「――私たちはね、四つ子なんだ。」
暖かい背中がなんだかくすぐったくて、私は背中をちょっと離して、背すじをピンと伸ばした。
「私の生活はふつうの人たちとはちょっと違うんだ。赤ちゃんのころから施設にいて、お母さんやお父さんの顔を知らないで育ってきた。宮美三風って名前と、このペンダントだけが、家族とのつながりだったんだ。」
掌の上で、ペンダントのハートが水色に輝く。その色が涙みたいで、また目が熱くなった。
トンって背中を押された。それが暖かくて、ゴクンとツバを飲み込む。
トンって背中を押された。それが暖かくて、ゴクンとツバを飲み込む。
「他の子にはお母さんがいるのに、私にはいない。不安だった。高校を出たら、自分一人だけで生きていかなくちゃいけない。お仕事のことも、家事のことも、何かあった時の備えも、全部一人で。」
「それでね、この前国の偉い人からこんなことを言われたんだ。『中学生自立練習計画』っていうのに参加しないかって……あっ、ひみつにしておかないといけないんだった……えっと……」
「わかってる、誰にも言わないよ。」
「それでね、この前国の偉い人からこんなことを言われたんだ。『中学生自立練習計画』っていうのに参加しないかって……あっ、ひみつにしておかないといけないんだった……えっと……」
「わかってる、誰にも言わないよ。」
涼馬くんはやさしい声で言ってくれた。うぅ、だめだなぁ、私。また支えられちゃってる。会ったばかりの小学生の男の子に。
今だって、私の話を静かに聞いてくれている。本当はこんなことをしている場合じゃないってわかってるよ! わかってるのに、でも……
今だって、私の話を静かに聞いてくれている。本当はこんなことをしている場合じゃないってわかってるよ! わかってるのに、でも……
「……社会に出たときに自立できるようにする練習なんだ。施設を離れて、同じ年代の女の子と一緒に暮らすことになった。そうしたら、私が暮らすことになった家に行ったらね、私と同じ顔の女の子がいたんだ。三人も。」
なのに、私は話すのを止められなかった。
「嬉しかったなあ。ひとりぼっちだと思っていたのに、姉妹がいたってわかって。家族ができるんだって。」
「一花ちゃんは、しっかり者でなんでもできて、でもそれは、長女だから頑張らなきゃって思ってる。」
「二鳥ちゃんは明るくてムードメーカーで、家族を笑顔にしたいって気を配ってくれてる。」
「私は……私は、そんなみんなに甘えてたんだ。なにも……なにも……できない……だから……」
「四月ちゃん……」
「一花ちゃんは、しっかり者でなんでもできて、でもそれは、長女だから頑張らなきゃって思ってる。」
「二鳥ちゃんは明るくてムードメーカーで、家族を笑顔にしたいって気を配ってくれてる。」
「私は……私は、そんなみんなに甘えてたんだ。なにも……なにも……できない……だから……」
「四月ちゃん……」
息が荒くなる、
ハァハァと大きく息を吸う。
あっ、ダメだ。鼻で息しちゃった。
ダメだ、ダメ、ダメなの、考えちゃいけないのに、その臭いが、臭いがしちゃう。
その、血の臭いが。
ハァハァと大きく息を吸う。
あっ、ダメだ。鼻で息しちゃった。
ダメだ、ダメ、ダメなの、考えちゃいけないのに、その臭いが、臭いがしちゃう。
その、血の臭いが。
「四月ちゃん、ゴメン! お姉ちゃんなのに、家族なのに、こんな、こんなぁ……!」
私は、宮美三風は、ずっと天井を見ていた顔を下に向けた。涙が、真下に落ちて、四月ちゃんの、四月ちゃんの顔があったと思うところに落ちた。
たぶん、顔、だと思う。メガネはぐちゃぐちゃになってて、目は潰れてて、なにか白っぽいものが血と一緒にはみ出している。鼻はどこが穴かわからないぐらい潰れてて、その下の口はどの歯も抜けてるか折れていた。耳からも血が出ていて、頭から流れた血と一緒になって髪をバリバリに赤く固めている。
そして、その体は少しだけ、でも絶対に、冷たかった。
ふわっと、男の子の匂いがして、私の背中が暖かくなった。
あっ、いま、抱きしめられたんだ。
どうしてだろう、男の子に抱きしめられているのに、恥ずかしいって気持ちも、嫌だって気持ちも、嬉しいって気持ちも、なにもない。本当になにもなくて、ただ、暖かいな、抱きしめられてるな、としか思わない。
なんでだろう、私、どうしちゃったのかな。変だな、いつもならこんなことないのに。
もし一花ちゃんにこんなところ見られたら困っちゃうな。怒るかな? 私にもだけど、涼馬くんに。それとも、二鳥ちゃんと一緒にからかうかも。ううん、たぶんからかう二鳥ちゃんにツッコみながら、叱られちゃうかな。
うん、二鳥ちゃんは絶対にからかうよね。でも、それがいいんだ、真面目に受け止められたらどんな顔したらいいかわかんないもん。だって、涼馬くんとはさっきあったばっかりなんだもん。
他人から、男の子から抱きしめられてるなんて四月ちゃんが見たら固まっちゃうよね。私だって、姉妹が知らない男の子に抱きしめられてたらそうなるもん。それで、怒るかな。あっ、そうか、こういう時って、怒るんだ。そうか、そうだよね。
でも、なんでだろう。怒る気になれないんだ。
ううん、違う、なにも、なにもする気になれない。
あっ、なんだろう、暑いな、涼馬くんは。
たぶん、顔、だと思う。メガネはぐちゃぐちゃになってて、目は潰れてて、なにか白っぽいものが血と一緒にはみ出している。鼻はどこが穴かわからないぐらい潰れてて、その下の口はどの歯も抜けてるか折れていた。耳からも血が出ていて、頭から流れた血と一緒になって髪をバリバリに赤く固めている。
そして、その体は少しだけ、でも絶対に、冷たかった。
ふわっと、男の子の匂いがして、私の背中が暖かくなった。
あっ、いま、抱きしめられたんだ。
どうしてだろう、男の子に抱きしめられているのに、恥ずかしいって気持ちも、嫌だって気持ちも、嬉しいって気持ちも、なにもない。本当になにもなくて、ただ、暖かいな、抱きしめられてるな、としか思わない。
なんでだろう、私、どうしちゃったのかな。変だな、いつもならこんなことないのに。
もし一花ちゃんにこんなところ見られたら困っちゃうな。怒るかな? 私にもだけど、涼馬くんに。それとも、二鳥ちゃんと一緒にからかうかも。ううん、たぶんからかう二鳥ちゃんにツッコみながら、叱られちゃうかな。
うん、二鳥ちゃんは絶対にからかうよね。でも、それがいいんだ、真面目に受け止められたらどんな顔したらいいかわかんないもん。だって、涼馬くんとはさっきあったばっかりなんだもん。
他人から、男の子から抱きしめられてるなんて四月ちゃんが見たら固まっちゃうよね。私だって、姉妹が知らない男の子に抱きしめられてたらそうなるもん。それで、怒るかな。あっ、そうか、こういう時って、怒るんだ。そうか、そうだよね。
でも、なんでだろう。怒る気になれないんだ。
ううん、違う、なにも、なにもする気になれない。
あっ、なんだろう、暑いな、涼馬くんは。
「宮美さん、あなたにお願いがあります。」
離してって言おうとして、言い出せなくて、暑いなあって思ってたら、涼真くんは耳元で言った。
目の前でなにかピンク色のものが揺れる。これは、ホイッスル?
目の前でなにかピンク色のものが揺れる。これは、ホイッスル?
「このホイッスルを双葉マメという女の子に届けてください。俺と同じ服を着ていて、明るい髪の色で、そのペンダントと同じ色のホイッスルを持っている、とにかく明るい女の子です。たぶん警察署か、自衛隊の基地にいます。それじゃあ、お願いします。」
ふわっと、私の体が立ち上がった。そのまま背中を押されて、交番の外に押し出される。
えって思ったけれど、それを口に出すのもめんどくさくて、押されちゃったから前によろけて、それで、私はそのまま歩き出した。
涼馬くんって強引だなあ。
警察署ってどこにあるんだろう。
誰に渡すんだっけ?
女の子だよね。
このホイッスルを、ペンダントと同じ色の、水色のホイッスルを持っている女の子に渡す。
でも、どこに行けばいいんだっけ。
そうだ警察署だ。
でも、警察署ってどこにあるんだろう。
ああ、もう。
全部がめんどくさい。
めんどくさいから、歩いてればいいや……
えって思ったけれど、それを口に出すのもめんどくさくて、押されちゃったから前によろけて、それで、私はそのまま歩き出した。
涼馬くんって強引だなあ。
警察署ってどこにあるんだろう。
誰に渡すんだっけ?
女の子だよね。
このホイッスルを、ペンダントと同じ色の、水色のホイッスルを持っている女の子に渡す。
でも、どこに行けばいいんだっけ。
そうだ警察署だ。
でも、警察署ってどこにあるんだろう。
ああ、もう。
全部がめんどくさい。
めんどくさいから、歩いてればいいや……
涼馬は厳しい顔で三風を見送ると、額から流れる血を拭った。
己にできることは残念だがここまでたという現実的な思考と、もっと早くこの交番に立ち寄っていればという理想論の感情。
喉の奥で苦いものとして固まるそれを無理矢理飲み込むと、死体の一つに手を合わせ、ハンカチを盗み、裂く。何度か繰り返し細い布切れの束となったそれを手早く結び合わせ一繋ぎにし、額の血染めのハンカチを固定するために鉢巻のように縛った。
己にできることは残念だがここまでたという現実的な思考と、もっと早くこの交番に立ち寄っていればという理想論の感情。
喉の奥で苦いものとして固まるそれを無理矢理飲み込むと、死体の一つに手を合わせ、ハンカチを盗み、裂く。何度か繰り返し細い布切れの束となったそれを手早く結び合わせ一繋ぎにし、額の血染めのハンカチを固定するために鉢巻のように縛った。
風見涼真は特命生還士(サバイバー)と呼ばれる生存と救助のプロだ。
あらゆる災害やテロに対応できるノウハウを叩き込まれ、小学五年生ながら既に現場に出ている。
いわゆるエリート。他のサバイバーの見習い達からも人望厚く、眉目秀麗、文武両道、才色兼備。褒める言葉に事欠かないさわやかイケメンエース。
そんな彼は、女の子一人救うこともできずに殺し合いの場に放り出した。
全て遅かったのだ。殺し合いに乗ったテロリストに襲われ、頭に刀傷を負い、それでも機転と幸運で逃げて、逃げた先には、四つの死体と立ち尽くす女の子がいた。ゲームが始まって30分もしない間に四人の人間が死んでいた。そして女の子の制服姿が、一つの死体と重なる。同じ制服同じ背格好わかりにくいが同じ顔。姉妹だろう、そう察して、涼馬にはかける言葉が無かった。
突然不気味な殺し合いに巻き込まれて、異様な霧のたちこめる街で、姉妹の惨殺死体を見つける。その気持ちは誰にも計り知れない。
だから涼馬はただ三風に寄り添い話を聞いた。名前を聞き、バトルロワイヤルの参加者であることを確認して、三風の思い出について聞いた。本当はもっとやりようもあるのだが、彼に残された時間は長くない。三風が自然に話し始め、茫然自失の状態から回復した時点で、彼は三風を一人でここから離すことにした。
人の死は重い。一度座り込んでしまえば二度と立ち上がれなくなるほどに。三風は幸い、恐怖と動揺が浮足立たせていた。正常な精神状態には程遠いが、それでもそれは前を向き得るものだ。座り込んで立ち方さえ忘れてしまう、人の心の傷は頚椎損傷のようにその者の心の柱を折ってしまうのだから。
今の三風を家族の死と向き合わせれば、その心が壊れきってしまいかねない。精神的なケアが望めない以上は、無理矢理にでも何か目的を持たせてそれに没頭させる必要がある。今の彼女には、その目的に従う必要性もその内容を理解する思考力もなく、ただ思考停止して従うと、抱きしめても何の反応も返さなくなった三風を見て確信した。
涼馬は三風を見送る。彼女の足取りはトボトボととてもおぼつかないものだ。だが、一人で歩けている。彼女には生き残る可能性がある。なら、涼馬がすべきことは少しでも三風の生存確率を上げることだ。そのために、三風にホイッスルを託したのだから。
ポケットの中の拳銃の銃把を握る。
残弾は三発、交番内にも銃器の類は無し。これでどうにかする必要がある。
他に使えそうなものは、死体が持つ鈍器や刃物、消火器やAEDといった基本的な救命道具、私物らしきいくつかのお菓子、それだけ。
敵はテロリスト一名。サバイバーの涼馬から見ても常人離れしているとしか形容できない高い身体能力を持つ男。銀の髪の下の丸いサングラスからは胡乱な眼光が覗き、どことなく中華風の派手な服装を着ている。片手にはこれまた中華風の装飾の付いた日本刀を持ち、もう片方の手には対戦車ライフルを持つ。どこか時代錯誤な格好の、マーダー。
彼が格好以外も時代錯誤でなければ、涼馬は生き残れなかっただろう。そのマーダーは、涼馬がエレベーターで逃げれば階段で追い、防火シャッターを閉じれば爆薬でこじ開け、自動ドアを対戦車ライフルで吹き飛ばして追ってきた。何度かの無駄な行動のおかげで、涼馬は何度かの死を回避してきた。
そしてついにその幸運も尽き、一縷の望みをかけて交番に駆け込んだところで、マーダーは追ってこなくなった。
諦めた、というのはあり得ない。彼は三風をなんとか立ち上がらせようとする涼馬に向けた銃口を下ろした。だが、その気配から依然として殺気が満ちているのを涼馬は肌で感じていた。涼馬でなくとも感じただろう。男から迸る殺気が、減るどころかますます勢いを増していたことに。
あらゆる災害やテロに対応できるノウハウを叩き込まれ、小学五年生ながら既に現場に出ている。
いわゆるエリート。他のサバイバーの見習い達からも人望厚く、眉目秀麗、文武両道、才色兼備。褒める言葉に事欠かないさわやかイケメンエース。
そんな彼は、女の子一人救うこともできずに殺し合いの場に放り出した。
全て遅かったのだ。殺し合いに乗ったテロリストに襲われ、頭に刀傷を負い、それでも機転と幸運で逃げて、逃げた先には、四つの死体と立ち尽くす女の子がいた。ゲームが始まって30分もしない間に四人の人間が死んでいた。そして女の子の制服姿が、一つの死体と重なる。同じ制服同じ背格好わかりにくいが同じ顔。姉妹だろう、そう察して、涼馬にはかける言葉が無かった。
突然不気味な殺し合いに巻き込まれて、異様な霧のたちこめる街で、姉妹の惨殺死体を見つける。その気持ちは誰にも計り知れない。
だから涼馬はただ三風に寄り添い話を聞いた。名前を聞き、バトルロワイヤルの参加者であることを確認して、三風の思い出について聞いた。本当はもっとやりようもあるのだが、彼に残された時間は長くない。三風が自然に話し始め、茫然自失の状態から回復した時点で、彼は三風を一人でここから離すことにした。
人の死は重い。一度座り込んでしまえば二度と立ち上がれなくなるほどに。三風は幸い、恐怖と動揺が浮足立たせていた。正常な精神状態には程遠いが、それでもそれは前を向き得るものだ。座り込んで立ち方さえ忘れてしまう、人の心の傷は頚椎損傷のようにその者の心の柱を折ってしまうのだから。
今の三風を家族の死と向き合わせれば、その心が壊れきってしまいかねない。精神的なケアが望めない以上は、無理矢理にでも何か目的を持たせてそれに没頭させる必要がある。今の彼女には、その目的に従う必要性もその内容を理解する思考力もなく、ただ思考停止して従うと、抱きしめても何の反応も返さなくなった三風を見て確信した。
涼馬は三風を見送る。彼女の足取りはトボトボととてもおぼつかないものだ。だが、一人で歩けている。彼女には生き残る可能性がある。なら、涼馬がすべきことは少しでも三風の生存確率を上げることだ。そのために、三風にホイッスルを託したのだから。
ポケットの中の拳銃の銃把を握る。
残弾は三発、交番内にも銃器の類は無し。これでどうにかする必要がある。
他に使えそうなものは、死体が持つ鈍器や刃物、消火器やAEDといった基本的な救命道具、私物らしきいくつかのお菓子、それだけ。
敵はテロリスト一名。サバイバーの涼馬から見ても常人離れしているとしか形容できない高い身体能力を持つ男。銀の髪の下の丸いサングラスからは胡乱な眼光が覗き、どことなく中華風の派手な服装を着ている。片手にはこれまた中華風の装飾の付いた日本刀を持ち、もう片方の手には対戦車ライフルを持つ。どこか時代錯誤な格好の、マーダー。
彼が格好以外も時代錯誤でなければ、涼馬は生き残れなかっただろう。そのマーダーは、涼馬がエレベーターで逃げれば階段で追い、防火シャッターを閉じれば爆薬でこじ開け、自動ドアを対戦車ライフルで吹き飛ばして追ってきた。何度かの無駄な行動のおかげで、涼馬は何度かの死を回避してきた。
そしてついにその幸運も尽き、一縷の望みをかけて交番に駆け込んだところで、マーダーは追ってこなくなった。
諦めた、というのはあり得ない。彼は三風をなんとか立ち上がらせようとする涼馬に向けた銃口を下ろした。だが、その気配から依然として殺気が満ちているのを涼馬は肌で感じていた。涼馬でなくとも感じただろう。男から迸る殺気が、減るどころかますます勢いを増していたことに。
「なんで、あいつを見逃した?」
胸から突き出そうな勢いで鼓動する心臓を気合で押し込める。この交番からすぐ出れる出口は、男が仁王立ちする入口のみ。
15mほどの距離を置いて対峙する男に向かって問いかけた。一割の好奇心と、九割のプロファイリング。だが答えは期待していない。これまで男が発した言葉はない。当然と言えば当然だ、わざわざ無駄話をしながら戦う人間はいないだろう。
だから。
15mほどの距離を置いて対峙する男に向かって問いかけた。一割の好奇心と、九割のプロファイリング。だが答えは期待していない。これまで男が発した言葉はない。当然と言えば当然だ、わざわざ無駄話をしながら戦う人間はいないだろう。
だから。
「――お前を殺したら、次にあいつを殺ス。」
男の言葉に一瞬、涼馬は動揺した。
男が銃口を三風のふらつく背中に向けて、涼馬は拳銃を取り出した。
男が薄く笑った顔に目掛けて引き金を引こうとして、
男が銃口を三風のふらつく背中に向けて、涼馬は拳銃を取り出した。
男が薄く笑った顔に目掛けて引き金を引こうとして、
『涼馬くん!』
(――ちっ、なんで出てくるんだよ。)
少女の顔が、双葉マメの顔がチラついた。
拳銃を両手で構えたまま後ろに飛ぶ。
へそがあった位置目掛けてライフルが発射された。
背後のデスクが轟音を立てる。
撃っていれば当たったかもしれないが、涼馬の体は真っ二つに鉛球で引き千切られていただろう。
拳銃を両手で構えたまま後ろに飛ぶ。
へそがあった位置目掛けてライフルが発射された。
背後のデスクが轟音を立てる。
撃っていれば当たったかもしれないが、涼馬の体は真っ二つに鉛球で引き千切られていただろう。
(対戦車ライフルを片手で撃つな。)
そのデスクをバク転の要領で越えて、空中で部屋の隅でホコリを被っている消火器に発砲する。
射線から外れるようにジグザクに突っ込んできた男が交番に突入しようとしたタイミングで、消火剤が一気に充満した。
あれだけの距離を涼馬がバク転一つしている間に一瞬で詰めるその瞬発力に驚く間もなく、一回転して着地した足を前へと向ける。
左足で、踏み切る。
右足で、デスクを蹴る。
両手で、抜刀した男の肩を押し、顔面に膝蹴りを叩き込む――失敗。
射線から外れるようにジグザクに突っ込んできた男が交番に突入しようとしたタイミングで、消火剤が一気に充満した。
あれだけの距離を涼馬がバク転一つしている間に一瞬で詰めるその瞬発力に驚く間もなく、一回転して着地した足を前へと向ける。
左足で、踏み切る。
右足で、デスクを蹴る。
両手で、抜刀した男の肩を押し、顔面に膝蹴りを叩き込む――失敗。
(バク転、やられた――)
意趣返しのように男も体を後ろに投げ出していた。
肩には手がかかったものの、一手遅い。
涼馬と男の目が合う。
やむなく跳び箱の様に男を飛び越えることに専念する。
この間の思考、0.2秒。
それは男を――幕末の人斬り、緋村抜刀斎をも凌駕する圧倒的な剣の威力を持つ男、雪代縁を相手にするには余りにも長すぎる隙だった。
肩には手がかかったものの、一手遅い。
涼馬と男の目が合う。
やむなく跳び箱の様に男を飛び越えることに専念する。
この間の思考、0.2秒。
それは男を――幕末の人斬り、緋村抜刀斎をも凌駕する圧倒的な剣の威力を持つ男、雪代縁を相手にするには余りにも長すぎる隙だった。
(いっ――てぇ……)
「蹴撃刀勢。」
「蹴撃刀勢。」
痛みと共に届いたのはその言葉だった。
「首輪が邪魔ダナ……やはり動きにくい。」
訛のある日本語で呟くと、縁は倭刀の血を涼馬の服で拭った。
人誅を邪魔された腹いせにまずは誰でも良いから斬りたいと思って襲いかかったが、思いの外強敵だった。身のこなし、判断力、武器の扱い、どれをとっても並の士族崩れよりよほど強い。
もっとも縁にとってはただのウォーミングアップにしかならないが、それでも出し抜かれたことでますます腹が立つ。サングラスが涼馬の手に当たり落ちて割れてしまった。
ではさっきの三風とかいう少女を追って殺すか? それも盛り上がらない。あんな廃人同然の放っておいてものたれ死ぬような少女に執着する気は――
人誅を邪魔された腹いせにまずは誰でも良いから斬りたいと思って襲いかかったが、思いの外強敵だった。身のこなし、判断力、武器の扱い、どれをとっても並の士族崩れよりよほど強い。
もっとも縁にとってはただのウォーミングアップにしかならないが、それでも出し抜かれたことでますます腹が立つ。サングラスが涼馬の手に当たり落ちて割れてしまった。
ではさっきの三風とかいう少女を追って殺すか? それも盛り上がらない。あんな廃人同然の放っておいてものたれ死ぬような少女に執着する気は――
「警察署……人が集まるなら首輪を外せる人間も来るか?」
――だが、警察署に向かうことは有益だ。
不安にかられた参加者が目指すところとしてわかりやすい。武器も他のところよりはマシなものがあるだろう。
そして武器商人である縁は、建物の規模と落ちている武器の質がほぼ比例していることに気がついていた。
はっきり言って縁に銃や爆薬はあまり必要ではないが、あるならあるで使い道はある。みすみす誰かにくれてやることもない。
なにより人の多い場所なら、緋村剣心も来る可能性が高い。偽善を掲げて人の為などと嘯き、剣を振るうために。
不安にかられた参加者が目指すところとしてわかりやすい。武器も他のところよりはマシなものがあるだろう。
そして武器商人である縁は、建物の規模と落ちている武器の質がほぼ比例していることに気がついていた。
はっきり言って縁に銃や爆薬はあまり必要ではないが、あるならあるで使い道はある。みすみす誰かにくれてやることもない。
なにより人の多い場所なら、緋村剣心も来る可能性が高い。偽善を掲げて人の為などと嘯き、剣を振るうために。
「俺は警察署に行く。他の参加者に合えば伝えろ。人誅をなす、とな。」
「ジン、チュウ……? なんだ、それ……」
「ジン、チュウ……? なんだ、それ……」
腹を斬られ虫の息の涼馬を捨て置くと、縁は警察署へと向かった。
縁が涼馬に与えた傷は致命傷だ。だが死ぬまでには時間がある。その間に誰かに会えばそれでよし、縁の存在を知らしめれば剣心にもいずれ知れるだろう。会わずに死んでもそれでよし、元より大した期待はしていない。
縁が涼馬に与えた傷は致命傷だ。だが死ぬまでには時間がある。その間に誰かに会えばそれでよし、縁の存在を知らしめれば剣心にもいずれ知れるだろう。会わずに死んでもそれでよし、元より大した期待はしていない。
「あいつを……殺すな……」
背後から声がかかる。一度振り返り、答えずに歩き出す。直ぐ先には、まだトボトボと歩いている三風の背中がある。
「ふん。」
舌打ちをして縁はその後ろに続いた。
【0130前 繁華街】
【宮美三風@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
???
【目標】
●大目標
???
【風見涼馬@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り、生きて帰る
●中目標
応急手当をする
●小目標
圧迫止血する
【目標】
●大目標
生き残り、生きて帰る
●中目標
応急手当をする
●小目標
圧迫止血する
【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる
●中目標
警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す
●小目標
三風について行く
●大目標
人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる
●中目標
警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す
●小目標
三風について行く