「木も、草も、虫も、みんな死んでいる……生きている生き物がいない……」
これが地獄なんだろうか。
自分に与えられた罰なのだろうか。
幹太郎は、命の息吹感じられぬ赤い空と霧の中で、ぼんやりとしながら木の幹に背を預けていた。
果南島というリゾート地にある喫茶店『やまびこ』の主人、それが彼の表の顔だった。
だがその正体は、自然を破壊しておいて建設されたテーマパークを楽しむ人間たちを次々と攫う、連続行方不明事件の犯人である。
最後には、彼が泳ぎを教えた少女によって自らの過ちに気づき、人々を開放して島から離れ――そして今に至る。
自分に与えられた罰なのだろうか。
幹太郎は、命の息吹感じられぬ赤い空と霧の中で、ぼんやりとしながら木の幹に背を預けていた。
果南島というリゾート地にある喫茶店『やまびこ』の主人、それが彼の表の顔だった。
だがその正体は、自然を破壊しておいて建設されたテーマパークを楽しむ人間たちを次々と攫う、連続行方不明事件の犯人である。
最後には、彼が泳ぎを教えた少女によって自らの過ちに気づき、人々を開放して島から離れ――そして今に至る。
戦いで消耗した身体は治り、体力は十全である。だが、一歩も動く気になれない。自然を愛する彼にこの殺し合いの環境は極めて居心地が悪いのもあるが、それ以上に。島から離れ故郷に戻り、そんな自分を連れてきたあの白いウサギ。彼が自分に何を期待しているのかがわかったからだ。
ちらりと近くのコテージのテーブルを見る。そこに置かれているのは、彼が嫌う人間の象徴のような大きな銃。これを使って人々を害して回れというのだろう。果南島でそうしたように。いや、もっと直接的に。
ちらりと近くのコテージのテーブルを見る。そこに置かれているのは、彼が嫌う人間の象徴のような大きな銃。これを使って人々を害して回れというのだろう。果南島でそうしたように。いや、もっと直接的に。
「……そうだよな、やりかねないよな。」
視線を遠くから近くへと、傍らに投げ捨てられた拳銃へと向ける。それはあのコテージを後にしたときに持ってきてしまった物だ。
前の時は幸いにして死者は出なかった。だが、それはたまたまだ。あの時少女が、ルナが間に合わなければ、今ごろ彼らは人間の形をしていなかっただろう。
そしてもし、この場で自然を汚すような、それでいて人を殺すような人間を見れば、幹太郎はこの拳銃を使わない自身がない。
前の時は幸いにして死者は出なかった。だが、それはたまたまだ。あの時少女が、ルナが間に合わなければ、今ごろ彼らは人間の形をしていなかっただろう。
そしてもし、この場で自然を汚すような、それでいて人を殺すような人間を見れば、幹太郎はこの拳銃を使わない自身がない。
「……」
ためしに、拳銃を手に取り自分のこめかみに当ててみる。さすがの自分でも、引鉄を引けば確実に死ぬだろう。常人離れした身体能力を持つとはいえ、頭を撃ち抜かれれば。あるいは、銃弾が頭蓋骨を跳ねまわって一命を取り留めるようなケースもあると聞いたことがあるが、そんな奇跡は自分には起こらないだろう。それにいっそ、死ねばこの悪い夢から覚めるかもしれない。変な首輪を着けて殺し合いだなんて、馬鹿げている。夢なら死ねば覚めるし、夢でなくても、あの子の思いを汚すようなことをして死ぬよりかは何倍もマシかもしれない。
「ダメええぇぇぇっ!」
「うわっ!」
「うわっ!」
バアン!
突然聞こえた少女の悲鳴に反射的に引鉄を引いてしまう。
咄嗟に頭を逸らすと、今まであった場所を銃弾が通り抜ける。
パリンとコテージの窓が割れる。どうやら流れ弾で割ってしまったようだ。
咄嗟に頭を逸らすと、今まであった場所を銃弾が通り抜ける。
パリンとコテージの窓が割れる。どうやら流れ弾で割ってしまったようだ。
「君、は?」
走り寄って来る少女に、なんとか声を絞り出して呼びかける。
冗談で拳銃自殺しようとして、それを本気で止めようとした少女の声で危うく死にかける。
幹太郎と少女、水沢巴世里の出会いはそんなものだった。
冗談で拳銃自殺しようとして、それを本気で止めようとした少女の声で危うく死にかける。
幹太郎と少女、水沢巴世里の出会いはそんなものだった。
「美味しい!」
「ハハッ、喜んでもらえてよかったよ。これで少しは、さっきのお礼ができたかな。」
「あう、さっきは、勘違いしてごめんなさい。」
「気にしないで、紛らわしいことしたのはオレだし。」
「ハハッ、喜んでもらえてよかったよ。これで少しは、さっきのお礼ができたかな。」
「あう、さっきは、勘違いしてごめんなさい。」
「気にしないで、紛らわしいことしたのはオレだし。」
ココアの入ったマグカップを顔の前で両手で抱えたパセリに、幹太郎は歯を見せて笑いかけた。
コテージは飲食店として使われていたのだろう、専門的な家電と一通りの食材が揃っていた。情報交換をする場としては悪くない。特に、喫茶店の主人だった幹太郎にとっては。
コテージは飲食店として使われていたのだろう、専門的な家電と一通りの食材が揃っていた。情報交換をする場としては悪くない。特に、喫茶店の主人だった幹太郎にとっては。
「それで――パセリちゃんは殺し合いに乗ってるの?」
「プッ、ゴホ、ゴホ!」
「ま、ノッてたらオレの入れたココアは飲んでないか! ハハハッ!」
「か、幹太郎さん!」
「ゴメンゴメン。でも、気をつけた方がいい。オレがノッてたら、そのココアに毒を入れててもおかしくはなかったんだ。これからはもっと気をつけた方がいい。」
「プッ、ゴホ、ゴホ!」
「ま、ノッてたらオレの入れたココアは飲んでないか! ハハハッ!」
「か、幹太郎さん!」
「ゴメンゴメン。でも、気をつけた方がいい。オレがノッてたら、そのココアに毒を入れててもおかしくはなかったんだ。これからはもっと気をつけた方がいい。」
むぅ、と難しい顔をしてココアに口をつけるパセリを見て、幹太郎は笑いながら内心思った。今のこの時は、あの時のようだと。
幹太郎の秘密を暴いた少女、ルナ。彼女は小学六年生というパセリよりも3・4歳ほど幼かったと思うが、同じように弾ける笑顔で人の悪性というものを感じさせない少女だった。ああいう人間ばかりならば、幹太郎もあんな凶行は行わなかったのではないか、そんなふうに今からなら振り返られる程度には。
幹太郎の秘密を暴いた少女、ルナ。彼女は小学六年生というパセリよりも3・4歳ほど幼かったと思うが、同じように弾ける笑顔で人の悪性というものを感じさせない少女だった。ああいう人間ばかりならば、幹太郎もあんな凶行は行わなかったのではないか、そんなふうに今からなら振り返られる程度には。
ガタン。
パセリがテーブルに突っ伏す。
すぅすぅと小さな寝息を立てていた。
すぅすぅと小さな寝息を立てていた。
「やっと、眠ったか。」
もっとも、あの時も今のように飲み物に混ぜ物をして昏睡させたのだが。
「さて、君にはしばらく眠っていてもらうよ。」
幹太郎は女子小学生を昏睡させることに関しては一日の長がある。
普段ならオリジナルメニューに盛ることで匂いや味をごまかすが、殺し合いの場で自殺しようとした人間を助けるような心優しい少女だ。彼女ならばなんの疑いもなく飲むと信じていた。とはいえ、疑われればすぐにバラしてもう一つ作っておいた何も入れていないココアを差し出す気ではあったが。
幹太郎がパセリを昏睡させたのは、そこだ。
彼女は殺し合いの場にいるには優しすぎる、純粋すぎる。多くの普通の汚い人間と違って、太陽に向かって顔を上げるヒマワリのような、そんな愛と力を感じる。
そんな彼女を、こんな死の世界で咲かせてはいけない。パセリはこんな奈落で咲く花ではないのだ。
だから、花を守る大樹が必要だ。
普段ならオリジナルメニューに盛ることで匂いや味をごまかすが、殺し合いの場で自殺しようとした人間を助けるような心優しい少女だ。彼女ならばなんの疑いもなく飲むと信じていた。とはいえ、疑われればすぐにバラしてもう一つ作っておいた何も入れていないココアを差し出す気ではあったが。
幹太郎がパセリを昏睡させたのは、そこだ。
彼女は殺し合いの場にいるには優しすぎる、純粋すぎる。多くの普通の汚い人間と違って、太陽に向かって顔を上げるヒマワリのような、そんな愛と力を感じる。
そんな彼女を、こんな死の世界で咲かせてはいけない。パセリはこんな奈落で咲く花ではないのだ。
だから、花を守る大樹が必要だ。
「葉や枝が焼ける臭い……だんだん近づいているな。」
パセリをそっとソファへと運びブランケットを掛けると、幹太郎は両手にアサルトライフルを持ってコテージを出る。
幹太郎の自然への感覚が、赤い霧に阻まれながらも近くでの戦闘を嗅ぎつけていた。どんな相手かまではわからないが、パセリに近づけるわけにも知らせるわけにもいかない。きっと彼女は止めようとして無茶をしてしまうから。
幹太郎は森の中へと走り出す。その目は既に人ならざるものの目になっていた。
幹太郎の自然への感覚が、赤い霧に阻まれながらも近くでの戦闘を嗅ぎつけていた。どんな相手かまではわからないが、パセリに近づけるわけにも知らせるわけにもいかない。きっと彼女は止めようとして無茶をしてしまうから。
幹太郎は森の中へと走り出す。その目は既に人ならざるものの目になっていた。
(! どんどん街の方に!)
「どうしたどうした! 威勢がいいのは最初だけかよお!」
「どうしたどうした! 威勢がいいのは最初だけかよお!」
森羅日下部とかまちの戦闘は、かまちの優位で進んでいた。
森を焼かないためにも最小限の炎を纏わせての肉弾戦を行う森羅は、得意の高速移動も火炎放射もほぼ封じている。
一方のかまちはお構いなしにかまいたちにより木々を切り、倒し、なんなら森羅の炎を焚きつけて森を燃やそうとする。
機動力の面で大幅に優位をとってはいるが、それは風の三次元的な攻撃によって帳消しになっていた。
森を焼かないためにも最小限の炎を纏わせての肉弾戦を行う森羅は、得意の高速移動も火炎放射もほぼ封じている。
一方のかまちはお構いなしにかまいたちにより木々を切り、倒し、なんなら森羅の炎を焚きつけて森を燃やそうとする。
機動力の面で大幅に優位をとってはいるが、それは風の三次元的な攻撃によって帳消しになっていた。
(コイツは最初のアレからほとんど火を使おうとしねえ。山火事を避けてんのか? だったら街に行けば――)
ひときわ強いかまいたちを放つ。それを森羅が瞬間的な炎の噴射によるダッシュで避けたのを確認して、距離を詰められないよう新たなかまいたちを発しながら街へと向かう。かまち自身も体力の消耗を感じながらも、だからこそイニシアティブを取り続けていた。
お互い、互いが疲れていることはよくわかっている。既に何度か小休止を挟みつつ、二人は三十分以上に渡って戦闘を続けている。いつ均衡が崩れてもおかしくない。
お互い、互いが疲れていることはよくわかっている。既に何度か小休止を挟みつつ、二人は三十分以上に渡って戦闘を続けている。いつ均衡が崩れてもおかしくない。
(この感じ……! 誰だ!)
(あれは……妖怪、か?)
(……? どこ見てんだアイツ? アレは、コテージか。)
(あれは……妖怪、か?)
(……? どこ見てんだアイツ? アレは、コテージか。)
先に好機を見つけたのは、かまちだった。
妖怪としての感覚は、二人の戦闘に気づき迫る幹太郎をいち早く捉えた。
一方、殺すべき敵の姿を幹太郎が捉えたのもほぼ同時だった。一人は足から炎を出して飛び回る妖怪、もう一人は風の刃で草木を切り刻む妖怪、という認識だ。
そして森羅だけは別のものを見ていた。パセリが眠るコテージ。近くに迫る者よりも、近づけたくない人里への警戒が上回った。
妖怪としての感覚は、二人の戦闘に気づき迫る幹太郎をいち早く捉えた。
一方、殺すべき敵の姿を幹太郎が捉えたのもほぼ同時だった。一人は足から炎を出して飛び回る妖怪、もう一人は風の刃で草木を切り刻む妖怪、という認識だ。
そして森羅だけは別のものを見ていた。パセリが眠るコテージ。近くに迫る者よりも、近づけたくない人里への警戒が上回った。
「これ以上はヤバい!」
森羅が控えていた炎による飛翔を行う。出し惜しみしても状況は好転しない。
(アイツを使えるか……!?)
かまちは小さいかまいたちを放ちつつ、最大級のかまいたちを発するために力を蓄える。森羅を狙うか、自分の周りに風の鎧を作るか、あるいは。
(先に撃つのは――)
幹太郎は両手のアサルトライフルをそれぞれへと向けながら考える。たぶん自分ではこれは当たらないが撃ってしまおうか。それとも、どちらかを両手で構えて狙おうか。
「お、開いてんじゃーん!」
「開けたんだよなあ……おじゃましまーす。」
「開けたんだよなあ……おじゃましまーす。」
そしてコテージでは幹太郎たちとは全く無関係な来訪者が現れる。
鍵が掛かってないのをラッキーと思いズカズカと中に入るのは、桜清太郎。
気弱な声で続いて入ってきた帯刀した少年は、西宮アキト。
二人はそれぞれ幹太郎がいたのとは森の中にほっぽりだされ、小一時間遭難したところで出会い、ようやく人里に降りてきたところだ。
鍵が掛かってないのをラッキーと思いズカズカと中に入るのは、桜清太郎。
気弱な声で続いて入ってきた帯刀した少年は、西宮アキト。
二人はそれぞれ幹太郎がいたのとは森の中にほっぽりだされ、小一時間遭難したところで出会い、ようやく人里に降りてきたところだ。
「殺し合いとかよくわかんないけどとりあえず警察呼ぼうぜ。」
「警察は、意味あるのかな……こんな状況で……」
「でもじゃあどうしょうもないし……あ、人いた、ってパセリじゃん。」
「君の知り合い?」
「うん、僕の親戚。転校してきたんだ。」
「へー。眠ってるね。」
「東京から来たからな。図太いんだ。」
「警察は、意味あるのかな……こんな状況で……」
「でもじゃあどうしょうもないし……あ、人いた、ってパセリじゃん。」
「君の知り合い?」
「うん、僕の親戚。転校してきたんだ。」
「へー。眠ってるね。」
「東京から来たからな。図太いんだ。」
そしてパセリは眠り続ける。
彼女の人ならざる力に気づく人間はこの場におらず、ただその身に刻まれた星の印が青く顕れる。
二つの場所を舞台に、戦闘と非戦闘が同時進行しはじめた。
彼女の人ならざる力に気づく人間はこの場におらず、ただその身に刻まれた星の印が青く顕れる。
二つの場所を舞台に、戦闘と非戦闘が同時進行しはじめた。
【0130頃 森への入り口】
【幹太郎@妖界ナビ・ルナ(3) 黒い森の迷路(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
自然とルナのような優しい人間を守る
●中目標
自然を汚す人間を、殺す?
●小目標
戦っている二人を襲う
【目標】
●大目標
自然とルナのような優しい人間を守る
●中目標
自然を汚す人間を、殺す?
●小目標
戦っている二人を襲う
【水沢巴世里@パセリ伝説 水の国の少女 memory(1)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
???
【目標】
●大目標
???
【かまち@妖界ナビ・ルナ(1) 解かれた封印(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
ぶっ殺す!
●小目標
森羅を食う
【目標】
●大目標
ぶっ殺す!
●小目標
森羅を食う
【森羅日下部@炎炎ノ消防隊 悪魔的ヒーロー登場(炎炎ノ消防隊シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
一人でも多くの人を助ける
●小目標
もう一度人里から戦闘を引き離す
【目標】
●大目標
一人でも多くの人を助ける
●小目標
もう一度人里から戦闘を引き離す
【桜清太郎@パセリ伝説 水の国の少女 memory(1)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
なんかよくわかんないけどパセリ守んないとまずいし警察とかに通報する
【目標】
●小目標
なんかよくわかんないけどパセリ守んないとまずいし警察とかに通報する
【西宮アキト@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
EDFとして主催者を打倒して生き残る
●小目標
戦う力のない人を保護する
【目標】
●大目標
EDFとして主催者を打倒して生き残る
●小目標
戦う力のない人を保護する