「ようやく……傷もなおったか……」
商店街にある一つの建物の2階で、タイはそう言うと口を真一文字に結んで体をあらためていた。
寺での神楽との戦闘、岡田似蔵による一太刀、木本麻耶と武市変平太との衝突、順調に殺していた彼に大きなケチがついた格好だ。
さすがの彼も、腕の切断というのは慣れないものだ。半乱狂になりつついつの間にかここまで逃げ延び、それからは妖力を体の治癒へと回す。幼少期からの虐待により、彼の元から高い生命力をどう使えば治るかは、文字通りに生まれた頃から理解している。それでも斬られた腕が治るばかりか支障なく動かせるようになったのは、似蔵の一閃がそれだけ鋭利なものだったからだろう。そんなこと斬られた彼からすれば嬉しくもなんともないが。
タイはゆっくりと立ち上がると、軽く体を動かし始めた。寺の参道を転がり落ちて、斬られた腕を必死に庇っていたため妙な傷のつき方をしている。それも打撲や切り傷ならすぐに治るが、ぶつけた頭も特に問題ないことを確認すると、この部屋に入るときに割ったであろう窓ガラスにカーテンをかけて扉から廊下へ出た。
治癒の為に第三の目を発動し続けたことで妖力が尽きかけている。傷は治ったが休息はなお必要だ。となるとまずすることがある。
寺での神楽との戦闘、岡田似蔵による一太刀、木本麻耶と武市変平太との衝突、順調に殺していた彼に大きなケチがついた格好だ。
さすがの彼も、腕の切断というのは慣れないものだ。半乱狂になりつついつの間にかここまで逃げ延び、それからは妖力を体の治癒へと回す。幼少期からの虐待により、彼の元から高い生命力をどう使えば治るかは、文字通りに生まれた頃から理解している。それでも斬られた腕が治るばかりか支障なく動かせるようになったのは、似蔵の一閃がそれだけ鋭利なものだったからだろう。そんなこと斬られた彼からすれば嬉しくもなんともないが。
タイはゆっくりと立ち上がると、軽く体を動かし始めた。寺の参道を転がり落ちて、斬られた腕を必死に庇っていたため妙な傷のつき方をしている。それも打撲や切り傷ならすぐに治るが、ぶつけた頭も特に問題ないことを確認すると、この部屋に入るときに割ったであろう窓ガラスにカーテンをかけて扉から廊下へ出た。
治癒の為に第三の目を発動し続けたことで妖力が尽きかけている。傷は治ったが休息はなお必要だ。となるとまずすることがある。
「……足りないな。」
階段を降りた先にあったリビングからキッチンへと行くと、冷蔵庫の冷凍庫の中身を片っ端から出した。とにもかくにも食事をする必要がある。食うものを食わなければ妖力も体力も回復しない。
だが残念なことに彼の好きなハンバーガーなどのジャンクフードが無い。冷凍たこ焼きを電子レンジにぶち込むと、アイスを取り出してつまみつつ、野菜室を飛ばして冷蔵室を開く。卵を見つけると、冷凍庫にご飯があったことを思い出して、まだたこ焼きを温めている電子レンジにご飯をつめこむ。
ついでキッチン周りをあさり始める。ソースなどの調味料の他に缶詰やカップ麺を見つけ、やかんいっぱいに水を入れると強火で温める。鯖缶を2つほどたいらげ食べかけのアイスをつついていた頃に電子レンジがチンと鳴ると、ご飯を丼に拡げる卵をあるだけぶち込み、見つけたしゃもじで混ぜると、味の濃そうな缶詰などをぶちまけていく。
だが残念なことに彼の好きなハンバーガーなどのジャンクフードが無い。冷凍たこ焼きを電子レンジにぶち込むと、アイスを取り出してつまみつつ、野菜室を飛ばして冷蔵室を開く。卵を見つけると、冷凍庫にご飯があったことを思い出して、まだたこ焼きを温めている電子レンジにご飯をつめこむ。
ついでキッチン周りをあさり始める。ソースなどの調味料の他に缶詰やカップ麺を見つけ、やかんいっぱいに水を入れると強火で温める。鯖缶を2つほどたいらげ食べかけのアイスをつついていた頃に電子レンジがチンと鳴ると、ご飯を丼に拡げる卵をあるだけぶち込み、見つけたしゃもじで混ぜると、味の濃そうな缶詰などをぶちまけていく。
「……いまいちだ。」
半分ほど胃に流し込んだあとポツリとつぶやいた。どうやらお気に召さなかったらしい。
口直しと言わんばかりにたこ焼きを食いあさると、牛乳をラッパ飲みで一本開けた。
伝説の子だけあって内臓も常人離れしているのもあるが、食える時に食っておかなければ死ぬ環境にいたタイは、まるで妊娠したかのように腹が膨らむまで食い続ける。これだけ食いだめれば、後は充分寝れば完全回復だ。
そうして食後のカップラーメンを食べ終わり、一眠りするかと思ったが、その前に外に出て周囲を伺う。用心深さは身についたものだ。ましてやここは殺し合いの場、警戒するに越したことはない。
そうして第三の目の超動体視力も合わせて周囲を伺うこと数分、タイはやたら顔を上げた。すぐに第三の目を封じ、妖力を消す。
口直しと言わんばかりにたこ焼きを食いあさると、牛乳をラッパ飲みで一本開けた。
伝説の子だけあって内臓も常人離れしているのもあるが、食える時に食っておかなければ死ぬ環境にいたタイは、まるで妊娠したかのように腹が膨らむまで食い続ける。これだけ食いだめれば、後は充分寝れば完全回復だ。
そうして食後のカップラーメンを食べ終わり、一眠りするかと思ったが、その前に外に出て周囲を伺う。用心深さは身についたものだ。ましてやここは殺し合いの場、警戒するに越したことはない。
そうして第三の目の超動体視力も合わせて周囲を伺うこと数分、タイはやたら顔を上げた。すぐに第三の目を封じ、妖力を消す。
「もっけか。」
常人には視認することが不可能なものであってもタイの目からは逃れられない。彼が見つけたのは、赤い霧にまぎれて飛ぶ、フクロウの形状の飛行物体。
その姿はたとえおぼろげでも見切れる。彼が殺そうとした姉、竜堂ルナの従者なのだから。
その姿はたとえおぼろげでも見切れる。彼が殺そうとした姉、竜堂ルナの従者なのだから。
(あいつがいるなら、ルナもいるのか。)
円を描いて飛ぶ妖怪をタイは地面から睨みつける。この場でも絶たれることのない縁を感じ、どう殺すかを考えながらその姿を追った。
「む、かかったな!」
同じ頃、商店街の反対側。
銭形幸一は自分が仕掛けたトラップが作動する音を聞いてすすっていたカップラーメンを置くと、民家を飛び出し自転車へと飛び乗った。
定春の射殺に立ち会ってからかれこれ数時間、銃撃した水沢黎夜も、保護しようとした立花紗綾にも逃げられ、しつこく小一時間ほども探すも完全に撒かれてしまった。
土地勘の無い街で人を探すことはICPOに出向してルパンを探している都合慣れてはいるが、さすがに何も情報がない状態で、しかもどこからいつ撃たれたり爆弾を投げ込まれたりするかわからないとくると、子供2人探すだけでも困難である。その上立ち込める赤い霧は、銭形の鋭い五感すらも鈍らせていた。
悩んだ末に銭形が向かったのは、最初にサーヤと出会った場所、かまちによるユイたち4人の殺害現場である。犯人は現場に戻る、というのはこの場合当てはまらないだろうが、それでも誰かと出会う確率は高いと踏んだ。子供達4人がここにいたということは、すなわちそれだけの理由があったということ。仮にたまたま4人で行動していて目についたから入っただけであっても、そんなふうにたまたまほかの参加者が入ってくる可能性は、他の建物よりは高いだろう。というのは警察学校でも習うようなことなのだが銭形の場合は刑事の勘と経験でそれをよく理解している。
なにより、彼としては事件現場の保全をやっておかなくてはならなかった。途中で見つけた写真屋に書き置きを残してカメラを調達すると、写真を撮っていく。その途中で気づいたのは、獣の噛み跡が思っていたよりもほとんどなかったことだ。実際には鋭利な刃物のようなもので切断されたと思しき傷が全ての死体に見られる。その様に五エ門を思い出す。あれと同レベルの剣豪が、子供でも容赦無く殺すような外道で存在すると考えると身が引き締まる。子供たちの手に銃が握られ空薬莢が転がっていることから、彼らが先に銃撃した可能性も考えられるが、それにしても危険人物なのは間違いない。
そしてそうなると、定春が殺したのではないと気づく。銭形は抜けているところはあるが、まっとうに捜査できる情報があれば真実に辿り着くだけの能力はある。でなければ警部にまで出世し国外で捜査の指揮を振るったりはできない。
銭形幸一は自分が仕掛けたトラップが作動する音を聞いてすすっていたカップラーメンを置くと、民家を飛び出し自転車へと飛び乗った。
定春の射殺に立ち会ってからかれこれ数時間、銃撃した水沢黎夜も、保護しようとした立花紗綾にも逃げられ、しつこく小一時間ほども探すも完全に撒かれてしまった。
土地勘の無い街で人を探すことはICPOに出向してルパンを探している都合慣れてはいるが、さすがに何も情報がない状態で、しかもどこからいつ撃たれたり爆弾を投げ込まれたりするかわからないとくると、子供2人探すだけでも困難である。その上立ち込める赤い霧は、銭形の鋭い五感すらも鈍らせていた。
悩んだ末に銭形が向かったのは、最初にサーヤと出会った場所、かまちによるユイたち4人の殺害現場である。犯人は現場に戻る、というのはこの場合当てはまらないだろうが、それでも誰かと出会う確率は高いと踏んだ。子供達4人がここにいたということは、すなわちそれだけの理由があったということ。仮にたまたま4人で行動していて目についたから入っただけであっても、そんなふうにたまたまほかの参加者が入ってくる可能性は、他の建物よりは高いだろう。というのは警察学校でも習うようなことなのだが銭形の場合は刑事の勘と経験でそれをよく理解している。
なにより、彼としては事件現場の保全をやっておかなくてはならなかった。途中で見つけた写真屋に書き置きを残してカメラを調達すると、写真を撮っていく。その途中で気づいたのは、獣の噛み跡が思っていたよりもほとんどなかったことだ。実際には鋭利な刃物のようなもので切断されたと思しき傷が全ての死体に見られる。その様に五エ門を思い出す。あれと同レベルの剣豪が、子供でも容赦無く殺すような外道で存在すると考えると身が引き締まる。子供たちの手に銃が握られ空薬莢が転がっていることから、彼らが先に銃撃した可能性も考えられるが、それにしても危険人物なのは間違いない。
そしてそうなると、定春が殺したのではないと気づく。銭形は抜けているところはあるが、まっとうに捜査できる情報があれば真実に辿り着くだけの能力はある。でなければ警部にまで出世し国外で捜査の指揮を振るったりはできない。
「あの犬が笛を持っていったのは他の理由があったのか?」
そう思い、今度は血痕の続いていた爆破現場や、定春の撃たれた現場や、レイヤが銃撃したと思われる現場を調べる。いくつかわかったことはあるが、それ以上に近場の建物に入ったときに音が鳴るように鳴子などのトラップを仕掛けておくことがこの後重要になった。他の参加者と出会うきっかけを増やすことは、この場では彼本人が思うよりも重要なのである。
そのトラップの1つが作動した。場所は定春の遺体近くのスーパーだ。自転車を漕ぐ足も早まる。いつ撃たれるからというだけでない、逮捕すべき危険人物にせよ保護すべき民間人にせよとにかく早急に接触しなければ、そう思うとバイクもかくやというスピードで爆走する。
そのトラップの1つが作動した。場所は定春の遺体近くのスーパーだ。自転車を漕ぐ足も早まる。いつ撃たれるからというだけでない、逮捕すべき危険人物にせよ保護すべき民間人にせよとにかく早急に接触しなければ、そう思うとバイクもかくやというスピードで爆走する。
「私はインターポールの、警視庁の銭形警部だ! 中にいる人! 保護するので出てきてくれないか!」
「そ、その声……」
「む、君は!」
「そ、その声……」
「む、君は!」
片手に愛用のコルト・ガバメントを、もう片手に警察手帳を掲げて呼びかける。聞こえていたのはこの場で聞いたことのある少女の声。ズカズカと踏み入ると、中に居たのはサーヤであった。怯えた顔をする彼女とは対象的に銭形はほっとする。先の銃撃からこの辺りでめぼしい銃声はしていなかったが、商店街の反対側では爆発もあったため、その安否が心配でならなかった。ようやく見つけた彼女に、いろいろと誤解されているようだと再確認すると、とにかく落ち着かせようと声をかける。
「大きな声を出してはいかん! どこにさっきの──」
「助けてぇ!」
「助けてぇ!」
それが失敗だと、刑事畑の銭形は理解していなかった。
180cmを超える長身の男が、銃を片手に、殺人鬼だと疑われている状況で、女子小学生に大声を出すなと言う。
近くに危険人物がいる可能性があるので一刻も早く静かにさせなくてはならないという事情は、サーヤからしてみれば知ったことではない。むしろ危険人物の際たるは目の前の銭形なのだから。
もし銭形に少年課などの子供を相手にする警官の経験があれば話は別だっただろう。だが彼はルパン専任の捜査官であり、その前には凶悪犯を追う捜査一課にいた経験がある。自然その話し方や声色は相手を圧するような迫力を持つ。
そしてもう一つ銭形にとって不幸なことがある。
それは、サーヤの助けを求める声に必ず応える男がいたことだ。
180cmを超える長身の男が、銃を片手に、殺人鬼だと疑われている状況で、女子小学生に大声を出すなと言う。
近くに危険人物がいる可能性があるので一刻も早く静かにさせなくてはならないという事情は、サーヤからしてみれば知ったことではない。むしろ危険人物の際たるは目の前の銭形なのだから。
もし銭形に少年課などの子供を相手にする警官の経験があれば話は別だっただろう。だが彼はルパン専任の捜査官であり、その前には凶悪犯を追う捜査一課にいた経験がある。自然その話し方や声色は相手を圧するような迫力を持つ。
そしてもう一つ銭形にとって不幸なことがある。
それは、サーヤの助けを求める声に必ず応える男がいたことだ。
「なにっ。」
激痛、次いで聞こえてくる銃声。
撃たれたことに気づくのに1秒といらなかった。
撃たれたことに気づくのに1秒といらなかった。
「きゃっ、ごめんなさい、あれ、でも撃って──」
「逃げなさいっ、ぐっ!」
「え、ええっ?」
「早くここから逃げるんだっ! 行けぇ!」
「は、はい!」
「逃げなさいっ、ぐっ!」
「え、ええっ?」
「早くここから逃げるんだっ! 行けぇ!」
「は、はい!」
自分が撃ったのかと思い手に持つ銃と銭形を交互に見てあたふたするサーヤを、銭形は怒鳴りつける。サーヤを怯えさせたその声は、今度はサーヤの足を動かす声になる。
「頭を下げて、静かにここから脱出するんだ!」
叫びながら銭形は撃たれた場所を確認する。左手の手首から数cmほどのところを弾丸が貫通していた。サーヤに呼びかける間にも続いていた銃撃が止んだことで、なんとか遮蔽物の陰へと滑り込む。その途端にまた銃撃が始まったのだが、それがサーヤへの流れ弾を気にしてのものだとは気づかない。
「アイツ……またサーヤを。」
100メートル先の路上、マークスマンライフルで銭形を狙うレイヤが、サーヤを守るために銃撃したことを。
レイヤが銭形の銃撃に成功した理由は簡単だ。姉のサーヤが助けを求めたからである。
サーヤは逃げ出したあと道に迷い、とにかくもう一度定春と会って助けられないかと戻ろうとした。そしてレイヤはサーヤならそうやって定春の所に戻ってくると知っていた。だから定春の死体が見える位置に陣取り、サーヤが来るのを待った。
誤算だったのは、狙撃を警戒する銭形が巧みに姿を隠しつつ定春の死体付近の建物にトラップを仕掛けたことだ。いかにレイヤがマテリアルとしても人間としても優秀であっても、相手は人間を半ばやめている銭形警部である。銃の扱いに関しても雲泥の差がある。なにより、何かを監視することの経験が圧倒的に違う。そうして銭形のトラップによって発生した物音でサーヤが戻ってきた可能性に気づくと。彼と同じようにダッシュで駆けつけた。
そこで見つけた銭形の後ろ姿。そして微かに、しかしレイヤの耳には間違いなく聞こえてきたサーヤの悲鳴に、即座にレイヤは射撃した。姉のピンチなのである、初めて撃つ銃であっても当たるのは必然、銭形の左腕を撃ち抜く。2発目以降は当たらなかったが、それならばと一気にダッシュで間合いを詰める。間を遮るガードレールなどを加味しても、この直線距離なら20秒以内に辿り着く。銃のリロードも行いつつ相手からの反撃を警戒して動いても、確実に30秒以内だ。そうして相手を無力化すれば、ようやくサーヤの所に行ける。
そう計算したレイヤの足は、ガードレールを越えようと踏み込んだタイミングでたたらを踏んだ。
カンという高い音と、続いて聞こえてきた銃声。そして銭形が隠れた位置から見えた光。撃ち返してきたと気づくと、直ぐに横へと駆け出し電信柱の陰へと隠れた。
レイヤが銭形の銃撃に成功した理由は簡単だ。姉のサーヤが助けを求めたからである。
サーヤは逃げ出したあと道に迷い、とにかくもう一度定春と会って助けられないかと戻ろうとした。そしてレイヤはサーヤならそうやって定春の所に戻ってくると知っていた。だから定春の死体が見える位置に陣取り、サーヤが来るのを待った。
誤算だったのは、狙撃を警戒する銭形が巧みに姿を隠しつつ定春の死体付近の建物にトラップを仕掛けたことだ。いかにレイヤがマテリアルとしても人間としても優秀であっても、相手は人間を半ばやめている銭形警部である。銃の扱いに関しても雲泥の差がある。なにより、何かを監視することの経験が圧倒的に違う。そうして銭形のトラップによって発生した物音でサーヤが戻ってきた可能性に気づくと。彼と同じようにダッシュで駆けつけた。
そこで見つけた銭形の後ろ姿。そして微かに、しかしレイヤの耳には間違いなく聞こえてきたサーヤの悲鳴に、即座にレイヤは射撃した。姉のピンチなのである、初めて撃つ銃であっても当たるのは必然、銭形の左腕を撃ち抜く。2発目以降は当たらなかったが、それならばと一気にダッシュで間合いを詰める。間を遮るガードレールなどを加味しても、この直線距離なら20秒以内に辿り着く。銃のリロードも行いつつ相手からの反撃を警戒して動いても、確実に30秒以内だ。そうして相手を無力化すれば、ようやくサーヤの所に行ける。
そう計算したレイヤの足は、ガードレールを越えようと踏み込んだタイミングでたたらを踏んだ。
カンという高い音と、続いて聞こえてきた銃声。そして銭形が隠れた位置から見えた光。撃ち返してきたと気づくと、直ぐに横へと駆け出し電信柱の陰へと隠れた。
(危なかった、あのまま飛んでいたら──)
銭形はレイヤがガードレールを飛び越える直前に銃撃してきた。狙いすました一発は、さっき撃たれた人間のものとは思えない。その肉体的、身体的タフさに悪魔なんじゃないかと疑う。悪魔は精気の多い人間を狙う。その際たるはマテリアルのような者だ。ゆえにサーヤを付け狙っていたのかもしれない──これまでの経験が、レイヤにそう思わせる。
電信柱の陰でリロードする間も、間を開けて銃弾が撃ち込まれる。その正確さにますます戦々恐々としながら、レイヤは意識を集中させた。
こと銃撃戦ではレイヤは銭形に万が一にも勝てはしない。
だが、レイヤにできて銭形にできないことがある。
電信柱の陰でリロードする間も、間を開けて銃弾が撃ち込まれる。その正確さにますます戦々恐々としながら、レイヤは意識を集中させた。
こと銃撃戦ではレイヤは銭形に万が一にも勝てはしない。
だが、レイヤにできて銭形にできないことがある。
「ぐおっ!?」
銭形の悲鳴が聞こえてくるのと同時に、レイヤは飛び出した。彼がやったことは至極単純。電信柱の陰から手を出し光らせたのだ。
光のマテリアルであるレイヤは、光る。彼が姉の元に馳せ参じたのと同じぐらい自明の理によって、彼は即席の目くらましを行えた。霧によっていくらか減衰するとはいえ、元から霧によって光が遮られているせいで銭形の目は暗順応、すなわち暗闇に慣れている。それがレイヤの幸運であり、銭形の不運だ。
銃撃をやめた銭形に一気に肉薄する。近づくにつれてその姿をはっきりと視認する。悪魔に特徴的な霧が出ていない、とはいえ警戒は微塵も緩めず、むしろいっそう険しい表情を作る。上級悪魔は霧を意図的に消し、人間に変身したり憑依したりできる。そのパターンを警戒しつつ、しかし銃撃は控える。人間に憑依するタイプだった場合殺してしまえば悪魔ごと死んでしまう。リロードも終わり絶好のチャンスだが、素手で半殺しにかかる。
だがその判断は最大のミス。手負いとはいえあれだけの銃撃ができる相手でも懐に飛び込めば制圧できるという驕りは、目を抑えてうずくまる銭形が誘ったトラップだ。
なぜ銭形はレイヤがガードレールを飛び越える直前に銃撃したのか──彼に当てずにサーヤが逃げるまでの間接近させないためだ。
なぜ銭形はレイヤに目くらましをされた時に銃撃をやめたのか──レイヤに当ててしまう可能性を考え、またレイヤが撃ってこなかったことから彼がこれ以上銃撃をしてこないと踏んだからだ。
なぜ銭形はそのまま逃げも隠れもしなかったのか──接近してきたレイヤを素手で制圧できるからだ。
光のマテリアルであるレイヤは、光る。彼が姉の元に馳せ参じたのと同じぐらい自明の理によって、彼は即席の目くらましを行えた。霧によっていくらか減衰するとはいえ、元から霧によって光が遮られているせいで銭形の目は暗順応、すなわち暗闇に慣れている。それがレイヤの幸運であり、銭形の不運だ。
銃撃をやめた銭形に一気に肉薄する。近づくにつれてその姿をはっきりと視認する。悪魔に特徴的な霧が出ていない、とはいえ警戒は微塵も緩めず、むしろいっそう険しい表情を作る。上級悪魔は霧を意図的に消し、人間に変身したり憑依したりできる。そのパターンを警戒しつつ、しかし銃撃は控える。人間に憑依するタイプだった場合殺してしまえば悪魔ごと死んでしまう。リロードも終わり絶好のチャンスだが、素手で半殺しにかかる。
だがその判断は最大のミス。手負いとはいえあれだけの銃撃ができる相手でも懐に飛び込めば制圧できるという驕りは、目を抑えてうずくまる銭形が誘ったトラップだ。
なぜ銭形はレイヤがガードレールを飛び越える直前に銃撃したのか──彼に当てずにサーヤが逃げるまでの間接近させないためだ。
なぜ銭形はレイヤに目くらましをされた時に銃撃をやめたのか──レイヤに当ててしまう可能性を考え、またレイヤが撃ってこなかったことから彼がこれ以上銃撃をしてこないと踏んだからだ。
なぜ銭形はそのまま逃げも隠れもしなかったのか──接近してきたレイヤを素手で制圧できるからだ。
(──なにっ。)
レイヤの体が、視界がぐるりと回る。投げられた、右手一本で、いつの間にか銃を手放して。
理解するより体が動く。このままでは死ぬ。走馬灯が流れるのを理性で押さえ込み、逆転の一手を紡ぐ。
光のマテリアルは単なる目くらましではない。その手から光刃が伸び、そして──
理解するより体が動く。このままでは死ぬ。走馬灯が流れるのを理性で押さえ込み、逆転の一手を紡ぐ。
光のマテリアルは単なる目くらましではない。その手から光刃が伸び、そして──
「──ここは?」
気がつけば、レイヤはスーパーの床に寝ていた。背中が痛い。どうやらきれいに投げられ気絶していたらしい。とっさに周囲を見渡して、正座している銭形にギョッとした。
反射的に立ち上がる。どうやら体に異常はなさそうだとだるさと痛みを感じながら思うと、銭形に向け身構える。だがその顔に広がるのは困惑。少しして、レイヤは銭形の首筋へ手を伸ばした。
反射的に立ち上がる。どうやら体に異常はなさそうだとだるさと痛みを感じながら思うと、銭形に向け身構える。だがその顔に広がるのは困惑。少しして、レイヤは銭形の首筋へ手を伸ばした。
「死んでる……」
銭形は息をしていなかった。レイヤが投げられているときに生じさせた光の剣が心臓を貫いたのだろう。おびただしい血が胸から下を真っ赤に染めていた。
「倒した……のか?」
その死に様に疑問形で呟く。と、自分が寝ていた場所に警察手帳があることに気づいた。血に濡れた意味深なそれを手に取る。
『君がなんのために戦っているのかは私にはわからない だが警察は必ずこの場に現れ君たちを助け出す この世に悪の栄えたためし無し 銭形』
銭形、という署名はほとんど文字になっておらず、身分証に書いてなければどういう文字なのかわからなっただろう。
だがその文字がわからなくても、レイヤは充分理解できた。
だがその文字がわからなくても、レイヤは充分理解できた。
「この人……人間だ。」
自分が殺したのが人間だったことを。
「どうして……あの人は、逃してくれたの……?」
銃声がしなくなった。スーパーから少し離れた場所で、サーヤは膝に手を当てて荒い息をしながら、頭の中のはてなマークに圧倒されていた。
はじめは銭形のことを定春を殺した人だと思った。数時間経ってまた銃を持って突然現れて、自分を狙っているのだと思った。でも今度ははっきりとわかる、あの人は自分に逃げるように言った。それにさっきも今も銃で撃たれていた。今のは本当に当たっていたように見える。
はじめは銭形のことを定春を殺した人だと思った。数時間経ってまた銃を持って突然現れて、自分を狙っているのだと思った。でも今度ははっきりとわかる、あの人は自分に逃げるように言った。それにさっきも今も銃で撃たれていた。今のは本当に当たっていたように見える。
「もしかして……あの人は、守ってくれた?」
銭形と名乗ったあのオジサンは、警察だと言っていた気がする。もしかして、自分を助けたくて声をかけてきたのでは、もしかして、自分を心配してずっと探してくれていたのでは。
元々お人好しのところがあるサーヤは、一度そう考え出すと止まらない。なによりあの銃で撃たれたのか腕を抑えながら必死に言っていた姿はが演技なんかじゃない。そう信じたい。
元々お人好しのところがあるサーヤは、一度そう考え出すと止まらない。なによりあの銃で撃たれたのか腕を抑えながら必死に言っていた姿はが演技なんかじゃない。そう信じたい。
「も、戻らなきゃ。」
「戻ってどうする気だ?」
「戻ってどうする気だ?」
響いた声に、サーヤは身をすくませた。
ゆっくりと振り返る。そこにいたのは、巨大な動物だった。
ゆっくりと振り返る。そこにいたのは、巨大な動物だった。
「あ、悪魔……!」
「悪魔じゃねえ、妖怪だ、手負いだがな。」
「悪魔じゃねえ、妖怪だ、手負いだがな。」
フン、と自嘲するように言うかまちは、これまでの一部始終を見ていた。
そもそも彼がエロエースたち4人を殺したところから話は始まっているのだ。レイヤに銃撃されて再度ねぐらを変えたところ、たまたまスーパーでの顛末が見えるところだったので逃げてきたのである。
そもそも彼がエロエースたち4人を殺したところから話は始まっているのだ。レイヤに銃撃されて再度ねぐらを変えたところ、たまたまスーパーでの顛末が見えるところだったので逃げてきたのである。
「まったく……ここの子どもはまともなやつがいないのか? なんでどいつもこいつも銃を撃ったり危ない場所に行ったりする?」
そう言いながらかまちはじっとサーヤを見る。蛇に睨まれた蛙とはこのことだろう。直感で嫌なものを感じずにはいられない。
それもそうだろう、悪魔が常人より精気の多いマテリアルを狙うように、妖怪も生命力の高い人間のほうが何かと都合が良い。まして近くで戦いがあり、危険人物は忙しいのに死体が増えても不思議じゃない状況となれば──やることは一つだ。
それもそうだろう、悪魔が常人より精気の多いマテリアルを狙うように、妖怪も生命力の高い人間のほうが何かと都合が良い。まして近くで戦いがあり、危険人物は忙しいのに死体が増えても不思議じゃない状況となれば──やることは一つだ。
(そうだ!)
「ああっ? なんだ、笛なんか吹いてどうする? まったく……やかましいなぁ!」
(そんな、効いてない!?)
「ああっ? なんだ、笛なんか吹いてどうする? まったく……やかましいなぁ!」
(そんな、効いてない!?)
剣呑な空気にサーヤは咄嗟にマテリアルを使う。彼女の破魔のマテリアルはアーティファクトの笛を介して使うが──妖怪であるかまちには聞かない。こっそりしたいからか性根が悪いからかうるさい笛だとは思うが、それだけだ。もう面倒くさいからとっとと殺しちまおうと、片手で掴みあげた時。
「ああ? お、お前は!」
「てめぇ、かまち! 今何しようとしてた!」
「てめぇ、かまち! 今何しようとしてた!」
かまちの妖怪としてのセンスが上を向かせる。自分に向かって爪を立てて急降下してくるフクロウの姿が見えた。
「もっけ……お前もいたのか!」
「おうおう、ずいぶんボロボロじゃねえか。」
「ああ、色々あってな……で、なんの用だ?」
「おうおう、ずいぶんボロボロじゃねえか。」
「ああ、色々あってな……で、なんの用だ?」
また面倒なことになった。かまちはそう思うと、もっけとサーヤをどうするか頭をひねる。すると全身の生傷が開く感覚がしてゾッとした。
(もっけとかまちか。なら、やっぱりルナもいるんだな。)
そしてそれを遠目に見る人影。
タイはもっけを見つけてから起こった銃声を聞きつけて密やかに接近していた。
目当ての場所は当初銭形とレイヤが戦うスーパーだったが、もっけの妖力を意識して動けば、かまちの妖力も感知し、これは一悶着あると銭形がレイヤを背負い投げで気絶させるとすぐにこちらへと向かった。
第三の目を解放しなかったので時間はかかったが、もっけとかまちの睨み合いには間に合った。感知されないように忍び足で近づくか考えて、やめておく。覗き見ているだけでも勘づかれかねない。
それに一番重要なことの予想もついた。
この殺し合いには、伝説の子の、つまり自分とルナの関係者が参加させられていると。
もっけはハンターに襲われてから方々を飛び続けていたので気づかなかったが、タイは一足早くその事実を見抜く。
タイはもっけを見つけてから起こった銃声を聞きつけて密やかに接近していた。
目当ての場所は当初銭形とレイヤが戦うスーパーだったが、もっけの妖力を意識して動けば、かまちの妖力も感知し、これは一悶着あると銭形がレイヤを背負い投げで気絶させるとすぐにこちらへと向かった。
第三の目を解放しなかったので時間はかかったが、もっけとかまちの睨み合いには間に合った。感知されないように忍び足で近づくか考えて、やめておく。覗き見ているだけでも勘づかれかねない。
それに一番重要なことの予想もついた。
この殺し合いには、伝説の子の、つまり自分とルナの関係者が参加させられていると。
もっけはハンターに襲われてから方々を飛び続けていたので気づかなかったが、タイは一足早くその事実を見抜く。
【0550 『西部』商店街近く】
【タイ@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
優勝する。
●中目標
妖力を回復させて傷を治す。
●小目標
もっけたちを監視する。
【目標】
●大目標
優勝する。
●中目標
妖力を回復させて傷を治す。
●小目標
もっけたちを監視する。
【立花紗綾@魔天使マテリアル(1) 目覚めの刻(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
脱出する。
●中目標
巻き込まれてたら仲間と合流したい。
●小目標
この妖怪、悪魔は?
【目標】
●大目標
脱出する。
●中目標
巻き込まれてたら仲間と合流したい。
●小目標
この妖怪、悪魔は?
【水沢黎夜@魔天使マテリアル(1) 目覚めの刻(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
サーヤを守り、脱出する。
●中目標
サーヤと合流する。
●小目標
人を、殺した──
【目標】
●大目標
サーヤを守り、脱出する。
●中目標
サーヤと合流する。
●小目標
人を、殺した──
【かまち@妖界ナビ・ルナ(1) 解かれた封印(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
傷が癒えるまで休む。
●小目標
面倒なやつが出てきた……
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
傷が癒えるまで休む。
●小目標
面倒なやつが出てきた……
【もっけ@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
ルナを守り、殺し合いを止める。
●中目標
ルナと合流する。
●小目標
こいつがいるってことは、ルナも……!
【目標】
●大目標
ルナを守り、殺し合いを止める。
●中目標
ルナと合流する。
●小目標
こいつがいるってことは、ルナも……!
【脱落】
【銭形幸一@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】