盲目の狙撃手―――ジョンガリ・Aは静かに佇んでいた。
彼の視線………いや、顔を向ける先には五人の男女。
ジョンガリ・Aは決していなくなったわけではなく、相手のスタンドの射程距離を予測してギリギリ射程外から付かず離れずで追っていた。
というのも、彼にはどうしても気になる人物がいたのだ。
自らが監視する五人組、その中でも特に背の高い青年―――ただし、その名前すらジョンガリ・Aにはわからなかったのだが。
ほとんど視力の無い彼であるが、スタンド能力で相手の外見についての判別はできる。
可能なのは相手の身長や体格程度………しかし、それ故に理解してしまったのだ。
青年のそれは、記憶の中にあった自らの主と『同一』の部分が多すぎるということを。
無論、隅から隅まで同じというわけではない―――首から上などは明らかな違いがあるし、なにより自身の主は太陽の下には出てこない。
よく似た別人という線も十分あり得る。
だが、ジョンガリ・Aは青年―――
ジョナサン・ジョースターの正体を知りたいという誘惑を払いのけられなかった。
もしかしたら、主と何か繋がりがあるのではないか………名簿を読めず、事情も知らぬ彼が一纏の望みを持つのは無理からぬことであった。
しかし、集団自体が敵か味方かもわからないこと、五人という大人数であること、数を減らそうにも残弾数の関係上無駄玉は使えないこと―――
そういった諸々の理由から彼らが別の参加者と遭遇するか、あるいは確実に仕留められそうなタイミングを待つ………
要するに状況が変化するまで監視し続けることを選択していたジョンガリ・Aだったが、意外にも先に状況が変化したのは彼自身の方だった。
第二放送の直前だったろうか、ジョンガリ・Aは『それ』に気付きすぐさま自身の背後へと狙いを定めた。
銃口の先、はるか上空にいたのは一羽の鳥。
首元にはスカーフ、頭には飾りつきの兜という、およそ鳥には似つかわしくない格好に彼は覚えがあった。
主の館の見張り役を務めており………おそらくは『しくじった』ハヤブサ。
一片たりとも油断はできなかった。
相手の凶暴さはよく知っていたし、なにより年月がたった今では向こうが自分を知り合いだと認識できるとは思えない。
だがそんな心配をよそに鳥は上空近くまで来ると『何か』を落とし、そのまま飛び去っていった。
やや離れた場所に落ちた後、ジョンガリ・Aの元まで歩いてきたそれは………一枚のトランプだった。
ジョンガリ・Aは風に飛ばされたトランプの位置を一枚残らず正確に把握できる能力の持ち主である。
いかに小さかろうが、いかに隠密行動をしようが、『空気の流れ』に関わる以上は認識が可能なのだ。
彼は瞬時に、落ちてきたトランプが『ずっと前から』会場のあちこちを動き回っていたのと同一のものだと理解した。
(何者かはわからないが、これまでの行為を考えても友好的でないことは確実………
接近してきた以上は先手を取って始末するべき………)
だが無言のまま引き金を引こうとした次の瞬間、あろうことかトランプは人間の言葉で喋りはじめ………
『あーっ、待った、待った、ジョンガリ・A………人違いじゃあないよな?………DIO様がお呼びだ』
「………………!!」
向けられていた銃は、一瞬のうちに下ろされた―――
#
第二放送の少し前、DIOは
カンノーロ・ムーロロというこの上ない『情報』を手に入れた。
だがそれにより、ペット・ショップは『ジョースター捜索命令』を実質お役御免となってしまったのだ。
変わりに命じられたのは伝言………というべきか。
―――ムーロロの情報によって残りの参加者のほぼ全員が把握できた中、DIOは残る部下であるジョンガリ・Aとコンタクトを取ることに決定した。
聞いた話では彼の外見は大きく変わっているようだが、それはおそらく『彼は相当な未来から来た』ということ。
今なおDIOへの忠誠心が残っているかはわからなかったが、うまくすれば戦力になるだけでなく『未来』の情報が手に入る可能性もあるのだ。
だがジョンガリ・Aの位置は微妙に遠く、他の参加者達もそれぞれが徒党を組み始めている以上、あまり時間をかけすぎると彼が戦闘に巻き込まれ命を落とす可能性もある。
そこで、伝言役となる『ウォッチタワー』のトランプを最も速く彼の元まで運ぶことが出来るペット・ショップが選ばれたというわけだ。
ペット・ショップ自身は正直この仕事に何の面白みも感じていなかったものの、DIO直々の命令となれば無視することもできない。
凶暴な性格とはいえ『戦ってはならない相手』は理解できるのだ―――
さて、特にトラブルもなく目的の人物の元へトランプを落とした(というよりもトランプの方から飛び降りていった)ペット・ショップ。
しばらく後、身につけるスカーフの中に潜むもう一枚のトランプから聞こえてきた声によれば、次の命令は―――
空条承太郎の捜索。
DIOは承太郎を自らの手で始末すると決めていたが、ひとつ問題が発生していた。
それは承太郎を見張らせていたトランプが気付かれて『始末』されてしまったこと。
元々ムーロロが探索に出しているのは赤スートの二十六枚、その内およそ四分の一は各地に散ったDIOの部下に持たせられていた。
地上と地下の区分もある以上、残りのカードで会場全体の参加者を把握するとなると、どうしても一方面に回せる枚数は少なくなる。
早い話トランプが始末されたことにより、ムーロロは一時的に承太郎を見失ってしまったのだ。
ムーロロにとって不運だったのは、この間承太郎が常に『乗り物』で移動していたこと。
『ウォッチタワー』が如何にスタンドといえど、本物のトランプを媒介にしている以上瞬間移動はできない。
トランプの移動速度では、乗り物に乗る承太郎を見つけても追いかけ続けることができないうえに、同乗して近づきすぎればまた『始末』されかねない。
この時点で、ムーロロが承太郎を監視し続けることは実質不可能となっていたのだ。
さらに言えば、ムーロロとしても他にやるべきことは山ほど存在するわけであり………
結果、ティムの馬で、そして救急車で知らないとはいえ甘くなった監視の隙間を縫うように承太郎は進んでいた。
一方DIOからすれば、承太郎の動向が全くわからないというのは警戒に値する状況であった。
その手に持つ『ジョースター家とそのルーツ』が彼の敗北を示している以上、油断はならない。
少なくとも居場所は掴んでおき………承太郎が徒党を組むようなら、戦力を削り取っておく必要がある。
ペット・ショップにはそのための『襲撃』も許可されていた。
再び行動を開始したペット・ショップであったが、承太郎が最後に目撃された位置まで飛んだものの周囲に彼の姿は無い。
おまけにスカーフの中にいるトランプからは謝罪の言葉と共にわからなくなった、である。
『マニック・デプレッション』の治療により疲労をほとんど忘れているため体力的には問題ないが、元々気が長い方ではないペット・ショップの精神面は荒れ狂っていた。
こんなことなら、妙な紙切れに頼るのでなく最初から自分だけで探せばよかった、と。
イライラは頂点に達し、トランプを引っ張り出して引き裂いてやろうかと思った矢先、視界にあるものが入ってくる。
―――それは、会場の一点から立ち上る煙であった。
#
一路空承邸へと向かう救急車の車内。
運転を女性二人にまかせ、後部に乗り込む男達はつかの間の休息を取っていた。
外で併走する
マウンテン・ティムを除けば六人。
走り始めてしばらく、すぐ襲い掛かる脅威は無いと判断した彼らは後方確認と左右の窓に一人ずつ、計三人まで見張りを減らし、残りは今後に備えてじっくりと体を休めていた。
特に、疲労が蓄積しているうえ碌に睡眠もとっていない康一などは死んだように眠りについている。
(承太郎さん………)
そんな彼らを順に治療する
東方仗助は、左の窓から様子を伺う承太郎を眺める。
表情は相も変らぬポーカーフェイスだったが、その目は明らかに自分が今まで見たことのない目であり………
今の空条承太郎が自分の全く知らない一面を現しているということを否応無く理解させられた。
(俺も、こんな風になってたかもしれねえ………アンジェロにじいちゃんを殺されたときに
髪型をけなされる以上にブチ切れて、家具どころか所構わず八つ当たりを繰り返すようなことに………
そうならずに済んだのは、あんたがかけてくれた言葉のおかげなんですよ、承太郎さん………)
あの時の言葉、『生命が終わったものはもう戻らない』………
理由があるとはいえ、他者の命を奪い続ける今の彼から同じ言葉を聞かされたとして、納得はできるだろうか?
………できるわけがない。
(俺が………いえ、俺達があんたを止めますよ………
あんたをこの殺し合いに乗ったクソッタレ野朗なんかと一緒にだなんて、絶対にさせやしません)
仗助が決意を固めたその時。
シュトロハイムと交代して右の窓から外を見張っていた
噴上裕也が首を傾げつつ声を発した。
「おい、妙だぜ………妙な『臭い』がしやがる………」
その言葉に起きている者全員が彼に注目する。
応えたのは承太郎。
「妙………何の『臭い』だ?」
「………間違いねえ、こいつはガソリンの『臭い』だ。それもかなりプンプン臭ってきやがる」
敵襲なのか、それとも別の問題なのか。
判断しかねた仗助はとりあえず思いついた可能性について口に出してみる。
「………この車のガソリンが漏れてるって事か? なら俺の『クレイジー・ダイヤモンド』で―――」
「そうじゃあねえ………この救急車じゃなく、ずっと先のほうから臭ってきやがるんだ………」
噴上の返答が終わるや否や、運転席側にいたエルメェスが叫び声を上げる。
「ヘイッ! 大変だ! 遠くで煙が上がってやがるッ………あれはたぶん、火事だッ!!」
「「「「!!?」」」」
「………スピード上げるみたいよ。寝てるやつは放り出されないよう、叩き起こしときなさい」
続く
シーラEの言葉を受け、慌てて後部の男達は眠る者を起こし始める。
―――休憩の時間は終わりだ。
#
「離してッ! お願いだからッ!!」
「バカ言ってんじゃあねえッ! どう考えても二次災害になるに決まってるだろうがッ!!」
燃え盛る空条邸の門前。
近くで救急車を降りて徒歩に切り替えた一行は、ここで意見が分かれていた。
―――『突入』すべきか否かで。
「中にいるやつが怪我してうごけねーなら、俺がなおしてやらなきゃならねえだろうがッ!」
「わかってるから落ち着けよバカ息子ッ! クソッ、どっかに消防車支給された奴はいねーのかッ!!?」
人数が多いとはいえ、残念ながら瞬時に火事をどうにかしてしまえる能力を持つ者はいない。
ならば、体を張ってでも中の様子を調べる必要があると主張する仗助や康一。
対して安全策を講じるべきであり、今は様子を見るべきだと主張するジョセフや噴上。
シュトロハイムが突入しようとする者を半ば力づくで押さえつけている間にも火の勢いは弱まることなく、屋敷を飲み込み続ける。
一方承太郎とティムは議論には加わらず、屋敷の庭や周囲など比較的火事の影響が少ない箇所を調べるため別行動を取っていた。
そして、同じく議論をよそに門の下でなにやらやっているのは女性二人………主にシーラE。
「エリィッ!」
彼女は『ヴードゥー・チャイルド』の拳で門の柱や、近くの地面を次々に殴りつける。
ひび割れて出来た裂け目はみるみるうちに能力で唇の形になり、喋りだしたのだが………
『……………は命……めるだけ………』 『………ン通勤……………と結構………じゃ………か』
『…………人数…多………………』 『…は今か…………踏み………………からそ………………ぶち…………もり…』
『………………京院………疑………な真似………しまった』 『……………………ラ、ピ……モ………レラ♪』
「………ダメね、火事の音が邪魔で碌に聞き取れたもんじゃないし
第一こんな入り口で重要な会話がされたなんて思えないわ」
「チッ、どっちにしてもこの火を何とかしないといけねーってワケか」
何らかの手がかりにならないかと思いスタンド能力を行使してはみたが、そもそも何を言っているか聞こえないのではどうしようもない。
ひとまず二人は結果を伝えるべく、未だ議論を続ける仲間の元へと戻る。
そこへ、屋敷の外をぐるりと一周して様子を見て来た承太郎達も帰ってきた。
「承太郎さん、あんたの意見を聞きましょうッ!!」
彼ならば、中を調べる良いアイディアのひとつやふたつ思いついているのではないかと期待を込めて仗助は呼びかける。
だが承太郎が発したのは………予想外の一言。
「………ここに来たのは完全な無駄足だった。すぐに出発するべきだ」
突入するでもなく、火事をどうにかするでもなく、『無視』するという意見。
驚かれるのは予想の範囲内だったらしく、当然のように承太郎は言葉を続ける。
「時間がもったいないから手短にいくが………重要な点は三つだ。
ひとつ、多少距離があったとはいえ、爆発音らしき音は誰も聞いていないこと。
ひとつ、噴上によればガソリンの臭いがしたこと。
ひとつ、すぐ駆けつけたにも関わらず、家の全体にほぼ満遍なく火の手が廻っていること………
どれをとっても、戦闘中に偶然引火して火事が発生したにしては不自然すぎる」
納得した者、いまいち理解しきれなかった者と反応は様々だったが………
仗助が結論を促す。
「ってことはまさか………」
「そうだ。出火原因は『放火』と見て間違いない」
言いつつ承太郎は歩き出し、他の皆も彼について行き次の言葉を待つ。
一分かそこらで承太郎は目的の場所に辿り着くと、そこにあったものを指して言った。
「納得できないって顔してる奴がいるな………仗助、これを『なおして』みろ」
「え、これって………いえ、わかったっス」
彼らの目の前にあったのは外壁隣に止めてあった、僅かに破損した自動車。
―――車が燃えるという話はテレビのニュースなどでよく聞くかもしれない。
だが車両火災の最も大きな原因はガソリンに引火することである。
それを除けば、自動車の外装はほぼ金属―――可燃性の部分も無くはないが、それでもごく一部。
すなわち、ガソリンタンクが丸ごと無い車はそう簡単に燃えたりなどしないのだ。
この車は1980年代の物とはいえ高級車であり、火災への安全対策も決しておざなりではなかった。
そして彼らの到着が比較的早かったため、犯人の思惑と裏腹に車はまだ『燃えていなかった』―――
「『クレイジー・ダイヤモンドッ』!!」
仗助は車の壊れた部分にスタンドの拳を叩きつける。
すると………なおされたことにより、屋敷内から焦げたガソリンタンクがブッ飛んできたッ!
ガソリンそのものは全て燃えつきていたものの、十分高温であろうそれを慌てて皆が避ける。
「見ての通り、ガソリンタンクだけが家の中にあった………これで十分だな?」
「………………」
犯人は車からガソリンタンクを持ち去り、屋敷内にガソリンを撒いて『放火』した―――一目瞭然、というよりそれ以外には考えられなかった。
ほとんどの者が押し黙る中、反論したのはティム。
「『原因』はわかったが、それとこれとは話が別だ。中に生存者が残されている可能性は―――」
「人間がどれだけの時間で焼け死ぬかは個人差があるだろうが―――」
「………!!?」
彼の言葉をさえぎり、突然承太郎は『星の白金』の指でティムの首を抑える。
シュトロハイムやシーラEは一瞬だけ身構えるも、他の者が見ているだけ―――承太郎を信用していることに気付き警戒を解いた。
「―――こうやって首をへし折るほうが、ずっと速い」
「―――!!」
その一言でティムも彼の言いたい事を理解した。
外の車までガソリンを取りに行き、屋敷に満遍なく撒いて火をつける………そんな暇があるなら生存者など簡単に始末してしまえる。
むしろ犯人からしてみれば逃げられる可能性を考えると、生かしておく選択肢など無い、ということ。
車を『壊して』タンクを取り出した以上、まさか犯人が人間一人殺せないほど非力というわけでもないだろう。
「つまり、この火災は誰かを焼き殺すためではなく『証拠隠滅』が目的ということだ。
後はこうやって集まってきた誰かの『足止め』も兼ねてるってところか………
いずれにせよ、中に生存者がいる可能性は限りなくゼロに近いだろうな」
ようやくティムの首から指をはずし、承太郎は結論を述べる。
そんな彼に次に口出ししてきたのは………康一だった。
「でも、それって………」
「そうだな、すべては『推測』に過ぎん………
ひょっとしたら誰かが火の中で動けず、必死に助けを待っている可能性も無いとは言い切れないだろう………
俺にお前たちを止める権利は無い、どうしても調べたいというのなら勝手にやれ。
だがその場合………俺は抜けさせてもらう」
「………なんで」
冷静な言葉………だが、康一にとっては『冷酷』に聞こえたのだろう。
康一の肩が震えだした次の瞬間、彼の口から堰を切ったように言葉が溢れ出てきた。
「なんでそんなこと言えるんですかッ!? 頭の中だけで完結して、行動も起こさずにッ!!
それに、ここって承太郎さんの家じゃあないんですかッ!? なんとも思わないんですかッ!!?」
「そう思うなら、今すぐ中に飛び込んでみればいい………言ったとおり、俺は止めやしない。
そしてここは世界のどこにもあるはずのない、デタラメな場所………建物も、似ているだけだ」
「………………!!」
まっすぐ康一の目を見ながら、淡々と承太郎は答えた。
睨み返すように彼の目を見返した康一は………一瞬、気圧される。
怒りなのか悲しみなのか、それらが混ざったものなのか、はたまたどれでもないのか………康一には判別できない感情がそこにあったのだから。
承太郎から視線を外した康一は最後の足掻きとばかりに『エコーズ』を出し、燃える屋敷に向かってありったけの声量で叫んだ。
「誰か、いませんかーーーッ!!? いたら返事してくださーーーいッ!!!」
『声』は屋敷内へと吸い込まれていき………それきりだった。
数秒待ち、反応がないのを確かめた承太郎はさっさと救急車を停めた場所へと引き返していく。
周りのものも、彼らにどう言葉をかけていいかわからず………ひとり、またひとりと承太郎の後を追い始めた。
「………康一」
最後まで残った康一の肩に、仗助がそっと手を置く。
彼もまた納得しきれてはいなかったが、それ以上に康一も承太郎もひとりで行かせてしまうわけにはいかなかった。
「どうしても家の中に行くってんなら俺も付き合うぜ………
そうじゃねえなら、こんなとこでボーっとしててもしょうがねーだろ?」
「仗助くん………」
仗助も………いや、おそらく全員が何も出来ない辛さを隠しているのだろう。
自分がこんなところで立ち止まり、彼らの歩みまで止めてしまうわけにはいかない………
そう考えた康一は結局………振り返りつつも、空条邸を後にした。
「さっきまで火の側にいたせいか、妙に寒く感じるわね………エルメェス、早くエンジンかけてよ」
「ちょっとまてシーラE………なんか、かかりにくいんだ」
もやもやする気持ちは残りながらも一行は救急車へと引き返していた。
最初に乗り込んだエルメェスは何度もキーをひねるが、うまくエンジンがかからない。
そんな運転席の後ろで、次々に男達も再び救急車へと乗り込む。
馬に乗るティムは別なので、六人全員が乗り込んだのを確認し、康一が後ろの扉を閉めた。
「ひい、ふう、みい………うん、全員乗ってるよ」
「あ……康一、後ろは閉めないほうがいいんじゃあ………」
「……ごめん、わがままになるけど今は―――」
外の様子を見たくない………続く言葉でなんとなく察した仗助も話題を変える。
「………まあいいか、それで承太郎さん、これからどうするんスか?」
話を振られた承太郎は窓の外へと向けていた視線を戻し、床に地図を広げる。
禁止エリアや各人の進んできたルートが細かく記されているそれを全員が覗き込んだところで承太郎の説明が始まった。
「………ここにいる全員の情報を合わせれば、地図の中央部付近と北方面、東方面はあらかた調査したことになる。
残りの方角は未知のエリアだが………正直行くべき場所の当ては無い。
それに問題はもうすぐ陽が沈むことだ………できればその前にDIOを見つけて、けりをつけておきたい。
だから―――おい、まだ動かないのか?」
話の途中、エンジンが未だにかからないのに気付いた承太郎は運転席へと呼びかける。
その後ろでは残った者達が議論の続き………というよりは話の中心にいた承太郎が抜けていたため、単なる会話をしていた。
だが………
「………にしても、なんか寒くねーッスか? 俺だけ?」
「ブァァァカ者がァアアア! 戦場では苛酷な環境での行軍もある! 少しばかり寒い程度でへこたれるなど、軍人の風上にも置けんわァアアア!!」
「軍人はアンタだけだろッ! ………けど、確かにちっと寒いな。エアコン入れっぱなしだったか?」
「噴上くん、エンジンかけないとエアコンは………」
「………………待て」
話の途中、突如承太郎が口を挟む。
明らかに口調が変わった彼に他の者も会話をやめてそちらを向き………次の瞬間、承太郎が叫んだ!
「………全員、急いで降りろッ! 俺たちは『嵌められた』ッ!!」
「!? は、はい………あれ?」
「どうした、康一ッ!?」
最も扉に近い位置にいた康一が驚きながらも彼の言葉に従おうとして、その動きを止める。
振り向いた彼は………悲痛な叫び声を上げたッ!!
「大変だッ! 扉が『開かない』ッ!!」
「「「「なッ!!!」」」」
「危なァ―――い! 上から襲って来るッ!!!」
外からティムの声が聞こえた次の瞬間、救急車の車体は押しつぶされていた―――
上空から降ってきた巨大な『氷塊』によって!!
#
油断していた―――はっきりそう言えるだろう。
数分前………空条承太郎は救急車の後側に乗るものの中では最初に乗り込み、窓際に座って考え事を始めた。
内容は勿論、空条邸の火事について。
庭の池で見つけた死体は………
モハメド・アヴドゥルのものだった。
やはり涙は出てこなかったが、構わない……今の自分には悲しみで泣いている時間などないのだから。
自分もよく知る彼のスタンド能力は炎を操ること………だがおそらく火事そのものには無関係だ。
彼は自分の意志でスタンドの炎を消してしまえたし、なによりガソリンの説明がつかない。
一方、庭に倒れていた誰かもわからない丸焦げの死体。
ティムはアヴドゥルがやったと考えていたようだが、あの死体の焦げ方には覚えがあった。
なにしろ自分も一度『そうなりかけた』のだから。
そして、このクソッタレな殺し合いの場では、どこそこに死体が転がっていようとなんら変哲のないことのはずなのだ。
にもかかわらず、証拠隠滅のためとはいえわざわざ目立つ火事を起こした以上、犯人はよほど自分の犯行を隠したかったということになる。
―――そんなことをしそうな奴の心当たりなど、ひとつしかなかった。
推測は一本の線となり、一人の人物が浮かんでくる。
………そう、話題に挙がることはなかったが、承太郎には犯人の目星がついていた。
犯人の偽装工作は決して下手なものではなかったが、アヴドゥルと犯人の両方をよく知る承太郎を騙すには至らなかったのだ。
(ムカつくが、奴はまんまと逃げおおせて今頃高笑いでもしてるってところか―――
吉良吉影ッ………!)
彼ならばこういう『処理』には相当慣れている………屋敷内に自分がいた証拠なんて残していないだろう。
また車を放置していった以上、それに代わる乗り物があったか、あるいは追跡が困難な逃走経路………例えば地下を使ったか。
いずれにせよ、まだ近くをウロウロしているなんてことは考えられない。
そしてシーラEのスタンド能力で犯人がわかったとしても逃げた方角まではおそらくわからないだろうから、火事が治まるまで待つのは時間の無駄だ。
だから承太郎はさっさと出発するべきだと提案したのだ………始末するべき敵は、彼だけではないのだから。
(………吉良、か。そういえば『彼女』は………)
次に思い浮かぶのは
川尻しのぶのこと。
時間的にはとっくに空条邸に辿り着いていただろうが、彼女が吉良相手にうまく立ち回れたとはとても思えない。
来ていなかったとしても、それはそれでトラブルに巻き込まれたということであり………どちらにしても、彼女の生存は絶望に近い。
『空条邸で待ってますからッ! 二時間でも、三時間でも……どれだけ待たされようとも待ってますからッ!』
………最後に聞いた彼女の言葉を思い出したとき、ふと承太郎の脳裏に燃え盛る空条邸の全景がよぎる。
頭の中で空条邸は次第に火が消え、焼け落ちた建物も元通りになり、玄関には『彼を待つ』母親が現れ………元の姿を取り戻していった。
(………………………)
窓から外を見る。
彼の目に映ったのは、相も変わらず炎に包まれる屋敷―――現実だけであった。
―――別に生涯全てをそこで暮らしたわけではない。
―――それに大事なのは建物そのものではなく『思い出』だ。
―――なにより『あれ』はよく似せたただの作り物………本物の家がこんな場所にあるはずがない。
そんな言い訳が浮かんでは消えていく。
だが結局、目の前で見た光景は否応無く彼の心にのしかかってきていたのだ。
空条承太郎は、生まれ育った『帰るべき家』も失ったのだと。
もう何度目かなど数えるのも忌まわしい、心にいくつもの空洞がポッカリと開いたような気分。
仗助達に説明する間、微かに感じる寒気もそんな空虚な思いが寒さとなって表れているのかもしれない………そう思っていた。
―――周りにいる者達も同様に寒さを訴え始めるまでは。
気付いて見れば自分らしくもない、感情に流されるという単純なミス。
如何に気分が沈んでいようと、炎の近くから移動して来ようと、そこまで体感温度に差が出るはずも無いのに。
だがもう遅い、後ろの扉が開かないのもエンジンがかからないのもおそらくは『敵』の仕業………寒いことを踏まえると『凍らされて』いるからか。
『敵』は自分達をこの救急車に閉じ込め、一網打尽にするつもりだろう。
「危なァ―――い! 上から襲って来るッ!!!」
聞こえてきたのはただひとり外にいたティムの声。
そして承太郎にとってはそれこそが欲しかった情報―――攻撃の来る方向さえわかれば、自動的に回避の方向も決定するのだから。
さすがに運転席側までは手が廻らないが、そちらはそちらでどうにかしてもらうほかないだろう。
「スタープラチナ ザ・ワールド」
瞬時に時を止める―――
「オラオラオラオラオラ―――ッ!!!」
ひとりひとり放り投げる暇などありはしない。
救急車内にいる者たちを次々に扉の方向へと『殴り飛ばすッ』!
間髪いれずに自分も扉へと跳び、足を踏み込むと同時にスタンドの拳を振りかぶるッ!!
「オラア――――――ッ!!」
手加減無しのラッシュを扉へと叩き込む。
扉は外に張られていた分厚い氷ごと吹っ飛んで行き―――再び時は動き出す。
殴られた者達が次々に風通しのよくなった救急車の後ろから外へと吹っ飛んでいく。
残りの動作は自分が車外へ飛び出ること、それのみだったが………
(………一足、遅かったか)
扉を確実に破壊するため、手前で一旦踏みとどまったのが仇となった。
承太郎の体は前へと倒れこむのが精一杯であり………
氷塊が、着弾した。
#
「ぐあっ!」 「うぎゃっ!」
「痛ッ!!」
「ヌグハァッ!!」 「ぶげっ!」
ありのまま、今起こったことを話せば『救急車に閉じ込められたと思ったら、いつのまにか宙を舞っていた』―――それが全員の正直な感想であった。
何がなんだかわからない中硬い地面に投げ出される瞬間、各自が反射的に受身を取ったり、スタンドでガードしたりとどうにか対応する。
そして転がる体が止まった時点で、彼らはようやく自分達が外にいることに気付く。
「皆、無事かッ!!?」
混乱する男達の元に走り寄ってきたのはマウンテン・ティム。
彼もまた自分が氷塊を避けるので精一杯であり、一旦馬を逃がしてから救急車へと戻ってきていたのだ。
その言葉を受けていち早く我にかえったシュトロハイムが声高く叫ぶ。
「ぬゥゥゥこれしきィィィイッ!! ティムッ! 敵はどこだッ!!?」
「敵は………『上』だッ!!」
瞬時に顔を上へ向ければ、見上げる先には一羽の鳥。
周囲に氷が浮かんでいることから見ても、おそらく先ほどの罠を仕掛けた犯人―――鳥だが―――なのは確実だろう。
「動物のスタンド使い………! どう見ても、話し合いでなんとかなりそうな雰囲気じゃあねえな………」
「おまけにあんな小細工を仕掛ける知能があるってことは、ネズミ並みに厄介そうな相手ってことッスよねぇーー!」
男達が次々に起き上がり鳥へと向き直る中、シュトロハイムは周囲を確認して気付く。
細かく数えずとも、一目でわかる事実がそこにはあった。
(………人数が足りん。車から脱出し損ねたか………?)
それでも仲間の半数以上がこの場にいるのは不幸中の幸いか。
多少戦力を分散させてもなんとかなると踏んだシュトロハイムは、指示を出した。
「JOJO、ジョースケッ! お前たちは救急車の方へ行けいッ!
フンガミは周囲の警戒だ! 敵があれだけとは限らんッ!
残りの者であの鳥公を仕留めるぞッ!!」
「「お、おうっ!」」 「任せろッ!」 「はいっ!」 「わかったっ!」
彼らは力強く返事をすると共に、自分の仕事を果たすべく駆け出す。
その様子を見下ろしながら、鳥―――ペット・ショップも攻撃を開始した。
溜まった鬱憤を晴らすべく、この場にいる者を『皆殺し』にするために。
#
「ええっと、いたのはシュトロハイムと康一と噴上とティムで―――足りねえのは………」
「姉ちゃん二人と承太郎のヤツだよッ!!」
「じょ、承太郎さんまでッ!!?」
親子二人は全速力で潰れた救急車へと走る。
その車体につきささる巨大な氷塊にあらためて驚愕しつつ………三人の姿を探す。
すぐに目に飛び込んできたのは、車の後部から上半身だけを覗かせる承太郎の姿だった。
仗助はすぐに彼の元へと駆け寄り、ジョセフは残り二人を探すべく氷塊の裏―――車の前へと走る。
「承太郎さんッ!!」
目立った出血は無さそうだが、見えない下半身側が無事かどうかなど不安要素は尽きない。
悲痛な叫び声に承太郎は視線だけを上げ………あくまでも冷静に喋り始めた。
「仗助か………致命傷ではないが、とっさに頭をかばって両腕が折れたようだ………すまんが自力では抜けられそうにない」
「そうなっちまったのって、俺たちのために………すぐ―――」
「オイ、仗助ッ! 大丈夫そうならこっち来てくれ! ヤバイ状況だッ!!」
会話の途中でジョセフの声が割り込んでくる。
ヤバイ状況―――そう聞いた仗助はほんの一瞬だけ迷い………
「スイマセン、ちょいとだけ我慢しててくださいッ!!」
「………………やれやれ、だ………」
一旦承太郎の元から離れ、前へと回る。
そこには完全に潰された運転席へ手を伸ばすジョセフと、さらに前方からふらつきながらも立って歩いてくるエルメェスの姿があった。
「エルメェスさん、無事ッスか!?」
「あ、あたしは平気だ………それよりシーラEが………」
―――氷塊が落ちてきたあの時、エルメェスとシーラEは咄嗟に両側のドアから外へと飛び出そうとしたのだが、周到なことにどちらのドアも凍らされており、開かなかった。
瞬時にドアが駄目と判断した二人はどうしたかというと、示し合わせるでもなく同時に『前』へ進もうとした―――すなわち、フロントガラス。
動かないわけではない、負傷者の手当てが先、といった理由で『なおされて』いなかった救急車のフロントガラスにはヒビが入ったまま―――割れやすい状態だったのだ。
二人は己のスタンドでガラスをブチ割り、飛び出そうとした………が、二人のスタンドの破壊力に差があったのと、氷塊が元々車の前方を狙っていたという事実。
結果、エルメェスはギリギリながらうまく脱出できたのに対し、シーラEは遅れてしまったのだ。
そして衝撃で吹き飛ばされ、起き上がったエルメェスの目に映ったのは………
助手席にて半身を押しつぶされた、ピクリとも動かない少女の姿だった―――
「うおおおおおおおおお!!」
「ドラァァ―――ッ!!!」
「………よし、今だッ!!」
それは正に瞬速の連携―――エルメェスが『キッス』で氷塊の一部を砕き、仗助がひしゃげた車体をなおして広げるッ!
そこに滑り込んだジョセフが慎重かつ迅速にシーラEの体を引っ張り出し、地面に横たえるッ!
すぐさま、ジョセフの波紋と仗助のスタンドによりシーラEの治療が開始されたッ!
「オイッ! シーラEは生きてんのか!? 助かるのかッ!!?」
「ええい、ちょっと黙ってやがれッ! 今死なねーように全力でやってんだろーがッ!!」
パニックを起こしかけているエルメェスの前で、ジョセフも仗助も必死だった。
どれだけ出血しているのか、まだ魂はつなぎとめられているのか………そんな複雑なことなど一切考えず、ただ全力で目の前の少女を生かそうとする。
ひょっとしたら手遅れだったのではないか、もう二度と彼女が目を覚ますことはないのではないか………不安が頭をよぎった瞬間。
シーラEの唇が、微かに動いた―――
「クラ……ねえ……さま………ジョル……………さ………ま………
………必…………カタ……キ………とる………………E………エリ……ン……ニ………」
目は閉じたまま、動く気配も無くなにやらブツブツつぶやいている。
治療する二人には何を言っているのかよくわからなかったが………確かなのは、彼女が死んでいないということだった。
「………こりゃ、自己暗示ってやつか? この嬢ちゃん、おっそろしく強い思いだけで生にしがみついてやがる………………ん?」
「グレート………若いのにスゲーぜ。
川尻早人みてーに、歳のわりにはスゲー精神力を持ってるじゃあねーか………………おっ?」
どうやら彼女は助かりそうである………その事実を確認し、ひとまず二人は安心する。
同時に後ろで見ていたエルメェスは………彼女の呟きをただ一人理解していた。
(カタキをとる………そうか、ようやくわかった………
シーラEがあたしとどこか似てると思ったのは、彼女も『復讐者』だから………)
『ねえさま』………言葉から察するに彼女もまた『姉』を殺されたのだろうか。
そして『必ずカタキをとる』ということは………復讐は、まだ果たされていない。
(だけど、二人? クラ……なんとかって名前は名簿に無かったはずだし、ジョルノは生きてるかもしれないって話があった………
なんとなく、なんとなくだが………そこもあたしの『覚悟』と少し似てるように感じる………
あの時―――放送で『
スポーツ・マックス』の名前が呼ばれたと知った時みたいに、宙ぶらりんに………)
と、そこまで考え今はそれどころではないことに気付く。
エルメェスは治療を続ける二人に声をかけるが………
「あたしはどうすりゃあいい?」
「「………………」」
「………? どうしたんだ、二人とも………」
二人とも手を休めてはいないものの、何故か放心状態で宙を眺めていた。
不思議に思うエルメェスも辺りを見回すが、誰かがいるわけでも攻撃を受けているわけでもない。
エルメェスがもう一度、今度は大声で呼ぶと二人もさすがに気付いたらしく、慌てて仗助が返事をしてきた。
「ヘイッ! 聞いてんのかッ!!? あたしの役目はなんだッ!?」
「え?………そ、それじゃあ後ろにいる承太郎さんの方、お願いできますか? ショージキ、こっちはまだ手が離せそうにないッスから」
「おう、わかったッ!!」
駆けて行くエルメェスを見送った直後。
どこか様子がおかしいながらも治療を続ける二人は互いに顔を見合わせ、呟きあう。
「なあ、ジジイ………」
「おめーもか、仗助………」
―――彼らの戦闘参加には、いましばらくの時間が必要そうであった。
#
「ぬゥゥ! この鳥公めが! 降りてこんかァァァ!!」
「いくらなんでも速すぎる! それにあの鳥、さっきから疲れを知らないのか!?」
一方、戦闘に入った者達は苦戦を強いられていた。
シュトロハイムの機関銃、康一のスタンド、そしてティムが構えるシュトロハイムから渡された銃―――上空の敵に攻撃できる手段は元々限られている。
しかも相手は数回の攻防でそれらを見切ったらしく、シュトロハイムの射線からはずれつつ単発攻撃である康一とティムの攻撃を巧みに避け、いくつもの氷のミサイルを降らせてきていた。
「左へ避けろ康一ィ!! シュトロハイムは二歩ほど前進だッ!」
「はい………危ない! はじけ『エコーズッ』!」
「ぬゥゥ! 撃ち落し損ねたかッ!!」
互いにフォローしあい敵の攻撃をかわし続けているものの、状況はまさに防戦一方………
それでも必死の抵抗で、今も救出や治療が行われているであろう救急車に敵を近づけさせることがないのは流石というべきか。
しばらくして、状況を打破するべく先に行動を起こしたのは鳥―――ペット・ショップの方だった。
上空で相手の射撃をかわした直後………氷のミサイルを放つと同時に急降下を行うッ!
―――ハヤブサは一説によれば『地球上で最速の生物』とも言われている。
だがその『最速』とは、水平飛行のことではない。
真にハヤブサが最速と言われているのは―――『降下速度』!
氷に気が行った相手に時速300kmを超える速度で迫り、
すれ違いざまに眼球を抉りとろうとする!
その狙いは―――シュトロハイム!
「ぬゥゥゥゥッ!!?」
シュトロハイムはすれ違いざまとはいえ輝彩滑刀の秘密を理解できる程の眼力を持つ。
………だが、それですぐさま目の前の事態に対応できるかは別であった。
彼の機関銃は氷のミサイルを撃ち落したもののペット・ショップ本体は捉えきれない!
腕を伸ばして迎撃しなければ、上体をひねってかわさなければ………そう考えるも、体は動いてくれなかった。
ただその表情だけが驚愕に染まり―――
「させるかよォ―――――ッ!! 『ハイウェイ・スターッ』!!」
―――ペット・ショップの攻撃は空を切っていた。
突如現れた新たなスタンド―――噴上裕也の『ハイウェイ・スター』が瞬間移動し、ペット・ショップを攻撃したのだ!
敵の軌道が逸れたことによりシュトロハイムは助かったのだが………
あざやかな奇襲だったにもかかわらず、ペット・ショップもまた驚異的な反応で攻撃を回避していた!
「噴上くんッ!」
「とりあえず、ちょっかいかけてきそーな奴は周りにゃいねーぜ。
しかし、やっぱおれがいねーとしまらねーなぁ? シュトロハイムさんよぉ~~!!」
「ぬかせッ! 先ほど単なる『紙』に動揺していた貴様に言われたくないわァァァ!」
「まったく、きみは相変わらずおいしいところを持っていくな………
思い返せば、タンクローリーの時もこの四人で戦ったんだったか………つくづく縁があるものだ」
―――HEROES初期メンバー、再集結。
ひとまず辺りの警戒を終えた噴上が、そして康一とティムもシュトロハイムを援護するべく集まってきていた。
再び上空を見上げ………羽ばたきながらこちらを睨みつける鳥の姿を確認する。
その周りに大量の氷柱が精製されていくのを見て四人は警戒するのだが………
「気をつけてッ! また氷が飛んでくるッ!!」
「わかって………ン!!?」
「………これはッ! オレたちの足元が『凍って』………」
「ぬうう!? おのれこのような小細工でェェェェ!!」
全員が驚愕する。
なんと、いつのまにか自分達の足元が凍りつき、移動ができなくなっていた!
ペット・ショップが先程行った急降下………攻撃自体は囮で、本当の目的は地面に接近して密かに凍りつかせ、足を封じることだったのだ!
彼らがどうにかしようとする間にも氷柱の数は増えていく―――防ぎきれないほどに。
それでも四人は必死に抵抗を試みる。
シュトロハイムは氷柱を可能な限り撃ち落とそうと機関銃を上に向けていた。
ティムは防御に徹するため武器をロープに持ち替えようとしていた。
康一はドジュウの音で足元の氷を溶かそうとしていた。
噴上はやられる前にやれとばかりにスタンドをペット・ショップ本体へと向かわせていた。
―――そして、ぺット・ショップはそれらのいずれも間に合わないと確信し、ニタリと笑った。
氷柱が、一斉に放たれる―――
「―――やれやれ 間に合ったぜ……」
―――かと思われた瞬間、ペット・ショップはナイフに囲まれていた。
「ギッ………!!?」
何故、いつの間に、どうやって?
思考がそのまま驚愕となって顔に表れると同時に、その身体はナイフに貫かれていた。
動きを止めたペット・ショップにすかさず『ハイウェイ・スター』が踊りかかり………一瞬で、その首をへし折る!
薄れ行く意識の中、落下しながらペット・ショップは理解した。
―――自分が相手にしていた者の中に、主と同じく『戦ってはならない相手』がいたのだと。
激闘の末にというにはあまりにもあっけなく……地獄の門番は、自分だけが地獄に落ちた。
#
氷柱が次々に落下していくのを見て、噴上はようやく一息ついた。
最初に気になったのはやはり、先ほどのナイフである。
「ありゃあ、一体………」
「承太郎さんだよ」
ふと気がつくと康一が側におり、彼の呟きに答えていた。
噴上の足元の氷を溶かしつつ、承太郎の能力をよく知らない彼に説明を行う。
「時間を止めて、あの鳥に向けてありったけのナイフを投げつけたんだと思う………たぶん」
「たぶんって………なんつーか、助かったのはいいけど、エグイっつーか………」
「そう言わないの。さっき救急車に閉じ込められたときだって承太郎さんが助けてくれたんだから………きっと」
「きっと!? まあ、確かにそれ以外考えられないけどよ………」
よくよく見れば確かに、刺さったナイフの中には仗助やシーラEが持っていたものが混ざっている。
おそらくは彼らの持っていた分も攻撃に使用したのだろう。
そして救急車の時も理解は出来ないがおそらくそうなのだろう、という奇妙な納得があった。
(あの人が味方で、ホントよかったぜ………)
気がついたら攻撃を受けている―――『時を止める』能力をあらためて恐ろしく思う。
自分たちが全く攻撃を当てられなかった相手を、即座に戦闘不能にまで追い込んでしまえる能力。
他人の言葉を借りるが、その能力の前にはハヤブサの超スピードでさえ『チャチな』ものになってしまうのだから。
(ん? そういや他の皆は………)
辺りを見渡す。
シュトロハイムとティムは救急車の前で残された巨大な氷塊を眺め、なにやら話し合っている。
そのすぐ近くではエルメェスが地面に横たわったシーラEを看病していた。
(………エルメェスさんが落ち着いてるって事は、ちゃんと生きてるってことだよな………
よかったぜ、おれたちは誰一人欠けちゃいねえ―――いや、ちょっと待て)
「………終わったよ噴上君、もう歩けるはず―――」
「サンキュー康一! すぐ戻るからここよろしくな!」
「―――え?」
そして、視界に目的のものを見つけられなかった噴上は康一に一声だけかけると、すぐさま走り出した。
救急車の残骸から少し離れた地点を三人の男―――東方仗助と
ジョセフ・ジョースター、そして空条承太郎が歩いている。
彼らはどういうわけか戦闘が終わっても一行の輪の中に入ろうとせず、それどころかまるでこっそり離脱するかのように移動していた。
噴上はそんな三人の後姿を見つけて追いつき、呼び止めようとする。
「オイオイ、そこのお三方? おれたち置いてどこ行こうってんだァ?」
「………噴上か。やっぱ、お前には見つかっちまうか」
「よう噴上ちゃん、全員無事だったか? 誰かケツの穴にツララを突っ込まれた奴とかいねーよな?」
「………怖えーこというんじゃねえ! 背筋にゾクっときただろーがッ!!」
応える彼らの口調には別段変わった様子などない。
だが話す間にも彼らは歩みを止めることはなく………戻る気がないことを噴上は理解する。
とはいえ理由も聞かずハイそうですかと引き返すわけにはいかなかった。
「ちょっとそこまで………って感じでもなさそーだし、遠出するんならオメーが救急車を直してくれれば―――」
「………悪りぃ、そういうわけにはいかねーんだ」
「………?」
訝しげな顔をする噴上に対して仗助は言う。
その表情はいつになく真剣なものに変わっていたが、対照的に言葉はどうも歯切れが悪かった。
「俺たちは、この先に行かなくちゃならねーんだ………そこに『誰か』がいる………と思う」
明らかに説明不足な、曖昧すぎる目的。
だがジョセフも、承太郎もその言葉を補足しようとはしなかった―――彼らも、現時点でそれ以上の説明は出来なかったのだから。
当然、噴上としては言いたいことが山ほどあった。
「………んなことがどうしてわかるのか、はひとまず置いといてだ。
なんでおれたちに黙って三人だけで行っちまおうとするんだよ?
シーラEは怪我したけど、看病には四人も必要ねーぜ」
「………言ったら、おまえたちが着いてきたがるからだ」
黙っていた承太郎が口を挟んでくる。
顔すら向けずに淡々と話していくが、その表情に変化がないことは他の者にもよくわかった。
そして彼は、冷徹ともいえる言葉を発する。
「あんな鳥一羽にてこずるような奴らは必要ない。かえって足手まといだ」
「………オイ空条さんよォ~~、今のはさすがにムカッときたぜぇ?
アンタに助けられたっつーのは認めるけどよ、おれたちの戦いっぷりを見てなかったわけじゃあねえだろう?
本気でそういってんなら………さっきの鳥のスタンドの十倍は冷てー男に思われちまうぞ」
バッサリと切り捨てられたことに不満を感じた噴上は反論する。
だがそれでも、承太郎は彼のほうを見ようともしなかった。
代わってフォローするのはジョセフ。
「あー、気にすんなよ噴上、コイツ照れてるだけだからさ………
さっきナイフ投げたときだって『あいつらは本当に頼りになるやつらだ、そしてやれやれ間に合ったぜ』って言ってたくらいだからな」
「………おいジジイ、承太郎さんはそんなこと一言も言ってなかっただろーが」
「………………」
ツッコむ仗助と、付き合いきれないとばかりに沈黙する承太郎。
本当に噴上達を足手まといと考えているのか、それとも危険なことに巻き込まないために遠ざけようとしているのか………判別はできなかった。
ややあって、承太郎は先ほどの寸劇など無かったかのように話の続きを始める。
「………あの鳥を仕留めるきっかけとなったナイフ………俺がやったことだが………
あれはかつて、俺が『ある敵』にやられたことを再現したものだ………軽く、だがな」
「『ある敵』?………まさか」
「俺たちが向かう先には、おそらくその敵がいる」
「………………DIO!!?」
ゴクリ、と噴上は唾を飲み込む………彼は先ほど承太郎の能力を目の当たりにし『味方でよかった』と考えたばかりである。
あの鳥さえも驚愕させた、どうやっても回避できそうにない攻撃。
彼らについていく場合、同じ………いや、承太郎の言葉によればそれ以上の攻撃を自分が受けることになるかもしれない。
目の前にいる彼がどのようにしてその攻撃を生き延びたのかはわからないが、果たして自分の力であれをどうにかできるだろうか?
―――少なくとも噴上には、自分が生き延びるイメージがまったく思い浮かばなかった。
「奴は掛け値なしに『強い』………有象無象が束になってかかろうが、死体が増えるだけだ………
それに奴は圧倒的な力を持つだけでなく、人間の弱い部分につけこんでくる………
いまのお前のように『恐怖』など見せようものなら、それだけで終わりだ………
だからはっきり言わせてもらう―――『来るな』噴上…お前では生き残れない」
最後の言葉で噴上は無意識のうちに下アゴへ指が伸びていたことに気付き、自分が『恐怖』した―――言い負かされたのだと、理解してしまう。
だが、それでもまだ納得はできなかった。
「仗助ッ! オメーは………ジョースターさんもだ! 二人はなんで空条さんに着いていけるんだよッ!?
………怖くないのかよッ!!?」
「………そうだな、まったくもって怖くないっていやあ、嘘になるけどよ………」
頭に手を当て、よく似たポーズで親子はそれぞれ考えて返答する。
だが、その内容は………
「今の承太郎さんを放ってはおけねーし………何よりシーラEをなおしてる時に『呼ばれた』気がするんだよ。
俺の中の何かが言ってるんだ―――『今』『そこ』に行かなくてはならない―――ってな」
「おれもだいたいそんな感じだな。これから会う奴は、おれが産まれた時から会うことが決まってた………
たとえここで行かなくたって、巡り巡っていつか会うことになる………そんな奴だ。
うまく言えねーが………おれはそれを『知っていた』」
正直言って、噴上には全く理解できなかった。
二人の言葉は、ほとんど何の説明にもなっていなかったのだから。
「………なんだよそりゃ………………何いってんのかさっぱりわからねえぜ!!?」
「だろうな、俺だってよくわかんねー………けど、ここで引いちまったらたぶん、一生後悔することになりそうな気がする………そう思えてならねーんだ」
その答えに噴上は次の言葉をなくしてしまった。
自分と彼らの間には何か見えない、決定的な『壁』があるのだと。
そして承太郎が二人が着いてくることを黙認しているのは、二人もまた『壁』の向こう側の人間ということを彼は知っているから………
他者の立ち入りを許さない、彼らだけの事情のために三人は進んでいくのだと理解させられた。
「おめーも康一達も、誰一人足手まといだなんて思ってねえ………けど、こればっかりは巻き込むわけにはいかねーんだ………
用事が済んだら第四放送までにはもう一度空条邸に戻ってくる………みんなにもそう伝えといてくれや」
「………………」
それだけ言うと仗助は正面に向きなおる。
これ以上は会話を続ける気がないと悟った噴上も不必要に食い下がりはせず、彼らにくるりと背を向けた。
自分がどうするにせよ、彼らのことを他の皆に伝えないわけにはいかないのだから。
去り際に噴上は服のポケットに手を入れ、そこにあるものを確かめる。
一枚のトランプ―――先ほどの鳥がつけていたスカーフの中にあったもの。
絵柄はハートの4………『命』に『死(四)』をもたらすという見敵必殺を体現したペット・ショップへの暗示であろうか。
承太郎から話を聞いていた噴上自身が真っ二つに破ったそれは、おそらく彼らの向かう先にいる者と無関係ではない存在。
………彼の嗅覚はそれに染み付いた『臭い』もまた、しっかりと嗅ぎ取っていた―――
【ペット・ショップ 死亡】
【残り 39人】
【D-4 中央部 / 1日目 午後】
【『ジョジョ』トリオ】
【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:健康
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、
基本支給品×3、不明支給品3~6(全未確認/
アダムス、ジョセフ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。
1.自分の感覚が示す先へ向かう。
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる。
【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済、波紋治療中)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
1.自分の感覚が示す先へ向かう。
2. 承太郎さん…
3. 第四放送までには一度空条邸に戻る。
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:痛み(大)と違和感、疲労(小)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃(6/6 予備弾薬残り6発)
[道具]:基本支給品、
スティーリー・ダンの首輪、ランダム支給品2~5(承太郎+
犬好きの子供+
織笠花恵/確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.…。
1.自分の感覚が示す先へ向かう。
※氷塊に押しつぶされた傷は歩きながら仗助が治療し、痛みはジョセフが波紋でやわらげています。
※空条邸の火事の犯人は吉良吉影と考えていますが、確証は無いため誰にも話していません。
【備考】
- 三人はアザの感覚に従いD-2サン・ジョルジョ・マジョーレ教会に向かっています。
また、三人はそこにDIOがいると考えています。
【D-5 空条邸付近 / 1日目 午後】
【
ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOと
カーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、
ドルドのライフル(5/5、予備弾薬15発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
0.柱の男だけが脅威ではないのか…?
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:貧血気味、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水ボトル1/3消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.色々考える事はありそうだけど…まず空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.仲間たちと共に戦うため『成長』したい。
3.協力者を集める。
【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)、破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
1.仲間のところに戻り、仗助達の行動について伝える。
2.1の後仗助達を追うか、それとも自分達で独自に行動するか考える。
3.協力者を集める。
※トランプからカンノーロ・ムーロロの臭いを覚えました。
臭いを追跡して彼の元へ行けるかもしれません。
【
エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.シーラEが目を覚ますまで守る。
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.
F・F…おまえなのか?
※ジョセフから余っていた基本支給品を貰いました。
【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミー』
[時間軸]:
ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:
ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.協力者を探す。
※自分の能力+承太郎の能力で首輪が外せないか?と考えています。ただ万一の事があるのでまだ試す気にはなっていません。
【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:気絶中、痛み(極大)、貧血、精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1~2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.気絶中。
1.空条邸の火事をどうにかして、何があったかを調べたい。
2.このまま皆で一緒にいれば、ジョルノ様に会えるかも?
※ジョセフと仗助により傷自体は完璧に治されたため、このまま死んだりはしません。
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
【備考】
- D-5空条邸付近にペット・ショップの死体が大量の氷柱と共に放置されています。
死体には
ドノヴァンのナイフ、
家出少女のジャックナイフ、DIOの投げナイフ×4、ナランチャの飛び出しナイフが刺さっています。
- D-5空条邸付近に巨大な氷塊で押しつぶされた救急車があります。
仗助によって一部は直されましたが、動くような状態ではありません。
- 『オール・アロング・ウォッチタワー』のハートの4が破かれました。スタンドとしてはもう使えません。
#
噴上裕也の嗅覚は猟犬ほど……あるいはそれ以上かもしれないが、彼はひとつ見落としていた―――やや離れた場所から、仗助たちを密かに追跡する者の存在を。
その人物の臭いも噴上は嗅ぎ取っていたものの、彼らがいたのはまだ空条邸の近く………屋敷はもちろん、人が焼ける臭いも充満している『鼻が利きにくい』場所である。
さらに屋敷内にいた者は全員噴上の知らない人間であったため、彼に個人の判別は不可能であった。
そのため、屋敷で嗅いだ臭いがなんとなく漂ってきている気がするという認識しかなく、まさか誰かがこっそり追跡してきているとは夢にも思わなかったのだ。
―――追跡者の正体は
花京院典明。
空条邸の火事で『犯人』を除けば唯一生き残った者である。
先ほど彼は駆けつけた救急車から捜しつづけていた承太郎が出てくるのを発見し………
「くそっ、人数が多すぎる………」
………こっそり毒づいた。
遠目に確認した相手は実に九人、しかもスタンド能力すら全くわからない者が大半。
いくらなんでも手の打ちようがない―――彼はペット・ショップのように、人数差を気にせず挑むようなことは出来なかった。
戦力差を悟った花京院は次にどうしたかというと………空条邸の裏に回り、逃げ出していた。
相手に探知の能力を持つものがいたりすれば、確実に存在はバレる。
ラバーソールがいない以上、先ほどアヴドゥルを欺いた手も使えない。
最後に残った手札、『自分がジョースターの仲間になった』ことを温存するためにも、まだ見つかるわけにはいかなかったのだ。
結果だけ見れば、その判断は致命的なミスだったと言えよう。
その場を離れてしまったことにより、彼は数分後にあった『怪我をして動けない承太郎が一人きりになる』というこれ以上無いほどの好機を逃したのだから。
とはいえそんなことは露知らず、花京院は誰も追ってこないことから発見されずに済み、自分以上の探知能力を持つ者はいないと判断。
続いて巨大な氷塊の落下を確認して現場付近に様子を見に戻り………彼は見た。
たった三人だけで歩く承太郎たちを―――
(三人………冷静に考えろ、どうにも出来ぬ訳ではない………)
そして現在―――花京院は悩みに悩んでいた。
先程彼らに仲間の男が寄ってきていたが、すぐに離れていった。
だがそのうち男が残りの者も引き連れて、承太郎たちと合流してしまうかもしれない………そうなる前に行動すべきではないのか。
(向こうは三人………わたしは………わたしは………)
だが一方で、戦力の問題もある。
九人に比べればマシとはいえそれでも相手は三人、しかも承太郎を含めてだ。
発見されていないというアドバンテージはあるが、戦闘になれば圧倒的に不利なのは確実であろう………『戦闘になれば』だが。
すぐ動くべきか、策を講じるべきか………そして花京院の心には、現状の打破以上に大きく燃え上がる感情があった。
(何故、こんなにも近くにいるのに、指をくわえて見ていることしかできない………?
何故、わたしは一人きりなのに、ヤツには仲間がいる………?
何故、ヤツはたかだか数時間で何人もの仲間と合流することができた………?
何故、わたしは今の今までDIO様の足跡すら掴むことができない………?
何故、なぜ、ナゼ――――――)
心の底から次々に湧き上がるそれは『寂しさ』か、はたまた『嫉妬』か。
いずれにせよ、彼の感情は『肉の芽』によってドス黒く塗り替えられ………決してプラスの感情に変わることなどなかった。
そんな花京院の元にトランプは………姿を見せない。
彼を信用できる確証が無いのか、それとも別の理由でもあるのか。
とにもかくにも花京院典明は、ひとりぼっちだった。
【D-4 南部 / 1日目 午後】
【花京院典明】
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[状態]:腹部にダメージ(小)、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.空条承太郎を始末するため、どうすべきか考えつつ彼らを追跡する。
2.空条邸で一体なにが起こった?
3.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
4.
山岸由花子の話の内容、
アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。
※ラバーソールから名前、素顔、スタンド能力、ロワ開始からの行動を(無理やり)聞き出しました。
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全身のダメージは未だ治っていないが、一瞬ならば忘れられる。
ライフルを固定する『骨』は勿論、『筋肉』にすら余分な動きは一切ない。
心理面における問題点は皆無………ストレスを感じるどころか、あるのは真逆の感情ばかり。
付近の気流も特に異常は見られず、穏やかだ。
状態は万全とは言い難いが、問題ないレベルである。
………狙撃を行うには。
―――トランプの案内は実に適切だった。
ジョンガリ・A自身も気流を読むことにより他の参加者との接触を避け、最短ルートで目的地へと走る。
結果、盲目とは思えないほど短時間で彼はサン・ジョルジョ・マジョーレ教会へと辿り着いていた。
はやる気持ちを抑え、地下へと通された彼は………遂に、かつて失ったはずの主と『再会』を果たす。
まぎれもないDIOが自分のことを忘れず、わざわざ呼びつけてくれたことは彼にとって何事にも変え難い至上の喜びであった。
すぐに自らの持つ情報や道具をさらけ出し………質問に答えていく。
一通りの情報交換が済んだ後、彼は新たな命令を受けた。
「―――かしこまりました。それではわたしは『番人』としてDIO様をお守り致します」
―――命じられたのは地上にある教会の門番役。
当然、ジョンガリ・Aは二つ返事でそれを引き受ける。
(あの鳥も、
ヴァニラ・アイスも結局はDIO様をお守りできなかった無能………
そんな連中など小間使いのようにあちらこちらを走り回っていればいい………
オレがDIO様から最も近しい位置に置かれるのは当然だ)
ジョンガリ・AはDIO配下の中では、最も『未来』から来た者。
それ故他の者が『敗れた』ことも当然知っており、彼は他の部下達を全く信用していなかった。
「DIO様、ひとつ質問することをお許しください―――」
出発間際、彼はDIOに対して知りたいことを問う。
内容は他ならぬ、先ほど遭遇したDIOとそっくりの青年について。
「ジョースター………? 奴は憎むべき血統の一員だったとおっしゃられるのですか!?
そうとわかっていれば、彼のものの首を手土産に致しましたのに―――」
予想外の返答が返ってきたことにいささか驚くも、疑ったりはせずに彼は下がる。
自分の主にはそういう部分―――不可思議というか、気まぐれというか―――があることはよく知っているのだから。
最後に、彼はひとつの指示を受けた。
「奴が来たら黙って通せ、とおっしゃられますか………
いえ、それがDIO様の御意志ならば、不満などあろうはずがございません………
では、そのようにいたします―――」
―――そして、今に至る。
通すよう指示した者以外は容赦なく撃て、と命じられたジョンガリ・Aは位置に着き、待ち続けていた。
(………派手にやっているようだ)
とはいえ彼も、何もせずじっとしているほど怠惰な男ではない。
『マンハッタン・トランスファー』を高所に出し空気の流れを見張っていた彼は、遠くで空気の流れが大きく動くのを読み取る。
「局地的な上昇気流、無数の細かい塵が舞っている………火災と判断。付近に何人かいるようだが………」
熱せられた空気が上昇する―――そのせいでスタンドが降りてくれず、地上にいるものの詳細がわからない。
とりあえず、炎自体は距離的に自分達のいる教会まで届きようがないことを確認してからしばらくして………
火災の近辺でまたもや異常が発生したことを読み取る。
「巨大質量を持つ何かが落下、空中に鳥を確認………そうなると落下したのはスタンドの氷か。
援護の必要は無し………勝手にやっていればいい」
正確とまではいかないが、おおまかに何が起きているのか把握した彼はスタンドを戻し、教会入り口へと注意を移す。
先ほどヴァニラ・アイスが二人と一匹の同行者を連れ、教会の中へと入っていった。
同行者はヴァニラが始末するとのことなので自分の役目は変わらず、外部から教会へ侵入しようとする者の狙撃ということになる。
(誰であろうが関係ない………我が主に仇なす者は、確実に仕留めるッ!)
サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の最も高いところ―――鐘楼の中で、狙撃手は標的を待ち続けていた………
空条承太郎、花京院典明、そしてジョンガリ・A。
それぞれ理由は異なれど、この三人は元々信頼できる者のみを頼りにし、近くの他人を信じきれていないという部分で共通していた。
そういった者は得てして孤独な存在になりやすいものだが、彼らの周囲はまさに三者三様―――
信頼できる者すら拒絶してなお、孤独にはならぬ承太郎。
信頼できる者に拾われることで、孤独から脱したジョンガリ。
そして信頼できる者を見つけられず、未だ孤独な花京院。
彼らの行く末がどうなるかは―――おそらくはこれも三者三様であろうが―――まだ誰も知らない。
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 鐘楼 / 1日目 午後】
【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:肉体ダメージ(小~中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(30/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済み/
タルカスのもの)、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のダイヤのA
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
1.教会入り口を見張り、侵入者を狙撃する。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
※DIOと情報交換を行いました。
※ランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれません。
またDIOもジョンガリ・Aに支給品を渡している可能性があります。
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の入り口を通る参加者を狙撃するよう命じられました。
ただしDIOが『許可』した者は黙って通します。
現在DIO、DIOの部下達とその同行者、そしてジョナサン・ジョースターは『許可』されています。
他に誰が『許可』されているかは後の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2015年04月29日 10:02