空が降りてくる ~Nightmare Sun

レミリア・スカーレットジョナサン・ジョースターの二人は命蓮寺を後にして、紅魔館へと向かっていた。
日が昇る前にレミリア愛用の日傘を取りに行くため、ゲーム破壊の同士を集めるためにだ。
ちなみに食糧品を始めとする役立ちそうなものは命蓮寺からいくつか拝借した。
その道中でジョナサンはレミリアから彼女が起こした紅霧異変、幻想郷で起きた異変の数々について聞かせてもらい、
逆にレミリアはジョナサンから、彼がどういった経緯でディオと敵対し、波紋法を会得したのかを聞いたのだった。

「しかし信じられないな…太陽を覆い尽くすほどの紅い霧を起こしたり、
春の季節を大きく遅らせたりできるなんて。」
「ま、私たちは外の世界から忘れられた存在だからねぇ、あんた達の常識では測れないのも無理はないわ。」

レミリアはどこか勝ち誇ったように話してくれた。
東の果てにある国の秘境、幻想郷の話を改めて聞いてみるとディオが吸血鬼となる前ならば、
とてもではないが信じれない話だとジョナサンは思った。

「それにしても父親や家を失ってからの友人への復讐の旅か、若いのに苦労してるじゃない。」
「いいんだ、父さんの精神もツェペリさんの意志を受け継いでみせる。
何より僕を支えてくれる人もいるから、悲しんでいられないよ。」

ジョナサンは、父ジョースター卿、波紋の師であるツェペリ、恋人のエリナ、
おせっかい焼きのスピードワゴン、そして倒すべきディオを思い起こしながら力強く宣言した。

「ふふん、そうこなくっちゃね。期待しているわよ?」
「ああ、任せてほしい!…ってレミリア、僕のこと若いって言ったけど一体君はいくつなんだ?
失礼だと思うけど、君は見た目不相応な雰囲気というか、その…」
「あら、淑女に対して歳を尋ねるつもり?随分ぶしつけねぇ、紳士としてそれはいかがなものかしら。」
「ち、違うんだ。決してそんな訳じゃなくて、気になっただけで…。いや、不快な思い
をさせてしまったのならこの通りだ。すまない、レミリア。」

先の失態を思い出したのか、ジョナサンは深々と頭を垂れた。しかし、何の反応もない
レミリアを訝しんで顔を上げると、ニヤニヤとこちらを見ていたのだった。

「ほんと、あんたには冗談が通じないわね。からかうのが面白いのはいいけど、
ちょっと張り合いがないのは退屈ねぇ。」
「レミリア、その言い草はないだろう。僕は君を気遣って謝ったんだから。」
「あら、気遣っているのは私の方よ。こうやって軽口を叩いて緊張を解してあげているんだから。」

 …上手く丸め込まれたような気がしたけど、確かに僕は緊張している。
彼女のように…とはいかなくても少しは見習わないと普段通り動けなくなりそうだ。
お礼を言おうかとも思ったが、彼女のことだ。また僕をからかうネタにするか、煙に巻くか、
どちらにせよ素直に受け取ってはもらえないだろうな。

ジョナサンはそんなひねくれたレミリアを考えると、聞こえないように笑みを浮かべた。

彼女の思惑とは違ったところでジョナサンの緊張は解れるのであった。

しばらく進んでいると、前を歩いていたレミリアが急に歩くのを止めた。


「どうやら、誰かこっちに来てるみたいね。」
「僕には暗くてよく見えないんだけど、どうして分かるんだい?」

ジョナサンは目を凝らすものの、辺りは暗く月明かりのみが光源となっており、
遠くから誰か来ているのが判別できない。

「そりゃあ吸血鬼だから夜目が利かないわけがないわ。さぁてまずはどんな奴に会えるかしらね?」

心なしか…いや、レミリアは誰に会うのかを楽しみにしているようだった。
ジョナサンはため息交じりに口を開く。

「ともかく、力のない人は僕たちが護るんだ。さっきのは僕のミスだったけど、
あまり怯えさせたり、挑発するのはやめてくれよ?レミリア。」
「…あー、別にそういうことしてもよさそうなのが来たみたいね。」

 レミリアは若干残念そうにぼやいた。

「…それは君の知り合いってことかい?」
「知り合いってわけじゃあないわね。さっき教えてあげたでしょ、異変の解決に私の友達が
黒白魔法使いと一緒に地底に殴り込みに行ったって。そこのボスってところね。」
「どんな相手なんだ?」
「パチェはそいつを三歩歩けば忘れる地獄烏だって言ってたわね。」
「カラス!?」
「それと、腕に着いてる足からずいぶん大きい弾幕を放ってたとも言ってたわ。」
「…腕に足が…!?」

ジョナサンは想像しようとしたが、烏なのはともかくとしても腕に足が着いていると
なると彼が倒してきた屍生人にもそんな化け物はいなかっただろうし、思いつかなかった。

「……レミリア、冗談ではないとは思うけど、もっと分かるようにお願いできるか
な。」
「ま、会ってみればわかるわよ。とりあえず幻想郷にいる連中が殺し合いに乗るなんて思えないしね。」

ジョナサンはかえって嫌なイメージを抱えたまま、これから会う相手がどんな姿なのか考えるのであった。








一方、ワムウとの戦いを終えた八咫烏を宿す地獄烏、霊烏路空はちょっとばかりの休憩にと
支給品の確認をしていた。当初は、デイパックを開けて全てが紙しか入ってなく、
しばし憤っていたが紙を開いてみると物が出てきたのには素直に驚いたようだった。

「便利だけど、紛らわしくないかなぁ。」

首を捻りながら、支給品を一通り見てランダム支給品が二つ寄こされていると気づいた。
小さな壺と得体の知れない機械だった。
機械は説明を見る限り自分には不要と判断し、壺の説明を見てみた。

「へー、この壺に入っている『河童の秘薬』を使えば傷が一瞬で治るんだ。
胡散臭いけどちょうどいいや、試してみようかな。」

先の戦闘で負ったわき腹の端にある刺し傷へと壺に指を入れ一掬いし塗ってみる。
するといつの間にか傷が消えて痛みが引いていた。その後は翼に受けた打撲で
痛むところに塗るとこれも同様に治っていった。

「…うそ、ほんとに治るなんて。ふふ、これで多少の怪我なんて怖いものなしね。」

空は満足そうにほくそ笑むと荷物をデイパックにまとめると意気揚々と出発した。
彼女は命蓮寺を目指しD-4の湿地帯から東へと進んでいた。命蓮寺で先の戦いでの疲れ
を取った後に命蓮寺、そのついでに人間の里を焼き討ちにするためだ。
あの際どい服の大男、まあまあ強かったけど、八咫烏様の核融合の力の前には赤子当然だったわね。
この調子で地上の連中を焼き払って私の力を見せつけてやるんだから。

実際は、太陽の化身を宿した空と太陽が弱点の柱の男であるワムウとでは極めて相性が
良かったこと、最後の大技のぶつけ合いも紙一重の勝負だったこが大きいのだが。
前者は空の知る由もなく、後者は彼女の鳥頭故に忘れてしまったのかもしれない。
故に空は大した警戒もせずに湿地帯を突っ切っていたが、空の目に二人の姿が映った。
気にせず進もうとしたが、二人は動くつもりはないのかこちらを見ているだけだ。
ついに両者お互いの顔が分かる距離になると空が声をかける。


「一体誰だっけ?逃げないと核エネルギーで焼いちゃうよ?まあ逃げなくても
地上は私の炎で焼き尽くしてあげるけどね。」

その声は特に悪びれる様子もない無邪気そのものだったが、話した内容はあまりに物騒なものであった。

「あんたが地上を焼き尽くそうが、地獄の業火をもってしても私を焼き尽くせやしないわ。
寝ぼけたこと抜かしてないであんたも私に協力しなさい。」
「はぁ?あんた私を誰だと思ってるのよ。」
「地獄烏だっけ?烏のくせに烏を取り込んだっていうやつは。地底の妖怪は共食い
なんてするとはねぇ。時代遅れにもほどがあるわ。」
「なっ、共食いなんかじゃないわよ!それにこれからは核融合の時代よ。
八咫烏様の力で今からあんたを消し炭に変えて見せるわ!」
「その火を使えば地獄烏の焼き鳥が食べられそうね。マズそうだけど」
「あ・ん・たに向かって言ってるのよ!もういいわ、食らいなさい!」

空が制御棒をレミリアに向けて構え、レミリアも交戦する構えを取った時、ジョナサン
は素早くその間に割って入り空に話しかけた。

「ま、待ってくれ!僕たちは別に争う気はない、この殺し合いを止めるために
行動しているんだ。協力してもらえないか?」

それにレミリアも挑発し過ぎだ、とレミリアに向けて話した瞬間、レミリアの目が大きく開いた。

「ジョジョ!そこから離れなさい!」

ジョナサンは最初何を言われているのか分からなかったが、背後から強烈なエネルギー
が集まるのに気が付くと、空の射線上から離れるべく大きく湿原へと飛び込んだ。
その直後ジョナサンが立っていた位置へと、巨体の彼を飲み込むほどの巨大なレーザーが
放たれた。
制限によってその威力、範囲は多少減退しているものの至近距離で受けてしまえばひとたまりもないだろう。
ジョナサンは今の攻撃を受けていたらと思うと、背筋に冷たいものを感じた。

「殺し合い?そんなもの関係ないわ、さっき言ったでしょう。核融合の力でこの地上を
焼き尽くすと。手始めに命蓮寺ってところに乗り込んで焼き討ちにしてやるわ。
あんたたちの始末はそのついでよ。」

その台詞にジョナサンの表情は影を落とし、レミリアは訝しんだ。

「…殺し合いに乗るというのか、君だって殺し合いに参加させられた仲間がいるはずじゃないのか?」
「さとり様にこいし様、お燐はもちろん私の力で助けるわ。八咫烏様の力に私のこと見直してくれるはずよ!」

そのように話す空の表情は晴れ晴れとしており、殺し合いに乗るとジョナサンは考えたくなかった。

「遊びじゃ済まないわよ、地獄烏。冗談なら今すぐ撤回することね。」
「くどいわね、それとも今更になって怖くなってきたかしら?無理もないわね、
核融合の力の前ではあんた達なんてあまりにもちっぽけだもの。」
「残念ね、幻想郷にこんな輩がいたなんて。あっちに戻ったら地底の連中のお掃除を
咲夜に頼まないとね。ジョジョ、やるわよ!」
「くっ、やるしかないのか!?」

こうしてジョナサンの願い空しく、戦いの火蓋は切って落とされるのであった。


空はまず左手を上に向けて親指と人差し指を伸ばした。すると、その頭上に
小さな黒い球が現れ、その物体からは光が漏れていた。

「これが八咫烏様の象徴である太陽よ、あんた達にとって見納めになるであろう太陽ね。」
「ふん、元々太陽と相容れない私にとって見納めもへったくれもないわ。
あんたこそ今宵の満月で見納めにしてやるわ。」
「レミリア、本当に平気か?」

ジョナサンは空が太陽の力を操ると言っていたが、よもや太陽を出現させるとは
思いもしなかった。小さいうえに何故か黒いが、そこから溢れている光は紛れもなく
太陽の光であると波紋の力を扱う彼がよく分かっていた。

「知らないの?太陽の色の表現は国によって違うけどこの国では基本的に赤色よ。
黒の太陽なんて偽物もいいところだわ!」
「そう言ってられるのも今のうちよ!核熱『ニュークリアフュージョン』!」

空がスペルカードの宣言をすると、彼女の中心から強烈な光が発せられると共に巨大な
大玉の弾幕とその後を追うように小さめの弾幕が放たれた。
ジョナサンはその弾幕の大きさに驚いた。最初に放ったレーザーもだが、異様なまでに
大きく彼さえも容易に飲み込むほどだ。たとえ吸血鬼であっても直撃すれば、
太陽の力が宿る弾幕では瀕死は免れないと即座に感じた。
幸いにも速度は大したことないのだが巨体の彼には避けるのには少々骨が折れる。

「ジョジョ、あんたじゃ荷が重いから私があいつに一発叩き込んでやるわ。
そこで避ける練習でもしてなさい!プラクティスモードよ。」

「僕も行く!君だってあの太陽に近づくわけにはいかないだろう!」
「弾幕慣れしてない上にでかいあんたじゃ私についてこれないわ。言われた通りそこで待ってなさい!」

そう言い捨てると、レミリアは空目がけて走り出した。
レミリアは内心穏やかではなかった。幻想郷に住まう妖怪がこんな下種な殺し合いに
どんな形でも参加してしまったのだから。



レミリアは最初から全速力で相手との距離を詰める。ああは言ったものの、太陽の影響
を受けるのを最小限にとどめたいからだ。大玉の弾幕に対しても小型の弾幕に対しても
最小限の動きでグレイズする程度に抑え空に接近していた。いよいよ避けきるのが
厳しくなってきた頃合いを見計らって、スペルカードの宣言をする。

「邪魔よ、紅符『スカーレットシュート』」

レミリアの眼前から大玉と時間差でその軌道を中、小様々の大きさの弾幕が放たれ、
弾幕同士での相殺に成功し、空のもとへ向かうための最短距離を確保した。
弾幕が消滅した瞬間、レミリアは空に次の弾幕を展開させる前に接近すべく駆け出した。
その手にはいつ作り出したのか、普段と比べるとやや小ぶりだが霊力から生成した『真紅の槍』が握られていた。
空も、やるじゃないと呟きつつ、制御棒からレーザー状の刃を形成する。
そして空のもとへたどり着いたレミリアは加速した勢いを殺すことなく上段から振り下ろし、
空はその一撃を受け止める形となった。

夜の一族が操る魔槍と太陽の力を宿す刃が激しく激突した!

「ち…小さい割に力持ちね。」
「ふ…ふん、まだ…まだこんなの序の口よ。」

お互いの力、獲物共に拮抗していた。いや、純粋な力比べにおいてレミリアに軍配が上がるだろう。
空がいくらパワーに自信があるといえど、吸血鬼は鬼に次ぐ力を持っており、強大な種族の壁を超えるには至らない。
しかし、獲物においては差が出てしまった。太陽を避ける存在とその力を操る存在
とでは、それぞれの力で生み出した武器においても同様の優劣がついてしまったからだ。

「ずいぶん刃こぼれがひどいわね?そんな武器で大丈夫かしら?」
「ご丁寧にどうも、大丈夫よ問題ないわ。まったく忌々しい太陽ね。」

武器が火花を散らすごとに『真紅の槍』は太陽の光に溶かされるように刃こぼれしていった。
そのためレミリアは魔力を絶えず注ぎ修復しなければならなかった。
迂闊に全力で打ち合えば一気に壊れる可能性もあり加減しなければならないが、問題はそれだけではない。

 流石にこの距離だと暑くて仕方ないわね。

対峙してすぐは平気だったが、鍔迫り合いからの武器の打ち合いは、日光を直接浴びてしまい、
まるで火で炙られているような痛みがレミリアを襲っていた。全身が焼かれる痛みに舌打ちしながら、どう動くかを思考する。

このままじゃあ身体は焼かれるわ、魔力は消耗するわ、私には不利…いったん距離を―――
 なんでこいつこんな力があるのよ?でもこの距離ならこいつを火だるまにしてやれるわ!

レミリアは空にもう一度鍔迫り合いの状態に持ち込み、隙なくバックステップで距離を取るべく接近する。
空もこれに応じて再び鍔迫り合いの形となった。レミリアは武器を介して体重をかけるが、
空からの手応えが小さいこと、加えて空が急に黙り込んだことに気づき訝しんだ。

「あんた、何か狙ってるでしょう?」
「あーもう、ちょっと黙っててよ!集中できないじゃない―――あっ…」

「はぁー、私も舐められたもの…ねえ!」

硬直状態に業を煮やした空がスペルカードの準備をしていることを察したレミリアは、
霊力を最大限にして『真紅の槍』をスペルカード「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
の大きさへと一気に昇華させる。

「ちょ、何なのよその大きさ!」
「暑苦しいわ、退きなさい!」

空が驚くのも無理はない。その大きさはレミリアの身の丈の何倍にも及ぶ
凶悪なフォルムへと姿を変えていたからだ。レミリアはさらに今まで抑えていた力も
全力にして強引に空を押し退けた。何かをしながらの慣れないスペルカードの準備
にすっかり気取られた空は吸血鬼の力をもろに受けて大きく吹き飛ばされた。




「このまま叩き潰す!…っあれ?」

レミリアは吹き飛んだ空に追撃を試みるが足に力が入らず、片膝を地に着いてしまった。

「…だったら!神槍『スピア・ザ・グング……えっ!?」

今度は「神槍『スピア・ザ・グングニル』」を投擲―――しようとするが、
急に霊力の維持ができなくなり、元の大きさに戻ってしまう。

「…な、何でよ…!こんな、はぁ、大事な時に…!」

レミリアもまた慣れない日光を浴びながらの戦闘、特に至近距離で浴びた反動か、
想像以上に全身の火傷と疲労が蓄積されていたのだった。
しかし彼女はそれに気づかず、むしろ冷静さを失う。

「はぁッ、吸血鬼の私が、はぁーッ…こんな…こんな体たらくで終われるかああぁぁあああ!!」

それでも執念で立ち上がり今持てる全力で投擲する。しかし、空が本来はレミリア
に食らわせるはずだったスペルカード「制御『セルフトカマク』」が既に展開されて
おり、彼女に突き刺さるよりも早く高熱空間に飲み込んでしまった。

結局のところレミリアは空へダメージを与えるまでには至らなかった。

夜の一族が太陽の下で闘ったことがまるで呪いのように体を蝕み、思うように動けなくなったのだった。

「はぁーッ、吸血鬼の私が…馬鹿を考えている妖怪ぐらい…止めることなんて、わけないのにッ、どうしてよ…。」

レミリアは折角のチャンスを棒に振ってしまったことに茫然としていた瞬間―――
彼女の頭を軽くポンポンと叩かれるのを感じ、猛スピードで駆け出した大きな背中が見えた。
彼女はそれを見てホッとした自分を、見送ることしかできない自分がただただ恨めしかった。


一方空は吹き飛ばされた際に地面を何度か転がったが、湿地の環境のおかげか大した怪我はなく、
彼女に宿る八咫烏に感謝するのだった。しかし、身を起こした瞬間空は驚愕する―――
彼女にとって完全に埒外の存在が走ってきていることに!

「えっ!?な、なんで?あ、あんたいつからいたのよ!」
「答える必要は…ない!」

  ジョナサンと空の距離は5メートル―――

空は咄嗟にもう一度「制御『セルフトカマク』」の発動を試みる。展開し終え
て間もなかったので、なんとか発動に成功する。

  ジョナサンと空の距離は3メートル―――

こいつ、素手で挑むつもりなの?まあいいわ、この技の最中は私も特にできること
はないけど、一応ガードしておかないとね。

  ジョナサンと空の距離は1メートル―――

 レミリアが弾幕を払ってくれたこの好機を絶対に逃がさない、僕の全力の波紋をくれてやる!

  ついにジョナサンの腕がセルフトカマクの射程圏内に突入する。

 うそ…!突破してくる、狙いは…鳩尾、ガードしないと!

空は自身の鳩尾を守るように制御棒を盾にするが、ジョナサンはそれがどうしたと、
言わんばかりにガードされた制御棒ごと空の腹部を激しく強打した!
もちろんそれだけでは終わらない―――

「流し込む!銀色の波紋疾走!!」

ジョナサンの放った拳を通して空へと波紋が駆け巡ると、殴られた衝撃と電気ショックに似た
感覚が彼女を襲い、またもや強かに吹き飛ばされた。ジョナサンは罪悪感を抱くが確実な手ごたえを感じ、
気絶させることに安堵するのであった。セルフトカマクが展開している空間を無理やり突破した右手は、
シーザーの手袋ごと焼き付いており、酷い火傷を覗かせていた。

「僕には片手の火傷程度では止まれない理由がある。それは誇りある吸血鬼の『覚悟』
を無駄にしないため!延いては殺し合いを止めるため!君との闘う動機の『格』が違うんだ!」

ジョナサンは力強く宣言し、今の一撃で気絶したであろう空の様子を窺おうと近づく。




しかし、今度はジョナサンが驚愕する―――ついさっきまで倒れていた空が起き上がっていたのだ。

ジョナサンの位置を確認し、何か宣言すると金色のオーラを纏い、猛烈な勢いで迫っていた。
咄嗟の事態にジョナサンは対応できず、空の体当たりが腹部を捉えすさまじい衝撃と共に、
10メートルは吹き飛ばされただろうか、何度も地面を転がった。


「ぐああぁあっ!ま、まさか波紋が効いていない!?」


吹き飛ばされた地点を見るとよろけながらも空が立ち上がっており、こちらを見据えていた。

「っ痛ぁ…冗談じゃないわ。なんか痺れるし、無茶苦茶痛かったわよ。でも…
それだけね!妖怪の私をダウンさせるには貧弱ッ、貧弱すぎるのよ!」
「くっ!」
「あんた『覚悟』の『格』が違うとか言ったわね。なら私も見せてやるわ『核』の力!『核熱 核反応制御不能ダイブ』!」

そう言うと、空は自身の核エネルギーを体内で核反応を起こし、金色に輝くエネルギー
を鳥を模したシルエットの形として身に纏うと、ジョナサンの間合いを一瞬で詰めるほどに近づいていた。

 ま、間に合わない…!

先ほどジョナサンに見舞った同じものだが、ジョナサンはあまりの速さに回避する術もなくまたも体当たりを受けた。
核エネルギーが生み出した圧倒的なまでの推進力による体当たりは、あまりにも暴力的
な威力を発揮し、まるでボールのようにジョナサンが吹き飛んでいった。
空はなおも追撃を狙おうとするが、スペルカードの通り「制御不能」であるため上手く軌道を調整できず代わりに上空へと飛翔した。

「ジョジョ!」
「私を倒すっていうならこれぐらいやってのけないと不可能よ。そして、後はまとめて
焼き払って終わりよ!」

 なんてスピードだ、とても見切れるような速さじゃない!

ジョナサンは何とか意識を手放すことなく、ふらつきながらも立ち上がる。頭部からの出血、
さらに肋骨にもダメージがあるが空がまだ何か仕掛けようとしているのを即座に感じ取り、素早く構える。
2度に渡る空の突進に全身が悲鳴を上げるが、何とか波紋の呼吸を整え痛みを殺し、空のいる上空を見た。

 この圧倒的なプレッシャー!最初に放った弾幕よりもさらに大きな力を感じる!
一体どうすれば僕の力で止められる!?

「ジョジョ、立てるわね?まずは距離を取るわよ。」

いつの間にか近づいてきたレミリアがそう言ってきた。どうやらもう動けるようだ。
言われた通り、ここは攻撃を何とかやり過ごさなければならない。二人は空から
離れるべく走り出したが、すぐさま異変に気付いた。

「これは…引き寄せられているのか!?」

そう二人は、空のいる方向へと吸い寄せられているのだった。
空を見ると彼女の手から球場に発光するエネルギー体があった。

「逃がさないわよ、弱ったあんたたちならこいつの引力からは逃げきれないわ!
 ―――『地獄の人工太陽』―――!!」

空が『太陽』に力を注ぐごとに引力が増し、二人の動きが鈍くなる。

 このままじゃあマズい、あの子は上空にいるから手出しはできない上にあの『太陽』を受けたら、僕もレミリアも無事では…




ジョナサンは最悪のイメージをしてしまう―――全滅の危険性を。





だがここに来てジョナサンは自分の精神に潜む爆発力から、一つの天啓をひらめいた。それは―――










最初に考えたことは全滅だけは避けなくてはいけないということ、だが二人同時に射程圏外
にたどり着ける方法は思いつかなかった。そう二人同時には―――

「レミリア、すまない!」

そう言うが早いがジョナサンはレミリアをひょいと担ぎ上げた。

「えっ?ちょ、ちょっと!な、何の真似よ!」
「今から君を全力で投げるからその後は何とか距離を取ってくれ!」

レミリアはじたばたとするが日光を受けた影響かどこか弱々しく、ジョナサンは動じない。

「ハアッ?バカにしないでほしいわ。見てなさい今からあいつに一撃かましてやるわ!」
「説明している時間はない、無理やりだけど許してくれ!」

そういうとジョナサンはなんとレミリアに対して波紋を流したのだった!
暴れていたレミリアはくたっとしたのを確認したジョナサンは、
波紋の呼吸を整え思いっきりレミリアを投げた。彼女の身体が軽かったのか、
引力の圏内にも関わらずレミリアの身体はその圏外へ逃れることに成功した。
そして不思議なことに地面に激しくぶつかることなく大した傷はつかなかった。

「うまくいったか…。さあ、僕も覚悟を決めないとな……」

気が付けば、空との距離は彼女が持つ『太陽』の熱さを直に感じるほどになっていた。

「どうして吸血鬼を逃がしたの?」
「ここからは僕一人でやれるからさ。それに君だって仲間がいるなら巻き込まれないようにすると思うけどね?」
「当然ね!あんた達の始末なんて私だけで十分だからね!ってあんた一人で私を止めれるつもりなの?
馬鹿にしないでほしいわ!」

空は、上空から気を付けのポーズでジョナサンへとに近づくべく降下を始めた、その
意図は至近距離で当てるためだ。今まで少々無計画に霊力を消費し過ぎたので外したくはなかったのだ。

 殴られた時はビリビリってきたけど、こいつにはそれくらいしかできないわ、確実に命中させる!

 今できることは最高のコンディションで波紋を放てるようにすること。
死の『恐怖』を支配し『勇気』の証である正しい呼吸を生み出すんだ!




ついに距離は5メートルを切ったところで空は『地獄の人工太陽』を持つ手を正面に突き出そうとする。
ジョナサンもその瞬間を狙ったかのように動き出す。地面を力強く蹴り空目がけて跳躍し、
波紋を一斉に練り上げ、右腕の拳に波紋を集約させる。
彼は無謀にもその拳一つであの『太陽』に立ち向かうのだった!

「ちっぽけな存在ね。燃え尽きなさい!」
「おおおぉぉおおおお!食らえ、波紋疾走!」

二人の腕が激突するかに見えた瞬間―――しばらくして凄まじい爆発と共に強烈な太陽の光が降り注いだ。




僅かな間気を失っていたレミリアは、その轟音と身を刺すような光で無理やり覚醒させられた。
空が放った太陽はまるで彼女を嘲笑うかのように強烈な爆発を終えた今も輝いていた。

「あいつは!ジョジョはどこに行ったの!?」

日光は暑いがそんなものを気にしている場合ではない。上空にある太陽の下のほうを見るが
2人とも見当たらないのだ。すぐにでも太陽の下へと向かいたかったが、
日差しの影響か動きが鈍く、自身が吸血鬼であることを恨めしく思うほどだった。
幸いにも太陽は徐々に消滅してしまったようで、すぐに駆け寄るが二人そろって姿を消していた。

「どこよ…返事ぐらいしなさい、ジョジョ!」

そして、レミリアは想像してしまう、ジョナサンが相討ちを狙っていたのではないかと。
そのために自分を逃がしたのではないかと…


だがその時レミリアの耳にざぶんと、水の中に誰かが倒れる音が鼓膜を叩いた。音の方向は
彼女が向いている正反対の方向。反射で振り向くとそこに立っていたのは―――



時間はほんのわずか遡る…



二人の腕が激突するかに見えた瞬間のほんのコンマ数秒、空は違和感を感じていた。
腕が前へと突き出せないのだ。まるで見えない力に押さえつけられているように。

な、何よこれ!腕が動かない!?

その一方でジョナサンは空に対してジャンプした勢いのまま拳を彼女顔面を殴り抜いた!ダメ出しに波紋も流し込む。
空は殴られた拍子に『太陽』を手放しそうになるのを何とか堪え、上空へ逃れる。

 うっ、ぐっ!体が痺れる…!こうなったら『太陽』をぶつけて一旦距離を置くしか…

ジョナサンは地面へと着地、空は5メートルほどの高さまで飛翔し、再び振り出しに戻る……
かに思われた瞬間―――!








「逃がしはしないぞ!生命磁気への波紋疾走!!」





ジョナサンが波紋を練り上げると、今度は空の身体が引き寄せられた!
あまりの予想外の連続に対応できず、一気にジョナサンの下へ吸い寄せられる。
そう、突如空の腕の動きを封じ、今ジョナサンに引き寄せられている力の正体は波紋疾走によって、
生命磁気へ干渉したためだった。生物にあるとされる生命磁気を波紋により活性化させることで、
対象に磁力が宿ったかのように操作していたのだ。とはいえ上空にいる相手をも引き寄せることができたのは、
ウィル・A・ツェペリの波紋を受け継いだ彼だからこそ成せる業である。
ちなみにレミリアを逃がすために波紋を流したのも、単に気絶させるためだけではない。
引力の圏内から生命磁気の反発によって逃がすため、地面に激しく激突させないようにするためでもあったのだ。


そして、空は体の痺れからかついに『太陽』を上空へと放ってしまった。『太陽』は
主の制御を失ってしばらくするとそのエネルギーを保つことができずに拡散した。
幸いにも生命磁気によって引き寄せられた二人は、その爆発をまともに受けることは
なかったがその余波を受け、縺れ合う形となって地面を転がった。

「うわあぁあああ!」
「きゃああぁああ!」

二人が行き着いた先には湿地帯にある浅いため池だった。両者ずぶ濡れになりながらも先に仕掛けるべく立ち上がる。


「…っ、光熱『ハイテンションブレード』!」

空は自分の動きを操作された相手の力にどう動くか一瞬悩むが、制御棒からレーザー状の刃で切り伏せるために走る。

しかし、水辺において波紋戦士に僅かでも猶予を与えたのが勝敗を分けた!


「水を駆け巡る波紋!青緑の波紋疾走!!」


水に浸かっている足の先から波紋を伝わらせるように水を蹴り上げ、波紋は刃が届くより一寸早く空を捉える!
ずぶ濡れの空の身体に波紋は隈なく走り、その一撃が決着となった。

「っあああぁぁああッ!くっ、う…うにゅ…」

空はため池へとうつ伏せの姿勢で大きく水飛沫を上げて倒れた。ジョナサンはまた起き上がるかと身構えるが、
ピクリとも動かない。念のために脈をとって生きていると確認した後、ため池の外まで運び、
仰向けに変えてやるとついに緊張の糸が切れたようにその場に腰を落とした。

「ハァーーっ、ハァーーーっ。か、勝ったのか…」

ジョナサンは波紋の呼吸を忘れ、肩で息をする。その途端に全身痛み出すが、
まずはありったけの空気を身体に行き届けさせたかった。











しばらくするとそんなジョナサンの頭を後ろからポンポンと叩かれた。振り返ると、
そこにはやや不機嫌そうにこちらを見下ろすレミリアが立っていた。

「まさか邪魔だからって私が物みたいに投げられるなんてね。貴重な体験だったわよ、ジョジョ。」

これが本物の邪魔者って奴かしら、と話すレミリアの語気は不満そうにも自嘲気味にも聞こえた。
ジョナサンはレミリアを危険に晒した自分の非を認め謝罪することにした。

「理由があるとはいっても、吸血鬼の君にいきなり波紋を通してすまなか…」





「違う!!」





ジョナサンの謝罪の言葉はレミリアの一喝で遮られた。

「なんで、なんで謝るのよ!」

レミリアは堰を切ったかのように思いをぶつける。

「あの戦いで私は確かに無力だったじゃないの!自身が吸血鬼である自分を呪うほどによ!
…ただの足手まといだった…挙げ句助けるつもりが逆にただの人間に
無様に助けられて、そいつは自分から頭を下げる…そんなんじゃあ…」

私の立つ瀬が…ないじゃない、と弱々しく付け足す。

レミリアは悔しかった、圧倒的な強者である吸血鬼が一転して無力な存在になってしまったのだから。
弱点が多いことは理解している。日光が苦手なことも理解している。
普段の彼女なら強者故の制限だと一笑に伏せるだろうが今は違った。
そんな無力な自分を救ったのはついさっき出会った、ただの人間だったから。
厳密に言えばジョナサンは波紋を扱えるという点ではただの人間ではないが、吸血鬼であるレミリアからしたら、十分ただの人間だった。
この事実が皮肉にもレミリアのプライドに大きな傷をもたらしたのだ。


しかしジョナサンはレミリアを真っ直ぐ見据えてはっきりと告げた。

「君が最初に弾幕を突破してもらえなかったら、僕は避けるので精一杯だった。
君あっての勝利なんだ気に病む必要はないよ。」

「そういう謙虚な態度が私のプライドを踏みにじっていることに気が付かないの?
なんで私のプライドが傷ついたと思う?私が『上』であんたが『下』って見ていたからよ。」

 レミリアの声はいつもより数段低く、ジョナサンも聞いていて肝を冷やしていた。

「僕は君がそんな風に見ていたとは思えない。共に戦う仲間として扱ってくれたことは僕自身が一番理解している!」

「じゃあ何で私はあんたに助けられてイラつくのよ!…答えは簡単よ。
人間ごときに守られた自身の不甲斐なさ、これに尽きるわ。」

そこで一旦区切るとレミリアはジョナサンに向かって歩き出した。

「サヨナラよ、ジョジョ…迷惑かけたわね。」





レミリアはそう言うとジョナサンの横を通り過ぎようとするが、ジョナサンは口を開く。

「君が感じたことは君自身にしか分からない…だが!君の抱いた不甲斐なさから、
僕から一つ言えることがある!」

レミリアは何も聞こえていないかのように平然と歩く。ジョナサンが気付いたもの、レミリアの傲慢さの奥にあるものそれは―――








「それは『誇り』!吸血鬼として!幻想郷の一員としてこの殺し合いを止めるべく
動こうとした君の覚悟と責任の表れだ!」

「そんな君の『誇り』ある行動は誰であっても汚されていいものではない貴いものだ!」

レミリアの動きが止まった。

「君の言う通り、今この時を境に僕と君との同盟は終わりを告げる…。
しかし、このジョナサン・ジョースターは知っている!」

「君の内にある『誇り』、僕の内にある『覚悟』今もう一度引き合う『引力』になることを!」

ジョナサンはレミリアに手を差し出す。

「僕はもう一度君と手を組みたい、レミリア。お互いの関係を『プラス』でも『マイナス』でもない
『ゼロ』からのスタートとしてもう一度共に闘おう!だから!
自分の力が至らなかったなんて気にする必要はないんだ。」


レミリアは振り返る。

「何で私にそこまで関わろうとするの?」

ジョナサンは語る。レミリアと同じ種族である友人―――ディオのことを。

「僕の奇妙な友人とはもう殺すことでしか終わることができない間柄だ。
決して仲は良くなかった、いや悪かったと言っていいだろう。それでも僕の青春を
共に過ごしてきた相手だ。だから、今ふと思ったんだ。吸血鬼の友人を持っている
僕なら、ひょっとして人間の僕でも君が自分のプライド
を気にすることなくいられる相手になれないかって思ったんだ。」


「ふーん、前にも言ったけど勝手にインスタント製吸血鬼と一緒にするなっていったでしょ。それにあんまり理由になってないじゃない。
ったく、ちょっと私に皮肉や嫌味の一つでも言えば私の気は済むのにねぇ…。仲直りするのにお互い随分遠回りしていると思わない?」

「僕も君もそういう性分なんだ。こればかりは仕方ないんじゃないかな?」

レミリアは差し出された手を強く握り返す。

「『吸血鬼』の私に『対等』の関係を望むあんたの傲慢な願い、確かに受け取ったわよ、ジョジョ。
にしても熱烈なラブコールねぇ、他に言いようがなかったの?聞いてるこっちが恥ずかしいわ。」

「からかおうとしたって、引っかからないぞレミリア。」
「これは本当よ。まったく、ちゃんとした恋人がいるくせに誤解させるわよ、色男。」
「なっ、エリナは関係ないだろ!そ、そんなつもりで言ったわけじゃあないんだから!」
「やれやれ、この様子じゃエスコートさせるのは期待できそうにないわね。」

レミリアはクスクスと笑った。




「さてまずはこの烏をどうするか、ね。伸びている間にサクッととどめを刺しちゃおうかしら?」
「…分かって言っているだろ、レミリア。この子の仲間はこの殺し合いに巻き込まれている。
その仲間を救おうとする意志もあるんだ、何とか説得したい。」
「そう言うと思っていたわよ。とことんアマちゃんなんだから、殺されかけといてねぇ。」

レミリアから非難されるがそれでもジョナサンは意見を曲げなかった。

「僕は彼女に手を上げる度に思ったんだ。彼女にも仲間がいるはずだと、
その仲間が悲しむことはしたくないんだ。」
「まっ、あんたが止めて見せたんだから、私はとやかく言うつもりはないわよ。
でも一つだけ言っておくわ、こいつの説得が無理だった場合は…」
「完全に再起不能にする、分かっている。彼女の力は危険すぎる、万一逃がしたら
僕たちだけの問題では済まなくなる。」

満足のいく返事が聞こえたのでレミリアは、頷いて了承する。

「宜しい。とりあえずいきなり暴れられたら困るし、ふん縛っておきますか。
ジョジョ、ロープはあるかしら?折角だし私がやってあげるわ。」

レミリアが自分からやると言ったので嫌な予感がしたが、女性をロープで縛るのは
ジョナサン自身抵抗があったので、素直に命蓮寺から拝借してきたロープを取り出す。

「…ほどほどに頼むよレミリア。」
「任せなさい、まあこいつなら焼き切るかもしれないけどね。
ついでに物騒なこいつも取り上げておくわ。」
レミリアは空の右手に装着されている制御棒を無理やり取り外し、空のデイバック
を外すと嬉々とした表情でせっせとロープを巻き付けていった。

                             ―――少女緊縛中―――



ジョナサンはその間に空が背負っていたデイバックの中身を見てみた。どうやら
基本支給品の他に二つ支給されているようだった。
一つは小さめな壺、もう一つはジョナサン自身見たことのない機械が入っていた。

「ちょっと、ちょっと私を差し置いて勝手に支給品の確認しないでよ。」

レミリアがいつの間にか戻ってきていた。どうやらあっという間に空を雁字搦めにして
しまったようだ、ジョナサンは空のことを少々気に病んだ。

「ああ、レミリア。君はこの機械について何か知っているかい?」
「何よこれ?見たことないものね。」
「この『ウォークマン』って機械に音楽が入っていて、イヤホンから聞こえてくる
みたいなんだけどこの画面を見てくれ。」
「『東方紅魔郷 No.13 亡き王女の為のセプテット レミリア・スカーレット
のテーマです。』って何よこれ。
勝手に人の名前を使ってどういうつもりかしら?ちょっとそれ貸してみなさい。」

そう言ってジョナサンからイヤホンを受け取ると、耳にはめ込んで
一頻り聞いてみる。やがて外すとレミリアは口を開いた。

「悪くないわね、私の名前を勝手に使っている点に目を瞑ればね。
ここにはいないけど、騒霊楽団の連中にでも演奏してもらうのもアリね。」
「そうじゃなくて、何か他に感じたことはないのか?」
「うーん、聞いたことないのに懐かしさを感じるって程度ね。どうやら私含め異変に携わった幻想郷の連中の曲がこいつに入っているようだわ。」
「ああ、その他に説明が載っていない曲もあるし、かなりの量だ。」
「気にはなるけど、こいつは後回しね。それでこの壺は何?」
「『河童の秘薬』と言って、切断された腕でも即座にくっつけることが出来る薬みたいだけど本当かな。」

レミリアはふむ、と頷くとジョナサンの右手を見遣る。

「ジョジョ、あんたが使いなさい。無茶した右手の火傷を直すのにね。命令、いいえ
友人としての頼みとして。」
「ああ、ありがたく使わせてもらうよ。」

ジョナサンは火傷を負った右手の手袋を外すと、そこへ黒い軟膏状の『河童の秘薬』を皮膚へと塗り込んだ。
するといつの間にか火傷の跡など最初からなかったかのように治っていた。

「…すごい、痛みも消えたし火傷の跡も全くないなんて。」
「へ~、凄いわね。パチェは河童の腕が切り落とされた時にできるって言ってたし、
ここにいる河童から試してみようかしら?」

ジョナサンはレミリアが物騒なことを言っているのは気にせず壺を彼女に寄こした。

「僕の残りの傷は波紋法で治せる。それより太陽に焼かれた君のほうが、
治りもかなり遅いはずだから使ってほしい。」
「そうさせてもらうかしら、いまだにヒリヒリしてしょうがないわ。ってベトつきそうねこれ…」
「傷口に塗ってしまえばすぐに効果があるから我慢するんだ。」
「…うーん、仕方ないって言ってもね…」
しばしぐずるレミリアが『河童の秘薬』で日光による全身の火傷を治療するのはしばらくかかったようだ。



「レミリア、これから出発するけど目的地を変えたい。」
「どうしてよ、他に当てがあるの?」

当然の疑問である。レミリアの知る限りなら人が集まりやすいのはおそらく、紅魔館と人間の里だからだ。

「この子を抱えたまま紅魔館までの目指すのは少し遠いし、途中で襲われたら危険だ。
ひとまずこの子を寝かせておける場所へ行きたい。」
「そうねぇ、暴れだして私の家を焼かれたらたまったものじゃないわ。それじゃあ
さっきの寺に戻るつもり?」
「本当ならそうしたいけど、この子は命蓮寺を焼き討ちにするとか言っていた。
何か因縁がある場所かもしれないから、西にある『香霖堂』へ行こうと思う。」

レミリアはため息交じりにぼやく。

「やれやれねぇ、ひとまず日傘はお預けね。まぁあるとも限らないから構わないわ。」
「もし、日傘が手に入らなかった時のために、命蓮寺から一つは傘を持ってきているけどいらないかい?」

ジョナサンは持ってきた傘をデイパックから取り出す。妖怪『からかさ小僧』
を彷彿とさせる奇抜なデザインが光る傘だった。

「あら気が利く…、あんた物を見分けるセンスはないようね…。」

レミリアは一瞬表情が明るくなったが、傘のデザインを見て一気にがっかりしたようだった。

「命蓮寺に行くことが出来た記念も兼ねてもらってきたんだ。それにこの傘、
何だか使ってほしそうに見られてる気がして。それでつい…」
「そうやって興味本位で動くと、『石仮面』の時みたいになるわよ?」
「うっ…、冗談でもそれはやめてほしいな。…そうだな気を引き締めないと。」

痛いところを突かれたジョナサンは奇抜な唐傘をデイパックにしまうと、三人は目的地を変更し、香霖堂を目指すのだった。



「ジョジョ、言いそびれたけど一言いいかしら?」
「どうしたんだレミリア急に?」
「せっかく私の友人なるのだから、私のことは『レミィ』と呼びなさい。ひとまずこの殺し合いを終えるまでは…ね。」


【D-4(中央付近) 湿地帯/黎明】
【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(強)、肋骨損傷(中)、疲労(中)、頭部出血(処置済み)、
右手に火傷(完治)、半乾き、左頬に掠り傷(処置済)、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)
[道具]:河童の秘薬(半分消費)@東方茨歌仙、妖怪『からかさ小僧』風の傘@現
地調達、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
2:霊烏路空を香霖堂へと連れていき説得する。説得が不可能な場合は完全に再
起不能にする。
3:スピードワゴンらと合流する。レミリアの知り合いも捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードタルカスの名が何
故記載されている?『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なの
か?
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」
のみです。コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもし
れません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。



【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:霊力消費(中)、全身に日光による火傷(ほぼ完治)、疲労(中)、右手
に軽い波紋の火傷(行動及び戦闘においての大きな支障は無し)、再生中
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年」1部~3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマ
ン@現実、制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:主催者共を叩きのめす。
1:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
2:霊烏路空を香霖堂へと連れていき説得する。説得が不可能な場合は完全に再
起不能にする。
3:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
4:自分から積極的に仕掛けることはしないが、敵対するなら容赦なく叩き潰す。
5:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
6:…ピンクダークの少年の作者の岸部露伴って、名簿にいたわよね?
7:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換し
ました。どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことの
ある懐かしさを感じたようです。



【霊烏路空@東方地霊殿】
[状態]:気絶、ロープによる拘束、右頬強打、腹部に打撲(中)、波紋による痺れ(中)、
疲労(大)、霊力消費(大)、半乾き、わき腹の端に刺し傷(完治)、翼に打撲(完治)
[装備]:ロープ@現地調達、制御棒なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:地上を溶かし尽くして灼熱地獄に変える。
1:地霊殿の住人は保護する。
2:目の前の人間(ジョナサン)と吸血鬼(レミリア)を焼き尽くす。
2:地底の妖怪は邪魔しなきゃ見逃してやる。
3:ワムウ(名前知らない)は私が倒した(キリッ
4:取りあえず東進して命蓮寺で休む。寺は休んだ後で焼き討ち予定。
[備考]
※参戦時期は東方地霊殿の異変発生中です。
※地底の妖怪と認識している相手は、星熊勇儀封獣ぬえ伊吹萃香です。
※空が使用したスペルカード『地獄の人口太陽』が上空に放たれたことによって、
誰かが気づいたり、日光の影響を受けたりするかもしれません。


支給品紹介
○河童の秘薬
【出典:東方茨歌仙】
霊烏路空に支給。
運松翁という職漁師が、品書きの書かれた箱入りの腕、それを抱えるような形で
もう一つの腕を偶然川で拾い、それらを引き換えに河童からもらったものである。
塗ったところを瞬時に治せるほどの回復力があり、もし腕が取れていても元通り
に付け直せるそうだ。おそらく軟膏のようなものだと思われる。茨木華仙曰く
「河童が腕を切られた時に生み出される秘薬」らしいが、実際は不明。

○ウォークマン
【出典:現実】
霊烏路空に支給。
場所を選ばずにいつでもどこでも音楽を聞くことができる携帯電子機器。モデルはNW-S785。
東方靈異伝を始めとする旧作を含めた東方作品、西方、秘封倶楽部、幺樂団の歴史、書籍付属のCDなど
ZUN氏作曲の音楽が一通り聞くことが出来る。その他に曲ごとのコメントがあるものはコメントも読むことが出来る。
結構な量だが探せば他にも何か入っているかも?

○ロープ
【現地調達】
ジョナサン・ジョースターが命蓮寺で調達。
ジョナサンが命蓮寺から去る前に、役立ちそうな道具を探す際に見つけたものの一つ。
繊維を撚り合わせて一本に太く仕上げてあるもの。
現在はレミリアがストレスの発散のために、空を暴れさせないためにきつく縛ってある。
                          ―――少女緊縛中―――

○妖怪『からかさ小僧』風の傘
【現地調達】
ジョナサン・ジョースターが命蓮寺で調達。
ジョナサンが命蓮寺から去る前に、役立ちそうな道具を探すついでに見つけたもの。
傘立てにある普通の唐傘に紛れて一本だけ奇抜なデザインだったのでよく目立っていた。
万一紅魔館で日傘が入手できなかった場合に用意したものだが、当のレミリアは使う気はなさそうだ。

051:廻る運命の輪 投下順 053:Kindle Fire【焚きつける怪炎】
050:穢き檻の眠らない夜 時系列順 053:Kindle Fire【焚きつける怪炎】
008:Scarlet Overture ジョナサン・ジョースター 065:Roundabout -Into The Night
008:Scarlet Overture レミリア・スカーレット 065:Roundabout -Into The Night
023:北風と太陽 霊烏路空 065:Roundabout -Into The Night

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最終更新:2014年01月16日 21:55