プロシュート……」

二度目の喪失。
放送にて、またしてもリゾットは味わうこととなる。

「いけないな、こんなでは」

必要な事だと研究所に引きこもってばかりで、チームは減っていき。
こちらは反逆の狼煙どころか、火種さえ見つからない。

「リーダー失格じゃあないか」

プロシュートは、不言実行に手足が付いたような男だ。
きっと多くを語らず、チームの敵となり得る者と死合って散ったのだろう。

彼らは短い命の中で為すべきことをしたはず。
このままでは、仲間に合わせる顔がない。
首輪を解析しうる部屋は見つけた。だが圧倒的に足りない。
首輪のサンプルが、構造を理解できる技術者が。

「……ペッシに悪い影響がなければいいが」

ともあれ今は、今を大事にしなければならない。
無いものねだりはどこまでも不毛だ。
栄光を掴むには、今をどうするかにかかっている。

「……いや、言い訳だな」

ペッシはどうあれ、プロシュートの名を聞いた瞬間、リゾットは確かに揺らいだ。
過去の喪失の痛みを忘れることはできない。故にぶり返す。
それを受け止めず、ペッシがどうのといった逃げ道を作って目をそらした。

(こんな俺にリーダーを名乗る資格があるのか?)

改めて思う。
ペッシに会ったことで、いつの間にか死んだはずの仲間との再会を強く望んでしまったのだろうか?
感傷はとうに捨てたと思っていたのに。

答えを出せないまま、その考えを振り切るように歩む。
ペッシの持ち場である、地下の駅ホームに。


  ★


「うっ、うう……兄貴……兄貴ィ……」

平気だと思っていた。
自身が尊敬し、背を追い続けてきた男はあらゆる困難を乗り越え自分たちの前に現れると。
そう高をくくっていた、が、望みは脆くも打ち砕かれた。

「えぐっ、う……ううっ」

屍を越えて戦う覚悟が、踏み台にしてでも立ち上がる覚悟が、こうも痛みを伴うものだったとは。
分かった時にはもう遅い。
俯き、涙を、鼻水を、恥も外聞も気に留めず垂れ流す。

「う……うあ……ああ」

止まらない嗚咽。
反響して何重にも聞こえるそれに、反応してくれるものはいない。

「あの、え~っと、もしもし?」

否、現れた。

電車から降りたその男、音石明
ジョセフが生み出した宝を握りしめ、いざ行かんナチス研究所……と思っていたところで出鼻をくじかれた。

「すまないな、俺の『仲間』が迷惑をかけたようで」

遅れて現れたペッシの上司は、普段より謙遜した挨拶を来客に向ける。
当の来客、音石は未だ混乱しているようだ。


  ★


「俺はリゾット、彼はペッシだ」

今回は素直に名乗る。
ミューミューの件は内部の把握が急務だったからやったことである。
今後はそううまくいくまい。協力を欲するなら、信頼を勝ち取らねば。

「ああ、俺は音石明。お仲間さんが泣いているのは心中察するとして……だ。
 俺は殺し合いに乗り気じゃあないが、襲われて命からがら逃げてきたばかりでね。自衛のために支給品を譲ってくれやしねえか?」

とは言え、相手にもよる。
そうも言っていられない事態ではあるが、裏切らない程度に有能な人物がベスト。
しかし数だけ見れば二対一の現状、こいつは何を、とリゾットは思う。
もっと警戒しても良いのではないか。

「いや、支給品はあるんだ。
 あるんだが、スタンド能力の関係上……電気関係の支給品が欲しいんだ、それこそ電池とかな」

この発言にしても、そう。
モノによるが、おいそれと渡すバカがどこにいると言うのか。

「もちろんタダとは言わねえ。相応の礼はするさ」

当然である。
欲しければまず与える。それが十分に出来ていなかったから、リゾットらは自分たちのボスに牙をむけた。
人類史上どんな形であれ、それは証明されているのだから。

「生憎俺には持ち合わせがない。あればの話になるが、ペッシのものを譲ろう」
「いいのかい?」
「余計なことはいい。……一人でいさせることも時として必要だ」

ペッシの耳元で上に戻るとだけ言い、デイパックを取る。
中身の確認はしていなかった。もしかしたら、合流する以前に使い果たしたかもしれない。
しかしリゾットは目ぼしいものがなくても粘ってみるつもりだった。相応の品とやらが気になったから。

「俺が先に見せないと、この場合不公平だな。
 ……仲間が託してくれたもんだからさ、大事に扱ってくれると嬉しい」

しかし、ペッシの心配をするより、自分の心配を先にするべきではないか。
そんなことを思いつつ音石が取り出した紙をちらと見た瞬間、リゾットははっとし、つらつらとメモ帳にこう書き記した。

『それについては、以後筆談で頼む。書いたことは決して口に出すな』

「……有難い。場所を移りたいが、ついてきてくれるか?」
「もちろん」

狼煙の火種、リゾットはまさしくそれを手にしたと理解する。


  ★


『どこでこれを?』
『念写のスタンド使いと一緒にいてな、そいつがやったんだ。さっきも言ったように、放送直後に襲われてはぐれちまったが』
『余計な事を聞いて済まない』
『構わねえよ。きっと生きてるさ、俺は信じてる』

白紙が黒で埋め尽くされていく。
ペッシのデイパックを左手で弄りながら、右手で筆談を行う。
綴る速度は一向に衰えない。

『で、何か分かりそうか?』
『申し訳ないが、その辺については疎い。だが予想では、盗聴器の類がつけられているかもしれないな。
 筆談はそのためだ。そして、カメラは布で覆えば使い物にならなくなるからそちらの可能性は低い。
 この部屋に仕掛けられているかもと思って一通り調べたが、それらしいものはなかった』

これを手にしている音石が死んでいないことから、監視は緩いものだとあたりはついた。
未だ40人以上いるなか、一度に彼らの情報を把握し整理することは難儀。
協力者がいても、逐一報告しなければならないから労力は同じ。
自然監視の手は弱まるだろうが、だからといってマークされていないとはいえない。油断は禁物だ。

『俺としては、音石の意見を聞きたいところだが』
『外せるとまでは言えねえが、機械に触れてた時期はあったしある程度は分かる。ある程度は、な』

音石は、自分のスタンド能力の都合上、ある程度の工学知識は持っていた。
解除には至らないまでも、自分たちの首輪と照らし合わせれば少しは分かるかもしれない。
現実に、杜王町に張り巡らされた電線の位置全てを把握したことがあるくらいだ。
……そのまじめさをもっと別の方面に使うべきだとは思うが。

『正面にあるのが電球。人の首輪を見りゃあ流石に気付いていると思うがな。
 近くにある機械は……リゾットの予想が正しけりゃ盗聴器のマイクかなんかだろう。声を拾うなら、この位置だな』

喉元にそれらしい機械が見つかったようだ。
確定したわけではないが、当然の措置だろう。

『後はよくわからねえ。予測でいいなら、おそらく大部分を占めるのは爆薬だ。
 最初見せしめとして首を吹き飛ばされた人がいたが、あれほどの威力だとこれでも足りない気がするがな』
『なるほど。繋がっているのは起爆するためのコードか?』
『だとすれば、電気信号で起爆するんだろうな』

電気信号――その言葉で、紙面を見つめていたリゾットの眉が寄る。

『待ってくれ、電気信号だと?』
『ああ。信管に電気信号を送って』
『違う、根本的にこの首輪はおかしい』

音石を遮るように、さらさらと、形の整っていない字を書き記す。

『見ての通り電球は点いている。これは明らかだ。だったら』

わざと文字の間隔をあけ、強調して書く。

『そ の 電 気 は ど こ か ら 流 れ て い る ?』

ご丁寧に、下線も引いて。

『他にもパーツはあるぞ?』
『禁止エリアのための位置確認をする装置。無理に外そうとしたら爆発する装置。そして、生死を判別する装置。
 これほどのものがまだあると予想できるが……エネルギーを維持できると思うか?』

どう見ても首輪は機械だし、設計図という裏付けもここにある。
多少未来のテクノロジーを用いているとしても、この問題は簡単に解決しそうにない。
首輪は鉄の冷たさを保っている。これだけのエネルギー、表面に熱が伝わっていないのは不自然。

『確かにこれ全部機械……だよな。念写できたわけだし』
『そう、完全に機械仕掛けだ。スタンドで作ったのかもしれないが、これは言える。
 だから、エネルギーの問題が生じてきてしまう』

スタンド能力だから、が通用しない領域。
だが、荒木にたどりつくためには避けて通れない防壁。

『実物を見てみないと分からんな』

彼らに結論は出せない。

「約束の支給品だが……これでいいか? 説明文が疑わしいんだが」

突如、口を開くリゾット。
あまり筆談に時間をかけ過ぎると怪しまれる、ここらが潮時ということか。
紙を開いて放りだした中身を音石は見つめ――

「いいもなにも。最高だよ」

間髪いれず、笑顔を浮かべる。


 ★


「『スピットファイヤー』。
 ラジコン飛行機。時速150キロまで加速が可能。バッテリー充電器付き……」

リゾットが、支給品の説明書を復唱する。
玩具に詳しくないリゾットはその文を疑っていたが、どうやら音石が本来持っていた物らしい。

「それで研究所外の索敵を頼めるか?」
「いいぜ。こっちは行くあてもねえんだ、世話になんぜ」

スタンドを乗せれば、電波に関係なく飛行が可能とのこと。
欠けていた外部の防衛力もこれで補える。
ホル・ホースにレーダーを要求したが、いらぬ世話となった。

(疑わしいと言わざるを得ない)

だが、そこまでさせて尚、リゾットは音石を訝しんでいた。
もっと言うなら、違和感が拭えずにいた。
音石の、この舞台における身の上について。

(仲間が襲われたというのに、何故支給品を回収する暇があった?)

仲間が襲われたので、自分は『デイパックを回収しつつ』逃げた――そんな余裕があれば早く逃げればいいものを。
設計図は若干の工学知識のある音石に先に渡しておいたというのも考えられるが、託す相手がこうも危機感がなくていいのだろうか?
嘘をついていなければ危なっかし過ぎる。

(だが首輪の設計図をもたらしてくれたのは事実だ。偽物だったとしても、実物を見ればわかること。
 こいつは俺が監視しなければなるまい)

それを差し置いても、もたらしてくれたものの大きさは計り知れない。
だからこそ、そんなことは問題にならないような、何かしらの腹積もりがあるのだろう。
そんな男を、隙だらけのペッシに近づけるわけにはいかない。
ペッシを言い訳に使ったのだ、これぐらいのリスクは背負ってしかるべき。

「俺の仲間と、警戒するべき人物を教えておこう。見つけたら連絡してくれ」

リゾットは、チームのリーダーとしての姿勢を崩さない。


  ★


(首輪の解除、ねえ……)

リゾットの説明を聞きながら、音石もまた、訝しんでいた。
首輪の解析並びに解除、その可能性について。

(そううまくいくもんなのか?)

首輪を外して荒木を倒してメデタシメデタシ――そううまい話があるだろうか?
筆談の際、音石は嘘をついていない。見破られたら自分の立場が悪くなるだけだから。
その音石が自分以上の専門家になら外せるかも、と思ったが、次のステップにある荒木打倒というハードルが山の如く高い。
常識が通用しない全裸の怪物に対峙して感じた絶望を、音石は回顧する。
少なくとも荒木はそいつ以上に強いのだろうし、荒木を倒す道を見出すのは楽観にもほどがある。

(ま、一人じゃ限界があるだろうし、しばらく利用させてもらおうかね)

しかしそんな怪物が跋扈するであろう中、一騎当千も厳しいのは事実。
地図の端側なら危険にさらされる可能性が下がるのはその点有難い。
しかも現在スタンドを外に飛ばしているが、本体の危険はリゾットが守ってくれる。
実に遠距離型らしいやり方ができるわけだ。

(首輪回収って名目で、人数減らしも出来ることだしよ)

そして、優勝狙いの音石にとってこれほどうれしいものはない役職――外の監視と危険人物の排除を一任されたのだ。
リゾットが話した人物以外でも、首輪を手に入れるためと言えば一人か二人殺しても大目に見てくれるはず。
これで、疑われることなく攻撃を仕掛けられる。
もちろん、あの虹村億泰であっても。

音石明は、優勝への狙いがぶれることはない。


  ★


果たして首輪の設計図は、荒木を焼き尽くす業火となるか?

それとも、扱いきれずにリゾット自身を燃やすか?

光明はまだ、見えない。



【F-2 ナチス研究所 研究室/1日目 日中】
【暗殺チーム(現在メンバー募集中)】
リゾット・ネエロ
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:頭巾の玉の一つに傷、左肩に裂傷、銃創(『メタリカ』による応急処置済み)
[装備]:フーゴのフォーク
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする  
1.音石の監視を頼りに、首輪を外すor首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む。
2.ホル・ホースを信頼。ミューミュー、音石はそうでもない。
3.暗殺チームの合流と拡大。人数が多くなったら拠点待機、資材確保、参加者討伐と別れて行動する。
4.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断、皆殺しにする。ブチャラティチームに関しては後ろ向きな行動だろうがやむなし。
5.荒木に関する情報を集める。他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味。
[備考]
F・Fのスタンドを自分と同じ磁力操作だと思いこんでいます
※F・Fの知るホワイトスネイクとケンゾーの情報を聞きましたが、徐倫の名前以外F・Fの仲間の情報は聞いてません
※情報交換の際ホル・ホースから空条承太郎ジョセフ・ジョースター、花京院典明、J・P・ポルナレフイギーの能力を教わりました。
※ホル・ホースの言葉に若干揺らぎましたが、現在ブチャラティチームと協力する気はさらさらありません
 ただし、カタギの人間(首輪解除に有益な人材)には素性を伏せてでも接触してみる(バレたり、その後のことはケースバイケース)。
※盗聴の可能性に気が付いています。

※リゾット、及びペッシのメモには以下のことが書かれています。
[主催者:荒木飛呂彦について]
荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
         → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 
※荒木に協力者がいる可能性有り



【音石明】
[時間軸]:チリ・ペッパーが海に落ちた直後
[スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(黄色)
[状態]:体中に打撲の跡(中)、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』をスピットファイヤーに乗せて飛行中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、不明支給品×1、ノートパソコンの幽霊、首輪の設計図(ジョセフが念写したもの)、スピットファイヤーのコントローラ、バッテリー充電器
[思考・状況]基本行動方針:優勝狙い
0.しばらくこの駅に待機せざるを得ないかもな、能力的に考えて
1.ナチス研究所周辺を監視中。チャンスがあれば攻撃を仕掛ける
2.首輪解除なんて出来んのか?
3.サンタナ怖いよサンタナ
4.電線が所々繋がっていないのに電気が流れているこの町は何なんだッ!? あやしすぎて怖えー!
[備考]
※バトルロワイアルの会場には電気は通っているようです。
 しかし様々な時代の土地が無理やり合体しているために、電線がつながっていなかったりと不思議な状態になっているようです。
 スタンドが電線に潜ったら、どうなるかわかりません。(音石は電線から放電された電気を吸収しただけです)
ミセス・ロビンスンをスタンド使いだと思っています
※早人とジョセフとディアボロが駅を出た理由を知りません。
※盗聴の可能性に気がつきました
※ブチャラティチーム、ホル・ホース、ミューミューの容姿と能力を知りました。ホルマジオの容姿を知りました。
※スピットファイヤーを【F-2 ナチス研究所】付近に旋回させています。
 少なくともブチャラティチームやプッチ一味(と判断できた場合)、虹村億泰が近づいてきたら攻撃を仕掛けるつもりです。


※フーゴの辞書(重量4kg)、ウェッジウッドのティーセット一式が【F-2 ナチス研究所】に放置されています。



【F-2 ナチス研究所地下鉄駅ホーム/1日目 日中】
【ペッシ】
[時間軸]:ブチャラティたちと遭遇前
[状態]:頭、腹にダメージ(小)、喉・右肘に裂傷、強い悲しみ、硬い決意
[装備]:リゾットにタメ口の許可認証
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2、重ちーが爆殺された100円玉
[思考・状況] 基本行動方針:『荒木』をぶっ殺したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.兄貴ィ……
2.誰も殺させない。殺しの罪を被るなら暗殺チームの自分が被る。
3.ホル・ホースはいいとして、ミューミューは頼りになるのか?
4.チームの仲間と合流する
5.ブチャラティたちを殺す?或いは協力するべきなのか?信頼できるのか?
[備考]
※100円玉が爆弾化しているかは不明。とりあえずは爆発しないようです。
※ただし、これからは素性を伏せて誰かに接触してみる(バレたり、その後のことはケースバイケース)。

※暗殺チーム全体の行動方針は以下のとおりです。
基本行動方針:首輪を解除する
1.首輪解除のためナチス研究所を拠点として確保する。
2.首輪を分析・解除できる参加者を暗殺チームに引き込む。
3.1・2のために協力者を集める。
4.荒木飛呂彦について情報収集
5.人数が多くなれば拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する



【スピットファイヤーwithバッテリー充電器】
ペッシの支給品。ラジコン飛行機。
音石明がジョセフ・ジョースター殺害のために盗んだ(?)もの。
時速150キロで飛行可能。バッテリー充電器はナチス研究所にも対応しているようだ。
バッテリーがどのくらい持続するか、電波の届く範囲はどの程度かは不明。



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キャラを追って読む

144:偉大なる死 その⑤ ペッシ 160:ハーフ・ア・サティスファクション
144:偉大なる死 その⑤ リゾット 160:ハーフ・ア・サティスファクション
149:目覚めろ、その魂(後編) 音石明 160:ハーフ・ア・サティスファクション

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最終更新:2010年01月31日 22:32