「ふう……そろそろ休憩しようか。」
「そうね。バリケードっていうのは、こんな感じでいいのかしら?」
「うーん、障害物になればなんでもいいんじゃないかな。」
「まあダメならまた作り直しましょう。」
「タ、タフだなあ……」
「そうね。バリケードっていうのは、こんな感じでいいのかしら?」
「うーん、障害物になればなんでもいいんじゃないかな。」
「まあダメならまた作り直しましょう。」
「タ、タフだなあ……」
額に汗をかきながら椅子の1つに座り込む三谷亘は、そう言ってシェーラひめに苦笑いを作った。
時刻は4時半を回った。ここに来てから小一時間ほど経った気がするが、最初に時計を意識していなかったのでどれだけ時間が経ったかわからない。その間ワタルはシェーラひめと2人で(と言ってもほとんどシェーラひめ1人で怪力を活かして)机や椅子でバリケードを作っていたが、完全に天井近くまで塞いで匍匐前進でもしなければ突破できないような物が出来上がったのを見て、さすがにやり過ぎたんじゃないかと思い一旦休憩を取ることにする。
時刻は4時半を回った。ここに来てから小一時間ほど経った気がするが、最初に時計を意識していなかったのでどれだけ時間が経ったかわからない。その間ワタルはシェーラひめと2人で(と言ってもほとんどシェーラひめ1人で怪力を活かして)机や椅子でバリケードを作っていたが、完全に天井近くまで塞いで匍匐前進でもしなければ突破できないような物が出来上がったのを見て、さすがにやり過ぎたんじゃないかと思い一旦休憩を取ることにする。
「そうでしょ。このぐらい簡単よ。」
「シェーラの国の人ってみんなそんなに力持ちなの?」
「まさか、他の人はワタルとおんなじよ。あ、ファリードなんかワタルより体力ないかも。」
「ファリードって言うのは。」
「幼なじみよ。宮廷の魔法使いでね、他にハイルっていうちょっと年上の男の子でしょ、それに、今は持ってないけれど指輪の魔神のライラっていう──」
「あの……」
「あ、ナオヤ! いいところに来たわね。ほらワタル、通訳して通訳。」
「あわわ、落ち着いて。」
「シェーラの国の人ってみんなそんなに力持ちなの?」
「まさか、他の人はワタルとおんなじよ。あ、ファリードなんかワタルより体力ないかも。」
「ファリードって言うのは。」
「幼なじみよ。宮廷の魔法使いでね、他にハイルっていうちょっと年上の男の子でしょ、それに、今は持ってないけれど指輪の魔神のライラっていう──」
「あの……」
「あ、ナオヤ! いいところに来たわね。ほらワタル、通訳して通訳。」
「あわわ、落ち着いて。」
仲間のことを嬉々として話すシェーラひめに、これ言葉のわからない居想さんは気まずいだろうなと思いながらワタルはまた苦笑する。彼女のクルクルと人を振り回す様は、猫の獣人で旅の仲間であるミーナを思い出す。世界は違えど自分と同じように冒険しているシェーラひめにシンパシーを感じずにはいられない。とはいえ、何か言いたげな直矢を放置するわけにもいかないので彼女を宥めると、ワタルは水を向けた。
「まず……灰原は保健室で鷹野さんが診てくれてる、らしい。」
「哀ちゃんは鷹野さんっていう看護婦さんが助けてくれてるんだね。」
「ふむふむ、アイはタカノって人に癒やされてるのね。」
「それと、ここにいる人たちに挨拶してきて、誰がいるかのリストを作った。」
「この学校にいる人に挨拶して名簿を作ったんだね。」
「ふむふむ、この学校にいる人に挨拶してどんな人がいるかまとめてきたのね。」
「ああ。それで、シェーラには通じてるか?」
「シェーラ、通じてるか大丈夫かって。」
「バッチリよ。」
「バッチリだって。」
「そうか……」
「哀ちゃんは鷹野さんっていう看護婦さんが助けてくれてるんだね。」
「ふむふむ、アイはタカノって人に癒やされてるのね。」
「それと、ここにいる人たちに挨拶してきて、誰がいるかのリストを作った。」
「この学校にいる人に挨拶して名簿を作ったんだね。」
「ふむふむ、この学校にいる人に挨拶してどんな人がいるかまとめてきたのね。」
「ああ。それで、シェーラには通じてるか?」
「シェーラ、通じてるか大丈夫かって。」
「バッチリよ。」
「バッチリだって。」
「そうか……」
あらためて直矢は思った。会話が面倒くさすぎる。
シェーラひめとそれ以外の人間が話そうとすると、ワタルが双方の言葉を声に出す必要があるらしい。どういう理屈かはわからないが、異能もたいていよくわからないものなのでそういうものかと納得はする。納得はするが面倒くさすぎる。
シェーラひめとそれ以外の人間が話そうとすると、ワタルが双方の言葉を声に出す必要があるらしい。どういう理屈かはわからないが、異能もたいていよくわからないものなのでそういうものかと納得はする。納得はするが面倒くさすぎる。
「え、こんなに多いんですか。」
「ああ、どうやら、全部で15人いるみたいだ。」
「うわっ、文字びっしり。あ、そうだ、ワタルこれ書き直してみてくれる?」
「え? あ、言葉みたいに翻訳できるか試すんだね。」
「そういうこと。」
「わかった。じゃあ一番上の居想さんのところから。えーっと、『居想直矢』、これでどう?」
「ダメね、漢字のままだわ。」
「そっかあ、文字は訳されないのか……じゃあ、音読するからメモをとってね。」
「うええ、めんどくさいのよね。こういう時ファリードがいてくれると助かるのに……準備できたわ。」
「ああ、どうやら、全部で15人いるみたいだ。」
「うわっ、文字びっしり。あ、そうだ、ワタルこれ書き直してみてくれる?」
「え? あ、言葉みたいに翻訳できるか試すんだね。」
「そういうこと。」
「わかった。じゃあ一番上の居想さんのところから。えーっと、『居想直矢』、これでどう?」
「ダメね、漢字のままだわ。」
「そっかあ、文字は訳されないのか……じゃあ、音読するからメモをとってね。」
「うええ、めんどくさいのよね。こういう時ファリードがいてくれると助かるのに……準備できたわ。」
情報交換の一つ一つが大事で、シェーラひめはまるで他国との外交みたいだと思った。やれ書類がどうだの情報がうんたらかんたらだの、ややこしい話は苦手だ。そうも言ってられないし、ワタルが面倒くさがらずに音読してくれると言ってくれているのでやるしかないのだが。
「まずは、居想直矢。」
「『イソウナオヤ』っと。他の人外見の特徴とかも書いてるのかしら?」
「どうしてわかったの?」
「勘よ、勘。えーっと、銀髪でカッコいいと。ワハハ、他にも書いちゃお。」
「中1って言ってたから13歳ぐらいだね。」
「あら1個上なの。」
「え、シェーラって12歳?(小5なの黙っておこう)」
「『イソウナオヤ』っと。他の人外見の特徴とかも書いてるのかしら?」
「どうしてわかったの?」
「勘よ、勘。えーっと、銀髪でカッコいいと。ワハハ、他にも書いちゃお。」
「中1って言ってたから13歳ぐらいだね。」
「あら1個上なの。」
「え、シェーラって12歳?(小5なの黙っておこう)」
「それで、シェーラだね。」
「はいはい。『さばくの東のはて、古き王国シェーラザードのハールーン王のひとり娘にして、世継ぎのひめ、シェーラザード』と。」
「お姫様だったの!?」
「ふふん、驚いた?」
「うん、すごく。(踊り子だと思ってたのも黙っておこう)」
「はいはい。『さばくの東のはて、古き王国シェーラザードのハールーン王のひとり娘にして、世継ぎのひめ、シェーラザード』と。」
「お姫様だったの!?」
「ふふん、驚いた?」
「うん、すごく。(踊り子だと思ってたのも黙っておこう)」
「それで、鷹野看護婦。」
「『タカノカンゴフ』。」
「あちがっ、看護婦って言うのは仕事のことで。」
「わたしだってシェーラひめって位で呼ばれることもあるし、そんなものでしょ。で、どんな人なの?」
「いいのかな……茶髪で髪が長い大人の女の人みたいだね。あと、看護婦だから医者の手伝いもできるよ。」
「うん? それってお医者さんと違うの?」
「うーん……なんか違うんだよ、ね、居想さん。」
「こっち振られても。」
「まあいいや、次よ次。」
「『タカノカンゴフ』。」
「あちがっ、看護婦って言うのは仕事のことで。」
「わたしだってシェーラひめって位で呼ばれることもあるし、そんなものでしょ。で、どんな人なの?」
「いいのかな……茶髪で髪が長い大人の女の人みたいだね。あと、看護婦だから医者の手伝いもできるよ。」
「うん? それってお医者さんと違うの?」
「うーん……なんか違うんだよ、ね、居想さん。」
「こっち振られても。」
「まあいいや、次よ次。」
「野宮球児。黒い髪で、髪がこのくらいで。」
「『ノミヤキュージ』ね。 髪は長くもなくて短くもないぐらいの男の子。」
「それと、さっきの本乃さんの友達らしいよ。」
「友達まで巻き込むなんて! ファリードたちも、大丈夫かしら……」
「『ノミヤキュージ』ね。 髪は長くもなくて短くもないぐらいの男の子。」
「それと、さっきの本乃さんの友達らしいよ。」
「友達まで巻き込むなんて! ファリードたちも、大丈夫かしら……」
「広瀬康一。学ランっていう黒い服を来た、背の低い男の人みたい。年は、15歳ぐらいかな。」
「ああ、あの暑そうな服ね。わたしと同じぐらいの背だったかしら。えっと『ヒロセコーイチ』っと。」
「ああ、あの暑そうな服ね。わたしと同じぐらいの背だったかしら。えっと『ヒロセコーイチ』っと。」
「安永宏。あれ? この人はあんまり情報がないや。」
「外を見張っててその人と本乃には直接話せてないんだ。」
「茶髪で顔が四角いっぽくて背が高いらしいよ。」
「『ヤスナガヒロシ』。うんと、男の人?」
「そうだね。年は14歳ぐらいじゃないかって。」
「うーん、あの人かしら? ふう、こんなに人数が多いなんて、おぼえきれないわ。」
「じゃあ次は……」
「はぁ、まだいるのね。」
「外を見張っててその人と本乃には直接話せてないんだ。」
「茶髪で顔が四角いっぽくて背が高いらしいよ。」
「『ヤスナガヒロシ』。うんと、男の人?」
「そうだね。年は14歳ぐらいじゃないかって。」
「うーん、あの人かしら? ふう、こんなに人数が多いなんて、おぼえきれないわ。」
「じゃあ次は……」
「はぁ、まだいるのね。」
「西宮アキト。たぶん12歳ぐらいの男子で、白い制服着て刀持ってる。」
「あー! この人はわかるわ! ひとり強そうだったし、砂漠でも過ごしやすそうな服だったもの!」
「他には、バンダナが特徴みたい。」
「『ニシミヤアキト』っと。うん、次!」
「あー! この人はわかるわ! ひとり強そうだったし、砂漠でも過ごしやすそうな服だったもの!」
「他には、バンダナが特徴みたい。」
「『ニシミヤアキト』っと。うん、次!」
「小林旋風。12歳だね。あ、情報が少ないみたい。」
「ああ、そいつらは安永と一緒に見張りについてるみたいで、ろくに話せなかったんだ。」
「見張りをしてるんだ。で、沖田悠翔と、関本和也……名前しかわかってないのか。」
「体育会系な日焼けした奴と、パーカーのイケメンと、お調子者って感じのツンツン頭だったが……誰が誰だかわからないんだ。あと、全員12歳らしい。」
「体育会系な日焼けした奴と、パーカーのイケメンと、お調子者って感じのツンツン頭、誰が誰だかわからない、で、全員12歳の男子。」
「ええ? 『コバヤシツムジ』、『オキタユート』、『セキモトカズヤ』……もうなんかの呪文みたいね。ま、まだいるの?」
「ううん、これで終わりだよ。」
「ほっ! よかったわ!」
「ああ、そいつらは安永と一緒に見張りについてるみたいで、ろくに話せなかったんだ。」
「見張りをしてるんだ。で、沖田悠翔と、関本和也……名前しかわかってないのか。」
「体育会系な日焼けした奴と、パーカーのイケメンと、お調子者って感じのツンツン頭だったが……誰が誰だかわからないんだ。あと、全員12歳らしい。」
「体育会系な日焼けした奴と、パーカーのイケメンと、お調子者って感じのツンツン頭、誰が誰だかわからない、で、全員12歳の男子。」
「ええ? 『コバヤシツムジ』、『オキタユート』、『セキモトカズヤ』……もうなんかの呪文みたいね。ま、まだいるの?」
「ううん、これで終わりだよ。」
「ほっ! よかったわ!」
シェーラひめは露骨にホッとして椅子に身を預けた。まさか建物に誰がいるかの情報交換だけでこんなに時間がかかるなんて思わなかった。バリケードを作ることよりこっちのほうが何倍も疲れる。書きなれない鉛筆で書きなれないメモ帳に、ふだんは人任せにしている文字を書くことで、信じがたいことに腱鞘炎のような痛みすら覚えている。
だがその疲労感から彼女は気づかず、また他の2人も意識が回らなかった。本当にこの15人が全てなのかと。
3人は知らない、鷹野三四は意図的に古手梨花と前原圭一の情報を伏せ、聞かれても積極的に公開する気は無いことを。
3人は知らない、既に芦川ミツルが学校に入り込み、人数のカウンティングを進めていることを。
3人は知らない、この学校にはライオンが潜み、激増した人間たちに恐怖を懐きいつ牙を向くかわからないことを。
だがその疲労感から彼女は気づかず、また他の2人も意識が回らなかった。本当にこの15人が全てなのかと。
3人は知らない、鷹野三四は意図的に古手梨花と前原圭一の情報を伏せ、聞かれても積極的に公開する気は無いことを。
3人は知らない、既に芦川ミツルが学校に入り込み、人数のカウンティングを進めていることを。
3人は知らない、この学校にはライオンが潜み、激増した人間たちに恐怖を懐きいつ牙を向くかわからないことを。
冒険とは手間の集まりである。本ならば「情報交換をした」の一言で済むことが、実際には長々としたやり取りを必要とし、しかもそれが本当である保証などない。ましてや殺し合いの場では、嘘と誤解は何倍にも膨れ上がる。
「あっ、やっと……書き取りが終わったんだなって……もしかして、これって新しい人に出会うとまたやらなきゃいけないの?」
「新しい人に会ったら、そうだね、やらないと。」
「これは……大変だな。」
「そうだね居想さん、大変だね。」
「一番大変なのはワタルじゃない?」
「一番大変なのはワタルじゃないか?」
「……うん、ボクが一番大変だね。今2人とも同じこと言ってたよ。」
「ふうん、『イチバンタイヘンナノハ、ワタル、ジャナイカ』ね。よし、日本語一つ覚えたわ!」
「もしかして、今の言葉で日本語を覚えようとしてるのか?」
「これは……本当に大変だなあ。」
「新しい人に会ったら、そうだね、やらないと。」
「これは……大変だな。」
「そうだね居想さん、大変だね。」
「一番大変なのはワタルじゃない?」
「一番大変なのはワタルじゃないか?」
「……うん、ボクが一番大変だね。今2人とも同じこと言ってたよ。」
「ふうん、『イチバンタイヘンナノハ、ワタル、ジャナイカ』ね。よし、日本語一つ覚えたわ!」
「もしかして、今の言葉で日本語を覚えようとしてるのか?」
「これは……本当に大変だなあ。」
しみじみ言うワタルも、その気苦労を察して閉口する直矢も、これを機会に日本語を覚えようとするシェーラひめも誰も気づかない。
彼らに危機は刻一刻と迫ることを。
彼らに危機は刻一刻と迫ることを。
【0500 『北部』学校】
【三谷亘@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
脱出する。あの掲示板は……
●中目標
怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す。
●小目標
ぬわああん疲れたもおおおん!!
【目標】
●大目標
脱出する。あの掲示板は……
●中目標
怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す。
●小目標
ぬわああん疲れたもおおおん!!
【シェーラ@シェーラひめのぼうけん 空とぶ城(シェーラひめシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
仲間と合流する。
●中目標
殺し合いをなんとかする。
●小目標
チカレタ……
【目標】
●大目標
仲間と合流する。
●中目標
殺し合いをなんとかする。
●小目標
チカレタ……
【居想直矢@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
脱出する。
●中目標
なるべく能力は使わず、知り合いを探す。
●小目標
なぜ外人なんて参加者にした?
【目標】
●大目標
脱出する。
●中目標
なるべく能力は使わず、知り合いを探す。
●小目標
なぜ外人なんて参加者にした?