都市部の一角には駅舎がある。いわゆる駅ビルというものだ。たいした大きさではないが数階建てのものが駅にくっついている。その中の最上階にある書店で、宮美四月は目を覚ました。
四月と書いて、しづき、と読む。ストレートの黒髪ロングに眼鏡というルックスは、そこが書店であることもあって文学少女という格好だ。じっさい、四月は読書が趣味である。なので最初、自分が見知らぬ書店にいることを理解しつつも、本の読み過ぎで変な夢を見たのだと思った。
あの、誰かいませんか? そう声を出そうとして、口をパクパクさせる。電気はついているのに客の姿どころか店員も見えないことに、言葉が出てこない。どこかふわふわとした感じで店の外まで歩いてみる。そしてなんとなく出口に置かれた消毒液で手をもみながらエスカレーターまで行って、アクリル板に反射した自分と目があった。
四月と書いて、しづき、と読む。ストレートの黒髪ロングに眼鏡というルックスは、そこが書店であることもあって文学少女という格好だ。じっさい、四月は読書が趣味である。なので最初、自分が見知らぬ書店にいることを理解しつつも、本の読み過ぎで変な夢を見たのだと思った。
あの、誰かいませんか? そう声を出そうとして、口をパクパクさせる。電気はついているのに客の姿どころか店員も見えないことに、言葉が出てこない。どこかふわふわとした感じで店の外まで歩いてみる。そしてなんとなく出口に置かれた消毒液で手をもみながらエスカレーターまで行って、アクリル板に反射した自分と目があった。
「――!?」
息を飲む。
薄汚れた、鏡でもない傷だらけの板に写った自分は、夢で見た中の世界の人物が着けていた首輪と同じものを着けていた。
ピンク色のそれは、なかなかのサイズだ。今まで気づかなかったことが不自然なほどに。
薄汚れた、鏡でもない傷だらけの板に写った自分は、夢で見た中の世界の人物が着けていた首輪と同じものを着けていた。
ピンク色のそれは、なかなかのサイズだ。今まで気づかなかったことが不自然なほどに。
「はぁ……はぁ……!」
言葉が出ない。
俯きそうになる。
足まで止まりそうになり、それが怖くてエスカレーターを駆け下りる。
ビル内にはまるで人影が無い。
なんで、どうして、そして。
俯きそうになる。
足まで止まりそうになり、それが怖くてエスカレーターを駆け下りる。
ビル内にはまるで人影が無い。
なんで、どうして、そして。
「あ。」
「っ。ちょっと、そこのあなた。」
「っ。ちょっと、そこのあなた。」
何かに追いかけられている気分でビルから出たところで、道の先を歩いてくる少女と目があった。
全身がピンクのゴスロリである。
お姫様のようなピンクのフリフリ、ドレスにはこれでもかとフリルとリボンが付けられていて、頭にも大きなリボンをしている。
そして首には、四月と同じように首輪を着けていた。
全身がピンクのゴスロリである。
お姫様のようなピンクのフリフリ、ドレスにはこれでもかとフリルとリボンが付けられていて、頭にも大きなリボンをしている。
そして首には、四月と同じように首輪を着けていた。
「――あらためまして、わたしは秋野真月です。お恥ずかしい話ですが、道に迷ってしまって……あなたは?」
「……み、宮美、しづっ、四月です。」
「……み、宮美、しづっ、四月です。」
名前を名乗るだけでかみかみな自分に嫌な気分になりながら、四月は真月の後ろについて歩く。
無人の街はキラキラしたネオンに照らされているのに、灰色に冷たく感じる。だから真月の大きすぎるリボンがやけに目立って見えた。
四月が出会った少女、真月は、ポケットから出した紙片の場所へと向かう気だったとのことで、二人はなんとなくそちらに向かっていた。名前を名乗ることすら後回しにして、しばらく無言で歩いて、つい今さっき、真月は振り返らずに名乗った。
誰もいない街に、二人分の足音が響く。
静かだった。
驚くぐらいに、うるさくない。
店先から聞こえるBGMが、音量で言えばうるさいはずなのに、やけに小さく聞こえた。
無人の街はキラキラしたネオンに照らされているのに、灰色に冷たく感じる。だから真月の大きすぎるリボンがやけに目立って見えた。
四月が出会った少女、真月は、ポケットから出した紙片の場所へと向かう気だったとのことで、二人はなんとなくそちらに向かっていた。名前を名乗ることすら後回しにして、しばらく無言で歩いて、つい今さっき、真月は振り返らずに名乗った。
誰もいない街に、二人分の足音が響く。
静かだった。
驚くぐらいに、うるさくない。
店先から聞こえるBGMが、音量で言えばうるさいはずなのに、やけに小さく聞こえた。
「……わたしは、変な夢を見ていたんです。ええ、少し疲れがあったのかもしれませんね。さっき見たばかりなのに、もう思い出せなくて……今も、少し疲れ目みたいで。視界が赤みがかって見えるんです。」
「……うん。」
「……着きましたね。」
「……うん。」
「……着きましたね。」
言葉少なく、真月は足を止めた。
しばらく、それでも数分もせずに着いたそこには、ビデオという大きくて派手な文字と、時間と値段が書かれている。
そこで初めて、真月は振り返った。ここまで早足で歩き続けてきて、初めてだ。
しばらく、それでも数分もせずに着いたそこには、ビデオという大きくて派手な文字と、時間と値段が書かれている。
そこで初めて、真月は振り返った。ここまで早足で歩き続けてきて、初めてだ。
「は、入ろうか。」
「ええ、そうですね。」
「……」
「じゃあ、行きましょうか。」
「ええ、そうですね。」
「……」
「じゃあ、行きましょうか。」
トン、とゆっくり真月は一歩踏み出した。派手な外装とは裏腹に、店内へ続く登り階段は更に明るすぎるほどに明るい。なんでこんなにピカピカしてるんだろうと思いながら、自動ドアを抜ける。ここには悠久の玉というものがある、と書かれている。それが何なのかはわからないが、この異様な状況の真実を知る一つの助けにはなるだろう。そう、殺し合いという悪夢の。
「「え。」」
そして二人は硬直した。
店内の壁に貼られていたポスターには、裸の女性がデカデカと飾られていた。
サッカー選手の服を着た女性がヤクザっぽい女性に尻をイジられているポスター。
色黒の女性と色白の女性がどこかの窓際で股間をイジるポスター。
神々しい女性とマジメそうな女性が室内でくつろいでいるポスター。
地下室らしき場所でスレンダーな女性が縛られ、汚い男により口に白い布を押し込まれているポスター。
三枚目はともかく、この場所に貼られているのはどれもこれも、端的に言ってイヤらしい、というか、明らかに「そういう」ポスターであった。
店内の壁に貼られていたポスターには、裸の女性がデカデカと飾られていた。
サッカー選手の服を着た女性がヤクザっぽい女性に尻をイジられているポスター。
色黒の女性と色白の女性がどこかの窓際で股間をイジるポスター。
神々しい女性とマジメそうな女性が室内でくつろいでいるポスター。
地下室らしき場所でスレンダーな女性が縛られ、汚い男により口に白い布を押し込まれているポスター。
三枚目はともかく、この場所に貼られているのはどれもこれも、端的に言ってイヤらしい、というか、明らかに「そういう」ポスターであった。
「おいどこ行ってたんだよ。店員さーん、おあそびほしいんだけ、ど……」
「ひいっ!」「きゃあっ!」
「ひいっ!」「きゃあっ!」
そして現れたのは、汚いおっさんだった。
三十歳ぐらいだろうか、ボサボサの髪に無精髭。ヨレヨレのジャージに、便所サンダルっぽい靴。首には黒い首輪。
そして手には、アダルトビデオが握られていた。
『女子校生監禁72時間』。
三十歳ぐらいだろうか、ボサボサの髪に無精髭。ヨレヨレのジャージに、便所サンダルっぽい靴。首には黒い首輪。
そして手には、アダルトビデオが握られていた。
『女子校生監禁72時間』。
「「変態だぁーっ!?」」
「え、子どもが何でこんな所に……君たち――」
「に、逃げましょう!」
「うん!」
「ちょ、待てよ!」
「え、子どもが何でこんな所に……君たち――」
「に、逃げましょう!」
「うん!」
「ちょ、待てよ!」
四月と真月は走った。
振り返らずに走った。
たかだか十二年しか生きていなくてもわかった。
あそこはとてもまずい場所で、そこにいたあのおっさんはヤバい人なのだと。
振り返らずに走った。
たかだか十二年しか生きていなくてもわかった。
あそこはとてもまずい場所で、そこにいたあのおっさんはヤバい人なのだと。
「交番があったわ! 人もいる! すみません!」
真月の声に、チラチラ振り返るのをやめて前だけ見る。今のところ、男性は追いかけて来ない。あのサンダルではうまく走れないだろう。もし今から追いかけられても、交番に駆け込む方が早い。
運動不足で運動音痴な四月では百メートル先に見えた交番まで走るのにも時間はかかるが、それでもなんとか辿り着く。ゼェゼェと息をつく二人を出迎えたのは、二十歳半ばの男性だ。また男の人で二人の間に緊張が走る。体格もいい。まさか、この人も変態なのでは……
運動不足で運動音痴な四月では百メートル先に見えた交番まで走るのにも時間はかかるが、それでもなんとか辿り着く。ゼェゼェと息をつく二人を出迎えたのは、二十歳半ばの男性だ。また男の人で二人の間に緊張が走る。体格もいい。まさか、この人も変態なのでは……
「あ、あの、すみません、わたしたち……」
「待て……お前ら、俺が見えんのか?」
「ええ……え?」
「マジかよオイオイ……なあ、お前ら、死神か?」
「ちょ、ちょっと、こまります!」
「待て……お前ら、俺が見えんのか?」
「ええ……え?」
「マジかよオイオイ……なあ、お前ら、死神か?」
「ちょ、ちょっと、こまります!」
ずい、と男が近づいてくる。だけではなく、ベタベタと真月の体を触る。手を掴んで自分の体を触らせる。四月にも同じように触り、触らせる。
嫌だ、そう思っても息切れと恐怖で体が動かない。客商売をしている真月は抵抗できているが、男性が苦手な四月はただただ体を固くして耐えることしかできない。
ギュッと目をつむる。気持ち悪い。耐えられない。思わずうずくまって。男は手を離した。
そして聞こえてきたのは笑い声だった。
嫌だ、そう思っても息切れと恐怖で体が動かない。客商売をしている真月は抵抗できているが、男性が苦手な四月はただただ体を固くして耐えることしかできない。
ギュッと目をつむる。気持ち悪い。耐えられない。思わずうずくまって。男は手を離した。
そして聞こえてきたのは笑い声だった。
「やったぁぁ!! 生き返ったあああ!! はっはー!! 正月の朝みたいな晴れやかな気分だぜぇーっ!!」
男は爆笑しながらそう言った。
その急変に、真月と二人で震えることしかできない。
気づかれてしまったら、大変なことになるんじゃないか、そう思ってじっと耐える。
その急変に、真月と二人で震えることしかできない。
気づかれてしまったら、大変なことになるんじゃないか、そう思ってじっと耐える。
「宮美さん!」
ゴン。
音がした。頭の中から。
同時に体が床に寝ていた。そして血が流れていた。
音がした。頭の中から。
同時に体が床に寝ていた。そして血が流れていた。
「逃げんじゃねえよ!」「ギャッ。」
続いて真月の悲鳴が聞こえた。バタリとピンクのフリフリが床に倒れる。そして視界の端には、血に濡れた電話器が微かに見えた。
「これが異世界転生ってやつか!? 最後の一人になるまで殺し合えとか変な首輪とか、これあれだろ! デスゲームだろ!」
男はわけのわからないことを言いながらどこかに行く。と思ったら戻ってくる。何か持っている。長い棒。さすまただ。
「おかしいと思ったんだよぉ! ちょっと金盗んだぐらいでよぉ! ちょっと人を刺しただけでよぉ! それで死ぬなんて血も涙もねえ! 救いはねぇのかと思ったけどハッハー! こういうことか完全に把握したぜーっ!」
ガン。
ゴン。
ゴリ。
グチャ。
ゴン。
ゴリ。
グチャ。
異様な声を上げながら、男はさすまたの柄の方を短く持ち、真月に馬乗りになって顔面に振り下ろす。そのたびに、真月の体が悲鳴を上げビクンビクンと痙攣する。
四月はそれをただただ見ているだけしかできなかった。体が動かない。目も動かない。まばたきができず、視線も動かせない。だからひたすらに、その光景を見ているしか無かった。
そんな四月と男の目があった。男はニヤリと笑いながら、馬乗りになったのだろう。視線を動かせず体の感覚もないのでわからない。
四月はそれをただただ見ているだけしかできなかった。体が動かない。目も動かない。まばたきができず、視線も動かせない。だからひたすらに、その光景を見ているしか無かった。
そんな四月と男の目があった。男はニヤリと笑いながら、馬乗りになったのだろう。視線を動かせず体の感覚もないのでわからない。
「オラァ!」
「げぶぅ。」
「げぶぅ。」
自分の口から声かどうかもわからない音が聞こえて、自分が真月と同じように殴られたことを理解した。
口に振り下ろされたようだ。口の中がジャリジャリする。喉に圧迫感を感じる。息ができない。
口に振り下ろされたようだ。口の中がジャリジャリする。喉に圧迫感を感じる。息ができない。
「オベバアッ!」
「かぷぅ。」
「かぷぅ。」
また声が漏れた。同時に今度は視界が大きく変わった。男の顔が、自分の顔の目の前に落ちてきた。頭の横には、血。
バッと男が立ち上がる。「なんだこのオッサン!」と言う声とガツンという音と共にまた男は倒れた。さすまたが床を転がる。男はおでこのあたりを抑えている。そしてその上に馬乗りになる影があった。
バッと男が立ち上がる。「なんだこのオッサン!」と言う声とガツンという音と共にまた男は倒れた。さすまたが床を転がる。男はおでこのあたりを抑えている。そしてその上に馬乗りになる影があった。
(あ、さっきの。)
見えたのは、さっきのエロいオジサンだった。オジサンは、さっき男が持っていた電話器を男の頭へと振り下ろしている。男はそれを腕で防ぎながら、オジサンへと掴みかかっている。
それを見て、四月はどうして?と思った。
どうしてこのオジサンは男の人を襲っているのだろう?
それを見て、四月はどうして?と思った。
どうしてこのオジサンは男の人を襲っているのだろう?
「おい! 起きろ! 早く逃げろ!」
「ああっ! 誰だお前! コイツらのなんなんだよ!」
「知るか馬鹿! さっき会ったばっかだよ!」
「じゃあなんでこんなことしてんだクソがあっ!」
「教師だからだよ! 先生は児童守るんだよ!」
「なんだそりゃあああ!! 離せやオラァァァアアァァァッ!!」
「ああっ! 誰だお前! コイツらのなんなんだよ!」
「知るか馬鹿! さっき会ったばっかだよ!」
「じゃあなんでこんなことしてんだクソがあっ!」
「教師だからだよ! 先生は児童守るんだよ!」
「なんだそりゃあああ!! 離せやオラァァァアアァァァッ!!」
あ、まずい、と思った。
でも声が出なかった。
男は片手をポケットに入れると、ハサミを取り出した。そしてそれはストン、とオジサンの体へと吸い込まれていく。「ヤッベ!」という声が聞こえると同時にオジサンの動きが止まり、その隙に男は何度も何度もオジサンを刺した。
でも声が出なかった。
男は片手をポケットに入れると、ハサミを取り出した。そしてそれはストン、とオジサンの体へと吸い込まれていく。「ヤッベ!」という声が聞こえると同時にオジサンの動きが止まり、その隙に男は何度も何度もオジサンを刺した。
「これで3キルだぜ――なっ!?」
「……な……ナメてんじゃねぇ……ぞ……」
「テメぇ、首輪を、離しやがっ、ぐばっ!?」
「……な……ナメてんじゃねぇ……ぞ……」
「テメぇ、首輪を、離しやがっ、ぐばっ!?」
口から血を出しながらもニヤリと笑う男の首輪を、オジサンは手で掴む。そして見ていてもわかるぐらいに両手でぐっとやった。
すると、首輪が膨らみ始めた。そして光った。まるで爆発したみたいだった。それは、あの夢の中で見た光景に似ていた。
そして、光が止んだとき。男は動かなくなっていた。何が起こったのかわからない。ただ、男の目がカッと開いたまま眼球が全く動かなくて、ああ、この人は死んだんだなとわかった。
すると、首輪が膨らみ始めた。そして光った。まるで爆発したみたいだった。それは、あの夢の中で見た光景に似ていた。
そして、光が止んだとき。男は動かなくなっていた。何が起こったのかわからない。ただ、男の目がカッと開いたまま眼球が全く動かなくて、ああ、この人は死んだんだなとわかった。
「やってみるもんだな、一か八か……がぁっ……痛ってぇ……」
オジサンはそう言いながら真月の体に触れた。首筋を触って。次に胸を触る。四月にもそうした。首筋を触って。次に胸を触る。そしてその後、オジサンは床に寝転がった。
「ここまでやって……手遅れかよ……」
そうして、交番の中に生きている人は誰もいなくなった。
【0010前 繁華街】
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