ん……?珍しいね、君らの方から『あんたの話を聞きたい』と俺に言ってくるのは。
よしよし。せっかくだから良い話を持って来よう、座ってちょっと待っ――
え?何もう聞きたいところ決まってるの?
前置きもいらない?
さっさと聞かせろ?
……なんだかなあ。君らも分かってるようで何も分かってない。
まあ、そういうリクエストなら仕方ない。
君らの依頼通り、今回登場するのは……え、そういうのもナシでいいの?
チェッ、わかったよ、じゃあ始めるよ――
○○○
DIOを探して、文字通り路頭に迷っていた
セッコがこちらを発見してきたことは幸運だった、としか言いようがない。
先程の
チョコラータ、
ホル・ホース殺害の件を見るに直接『やあ、コンニチワ』と接触して刺激を与えるようなリスクは避けたかったのだから。
チラチラと視界に入るか入らないかのところを何往復もするのは骨が折れたが……
「ッ!なんだテメェ!俺の事ジビカしようとしてたなッ!」
……ジビカ?……耳鼻科か?……ああ、ビコウ(鼻腔、つまり尾行)って言いたかったんだな、と理解するのは目の前に座っているガキの方が早かった。どうでもいいが。
そう、この一言をどれだけ待ったか。しかしそんな愚痴を誰にこぼしても仕方ないのでとりあえず返事をする。
「ス、スマネェ!あんたの事を探してたんダヨ!気を悪くしないでクレッ」
この答えはウソ。俺は、自分以上にこのセッコが頭の切れる人間などではないと思っている。正直言って小バカにしている。
「ハァ?なんで俺がお前に探されなきゃあならねーんだ!敵かッ!?」
「おっ落ち着ケッテ!俺はDIO様からあんたを、セッコという男を探すようにと仕事をもらったんダ!」
これもウソ。俺にとって情報以上に大切なものなど何もない。情報のためならクソ野郎相手に腰を低くしたって全然心など痛まないし、だいたいDIOに『様』をつけるほど敬意など感じたことはないのだ。
……と、言い過ぎた。仕事を頼まれたこと自体は本当だし、自分の本質を見抜かれたという点では『この人にゃあ敵わない』と思っている。
「DIOが!?ホントかそれッ?今DIOはどこにいるんだ?俺怒られないかなァ~~」
カードをつまみ上げながらセッコが顔を歪める。そう、今こいつはDIOに怒られないことだけを優先に動いている。
となれば次の台詞も決まってくる。
「落ち着けよセッコ。DIOはお前の事怒ってないし、どうも『取り込み中』みたいなんだ。とにかく歩こうゼ」
徐々に口調もタメ口に近づける。立場はどちらが上かをハッキリとさせなきゃあならない。俺が『下』ではないがな。
「取り込み中、ってどういう事だよォ」
――歩きながらセッコに事情をかいつまんで説明する。
とは言えコイツの頭でどのくらい理解できるかも分からないし、だからと言って『ホントは内緒なんだけどよぉ』と重要なワードを漏らす気もない。
とりあえず、
『DIOは古い知り合いと会って昔の話をしてる』
『だから今お前が会うことはできないし、そっちの方がむしろ怒られる』
『お前がなかなか帰ってこないことは怒ってないけど、代わりにお前が見たことややったことを教えてやれよ(俺の能力で既に知ってるが)』
程度のことを説明してやった。
そして――
「とりあえず“俺”と合流しないか?俺ってのは本体の事ダケド……」
「あ、ああその方がDIOにも会える気がするッ!」
「もちろん俺もDIO様の事情を酌んで今は少し離れてるんだがな――お前はそのまま『東』に歩き続けてればいい。
大体の方向は俺が誘導してやるよ、カード離してくれ」
「おうっ、頼んだぜ!」
○○○
『亀』をデイパックの中に仕舞い込んでいる以上、俺にはその中でどんな会話が行われているかわからない。
無論、聞く気もない。俺には俺のやるべきことがある。会話の内容なんかはその後にゆっくりと聞けばいいだけの話だ。
歩き続けることにも苦労はなかった。『疲れたから歩くの代わってくれよ』という事など考えすらしなかった。
これは目の前を先導する何枚かのカードが貢献しているという事は十分に理解している。
敵に、というより全ての参加者に遭遇することなく、且つ、最短最速で疲労が少ないルートを選出しているのだろう。
「なァ――」
呼び掛けられる。
しかし無視。今に始まった事じゃあない。
「まァだダンマリかよ。イイコト教えてやっから聞けよォ」
声の主は右手の刀、アヌビス神。
何だかんだで長い付き合いになってしまったが、だからと言って仲良しこよしという間柄でもない。
ゆえに無視。
「俺ってばホラ、スタンドだろ?だからスタンド同士の会話にも参加できるわけなんだけどよォ」
この話題も何度か出てきた。動物と話せるだとかそういう話題が。
「それで今トランプ野郎の声をチョロッと聞いちゃったんだけどよォ」
「……」
「今あいつら――」
「……黙ってろ、放り捨てて行ってもいいんだ、俺はな。」
無視してても話し続けるのでピシャリと話を遮る。
そして捨てるという単語に異常なまでに反応を示す刀。
「ヒッ、そ、そそそれは勘弁してくれよ!ほら俺ってばDIO様が気に入ってくれたスタンド刀でもあるんだぜ!?それを捨てたら――」
「捨てたらなんだ、俺は俺だ。DIOから仕事をもらいはしたが、お前を持って歩き続けてろとは一言も言われなかったぞ」
「げ、ま、マジかよ!でも俺がいなければさっきの二人だって切れなかったんだしソレをおま、まっ、待って振りかぶらないで!ごめんなさいイィ~!」
……ふう、と小さく溜め息をついて右手を下ろす。
確かに先の棺桶の中にいた二人。あれを殺す際に役立ったとはいえ、こんなやかましいなら最初に
虹村形兆あたりに押し付けていくんだった。
ともあれ、こうなってしまったのもは仕方ない。もう一度だけ、二度と喋るなと念を押し、俺は再びカードの後をついて歩き出す。
○○○
ドアノブに手が触れた際のわずかな金属音だけで
プロシュートは意識を覚醒させた。身体を起こして来訪者を待つ。
ゆっくりと開いた扉からおずおずと千帆が顔をのぞかせた。
「あの――プロシュートさん?」
「何かあったか?」
本来なら『アラ起こしちゃった?』とか『今起きたところだよ』とかいうやり取りがあるのだろう。
しかしその“本来”とはあくまで平凡な日常の中を指す言葉だ。ここには不適切。挨拶もそこそこに、どころか、全くなしに本題に入るプロシュート。
一方で千帆は一応とは言っても挨拶だけはしておく。
「え、ええ。あ――あの、おはようございます。
それで……今私たちの家を誰かが覗いてたみたいで。リビングの窓から」
ただ起こされただけだと思っていたプロシュートが眉を僅かに持ち上げる。そして、それを見逃す千帆ではない。
「ごっごめんなさい!本当は捕まえたりとかその、そういう事まで気が回ればよかったんですけど私まったく気が付かなくて――」
「いや、覗いてた“みたい”と気付いただけで十分だ。捕まえるのは別の話になる。
それで、その覗いてた……みたいな、そいつはどんな奴だった?大きさ。形。色。数……」
謝罪を遮るように自分の考えを述べ、そのまま千帆に疑問を投げかける。
「えっ、えと……覗いてたもの、それ自体は直接は見えなかったんです。ごめんなさい……
でもそんなに大きくなかった感じもします。人が頭だけちょっとだして覗いていたような――その、なんだか小人のような……
数も多くは無くて、むしろ一人だけ、みたいに感じました」
しどろもどろしながら千帆が答えを返す。
その中の『小人』という単語にプロシュートはピクリと反応した――今度は表情に現さなかったが。
その反応が、思い当たる相手を想像したのか、それともかつてのチームメイトを連想させたのか、そんな事は千帆にはわからないし、反応したことにさえ気付いていなかったもしれない。
――そう、プロシュートは千帆に対して『スタンド』の説明を一切行っていない。
もちろん、先ほどの鼠との戦闘やら
ジョニィ・ジョースターとの会話やらで、『どうも自分の知らない超常現象があるのだろう』くらいには千帆も察している。
あるいはジョニィからその能力の総称を『スタンド』といい、もしかしたら彼自身のスタンド能力くらいは教えてもらったかもしれない。
だがそれ以上の事は千帆には必要ではない。そう判断したプロシュートは何も語らず、千帆もまた、何も聞かなかった。
数瞬でそんな思考に整理をつけるプロシュート。千帆に言葉を挟ませる前に口を開く。
「なら話は早い。出発だ。迎え撃つにせよ逃亡するにせよ、見つかった場所にいつまでも引きこもってる訳にはいかないからな」
「はっ、はい!」
返事がすぐに帰ってきたことにプロシュートは少しだけ安堵する。ここでグズるような奴ではないとは前々から思っていたが、改めて確信できるに越した事はない。
カツカツと(もちろんこの時点で“ガス”を消しながら)歩みを進め、千帆の脇をすり抜けてリビングへ出る。
カサッ
「あっあのすみません私いろいろ考え事しててメモとかその――」
「構わねえさ、考察なり何なりしろっつったのは俺だからな。
……先に出てる。ちゃっちゃと準備して追ってきな」
「ハッハイッ!」
乾いた音の正体であり、床を埋め尽くさんばかりに散らかった紙束にプロシュートは特に関心を示さなかった。
小説家志望だと言っていたし、その観察眼と素人ながらの鋭さは十分知っている。
慌ててしゃがみこんでガサガサと紙をかき集め、時折トントンとそれらを整理する千帆。彼女に少々の気を遣いながらサッと玄関先まで出てしまうプロシュート。
――ここで振り返って紙の回収を手伝うのはなんだか味気ない。
『マンモーナ』にはさっさと保護者離れしてもらいたいものだし、振り返ってしまえば自分自身がその辺のナンパ道路や仲よしクラブで屯してる連中と同様になってしまう気がしたのだ。
そんな彼の些細な葛藤の合間。次第に音が『カサカサ』から『ゴソゴソ』になってきた。カバンに物を詰め込んでいるのだろう。
ちらりと腕時計に目をやると、千帆がノックしてきてから8分近く経過したところである。ギャングの立場としてはノロマもいいところ。
もし現状が自分一人だったのなら用意もそこそこにさっさと家を飛び出していただろうに。少し甘ちゃんがうつったのは間違いないようである。
ふぅ、と小さく半分笑、半分呆れの表情から小さくため息をこぼす。
千帆の用意が終わったのだろう。物音が静かになっていき、やがて完全な無音となった。
これでやっと出発か。地図は頭に叩き込んではいるがどちらに向かうのが『正解』なのか。
そうやって悩んでいるうちにパタパタと足音を立てて千帆が――歩み寄ってこない。今までの印象であれば早歩きで追いついてきていたものを。
それともなんだ?化粧直しにトイレでも行ったか?こういう時に女は不便なものだなどと思いながら頭を軽く掻くプロシュートの耳に小さな音が飛び込んできた。
からん
「……お前いつまで待たせるんだ。誰かにのぞかれたのはお前だろうッ
しかも今の音、明らかにペンが落ちる音だったなァ?この期に及んで小説でも――」
少々時を含んだ声で呼びながら振り返る。
千帆がいない。
「――おい」
確かにペンは落ちていた。
しかしその隣には口の空いたままのカバン。
そして歩いてきた廊下の先には……そう、さっき自分が千帆を置いて歩いてきたその廊下の突き当たりにはッ!
――酸で溶かしたようにグズグズに穴の開いた壁と、何者かがそこに着水でもしたかのような波紋が広がっているではないかッ!
「て」
ギャングに入って――特に暗殺を生業とするようになってからは感情を大きく表現することが少なくなったと自覚している。
しかし、今このときは自分の頭の中にある一本の弦がぷっちんと切れた音がハッキリと聞こえてきた。
それはこの追跡者に対してか、それにまんまと捕まった千帆に対してか、それらに気付かなかった己自身に対してか――
「テメェエェェッッ!」
駆けだすプロシュート。敵が開けていった穴に突っ込み、勢いよく家を飛び出した。
○○○
「おッおッ、女だ!」
興奮するのはプロシュートの怒りを買った男、セッコ。
とはいえ、何も気絶した女子高生にナニをするとかいうつもりで興奮しているのではない。
……いや、その方がある意味では健全なのかもしれないのだが。
「女の死体を弄るのは初めてだし!こ、コーイッテンでもっとイイモノつくれねぇかなぁ!?
そしたらきっとDIOも褒めてくれるはず!」
そう。セッコは自分のオブジェのグレードアップのためだけに
双葉千帆を拉致したのである。
「オイオイ、だったら今殺すなよ。DIOは血も欲しがってるんだろ?鮮度だよ鮮度。
たしかにこの女に関しては何も言われてないけど、お前が勝手に判断して殺しちまって後でDIOに怒られるのもイヤだろう?」
「おっおっ、オウよ!だから殺してねぇって!」
「丁重に扱っておけよォ~」
セッコの衝動を抑えるのは数枚のトランプカード。知らないうちに枚数が増えたことすらセッコは気に留めない。
それほどまでに興奮していた。
しかしこの状況。それはそれでリスクがある。
セッコのスタンド『オアシス』はそもそも『地中を泳ぐことが出来る能力』ではない。
能力の本質は物質の“泥化”にある。地面を泥水のようにするところまでが能力で、その中を泳ぐのはあくまでも本体、という解釈だ。
つまり――今この場で『オアシス』を発動してしまうとせっかく手に持っているこの“材料”までも泥と化してしまうのだ。ついでにトランプも。
だから地上を歩くか走るかして移動せざるを得なくなる。
セッコの身体能力は決して低いものではないが、それでも興奮状態で、かつ数十キロの重りを持ったような現状では大したスピードは望めない。
ゆえに、トランプの次の台詞は自然とこういうものになる。
「オイ、あのヤロー、この女と一緒にいたヤツだぜ!追ってきた!」
振り返るセッコ。その視線の先には鬼、どころか阿修羅のごとき面相で立ちはだかる男が一人。
「テメェ……人の妹分になにしてくれてんだ」
○○○
「オ、オイ!アイツだ!あの黒いスーツ!アレがオマエの相棒を殺したヤツ、プロシュートだ!」
「でもなんか別の奴とニラミあってるぜ?どうすんだよ!?」
トランプががなり立てる。
言われなくてもわかってる。
俺の目の前に移ってる光景。
手前には土気色したウェットスーツの人物。
背中しか見えないが体格から言って男だろう。そして小脇に抱えているのは生きているのか死んでいるのかもわからない少女。
とは言え重要なのはそこではない。その奥の人物だ。
ウェットスーツの背中越しに見える――つまり今そいつと対峙しているのが俺が探し求めていた相手、プロシュートという訳だ。
なるほど、俺は完全に最後の登場人物という訳か……だが。そんなことは重要な問題ではない。
俺にとって唯一にして最大の問題。
それはつまり『このウェットスーツ野郎がプロシュートと戦闘を始めてしまう事』。
復讐は自分の手で果たさなければならない。そうでなければ意味がない。
握りこんだアヌビス神が痛がるほどに右手に力が入る。肩にかけていたデイパックを地面にたたき落とす。
二人の男はまだにらみ合い。その静寂を破るように腹の奥底から声を絞り出した。
「おまえ……人の獲物になにしてくれてんだ」
○○○
目の前の男の視線は、そのボルサリーノ帽に隠れて読み取ることはできなかった。
時折見せる口元も碌に動かない。
テーブルを挟んで向かい側。戦うでもなく、必要以上の情報交換をするわけでもなく、かといって雑談するわけでもなく。
早々に手持無沙汰になった俺は(表情を隠すという意味もあったが)テーブルに置いてあった庭の本を読んでいた。
時折、一言二言、ムーロロが電話の中継局のような会話のやり取りをしているが、その意味は今すぐに理解する必要はない。耳に入っていればよかった。
落ち着いた部屋の中とは言え、それはあくまで『亀』である。
つまり亀が動けば部屋も動くし、亀が転べば部屋の中もてんやわんやになる。
今いる場所が電車の中や車の中ならまだ大した影響はないのだろうが……如何せん運搬しているのが徒歩の人間、そして時折走ったり止まったり。
――となればその揺れも部屋に響いてくる。
乗り物酔いをするタイプではないし、最初のうちこそ戸惑ったが十分もすれば慣れてきて、揺れの具合から外の状況を推測するくらいのことはできるようになった。
どれくらい経った頃だろうか、一瞬の浮遊感と、直後に尻に受けた衝撃、どさりという音にはさすがに舌を噛みそうになった。
もちろん『どうした!なにがあった!』だのわめき散らして混乱するようなそぶりは見せなかったし、この状態が『デイパックが落とされた』という事もすぐに理解できる。
視線を上げれば、同様に状況を観察したムーロロの目線とかち合う。
お互いに小さく頷いて、亀から出てしまわない様に注意を払いつつ、天井を覗き込む。
「おまえ……人の獲物になにしてくれてんだ」
そういう声が届いてきた。
声の主はもちろん
スクアーロ。
つまり――これはどういうことなのか。再びソファに腰を落として状況を推測する。ムーロロも同様だった。
と言っても、この状況と今の台詞で容易に想像はつく。推測するほど難しいことは何一つない。
『人の獲物』とはスクアーロが復讐を果たしたいと言っているプロシュートとかいう男の事である。
『なにしてくれてんだ』とはつまり、別の何者かが『人の獲物』を自分の許可なく弄っているという事。
そしてスクアーロがいきなり攻撃を仕掛けていないという事は、未だ直接的な戦闘が始まる前の――名乗り口上の最中、と言ったところか。
天井の宝石越しに小さく見えたのは何やらダイバースーツのような格好の人物。これが『別の何者か』に当たるという訳だ。
ふう、と状況の整理が終わって息をつく、そんな俺を見てムーロロがニヤリと笑ったような気がした。
『おうおうお坊ちゃん、推理は終わったかい?』なんて言いそうな癪に障る表情だった。
視線をそらしソファに体重を預けて息をつく。
……
…………なんだ?
何か胸にしこりが残るような、そんな気がしてならない。
『庭』の本を手に取りムーロロとの間に壁を一枚作る。
本の存在によって、情報は活きる。
手元に『本』を呼び出した。
一番新しいページ、たった今見たものが記載されている場所だ。
【あたかもエレベーターが落ちたかのような落下の感覚を味わって地面に落ちてしまった。
慌てるそぶりを見せないように気を付けながらムーロロと一緒に天井の宝石を覗き込んだ。
そこに見えたのは怒りの表情を浮かべるスクアーロ、空気全体が震えているようだ。
視線の先にはつぎはぎのダイバースーツ。
そして、細い脚】
ここだ。ここに違和感があったのだ。
よく『本』を読み返す。
【細い脚が二本、一人分、どうやら人質か何かとしてダイバースーツがとらえたようである。
履いているのは紺色のハイソックスと飾り気のないローファー。
この靴に俺は見覚えがあった】
――ドクン
【靴のサイズ、お父さんといっしょだ】
――ドクン
【彼女はそう言った。
つまらんことに、気づくやつだ。
俺はそう返した】
――ドクン
【その時に玄関先に並べて置いたあの靴だ。
あの靴の持ち主だ】
――ドクン
【人質になっているのは、双葉千帆だ】
過去を読み返しながらさらに推測が進み、それらも律儀に文字となって『本』に刻まれ続ける。
鼓動が速くなるのを抑えきれない。ムーロロのことなど気にせず亀から飛び出してやりたい気持ちにさえ襲われた。
だが、そんな真似を今する訳にはいかない。
しかし、必ずやらねばならない……
口に出すことなく、心の中だけで小さく呟く。その言葉は、『本』の一番新しいページの一行目に刻まれた。
「貴様ら……人の『妹』に一体何をしているんだい?」
○○○
それもそのはず、仕掛け人は彼自身なのだから。
セッコをプロシュートのもとに向かわせる。
スクアーロも同様。ただし“他の参加者”に遭遇しないように――かつスクアーロ自身に悟られない程度に――迂回するルートを取らせる。
あとは勝手に各々が遭遇しあい、戦闘をし、命を散らせていく、という訳だ。
プロシュートが死ねばそれはそれでよし、スクアーロが死んでもそれはそれでよし、セッコが死んでもそれはそれでよし。
いずれにしても三人のうち一人は確実に死に、一人は確実に戦闘不能の状況に陥るだろう。
しかし――ムーロロは何も『これで参加者どもが減って万々歳だぜグフフ』と下種な笑みを浮かべるためにこうした訳ではない。
そういう感情は持ち合わせていない、というとムーロロがロボットか何かかのように聞こえてしまうので語弊があるが。
ムーロロは『DIOの指示を聞き』『スクアーロの目的達成を手助けし』『うろついてるセッコを回収し』という自分の任務と、
そしていつ何時も忘れることがない本能『己自身が生き残ること』を天秤にかけた。
たったそれだけの話なのである。
ムーロロは自覚している。
『そうさ、俺はDIOに指摘されたとおりの恥知らずだ』と。
しかし一方で『これが俺の人生哲学、モンクあっか!』とも感じている。
DIOのカリスマに魅せられ、そして対峙しても自分の能力で敵わないと感じていても自分の生き方を捻じ曲げることはできなかった。
先のフーゴとの決別もそう。
いわゆる『試合に勝って勝負に負けた』ような状況であったが、そこで自分の危険をも顧みずリベンジマッチを挑むほどの愚は侵さない。
胸に開いた穴は塞がりそうな気配はしない。だが、その穴に落ちてしまわぬよう避けて歩けばいいだけの話なのだ。
あるいは最初からそんな穴の方に向かっていかないか。
言葉にしてしまえばたったのそれだけ。
だが、この“それだけ”が出来ずに何度も過ちを犯すのが大半だろう。人間というのはそういう理不尽なものだ。
その点、ムーロロは違った。己を理解し、制御することで、“それだけ”のものを大きく拡大させてしまうような馬鹿ではない。
しかし。
しかし、そんなムーロロにも盲点があった。
目の前で庭の本を読みふける高校生。
この男が……いや、この男“までも”この三者の対峙に大きくかかわる存在であることを知らなかった。
にらみ合う三人。
見上げる二人。
気を失っている一人。
六人の思いが小さな小さな螺旋を描いて回り始める。
この螺旋がどれほどの渦になるのか、天をも巻き込む竜巻となるのか。
それはまだ誰も知ることはない。
*
で……そこからなんだけどさ――
え?
もういいの?
ってアレ?もう行っちゃうの?お茶飲んでけば?
……あーあ。聞くだけ聞いて行っちゃったよ。全く皆愛想のないっていうか……
これじゃあ今回の話に出てきた奴らと同じじゃあないか。
アヌビスの忠告を聞かなかったスクアーロに、
自分で言った『助けない』の言葉を覆してまで千帆のもとに駆け寄ったプロシュートに。
それから空気読まないセッコと、すべての元凶ともいえるムーロロか。
琢馬と千帆は……どうだろう?まだそういう事を語れる年じゃない気もするし。
だが――わかってるんだろう?
そういう“無粋な連中”に降りかかる結末がどんなものなのかはね。
【D-6 路上/1日目 午後】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:ダメージ・疲労はほぼ全回復、激怒
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:
基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.目の前の男(セッコ)をブチのめす。『妹分』を救出する
(双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。と思っていたのに、という自分にやや戸惑い)
1.その奥の男(スクアーロ)は何者か不明、保留
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:気絶
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く
0.気絶中、思考・行動不能
1.プロシュートと共に行動
2.
川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない
4.露伴の分まで、小説が書きたい
【備考】
千帆のことを観察していた相手の正体は『ウォッチタワー』でした。千帆だけでなくプロシュートの事もある程度観察していたようです。
千帆の持っていた道具(基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ)がD-7民家に放置されています。
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(大)
[装備]:カメラ(大破して使えない)、双葉千帆をわきに抱えている
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
1.なんだコイツ、追ってきたのか?
2.とりあえずDIOを探し、一度合流する。怒っていないらしくて安心
3.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しく女という材料も手に入れたことだし
2.
吉良吉影をブッ殺す
【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:健康、激怒
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式、ココ・ジャンボ(中にムーロロと琢馬)、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのJ
[思考・状況]
基本行動方針:プロシュートをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0.目の前の相手をブチのめす。プロシュート、次はお前だ
1.とりあえずDIOの手下として行動する
2.ムーロロが妙な気を起こした場合、始末する
3.復讐を果たしたあと、DIOに従い続けるかは未定
【亀の中】
【
蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、激怒
[装備]:自動拳銃、『庭』の本
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2~3(
リサリサ1/照彦1or2:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。千帆に会って、『決着』をつける
0.探していた双葉千帆をついに発見。しかし、この状況、どういう事なんだい?え?
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない
2.ムーロロに従い、待機。隙があれば始末する?スクアーロの存在も厄介
3.ムーロロの黒幕というDIOを警戒
【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で
岸辺露伴、
トニオ・トラサルディー、虹村形兆、
ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃は
ポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5~15)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く
0.自分の思いがいていた現状に満足。でも心は動かない
1.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する
2.スタンドを用いた情報収集を続ける
3.コイツそんなに庭の本気に入ったのかよー(棒読み)
【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※ムーロロに課されたDIOの命令は、蓮見琢馬の監視と、DIOと手下たちの連絡員を行うことです。
同時にスクアーロとお互いを見張り合っています。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2014年10月09日 00:46