「病院……それなら、さっき襲われた時に見ましたよ。」
「それは本当か!?」
「それは本当か!?」
鑑隼人にとって僥倖だった。
目の前のひょっとこの面を被るという奇怪な老人が、声を弾ませるよりも、隼人は自分の巡りあわせに喜んだと言いたくなるほどに。
隼人の目的は水沢パセリの確保だ。火の鳥軍団から言い渡された条件により、彼女に瑕疵なく身柄を引き渡さなければならない。それはたとえ殺し合いの場でも何ら変わることはない。否、殺し合いの場だからこそ尚更に、パセリの無事が重要なのだ。今は滅んだ水の国の正当後継者たる彼女は、単に政治的な意味から重要なのでは無い。星の命運の為にも、その身に秘められた力が喪われることは絶対にあってはならない。
そこに現れたのが、仮面の男鱗滝左近次たちだった。聞けば、あの大太刀の怪物を倒したと言う。自分でも手に負えない者を一対一で下したと聞けば、彼らをただの人間などと甘くは見れなかった。
大太刀から逃げる時に現れて助けてくれ、その後撃破したという相楽左之助。その左之助が自分より強いと紹介した緋村剣心。その剣心が類稀なる剣士と紹介した鱗滝。
竜宮レナなる少女を保護し、更に近藤勇なる剣士も今は別行動しているが仲間だという。
あの大太刀以上の参加者が4人。隼人の知る中では最強とも言える存在が4人となれば非常に心強い。彼なら完全武装の火の鳥軍団が倍いても蹴散らせるのではという気さえしてくる。素手や原始的な武器を使っているにもかかわらずそう思えるほどに頼もしい。
目の前のひょっとこの面を被るという奇怪な老人が、声を弾ませるよりも、隼人は自分の巡りあわせに喜んだと言いたくなるほどに。
隼人の目的は水沢パセリの確保だ。火の鳥軍団から言い渡された条件により、彼女に瑕疵なく身柄を引き渡さなければならない。それはたとえ殺し合いの場でも何ら変わることはない。否、殺し合いの場だからこそ尚更に、パセリの無事が重要なのだ。今は滅んだ水の国の正当後継者たる彼女は、単に政治的な意味から重要なのでは無い。星の命運の為にも、その身に秘められた力が喪われることは絶対にあってはならない。
そこに現れたのが、仮面の男鱗滝左近次たちだった。聞けば、あの大太刀の怪物を倒したと言う。自分でも手に負えない者を一対一で下したと聞けば、彼らをただの人間などと甘くは見れなかった。
大太刀から逃げる時に現れて助けてくれ、その後撃破したという相楽左之助。その左之助が自分より強いと紹介した緋村剣心。その剣心が類稀なる剣士と紹介した鱗滝。
竜宮レナなる少女を保護し、更に近藤勇なる剣士も今は別行動しているが仲間だという。
あの大太刀以上の参加者が4人。隼人の知る中では最強とも言える存在が4人となれば非常に心強い。彼なら完全武装の火の鳥軍団が倍いても蹴散らせるのではという気さえしてくる。素手や原始的な武器を使っているにもかかわらずそう思えるほどに頼もしい。
(この人たちがいれば、パセリを助けられ──)
浮かれていた心に、一気に冷や水を浴びた気がした。
自分は今何を考えていたのだろうか。パセリを保護する。それは火の鳥軍団との契約のためだ。彼女が幼なじみだからとか、そういう理由ではない。それに水の国は自分の父を死に追いやった、復讐すべき国だ。そうでなければ、ならない。
自分は今何を考えていたのだろうか。パセリを保護する。それは火の鳥軍団との契約のためだ。彼女が幼なじみだからとか、そういう理由ではない。それに水の国は自分の父を死に追いやった、復讐すべき国だ。そうでなければ、ならない。
「──隼人!」
「! は、はい……病院でしたね。こっちです。」
「! は、はい……病院でしたね。こっちです。」
ガシリと肩を掴まれて、隼人は我に返った。同時に、それほどまでに考え込んでいたことに戦慄する。
自分は何を呆けていた? 自分よりも圧倒的に強い相手を前に、いずれ殺す相手を前に、何をのんきにしている?
これは殺し合いだ、戦場だ、自分よりも圧倒的に強い存在を仲間にして安堵するよりも、弟や幼なじみのような守りたい人間を保護することを──
自分は何を呆けていた? 自分よりも圧倒的に強い相手を前に、いずれ殺す相手を前に、何をのんきにしている?
これは殺し合いだ、戦場だ、自分よりも圧倒的に強い存在を仲間にして安堵するよりも、弟や幼なじみのような守りたい人間を保護することを──
(──ちがう、ちがうんだ、こんな……)
「鑑大丈夫か? お前、顔めちゃくちゃ青いぞ?」
「ああ……」
「ああって、おーい、大丈夫かー?」
「鑑大丈夫か? お前、顔めちゃくちゃ青いぞ?」
「ああ……」
「ああって、おーい、大丈夫かー?」
この1時間ほど同行している柿沼直樹に気づかわれても、曖昧な返事しかできない。そのことが既に、彼の目的とは矛盾していることにすら、そもそも柿沼ともろくに会話していないことすら、今の隼人は気づかなかった。
殺し合いに乗ってパセリを最後の一人にするのなら、柿沼を殺すべきだった。
そうでなくとも、彼と話し合うなりして情報を集めるべきであった。
振り切って腹を割って話して、協力を求めることも、内容にかかわらずできたはずだ。
マーダーとしてもそうでないとしても、何もかも中途半端に時間を空費したのが隼人の現在だった。
殺し合いに乗ってパセリを最後の一人にするのなら、柿沼を殺すべきだった。
そうでなくとも、彼と話し合うなりして情報を集めるべきであった。
振り切って腹を割って話して、協力を求めることも、内容にかかわらずできたはずだ。
マーダーとしてもそうでないとしても、何もかも中途半端に時間を空費したのが隼人の現在だった。
(……なにをしたいんだ、一体……)
自分で自分の気持ちがわからない。
俯いて歩く隼人は、後ろを歩く鱗滝が動揺した声を上げたのにも気づかなかった。
俯いて歩く隼人は、後ろを歩く鱗滝が動揺した声を上げたのにも気づかなかった。
「あの黒煙は……?」
俺は何をしてるんだろう。
利根猛士は少女のポニーテールが鼻先で揺れるのを見ながら、ホースを担いでいた。
利根猛士の心は一つ。
死にたくない。
死にたくない。
それだけだ。
胸に刻まれたのは、絶体絶命ゲームでのトラウマ。負ければ死のデスゲーム。敗者に与えられた当然のエンディング。もうあんな思いはしたくない。
だから仙川文子を殺した。アイツは前も足を引っ張って脱落する原因になった。それに、明らかに殺意を持って銃を撃ってきた。ここでできた仲間の一松って兄ちゃんの、頭が血と肉の花火に変わった瞬間は今でも目に焼き付いている。だから仙川文子を殺した。
その横にいた、名前も知らない女子も殺した。仙川が盾にしていたから仕方なくだ。それに、アイツは仙川の仲間だった。仲間に盾にされて、突然のことになにがなんだかわからないようだったが……
とにかく、利根は殺した。もう2人。2人だ。殺し合いとしては順調なのだろう。少なくとも、自分はあの死んでいった3人とは違う。オレはアイツらのようには、死なない、死にたくない。
気がつけば、利根の手はずっとブルブルと震えていた。灰原哀という名前は知らないが、とにかく幼女に撃たれて逃げてきてから随分経つのに、まだ心臓の動機が治まらない。呼吸もだ。とっくに回復していいはずなのに、ずっと荒い息をし続けている。
胸と喉の痛みに煩わしさを感じながら、しかし足は止まらなかった。視線は常に動き続けるように、足もまた動き続ける。そうして見つけたのが、黒煙だった。
赤い空に伸びる黒い雲に紛れて近づくまでわからなかったが、そこだけ赤い霧を縦に黒い煙が割いている。なんとはなしに近づくと、建物が燃えていた。あからさまに火事である。
利根猛士は少女のポニーテールが鼻先で揺れるのを見ながら、ホースを担いでいた。
利根猛士の心は一つ。
死にたくない。
死にたくない。
それだけだ。
胸に刻まれたのは、絶体絶命ゲームでのトラウマ。負ければ死のデスゲーム。敗者に与えられた当然のエンディング。もうあんな思いはしたくない。
だから仙川文子を殺した。アイツは前も足を引っ張って脱落する原因になった。それに、明らかに殺意を持って銃を撃ってきた。ここでできた仲間の一松って兄ちゃんの、頭が血と肉の花火に変わった瞬間は今でも目に焼き付いている。だから仙川文子を殺した。
その横にいた、名前も知らない女子も殺した。仙川が盾にしていたから仕方なくだ。それに、アイツは仙川の仲間だった。仲間に盾にされて、突然のことになにがなんだかわからないようだったが……
とにかく、利根は殺した。もう2人。2人だ。殺し合いとしては順調なのだろう。少なくとも、自分はあの死んでいった3人とは違う。オレはアイツらのようには、死なない、死にたくない。
気がつけば、利根の手はずっとブルブルと震えていた。灰原哀という名前は知らないが、とにかく幼女に撃たれて逃げてきてから随分経つのに、まだ心臓の動機が治まらない。呼吸もだ。とっくに回復していいはずなのに、ずっと荒い息をし続けている。
胸と喉の痛みに煩わしさを感じながら、しかし足は止まらなかった。視線は常に動き続けるように、足もまた動き続ける。そうして見つけたのが、黒煙だった。
赤い空に伸びる黒い雲に紛れて近づくまでわからなかったが、そこだけ赤い霧を縦に黒い煙が割いている。なんとはなしに近づくと、建物が燃えていた。あからさまに火事である。
「やべえな。」
「プハッ! ハァハァ……ヘクシッ!」
「あ、おいお前大丈夫か?」
「プハッ! ハァハァ……ヘクシッ!」
「あ、おいお前大丈夫か?」
言ってから利根は後悔した。火事の建物から、制服らしきものを着た同年代の女子が現れて思わず声をかけてしまったが、よくよく考えれば殺してしまえばよかった。銃を撃てば、また1人殺せた。
しかし、今からでも殺そうか、とは思えない。ただ、なんとなくここから離れたいと思った。
だがそんな彼の思いとは裏腹に、少女は弾かれたように顔を上げると、ガシっと手を掴んできた。
しかし、今からでも殺そうか、とは思えない。ただ、なんとなくここから離れたいと思った。
だがそんな彼の思いとは裏腹に、少女は弾かれたように顔を上げると、ガシっと手を掴んできた。
「お願い! 手伝って!」
「な、なにを……」
「消火活動だよ!」
「な、なにを……」
「消火活動だよ!」
黒く煤けた顔を切羽詰まった表情にしながら少女は言う。
いやなんでそんなことするんだよ、とはとても言えない剣幕だった。
利根の冷静な部分が考える。いやそんなことしないでいいだろ、いやなんかそれも殺し合いの一貫だろ、いや殺し合いで消防士の真似とか聞いたことねえよ。そうは考えるのだが、気がつけば少女に手をしっかりと掴まれ、建物近くまで引っ張られてしまった。
少女は消火栓と書かれた小扉を開ける。あ、それそうなってるんだ、などと他人事に眺めていると、「はい!」と消火ホースを渡された。そして少女は大急ぎで折り畳まれていたホースを拡げていく。制服もあってガールスカウトか何かに見える。などと考えていると、「合図したら、ここのバルブを回して!」と言ってホースを持って行かれた。そして吹き上がる炎まで近づいて行くと、「はい!」と手を振った。こう言われたら、回すしかない。どっちに回すのかわからないが、とりあえず回る方に回したら正解だったらしい。
あからさまに日常生活では聞かない騒音が発生する。ホースが膨らみ蛇のようにのたうつ。「こっちに来て!」と言われ、言われるがままホースを持つ少女の後ろに立って、同じようにホースを掴む。
姿勢を低くし、それでも煙にまかれかけながら水をかける。しかし一向に火の勢いは弱まらない。むしろ強まっている。そんな時にふと聞こえた足音。振り返ると、後ろからひょっとこのお面を被った不審者が駆け寄ってきていた。
いやなんでそんなことするんだよ、とはとても言えない剣幕だった。
利根の冷静な部分が考える。いやそんなことしないでいいだろ、いやなんかそれも殺し合いの一貫だろ、いや殺し合いで消防士の真似とか聞いたことねえよ。そうは考えるのだが、気がつけば少女に手をしっかりと掴まれ、建物近くまで引っ張られてしまった。
少女は消火栓と書かれた小扉を開ける。あ、それそうなってるんだ、などと他人事に眺めていると、「はい!」と消火ホースを渡された。そして少女は大急ぎで折り畳まれていたホースを拡げていく。制服もあってガールスカウトか何かに見える。などと考えていると、「合図したら、ここのバルブを回して!」と言ってホースを持って行かれた。そして吹き上がる炎まで近づいて行くと、「はい!」と手を振った。こう言われたら、回すしかない。どっちに回すのかわからないが、とりあえず回る方に回したら正解だったらしい。
あからさまに日常生活では聞かない騒音が発生する。ホースが膨らみ蛇のようにのたうつ。「こっちに来て!」と言われ、言われるがままホースを持つ少女の後ろに立って、同じようにホースを掴む。
姿勢を低くし、それでも煙にまかれかけながら水をかける。しかし一向に火の勢いは弱まらない。むしろ強まっている。そんな時にふと聞こえた足音。振り返ると、後ろからひょっとこのお面を被った不審者が駆け寄ってきていた。
「なんだこのデスゲーム。」
当然の展開であるが、爆発物の使用は火災の発生の原因となる。この殺し合いでも、既に何ヶ所も火の手が上がっていた。
にもかかわらずこれまでほとんどの参加者が火災に遭遇していないのは極めてシンプルな理由である。爆発が起こった場所に生きている人間はいないからだ。
手榴弾、対戦車兵器、地対空ミサイル。様々な爆発物はあれど、共通するのは、そんなものの直撃を受けて生存できる参加者は極めて稀だということだ。たとえ本人が耐えられても首輪が作動する。よって爆発するような攻撃を受けた人間の選択は2つに1つ。死ぬか逃げるかだ。
爆発を起こした方も同様である。わざわざ爆発地点に留まるならば発火などしていないだろうし、もし留まるのなら消火するだろう。
よって火の手が起こった場所には誰もいないということになる。少なくとも、それで死ぬような人間は。
もう一つ、この殺し合いで火災が発生しにくい理由がある。それが会場の特性である。
赤い霧により湿度は100%、そして植えられている植物は多くがプラスチック製である。それらにより、屋外で起こった火災は燃え広がるより先に火種が無くなるようになっている。設計段階からの耐火構造というわけだ。
ただ、火災に強い会場かと言うと必ずしもそうというわけではない。
たしかに、屋外は燃えがたくはできているが、それに対して屋内には可燃物がばら撒かれている。銃弾爆弾種々の武器弾薬が。
基本的に重火器が配置されているのはスプリンクラーがあるような大規模な施設であり、そんな場所で爆発が起きても延焼する前にたいていは作動なり破損なりしたスプリンクラーで鎮火される。
ゆえに、大太刀から逃れるために隼人が行った攻撃が手榴弾を誘爆させたのは不幸な偶然であり、その手榴弾によりスプリンクラーの配管が壊され作動すべき場所で作動しなかったのも偶然であり、スプリンクラーの作動箇所が拡がったせいで消火が追いつかなかったのもまた不幸な偶然であり、その現場が医薬品という可燃物を多く保管する病院だったのもまた不幸な偶然であった。
にもかかわらずこれまでほとんどの参加者が火災に遭遇していないのは極めてシンプルな理由である。爆発が起こった場所に生きている人間はいないからだ。
手榴弾、対戦車兵器、地対空ミサイル。様々な爆発物はあれど、共通するのは、そんなものの直撃を受けて生存できる参加者は極めて稀だということだ。たとえ本人が耐えられても首輪が作動する。よって爆発するような攻撃を受けた人間の選択は2つに1つ。死ぬか逃げるかだ。
爆発を起こした方も同様である。わざわざ爆発地点に留まるならば発火などしていないだろうし、もし留まるのなら消火するだろう。
よって火の手が起こった場所には誰もいないということになる。少なくとも、それで死ぬような人間は。
もう一つ、この殺し合いで火災が発生しにくい理由がある。それが会場の特性である。
赤い霧により湿度は100%、そして植えられている植物は多くがプラスチック製である。それらにより、屋外で起こった火災は燃え広がるより先に火種が無くなるようになっている。設計段階からの耐火構造というわけだ。
ただ、火災に強い会場かと言うと必ずしもそうというわけではない。
たしかに、屋外は燃えがたくはできているが、それに対して屋内には可燃物がばら撒かれている。銃弾爆弾種々の武器弾薬が。
基本的に重火器が配置されているのはスプリンクラーがあるような大規模な施設であり、そんな場所で爆発が起きても延焼する前にたいていは作動なり破損なりしたスプリンクラーで鎮火される。
ゆえに、大太刀から逃れるために隼人が行った攻撃が手榴弾を誘爆させたのは不幸な偶然であり、その手榴弾によりスプリンクラーの配管が壊され作動すべき場所で作動しなかったのも偶然であり、スプリンクラーの作動箇所が拡がったせいで消火が追いつかなかったのもまた不幸な偶然であり、その現場が医薬品という可燃物を多く保管する病院だったのもまた不幸な偶然であった。
(ダメだ、ぜんぜん火が弱まらない。むしろどんどん強くなってる。)
そしてそのような会場の特性が、少女、双葉マメが必死に消火活動に勤しんでいる理由であった。
マメは特命生還士(サバイバー)だ。災害やテロの現場で生存するための特別な訓練を受けている。見習いの中でも落ちこぼれだが、実際に被災者になった経験から、士気と経験は一廉のものがある。
ゆえに、彼女はよく理解していた。病院には可燃物がある。そしてこの会場の大きな建物には武器が落ちている。可燃物と爆薬がある建物だらけだ。
しかも、この病院の近くは市街地の中でも古い町並みなのだろう、木造家屋が密集していた。素人目にもわかる。明らかに火事に弱い造りだ。
更に悪いことに、この病院は商店街にあった。2件隣には服屋がある。服は可燃物だ。その2件隣にはパン屋がある。小麦粉は可燃物だ。そして更に2件隣には何かの倉庫がある。中に何があるかはマメにはわからなかったが、一つ確実にあるであろうものがある。殺し合いのための武器、つまりは可燃物であり爆薬だ。
なので火の手を見たとき、彼女は真っ先に突っ込み消火器を持って初期消火に当たった。しかし、その頃にはとっくに炎は天井まで達していた。これは消防でなければ対処が不可能なことを示す。そのことは彼女の知識にはなかったが、それでも圧倒的な火力に消火器などでは全く太刀打ちできないことは本能で理解できた。だが、それが消火を止めない理由にはならない。ここで食い止めなければ、確実に都市火災に発展すると確信がある。
不幸中の幸いで風は無いが、数時間以内にこの一画が全て延焼するのは目に見えている。もちろん消防などへの通報は試み、それが期待できないのも把握済みだ。消防がいない中での大規模な火災となれば、起こることは一つ。街全てが火の海になる。会場の広さを知らないマメからすれば、それは殺し合いの会場全てが燃えるのと同義であった。たまたま話しかけてきた利根を危険に晒すのはまずいとわかっていても、有無を言わさず支持を出し協力させたのはそれが理由だ。
マメは特命生還士(サバイバー)だ。災害やテロの現場で生存するための特別な訓練を受けている。見習いの中でも落ちこぼれだが、実際に被災者になった経験から、士気と経験は一廉のものがある。
ゆえに、彼女はよく理解していた。病院には可燃物がある。そしてこの会場の大きな建物には武器が落ちている。可燃物と爆薬がある建物だらけだ。
しかも、この病院の近くは市街地の中でも古い町並みなのだろう、木造家屋が密集していた。素人目にもわかる。明らかに火事に弱い造りだ。
更に悪いことに、この病院は商店街にあった。2件隣には服屋がある。服は可燃物だ。その2件隣にはパン屋がある。小麦粉は可燃物だ。そして更に2件隣には何かの倉庫がある。中に何があるかはマメにはわからなかったが、一つ確実にあるであろうものがある。殺し合いのための武器、つまりは可燃物であり爆薬だ。
なので火の手を見たとき、彼女は真っ先に突っ込み消火器を持って初期消火に当たった。しかし、その頃にはとっくに炎は天井まで達していた。これは消防でなければ対処が不可能なことを示す。そのことは彼女の知識にはなかったが、それでも圧倒的な火力に消火器などでは全く太刀打ちできないことは本能で理解できた。だが、それが消火を止めない理由にはならない。ここで食い止めなければ、確実に都市火災に発展すると確信がある。
不幸中の幸いで風は無いが、数時間以内にこの一画が全て延焼するのは目に見えている。もちろん消防などへの通報は試み、それが期待できないのも把握済みだ。消防がいない中での大規模な火災となれば、起こることは一つ。街全てが火の海になる。会場の広さを知らないマメからすれば、それは殺し合いの会場全てが燃えるのと同義であった。たまたま話しかけてきた利根を危険に晒すのはまずいとわかっていても、有無を言わさず支持を出し協力させたのはそれが理由だ。
(病院が燃えた。これまでに1時間はかかっている。あの傷では──)
「おいおい離れろ! そんなんじゃ無理だ!」
「レナ殿、ここを動かないでおいてほしいでござる。」
「おいおい離れろ! そんなんじゃ無理だ!」
「レナ殿、ここを動かないでおいてほしいでござる。」
そしてマメ以上に、鱗滝は危機感を覚えた。
日向冬樹の傷の手当の為に病院を探して小一時間。余りに時間をかけ過ぎた。あの傷で1時間は致命傷となる。しかも病院が燃えた。全焼していてとてもではないが医薬品も医者も残っているはずがない。今から新しい病院を探す宛も無い。そもそも病院の近くに病院があるのだろうか。
鱗滝の危機感はハッキリしている。冬樹はもう、助からない。
日向冬樹の傷の手当の為に病院を探して小一時間。余りに時間をかけ過ぎた。あの傷で1時間は致命傷となる。しかも病院が燃えた。全焼していてとてもではないが医薬品も医者も残っているはずがない。今から新しい病院を探す宛も無い。そもそも病院の近くに病院があるのだろうか。
鱗滝の危機感はハッキリしている。冬樹はもう、助からない。
「くそ! なんでこんな硬えんだよ!」
判断の遅さはわかっている。それでも鱗滝は、左之助が病院の横の商店を殴りつけるのを見ても動けない。
喧嘩と火事は江戸の花。週1ペースで火事が起きた幕末を経験した鱗滝と左之助と剣心は、一目見てこの火事が大火に繋がるものだとやはり確信した。違いは、鱗滝の目的が病院の捜索であり、大正の人間であること。左之助たちほど彼は火事への対応の優先順位が高くない。そして理解もしている。火事が起こることを前提にした江戸の建物とは違い、壊すことが難しいことを。
江戸の消火といえば破壊消火である。延焼を防ぐために予め燃えやすいものを取り除く。そのために長屋などを造る際は壊しやすいように安普請となっている。
だが瓦屋根のような建物は違う。柱からして断然太く、破壊消火できるようには造られていない。ましてや大正ではなく戦後に作られたものであろう木造家屋では、耐震性から何から全て桁が違う。鱗滝にはそこまではわからなかったが、商店の造りから壊すのは不可能だと結論づけていた。
残るは今もマメたちが続けている放水だが、文字通り焼け石に水だ。そもそも消防車のポンプでもここまで強まった火災には手を焼く。一般人でも使えるレベルの消火設備ではどうにもならない。
つまるところ、鱗滝は打つ手が思いつかず動けなかったのだ。冬樹は助からない。病院の宛は無い。火事は止まらない。消火の方法は無い。
できることといえば、冬樹の遺体の元にのこのこ戻り、火事に巻かれないように持って歩くことぐらいだろう。
喧嘩と火事は江戸の花。週1ペースで火事が起きた幕末を経験した鱗滝と左之助と剣心は、一目見てこの火事が大火に繋がるものだとやはり確信した。違いは、鱗滝の目的が病院の捜索であり、大正の人間であること。左之助たちほど彼は火事への対応の優先順位が高くない。そして理解もしている。火事が起こることを前提にした江戸の建物とは違い、壊すことが難しいことを。
江戸の消火といえば破壊消火である。延焼を防ぐために予め燃えやすいものを取り除く。そのために長屋などを造る際は壊しやすいように安普請となっている。
だが瓦屋根のような建物は違う。柱からして断然太く、破壊消火できるようには造られていない。ましてや大正ではなく戦後に作られたものであろう木造家屋では、耐震性から何から全て桁が違う。鱗滝にはそこまではわからなかったが、商店の造りから壊すのは不可能だと結論づけていた。
残るは今もマメたちが続けている放水だが、文字通り焼け石に水だ。そもそも消防車のポンプでもここまで強まった火災には手を焼く。一般人でも使えるレベルの消火設備ではどうにもならない。
つまるところ、鱗滝は打つ手が思いつかず動けなかったのだ。冬樹は助からない。病院の宛は無い。火事は止まらない。消火の方法は無い。
できることといえば、冬樹の遺体の元にのこのこ戻り、火事に巻かれないように持って歩くことぐらいだろう。
「鱗滝殿、ここから離れるしかない。」
「……ああ。アキノリたちと合流しよう。」
「……ああ。アキノリたちと合流しよう。」
やれることは一つ。有星アキノリと近藤勇と合流する。それだけだ。左之助も破壊消火を諦め、マメを担ぎ上げていた。鱗滝からすれば必死に消火する名も知らぬ少女は、左之助に担がれながらもホースを離そうとはしなかった。
その判断を責める言葉を、鱗滝は持っていなかった。
その判断を責める言葉を、鱗滝は持っていなかった。
(なんだろう、なんでこんなに、嫌な感じがするんだろう。)
そしてこの場で一番火事を遠巻きに見ていた少女、竜宮レナは首筋に手をやりつつ炎に目を奪われていた。
なんとか剣心たちから離れる口実を探していたところに起こった火事。これを上手く利用できないかと考えるのだが、炎から目を離せない。自分はこの燃える建物、あるいは病院というものに何か嫌に引っかかりを覚える。
なんとか剣心たちから離れる口実を探していたところに起こった火事。これを上手く利用できないかと考えるのだが、炎から目を離せない。自分はこの燃える建物、あるいは病院というものに何か嫌に引っかかりを覚える。
「もしかして、君さっきの?」
「……」
「おーい、もしもーし?」
「……」
「おーい、もしもーし?」
柿沼が話しかけるのも無視して見入る。彼にも最初に出会った時に何かいやなものを感じた。
それは本人が知る由もない繰り返しのため。ただただ嫌なデジャヴという感覚として脳は処理する。
そしてそれは、柿沼の横でレナを見つめる隼人も同様だった。こちらは勘と呼べるものだろうか、なにかレナに嫌な予感を感じる。彼からすれば、剣心と左之助という知り合い同士で巻き込まれた存在から、自分の親しい人間が巻き込まれている可能性が高まったのもあって、焦燥感も強まっている。そして自分が火事の原因となったことにも後味の悪い物を覚えていた。やはり劣化ウラン弾はまずかっただろうか。
それは本人が知る由もない繰り返しのため。ただただ嫌なデジャヴという感覚として脳は処理する。
そしてそれは、柿沼の横でレナを見つめる隼人も同様だった。こちらは勘と呼べるものだろうか、なにかレナに嫌な予感を感じる。彼からすれば、剣心と左之助という知り合い同士で巻き込まれた存在から、自分の親しい人間が巻き込まれている可能性が高まったのもあって、焦燥感も強まっている。そして自分が火事の原因となったことにも後味の悪い物を覚えていた。やはり劣化ウラン弾はまずかっただろうか。
既に業火と呼べるほどに燃える病院は猛然と黒煙と火柱を上げている。
飛び火するのに時間はかからないだろう。
飛び火するのに時間はかからないだろう。
【0207 『北部』市街地】
【鑑隼人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(3)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
復讐完遂のためにはパセリを生き残らせる。
●小目標
あの女の子は…?
【目標】
●大目標
復讐完遂のためにはパセリを生き残らせる。
●小目標
あの女の子は…?
【鱗滝左近次@鬼滅の刃~炭治郎と禰豆子、運命の始まり編~(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを止める。
●中目標
アキノリと勇と合流する。
●小目標
???
【目標】
●大目標
殺し合いを止める。
●中目標
アキノリと勇と合流する。
●小目標
???
【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
みんなと一緒に逃げる。
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
みんなと一緒に逃げる。
【利根猛士@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り人生をやり直す。
●中目標
殺し合いに乗る。
●小目標
???
【目標】
●大目標
生き残り人生をやり直す。
●中目標
殺し合いに乗る。
●小目標
???
【双葉マメ@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り、生きて帰る。
●中目標
火事を止める。
●小目標
離してください!
【目標】
●大目標
生き残り、生きて帰る。
●中目標
火事を止める。
●小目標
離してください!
【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
殺し合いをぶっ壊す。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
暴れんな!
●大目標
殺し合いをぶっ壊す。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
暴れんな!
【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
一つでも多くの命を救う。
●中目標
レナを保護する。
●小目標
近藤たちと合流する。
●大目標
一つでも多くの命を救う。
●中目標
レナを保護する。
●小目標
近藤たちと合流する。
【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
●大目標
覚せい剤の幻覚をどうにかしたい。
●中目標
単独行動して部活の仲間を探したい。
●小目標
変態に……この嫌な感じは……?
●大目標
覚せい剤の幻覚をどうにかしたい。
●中目標
単独行動して部活の仲間を探したい。
●小目標
変態に……この嫌な感じは……?