一
バァン!
「やべえよやべえよ……ライト点けてなかったから……」
「か、カッキーくん……」
「こ、これ、事故だよな? オレ、アクセル踏んでねえよ。」
「柿沼! しっかりしろ!」
「はい助けます!」
「か、カッキーくん……」
「こ、これ、事故だよな? オレ、アクセル踏んでねえよ。」
「柿沼! しっかりしろ!」
「はい助けます!」
柿沼直樹は竜宮レナに一喝されて慌てて軽トラの運転席から転がり出た。車の前に行き死体を確かめに行く。無免許運転で人を跳ねる、中学生でもこれはヤバい。下手したら少年院だ。いや下手しなくてもだ。どう考えても死ぬスピードで跳ねてしまったが、一縷の望みをかけて車の前方を探す。
「な、無い……まさか……」
車で跳ねたなら死体は車の前方にあるはず。
なのに死体が車の前に無い。
ということは、死体は車の下に……
なのに死体が車の前に無い。
ということは、死体は車の下に……
「は、跳ねただけじゃなくて轢いちまったのか……? こ、これもう確実に……」
「柿沼、柿沼!」
「は、はい!」
「見て、あれ。」
「柿沼、柿沼!」
「は、はい!」
「見て、あれ。」
車のライトを点けてから続けて出てきたレナに呼びかけながらビンタされ、柿沼は文字通り飛び上がった。着地と同時にレナの方を向く。そして彼女が指差す方を見る。それはつい今まで見ていた車、の下だ。
「浮いてる……竜宮、なんか車……」
「……たぶん、下に。」
「……たぶん、下に。」
もうおしまいだ、柿沼は膝をついた。
まだ跳ねただけならワンチャン助かるかもしれなかったが、軽トラの後輪が地面から浮いてるってことはこれもう完全に轢いている。これは助からない。
柿沼は落涙した。涙と共に溢れてくるのは、これまでの思い出だ。特に中学、思えばたくさん馬鹿をやった。中一の夏休みにはクラスの男子たちと解放区を作ろうとして一人だけ身代金目的で誘拐されたり、その後も捕まったり拉致られたり、なんかそういえば自分一人だけ割り食う話が多かった気がする。でも楽しい思い出だ。
だがそんな青春ももうおわ「か、柿沼! あれ!」ちょっと今回想シーンなんだけどうわあああなんだあっ!?」
まだ跳ねただけならワンチャン助かるかもしれなかったが、軽トラの後輪が地面から浮いてるってことはこれもう完全に轢いている。これは助からない。
柿沼は落涙した。涙と共に溢れてくるのは、これまでの思い出だ。特に中学、思えばたくさん馬鹿をやった。中一の夏休みにはクラスの男子たちと解放区を作ろうとして一人だけ身代金目的で誘拐されたり、その後も捕まったり拉致られたり、なんかそういえば自分一人だけ割り食う話が多かった気がする。でも楽しい思い出だ。
だがそんな青春ももうおわ「か、柿沼! あれ!」ちょっと今回想シーンなんだけどうわあああなんだあっ!?」
「イッテえ……なあ!」
く、車が持ち上がってるっ!!!
なにあれ! 白い道着なの? 背中に悪って、悪って書いてある道着の人が車持ち上げてるぅー!?
ねえなにあれ! 竜宮なにあれ! 怖いよぉ!
なにあれ! 白い道着なの? 背中に悪って、悪って書いてある道着の人が車持ち上げてるぅー!?
ねえなにあれ! 竜宮なにあれ! 怖いよぉ!
「あれは……オヤシロ様!?」
「え、あれが!?」
「え、あれが!?」
どう見てもチンピラなんだけど! 死んだはずのチンピラがゾンビになって車持ち上げてんだけど!
「勝手に殺してんじゃねえ! てか誰がチンピラだ!」
「痛いッス!?」
「痛いッス!?」
げ、ゲンコツ!?
二
それからしばらくして。
「つまり、お前らもあのウサギモドキにはなんも心当たりがないってことか。」
跳ねて轢いたはずなのに超ピンピンしてる相楽左之助に、コンビニのイートインで柿沼とレナは尋問という名の情報交換をされていた。
元々スタート地点が開業医の産婦人科だった柿沼は、110番したり家にかけたりしたが繋がらなかったこと。しょうがないので医院内の『アイテム』を『ひろう』して警察署に逃げ込もうと考えていたところ、同じように警察署を目指していたレナに捕まったこと。捕まり馴れていたもあって下手な抵抗はしなかったためになんとかレナに同行を認めてもらったこと。警察署まで距離があるので医院の軽トラを使おうと言い出し、無免許運転で案の定左之助を跳ねたこと。全てを包み隠さず話した。
元々スタート地点が開業医の産婦人科だった柿沼は、110番したり家にかけたりしたが繋がらなかったこと。しょうがないので医院内の『アイテム』を『ひろう』して警察署に逃げ込もうと考えていたところ、同じように警察署を目指していたレナに捕まったこと。捕まり馴れていたもあって下手な抵抗はしなかったためになんとかレナに同行を認めてもらったこと。警察署まで距離があるので医院の軽トラを使おうと言い出し、無免許運転で案の定左之助を跳ねたこと。全てを包み隠さず話した。
「お前全部話すな。ふつうごまかしたりするもんだぞ。」
「こういうのごまかしてもヤバイことになるだけなんでマジで全部話しますよ。」
「こういうのごまかしてもヤバイことになるだけなんでマジで全部話しますよ。」
あまりに何もかも話す柿沼に呆れる左之助に柿沼はヘコヘコしながら話す。なんなら揉み手でもしかねないほどだが、なぜ運転できないのに車を使おうなどと言い出したかというと仲間が同じように巻き込まれているかもしれないから法律など無視して急いで探したかったから、とまでは言わなかった。左之助もそのあたりは察しがついたが何も言わなかった。
そもそもさっきの事故は、一応信号は守っていた柿沼の運転する軽トラに赤信号などわからず左之助が突っ込んできて起こったものだ。というのも、左之助も柿沼と同じように仲間がこの街にいる可能性を考えてひたすらに走り回っていたからである。まさか緑になったから走り出して直ぐに人が猛スピードで横切るなどとは思わず柿沼はさっきのテンパリ具合になった、というわけである。
なので左之助としても少々バツの悪い部分がある。それもあって柿沼から話を聞き終えると直ぐ様に柱に預けていた背を離し、店から出ていこうとした。
そもそもさっきの事故は、一応信号は守っていた柿沼の運転する軽トラに赤信号などわからず左之助が突っ込んできて起こったものだ。というのも、左之助も柿沼と同じように仲間がこの街にいる可能性を考えてひたすらに走り回っていたからである。まさか緑になったから走り出して直ぐに人が猛スピードで横切るなどとは思わず柿沼はさっきのテンパリ具合になった、というわけである。
なので左之助としても少々バツの悪い部分がある。それもあって柿沼から話を聞き終えると直ぐ様に柱に預けていた背を離し、店から出ていこうとした。
「ちょっと、どこ行く気ですか?」
「もう聞きたいことは聞いた、お前らはどっかに隠れてろ。」
「もう聞きたいことは聞いた、お前らはどっかに隠れてろ。」
正気か?と柿沼は思った。たしかに、轢かれたとは思えないほど元気ではある。が、その頭はスピリタスをかけて消毒したあとに生理用ナプキンで止血という無茶苦茶な状態である。色んな意味で病院に行ったほうがいいだろう。
だがズンズンと歩きながら、悪一文字の背中から話された言葉に、柿沼は返す言葉が無かった。
ほんの僅かな間話しただけでも、漢としての格の差を感じて、とても止められる言葉など思いつかなかったのだ。それは彼の仲間である安永に感じるものを100倍にして更に100倍、つまり10000倍にしたような感じだ。強さ、というか、タフさ、というべきか、とにかくそういうものがある。背中で語る漢っぷりを前に、柿沼の足は竦んだ。
だがズンズンと歩きながら、悪一文字の背中から話された言葉に、柿沼は返す言葉が無かった。
ほんの僅かな間話しただけでも、漢としての格の差を感じて、とても止められる言葉など思いつかなかったのだ。それは彼の仲間である安永に感じるものを100倍にして更に100倍、つまり10000倍にしたような感じだ。強さ、というか、タフさ、というべきか、とにかくそういうものがある。背中で語る漢っぷりを前に、柿沼の足は竦んだ。
「ねえ、このまま相楽さんと離れちゃ駄目だよ。」
うっ、と柿沼は喉を鳴らした。レナの言うことはわかる。この殺し合いの場で出会った殺し合いを良しとしない人。仲間の為に何処とも知れない街を駆け回り、車に跳ねられてもへっちゃらの男は、二人にとって極めて頼りになる人間だ。全員仲間を探しているし協力できることも多いだろう。
だが柿沼は言葉を持たない。
だが柿沼は言葉を持たない。
「カッキーくんの家はお医者さんなんだよね。最初にいた場所も病院って言ってたし、おわびに手当てをしたいって言うのはどうかな? かな?」
持たされた。これ言わなきゃまたレナパン喰らうやつじゃん……
下手に手際よく左之助の止血をしたのが仇になったか、ナプキンを止血に使うという産婦人科医知識が仇になったか、ふだんほとんど活かされずたまに役立ったと思えば妊娠した先輩を周りに秘密で中絶させるのに自分が孕ませたと嘘をつくとか、そんなの感じてしか発揮されない医者の息子という立場が使い物になるタイミングが来てしまった。
柿沼は半ばヤケになって左之助を追いかけた。
下手に手際よく左之助の止血をしたのが仇になったか、ナプキンを止血に使うという産婦人科医知識が仇になったか、ふだんほとんど活かされずたまに役立ったと思えば妊娠した先輩を周りに秘密で中絶させるのに自分が孕ませたと嘘をつくとか、そんなの感じてしか発揮されない医者の息子という立場が使い物になるタイミングが来てしまった。
柿沼は半ばヤケになって左之助を追いかけた。
三
「ねえ、この音なにかな? かな?」
「ああ、AEDの音だな。AEDの音じゃん!?」
「なんだそれ?」
「ああ、AEDの音だな。AEDの音じゃん!?」
「なんだそれ?」
なんとか左之助を説得し最終的にほとんど土下座までして元いた医院に行くことになった三人の元にそのアラートが聞こえてきたのは、医院の駐車場に車を停めようとしたあたりのことだった。
「ほら、あの……心臓止まった時に使う、アレです。」
「なんでそんなあやふやなんだよ。」
「説明難しいんですよ。ああいうのってあらためて話そうとすると困るよな? なあ竜宮。」
「えーと、そのAEDって、お医者さんが使う物だよね?」
「いや医者じゃなくても使えるよ。使い方音声ガイドで流れるから小学生でもできるらしいって。え、二人とも知らないの?」
「東京って進んでるんだね。」
「ま、諏訪には無かったな。」
「あ、長野とかあっちの方はあんま無いのか。まあこっちだと病院とかの入り口ら辺にはだいたいあるんですよ。」
「なんでそんなあやふやなんだよ。」
「説明難しいんですよ。ああいうのってあらためて話そうとすると困るよな? なあ竜宮。」
「えーと、そのAEDって、お医者さんが使う物だよね?」
「いや医者じゃなくても使えるよ。使い方音声ガイドで流れるから小学生でもできるらしいって。え、二人とも知らないの?」
「東京って進んでるんだね。」
「ま、諏訪には無かったな。」
「あ、長野とかあっちの方はあんま無いのか。まあこっちだと病院とかの入り口ら辺にはだいたいあるんですよ。」
なお、柿沼はレナが昭和で左之助が明治の人間だということに全く気がついていなかった。レナは可愛くていい匂いがするという所にしか目が行っていないし、左之助に関しては車ドンしてしまった以上それどころではない。
「心臓が、心室細動、えっと、とにかく止まりかけてる時に使うとなんかいい感じです。あの音が鳴ってるときはケースに入ってるAEDを開けたときなんで、たぶん誰かが使ってるか、じゃなきゃ間違えて開けちゃったんじゃないですか。」
「待って。」
「待って。」
駐車して降りながら柿沼がそういって降りようとしたところで、助手席のレナが手を伸ばしてシートベルトを外そうとした柿沼の手を止めた。同時に荷台に乗っていた左之助も地面に降り鋭い目つきを医院へと向ける。
「それってあの病院に誰かがいるってことだよね?」
「いつから鳴ってるかはわかんないから今いるかはわかんないけれど、まあ、そうなるな。」
「いつから鳴ってるかはわかんないから今いるかはわかんないけれど、まあ、そうなるな。」
レナは手を鍵へと向けた。エンジンをかける。その行動で柿沼は察した。
「もしかして、罠って思ってる?」
「可能性はあるよね。わざわざあんな音を立てる意味って、人を集めるのが目的なんじゃないかな。あの音って、そのAEDっていうのを出したら止めれないの?」
「えっと、どうだったかな。止めれた気も。」
「じゃあおかし――左之助さん、上!」
「死ねい!」
「可能性はあるよね。わざわざあんな音を立てる意味って、人を集めるのが目的なんじゃないかな。あの音って、そのAEDっていうのを出したら止めれないの?」
「えっと、どうだったかな。止めれた気も。」
「じゃあおかし――左之助さん、上!」
「死ねい!」
バックに入れ、レナは車を一気に後退させた。次の瞬間、それまで軽トラの運転席があったところを一筋の銀光がきらめく。
驚く柿沼の視界が揺れる。後退した軽トラを追って銀が走る。それをレナがハンドルを切って躱す。フロントガラスに横一文字の斬撃が刻まれたところで、左之助が何かを殴り飛ばす。車が何かにぶつかり、シートに押し付けられた。
驚く柿沼の視界が揺れる。後退した軽トラを追って銀が走る。それをレナがハンドルを切って躱す。フロントガラスに横一文字の斬撃が刻まれたところで、左之助が何かを殴り飛ばす。車が何かにぶつかり、シートに押し付けられた。
「鎧武者だ。」
柿沼は驚きすぎて冷静に呟いた。鎧武者だ。本当に鎧武者がいる。なんかデカい鎧武者が、左之助にぶん投げられていた。鎧武者が降ってきたのださっき。そして鎧武者が刀を振るって、レナが躱して左之助が殴ったのだ。鎧武者は左之助にジャーマンスープレックスをかけられていた。
「なんで鎧武者!?」
「カッキー! 車が動かなくなった!」
「カッキー! 車が動かなくなった!」
レナは片手でハンドルを握り片手でフロントガラスを銃床で叩き割りつつ片脚でアクセルを踏みながら言った。そのまま銃口を鎧武者に向けようとして、左之助がマウントポジションで鎧武者を殴りだしたのを見て下ろす。コツン。金属質な音と微かな振動が伝わる。
その資格と聴覚と触覚が柿沼の最期の感覚だった。
その資格と聴覚と触覚が柿沼の最期の感覚だった。
【脱落】
【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【残り参加者 251/300】
四
「竜宮! 柿沼! うおっ!?」
突如爆発した軽トラに思わず左之助の拳が止まる。その隙を見逃さず鎧武者は左之助を殴り飛ばし、立ち上がりざまに大太刀を振るい、それを左之助は胸を浅く斬りつけられながらもなんとか躱した。
今のはおそらく、手投げ弾によるものだ。赤報隊で培った爆弾を使った戦法への理解が起こったことへの察しをつかせる。
左之助は車がどういうものかはいまいちわからないが、馬車や牛車に近いものということは理解していた。そしてそういうものを襲う時は足を止めるのが定石だとも。
今のはおそらく、手投げ弾によるものだ。赤報隊で培った爆弾を使った戦法への理解が起こったことへの察しをつかせる。
左之助は車がどういうものかはいまいちわからないが、馬車や牛車に近いものということは理解していた。そしてそういうものを襲う時は足を止めるのが定石だとも。
(あの音、このデカ鎧が鳴らしたもんじゃなかったのか! 今のは下手したらコイツごと吹っ飛んでた。間違いねえ、もう一人はいる!)
「今度はこちらから行く!」
「コイツまだやる気かよこのバカ!」
「今度はこちらから行く!」
「コイツまだやる気かよこのバカ!」
左之助はこの場に少なくとも一人、あるいはそれ以上の敵がいることを察して離脱にかかろうとした。それを妨害する鎧武者に悪態をつきながら忙しなく周囲に視線をやる。この場に左之助しかいないと思っているのか他の者は眼中にないのか、執拗に左之助へと大太刀を振るう。今度は腹に赤い線が刻まれた。
あの音で参加者を集めて出会わせる。戦いになれば爆弾を投げ込んで漁夫の利を狙う。ならずとも爆弾を投げ込められれば効率的に多く殺せる。下衆だが狡猾な戦法だ。
そしてそんな戦法を取るからこそ、直接戦えば弱いと見切りをつけた。今まで左之助が戦ってきた相手は、基本的に強い奴ほど搦手に頼らず力でねじ伏せに来た。無論策を弄さないわけではないが、こういうことをやるのは強い奴の横にいる自分のことを賢いと思ってる奴と相場で決まっていると、左之助は信じている。そして――そんな奴にとって、今の自分は格好のエサだとも。
あの音で参加者を集めて出会わせる。戦いになれば爆弾を投げ込んで漁夫の利を狙う。ならずとも爆弾を投げ込められれば効率的に多く殺せる。下衆だが狡猾な戦法だ。
そしてそんな戦法を取るからこそ、直接戦えば弱いと見切りをつけた。今まで左之助が戦ってきた相手は、基本的に強い奴ほど搦手に頼らず力でねじ伏せに来た。無論策を弄さないわけではないが、こういうことをやるのは強い奴の横にいる自分のことを賢いと思ってる奴と相場で決まっていると、左之助は信じている。そして――そんな奴にとって、今の自分は格好のエサだとも。
(このままじゃ、コイツごと吹っ飛ばされちまう! なら――)
「殺った!」
「殺った!」
鎧武者の大太刀が左之助へと振るわれる。袈裟懸けの一撃を。
「しゃあっ!」
「なにっ!」
「なにっ!」
「ぐっ、おおおおおお!?」
「――二重の極み。」
「――二重の極み。」
逃れようのない衝撃が腹部を貫く。堪らずガクリと膝をついた鎧武者を見て、左之助は筋肉を緩めて大太刀を外すと、軽トラへと駆けた。中を見るまでもないが、それでも一応炎に包まれていく運転席を見る。まだ辛うじて人の形をしている死体に一瞬目を伏せ、駆ける速度を上げた。
ダダダダ。左之助が通り過ぎた後を銃弾が叩く。今ので敵の位置は割れた。が、そこまで行くまでの間に恐らく逃げられる。今まで撃ってこなかったのは手投げ弾を投げてから場所を変えていたのだろう。ならもう既に、また場所を変え始めているはず。逃げられる前に追いつくだけの余力は、今の左之助には無い。
ダダダダ。左之助が通り過ぎた後を銃弾が叩く。今ので敵の位置は割れた。が、そこまで行くまでの間に恐らく逃げられる。今まで撃ってこなかったのは手投げ弾を投げてから場所を変えていたのだろう。ならもう既に、また場所を変え始めているはず。逃げられる前に追いつくだけの余力は、今の左之助には無い。
「ぐっ、さすがに、やりすぎたか……」
肩の傷がかなりヤバい。いくら化け物のような頑丈さの左之助でも限界はある。
左之助は窓ガラスをぶち破って医院に入った。まずは傷の手当をしないとどうにもならない。
左之助は窓ガラスをぶち破って医院に入った。まずは傷の手当をしないとどうにもならない。
(この借りは倍返しじゃ済まさねえぞ。)
止まらぬ血を拭いながら、左之助は鳴り続けるAEDを拳で黙らせた。
五
鑑隼人はあらかじめ目をつけていた民家へと転がり込むとトイレへ向かい吐きに吐いた。
彼こそ柿沼直樹と竜宮レナの二名を爆殺した下手人であり、医院のAEDを使って人を呼び寄せた張本人である。その凶悪な動きとは裏腹に、抱えていた銃を取り落として便器に胃液をぶちまける姿は、柿沼と同じ年の少年にしか見えなかった。
彼こそ柿沼直樹と竜宮レナの二名を爆殺した下手人であり、医院のAEDを使って人を呼び寄せた張本人である。その凶悪な動きとは裏腹に、抱えていた銃を取り落として便器に胃液をぶちまける姿は、柿沼と同じ年の少年にしか見えなかった。
(はぁ……はぁ……いまさら、見ず知らずの人間を殺したぐらいで、なんでこんなに……)
端正な顔立ちは歪み、口の端には吐瀉物がこびりついている。苛立ちげに水を流すと、トイレットペーパーで口を拭い便器に叩きつけるように流した。
流れる水が渦を巻き、吸い込まれていく。それを見てまた、怒りに燃える。今度は己ではなく、水の国――彼の祖国であり復讐対象へだ。
そもそも隼人が殺し合いに乗ったのも、水沢巴世里を生き残らせるためだ。隼人の復讐完遂のためには、パセリにこんなところで死なれては困る。だが今のパセリは記憶を失いその力も無力、その上性格的にこんな場所でも積極的に動き回りかねない。昔っから、それこそ三つ子の魂百までという諺通り、良い事も悪い事もとにかくなんでもやる行動力の塊のような少女だ。そんな少女が殺し合いの場でどう行動するか。想像するだけでも恐ろしい。
だから、危険人物は殺す。最初は明らかに乗っていそうな鎧武者が現れて強そうなので二の足を踏むが、そこに新たな人間が現れて爆殺を決意した。鎧武者を狙おうかとも考えたが、道着男が優勢だったので狙いは軽トラの方へと決めた。鎧武者の奇襲に気づいて躱すような奴はパセリの味方になれば心強いが、殺せる時に殺しておかないと殺せるタイミングが無くなる。普通の人間に負ける気はないが、ここは銃がやたらと落ちている。不確定要素は極力減らさなけらばならない。
流れる水が渦を巻き、吸い込まれていく。それを見てまた、怒りに燃える。今度は己ではなく、水の国――彼の祖国であり復讐対象へだ。
そもそも隼人が殺し合いに乗ったのも、水沢巴世里を生き残らせるためだ。隼人の復讐完遂のためには、パセリにこんなところで死なれては困る。だが今のパセリは記憶を失いその力も無力、その上性格的にこんな場所でも積極的に動き回りかねない。昔っから、それこそ三つ子の魂百までという諺通り、良い事も悪い事もとにかくなんでもやる行動力の塊のような少女だ。そんな少女が殺し合いの場でどう行動するか。想像するだけでも恐ろしい。
だから、危険人物は殺す。最初は明らかに乗っていそうな鎧武者が現れて強そうなので二の足を踏むが、そこに新たな人間が現れて爆殺を決意した。鎧武者を狙おうかとも考えたが、道着男が優勢だったので狙いは軽トラの方へと決めた。鎧武者の奇襲に気づいて躱すような奴はパセリの味方になれば心強いが、殺せる時に殺しておかないと殺せるタイミングが無くなる。普通の人間に負ける気はないが、ここは銃がやたらと落ちている。不確定要素は極力減らさなけらばならない。
(あと少し、あと少しで全て終わるんだ。)
少年は震える手を無理に動かして銃に弾を込めた。
【0100 市街地】
【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
殺し合いをぶっ壊す
●中目標
柿沼と竜宮を殺った奴をぶちのめす
●小目標
傷を手当する
●大目標
殺し合いをぶっ壊す
●中目標
柿沼と竜宮を殺った奴をぶちのめす
●小目標
傷を手当する