寂れた公園の遊歩道。
これまた錆だらけの滑り台を目にして、三谷亘は信じられない物を見た目で立ち尽くしていた。
これまた錆だらけの滑り台を目にして、三谷亘は信じられない物を見た目で立ち尽くしていた。
(ここ……現世(うつしよ)じゃないよな?)
辺りに真っ赤な霧がかかっていることを除けば、どちらかというとワタルが生まれ育った世界に似ている。
しかし、自分の帽子は幻界(ヴィジョン)で、ラウ導師から勇者の装備として承ったものだ。
辺りに真っ赤な霧がかかっていることを除けば、どちらかというとワタルが生まれ育った世界に似ている。
しかし、自分の帽子は幻界(ヴィジョン)で、ラウ導師から勇者の装備として承ったものだ。
ワタルは異世界に飛ばされたのは、これが初ではない。
消えた転校生のミツルを追って、幻界にやってきた。
そして自分の家族を取り戻すための宝玉を集める傍ら、幻界のあちこちに厄災を齎すミツルを追って、皇都ゾレブリアにやって来たと思いきや、別の世界に飛ばされていた。
消えた転校生のミツルを追って、幻界にやってきた。
そして自分の家族を取り戻すための宝玉を集める傍ら、幻界のあちこちに厄災を齎すミツルを追って、皇都ゾレブリアにやって来たと思いきや、別の世界に飛ばされていた。
自分の服を擦ってみると、手触りは勇者の服のそれだ。
最後にポケットをいじってみる。
中には見慣れない紙が折りたたまれてはいっていた。
最後にポケットをいじってみる。
中には見慣れない紙が折りたたまれてはいっていた。
『二本足ノ木ノ左足、緑ノ脛当テヲ破ケ。』
紙には雑な字でそのように書かれていた。
どこかラウ導師の試練に似ているような気もする。
紙には雑な字でそのように書かれていた。
どこかラウ導師の試練に似ているような気もする。
(あの辺りだよな……。)
公園から少し離れた場所に森が広がっていた。
何言っているのかさっぱりだが、木と書いてあったのでそこに行けと書いてあることだけは伝わった。
公園から少し離れた場所に森が広がっていた。
何言っているのかさっぱりだが、木と書いてあったのでそこに行けと書いてあることだけは伝わった。
(しかし『二本足の木』って何だ?お化けの木でもあるのか?)
しかし探せど探せど、二本足の木など全く見当たらない。
諦めて他の場所へ行こうか考えていると、不意に木の根につまずいて転びそうになった。
しかし探せど探せど、二本足の木など全く見当たらない。
諦めて他の場所へ行こうか考えていると、不意に木の根につまずいて転びそうになった。
八つ当たり気味にその木を蹴とばしてやろうかと思ったが、それどころではないことに気付いた。
隣に、ほとんど同じ長さの木がある。
隣に、ほとんど同じ長さの木がある。
(二本足の木の左側、もしやこれのことか?)
しかし、問題はまだあった。
しかし、問題はまだあった。
(緑の脛当てって何だ?上の葉っぱのこと?それにこの漢字、何て読むんだ?)
まだ小学五年生でしかないワタルは、『脛』の漢字が読めなかった。
まだ小学五年生でしかないワタルは、『脛』の漢字が読めなかった。
(こんなことになるなら、もう少し漢字の勉強をしておくべきだったなあ……。)
兎に角怪しい部分を手探りで調べていくことにする。
そうしている内に、手触りが違う所を裏側に見つけた。
兎に角怪しい部分を手探りで調べていくことにする。
そうしている内に、手触りが違う所を裏側に見つけた。
(もしや……緑のナントカ当てって、これか!!)
木の幹にへばりついた、大きな苔を払うと、中に木刀が収められていた。
ぶんぶんと何度か振ってみると、それが非常に使いやすいものだと確信した。
武器のデザインこそ異なるが、その格好は幻界を冒険した時とそっくりだ。
木の幹にへばりついた、大きな苔を払うと、中に木刀が収められていた。
ぶんぶんと何度か振ってみると、それが非常に使いやすいものだと確信した。
武器のデザインこそ異なるが、その格好は幻界を冒険した時とそっくりだ。
(ミツルやキ・キーマ達もここにいるのか?)
最初の任務を完遂し、ある程度思考が自由になると、不意に思い出したのは、幻界で会った仲間たち。
それに、自分が追いかけており、同じように幻界で失ったものを取り戻そうとしていたミツル。
最初の任務を完遂し、ある程度思考が自由になると、不意に思い出したのは、幻界で会った仲間たち。
それに、自分が追いかけており、同じように幻界で失ったものを取り戻そうとしていたミツル。
ひとまず、目標を知り合いの捜索、次いで脱出に決め、森から出ることにした。
出口を探していると、目に入ったのは全身を白で覆われた女性だった。
顔の文様や肌の異様なまでの白さから、どう見てもただの人間には思えない。
恰好はどこか社会の教科書で見た、昔の人が着ていた服を着こんでいる。
顔の文様や肌の異様なまでの白さから、どう見てもただの人間には思えない。
恰好はどこか社会の教科書で見た、昔の人が着ていた服を着こんでいる。
「ちょっと、そこの君。累って子を見なかった?私と似たような姿をした男の子なんだけど。」
人間の言葉を話し気さくに話しかけて来る女性に、安堵を覚える。
人間の言葉を話し気さくに話しかけて来る女性に、安堵を覚える。
「ごめん、ここで初めて会ったのは君なんだ。良かったら一緒に探さない?」
これまでのように普通に言葉を返すが、それから相手が返したのは言葉だけではなかった。
「ならいいわ。死になさい!!」
これまでのように普通に言葉を返すが、それから相手が返したのは言葉だけではなかった。
「ならいいわ。死になさい!!」
突然豹変した女性に、剣を抜く暇もなかった。
――血鬼術 溶解の繭
女性は口から束ねた蜘蛛の糸のようなものを吐き出した。
瞬く間にそれはワタルを中心に球状に固まり、閉じ込めてしまう。
瞬く間にそれはワタルを中心に球状に固まり、閉じ込めてしまう。
「出せ!!出せ!!」
ワタルは木刀を振り回すも、ゴムでも叩いているような感触を覚え、全く破れない。
ワタルは木刀を振り回すも、ゴムでも叩いているような感触を覚え、全く破れない。
「その糸は柔らかくて硬いのよ。そのまま溶けて、私の餌になってしまいなさい。」
☆
そのまま女性―とある蜘蛛鬼の姉は何処か別の場所へ消えていった。
残されたのは、繭の中に閉じ込められたワタルだけだった。
そうこうしているうちに、服が次第に溶けていく。
残されたのは、繭の中に閉じ込められたワタルだけだった。
そうこうしているうちに、服が次第に溶けていく。
(みんな……ごめん。)
これまでか、と思ったその時だった。
何者かが、繭を斬り裂いた。
これまでか、と思ったその時だった。
何者かが、繭を斬り裂いた。
彼女、姉蜘蛛の作る繭は、主に刀を用いて戦う鬼殺の剣士を倒すために作られたもの。
加えて、その頑丈さは外側よりも内側からの斬撃に対して発揮する。
従って、刀とは異なる形状の武器で、外側から攻撃を加えれば意外なほど容易に切れる。
加えて、その頑丈さは外側よりも内側からの斬撃に対して発揮する。
従って、刀とは異なる形状の武器で、外側から攻撃を加えれば意外なほど容易に切れる。
例えば、刀身の細い剣。
例えば、猛獣の爪。
例えば、猛獣の爪。
済んでの所で繭から出られたワタルの目に入ったのは、巨大な虎だった。
「!!!??!?」
言葉にならない叫びをあげていた所、虎は言葉を紡いだ。
言葉にならない叫びをあげていた所、虎は言葉を紡いだ。
「危ない所だった。」
「え!?」
人でない見た目の者から人の言葉を聞いた経験は、これが初めてではなかったが、それでも驚いてしまった。
「え!?」
人でない見た目の者から人の言葉を聞いた経験は、これが初めてではなかったが、それでも驚いてしまった。
今度は虎は何をするかと思いきや、爪の先に引っかけられていた袋を出し、ワタルに渡した。
「虎の身には必要ない。着ると良い。」
ワタルは自分がほとんど裸に近い姿になっていた。
繭の溶解液によって、いつの間にかこうなっていた。
それが分かると、見ているのが虎だけだとしても、どうにも恥ずかしくなる。
ワタルは自分がほとんど裸に近い姿になっていた。
繭の溶解液によって、いつの間にかこうなっていた。
それが分かると、見ているのが虎だけだとしても、どうにも恥ずかしくなる。
慌てて服を着ることにする。少し大きかったが、この際贅沢は言ってられない。
それはワタルには知る由もないことだが、彼とは異なる時代の人間が、鬼を殺すために作られた服であった。
水にぬれにくく燃えにくい上に、生半可な刃では斬り裂くことも出来ない。
それはワタルには知る由もないことだが、彼とは異なる時代の人間が、鬼を殺すために作られた服であった。
水にぬれにくく燃えにくい上に、生半可な刃では斬り裂くことも出来ない。
そこまでは分からなかったが、ワタルにもその服の安心感は伝わった。
「さっきはありがとうございました。ぼく、三谷亘って言います。あなたは、誰なんですか?」
服を着ると少し気持ちが落ち着き、虎に話しかけた。
服を着ると少し気持ちが落ち着き、虎に話しかけた。
「自分は隴西の李徴であった。」
「ロウセイ……?リチョウ……?」
聞き覚えの無い言葉に、ワタルはこれまでとは別の理由で戸惑う。
「ロウセイ……?リチョウ……?」
聞き覚えの無い言葉に、ワタルはこれまでとは別の理由で戸惑う。
「まあ、今となればどうでもいいことだ。」
「そんなことありません!!名前って、良く言えませんが、大切なものだと思います!!」
「そんなことありません!!名前って、良く言えませんが、大切なものだと思います!!」
李徴と名乗った虎は、突然自嘲気味に言葉を零した。
それをワタルは否定する。
この時、彼はこの虎はこんな戦いに巻き込まれたことで、自棄になったのだと思っていた。
だが、次の言葉でそうではなかったことを知らされる。
それをワタルは否定する。
この時、彼はこの虎はこんな戦いに巻き込まれたことで、自棄になったのだと思っていた。
だが、次の言葉でそうではなかったことを知らされる。
「李徴と言うのは己(おれ)が人の身であった時の名前。己は人の身捨てた、一匹の哀れな虎でしかない。」
「どうして……。」
ワタルは事実を聞くと、更に探りたくなった。
幻界を冒険した時にキ・キーマやミーナのように、動物の姿をしながら人の言葉を喋る者には会ったが、人から獣に姿を変えた者などあったことは無かった。
「どうして……。」
ワタルは事実を聞くと、更に探りたくなった。
幻界を冒険した時にキ・キーマやミーナのように、動物の姿をしながら人の言葉を喋る者には会ったが、人から獣に姿を変えた者などあったことは無かった。
「分らぬ。全く何事も己には判らぬ。」
「……。」
「……。」
そう言われて、返す言葉に詰まってしまった。
確かに、全てわかれば苦労はいらない。
世のなかを生きる内には、知らない内に理不尽に巻き込まれていることだってある。
確かに、全てわかれば苦労はいらない。
世のなかを生きる内には、知らない内に理不尽に巻き込まれていることだってある。
自分の母が突然家でガスの元栓を開き、自殺未遂をした経験があるワタルだからこそ思えることだ。
「あの……良ければ僕と一緒に行きませんか?これから友達を探しに行こうと思うんですが……。」
どう言葉を返せばいいのか分からなくて、話のスジを変えてこれからのことを話すことにした。
「それは叶わぬ。」
しかし、李徴はワタルの提案を、すぐに否定した。
しかし、李徴はワタルの提案を、すぐに否定した。
「己が人間の心が還ってくるのは、1日のうちほんの数時間だけだからだ。それさえ過ぎれば、虎として汝を喰うかもしれぬ。先刻もあの怪しい繭を破ったのは、汝を助ける為ではなく、己の生きる糧を見つける為かもしれぬのだ。」
ぞくりとワタルの背筋に悪寒が走った。
それが悪いことだと分かっていても、脊髄は正直だった。
それが悪いことだと分かっていても、脊髄は正直だった。
「そうだ。もし袁参という名の者に会えれば己のことを話してくれ。この世界にいるかもしれぬ。」
「あ……あの……。」
「あ……あの……。」
ワタルが呼び止めようとした。
だが、その先の言葉も浮かばないまま、虎は見えぬほど遠くまで行ってしまった。
結局、ワタルは彼を追いかけることは出来なかった。
だが、その先の言葉も浮かばないまま、虎は見えぬほど遠くまで行ってしまった。
結局、ワタルは彼を追いかけることは出来なかった。
彼は、そんな李徴にどこか既視感を覚えていた。
強い力を持っていながら、負の感情を抱え、周りの全てを破滅させて進もうとする、彼の同級生に。
ソノの港で最後に出会った、同じ現世からの冒険者、芦川ミツルに。
それを思い出さずにはいられないくらい、あの虎は寂しげな眼をしていた。
強い力を持っていながら、負の感情を抱え、周りの全てを破滅させて進もうとする、彼の同級生に。
ソノの港で最後に出会った、同じ現世からの冒険者、芦川ミツルに。
それを思い出さずにはいられないくらい、あの虎は寂しげな眼をしていた。
(あの人も、ひとりだったのだろうか……。)
誰からも救われず、生き方を教えてもらえなくて、周りを破滅させるしか生き方を見つけられない。
誰からも救われず、生き方を教えてもらえなくて、周りを破滅させるしか生き方を見つけられない。
人ならざる魔法を得て、周りを喰いながら進むミツル
人ならざる姿に成り、周りを食いながら進む李徴。
人ならざる姿に成り、周りを食いながら進む李徴。
目的の有無の違いはあれど、どこか同じような気がしてならなかった。
自分がやらなければいけないことは山ほどある。
あの白い女の姿をした化け物に気を付けながら、仲間を探し、この世界から脱出する。
そのはずなのに、ワタルはしばらく立ち尽くしていた。
あの白い女の姿をした化け物に気を付けながら、仲間を探し、この世界から脱出する。
そのはずなのに、ワタルはしばらく立ち尽くしていた。
【0130後 公園付近の森】
【三谷亘@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
脱出する
●小目標
怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す
【目標】
●大目標
脱出する
●小目標
怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す
【李徴@山月記(4)山月記・李陵 中島敦 名作選 @角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標(人間の心の場合)
誰も殺さぬように隠れる
●小目標(人間の心の場合)
危険人物がいた時だけ、食い殺す
【目標】
●大目標(人間の心の場合)
誰も殺さぬように隠れる
●小目標(人間の心の場合)
危険人物がいた時だけ、食い殺す
●大目標(獣の心の場合)
己の飢えを満たすために、食い続ける
己の飢えを満たすために、食い続ける
【姉蜘蛛@鬼滅の刃 ノベライズ~きょうだいの絆と鬼殺隊編~(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
累がいるか確認。いるにしろいないにしろ優勝を目指す
●小目標
人を食いながら、生き続ける
【目標】
●大目標
累がいるか確認。いるにしろいないにしろ優勝を目指す
●小目標
人を食いながら、生き続ける