【Scene.1 タルカス】
   am11:50 ~双首竜の間~


「今からだと、どこへ行こうにも移動中に放送を迎えます。ここでしばらく体を休めましょう。」


ジョルノの提案から、タルカスたちはその場でしばし休息をとることになった。
2人は胸の前で十字を切り、スミレの遺体に祈りを捧げる。
お互いの情報交換はある程度済ませたので、あと10分ほどは手持ち無沙汰な時を過ごすことになる。
その余暇を利用して、ジョルノはタルカスに聞きたいことがあった。


「タルカスさん―――あなたはスコットランドの騎士、タルカスですね? 黒騎士ブラフォードと共に戦ったという……」

「………たしかに、オレはテューダー王家に仕える騎士であるが、なぜそれを?」


やはり、とジョルノは思った。名簿にタルカスとブラフォードの両名があり、そして参加者たちは時代を超えて集結している。
ただの偶然かとも思ったが、実際にタルカスと出会い、その屈強な出で立ちを目の当たりにすれば、それを連想せざるを得ない。

もっとも、タルカスとブラフォードというのは、日本史で例えれば宮本武蔵と佐々木小次郎程度の知名度だ。
イギリス人ならば誰もが知る英雄だが、外国人の多いこのバトル・ロワイアルで気付ける人間はそういないであろうが。


(言うべきか―――? いや、しかし―――)

ジョルノはまだ、参加者たちの間に時代を超えた差があることを誰にも話していない。
そして、これを話すということは、タルカスにとって絶望しか与えない。
彼らはジョルノから400年以上も過去の人物であり、そして彼の仕えたメアリー・スチュアートは非業の死を遂げている。
タルカスとブラフォードは、メアリーが謀殺されたとほぼ同時に処刑されたはずなのだ。
このタルカスが、『メアリーの死後のタルカスである』という確証はない。
ジョルノがタルカスにそれを話すということは、メアリー・スチュアートにまつわる歴史をも、タルカスに語らなければならない。

「いえ、何でもありません」
「―――?」


(言えない。とてもじゃあないが……)


結局何も切り出せぬまま、ジョルノは放送の開始を待つしかなかった。




☆ ☆ ☆


【Scene.2 シーザー・アントニオ・ツェペリ
   am11:55 ~カイロ市街地~


ふらふらと街道を彷徨う男は、吹い寄せられるかのように目に付いたオープンカフェの椅子に座り込んだ。


(だめだ………さすがに疲れたぜ………)


川沿いからやや逸れ、ローマの歴史ある町並みが急に都会的に変わる『カイロ市街地』を不審に思い足を踏みいれたシーザーであったが、疲労により小休止を選んだ。
といっても、形兆からの攻撃は大事には至らず、波紋の呼吸でカバーできる範囲だ。
だがらこの疲労は肉体よりも精神的なダメージによるものが多い。
スピードワゴンやリサリサなどから聞いて、ディオ・ブランドーという吸血鬼の噂はさんざん聞いていた。
だが、実際に相対するとその存在感に圧倒された。
柱の男と石仮面、吸血鬼どもに運命を狂わされたツェペリ家の意地にかけてもディオに屈するなどありえないが、しかし、本気で死を覚悟した。
形兆の機転がなければ、自分は今この世にいなかっただろうと、自分を反省する。

(休憩は5分だけだ…… もう放送まで時間がないし、何か動くにしてもその情報を得てからの方がいいだろうし――――――)

先ほど拾ったディスクを取り出し眺める。
シーザーにはこれが何なのかまだわからない。
だが、ディスクから漂う生命エネルギー、特に既に持ち主を失ったスタンド『クリーム・スターター』の精神エネルギーをシーザーの波紋が感じ取り、これが特別な価値のある何かであることを理解していた。


(一体なんだこれは? 妙な力を感じる。何か秘密があると思うが……)


匂いを嗅いだり、覗き込んだり、いろいろ試すが何も起こらない。
知識のないまま『頭に差し込む』という発想に至る訳もなく、ディスクを弄り回すうちに、第2回放送が始まった。
今回の死亡者は18人。
その中にはスピードワゴンやリサリサも含まれることを、シーザーはまだ知らない。




☆ ☆ ☆




【Scene.3 ヌ・ミキタカゾ・ンシ
   pm0:02 ~DIOの館-図書室-~


放送を終え、琢馬が最初に抱いたのは安堵の感情だった。
つい数時間前に別れたばかりのウェザー・リポートの名が呼ばれたことよりも、一緒にいたはずのジョルノや因縁のある仗助の名が無かったことよりも、エリザベスに該当する名前が誰かということよりも、まず双葉千帆の無事が確認できたことに、安心した。
そして自分の想像以上に、自分が彼女の事を気に掛けていたことに気が付き驚いた。

自分の中に宿る感情から目を逸らし、次に琢馬は頭の中を整理する。
禁止エリアは、A-7、A-2、D-8。外側から徐々に狭まってきている。杜王町エリアがかなり狭まってきている。
探索するなら急いだほうがいい。

ウェザー以外の知り合いで死んだのは、山岸由花子ひとりだけのようだ。
あと分かるのは、エリザベスを突き落としたであろう救急車に乗っていたスピードワゴン。
エリザベスに対する私怨でもあったのか、彼女の身元を知る手掛かりの一人だったが、それも今となっては、だ。
その他はまあ、さらにどうでもいい。

「さて」

拳銃のスライドを引く。弾丸は装填した。
いよいよ死刑執行の時だ。

ブローノ・ブチャラティレオーネ・アバッキオが逝ったようだ。お前も直ぐに向こうへ送ってやる」

蓮見琢馬がミスタへ拳銃を向けたと同時に、地に伏せていたミキタカが突如起きあがった。
事故の記憶を読ませ、動けないはず。何故、動くことができる?
その謎が琢馬に一瞬の油断を産んだ。ミキタカの手には、ミスタの所持していた拡声器があった。



「わあああああああああああああああああああああ!!!」



喉が潰れる程の覚悟で、ミキタカは叫んだ。
拡声器によってさらに凄まじく、そして太陽光を避けるために密閉された屋敷内で反響し合い、その大音量はたちまち琢真の鼓膜を襲った。

「ぐっ……」

武力を持たないミキタカの、精一杯の攻撃。だが、効果は絶大だった。
ミキタカ自身も、想像以上の大声になったことに怯んだが、それでも懸命に動き、倒れているミスタに駆け寄る。
まだ息はある。だが、はやく誰かに診せなければ。
ミキタカはミスタの身体を抱え込み、そして背負う。そして逃げようと駆け出したミキタカを―――


ダン! ダン! ダァン!


琢馬の撃った弾丸が襲った。


「痛てェ!」


何発か撃った弾丸の一発が、ミキタカの右膝に命中した。
狙って当てたわけではない。この一発はたまたまであり、琢馬の幸運だ。

琢馬の平衡感覚はまだ回復していない。
ただでさえ拳銃を撃ったことなどない琢馬が、こんな状態で何かを狙って撃つなど出来るわけがないのだ。
ゆえに琢馬は乱射した。早い話、下手な鉄砲も数撃てば、というやつだ。
この密室の中で拳銃を乱射。跳弾すれば自分の身だって危ないにも関わらず、その事を考慮する余裕もないほど、琢馬は焦っていた。

(ここでこいつらを逃せば、俺が殺し合いゲームに肯定していることが明るみになってしまう。あと56人も残っているこの段階で、そうなるのは避けたい。
こいつは、なぜか今動いている。能力が効かなかったのか、それともこの短時間で回復してしまったのか……
どちらにしても、厄介な男だ。始末しなくては………)

命を獲るには至らなかったが、足を奪ったのは大きかった。
痛む右脚を引きずりながら、それでも命からがら琢馬から逃げる。
撃たれた衝撃で拡声器を落としてしまったが、ミスタだけは絶対に放さない。
ミキタカがやっとの思いで図書室から脱出したころ、琢馬はようやく吐き気から解放され、立ち上がった。

(野郎……)

ミキタカの後を追い図書室を脱出し、すぐさま館の入口方向へ駆ける。

拳銃を構え―――奴が、いない。

ミキタカはどこへ行った?

(バカな? 部屋を出るまでのタイムラグは数秒だ。あの足で逃げられるわけがない……… ならば―――)

奴が逃げたのは、館の外へではない?
急いで『本』を取り出す。

読むのは3秒前の記憶。
戻りすぎると、また『あの大音量を聞く』ハメになるから気を付けて……

3秒前――― 図書室から脱出し、入口方向へ切った視線の最中………
ミュージックホール奥の部屋から階段方向へ消えていく人影が、琢馬の意識の外に写りこんでいた。


ミキタカは、外ではなく屋敷の中へ留まった。
拳銃を持つ琢馬に対し、ミキタカは足を負傷。ミスタという荷物まで抱えている。
外へ逃げての鬼ごっこなら、ミキタカに勝ち目はなかっただろう。
屋敷に留まり、隠れんぼの方を選んだ。
この後に及んでいい判断だと、琢馬は感心する。


(いいだろう。相手になってやるぞ、宇宙人―――)



そして今度こそ完全に琢馬の視界の外。数枚のトランプカードが通り過ぎたことに、琢馬は気が付いていなかった。


☆ ☆ ☆


【Scene.4 カンノーロ・ムーロロ
   pm0:03 ~ウインドナイツの秘密の通路~



時間を少し遡り、こちらも放送直後。

先導するカンノーロ・ムーロロのぴったり3歩後ろを、DIOが付いて歩く。
地下トンネル―――ウインドナイツの秘密の通路は迷路のように入り組んでいるが、既に『オール・アロング・ウォッチタワー』によって解析を終えているムーロロにとっては、答えの書き込まれたパズルに等しい。
道中、DIOはムーロロに対し質問を繰り返していた。
質問の内容はゲーム開始からムーロロが能力を用いて得た情報のことから、ムーロロ自身の内面性を問うものまで様々だ。

当初DIOに取り入ろうと画策していた時、ムーロロはその情報に虚実を交えて、自分のいいようにDIOをコントロールしてみせるつもりだった。
だがこの時ムーロロは、なぜか偽ることができない。何故か。

たった数分の問答の間に自分の本性を見透かされた。
その事に心境の変化を感じたからなのか、それともただ単にDIOに対する恐怖から無意識のうちに服従を選んでしまったのか、自分でもわからない。
ただわかっていることは、ムーロロの本能がDIOに従うことを選択し、その判断を肯定しているという事実だけだ。

「なるほど。『ウォッチタワー』の能力は伊達ではないな。この短時間に地下の道を迷うことなく目的地に辿りつける、か」

感心したように笑うDIO。ふたりは目的地であるサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の地下納骨堂に到着した。
教会の地下にはストレイツォの死体で作られたオブジェが惨い形で放置されており、ムーロロの報告によるとこれをやったのはセッコであるという。
見事に入れ違う形になってしまったが、DIOはセッコが自分の意思を持ってゲームを楽しんでいることに満足する。
そんな事を考えながら、DIOたちは地上への階段を登る。
時間は正午過ぎなので差し込む日光を警戒しつつ、教会の講堂へ。そこでは既に3人の配下が、DIOたちの到着を待っていた。

「みんな早いじゃあないか。待たせてしまったかな?」
「DIO様、お怪我を!?」

現れるDIOに跪いて待機していたヴァニラ・アイスが、いち早く反応を示す。
ジョースター一行抹殺の命を受け、DIOと分かれてからほんの1時間弱だというのに、DIOの見た目は満身創痍。明らかにかなりのダメージを受けていた。

「DIO様! DIO様が望むのであれば、いつでもわたしの血でッ!」
「心配は無用だ、ヴァニラ・アイス。ありがたい申し出ではあるが、今お前を失うわけにはいかない。それに、この身に馴染ませるのは、やはりジョースターの血が好ましい」

いつでも命を差し出す覚悟がある。どこの世界のヴァニラ・アイスも同じである。
ヴァニラは納得していないようだが、DIOはこのヴァニラの忠誠心を再確認し、満足する。
まったく、優秀な『駒』である、と。

そしてヴァニラ・アイスの2歩後ろに立つのは虹村形兆
さらに教会入口脇の壁にもたれ掛かり、DIOたちの様子を伺うのはスクアーロ
ヴァニラと違いDIOに対して跪くことはなく、憮然とした態度である。
その事にヴァニラは腹を立てつつも、DIOがそれを咎める様子がないため黙認し、黙る。
この3人は、いわゆる非・肉の芽組だ。
肉の芽を埋めたディ・ス・コ、サーレー、チョコラータらと同様にジョースター一行の抹殺を命じた面々だが、DIOがムーロロを手にしたことから事情が変わり、『ウォッチタワー』の能力を用いて、この教会へ集合させたの

だ。


「端的に説明しよう。空条承太郎との戦闘があった。残念ながら仕留めるには至らず、私もこの通り手傷を負った。さらにカーズという男も、このDIOに迫る戦闘能力を持っていた。吉良吉影も、侮れない能力を持っている」


信じられない、という表情のヴァニラ・アイス。形兆とスクアーロも、思わぬDIOの言葉に目を瞬かせている。

「やはりジョースターの爆発力は侮れない。だが、このDIOとてまだ完全ではない。あと一人か二人、ジョースターの血を吸えば、この肉体は完全にDIOに馴染むであろう」


今のままでは分が悪い、先の戦いを経てそう判断したDIOは、ジョースター一行抹殺より先に、ジョナサンの肉体を完璧に馴染ませることを優先させるよう方針を変更した。
そしてジョースターの肉体を効率よく探すため、それまで放置させておいたムーロロとの接触を図った。
さらに、ムーロロの能力を用いて肉の芽を埋めていない3人の部下を集めさせた。
なおヴォルペとの接触を図らなかったのは、元々敵対していたムーロロの『ウォッチタワー』での接触は有効ではないとの判断である。


「ときに、お前たちは先ほどの放送を聞いて、何か気がついたことはないか? 形兆、お前はどうだ?」

「―――いえ? 特には。死亡した者で私の知っているのは、山岸由花子という少女ひとりくらいですが、特に関わりがあったというわけでも―――」

「シーザー・アントニオ・ツェペリ………」

「ッ!!?」

ポツリと漏らしたDIOの言葉に、形兆は顔面蒼白する。
バレていない、と思っていたわけではない。
自分が意図的にシーザーを生かしたという事も、自分がDIOへ服従しているわけではないという事も。
DIOの表情からも明らかだ。
形兆の反応を見て、DIOもニヤニヤと笑い、楽しんでいる。

「放送で分かるのは死亡した者だけではない。『死亡していない者』のこともわかるという事だ。不手際だったな形兆、あの状況でシーザーを仕留め損なうとは………」

言葉だけは、何も気が付いていない、という体裁でDIOは話す。
その言葉に潜む威圧感で、形兆は返答に困る。するとDIOは形兆に向けていた視線を切り、教会壁面に飾られている一枚の絵を指し示した。




「お前たち、この絵がどういったものか、知っているか? ヴァニラ・アイス、どうだ?」
「―――は? い、いえ。私には、そのような知識は…… 申し訳御座いません―――」

予想外の問いを振られ、ヴァニラは心苦しげに返答する。
DIOはさほど気にせず、今度は離れた場所に立つスクアーロに向けて問う。

「お前はどうだ? スクアーロ」
「ルネサンス期の画家、ティントレットの『最後の晩餐』だ。聖書にもある、イエス・キリストの最期――― ユダがキリストを銀貨30枚で売り払う場面を描いている。」

「………………」

スクアーロの言葉に、形兆の血の気が引いてゆく。
パチパチパチと手を叩きながら、DIOは、

「素晴らしい解答だ、スクアーロ。そう、ユダの裏切りだ。『最後の晩餐』はミラノにあるダ・ヴィンチの方が有名だが、さすがはヴェニチア在住の殺し屋といったところか。
さて、この質問なら形兆、お前にもわかるだろう。キリストを裏切ったユダの末路――― 彼はどうなった?」

「……。死―――」
「そうだッ! 裏切り者には死が付き纏う。そういうことだよ、虹村形兆。私の言いたいことがわかるか?」

形兆の答えを一文字目で遮り、DIOが高圧的に質問を重ねる。
表情には出さず、しかし肩で息をする形兆。もはやここまでか、そんな考えが、頭をよぎる。
返答に困る形兆へ、思わぬところから助け舟が出された。

「DIO様、蓮見琢馬らに動きが―――」
「ふむ」

カンノーロ・ムーロロだ。
傍らに立つムーロロがDIOに話しかけ、そのまま耳打ちで何かを伝えている。
DIOはそのままムーロロと小声で話を続け、シーザーの話題はそこで一旦停止された。

その様子に形兆は一先ず落ち着く。ヴァニラ・アイスの後ろまで下がり、しゃがんで膝をついた。
形兆の顔はびっしょりと汗で濡れていた。
気休め程度にしかならないが、形兆は今更ながらDIOに服従する格好を見せる、と同時に、頭を垂れることで動揺に歪む表情を隠そうとした。
形兆の態度に、ヴァニラが軽く舌打ちする。
その間、DIOはムーロロと小声で何やらやり取りをし、1分ほど後に目線を3人に戻して話を始めた。



「それでは、各々への命令を説明する。」





☆ ☆ ☆


【Scene.5 イギー
   pm0:08 ~双首竜の間~



「ブチャラティ……… アバッキオ………」

放送を終え、ジョルノは大きく肩を落とした。
自分の中で諦めはつけていたつもりではあったが、それでも心のどこかで期待していたのだろう。
ブローノ・ブチャラティとレオーネ・アバッキオ、死別した二人の仲間たちとの再会を。
タルカスたちの過去のことなど、完全に頭から消えてしまった。

「大丈夫か? ジョルノ・ジョバァーナ
「……ええ。仲間が2人逝きました……… ですが、大丈夫です。ある程度は、覚悟していましたから………」

タルカスに心配をかけまいと気丈に振舞うジョルノであるが、ここで倒れるわけには行かない。
幸い、ミスタとミキタカの名前が呼ばれることはなかった。
何かトラブルがあったのかダービーズカフェにも現れなかった2人だが、まだ生きているらしい。
ジョルノにとってその情報は救いだった。
実際には2人は現在も窮地に陥っているわけであり、その点においては死亡時刻をずらさせた蓮見琢馬の策略は成功したとも言える。

「いつまでもここには居られんだろう。どうする?」

「そうですね――――――」

頭の中を必死に切り替え、今後の方針を話し合う2人。
その2人に我関せずといった態度で、イギーは後ろ足で腹を掻きながら大きく欠伸をした。

「ファァア――――――」

(まったく、辛気臭い奴らだぜ…… 無理して強がってるのが見え見えだぜ)

だが仲間思いの甘ちゃんってのはいいことだ。
なにより、理不尽に裏切られる可能性が少ない。
仲間のふりしていれば、とりあえずの安全は確保できる。

(やはり、こいつらに着いていくというオレの判断は間違ってねーな)


イギーの行動方針は、どこまで行っても自己保身が最優先事項なのだ。




☆ ☆ ☆



【Scene.6 ヴァニラ・アイス】
   pm0:17 ~サン・ジョルジョ・マジョーレ教会周辺~




「オレは一刻も早く仕事を済ませたい。先に行かせてもらうぞ」

そう言い残し、スクアーロは走り去った。
躊躇せずDIOの命令を遂行しに向かうスクアーロと違い、虹村形兆には大いに迷いがあった。
そんな心の内を読んで、ヴァニラ・アイスは形兆に話しかける。

「とっくに気が付いているぞ、虹村形兆。私も、DIO様も。貴様の稚気にな。貴様にもそれくらいわかっているのだろう?」
「………………」

冷たく、感情のない口調で問う。
形兆には黙る事しかできない。その沈黙が肯定を意味することは明白だ。
だが、どうすることもできない。DIOに逆らうことも、ここでヴァニラ・アイスと戦うことも。

「できるのならば、私は今すぐにでも、貴様の首と胴を切り離してやりたい。暗黒空間に飲み込んで、粉微塵にしてやりたいと思っている。
だが、DIO様にも考えがある。あの方の慈悲に感謝し、諦めて従うことだ。
私ももう行く。貴様から目を離すことすら不満であるが、仕方がない……」

怒りを冷静に押さえ込み、そして自らに課せられた使命を果たすべく、教会を後にする。
ヴァニラはさっきから腹が立って仕方がない。怒りの原因は、虹村形兆だけではない。
むしろ、気に入らないのは………
最も気に入らないのは、カンノーロ・ムーロロだ。

(トランプの能力のスタンド使いだろうが、このヴァニラ・アイスを差し置いてDIO様の側近気取りか? ふざけるな!)

教会でDIOの話を聞く最中、跪いて命令を受けていた自分と、DIOの横に対等に並び立つあの男を比較し、嫉妬した。
ヴァニラにとっては、堪らなく腹立たしい場面だ。
ヴァニラ・アイスの『クリーム』は戦闘にのみ特化したスタンドであり、事務的な能力ではムーロロには遠く及ばない。
自分に出来ない能力を用いて、DIOの役に立つムーロロ。
話を聞く限り、DIOがムーロロと出会ったのはついさっき、30分も前ではない。
それなのに、ヴァニラから見て、ムーロロは自分よりも近くにいるようにさえ見えた。

(落ち着け――― 私に与えられた任務は、3人の中で最も難しく、最も重要なものだった。
私はDIO様に信頼されている。私はDIO様の剣だ。DIO様の期待に、信頼に応えることだけを考えるのだ―――)



向かう先は、北。
浮かんでくる雑念を払い、ヴァニラ・アイスは目的地を目指した。




☆ ☆ ☆



【Scene.7 虹村形兆】
   pm0:25 ~カイロ市街地~




(さて、どうする――――――?)

一人残された形兆。DIOなど無視して、逃げる―――わけにもいかなかった。
なるほど、『バッド・カンパニー』を用いて注意深く探せば、一枚のトランプカードが自分を見張っている。
ムーロロからは逃げられない。
『ウォッチタワー』というネットワークを得たDIOは、完全に配下たちを掌握していた。

(やるしか、無いのか?)

形兆は結局、DIOに指示された目的地へ到着していた。
ここはC-2『カイロ市街地』の一角。ターゲットは、シーザー・A・ツェペリ。
形兆に課された命令は、生き延びたシーザーを追跡し、逃がした責任をもって仕留める事。
命令を無視して逃げ出しても、命令に背いて再びシーザーと手を組んでも、ムーロロの能力によって形兆の裏切りはすぐにバレる。

シーザーはカイロ市街地の一角にあるオープンカフェの椅子に腰掛け、呆然としていた。
目には、一筋の涙が浮かんでいる。
スピードワゴンと、そしてリサリサの死にショックを受けていた。
形兆はその様子を遠巻きに伺い、『バッド・カンパニー』の中隊をシーザーを包囲するよう配置させる。

あの時、シーザーを助けるために形兆がとった行動は正しかった。
だが今、形兆はシーザーを殺さなければ、形兆自身もDIOの標的リストに名を連ねる事になる。

(だがしかしッ! DIOに心まで屈してしまったら、それはあの糞親父と同類になってしまう―――ッ!!)

最後の晩餐、イスカリオテのユダは、キリストを裏切った。
皮肉にもその絵の飾られているサン・ジョルジョ・マジョーレ教会は、ブチャラティが組織を裏切り、組織のボスがブチャラティの『心』を裏切り、そしてパンナコッタ・フーゴがブチャラティのチームを裏切った舞台でもある。

葛藤する、裏切りの虹村形兆
彼が真に裏切るのは、DIOか。それとも、シーザー・ツェペリか。


決断の時が迫られた。



【C-2 カイロ市街地 / 一日目 日中】

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のダイヤのQ
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する?
1.シーザーを殺す? それとも……



【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発、体力消耗(小)、全身ダメージ(小) 、精神ダメージ(大)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
   クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.ティベレ川を北上、氾濫の原因を突き止める。
1.スピードワゴンさん…。先生……。
2.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
3.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
4.形兆に借りを返す。
5.DISCについて調べる。そのためにも他人と接触。


※虹村形兆に課されたDIOの命令は、シーザー・アントニオ・ツェペリの抹殺です。
命令を遂行するかどうかはわかりません。



☆ ☆ ☆



【Scene.8 グイード・ミスタ
   pm0:35 ~???~




「(だいじょうぶですか? ミスタさん………)」

暗闇の中、ミキタカが小声で話しかける。

「(……あ………ああ………………)」

ミスタは意識が朦朧としつつも、それに答えた。

『(死ヌナ! ミスタ! 絶対死ヌナヨォ―――)』

そしてただひとり活動余力の残った『ピストルズ』の一体がミスタに檄を飛ばした。

「(大……丈夫……だ………。No.1……。心配………するな………)」

「(もう少しの辛抱です……。きっと、蓮見琢馬も、もう少しで諦めるかと思います)」

「(ああ…… 迷惑、かける…………)」

ミスタと共に、隠れるミキタカ。
ミキタカは、自分の隠れ場所が琢馬に見つけられない自信があった。
ゆえにミキタカは、琢馬が諦めて館を去るまで息を潜めて隠れる気でいた。
ミスタは徐々に意識を取り戻しつつあったが、それでも長時間放置すれば死に至る。
時間はあまりない。



「(シッ 足音です)」



階段を登る足音に、ミキタカたちは緊張する。
この部屋はさっきも調べたというのに、なかなか諦めない。
だが、ここを凌げば、きっと逃げられる。
放送でブチャラティとアバッキオの名前が呼ばれてしまった。
ジョルノとミスタの仲間の2人だ。非常に悔しく、そして残念に思う。
だが、ジョルノ・ジョバァーナの名は呼ばれなかった。
まだ生きている。生きているならば、ジョルノはきっとダービーズカフェで、まだ自分たちを待ってくれているはず。
琢馬の見せた地図によって、現在地とカフェの位置関係も確認済み、ここからすぐ近くだ。
ジョルノならば、ミスタのこの傷もすぐに治してくれる。



(もう少しの辛抱ですよ、ミスタさん)







































ザン―――――ッ




【ヌ・ミキタカゾ・ンシ 死亡】
【グイード・ミスタ 死亡】



☆ ☆ ☆





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最終更新:2014年03月12日 23:11