の解除のためにはサンプルが必要だ。とはいえ生きた人間から取るわけにはいかないし、人間でなかろうと生き物から取るわけにも、死んでいようと人間から取るわけにもいかない。
ゆえに、『死んだ化物』から首輪を取るというのは、リクトの中でギリギリのラインだった。
調べたところ、キグルミでも伊之助のような被り物でもなく、本当に特撮に出てきそうな怪人だった。それだけで充分科学的な興味はそそられるが、それより大事なのは首輪だ。
彼が伊之助を呼び止め頼んだのは、馬人間から首輪を外すことだった。これから先、首輪の解除のためにはサンプルが必要だ。とはいえ生きた人間から取るわけにはいかないし、人間でなかろうと生き物から取るわけにも、死んでいようと人間から取るわけにもいかない。
ゆえに、『死んだ化物』から首輪を取るというのは、リクトの中でギリギリのラインだった。
調べたところ、キグルミでも伊之助のような被り物でもなく、本当に特撮に出てきそうな怪人だった。それだけで充分科学的な興味はそそられるが、それより大事なのは首輪だ。
「取ったらソッコー行くからな! 首輪は持ってくからな!」
「ナムアミダブツナムアミダブツ……わかりました。」
「ナムアミダブツナムアミダブツ……わかりました。」
見様見真似のお経を上げて、「取れた!」という声で目を開けたときには「猪突猛進!」と走り出していた。慌てて追いかけるも、さっきのような超感覚で探し出せると思っている伊之助は無視して行ってしまった。元々善逸の死でいつもよりなお猪突猛進だったのだ、呼び止めて協力してもらえただけでも、初対面の人間としては奇跡の部類にはいる。
「あの〜……」
「うわ!」
「うわ!」
と、息を整えつつ足を止めたところに声がかかる。キョロキョロと見渡すと、木の影から女の子が覗いていた。
彼女の名前は二神・C・マリナ。
今まさにリクトの同行者、伊之助によってかつての同行者、次元を殺されている少女である。
彼女の名前は二神・C・マリナ。
今まさにリクトの同行者、伊之助によってかつての同行者、次元を殺されている少女である。
【0222 廃村周辺の森】
【嘴平伊之助@鬼滅の刃ノベライズ ~遊郭潜入大作戦編~(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
クソウサギをぶっ飛ばす!
●中目標
リクトを守る。
●小目標
デブ(クローネ)から話を聞く。
【目標】
●大目標
クソウサギをぶっ飛ばす!
●中目標
リクトを守る。
●小目標
デブ(クローネ)から話を聞く。
【脱落】
【次元大介@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】