荒木を殺して帰り吸血鬼となる。
そう決心した後、再び持ち物の確認を進める……

ストレイツォは歓喜した。

最初はハズレと断定した支給品の釣り針と糸、そしてメガネ。
しかし、よくよく考えればこれほどの当たりアイテムは無い。
彼の能力―波紋―これを使う上で糸という武器は非常に有効だからだ。

肉体を武器とする波紋。
対吸血鬼用の技とはいっても人間を気絶させる位なら朝飯前であるこの能力の最大の弱点はリーチの短さにある。
通常は波紋というのは己の手や足から流し込む物だ。
つまり、吸血鬼の気化冷凍法等といった一部の技には非常に弱い。
だが、道具を介して波紋を流せれば?
それも糸のような長くて変化に富む物であったら?
――敵に接近せずに戦える上に暗殺や罠を仕掛けることも可能となる。

しかし荒木もそんな万能な武器を無条件で渡すわけが無く、一つだけ悩みがあった。
それは―――

(この糸は波紋が通りにくい…)

そう、ナイロン製の釣り糸は波紋を通し辛く現状では武器としての用途を果たせないのである。
だが、そんな致命的な弱点をあっさりと解決できる裏技が一つだけ存在した。

(仕方ない、油でも探す事にするか)

油等の液体を塗る、こうする事によって本来波紋を通さない物質からも波紋を流す事が出来る。
彼はバッグの確認が終わったらひとまず油を探す事を決定した。



次にストレイツォは驚愕した。
ジョナサン・ジョースター、ディオ・ブランドー、ウィル・A・ツェペリダイアー
この四名の名を名簿に見つけてしまったからだ。

(荒木は吸血鬼で彼らは屍生人なのか?)

こんな疑問が脳裏を掠めてすぐに消えた。

(ありえん話だ。彼らの他にこの名簿に載っている黒騎士ブラフォードタルカスは波紋で塵も残さずに消えたはず。
 又聞きではあるが、波紋で消えたのは事実。
 いくら吸血鬼であろうともカスすら残っていない残骸を屍生人にはできまい。)

荒木は吸血鬼では無い。そんな結論を自らの脳内で導いたストレイツォ。

(しかし、吸血鬼でもないのにこんな事ができるとは。
 荒木…貴様の素性に興味が湧いてきたぞっ!!)

荒木の存在に好奇心を抑えられないストレイツォ。

だが、ストレイツォは絶望した。
リサリサこと“エリザベス・ジョースター”の名を見つけてしまった事によって――――




☆         ★          ☆




何故だ!何故あの子を巻き込んだ!?

吸血鬼となり、人間としての自分を捨てようとした自身の最後の心残り。
自分の愛弟子であり、娘でもあった彼女。
二十年、人生において四分の一以下ではあったものの彼女と過ごした年月はこれほどまでに無く長く充実していた。

初めての赤ん坊の世話に戸惑いながらも、手探りで進み続けたあの頃。
幼い彼女の一挙動にもはらはらしながら過ごしたあの日々。
波紋の厳しい修行にも文句も言わずに取り組んでいた彼女。
確かにあの素晴しい才能には嫉妬してしまう事はあったが、むしろ親として誇らしく思っていた方が多い気がする。
そして結婚した彼女は私の下から飛び立って行った。

私には弟子がいる、だから私は孤独ではないはずなのだ。
なのに、彼女が去ってからは日々に魅力を感じなくなっていた。
確かに、数年もすれば彼女がいない生活に嫌でも慣れたものだ。

ただ……時々物足りない気分になってしまうだけ……

これから吸血鬼となる私は永遠を手に入れる事ができる。
それでも彼女と過ごした年月に勝るような時間を手に入れることはできないのだろう。
私はそう考えてしまうほどに深く彼女を愛してしまっていた。


しかし、人としての愛や幸せを捨ててしまうほどに若さを欲した。


いや、違う。
こんな事になってやっと理解する事ができた。
確かに若さが欲しかったのは本音であり、矛盾した表現であるが今までなら若さを手に入れたら死んでもよかったはず……
だけど、その若さを求めようと思った最大の原因に気が付くことは無かった。

いや、私は気が付いていたのだろう。
私の頭がそれを無かったことにしようとしてるだけ。

私が若さを求めたのは逃避、なまじ幸せな時間を過ごしたせいでその快感を再び得ることが出来ない現実からの逃げであった。

手に入るのは空白の時間だけだというのに……

ただ、彼女の変わりに永久を求める決意をしても彼女を殺す決心がつくことはなかった。
吸血鬼になる上で彼女のような優れた波紋使いは生かしておいては厄介すぎる。

なのに吸血鬼になってからのプランに彼女の殺害を入れることが出来なかった。
いくら彼女が優れた波紋使いでも、私なら不意を突いて殺せるにも関わらずだ。

そんな彼女がこのゲームに参加させられている。
ゲームに乗るということは自分の命と彼女の命を天秤に掛ける事。

私にそれができるのか?
―分からない
彼女は生き残る事が出来るのか?
―分からない
彼女に仲間はいるのか?
―分からない

だが、彼女に仲間が出来たら私の事を間違いなく紹介するはず……
そんな中で私がゲームに乗ったことがばれたら?

当然彼女は信用を失ってしまうはず。
いや、それどころか誰かが彼女に危害を加える可能性まである。
人殺しの娘の評判がいいはずがない。
最悪、暴走した仲間に殺される可能性も……

ならば私はゲームに乗るべきではないのか?
―分からない

分からないことばかりだが、唯一分かった事。
それは自分と彼女が助かるための手段はただ一つ、荒木を殺して脱出するしかないという事だった。



……その答えを出した彼の瞳は濁っていた。
自分の心の中で結論を出したのはいいが、彼はまだ吸血鬼になる事を諦め切れていない。
実際、このゲームを脱出した所で彼はあの幸せな時間を忘れる事が出来ないであろう。
だから彼は逃避の手段として吸血鬼になる事だけは変えれない。

ストレィツオの目の色は濁りきっている。
先ほどまでの澄んだ邪悪の色に愛といった不純物が混じった事によって、純粋な正義でも、純粋な悪でもない曖昧な色に――




★       ☆        ★



「おい、そこにいるお前!ちょっと止まりな!!」

ベンジャミン・ブンブーンが自分達の前方二十メートルほどを歩いていた男を止めようと声をかけた。
そして立ち止まった男であったが、非日常的な会場に置いても彼の格好は異様と思わざるを得ないものであった。
具体的に言えば全裸、腰に布が~~~とかそういうレベルじゃなくてまさに全裸。
しかも、男はそれを気にした様子がなく、少なくとも三人の目には堂々としているように見えた
殺し合いの会場で堂々と闊歩する全裸の巨人。
それは殺人の経験すらある現代日本に置いては重犯罪者の音石明でさえ、コイツとは関わりたくねぇ……と思わせる圧倒的破壊力を持つ。

「殺し合いに乗ってないなら荷物をこっちに投げろ!」

そんな音石の考えをあっさりスルーしてブンブーンは全裸の男に話しかける。
一見すれば、人のいい対主催。
相手に完全に猶予を与えてしまう甘ちゃんの行動にも見えてしまうかも知れない。
だが、口では相手と仲間になりたいと言ってはいるが、実際はこれっぽっちも彼のことを信用していなかった。
ブンブーンは保険を掛ける為にミセス・ロビンスンにこっそりと耳打ちをする。

「おいロビンスン」
「どうしたんだブンブーン?」
「オメェが最初に俺たちに攻撃したあれがあんだろ?
 保険のためにいつでもそれでアイツに攻撃できるようにしときなっ。
 万が一の時は……殺してもかまわねぇ」
「承った。だが俺の力はお世辞にも殺傷能力が高いとはいえないからあんまり期待すんなよ?」
「その辺は分かってる。足止めさえ出来れば……ってやつだ。
 で、ちぢくれボーズ。お前の出した変な像、アレの能力は遠くの敵に有効なのか?」
「いや…俺のスタンドは戦闘向けじゃない……」
「かぁ~使えねぇなぁ、本当にLAのほうがまだマシだぜ」

(だからLAってだれだっつーの!?)

能力が戦闘向きで無いと嘘を付いた自分が悪いのだが、使えない発言みイラッときて、早々と同じ突込みを心の中でする音石であった。
けれども心中のツッコミが通じるはずが無く、ブンブーンは会話を打ち切って再び全裸に話しかける。

「おい!もう一回言うぜ?荷物をこっちに投げな!!」

残念な事に全裸こと“サンタナ”はブンブーンの警告を受ける気がなかった。

彼は完全にゲームに乗っていて既に一人を『食って』いる。
しかし、長い間の絶食生活が開けたと思いきや再び絶食生活を送る羽目になった彼は非常に餓えていた。
一応さっきの女で体力は回復したものの彼の欲求は止まらない。
食べたい、人を、吸血鬼を、生き物なら何でも良かった。
そして腹をある程度満たしたら“ナチス”とやらの基地から脱出したように、ここからも脱出するつもりであった。
ここにいる、仲間のカーズ達と共に―――

リーダーが脱出派の集団と脱出する気の個人、ある意味では彼らは志を共にしているのかもしれない。
だが彼ら全員の認識は全くバラバラだった。
サンタナは目の前の三人を仲間や敵ではなく『餌』とみなしていた。
ブンブーンは脱出派だったが、息子の救出を参加者の命より優先している。
音石は意志が弱く、自分のスタンスすら明らかになっていない。
ロビンスンに至っては優勝する気が満々である。


ブンブーンの警告を完全に無視して三人の下に走ってくるサンタナ。
この姿を見た三人の意識は共通していた。

――やつは、ゲームに乗っている――


ロビンスンが虫で攻撃する

飛ぶ小さなゴミ

全弾命中

気にせずに向かってくるサンタナ

虫に目潰しをさせようと飛ばす

全てをキャッチするサンタナ

驚愕するロビンスンを他所にスタンドを発動するブンブーン

立ち向かう黒い蜥蜴

それは一瞬、一瞬であったがサンタナの動きを止めてみせた。
だがサンタナがその手足に力を込めて抵抗すると、爆発するかのように蜥蜴の姿が崩れて辺りに砂鉄が飛び散る。
磁力によって再結合を図るも、柱の男の瞬発力には敵わない。

そしてサンタナは三人の目の前で腕を薙いだ―――――



★       ☆        ★


町一つの電力を使えば敵はいない…そう考えていた時期が俺にもあったよ畜生!
あんな化け物に勝てるわけねぇだろうが……

半泣きの俺は涙を拭ってこれからの事を考えることにした。

さっきの怪物、アイツは正真正銘の怪物だ。
確かに力やスピードのみなら恐らくフルパワー時の俺のスタンドのほうが上だ。いや、そう信じたい。
だけどヤツには勝てる気がしねぇ。
あの得体の知れない能力に関わるのはもう懲り懲りだ!!

全速力で走ったおかげで荒れまくっていた息が少しずつ整っていく。
しかし未だに足の震えは止まらないし、心臓も痛いほど鳴っているのが分かる。
初めて人を殺っちまった時もここまでは焦んなかったぜ…

いや実際、問題は切実だ。
この殺し合い、もしかしたらヤツよりも強いやつがいるのかもしれない。
そんなヤツがいた時に俺はどうやって生き残ればいい?
大体電気すらない会場で俺はどうすればいいんだ?

―――これからの方針は案外アッサリと決まった。

荒木飛呂彦、ヤツの能力は底が知れなさ過ぎる。
承太郎やあんな化け物を一度に連れて来る能力。
多分、ヤツは時を止める以上に凶悪なスタンド能力を持っているのだろう。
そんなのに対して、ちょっと仲間がいる程度で勝てると思うか?
俺は絶対に思わねぇ……

かといって、この殺し合いで次々と殺していって優勝できる気もしない俺に残された方法は?



………やっぱり仲間は必要だよな。

多少落ち着いた俺の頭が導き出した答えはそれだった。

承太郎や仗助ならあの化け物をぶっ殺してくれるかもしれない。
それに承太郎の判断力は異常だし、仗助の能力も仲間になったら頼りになりすぎる!
億泰の野郎も頭はあれだが一応スタンドは強いしな。

だが、奴らが俺の仲間になってくれるんだろうか?
億泰の兄貴をぶっ殺して、ついさっきまで仗助の親を殺そうとしていた俺が…
そんな都合のいい話がある訳ねぇよな~
それどころか俺を危険人物として広げてるかもしんねぇ……
ブンブーンのおっさんみてぇな人がいいヤツもまだまだいるだろうしな。
あいつらがチームを作ってたってなんら不思議はねぇぜ。

と、なると俺は承太郎達と接触してないヤツを探して仲間になるのが先決ってやつか?
兎に角信用を得なければどうにもならねぇ。頼むから乗ってないやつに会わせてくれよ……




           まぁ、俺は乗っているんだけどな




ジャリッ

「ヒッ!!」

自分で踏んだ砂利の音にビビリまくる彼。
ヘタレな彼のステルスマーダー道は険しい?




【現在地不明/一日目・深夜】

【音石明】
[時間軸]:チリ・ペッパーが海に落ちた直後
[スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(ほとんど戦えない状態)
[状態]:健康、酷く焦っている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]基本行動方針:優勝狙い
1.優勝を狙う
2.とりあえず仲間が欲しい
3.チャンスがあれば民家に立ち寄ってパワーを充電をしたい
4.ミセス・ロビンスンをスタンド使いだと思っています
5.サンタナ怖いよサンタナ

★       ☆        ★


クソっ!
どうなってやがる!!

俺の虫を全て潰された時点で俺はアイツとの間にある絶望的な力の差を感じてしまった。
ジャイロ・ツェペリが使ったチャチな鉄球なんかじゃねぇ純粋な身体能力。
それは高速で飛ぶ虫、しかも1匹2匹なんて数字じゃすまねぇ数、それを全て捕捉した上に掴みとりやがった!
しかも、こちらへ走ってくるスピード。
これもまた人智を超えたものであり、野生の獣でも出せないような圧倒的な速さであった。
つまりヤツは動体視力、反射神経、脚力がずば抜けてるってことだ。

……だけど“それだけ”なら俺らが負ける事はなかったかもしれねぇ。

ここからが本当の地獄ってやつだった…

こっちに走ってきたあいつが何かやったのは分かった。
ただ…理解できたときはもう完全に手遅れってヤツだ……
ブンブーンの足が消し飛ばされたって分かったときにはな……

そっからの記憶?
んなもんねぇよ!
こちとら自分一人を守るので精一杯だったってのによ~

あ、これだけは見えたぜ。
音石の野郎が一目散に逃げる姿だけはな。
まぁ、俺も人のことが言えないがな……


【現在地不明/一日目・深夜】

【ミセス・ロビンスン】
[現在地]:不明
[時間軸]:チョヤッを全弾喰らって落馬した直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本行動方針:優勝してレースに戻る
1.アイツはやばすぎる!
2.何とか生き残って優勝したい
3.サンドマンマウンテン・ティムなどの優勝候補を率先的に潰す

※虫の数が激減してます



★       ☆        ★



オトイシとロビンスンの野郎共が逃げていくのが、半分薄れていく意識の中でやけにクッキリと見えた。

畜生!ワシはここで終わっちまうのか?

ヤツにやられた時、自分が“食われた”のだと理解する。
無くなった右足に不思議と痛みは無い。
ただ、自分の足から命が流れて行く実感だけがあるのみだ。
意識が少し遠のいてゆく、そんな中でワシは無意識の内に“銃弾”を掴んでいた。

―――銃弾?アンドレの血がついた銃弾?

遠のいた意識がハッキリとしてゆく。
目の前にはあの化け物が俺に覆いかぶさろうとしているのが分かった。
食われる!?いや、食われるわけにはいかない!!
アンドレがワシの助けを待ってる以上諦めるわけにはいかねぇ。

とっさに自分の能力“スタンド”だったかを発動する。
再び現れる砂鉄製の大蜥蜴、さっきはパワー負けしちまったが今回は勝つ!
それは、気合でも根性でも奇跡でもねぇ。
俺“達”の能力が成し遂げることなんだ!!

地面から湧き上がるように出現する大蜥蜴。
先ほどよりも遥かに機敏な動きで化け物に組み付く。
さっきの様に化け物は俺のスタンドを振り払おうと力を入れる。
だが、離れない。
明らかに先ほどより力を入れているようで、全身に血管が浮いているのが見える。
それでも離れない。

一部が弾け飛んだが、俺の呪いに嵌った今ではその程度なんでもない。
弾け飛んだ砂鉄が銃弾の様な勢いで化け物に張り付いていく。

これは…いけるんじゃねぇか?



いや、現実はそんなに簡単に物事を解決させてはくれない。

「MMMMMMMMM!OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

雄たけびを上げた化け物が更に力を入れて、衝撃で砂鉄を吹き飛ばそうとする。
ちっ!ちょっと厳しくなってきやがった。
黒い蜥蜴のあちこちに罅割れが生まれてくるのを見てワシは焦燥感に狩られた。

一部であったらすぐに再生できるが、一気に吹き飛ばされたら再生前にあの瞬発力であっという間に間を埋められて即アウト!本当にふざけた化け物だな畜生ッ!

本当ならこの隙に逃げてぇ所なんだけどよ、この足の所為で逃げらんね~んだよな。
だから生き残る為にはここでヤツをぶっ殺すしかねぇ!

俺は切り札であった銃弾をヤツに投げた。
血液が飛び、ヤツの脇腹辺りに付着して一瞬で吸い取られるかのように消えた。
だが、それでもアンドレの分はキッチリ発動したらしい。
再び力の増した大蜥蜴にヤツは為すすべなく取り押さえられる。

さて…傷口でも塞ぐか。
顎のプロテクターの一部を使って傷口を完全に覆う。
当然一時的な処置であって長持ちするとは思えねぇ、だがなっ!こいつを倒すまでには余裕だぜ!



★       ☆        ★



ブンブーン一家の能力は磁力。
更に一人より二人、二人より三人といった形で人数に比例して強くなってゆく。
その特性ゆえに、べンジャミン個人での発動、支給品であったアンドレの分の発動と徐々にサンタナの磁力は増していった。
磁力が増す。
つまり鉄を引き寄せる力が強くなり、砂鉄でできた蜥蜴がより強い力でサンタナに張り付こうとすると言う事だ。

大蜥蜴との格闘を続けるサンタナ。

振りほどこうとしても振りほどけない。
だが彼は気が付いていた。この蜥蜴が目の前の男によって生み出されているということを。
何も身体能力と触れるだけで人間を食う事が柱の男の能ではない。
多彩な技、これも柱の男達の真価の一つである。
だが、彼らが人間の上の存在である所以をブンブーンは知らない。

唐突なことだった。

サンタナの体を突き破った肋骨が蜥蜴を易々と貫通しブンブーンを襲う。
あくまでもサンタナから発生する磁力を力としている大蜥蜴にはそれを止めるパワーは無く、
更には右足が無い彼にそれを避ける術がある筈もなく、胴体に二本突き刺さった。

サンタナが吸っている所為か突き刺さった腹部からの出血は少ない。
だが内臓の一部をやられて倒れたまま痙攣するブンブーン。
この怪我ではきっと長くは持たないはず…

しかし、ブンブーンの抵抗はまだ終わらなかった。
それは生への執着?それとも息子を助けるため?
重症の彼を動かしたのがどっちであるかは本人にしか分からない。
兎に角、彼は自分の死という結果には納得する気が無いらしい。

蜥蜴をサンタナの後ろへ回りこませて再び取り押さえさせる。
纏わり付く砂鉄にバランスを崩してそのまま後ろへ倒れるサンタナ。
半分無理矢理抜けた肋骨により広がった傷口に顔をしかめながらも、砂鉄でサンタナを覆い地面に貼り付けにする。

(畜生!この怪我は流石にヤべーんじゃねぇか?
 でもよぉ、ついさっきアンドレに“あんな”事言っちまったからな…弱音を吐くわけにはいかねー!)

貼り付けにしたサンタナにこれ以上近寄りたくもないし、かといって放置し続けるのも辛い。
しかも止めを刺すにも、自分の能力で直接的な殺傷能力を持つ技は一つもない。

つまりは完全に詰んでしまったというわけだ。

いや、正確に言うと一つだけ方法はある。

彼に回ってきた支給品の一つ拡声器、これを使って助けを呼ぶ事だ。
確かに、誰が来てもサンタナの始末をするのを手伝う位はやってくれるだろう。
この会場に来てから出会った参加者が二人とも異能を持っている上に、
おかしな能力を見せたマウンテン・ティムまで参加している事から彼はこの殺し合いに参加するメンバーが常人ではないことに薄々勘付いていた。
だから、動きを封じたコイツを安全に殺せる連中はいると確信している。

だが、そのメンバーがサンタナを殺した後どうするか?
その懸念がブンブーンに拡声器を使わせる事を躊躇わせていた。

しかし、彼は使う事を決心した。
自身の体力が限界に近づいている事を悟ったから。
もぞもぞと砂鉄が動きだしているのがハッキリと視認できるようになったから。

そう、その後を考える余裕など彼には残っていないからだ。




★       ☆        ★




「すまねぇっ!誰くぁッハーハァ助けてくれ!人をハァ人を食う化け物に襲われちまったんだ!!
 まっ、まだ俺が食い止めてるが状況は最悪だ!誰でもいい!助けに…グッ」

明らかに中年男性のものであろう大声が聞こえた。
方角から察するに恐らく南西。
内容によると助けを求めているようだったが行くべきか否か?
あの声から察するに嘘を付いている様子は無い。
それに、人を食ったのが本当なら相手は吸血鬼か屍生人であろう…
ならば私が行くべきなのか?

いや……しかし、私はこの殺し合いでどう生きていくか決まっていない。

だが、吸血鬼達は私の方針がどうなろうとも敵として立ちはだかるだけなのでは?
あいつらは殺し合いに抵抗を持つどころか嬉々として乗るだろう。
ならば、私が万全な今の内に仕留めておくべきなのでは?
助けを求める事が出来る時点で、その男はある程度抵抗出来ていると言うわけだ。
つまり、多少なりとも吸血鬼は消耗している!
この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない!

もしかしたら石仮面の手がかりを握っている可能性もある。
いや!それどころか支給品が石仮面だった可能性だって十分ありうる!!
どっちにしろ、私の野望への第一歩にはなるわけだ。

さて、向かわせてもらおうか。



★       ☆        ★



ストレイツォがたどり着いた時、既にブンブーンは限界であった。
だが、彼は賭けに勝ったのである。
息も絶え絶えになってしまっているが、その瞳からは希望の色が見えた。
しかし、彼のそれはぬか喜びに終わる。

「あんた…逃げな……ここにいるやつは危険すぎヒュッ。
 この足を見ろよ…あいフー、あいつに触れられただけでこの様だ。」

老人が来たことに落胆しながらも、ストレイツォに逃げるよう促すブンブーン、
しかし、ストレイツォは引いたりしない。

「逃げろ?私は君が生まれる前から化け物の退治を生業としてきた。
 安心しろ、ここは私が引き受ける」

そういって構えを取るストレイツォ。
彼の口から流れ出る呼吸音を聞いてサンタナの反応が一変する。

先ほどまでの抵抗とは違うまさに必死の抵抗が見られた。

そう、彼は覚えていた。
絶対的強者であった彼に初の敗北をもたらしたジョセフ・ジョースター
彼の使う波紋と呼ばれる技の存在を。

当たったらダメージは必至。
そんな極限下で彼が下した判断は

上が駄目なら下。

この一見シンプルな考えは実際には実現が難しい。
何故なら、地面と言うものは意外と硬くて掘りづらい物だからだ。
ただし、これには普通の人間だったらいう条件が付属する。

そう、サンタナの柱の男の身体能力は重し付きでそれを成し遂げる位の力は優にある。
手足や肋骨で少しスペースを作り、その後はドリルのように体を回転させて掘り進む。

ある程度離れた所為かブンブーンの能力も解除されたようで、体に纏わりつく砂鉄は消えていた。

だが彼は引かない。
自身のプライド、食事を邪魔された怒り。
このドス黒い復讐心が彼の体を突き動かす。

突如、ストレイツォの後ろから飛び出すサンタナ。
ストレイツォはそれに反応して蹴りを繰り出す。

「爺さん、アイツに直接攻撃は止めろっ!!」

……ブンブーンの助言は空しく響くだけ
ストレイツォのキックは止まらない。
これから起こる惨劇に目を背けそうになるブンブーン。
しかし目を背ける前に、失血やスタンドの酷使で気絶してしまったが……


だが、彼が恐れていた事態は一向に訪れなかった。
普通にヒットするキック。

成人男性と比較しても、遜色が無いどころか遥かに鋭いであろうその蹴りを食らったサンタナは倒れこむ。
が、立ち上がった彼に致命傷を負った気配は全く無い。
いや、キックを喰らった箇所が多少融けてはいるが動きに支障は無さそうだった。

(なにぃ!?波紋を直撃で喰らって死なないだと?こいつは吸血鬼じゃないのか?)

しかし、それではさっき見た異常なスピードでの地中堀りが納得できなくなる。
それに、波紋が全くノーダメージという訳でもない。
つまりこいつは吸血鬼の上位の様な存在なのでは?と推測するストレイツォ。

その推測をろくに考える間は無かった。

サンタナの猛攻が始まったからだ―――



ストレイツォは焦っている。


先ほどからヤツの攻撃をさばき続けているが一向に隙が見えない。

いや、隙はある。
ただ、自分の体がそれを突いていけないだけだ。

本当に醜く老いたこの体が憎い。
早く吸血鬼となって若さを取り戻したい。

そんな邪念が災いしたか、強力な一撃を脇腹に貰う。

「ぐっ!」

内臓がやられたか、自分の血が口から垂れてゆくのを感じた。

この身体能力……
接近戦でやりあうには相当キツイ……

先ほどの釣り糸に己の血を垂らして波紋の伝導率を上げる。
打撃よりは威力には劣るものの仕方あるまい。

不慣れな武器でどこまでやれるか……
まぁいい。いざという時はこの男を犠牲にして逃げればイイだけだ。



★       ☆        ★



ワシは……寝てたのか?
目の前でジジイと化け物が戦っている。

糸で戦ってるジジイ。
化け物にもその攻撃が効いてるというのが驚きだが、やはり致命的ダメージにはならねぇ。

あっ!一撃喰らいやがった!!

吹き飛ぶジジイ。
俺は見た。やつの持っている糸の先に付いた小さな針を。
それが夜の闇のなかで金属特有の光の反射を見せた事を。

どうやら……俺の出番ってヤツか?

既に俺の体はボロボロで、能力一つでも致命傷になりかねない。

だがそれがどうした?
さっきもいったが、あそこでジジイが負けたら俺は死ぬしかねぇ。
ならば一か八かでも生き残るほうに掛けてぇに決まってるじゃねぇか。

渾身の力を振り絞った能力発動。
今の磁力はブンブーン一家勢揃い並みには出てるんじゃね~のか?



★       ☆        ★


急に釣り針の軌道が変わった。
まるで引き寄せられるかのように、サンタナの元へと飛んでゆく針。
さっきまで飛ぶ方向が微妙で苦戦していたストレイツォは思わぬ援軍に驚く。

(これは……あの男の能力なのか?
 いや、今はそんな事を気にしている場合ではないな)

くっ付いた針を支点としてサンタナを簀巻きにするかの如く糸を操作するストレイツォ。
全身の力をフルに使って抵抗するサンタナ。


軍配はストレイツォに上がった。

ナイロンの頑丈さ、波紋。
この二重の縛りから逃げることはたとえサンタナの力を以ってしても不可能である。

そしてストレイツォは呼吸を溜める!溜める!!溜める!!!

「このストレイツォ!容赦せん!!」

ベストの時に限りなく近付いた波紋。
それがサンタナの体を焼いてゆく。

「UOOOOOOOOOHHHHHHHHHH!!」

苦悶の表情を見せるサンタナ。
既に彼の上半身と下半身は泣き別れていて、更にそこから波紋がサンタナの体を蝕んでゆく。

これを見て、決着は付いたものだと思い、ストレイツォはブンブーンの元へ行った。

「おい、まだ生きてるか?」

息遣いが非常に危ういがギリギリの状態で生きているブンブーンは弱弱しく頷いた。

「すまないが、一つだけ聞かせてもらいたい――――」

ストレイツォは本当は
「今のはお前の能力だな。あれは一体なんなのだ?」と聞きたかった。
しかし、明らかに能力の所為で弱ってしまっているブンブーンを見て、口から思わず出た言葉はこれであった。

「お前は何で命を懸けるんだ?今の能力はお前の生命力を削って出したんだろ?」
「そりゃあ…爺さんが負けたら……俺も死ぬからじゃねぇか」

安堵したか、苦しそうながらも軽口を叩くブンブーン。
ストレイツォにとってブンブーンの返事はある程度予想の範囲内。
それでもストレイツォは質問を続ける。

「だが今のお前は相当辛そうではないか?そこまでして生に執着する理由があるのか?」

相当な愚問であるとストレイツォは自覚していた。
吸血鬼になるために、どんな思いをしても生きようとしているのは自分なのに……
何となく、本当に何となくの質問であった。

「あぁ…おクハッ、俺の息子が荒木に……利用さ…されててな……
 絶対に…助けに…行かなきゃならねぇんだよ……」



雷が落ちた。
このような表現はよく聞くが、実際に体験する羽目になるとは夢にも思っていなかった。
息子がいる。
つまり、この中年男性は父親なのだ。
自分と同じ父親。
その上、自分の息子が荒木に利用されているらしい。
彼になら、この胸の内を打ち明けられるのでは?


別の父親からの意見が聞きたい。
そんなストレイツォの望みが叶う事は無かった。

上半身から肉片を飛ばして来るサンタナ。
波紋を帯びたストレイツォにとってはその程度問題にならず、一瞬で肉片を塵へと変える。
しかしブンブーンは?
波紋使いではない彼は、当然肉片の餌食となる。
徐々に侵食されてゆく感触を感じとりながらも、限界を更に超えてブンブーンは自らのスタンドを発動させた。


グジャア


二人には何が起こったのか分からなかった。
特に、磁力によって肉片を引き剥がそうとしたブンブーンにとっては予想外すぎる結果である。
引き剥がそうとしたら飛んできた。
この超常現象の答えを説明するために少し前に戻ろう。



上半身と下半身が真っ二つになった状況でサンタナは考える。
人を食って回復しなければ死にかねないと。

しかし、波紋使いであるストレイツォの所為で接近はできない。
それに肉片を飛ばしてもブンブーンの能力で引き離されてしまう。

ならば、その能力を逆手にとればいい。
サンタナの知能がその策を即座に生み出す。

下半身をこっそりと二人の裏へと移動させる。
奴らは会話をしているのか、サンタナの下半身に気が付く様子は無い。

ちゃんと目的地に着いた下半身を確認して、サンタナは自らの体から肉片を飛び散らせる。
肩の下辺りまでを犠牲にしたこの攻撃をストレイツォはあっさりと塵にしてしまった。
が、ここまでは計算内。
問題のブンブーンの方は能力を発動させて――――


予測通りに引き付け合う上半身と下半身によってプレスされた。



★       ☆        ★



サンタナはブンブーンの体に入ろうと、右足の切断面を狙う。
止血に使っていた鉄を軽々と引き剥がし、痛がるブンブーンを無視して体内へともぐりこんだ。

「!?」

ストレイツォは完全に出遅れた。
気が付いた次の瞬間にはサンタナに操られたブンブーンの拳を喰らって吹き飛んでいる。

サンタナに食われてゆくブンブーン。
彼の執念が最後に一言残すのを神に許させた。

「なぁ…爺さんよ……息子を………アンドレをた……」

途中で途切れた遺言。
だが、その意思は確かにストレイツォへと届いた。
そしてそれはかつて彼が持っていた黄金の精神を揺り動かす。

(名も知らぬ男性よ!お前の遺言は波紋戦士ストレイツォが確かに受け継いだ!)

自らを波紋戦士と呼んだストレイツォ。
彼の瞳に迷いはもうない。
若き日に持った、吸血鬼から人々を守るという決意。
コイツを倒す、その熱き思いが彼に再び力をもたらす。

接近戦。

人の皮を被ったサンタナには釣り糸からの波紋は通じにくいと判断したストレイツォの唯一取れる手段である。

波紋を帯びたパンチ。
それを普通に手で受け止めるサンタナ。
やはり波紋が中までしっかり通らないらしく、怯んだ様子すら見られない。

だけどもストレイツォは焦らない。
掴まれた手を支点にして――唯一むき出しの部分である右足に波紋を帯びたドロップキックを叩き込む。

「GUUUUUUU!」

効いた。
ブンブーンの顔をしたサンタナが苦痛に悶えている。

追撃として足に蹴りの嵐を食らわせるストレイツォ。
そこでサンタナが取った行動は、波紋に蝕まれた足を切り離す事だった。

足を失って、互いのハンディは無くなる。
いや、サンタナは右足が無いとはいえ十分な戦闘能力はある。
しかしストレイツォは波紋が効きにくい今、常人より上程度の能力しか残ってない。

片足で器用にバランスを取りながら両腕、肋骨と計十本の攻撃をしかけるサンタナ。

まず右手を左手で受け止める。

続いて飛んでくる左手を次は右手で受け止める。

肋骨の内四本は足でガードする。

残りの四本の内三本は胴体で止めた。

だが残りの一本が―――――

肺に突き刺さった!


「がっ、がはっごほっ」

先ほどの喀血よりも酷い流血。
そして、肺へのダメージ。

波紋使いにおいて肺へのダメージは致命的なものである。
ジョセフとの戦いでそれを学んだサンタナは迷い無くストレイツォの肺を狙ったのであった。

バリッ!バリバリバリ

裂けたような音を出して、脱皮したかのようにサンタナがブンブーンの中から出てくる。
抜け殻となったブンブーンの体がシナシナと崩れ落ちる。

弱点となる柱の男の部分をさらけ出した理由。
そう、それはもうストレイツォは波紋を練れまいと見切ったからだ。


一歩、また一歩。
徐々にサンタナが近付いてくるのがストレイツォも理解できている。

(ここで俺も食われるのか?すまない!すまないッ!!)

心の中で名も知らぬ男に心からの謝罪を繰り返す。
だが、最期はやって来ない。
サンタナの警戒心。
ジョセフにしてやられた経験が、彼に慎重さを与えてくれた。

取り込む前に確実に息の根を止めるっ!

これが苦い敗北で得た、波紋使いへの対処法であった。

重い蹴りが一発、ストレイツォの胴体へと食い込む。
ギリギリで練り上げた波紋により致命傷は防いだものの、肺が一つ潰れている状態で練った波紋では碌な防御になるはずも無く、木の葉の如く吹き飛ばされていった。


致命傷。


この攻撃で死なないとしても、彼にはもう体力も気力も残っていない。
嬲り殺しにされるのは秒読みかに思えた。

駆け寄ってくるサンタナ。
その姿はほぼ完璧のフォルムを保っていて、美しくも見えた。

そして後五メートル、四メートル――――


美しいフォルムを維持したまま見事にサンタナは後ろにずっこけた。
同時に宙を舞う黒い粒子。

ストレイツォは理解した。
ブンブーンの砂鉄に足を取られてサンタナが滑ったと言う事を。


★       ☆        ★


これが偶然の産物であると言う事は分かっている。
だけど、私はこれをあの男からの贈り物だと思いたい。

――あの最期まで息子の事を思って死んだ男からの。

そう考えると不思議に力が湧いてくる。
それは、残った肺が生み出している波紋の力なのだろうか?
いや違う。
私には波紋を練るだけの力は既に残っていなかった……
あの男が教えてくれた力。
大事な何かを守るための力。
それが私に再起を促す力となったのだ。

そうだ、私も命を懸けなくては。
ここで逃げたら自分をエリザベスの父親と誇れなくなるではないか。

よろよろと立ち上がる。

相手も立ち上がったが問題ではない。

深仙脈疾走(デイーパス・オーバードライブ)

呼吸すらままならない私が唯一使える切り札。
当然、これの行使は命懸けとなるがやる価値はある。

ヤツがこっちへ近寄ってくる。
私は自らの生命エネルギーを右腕へと集中させた。

老いぼれの上に死にかけてる体にもここまでの力は宿るのだな……

これを見ると、若さを求めた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

いや、無駄な考えは止めよう。

ヤツが目の前に立った。

「究…極ッ!深…仙……脈…疾……走ッッ……!」

私は足に力を入れて右手をヤツに叩きつける。
型もへったくれもない、乱雑な一撃。
それがヤツの肩をブチ抜いて―――


★       ☆        ★


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

傷口から体の肉が蒸発してゆくサンタナ。
それを霞んだ目で見つめるストレイツォ。


悶え苦しもうが、一部の傷口を切り離そうが波紋の勢いが途絶える事は無い。
そして、波紋傷が頭部へと昇り……サンタナは消滅した。


カララァン


金属音を放ちながら持ち主を失くした首輪が落下する。

この戦闘に勝ち残ったストレイツォ。
しかし、彼には足りていなかった。
生きてゆくために必要な力が。
生命を保つ上で必要不可欠なものを使ってサンタナを倒した彼には余力など微塵も無い。

だが彼は歩いてゆく。
もう一人の父親、ブンブーンの元へ。

「子供とは……いいものだな……」

そう言い残してストレイツォはブンブーンの傍らへと倒れこんだ。


★       ☆        ★


あぁ、私はもう駄目なのだな。
しかし、今では一欠片の後悔も私の心には無い。
今思えば、中々の人生でなかったのではないか?

空を仰げば……エリザベスが迎えに来ている?

いや、見間違いだろう。
彼女は強く、そして私の様に道を踏み外すはずもない。
この殺し合いでも生き残って――――




幸せになってくれエリザベス。これが父親としての最期の願いだ。


★       ☆        ★


二人の父親は元の世界で目的のためには殺人すら厭わないような人物であった。
それでも彼らは子供の為に命懸けで戦い、散っていった。
彼らの精神は何処かへ繋がれて行くのだろうか?

この会場に残る親達は彼らの様に子供の事を思う者ばかりである。
彼らの意思はきっと何処かに受け継がれてゆく。


【ストレイツォ 死亡】
【サンタナ 死亡】
【ベンジャミン・ブンブーン 死亡】

【残り 72人】

※戦いはE-6でありました
※二人の死体のすぐ傍にサンタナの首輪があります
※ブンブーンのデイバッグも落ちています。支給品は拡声器、その他不明支給品が0~2個です
※アバッキオの現在地は不明です。
 もしかしたら、決着を見たのかもしれないし、全然追いついて無いのかもしれません
※ストレイツォの支給品は拷問セット(5部)でした




投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

15:第一章 ストレイツォ ―その穢れたる野望― ストレイツォ
29:未来からの/未来への伝言 サンタナ
36:灰色い(あやしい) 音石明 60:おかしな3人
36:灰色い(あやしい) ミセス・ロビンスン 84:虫と恐竜
36:灰色い(あやしい) ベンジャミン・ブンブーン

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年09月14日 16:40