沖田総司。
新選組一番隊組長にして最強の剣士。
イケメン、薄幸、爽やか、エトセトラ、エトセトラ……
彼を褒め称える言葉は十人に聞けば十人から出てくるような、幕末のヒーローだ。
そんな男が、見目麗しい(比較的)女性の額に載せられた手ぬぐいを替えてやっているのを見れば、間違いなく何か児童文庫では書けないようなことをしているのではなく、どう見ても看病、それでなくても一万歩譲って拷問のようにしか見えないだろう。
黒宮うさぎは、沖田が和服の袖を捲り名も知れぬ女性を診ているのを眺めていた。露になった腕には、彼が剣の道に生きていると素人目にもわかるような確かな筋肉と傷がある。少なくとも、コスプレにはちょっと見えない。
新選組一番隊組長にして最強の剣士。
イケメン、薄幸、爽やか、エトセトラ、エトセトラ……
彼を褒め称える言葉は十人に聞けば十人から出てくるような、幕末のヒーローだ。
そんな男が、見目麗しい(比較的)女性の額に載せられた手ぬぐいを替えてやっているのを見れば、間違いなく何か児童文庫では書けないようなことをしているのではなく、どう見ても看病、それでなくても一万歩譲って拷問のようにしか見えないだろう。
黒宮うさぎは、沖田が和服の袖を捲り名も知れぬ女性を診ているのを眺めていた。露になった腕には、彼が剣の道に生きていると素人目にもわかるような確かな筋肉と傷がある。少なくとも、コスプレにはちょっと見えない。
「タイムスリップ、かな……」
それがうさぎをキョトンとさせている原因だ。
うさぎはサマーキャンプに行っていた。
帰り道で土砂崩れが起き、洋館に泊めてもらった。
そして道が復旧して、家に帰って、さあ新学期に登校して、で、バトロワだ。
ぶっちゃけ意味がわからないが、そのことは大した問題ではない。このバトロワに巻き込まれている人間のたいていが彼女と同じ混乱を抱いている。
問題は、沖田総司だ。
いくらぽややんとした雰囲気の彼女でも沖田総司はもちろん知っている。で、その沖田総司が目の前にいる。いくつか質問してみたが、ちゃんと幕末の知識もあるっぽい。そして腰に提げているのは本物の日本刀ときた。もうこの段階で軽く信じている。だがそれだけでは、まだドッキリの可能性を捨てきれなかったが。
うさぎはサマーキャンプに行っていた。
帰り道で土砂崩れが起き、洋館に泊めてもらった。
そして道が復旧して、家に帰って、さあ新学期に登校して、で、バトロワだ。
ぶっちゃけ意味がわからないが、そのことは大した問題ではない。このバトロワに巻き込まれている人間のたいていが彼女と同じ混乱を抱いている。
問題は、沖田総司だ。
いくらぽややんとした雰囲気の彼女でも沖田総司はもちろん知っている。で、その沖田総司が目の前にいる。いくつか質問してみたが、ちゃんと幕末の知識もあるっぽい。そして腰に提げているのは本物の日本刀ときた。もうこの段階で軽く信じている。だがそれだけでは、まだドッキリの可能性を捨てきれなかったが。
「火の回りが強くなってきましたね。」
バチン、バチン、と爆発する音が、少し先のマンションから聞こえる。かれこれ燃えること一時間以上。消防車の一台も来ないために火の手を止める術は無く、燃えに燃えて空に延々と黒い煙を吐き出し、熱と火の粉で周囲の建物を燃やしていた。
赤い空に黒い煙というのは、青い空に白い雲のちょうど逆だなあ、と、どこか変なふうに思う。そしてだから思った。そんなことが起こるのなら、タイムスリップの一つや二つあるだろうと。そして視界には見えない襖の奥に寝かされた男の子だった死体のことが頭をよぎる。あんなふうに死ぬなんてそれはもうファンタジーとかそういうのだろうと。
赤い空に黒い煙というのは、青い空に白い雲のちょうど逆だなあ、と、どこか変なふうに思う。そしてだから思った。そんなことが起こるのなら、タイムスリップの一つや二つあるだろうと。そして視界には見えない襖の奥に寝かされた男の子だった死体のことが頭をよぎる。あんなふうに死ぬなんてそれはもうファンタジーとかそういうのだろうと。
「……イタい。」
ゲーム開始からまだ数分の頃。
うさぎはもうさんざん引っ張ったほっぺをまた引っ張っていた。
変な空変な町変な首輪。変変づくしでしかも迷子。多くの他の子供と同じように途方に暮れる他ない。
はあ、っと普段はしないような深いため息をついて、ぼんやり近くの自動販売機を見上げる。残念ながら持ち合わせもなく、冷たい飲み物の一つでも飲んで頭を冷やしたかったのにそうもいかない。それにおなかも空いている。いっぱい食べる派の彼女にとってはベストコンディションとは言い難い。
うさぎはもうさんざん引っ張ったほっぺをまた引っ張っていた。
変な空変な町変な首輪。変変づくしでしかも迷子。多くの他の子供と同じように途方に暮れる他ない。
はあ、っと普段はしないような深いため息をついて、ぼんやり近くの自動販売機を見上げる。残念ながら持ち合わせもなく、冷たい飲み物の一つでも飲んで頭を冷やしたかったのにそうもいかない。それにおなかも空いている。いっぱい食べる派の彼女にとってはベストコンディションとは言い難い。
パララララ!
「うぅ、また……?」
「うぅ、また……?」
そして、ときおり響く、というかどんどん増えていく銃声と、だんだん聞こえるようになった恐ろしい叫び声。まるで学校が休みの日の平日の昼下がりにやっているアーノルド・シュワルツェネッガーとかが出てる古い映画みたいに、何かがぶっ壊れる音が聞こえてくる。あまりに音が続くので、BGMが無いことが変に感じてくるほどだ。
そしてそんな彼女を放っておくほど、映画は甘くない。銃を撃たれて当たらないのは主人公ぐらいのもので、背景に映るモブには容赦無く至近弾が浴びせられる。
そしてそんな彼女を放っておくほど、映画は甘くない。銃を撃たれて当たらないのは主人公ぐらいのもので、背景に映るモブには容赦無く至近弾が浴びせられる。
「きゃうっ!?」
いったいどこから飛んできたのかわからない銃弾が、彼女の近くのマンホールで跳ねて近くのブロック塀へと突き刺さる。土煙を上げて壊れたそれに驚き尻餅をつく。頭を抱えてそのまましゃがみこんだのは正解だろう。彼女が見上げていた自動販売機にも銃弾が突き刺さり、破片が頭へ降ってくる。フードを被っていたこともあり怪我は全く無いが、地震でも無いのに頭の上に破片が降ってくるなどいよいよヤバイ事態だ。
逃げないと。ひとまず銃声が止んだようなので立ち上がり、塀に体を擦るように歩きながら避難できる場所を探す。目当ては頑丈な建物。理由は防災訓練でなんか習った気がするから。赤い霧で視界は少し悪いが元々町で視界が悪いのでたいして気にせず早足で歩く。
彼女はここで気づくべきであった。銃声が止んだのは戦闘を止めたこととイコールではなく、単に撃てる銃が無くなったので別の銃を拾って乱射するような手合がいることを。
逃げないと。ひとまず銃声が止んだようなので立ち上がり、塀に体を擦るように歩きながら避難できる場所を探す。目当ては頑丈な建物。理由は防災訓練でなんか習った気がするから。赤い霧で視界は少し悪いが元々町で視界が悪いのでたいして気にせず早足で歩く。
彼女はここで気づくべきであった。銃声が止んだのは戦闘を止めたこととイコールではなく、単に撃てる銃が無くなったので別の銃を拾って乱射するような手合がいることを。
「「あ。」」
物語の最初の出会いは曲がり角での遭遇と相場で決まっている。
期せずして角待ちの形になったトト子の前に、うさぎは飛び出してしまった。
え、と思う。まさか銃を撃ってたのが普通のどこにでもいそうなお姉さんとは。
それはトト子も一緒。腹いせ紛れに乱射してたら、目の前に子供が現れた。
当然、彼女は引鉄に指をかけている。山岸由花子をそうしたように、彼女はまるで誰かに当たることを考えずに弾丸をばら撒いている。
これは死んだ、そううさぎは、自分を掠めた一連射と共に実感した。助けて、反射的に叫ぶ。撃たれてからでは遅いし撃たれ損なってからでも遅いが、それでも叫ばずにはいられない。走馬灯と一緒に声を張り上げる。家族のこと、幼なじみのこと、友達のこと、ぱらぱら漫画みたいにヒラヒラ光って流れていく記憶のムービーが勢いを増すのに合わせて声が高くなる。
期せずして角待ちの形になったトト子の前に、うさぎは飛び出してしまった。
え、と思う。まさか銃を撃ってたのが普通のどこにでもいそうなお姉さんとは。
それはトト子も一緒。腹いせ紛れに乱射してたら、目の前に子供が現れた。
当然、彼女は引鉄に指をかけている。山岸由花子をそうしたように、彼女はまるで誰かに当たることを考えずに弾丸をばら撒いている。
これは死んだ、そううさぎは、自分を掠めた一連射と共に実感した。助けて、反射的に叫ぶ。撃たれてからでは遅いし撃たれ損なってからでも遅いが、それでも叫ばずにはいられない。走馬灯と一緒に声を張り上げる。家族のこと、幼なじみのこと、友達のこと、ぱらぱら漫画みたいにヒラヒラ光って流れていく記憶のムービーが勢いを増すのに合わせて声が高くなる。
「待って、そんな気――ギャッ!?」
そして、祈りは届いた。
目を見開いて天に向かって叫んでいたからわかる。その人は、屋根の上を飛んで現れた。後から聞いたところ、銃手が近くにいるのがわかったが道の作りから撃たれると判断して屋根伝いに移動を始めていたところだという。そんな常識外れの行動とそれを可能にする力を持ってうさぎの前に舞い降り、トト子の額を一閃して気絶させたのが沖田だった。
目を見開いて天に向かって叫んでいたからわかる。その人は、屋根の上を飛んで現れた。後から聞いたところ、銃手が近くにいるのがわかったが道の作りから撃たれると判断して屋根伝いに移動を始めていたところだという。そんな常識外れの行動とそれを可能にする力を持ってうさぎの前に舞い降り、トト子の額を一閃して気絶させたのが沖田だった。
それから二時間、沖田と名も知れぬ銃撃女トト子とうさぎは、こうして雑居ビルに身を寄せている。
自己紹介、ゲームに乗っていないことの確認、この異常事態への知識と考察の共有、やれることは一通りやった。その大部分は、互いが別の時代から来ているということだった。意識して沖田は饒舌に話しているのだろうと、うさぎは思う。なんとなく、彼からは気遣いを感じた。まあ、それもそうだろう。さっき、あんな、死体を見て、吐いて――
自己紹介、ゲームに乗っていないことの確認、この異常事態への知識と考察の共有、やれることは一通りやった。その大部分は、互いが別の時代から来ているということだった。意識して沖田は饒舌に話しているのだろうと、うさぎは思う。なんとなく、彼からは気遣いを感じた。まあ、それもそうだろう。さっき、あんな、死体を見て、吐いて――
「――エェェ……」
思わずまたえづく。
イメージする度に、吐き気をもよおす。
あの燃えるマンション。あそこには参加者がいたのはわかっていた。だから銃声が止んだところで、沖田は情報交換を中止して偵察に行くと言い、うさぎは沖田に付いていった。それが一番安心できたからだ。
そして目にした。新庄ツバサの死体を。夏休みのスイカ割りのスイカみたいに、なんならそれよりもバックリ割られた頭を。
あの時吐かなかったのは、奇跡だと思う。もしくは、リアリティを感じなかったか。どちらにせようさぎはこう言ったのだ、「あの子も助けないと」と。
その時の沖田の表情の変化は、不気味なCGのようだった。
それまで何があっても涼しい顔を崩さなかった彼が、眉を寄せ、死体を見て、何かに気づき、怒り、そして頷くのを。
燃えるマンションとはいえ一階にまでは火の手もまだ回らず、近くに担架が入ったロッカーもあったので、二人でそれに載せると意外に簡単に運べた。死体というのも、一気に血が出ているからか、動かしても流れる血が殆ど無い。一生の間で一回も使わないような知識が増えた。
イメージする度に、吐き気をもよおす。
あの燃えるマンション。あそこには参加者がいたのはわかっていた。だから銃声が止んだところで、沖田は情報交換を中止して偵察に行くと言い、うさぎは沖田に付いていった。それが一番安心できたからだ。
そして目にした。新庄ツバサの死体を。夏休みのスイカ割りのスイカみたいに、なんならそれよりもバックリ割られた頭を。
あの時吐かなかったのは、奇跡だと思う。もしくは、リアリティを感じなかったか。どちらにせようさぎはこう言ったのだ、「あの子も助けないと」と。
その時の沖田の表情の変化は、不気味なCGのようだった。
それまで何があっても涼しい顔を崩さなかった彼が、眉を寄せ、死体を見て、何かに気づき、怒り、そして頷くのを。
燃えるマンションとはいえ一階にまでは火の手もまだ回らず、近くに担架が入ったロッカーもあったので、二人でそれに載せると意外に簡単に運べた。死体というのも、一気に血が出ているからか、動かしても流れる血が殆ど無い。一生の間で一回も使わないような知識が増えた。
「そろそろ行きましょう。」
「……」
「……うさぎさん。」
「っ! う、はい……」
「……」
「……うさぎさん。」
「っ! う、はい……」
あれから一時間以上、沖田は常にうさぎに声をかけつづけてきた。おかげで余計なことを考えなくて済んだのだと思う。
沖田はトト子の脈を確かめると、彼女を抱きかかえた。このビルにあった銃は持っていかない。剣士であり、後に新選組へと加わる彼が使うは撃剣、帯刀しているのなら問題は無い。彼が持っていくのは一つ。首輪だ。
うさぎは、ちらっと奥を見る。男の子の靴が見える。どこから持ってきたのだろうか、布団に寝かせられている。あの見えない位置には、本当なら首があって、首輪があって、頭があったのだろう。
うさぎは、また少しえづいた。
沖田はトト子の脈を確かめると、彼女を抱きかかえた。このビルにあった銃は持っていかない。剣士であり、後に新選組へと加わる彼が使うは撃剣、帯刀しているのなら問題は無い。彼が持っていくのは一つ。首輪だ。
うさぎは、ちらっと奥を見る。男の子の靴が見える。どこから持ってきたのだろうか、布団に寝かせられている。あの見えない位置には、本当なら首があって、首輪があって、頭があったのだろう。
うさぎは、また少しえづいた。
【0215 住宅地】
【沖田総司@恋する新選組(1)(恋する新撰組シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
主催者を打倒し帰る
●中目標
首輪を調べる
●小目標
うさぎとうさぎを銃撃した女(トト子)を連れて火の手から逃れる
【備考】
●新庄ツバサの首輪を手に入れました
【目標】
●大目標
主催者を打倒し帰る
●中目標
首輪を調べる
●小目標
うさぎとうさぎを銃撃した女(トト子)を連れて火の手から逃れる
【備考】
●新庄ツバサの首輪を手に入れました
【黒宮うさぎ@人狼サバイバル 絶体絶命! 伯爵の人狼ゲーム(人狼サバイバルシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
帰りたい
●小目標
沖田さんに着いていく……?
【目標】
●大目標
帰りたい
●小目標
沖田さんに着いていく……?