〈side A:レオーネ・アバッキオ

「―――……ぇ、ねぇ!聞えてるかしら、アバッキオ!」
ああ、聴こえてるさ。それこそお前の声が壊れたテープレコーダを繰り返し再生してるみたいにな。
まったく嫌になってくるってもんだ。
冷め切ったであろう目で目の前の少女を見つめる。相も変わらず同じことの繰り返しだ。俺はこの光景を後何度再生しなきゃいけねーんだ?

「―――……なのよ!ちゃんと私の言ってたこと聞いてた?…―――……んていうのは冗談きついわよ」

何度こいつに言い聞かせたことか。何度話したことか。
意図せずとも俺の口から溜息が漏れる。ああ、落ち着いてるさ。嫌というほど俺は落ち着いてる。
クールになろうぜ、レオーネ・アバッキオ…。

「いいか、ジョリーン…その団子頭に何が詰まってるか知らねぇが何度も同じことを言わせんじゃねえ。
俺は同行を許すって行ってるんだ。付いて行くも何も俺はダメだ、なんて一言も言ってねェぞ」

そうだ、事の発端は俺の提案から。
『現場』に向かうと宣言した俺に対してジョリーンは同行を申し出た。しかしながら正直な話、スタンドを見られることは俺にとっての最大のタブーだ。
隠せるべき場面で己の武器をほいほいと自慢げに披露するのは馬鹿がやることだ。そして俺は幸いなことに馬鹿じゃない。
覚悟が座ったジョリーンなら、スタンド像はともかく再生したときの様子を教えてやるぐらいならしてやってもいいかと思ったんだが…。


「それならどういうことよ?お前はここで残って家を守れって暗に言ってるの?さっきから貴方と話してるとどうも私を現場に向かわせたくないように見えるわよ…。
それにあたし、家庭を守るっていう専業主婦にだけにはならないつもりなんだけど」
できることなら俺のスタンドを見せたくない。そして知られたくない。
ジョリーンがスタンド使いじゃなく再生を見られることがないなんていう楽観的考えは相当のマンモーニ(ママっ子)だ。
見張りの目が増えて悪いことはないし警戒する人数が多すぎるなんてこともないことは確かだ。

「この犬っころが番犬の役割をしっかり果たすように見えるのか、お前には?
支給品にクソなんか引っ掛けられた日には俺はこいつを蹴っ飛ばすぜ…ッ!」

顎でそいつを指し示す。相変わらず生意気な顔だ…。
とにかく、だ。
自分の身も守れないようなガキンチョを抱えて現場に赴くなんて俺はゴメンだね。
そもそも放送15分後に動く理由はその時間が一番「参加者に会わないだろう時間」だからだ。

…矛盾してるかって?ああ、クソッタレ、わかってるさ。
矛盾してるさ。
そう、俺は自分で同行を許しながらも必死こいてジョリーンと犬っころを残そうとしてる…。
自分で決めたことを捻じ曲げてでもな。

イギーはそんな間抜けじゃないわ。それにこの子をそんな風に呼ばないで」
ああ、そうだ。決してそんなことはない。
俺がジョリーンとイギーをココに残したいのはこいつらが心配だからなんかじゃない。断じてそうじゃねぇ。
ただ再生を見られるのと、再生中に敵に襲われたときこいつらが足を引っ張るからだ…ッ!

イギーをあやす様に撫でるジョリーンがトリッシュと重なって見えるなんてことはない。
共通点なんていえば、同じぐらいの年頃で、ただ二人とも女の子であるってことだけだ。
「それでもイギーをここに一匹置いていくってのも酷な話だ。まぁ、俺としては犬一匹ぐらいって思うんだが懐かれてるお前の場合は違うだろ?
ああ、イギーも一緒に連れて行くってのも説得力のねぇー話だ。支給品はどうする?」
追い討ちをかけるように付け加えてやる。
ぐっと黙り込んだジョリーンを見るのはあまり気分がいいものじゃねーが、これも俺自身のためだ。
おとなしくパパの帰りでも待ってるんだな……。

「とにかく、だ。そろそろ時間だ。俺は…」
時計を見つめる俺の視線が止まる。せわしなく動いてた秒針が9を過ぎ、そして―

「―べート―ヴェン交響曲第九番の第四楽章『歓喜の歌』
う~ん、じつに素晴らしいね。心が震える、そんな曲だ。
格好つけたような言い方すると、人間賛歌、ってとこかな? 」

俺の神経を逆なでするような声。妙に鼻に付く男の演説が始まった。




    ◆


正直トリッシュのこともあったし、ジョリーンとの遭遇もあって『こいつ』について考える暇がなかったな。
もちろん、俺たちをこんな狂ったブラッド・パーティーに招いた奴だ、招待状もなしでなんて礼儀知らずににはお灸を吸えてやらねといけねえ。
でもよ…、ここまでの奴だったとはな!

手の中に握られてるペンが俺の握力でミシリと音を立てる。ペンをぶち壊す勢いで強く握るが、ほんの少しだけ残った冷静な自分がそれを押しとどめる。
やれやれ、冷静さを欠くような真似をするなんて。感情を抑えろ、この世界じゃそれが常識だ。
それに…ここで俺が弱みを見せたらどうする?

放心したように、一点を見続けるジョリーン。大方さっき言ってた友人を亡くしたことが原因なんだろうな…。
人の死に慣れすぎた俺にはかける言葉が見つからなかった。
情けないことに俺はこの場にいて唯一ジョリーンを励ますことが出来たのに、どうすればいいかわからなかった。

「………ッ」

ペンを握ったままのジョリーンの手に俺自身のを重ねる。
こじ開けるように手を開くとピントの合わない目が俺の瞳で揺れる。
その動揺が俺に伝わる前に、無理矢理口を開く。

「調査は俺一人でやってくる…。お前は………少し頭を冷やせ……。」

一睨み効かすつもりはなかった。それでも俺自身少し目つきを厳しくしてしまったのはそうして欲しいと俺が願ったからだろうか。
ジョリーンは黙ったまま頷くと、イギーを抱きかかえ椅子に深く腰掛けた。
喫煙者の気持ちがわかった気がする。きっとこういうときに一煙吹かすんだろうな。
玄関の開いたドアから暁の風が吹き込んできた。生暖かいが風が俺を包み込む。

「アバッキオ…!」
呼び止められてドアを片手に振り返る。何事だろうか。付いて行く、とでも言うんじゃないだろうな…。
神経を張ったまま俺は振り返る。頭にに浮かんだ多くの説得の言葉。
決心を固めた女が如何に説得しづらいかは短い人生の中でも体験済みだ。

「…いってらっしゃい」
だけど俺を待っていたのは拍子抜けするような激励の言葉。おかげで一瞬だけ間抜けのような顔をジョリーンに晒す羽目になっちまった。
硬くなっていたジョリーンの顔がそれでか、笑顔になった。まったく、これだから女ってのは…。
むず痒いような気分になり、俺は努めて表情を鉄仮面に戻すと言葉を返すことなく扉の外に出てった。
そして…

「…行ってくる」
とてもじゃねーが面と向かってなんて言えねえ。こういう役はミスタの役だってのに…クソ!
柄にもねぇことやっちまったな…。
冷静になろうぜ、レオーネ・アバッキオ……。
深呼吸をしたときに香った草の匂いがどこか故郷を思い出させ、俺はゆっくりと現場に向かった。




    ◆


『そりゃあ…爺さんが負けたら……俺も死ぬからじゃねぇか』

まずこいつと面を会わすようなことがあったらその土手っ腹に蹴りをぶち込んでやる…ッ!
誰の手でもねぇ。もちろん足でもねぇ。そして俺自身のスタンドでもない。
この俺、直々に…その身に嫌というほど染み込ませてやるぜ………!

『あぁ…おクハッ、俺の息子が荒木に……利用さ…されててな……
 絶対に…助けに…行かなきゃならねぇんだよ……』

だから今は笑ってるがいいさ…。ふんぞり返って待ってるが良いさ。
その腐りきった性根、再起不能にしてやる……ッ!
そうでもしねーと俺の腹の虫の居所が収まりそうにねぇからな…。待ってろよ、荒木飛呂彦!

『なぁ…爺さんよ……息子を………アンドレをた……』

…再生の声をBGMに考え事、か。最高じゃねえか。この舞台に相応しい、死と侮辱の匂いがぷんぷんしやがる。
ほんとなら放送が始まる前には再生を終えてる予定だったんだがな、少し警戒しすぎたか…。

現在位置は把握してる。幸い禁止エリアに指定されなかったことだしじっくり調査を進めるとするか…。
そう思ってるのに俺は驚くほど集中できてない。
気づけばあの放送の男、荒木飛呂彦のクソ生意気な態度ばかり思い出す。
忘れようと調査を勧めるが虫が湧き出るように俺の頭に侵食しては思考を乱す。
……少し気張りすぎか。

そうして気を抜いた俺の頭に浮かんだのは二人の女。
泣き崩れるアイツ、誇り高いまま死を迎えた彼女。麻薬中毒者が幻覚を見るように、俺の目の前で二人がちらつく。

「………クソッタレ!」

ジョリーンは…きっとここには来れないだろうな。
母親を亡くし、親友を亡くし、慕われてた少年も失った。あの年頃の女の子には堪えるだろう。
………俺だって堪えてるんだ、あいつが動揺しないはずがない。
認めるほかない、俺は今動揺…ではなく、そうだな、驚愕してる。
何に、かって?
それは、そうだな…。
トリッシュの死をわかっていたのに自分でもその名前を聞いたときに自分が衝撃を感じちまったこと。
26名という死亡者の多さに俺が甘さを感じちまったこと。

「………」
隣で再生を終えた自分の分身を見る。既にターゲットは物言わぬ死体となり、俺はそれに一時停止の命を告げていた。
手ががりは今すぐにでも見つかるだろう。それでも俺はすぐに動き出すことは出来なかった。
空を仰ぐように顔を上げる。ぼんやりとした頭を総動員しないとこの選択は選べそうになかった。

ギャングの俺がベビーシッター気取りか?ハッ、俺も焼きが回ったもんだ。
それでもこの機会は逃せねえ。今が一番がチャンスなんだ。
周りに人の気配は…どうだろうかね。一応気は張ってるがこの俺の警戒網を越えるぐらいのやつがいないとも限らねえ。
さて、どうすべきか…?


【レオーネ・アバッキオの場合】

1.再生を続ける
2.再生を中止、空条徐倫の元に戻る
3.再生を中止、周りにいるかもしれない参加者を探す。



                ◇  ◆  ◇


〈side B:空条徐倫〉



「ねぇ………、ねぇ!聞えてるかしら、アバッキオ!」
イライラ…してるんでしょうね。妙に口調を荒げる自分が珍しく思えた。
なんでイライラしてるかって?そうね、色々原因はあるわ。ただ一番の原因は彼ね。
この目の前にいる、やけに白けた目で私を見つめる男。レオーネ・アバッキオ、その人のせい。

「心配なのよ!ちゃんと私の言ってたこと聞いてた?…同行を許す、なんていったくせに今更『なし』なんていうのは冗談きついわよ」

やけにゆっくりとした動作で私の目も見るアバッキオ。半眼にあけられたそれは明らかに『面倒だ』との気持ちがありありと浮かんでる。
…こういう目は嫌と言うほど体験してるわ。そしてこういう目をしてる男って言うのは…。
やれやれ、厄介この上ないわ。

「いいか、ジョリーン…その団子頭に何が詰まってるか知らねぇが何度も同じことを言わせんじゃねえ。
俺は同行を許すって行ってるんだ。付いて行くも何も俺はダメだ、なんて一言も言ってねェぞ」

天井を仰ぐように見上げる。これだから大人って言うのは嫌いなのよ。
自分の都合ばかり通して平気で約束破り。大人の権力振りかざして子供を黙殺。
まったく、溜息つきたいのはこっちのほうよ。

「それならどういうことよ?お前はここで残って家を守れって暗に言ってるの?さっきから貴方と話してるとどうも私を現場に向かわせたくないように見えるわよ…。
それにあたし、家庭を守るっていう専業主婦にだけにはならないつもりなんだけど」

「この犬っころが番犬の役割をしっかり果たすように見えるのか、お前には?
支給品にクソなんか引っ掛けられた日には俺はこいつを蹴っ飛ばすぜ…ッ!」

皮肉にまじめに返すことを望んでたわけじゃないわ…。もちろんわかっててそうしてるんでしょうけど。
はぐらかされる様に話は進む。あたしは床に眠そうに伸びをするイギーを抱え挙げる。
少し嫌そうにしたけどそんなことかまいやしない。その柔らかな毛皮に顔をうずめると太陽のにおいがした。

「イギーはそんな間抜けじゃないわ。それにこの子をそんな風に呼ばないで」
「それでもイギーをここに一匹置いていくってのも酷な話だ。まぁ、俺としては犬一匹ぐらいって思うんだが懐かれてるお前の場合は違うだろ?
ああ、イギーも一緒に連れて行くってのも説得力のねぇー話だ。支給品はどうする?」

…もういいわ。
最初から行かせる気なんてなかったんでしょ、どうせ。
そうは思ってもやっぱり納得いかない。
あたしをか弱い女の子かなんかと誤解してるみたいだけどそんなことあるわけないじゃない!
自分の身ぐらい自分で守れる。そうやって過ごしてきたし、これからもそう。
だって、あたしは―――

「とにかく、だ。そろそろ時間だ。俺は…」

「―べート―ヴェン交響曲第九番の第四楽章『歓喜の歌』
う~ん、じつに素晴らしいね。心が震える、そんな曲だ。
格好つけたような言い方すると、人間賛歌、ってとこかな? 」

口を開きかけたあたしを黙らせるには充分だった。
アバッキオの言葉も遮った男の声を六時間ぶりに聞きながら私は知らず知らずのうちに強くイギーを抱きしめていた。




    ◆



放送が木霊のようにリビングに響く。やけに耳に残るそれを感じながらふと目を手元に下ろす。
動揺もせずに名簿には脱落した参加者の欄に線が引かれていた。
禁止エリアもご丁寧に時間まできっちりと書き込まれている。
…それを見てあたしは喜べばいいのか悲しめばいいのかわからなかった。

エルメェスとエンポリオの名前が呼ばれたのに冷静に受け入れれたこと。
悲しいはずなのにそれをどうすればいいかわからないこと。

………そうよ、放送で名前を呼ばれたってことは死んだってこと。二度とあの二人に会えないってことだわ。
そう理解したとき、そう思ったとき、ビデオ再生のようにママの最後が思い出される。



鳥肌が全身を襲ったのと手に震えが走ったのは同時だった。

嫌だ。もう二人に会えないなんて嫌だ。
まだエルメェスには話してないことがある、やってないことがある。
返してない借りた百ドルのツケ。いかした顔した男子看守のホットニュース。FFと仕掛ける予定だったドッキリ。

エンポリオだってそうだ。
あたしを姉みたいに慕ってたあの可愛い少年はもういないの?もう会えないの?
幽霊の部屋にまた招待してよ。気まぐれにピアノをかき鳴らそうよ。またあたしを「おねえちゃん」って呼んでよ。

嫌よ、そんなの。嫌、二人に会えないなんてそんなの、そんなの―――ッ!!

「調査は俺一人でやってくる…。お前は………少し頭を冷やせ……。」
突然手を握られる。霞む視界に大きな手が映り、少しずつ視野が広がる。
ぼんやりと靄がかかっているような頭は以前働かないものの、目の前にいるのがレオーネ・アバッキオであることはわかった。
温かさを膝に感じるとアバッキオと同様にイギ-がその身を丸めこちらを見上げてる。

震えはまだ収まらなかった。それでも手を握り返し、イギーを抱きしめた。
それが今のあたしがすべきことだと思ったから。

大きな男の背中が遠ざかっていく。玄関の扉に近づきその手を扉にかける。
急激にこみ上げるなにかが命じるままにあたしは声を振り絞った。
そうでもしないとこの背中を見るのが最後になるんじゃないかって漠然とした不安に押しつぶされそうだったから。

「アバッキオ…!」
だから振り向いた彼を見てもあたしは何も言葉を用意してなかった。
少し目つきを仕事人のもにした男に対してあたしは宙ぶらりんな状態を維持するしかなかった。
結局無理矢理ひねり出した言葉は当たり障りのないただの挨拶だった。

「…いってらっしゃい」

間抜け面を晒したアバッキオを見て、少しだけ笑った。そうやって笑える自分がいることにほっとしてまた笑った。
イラッとしたような顔を一瞬だけするとそれでもアバッキオはもう一度表情を戻した。
そうしてまたその広い背中を見せると…

「…行ってくる」

扉が閉まるその直前に、最後にその背中があの日のあいつに重なって、またあたしは笑顔をなくした。




    ◆



寒かった。
頼れるものもなくして、寄りかかるものもなくして、あたしは一人だった。
窓に視線を向けるとちょうどお日様が顔出す頃であたしはそれからも顔を背けた。
イギーは相も変わらず私の腕の中で大人しく抱かれてくれてる。そうして欲しい、って私が思ってるのがわかってるのかしら。

どうすればいいのかしら、これから先………。
あのエルメェスが死んでしまった。まだ認められないし、認めたくない。
それでも微かに残った冷静な自分が騒ぎ立てる。熱く燃え滾る自分が叫ぶ。
……そうね。その通りよ。
アナスイだって、FFだって、ウェザーだって。
あたしは守られるだけの女の子じゃない。
ストーン・フリー。何者にも縛られない私自身の誓い。

立ち上がらないと…!これ以上失いたくないって言うなら失わせちゃいけない。
だったら自分の腕で掴み取れ。あたしにはそのための腕があるんだから。

それからあたしが家を飛び出なかったことが結果的に良いかどうかは判断できない。
ただあたしは今一度考えをしっかりと練り直さないといけなかった。
一番の論点は「アバッキオが信頼できるかどうか」

アナスイ、ウェザー、FF…そして『あいつ』。もう失いたくない。それが素直な気持ち。
現場に向かった彼は大丈夫かしら…?それにもしかしたらあの拡声器の声につられてあたしの仲間が来るって可能性も…。
すれ違いになったらどうしよう…。それが最大の懸念だわ…。

とにかく急がないと。決断はサクッと。クールにいきましょうね、空条徐倫…!



【空条徐倫の場合】

1.仲間を探しに出る
2.アバッキオの元に向かう
3.アバッキオの帰りを待つ




                ◇  ◆  ◇



〈side C:イギー〉


「この犬っころが番犬の役割をしっかり果たすように見えるのか、お前には?
支給品にクソなんか引っ掛けられた日には俺はこいつを蹴っ飛ばすぜ…ッ!」

………んだよ。せったく人が心地良く寝てたってのに。マナーがなってねぇぞ、マナーが。
ぎゃーぎゃー喚く人間どもの声を聞きながら俺は眠りから覚醒する。
眠気覚ましに欠伸を一発かまし今の自分の状況を把握する。

なんだよ、まだ随分暗いじゃねーか。お天道様と同時に起床、ブラックコーヒーを片手にってのが俺のいつものモーニング。
それと比べたらそれは、まぁ、対したもんだぜ…
安っぽくて廃れたホテルでももっと心地良い目覚めになるだろうってのに…やれやれ。
それにしてもこの俺の眠りを妨げたのは何処のどいつだ?………なんだ、ジョリーンのやつか…。

「イギーはそんな間抜けじゃないわ。それにこの子をそんな風に呼ばないで」
「それでもイギーをここに一匹置いていくってのも酷な話だ。まぁ、俺としては犬一匹ぐらいって思うんだが懐かれてるお前の場合は違うだろ?
ああ、イギーも一緒に連れて行くってのも説得力のねぇー話だ。支給品はどうする?」

まあいいだろ、いちいち抵抗するのも面倒だ。
それに大抵人間は犬の都合なんて無視だからな。ここは俺が大人になってやるか…。
最もあの男だったら今頃顔に強力な一発をふっかけてるだろうけどな。

「とにかく、だ。そろそろ時間だ。俺は…」

それにしてもよく喋るもんだぜ。こうもキャンキャン騒がれるとこっちが騒ぐ気をなくすぜ…。
ま、いい。もう一眠りと行くか…。

「―べート―ヴェン交響曲第九番の第四楽章『歓喜の歌』
う~ん、じつに素晴らしいね。心が震える、そんな曲だ。
格好つけたような言い方すると、人間賛歌、ってとこかな? 」

目を瞑り夢の世界へ旅立とうとする俺を望んでもない目覚ましが遮る。
今度は何だよ…。いいかげんにしねーと温和な俺様もプッツン来るぜ…ッ!?



    ◆



「調査は俺一人でやってくる…。お前は………少し頭を冷やせ……。」

これだから人間ってのは嫌いなんだよ。
自分たちがこの世で一番賢いだ?やれやれ、その賢い人間様はそれじゃどうして26人も犠牲者を出してるんだ?
そもそもこれを開催したのも人間様じゃねーか。…いや、もしかしたらあの荒木って奴は人間じゃねぇかもしれんがね。
どうも奴からは匂いがしない。薄っぺらい無機質の匂い。
へっ、NYの酒場のゴミ箱の中のほうが何倍も嗅ぎ応えがあるってもんだぜ。

「アバッキオ…!」
「…いってらっしゃい」

それにしても、アヴドゥルの奴もくたばったのか…。
俺をNYから引っ張り出したのが仇になったか。ただあいつほどのスタンド使いがこうもあっさりやられるとはちょっぴりだが、びっくりだぜ。
俺はあいつの強さだけは認めてたんだがな…。
まぁ、荒木、あのニセモノ野郎をぶっ飛ばすついでだ。てめぇの仇も気が向いたら取ってやるよ。
だから化けて出てくるんじゃねぇぞ?お前みたいなブ男が夢に出てくるなんてことは勘弁だぜ…。
そういうわけだ。いい夢見て眠りやがれよ、アヴドゥル。

「…行ってくる」

さてと。そんなことより、この現状だ。
軋み閉まる扉を見て俺は下からジョリーンの奴を見上げる。
思ったとおりだがジョリーンのやつは動揺が酷い。心音も早くなってるし、額に浮かぶ脂汗も尋常じゃねえ。
野郎のほうもそれに対処できてねえ。それどころかこいつ一人置いてどっかに行きやがった。
一人にしとくのがいいんだって?やれやれ、これだから青臭い童貞(ガキ)どもは困る。

男であるもの、女一人エスコートできないようじゃこの先苦労するぜ?全く使えねえ奴だ。
こんなときは女のために思いっきり泣かせる胸のひとつやふたつ用意しとくもんだぜ?
そういうわけで今日だけ特別サービスだ。今だけは、俺の毛皮で思う存分泣きな、ジョリーン…。





    ◆




野郎の奴がジョリーンをそのままにして家を出てからだいぶ経った。
ジョリーンの奴は相変わらず震えっぱなしだ。俺の体に伝わるほどの震えを感じる。
随分と危険な匂いだ…。
その震えが止まったことから俺は更に鼻をひくつかせ、体から溢れるばかりの感情の臭いを嗅ぎ取る。
焦り、恐怖、義務感、決意。徐々に固まりだした匂いはジョリーンの体を蝕んでいく。

なに?決意が固まったことはいいことだって?
馬鹿言え、今のこいつは最高に視野が狭い状態だ。やれやれ…これだから人間は。

冷淡に生きること、死者を重んじること、ドライに生きること。
死が特別なものである人間にはそこらをやたら分別したがる。
弱肉強食。油断したら死を招くその世界にいる俺からしたらどれも大して変わらねぇ。
ただ死んだものに自分の中でどうけじめをつけるか。それが葬式であったり追悼であったりするわけだが。

死を無駄にしない、なんて二枚目くさいことは言わねぇぞ?
ただ俺はどんな死者にだって敬意を表すべきであって、そこに私情を含むかどうかは別物ってやつだ。
…まぁ、俺が特別すぎるってことか?

とにかく、こいつは死者の影追うばかりで肝心の自分の命が見えてねぇ。
目標ばかり目に行って足元がお留守。傍から見たらどうも危なっかしい。
…はぁ、めんどくさいことに首突っ込んじまったなぁ。仕方ねえ、これも犬好きのガキンチョどものためだ。

六時間一緒に過ごしたよしみあるしな、ジョリーン、協力してやるよ…。
だからといってそれがお前の望むことになるかどうかは俺の知ったこっちゃねぇ。
犬好きのお前にとって何が一番良いか、賢い人間様より聡明なこのイギー様が判断してやるよ!


【イギーの場合】

1.徐倫を引き留める
2.徐倫と一緒に家を出る
3.なるようになる

                ◇  ◆  ◇



〈side D:チョコラータ



死亡者が呼ばれるたびに震えが走る。三半規管に心地良くその声が轟く。
この死亡者はなにを見た?聞いたところ女性名だ。どうやって死んだ?

辱めを受けた後、ボロ雑巾のように捨てられたか?自らの体を売り、逆に裏をかかれたか?
僅かな勇気を振り絞り、自らを奮い立たせ死地に飛び込んでいったか?
惨めに泣き崩れ、恐怖に震えるところに現実を突きつけられたか?

これだ…ッ!この感覚………ッ!!
俺自身が望んでいたもの!どこまでも純粋な恐怖、絶望!
それのひとつひとつの結晶がこの結果…!
26人!最高のショーだッ!どこまでも充実した6時間、いまからでもそのテープが待ち遠しい…!

明るくなりかけた空の下、響く歓喜の放送は止まらない。
そして俺自身の興奮も留まることを知らない。
幸い自分がいるところは禁止エリアに指定されなかった。
死亡者?誰が忘れるようなことがあるか。空にいえる。メモを取るまでもないことだ…ッ。

あの駅から西に向かう途中に流れたこの放送は俺を最高に興奮させた。
こんなにワクワクしたのはいつ以来だろうか?
看取った老人の顔が絶望に染まったの見た時だろうか。初めて患者を殺したときだろうか。
今、俺は柄にもなく年を忘れて遠足を楽しみにする子供のようにスキップで移動中だ。

その俺の足も止まった。こうして壁に背を当てじっと気配を殺す。
いくらテンションを限界まで飛ばしたからといって自分を見失うようなことはしない。
霞む朝日の下、なにやら動く人影を見ればこんな状況だ。冷静さを取り戻すなんてわけない。

…落ち着きを取り戻した俺は冷静に脳を回転させる。
観察する相手の様子を伺う。
幸いなことにこっちには気づいていないよう。気を配ってるのは伝わるが…集中力を欠いてるのか。
今の俺の集中力ではそれがおもしろいほど手にとってわかる。
それがさっきの放送が原因だとしたら…おもしろい。

そして気づく。
知らず知らずのうちに自分は笑みを浮かべていただろう。
あれは…俺の目と脳が正常なら、ブチャラティの一味のレオーネ・アバッキオじゃないか……ッ!

そうわかったからこそなお一層冷静になれ、と呼びかける。
ここでの選択肢は外すことが出来ない。自分が一番わかってる。

そろそろ恐怖を生で見たい…!脅え、叫び、逃げ惑う参加者…!
突き落とされる絶望に…震え、命乞いをする弱者…!

「いやしんぼめ………ッ!」
いつもの口癖を呟く。セッコにいつも言い聞かせていた言葉は何より貪欲な自分に言っていたのかもしれないな…。
判断材料は三つだ。

ひとつはアバッキオの隣にしゃがむ人影。未知数のあれ、死体か?手を組んでる相手か?はたまた支給品か?
不確定要素に対してこの俺はどう動くべきか。

ふたつは奴の精神状態。スタンドは己の精神力。トリッシュが死んだ今、及ぼす影響はどの程度だろうか?
人によっても及ぼす影響は違うからな…。激昂する奴、我を忘れる奴、呆然とする奴…。
さてさて、奴の場合はどうかな?

みっつめは転がるデイバッグ。支給品、あの荒木のことだ。
自分だって意味のない物は入れない。奴の思考回路は俺と似てるからな…。
そう考えると最高のエンターテーメントを演出する何かが入ってもおかしくはない。

さぁ、どうしようか?とてもこの昂ぶりは収まりそうにないが…。
そうして俺は笑みを広げ思考を続けた。


【チョコラータの場合】

1.不意討ちでアバッキオを襲う
2.素性を隠して手を組む
3.このまま西に向かう





                ◇  ◆  ◇




〈side E:ホルマジオ

さぁて、 困ったことになっちまった…。
支給品を安全に確認しようと民家に向かったはいいが…どうしてこんなことになったんだが・・・。
溜息を吐きながら刈り上げた坊主頭をぼりぼりと掻く。
そうしながらさっき流れた放送の内容をもう一度呼び起こす。

幸い禁止エリアと死亡者はチェック済みだ。放送を聞き逃すなんて間抜け以外の何者でもないぜ。
と、言ってもそんなことをしそうな奴が俺たちチームにいるんだけどな。悲しい現実だぜ、やれやれ。
最もそいつの名が呼ばれなかったってことは喜ばしいことだ。他の奴らも無事生き残ってるようだしな…。

目つきの悪い男達を脳裏に浮かべながら俺は知らず知らずのうちに苦笑いを浮かべる。全く頼りになる奴らだよ…。
それでも、全員が全員無事、ってわけにはいかなかったがな。
線が引かれてる名前をなぞる。さっきとは違う種類の溜息。

まったく喧嘩する相手を考えろ…。お前の性格だとここじゃ危ないとは思ってたけどよォ…。
しょうがねぇな、じゃ済まされないんだぜ。リーダーの身になってみろってんだ、あの馬鹿野郎…ッ!

そうして怒りに我を忘れた俺は一瞬だけ自分の状況を忘れちまった。
危うく窓から転落死しかけた俺は慌ててスタンドでサッシをつかみ体を元の状態に戻す。危ねえ、危ねえ…
うん?今の状況?
それがまた厄介の種でよォ、支給品を確認できない理由なんだよ。

西急いだ俺は支給品の確認、それに加えて放送もあることもあり、身を潜める民家を探していた。
所が偶然聞える人の声。押さえ気味とはいえ、こんな状況、軽い口論であるその声は俺の耳にもばっちり届いていた。
そうして、俺はそいつらの情報を手に入れるためにも体を小さくして窓のサッシで聞き耳を立ててる、ってわけよ!

おっと、玄関の扉の音だ。どうやらアイツは出て行ったか。
さてこっからは仕事人、ホルマジオでいかねぇとな。
頬を軽く叩いて気合を込める。うし、行くか。

ギャングになった以上、俺は外道だろうと人外だろうとなんだろうと汚名を被る覚悟は出来てる。
どれだけ非難されようと、卑怯だといわれようと、俺は…俺たちはそれでもやらなければならないことがある!
女子供、無関係な奴らを踏み台にしようともな!

ターゲットは女一人。傍に犬一匹か。
状況が状況だ、スタンド使いの可能性も高いな。
そうなると選択肢は三つだな。このまま指をくわえて待ってるなんてことは有りえねェ。
当然二人+一匹より、一人+一匹のほうが遥かに楽だからな。それに俺のスタンドは奇襲向けだ。
…だが無理に襲撃するメリットもないんだがな。話し合い・・・ですむって考えるのは甘ちゃんか…?

さて、時間制限つきだ。さっさっと決めて行動しちまうか。
なんたって俺たちは『行動したと思ったときには行動し終えてる』んだからな。
…ほんと、しょうがねぇ~~~なぁ~~~~………!!



【ホルマジオの場合】

1.体を元に戻し、接触 情報を入手する
2.自らのデイバッグに身を縮ませ、拾ってもらう
3.問答無用で襲い掛かり、拷問する



                ◇  ◆  ◇




人生はいつだって重要な選択の連続だ。それも制限時間付きだから厄介この上ない。

しかし、だからこそ人生は おもしろい。










【E-6 北の現場(戦闘があった場所)/1日目 朝】
【レオーネ・アバッキオ】
【時間軸】:トリッシュ護衛任務を受けた後、ナランチャがホルマジオの襲撃を受ける前。
【状態】:健康、苛立ち
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:トリッシュの仇を討つ。それ以外のことは仲間と合流してから考える。
1:決断する
2:現場から支給品、リプレイともに出来るだけの情報を集めたい。
3:近距離パワー型スタンドのラッシュは柱の男達に効きそうにないので、対抗策を模索する。
4:チームの仲間、あるいは、組織のメンバーの誰かと合流して協力を要請する。
5:サルディニア島で自分が死んだ? ボス=ディアボロを倒した? ボスに警戒?!何のことだ?! (とりあえず置いておく)
[備考]
※名簿に目を通しました。
サンタナの名前と容姿、『露骨な肋骨』『憎き肉片』の2つの技の概要を知っています。
※参戦時期の関係上、まだディアボロを敵と認識していません。
※トリッシュの遺言を聞き若干混乱しています。
※近くにサンタナの首輪、ブンブーンのデイバッグ(不明支給品が0~2個入り)、拡声器、が落ちてます。


【チョコラータ】
[時間軸]:本編登場直前
[状態]:最高にハイ
[装備]:ミスタの拳銃、
[道具]:顔写真付き参加者名簿、チョコラータのビデオカメラとテープ、支給品一式×2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを楽しみ、優勝して荒木にロワの記録をもらう
1:決断する
2:中央(繁華街)を通り西を目指す
3:ディアボロを拷問してボスの情報をはかせる
4:参加者に出会ったらどうするかはその場で考えるが、最終的には殺す
[備考]
※グリーンディの制限はまだ不明
※参加者が荒木に監視されていると推測しています
※思考3については、「できれば」程度に思っています





【E-6南東の民家/1日目 黎明】
【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:健康。アバッキオに殴られた腹が少し痛い(戦闘、生活には支障皆無)大きな焦り、強い心配。
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:打倒荒木! これ以上自分のような境遇の人を決して出さない。
1:決断する
2:アバッキオとともに“現場”に行き情報収集する?
3:あいつ(空条承太郎)、他の協力者を捜す。
[備考]
※名簿に目を通しました。

【イギー】
【時間軸】:エジプト到着後、ペット・ショップ戦前
【状態】:健康。アバッキオに蹴られた所と落下の衝撃で少々痛い(戦闘、生活には支障皆無)。
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:とりあえずこいつらに付き合うとするか
1:決断する
2:二人についていく。ただしアバッキオは警戒
3:承太郎たちも参加してるのか……
[備考]
※空条承太郎と空条徐倫の関係はほとんど気にしていません。気付いてないかも?
※名簿に目を通しました。
※二人の近くには【食糧の入ったデイパック】【地図など情報交換用のもの及び共通支給品が入ったデイパック】【上記の不明支給品の入ったデイパック】 が転がってます。
 詳しくは59話「わらしべ長者」参照。

【ホルマジオ】
[時間軸]:ナランチャ追跡の為車に潜んでいた時。
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、万年筆、ローストビーフサンドイッチ、不明支給品×3
[思考・状況]
基本行動方針:ボスの正体を突き止め、殺す。自由になってみせる。
1:決断する
2:ディアボロはボスの親衛隊の可能性アリ。チャンスがあれば『拷問』してみせる。
3:ティッツァーノ、チョコラータの二名からもボスの情報を引き出したい。
4:もしも仲間を攻撃するやつがいれば容赦はしない。
5:仲間達と合流。
[備考]
※首輪も小さくなっています。首輪だけ大きくすることは…可能かもしれないけど、ねぇ?
サーレーは名前だけは知っていますが顔は知りません。
※死者とか時代とかほざくジョセフは頭が少しおかしいと思っています。
※現在、ジョリーンのいる民家の窓に体を小さくして張り付いてます。
※不明支給品は本来ジョセフのものです。いまだ未確認です。



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キャラを追って読む

59:わらしべ長者 イギー 125:BIOHAZARDⅠ
59:わらしべ長者 レオーネ・アバッキオ 125:BIOHAZARDⅠ
59:わらしべ長者 空条徐倫 125:BIOHAZARDⅠ
91:線路は続くよ、どこまでも ホルマジオ 125:BIOHAZARDⅠ
91:線路は続くよ、どこまでも チョコラータ 125:BIOHAZARDⅠ

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最終更新:2009年07月04日 20:43