ラバーソールは窮地に陥っていた。
アヴドゥルの手刀を防いだことによって変装がばれてしまった。
それでも花京院がアヴドゥルを倒してくれれば何とかなったかもしれないが、乱入してきたジャイロによって阻止され、『法皇』は『魔術師の赤』に倒された。
敵は、アヴドゥル、ジャイロ、そして得体の知れない
ビーティーという少年。
酷く不味い状況だった。
だが、その戦況は、一変した。
予想外中の予想外。まったく無警戒だった男による銃撃を受け、アヴドゥルは目の前で倒された。
(もしかして、助かったか?)
一瞬、ラバーソールがそう思ったのも無理はない。
だが、現実は甘くなかった。
未だ煙の立ち上る銃口は、続けざまにラバーソールに向けられる。
この猟銃は、2連発だ。
2発までなら、弾を込め直すことなく続けて撃つことができる。
(オイ! オイオイオイオイ! 待て待てッ! ふざけんなッ! やめろ!)
『黄の節制』に弱点はない。
ラバーソールは自らのスタンドについてそう豪語している。
ある意味では、それは正しい。
彼は油断することなく、もっと狡猾に戦っていれば、承太郎の『星の白金』にさえ遅れを取る事はなかっただろう。
ただし、それには「対スタンド」についてという条件が付随する。
『黄の節制』は弾力と柔軟性があり衝撃に強く、そして実体があり、触れた生物の肉を喰らう事ができるスタンド能力である。
相手が生物であれば、たとえ相手がスタンドだとしても、『星の白金』の壮絶なラッシュですら、防ぎきる事ができる。
また熱や冷気にも強く、その防御力の高さは全スタンドの中でも随一であろう。
ただし、『黄の節制』で喰らう事ができるのは、あくまで「生物」に限定される。
質量を持った無生物による、物理的、現実的な攻撃手段に対して、その防御力は発揮されない。
そして弾力ある物の弱点は、貫通力のある武器、すなわちナイフや銃器の類。
すなわち、猟銃という武器を向けられた『黄の節制』のラバーソールは、何の能力も無い一般人と変わらないのだ。
「待―――ッ!」
吉良の放った散弾が『黄の節制』のガードをいとも簡単に撃ち抜き、ラバーソールの頭部を腐ったザワークラウトの用に破壊した。
淡い野望を秘めたラバーソールという名の小悪党は、志半ばにその最後を迎えた。
★ ★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ…… アヴドゥル………」
敵は前髪の男じゃあ無かったのか?
続け様にその前髪も射殺され、ジャイロは呆然とする。
ビーティーに蓮見と呼ばれた金髪男。
猟銃に最後の1発を装填し、その銃口はジャイロに向けられた。
「ジャイロ!」
ビーティーの声で、ジャイロは目覚める。
ドルドやツェペリが誰に殺られたかはわからない。
前髪の長い青年が何者だったかもわからない。
だが、この野郎は目の前でアヴドゥルを殺しやがった。
何がなんだかわからないが、その事実だけは間違いない。
「キサマァァァ―――ッッ!!」
激昂したジャイロが鉄球を放る。
もはや3発目の射撃になる吉良は手慣れた構えで猟銃を向けるが、引き金を引く寸前に鉄球が炸裂し、猟銃を弾き飛ばした。
「チッ―――」
吉良は舌打ちをする。
鉄球は猟銃に当たった後、嘘みたいな軌道を描き、綺麗にジャイロの掌に収まった。
(面倒な技だな、あの鉄球…… スタンドではないようだが、ツェペリの波紋と同様、人知を越えた超技術と言うわけか……
だが……)
「『キラー・クイーン』………」
吉良がここにきて、初めてスタンドを繰り出した。
猫を思わせる耳を持つ、女性的なフォルムを持つ人型のスタンドヴィジョン。
どこが無力な一般人だ、とビーティーは憤る。
これが奴のスタンド能力『キラー・クイーン』。
(ツェペリを一瞬で爆殺したスタンド能力――― その発動条件は―――?)
ビーティーの考えのまとまらぬまま、ジャイロは身構える吉良へ再び鉄球を投げ付ける。
猟銃を失った吉良に残された攻撃手段は、自らのスタンド能力だ。
弧を描く軌道で迫る鉄球に対し、『キラー・クイーン』は
ハエ叩きのように右腕を振るい、鉄球を叩き落とした。
だが……
「ヌゥ―――?」
鉄球は回転している。『キラー・クイーン』の掌が鉄球に触れた瞬間、回転のエネルギーにより両足の力を一時的に麻痺させた。
さらに回転の勢いに飲まれ、吉良の身体は大きく転倒する。
この一投は囮だった。
ジャイロはまず足を奪い、吉良が動けなくなったところで、次の鉄球で勝負を決めるつもりだったのだ。
「待てジャイロ! その鉄球は―――ッ!?」
だが吉良の考えは、さらに上を行った。
鉄球は標的に命中した後、正確無比な軌道を描き、投擲手の元へ返っていった。
そう、鉄球は攻撃の度に、本人の手元に戻っていくのだ。
「……その鉄球は既に『キラー・クイーン』が触れている。」
「その鉄球に触れると爆発するッ!!」
「何ッ!?」
ビーティーの声は間に合わなかった。
否、もはやそれも関係無かったかもしれない。
吉良は鉄球を「起爆材」でなく「爆弾」に変えていた。
ジャイロが鉄球に触れずとも、『キラー・クイーン』がスイッチを押せば、鉄球はジャイロの至近距離で爆発を起こす。
鉄球を『キラー・クイーン』の掌で触れられた時点で、ジャイロは既に詰んでいたのだ。
「くそったれが……」
『第一の爆弾』の直撃を受け、ジャイロは吹き飛ぶ。
もはや戦闘を続けられる状態ではない。
吉良吉影は鉄球によって転ばされたものの大したダメージもなく、起きあがるとスーツの皺を治し、ネクタイを正し始めた。
そしてビーティーの方をチラリと見た後、猟銃を拾い上げ、ジャイロに歩み寄る。
ダメージは大きいが、即死には至らなかった。
だが無意味だ。
『キラー・クイーン』は
ジャイロ・ツェペリの身体に触れ、皮膚の表面を爆破する。
確実なとどめを刺され、ジャイロ・ツェペリは死亡した。
ビーティーは唇を噛み、頂垂れる。
もはやどうしようも無い。戦える人間は、もう誰も残っていない。
ビーティーは、負けたのだ。
★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆
吉良吉影は、空条邸に集まった参加者たちの処置について悩んでいた。
問題なのは、偽名を名乗らざるを得なかったことだ。
他人の名前を語ってる以上、どうしてもいつかはボロが出て、バレる。
そうなる前には、必ず始末をつける必要がある。
空条邸に集まった全員を皆殺しにする案は初めからあった。
だが、吉良にとっての最大の危険人物は
空条承太郎だ。
川尻しのぶによれば、承太郎ももうじきここへ現れるかもしれない。
一筋縄では行かぬかもしれないが、川尻しのぶの接触爆弾さえうまく利用すれば、承太郎を倒せるという自信もあった。
承太郎さえなんとかすれば、あとはどうとでもできるだろう。
それならば、その時が来るまで沈黙するという選択肢も大いに有効だったのだ。
アクシデントは、花京院による反乱行為。
彼が戦闘を開始したため、穏やかに承太郎の帰還を待つという道は断たれてしまった。
そして、「引き返し不能点(ポイント・オブ・ノー・リターン)」は、ツェペリが川尻しのぶの接触爆弾によって死んでしまった時だ。
それまではしのぶを誰にも触れさせないように注意していたが、戦いが始まり、しのぶが猟銃をとって暴れたことで、防ぎ切ることができなかった。
これで、承太郎を川尻しのぶで殺害するというプランはほとんど実現不可能となった。
さらに、ツェペリ爆死の原因を探られれば、吉良は必ず容疑者として疑いをかけられる。
こうなってしまっては、全員殺す以外、選択肢はなかった。
ここまでくればビーティーとしのぶは無視できる。
戦闘能力の高いアヴドゥル、何を考えているのかわからない花京院(ラバーソール)を続けざまに射殺。
最後に残ったジャイロ・ツェペリを、1対1の勝負で見事下した。
すべてを終えた吉良は、無表情に肩をすくめる。
そんな彼に、足元から消えそうなほどに力のない小さな声が聞こえてきた。
「蓮見…… キサマ………」
吉良は目を丸くして驚いた。
まさか、まだ息があったとは……
腹に散弾を喰らったはずのアヴドゥルだ。
おそらく、銃撃の瞬間にスタンドで防御し、即死を免れたのだろう。
実に見事なものだ。
アヴドゥルはまだ、諦めたはいなかった。
吉良の足元で、短剣を握り、振り上げている。
ビーティーより賜った、『戒めのナイフ』だ。
アヴドゥルにとっての最後の武器―――だが、アヴドゥルには、もう力を込め、振り下ろすだけの気力が残されていなかった。
もはや戦士としては引退せざるを得ないが、その根性だけは立派なものだ。
敬意を払い、教えてやる事にした。もはや、隠す意味も無い。
「すまないな、アヴドゥルさん。
蓮見琢馬と名乗ったが、あれは嘘だ。私の本当の名前は―――」
猟銃の最後の1発を、瀕死のアヴドゥルの脳髄に撃ち込んだ。
「―――"Killer"だ。」
おっと、このタイミングの名乗りだと、聞こえる前に死んでしまっていたかな?
などと思い、吉良は笑った。
★ ★ ☆ ☆ ☆
「やはり、あなたが、吉良吉影だったのですね……」
アヴドゥルに留めを刺したあと、吉良は女性の声に呼ばれ、振り向いた。
いつの間に意識を取り戻したのか、川尻しのぶが起き上がり、床に座ったままこちらを見ていた。
死んだような目で、吉良の殺人をじっと見ている。
おそらく今なにが起こっているのかも、何となく理解しているだろう。
その上で、川尻しのぶは取り乱すことなく吉良を見ていた。
吉良は迷ったが、全員の死亡確認を先に済ませることにした。
ジャイロとアヴドゥルにそれぞれとどめを差し、花京院(ラバーソール)の様子も見るが、彼は即死していた。
残る一人。吉良は縁側の廊下を見る。
最初に川尻しのぶに銃撃されたドルドだ。
驚くことに、吉良が目線を向けた瞬間、彼はピクリと動いた。
生きているとは驚きだ。
傷口から機械が見える。
どうやら彼はサイボーグだったようだ。
今更だが、吉良はこのバトル・ロワイアルの参加者たちの多種多様な常識外れさに、やれやれと肩を落とす。
(畜生…… なんてことだ…… こんなハズじゃあなかった……のに……)
ゲーム開始時からのドルドの行動方針は、お人好しの集団にとけ込み、馴れ合い、そして隙をついて優勝することだった。
ビーティー、アヴドゥル、ツェペリ、ジャイロというメンバーは、彼にとってその理想を体現したような連中だった。
その後合流した3人も、同じようなタイプの人間だと思ってしまった。
身を隠すには絶好の、羊の群れ。
その羊の群れの中に、イレギュラーな存在が紛れ込んだのだ。
花京院と言う、肉食の羊。
そして吉良吉影と言う、羊の皮を被った怪物が……
吉良は猟銃内に残った空薬莢を爆弾化させ、指で弾き飛ばした。
放物線を描き、爆弾は正確にドルドを攻撃する。
「やめっ―――」
身体を引きずってでも逃げようとしたドルドであったが、吉良吉影は甘くはない。
ドルド中佐のちっぽけな悪意は、白く光る閃光と共に、永遠に葬られた。
★ ★ ★ ☆
「あなたに会いたいと…… あって話をしたいと、ずっと思っていました。
でも、実際に会ってみると、何を話していいんだか……」
川尻しのぶは、再び吉良に語りかける。
吉良もしのぶの目を見つめ返し、そして優しく問いかけた。
「何故、私が吉良吉影だと……?」
「……承太郎さんの言っていた特徴に合う、というのも確かにあるんですけれど…… それ以上に、雰囲気が……
ミステリアスというか、ロマンチックというか、言葉では言い表せない不思議な感覚が、あの時のあの人によく似ていたから……」
それに、と川尻しのぶは付け加える。
アヴドゥルたちが始めに屋敷に現れた時、吉良はしのぶを庇うような動きを見せた。
それが、猫草に襲われた時に自分を助けてくれた、夫の姿と重なったのだと言う。
吉良には理解ができなかった。
川尻浩作となった自分としのぶの結婚生活の話は聞いていたが、だからと言って殺人鬼である吉良を肯定する理由にはならない。
だが同時に、吉良はしのぶの話を聞き、味わったことの無い安らぎを感じていた。
川尻しのぶ…… 彼女は、一体何者なのだ?
人生で初めて、両親以外の人間から、『理解』されたような気がした。
「………吉良、さん。」
思わず吉良は、しのぶの右手を取る。
この人を殺してしまって良いのだろうか。
これまで一度たりとも殺人を躊躇ったことのない吉良にとって、初めての迷い。
このまま、しのぶと2人で生き残ることはできないだろうか。
あのボニーとクライドのように、ふたりきりで。
他の誰にも理解されなくとも、ふたりで生きていくことはできないだろうか。
(………なんてな)
馬鹿な事を考えるんじゃあない。
そんな事、できるわけがない。
そんな未来に、明日はない。
川尻しのぶの美貌は、その手首だけを残して綺麗に消滅した。
足手纏いを抱えて生き残れるほど、このゲームは甘くない。
そもそも一人しか生き残れないこのゲームにおいて、他者を助けるなど愚の骨頂である。
だが、これだけは間違いない。
川尻しのぶと言う名の女性は、吉良吉影にとって永遠に忘れられない存在となっただろう。
★ ★ ☆
さて、あと一人。
「逃げようとは、考えなかったのかな?」
「おまえがそれを許すとは思えなかったからな。少しでも長く生きるためには、何もしないことが最善だと思っただけさ」
あわよくば、わずかに稼いだこの数分間に空条承太郎が帰還することを願っていたが、それも叶わず終いだった。
じっと睨みつけるビーティーに対し、しのぶの手首を懐にしまいながら歩み寄る。
そしてビーティーがスタンドの射程距離に入ったところで立ち止まり、問いかけた。
「何か言いたいことはあるか……?」
「……貴様、これまでに、いったいどれだけの人間を殺してきた?」
吉良の質問に対し、ビーティーは臆することなく質問で返す。
今までの吉良の殺人を見て、その手際の良さに驚いた。
バトル・ロワイアルだから殺しているんじゃあない。
この男は、本物の反社会性人格障害<サイコパス>だ。
ダイイングメッセージを遺したところで、意味はないだろう。
この吉良吉影という男が、証拠を残すとは思えない。
「ふぅむ、そんなものが最期の言葉でいいのか? 実のところ、覚えていない。
お前は今までした自慰行為の回数を覚えているのか?」
ビーティーに対し、吉良はフザケた返答をする。
ブラックなユーモアに例えたジョークに、吉良は笑った。
だが、ビーティーはそんな吉良のくだらない戯れ言を一蹴する。
「違うな。その例えは、見当違いもいいところだ。
貴様にとっての殺人は、自慰行為なんかじゃあ無い。ただのゴミ掃除だ。
ただ、自分の犯行が露呈する事を恐れた、逃げの手段に過ぎない。
大方、川尻しのぶにやったように、女の手首を持ち帰るためだけにやっているだけだ。
死体愛好趣味の、変態ヤローが!」
吉良の表情から笑みが消えた。
自分の衝動と異常性癖を簡単に見破られ、しかもそれを罵倒された。
と同時に、大量殺人鬼としてのちっぽけさを、叩きつけられた。
確かに吉良に、チャールズ・ホイットマンの気持ちは分からない。
彼にとって殺人とは手段であり、目的ではない。
そしてそれの主な用途は、証拠隠滅だ。
その事実を突き立てられることは、吉良にとって想定外の侮辱だった。
犯罪者としての誇りなどが持ち合わせているつもりないが、吉良は如何ともし難い苛立ちを、自分の半分の時間も生きていない少年に対し、覚えていた。
ビーティーは悔しかったのだ。
吉良吉影の不審さには、はじめから気が付いていた。
ただ、それ以上に目立つラバーソールの存在と花京院の暗躍に気を取られ、一手遅れを取ってしまった。
また、自分に戦う力があれば、こうはならなかった……
敵の不審さに気が付いても、それをアヴドゥルたちに伝えるタイムラグで遅れをとってしまった。
この男のやり口を見るに、公一を殺したのもポルナレフを殺したのも、この男ではないだろう。
結局自分は、なんの真相にもたどり着けぬまま、ここで死ぬのだ。
ビーティーはアヴドゥルの遺体を見やる。
彼の手元からこぼれ落ちた、『戒めのナイフ』―――
『過信』していたのは、自分もだった。
自分の知力さえあれば、どんな困難にも立ち向かえるものだと、自惚れていた。
この敗北は、どう考えても自分の力不足。
それが、何より悔しかった。
「小僧―――ッ!」
吉良吉影に胸ぐらを捕まれて、持ち上げられる。
体が小さく力も弱いビーティーは、反抗することもできない。
「イカレた変態の糞野郎に、しかるべき報いを……!」
心臓を爆破され、ビーティーは息絶えた。
精神的には、ビーティーは勝っていたかもしれない。
だが、それだけでは何の意味もない。
知力も、推理力も、精神力も、圧倒的な暴力の前には何の意味も持たない。
名探偵は、策を弄する「殺人犯」には勝つことができるかもしれない。
だが、常軌を逸した「殺人鬼」にだけは、どうやったって適わないのである。
【ウィル・A・ツェペリ 死亡】
【ラバーソール 死亡】
【ジャイロ・ツェペリ 死亡】
【モハメド・アヴドゥル 死亡】
【ドルド 死亡】
【川尻しのぶ 死亡】
【ビーティー 死亡】
【残り 41人】
★ ☆
最後の最後でビーティーに思いも寄らぬ反撃を受けたが、しかし気にしていても仕方がない。
今すぐにでも、承太郎が現れたっておかしくはないのだ。
川尻しのぶという武器を失った以上、このまま承太郎を迎え撃つのは厳しい。
なにより、今の大量殺戮で体力を消耗しすぎていた。
だが、このまま立ち去るわけにはいかない。
ここには、「吉良吉影の戦闘形跡」が残りすぎている。
処理しなくてはならない。
証拠隠滅のシナリオはもう考えてある。
だが、ビーティーに指摘された事をまた繰り返さなければならないという事が、非常に頭にきた。
時計を見ると、もうすぐ午後3時になる。
10分で…… いや、5分で片付ける。
まず、室内から必要な物をかき集める。
情報交換に使った資料、アヴドゥルの持っていたバイクのキー、ラバーソールの所持品からは首輪、しのぶの持っていた地下の地図など。
未開封の支給品ももちろん回収した。
ドルドの所持品の中にライターがあったのは、特に都合がよかった。
それらを纏めてデイパックに積め、庭に放り投げる。
所持品は準備完了だ。
次は、犯人とヒーローを作る。
アヴドゥルとジャイロの遺体を担ぎ、吉良は庭へ出た。
ジャイロの遺体にはもう一発爆発を食らわせ、身体を丸焦げにさせる。
まるで、『魔術師の赤』にやられたかのような、燃死体が
できあがった。
ジャイロの遺体を屋敷のそばに仰向けに放置し、傍らには猟銃を捨ておく。
空薬莢も当然ばらまいておく。
そしてアヴドゥルの遺体は、ジャイロの正面にある庭の池の中に放り込んでおいた。
『バトル・ロワイアル』が幻覚であると思い込んだ犯人
モハメド・アヴドゥルは、空条邸に集まった参加者の皆殺しを決行。
全員を焼き殺すも、最期の最期で猟銃を持ったヒーローのジャイロ・ツェペリと相打ちになり、池に沈んでしまったのだ。
ジャイロの遺体に銃痕は無いし、アヴドゥルの遺体には猟銃による傷しかない。
ジャイロは丸焦げだし、アヴドゥルは水没。
遺体から正確な死因は調べられないだろう。
次に吉良は、庭に止められている自動車に向かった。
キーはつけっぱなしだった。
少し移動させ、屋敷外壁に隣接するように停車する。
そして『キラー・クイーン』の腕力によって車体を小破させ、ガソリンタンクを取り出した。
吉良はタンクを持ち、屋敷内に戻る。
邸内を少し見て回り、家主である空条貞夫の衣装タンスを見つけた。
川尻しのぶによれば、承太郎が吉良の容姿の特徴を他人に話しているかもしれない。
返り血にまみれたスーツをいつまでも着ているわけにはいかないので、吉良は着替えることにした。
戸棚から適当な衣服を選ぶ。空条貞夫の休日用のラフな服装だ。
普段の吉良のイメージとはかけ離れたスタイルだろう。
ついでに髪型や髪の色も変えたいが、残念ながらそこまでの時間はない。
吉良は脱ぎ捨てた服を一つに纏め、ガソリンをかける。
そしてそのままタンクを担ぎ、そのまま屋敷の廊下を一周、ガソリンを巻いて回る。
吉良吉影の痕跡は、残りの遺体と共に焼き付くされてしまうのだ。
そう、狂ったモハメド・アヴドゥルの『魔術師の赤』によってな。
ガソリンタンクを邸内に捨てる。
準備完了。
自動車が破壊されているが、屋敷に隣接して停車したので、どうせ炎が燃え移り、その痕跡も無くなる。
庭に放ったデイパックを拾い上げ、アヴドゥルの使っていたオートバイに跨る。
そしてキーを刺し、エンジンを掛けると、ドルドの所持品から失敬したライターを点火させ、屋敷内に放り投げる。
時計を見ると、午前3時を少し回った頃だった。
5分かからずだ。間に合った。
短時間に7人もの人間を殺害した吉良吉影は、何食わぬ顔で空条邸を去っていった。
★ ☆
異様な暑さに、
花京院典明は目を覚ます。
ここは空条邸の離れの書庫だ。
意識が戻って最初に気が付いたのは、自分が拘束されていないという事実。
気を失う前の事を思い返す。
『法皇』を川尻しのぶへと憑依させ、ドルドを射殺。
次にビーティーを狙ったところをアヴドゥルに阻止される。
その後何故かツェペリが爆死し、乱入してきた新たな男によって『法皇』はしのぶの体内から吐き出されてしまった。
そして身構えるまもなく『魔術師の赤』の回し蹴りをくらい、気を失ってしまったのだ。
作戦が失敗した今、花京院はアヴドゥルらに尋問でもされるものだと思っていたが、どうにもその様子はない。
時計を見ると、午後3時過ぎ。
気を失っていたのは15分かそこらのようだ。
(しかし、なんだ? この暑さは?)
とにかく情報が欲しい。
おそるおそる引き戸を開け、庭に出た花京院の見たものは―――
「なッ!!」
大炎上する空条邸の屋敷。
花京院が気絶している間に、屋敷の本邸は業火に包まれ崩壊しつつあった。
(どういう事だ? あの後、ここでいったい何が起こったのだ?)
吉良吉影の犯した1つ目のミス。
それは、本物の花京院典明の存在に気が付かなかった事だ。
元々『法皇の緑』や『黄の節制』のスタンド能力を知るアヴドゥルや、類稀なる推理力と洞察力を持つビーティーと違い、吉良吉影には屋敷に現れた花京院が偽物であることに最後まで
気が付いていなかった。
せめて、アヴドゥルを撃つのがあと10秒遅ければ。
もしくはラバーソールが散弾を受けたのが頭部でなかったならば、結果は違っていたかもしれない。
そして当然、屋敷の離れに潜んでいた本物の花京院典明の存在も、知らぬままだ。
離れであるが故に火の手も届かず、吉良吉影は虐殺の現場に(吉良の犯行を見ていないとはいえ)生存者を残してしまったのだ。
(池に沈んでいるのはアヴドゥルか? 奴がこれを? いや、しかし奴には動機がない。
池と屋敷の間には、焼死体が一体。これだけやられていては判別などできない。
他の連中は? 全員、炎の中か? 全員死んだのか? 何人か逃げたのか?)
考えたところで答えは出ない。
そんな中、花京院ひとり残された空条邸に、ある乗り物が到着した。
遠くからでもわかる火の手を確認し、スピードを上げて駆けつけた救急車のようだった。
【D-5 空条邸の庭 / 一日目 午後】
【花京院典明】
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[状態]:腹部にダメージ(小)、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:
基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.空条邸で一体なにが起こった?
2.空条承太郎を追跡し、始末する。
3.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
4.
山岸由花子の話の内容、
アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。
※ラバーソールから名前、素顔、スタンド能力、ロワ開始からの行動を(無理やり)聞き出しました。
※空条邸は炎上し、崩壊中です。屋敷内を探ることは常識的に考えれば不可能です。
※空条邸の庭にジャイロの遺体(身元がわからないほどの火傷)、そのそばに空の猟銃と薬莢、池の中にアヴドゥルの遺体が放置されています。
★ ★
何者かに付けられている?
はっきりとした確信はないが、なんとなくそんな気がする。
バイクでの逃走を図った吉良吉影は、目的地に杜王町エリアを選んだ。
身体を休めるには慣れ親しんだ町並みが楽であろうという口実の他に、地下通路がほとんど通じていないというのが大きな理由だった。
ツェペリによれば、DIOも
カーズも
ワムウも、太陽の光に弱い。
そして承太郎も、彼らを標的としている以上は地下に通じる場所付近にいる可能性が高いだろう。
そう思い東へ進路を取った吉良吉影だったが、先ほどより背後から視線を感じるのだ。
(何者かわからんが、もし空条邸での出来事の目撃者ならば、今までの全てが水の泡だ。
始末せねばならない………)
急ハンドルを切り、路地裏に入る。
物陰に隠れ、追跡者の正体を探ろうとした。
だが、「影の中」はまずかった。この追跡者にとっては独擅場だ。
『おまえ…… 再点火、したな―――?』
「何ィ―――?」
吉良吉影の犯した2つ目のミス。
火種の選択肢を誤った。
「『キラー・クイ』………ッッ!!」
闇の中から現れた『ブラック・サバス』の弓と矢が、「キラー・クイーン」の掌を突き破った。
【E-7 杜王町エリア 路地裏 / 一日目 午後】
【吉良吉影】
[スタンド]:『キラー・クイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(大)、全身ダメージ(小)疲労(中)
[装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着)、
[道具]:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、川尻しのぶの右手首、
地下地図、紫外線照射装置、ランダム支給品2~3(ドルド、しのぶ)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.空条承太郎を殺す。
1.なんだこいつ(ブラック・サバス)は?
2.優勝を目指し、行動する。
3.自分の正体を知った者たちを優先的に始末したい。
4.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
5.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。
※不要な所持品は空条邸に置いてきました。炎に飲まれて全て燃えてしまいました。
※キラー・クイーンが弓と矢に貫かれました。どうなるかは今後の書き手にお任せします。
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最終更新:2015年03月22日 20:38