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--- <黎明> GDS刑務所 女子監 広場 ---
未だ地平線に落ちぬ星々が輝く黎明の平原にポツンと聳え立つ巨大な刑事施設『GDS刑務所』。その不気味な印象を光らせる監獄の敷地内に三人の影が伸びていた。
トレードマークの黒い中折り帽が印象的な『オカルトマニアの少女』
宇佐見蓮子。
彼女の支給品であるDISCにより自身が獲得した『自動追跡式自立型スタンド』ヨーヨーマッ。
そして欲望と好奇心に満ち満ちた『堕ちた仙人』
霍青娥。
突如襲撃してきたヴァニラを止める為に激突するジョニィを一人残して、施設外へと逃げ出した蓮子。
近くにいる参加者に助けを求めようか思案している最中の彼女を『新手』が襲った。
新手の女…霍青娥はいともたやすく蓮子を後ろから羽交い絞めにして蓮子を拘束し、その甘美な声色を持って優しく囁く。
「―――私と、お話しましょう?」
---ベロンッ
「ヒィッ……ッ!?」ビクンッ
そう言って青娥は羽交い絞めにしながら蓮子の『頬』を舌で舐ぶる。
「私ねーその人の汗の『味』で嘘をついてるかどうかが分かるのよ~(嘘♪)
下手な事言わない方が良いわよ~♪」
青娥はニコニコ笑いながら青娥の頬や首元を何度もレロレロと楽しそうに舌を這わせる。
(な…何なのよコイツゥ~~~ッ!?普通じゃない…!)
その有無を言わせない妖しい迫力とプレッシャーに蓮子の背筋が凍る。
これから始まるのは『対話』ではなく、一方的な『尋問』なのだという事を蓮子は予感した。
下手な嘘は言えない。こちらが少しでも反抗的な態度を見せれば、仙人である青娥の強靭な腕力で蓮子の首など文字通り一捻りとなるだろう。
今の所は、とりあえず青娥の言う事に大人しく従うしかない。
「ヨーヨーマッ。私は大丈夫だから…少し離れてなさい。大丈夫…きっと、大丈夫…」
『…承知しました。ご主人様…』
「うふふ…♪随分聞き分けの良いしもべさんなのね。芳香よりも有能そうだわ。」
ヨーヨーマッは主人である蓮子の意に沿うため、不本意ながらも二人から離れて様子を伺う。
「いいこいいこ♪そうやって素直に言う事を聞けば私は何も危害は加えないわ。そうね…それじゃあまず、その『人形』の事について詳しく教えなさい?」
蓮子は心中で必死に頭を巡らせた。
この女は『嘘つき』だ。危険な存在。私から情報を聞くだけ聞き出した後は、私なんて虫のように潰されるかも。
この女の『一手』上を行かなければならない。何とかして出し抜かなければ……どうしよう…どうする?
助けてメリー…怖いよ……
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---夜が明ける。月と星が支配する時間は身を潜めてきたが、いつもと変わらない朝日がいつものように姿を現してくるには、もう少しだけ時間がかかりそうだ。
青娥による数十分にも及ぶ尋問は、次第に蓮子の体力と精神をジワジワと削っていった。
青娥はまるで子供が教師に質問する事のように興味津々な面持ちで、次から次へと蓮子に疑問を投げては納得していく。
「あの『人形』は何かしら?なんていう名前なの?」
「『スタンド』…?それはどういったものなの?」
「貴方もスタンド使いなのかしら?」
「『スタンドDISC』…それを頭に挿入すれば誰でもスタンド使いになれるのね?」
「貴方のDISCのあの気持ち悪いスタンドの能力はどういったものなの?」
「そう言えば、貴方自身の事は聞いていなかったわ」
「スタンドではなく、貴方自身の能力はあるの?」
「『星と月を見るだけで時間と場所が分かる程度の能力』…、ねえ蓮子さん?それは面白いの?」
「さっき一緒におられた金髪の殿方のスタンド能力を教えなさいな」
「…知らない?嘘をつきますと大変ですわよ?」
「…ふーん。まぁ良いわ。ところでお嬢ちゃん、今何時かしら?…あらあら、もうお星様は隠れてしまいましたわね。これでは貴方の能力は使えませんわねぇ…」
青娥は時に聖女のように穏やかな表情で、時にキラキラと目を輝かせて蓮子の話に耳を傾け、時に酷く冷たい瞳で蓮子を屈服させた。
結局のところ、蓮子の持つ情報の殆どは青娥の怒涛の質問攻撃によって絞り出されてしまったのだ。
スタンドに関する知識は先ほど蓮子がヨーヨーマッに教えられた内容をほぼ反芻しただけであった。
長時間羽交い絞めにさせられたまま尋問させられた蓮子の精神は、青娥への恐怖も相まって既に限界が近い。
この窮地を切り抜ける為の策なんか、全く浮かばなかった。
所詮は普通の若者よりもちょっぴり頭が切れる程度の、一般人大学生の蓮子ではこの千年以上の時を生きてきた本物の『仙人』の一手上へ行ける道理は無い。
実際、憔悴しきっていた蓮子に比べて質問してくる側の青娥はまるでピンピンしている。精神面から体の作りまで何から何まで人間とは違うのだ。
「もう…いいでしょ。私が持ってる情報は全て話したわ…。お願いよ…助けて……助けてください………」
「んーーーー…スタンド、スタンドかぁ…。色んなスタンド使いがこの会場には居るのねぇ。面白いわぁ♪」
消沈したままの小さな声で蓮子は青娥に懇願するが、当の青娥はまるで聞き耳を持たない。
より楽しくて面白そうなものに興味を持ち、残酷なほどに無邪気な好奇心を持つ青娥の次なる興味は、既に蓮子からスタンド能力の事へと転換したらしい。
「か…解放してくださいッ!あの中で私の友達が危険な目に遭ってるんです!早く助けを呼ばないと…お、お願いッ!」
「んー?そうねぇ。貴方から聞きたいことは全て聞いちゃったし…別に逃がしたって良いんだけど……でも念のため殺しちゃっておこうかしら?」
ゾクッ……!
まるで何事も無いようにニコリと美しく微笑む青娥の笑顔に、蓮子は今日一番の冷や汗をかいた。
彼女にとっては蓮子の生死など本当にどっちだって良いのだ。
自分さえ良ければ周りの者が死のうが生きようが涙を流しながら必死に命乞いをしようが、気まぐれに傷付ける。
常ににこやかで陽気に話し、気に入った者にはフラフラついていき、飽きたらまた別の興味対象についていく。
『邪気』が『無い』と書いて『無邪気』。彼女の行動に悪意も悪気も全く無い。
それが堕ちた仙人たる『邪仙』の本質。霍青娥という仙人はつまり、そういう存在なのだ。
(なんなのこいつ…!こんな残虐な殺し合いのゲームを、まるで新しいオモチャを見つけた子供のように本気で楽しんでいる…ッ!
私達参加者なんてこの女にとっては皆ただの遊び道具と一緒…ッ!飽きたら捨てる!気に入ればついていく!
どうすれば良い…ッ!?死にたくないッ!死ぬなんて絶対イヤッ!)
いつの間にか蓮子の体は震えていた。全くの未知の存在である青娥の『無邪気さ』に心から恐怖していた。
もはや蓮子から冷静さは完全に失われ、抜き差しならない状況に陥る。
青娥の腕は拘束する力をまるで緩めようとせず、どころか次第に蓮子の首へとその豪腕な力が集中してきた。
「ぅ……っ!か…は………ぁ……………っ!」
「んーどうしようかしら?別に良いのかしらね。でも、ここであっさり殺しちゃってもそれはそれでつまらない様な…?」
青娥の女性とは思えない強靭な仙人の腕力が、メキメキと蓮子の首にしまっていく。
当の青娥はあさっての方向を見ながら考え事をしており、何とその事自体に気付いてもいない。
彼女はこうして『なんとなく』蓮子の命を奪おうとしている。
青娥の『いともたやすく行われるえげつない行為』に、蓮子は流石に死を覚悟した。---しかし、
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!
蓮子の意識が途切れるまさにその寸前ッ!刑務所内のスピーカーから大音量のサイレンがけたたましく鳴り響いたッ!
「あらあら何事ですの?今せっかく考え事をしていらしてのに…。」
青娥は思案から我に返り、蓮子を羽交い絞めしていた腕の力をつい緩めてしまう。
おかげで蓮子は危機一髪の状況から解き放たれた(といっても拘束する腕は依然解かれないが)。
「--かはァッ!ゴホゴホッ!げほ……ッ!」
「ん?あら失礼。少し強く締め過ぎたかしら?」
(じょ…冗談じゃないわッ!このままこいつと一緒にいたら死んでしまうッ!なんとか逃げ出さないと…!)
咳き込み続ける蓮子は今自分が本気で死にかけたことを改めて認識し(しかも物凄くくだらない死因で)、再びコイツから逃走する方法を考える。
(……そういえばさっきから『アイツ』は何をしているのよッ!
主人である私が殺されそうになったってのに何の行動も起こさず、アイツはただ突っ立って見ていたのッ!?)
心の中で役立たずである僕に毒を漏らしながら、蓮子はヨーヨーマッの姿を探す。
『先程の火災報知機は…わたくしが作動させていただきました。スイませェん…』
そのやる気無さそうな、少々癇に障る声の発生した方向を蓮子と青娥はバッと振り向いた。
ヨーヨーマッがこれまたダルそうにしてそこに立っており、二人を見つめながら言い放つ。
『このサイレンの音量を聴いて誰かが様子を見に来るかも…そしてその方がこの状況を見れば、貴方と戦闘になるかもしれませんねェ…』
蓮子の不気味な召使いヨーヨーマッは、何もただ黙ってこの一方的な尋問を指を咥えて眺めていたわけではない。
主人のために自分が出来る事は何か。彼(?)が導き出した最良の答えは『救援』を求める事だった。
どうやら襲撃者の女はかなり『強かで気まぐれ』な女性だと見受けた。迂闊な攻撃をしようものならすぐに蓮子の首は吹き飛ぶだろう。
そこで彼は青娥に気付かれないようにゆっくり、ゆっくりとその場を離れて女子監の入り口の火災報知機まで足を運んだ。
本来、ヨーヨーマッのスタンド射程距離は最高ランクの『A』。自動追跡型なのだから当然と言えば当然だ。
だがこのロワイヤルにおいては射程距離の『制限』を受けており、せいぜい20メートル。
ヨーヨーマッが直接施設外にいる誰かに救援を求めるには、かなり無理のある数字だ。
ならば大きな『音』によって参加者を呼び集めるのはどうか?という結論に彼は達した。
幸いにも火災報知機のスイッチはこの場からそう遠くない位置に付けられていた。
無論、この策はかなりリスクが高い作戦でもある。
まず、参加者が近くにいるかどうかが問題だ。この施設の近くに誰もいなければまるで意味がない。
そして、仮に参加者の誰かが気付いたとしても、その者がゲームに『乗っている者』であれば状況は悪化する可能性もある。
加えて、問題はここからだ。
ヨーヨーマッの行為により、恐らく青娥はこのささやかな反抗に気分を害すだろう。人質でもある蓮子をあっさりと殺すかもしれない。
そこで、誰かがこの場所に来るまでに『粘らなければ』ならない。
「あなた…やってくれるじゃない。下手な真似はするなと釘を刺してたはずだけど?」
(ヨーヨーマッのバカ!作戦は理解したけど、コイツを怒らせちゃったじゃないッ!殺されちゃう!)
今まで余裕を見せていた青娥がここに来て初めて、そのユルイ雰囲気に『怒気』を孕ませる。
当然蓮子は気が気でなくなり、再び自分の僕へと毒を吐く。
『えぇ…。そこでわたくしは貴方様と『交渉』したいのです。
先程から随分とスタンドに関して興味津々のご様子ですが…貴方様が今ここで簡単にスタンドを持つ方法がございます。
実はスタンドDISCという物は他人でも簡単に付け外しが出来る物なのです。頭部…脳の部分に指を突っ込ませれば、DISCは取り出せると言うわけです。
ドゥー・ユー・アンダスタンンンンドゥ?(わたくしの申し上げたいこと、理解できますか?)』
「…へぇ。つまりこういう事ですわね?
『彼女に装着されてるスタンドDISCをくれてやる』『その代わり彼女の命は助けてやってくれ』………。」
『Exactly(そのとおりでございます)』
(え…?ちょ、ちょっと待ってよ!私のスタンドDISCをコイツに渡すって事は『つまり』……ッ!)
『それともう一つ、DISCについて重要な情報がございます。
DISCを装着した者がもしそのまま『死亡』してしまった場合、DISCはその者の死に『ひっぱられる』と言う事です。
つまり今貴方様がわたくしのご主人を殺害した場合、欲しがっていたDISCは同時に体内で崩壊してしまうのです』
「…まぁ。それは知りませんでしたわ。でも、よーよーむさん?」
『ヨーヨーマッです。わたくしの名はヨーヨーマッ。二度と間違えないでいただきたい。よーよーむでもふーじんろくでもありません』
「失礼、ヨーヨーマッさん。では貴方はこう考えなかったのかしら?
『DISCを装着したまま死亡するとそのDISCが消滅するのなら』『先にDISCを取り出して殺してしまえば良い』。
貴方、私がそうするかもしれませんのにどうしてその情報を先に私に教えてくれたのかしら?」
…確かに青娥の言うとおりだ。そんな重要な情報を取引の前に教えてしまったら、青娥は喜んで蓮子のDISCを奪った後に殺してしまうかもしれない。
『では仮に…ご主人様を解放した後にDISCの情報を教えてやるとわたくしが提言した場合、貴方様はその条件を飲んだでしょうか?』
「質問を質問で返されるのは癪だけど、飲むわけがないわ。だってそんな事したら貴方達、二人して一目散に建物内に逃げちゃうでしょう?
またはヨーヨーマッさんが私と交戦してる間にお嬢ちゃんだけでも逃げ出しちゃうかもねぇ」
『そういう事です。それにその情報を先に伝えておけば、貴方はご主人様を迂闊に殺すことは出来なくなってしまいます。
そんな事をすれば、DISCは永遠に手に入りませんから』
「質問の答えになってないわ。
私がDISCを奪い、その後にお嬢ちゃんを殺すかもしれないのにどうしてそんな情報を先に教えてくれるのよと聞いたのですわ」
『わたくしが申し上げたい事はまさにそこなのです。つまるところ、わたくしは貴方様の『良心』にお願いをしているのです。
先程から見ておりましたところ、失礼ながらどうやら貴方は相当の『気まぐれ』かつ『自己中心的』なお方…
しかし『悪人』というわけでは決してない。御自身の気の赴くままに行動する渡り鳥のような存在…
そんなお方が『良心』という尊いお心を少しでも持たぬはずがございません。
その良心にわたくしは必死に語りかけております。お願いです、どうかご主人様を殺さないで欲しい。
ご主人様を解放していただければ、間違いなくわたくしはDISCを献上すると約束します』
(ヨーヨーマッ…あなた…そこまでして私を…?)
ここまで殆ど蚊帳の外だった蓮子は、心中で震えていた。
自身のDISCを明け渡すと言う事はつまり、ヨーヨーマッが青娥のスタンドに成り変わってしまうという事。私の元から離れてしまうという事。
ムカつく奴、とばかり思っていた不気味で気持ちの悪い召使いは、本当に私のことを第一に考えていたのだ。
それに比べて自分は助けられてばかりだ。いつだって誰かに依存していなければ不安で仕方ない。
口を開けばメリー、メリー…さっきだってジョニィに逃がされてきたばかりではないか。
そんなことでこのゲームに生き残れるわけがない。
---強くならなければ。誰の助けも要らないぐらいに、強くなりたい。
強くなって、私がメリーを守ってあげたい。
ジョニィを驚かせてやりたい。
どうすれば強くなれるかは分からないけれど、他人に甘えてばかりじゃダメなんだ。
蓮子が心の中で強く決心をしている事など全く知るべくもない青娥は、ヨーヨーマッの誠意ある言葉を最後まで耳に入れ、そしてとうとう青娥は動いた。
「殿方(?)にそこまで言われて解放しないのでは仙人の名がすたるというものね。それに別に彼女の命なんかには興味無いし。
分かったわ。彼女は解放します。その代わり…約束はきちんと守ってくださいね?」
『ありがとうございます。…それではまずは彼女の解放をお願いします』
「…ゆきなさい」
そう言って青娥は蓮子を拘束していた腕を放し、彼女に促した。
それと共に蓮子はヨーヨーマッの元へ駆け出した。その瞳は少しだけ涙目になっている。
「ヨーヨーマッ!ゴメンなさい!私のせいでアナタがアイツのものに…」
『いえご主人様、わたくしはあなたのスタンド。主人のお命を最優先に考えるのは当然でございます…』
『…それに貴方様が謝る必要は全く御座いません。わたくしはあの婦人との約束を守るつもりは『全く無い』のですから』
ボ ゴ ォ ボ ゴ ォ ン ッ ! !
「!?」
直後、青娥の体に突然数ヶ所の風穴が開いたッ!
青娥は一瞬何が起こったのか分からず、傷を押さえながら驚愕した面持ちでヨーヨーマッを見やる。
「成る程…これがあなた流の『誠意』ってわけかしら。楽しい事してくれるじゃない?」
『ご主人様がこちらに戻ってきた時点で『約束』など守る必要などありませんからね。
DISCの情報を教えてしまった事だけがこちらの痛手といえば痛手ですが』
「…え?え?ヨ、ヨーヨーマッ…?な、何を……」
蓮子だけが事態の展開についていけず、混乱してオロオロしていた。
『何を、ではありませんよご主人様。あの方は卑怯にもご主人を人質に取り、そして殺そうとした『悪人』ですよ?
それにわたくしが居なくてこれからご主人は目的は達成できるのですか?何としてもご友人に会いたいのでは?』
「いや、それはそうだけどさぁ…アナタさっきアイツの事を『悪人ではない』って…」
『嘘も方便と言います。あの方は完全に『悪』です。『邪悪』と言っても良い。
正確に申すれば、彼女は己の気分一つで簡単に『悪』にも『善』にも転がってしまう、迷惑極まりない生き物です。
『敵意』とはいつか必ず倒されるものですが、彼女には敵意も無ければ悪気も無い。
他人を不幸に巻き込んで道連れにする真の邪悪…まさしく『最悪』です。
野放しには出来ません、今ここで倒します。ご主人は離れてください』
なんか…さっきコイツに感じた感動を返せって感じ…。でも、コイツの言う事は間違ってない…のかな?わからん…
「貴方、私に『良心』がどーのこーの言っておいて、自分は随分卑劣な真似するじゃない?」
『わたくしは『スタンド』でございます。スタンドとは持ち主の精神がそのまま具現化したようなもの…
スタンドに『良心』もクソもございません』
「ちょっと!それじゃ私が良心無き卑劣者みたいに聞こえるじゃない!」
蓮子は思わず自分のスタンドに突っ込みを入れるがヨーヨーマッはまるで気にしない。
「やれやれだわ…。あなたの能力はさっき彼女から聞いたばかりよ。『自動追跡型スタンド』で物体を溶解させる唾液を操る…
まさか溶解液の涎を『水鉄砲』の様に超高速で噴射してくるとは…随分ストレートな方だわ。
つい油断しちゃったけど、果たして同じ戦法が通じるかしらね?」
そう言って青娥はニヤリと笑う。長年の修行で鍛え抜かれた仙人の身体はちょっとやそっとの攻撃は効かない。
(…フム。やはり彼女は只者ではありませんね。あの高速の攻撃を受けて笑っていられるとは…
1対1には自信はありますが相手はかなりの手練、敗北も充分ありえる…
しかし…どうやら『保険』はなんとか間に合ったみたいです。上空に見えてきました)
「このお洋服、結構気に入ってたんだけど穴開けられちゃったわねぇ。私だって流石に少しは怒るのよ…?」
青娥がとうとう戦闘態勢に移ろうとする。しかしヨーヨーマッはどこか余裕を持って相手に淡々と告げた。
『怒るのは実に結構ですが…わたくしが何故刑務所のサイレンを鳴らしたかお忘れですか?
交渉術には結構自信があったんですが、出来ればあなたをここで無力化しておきたかった。
だからわざわざサイレンの音で『救援』を呼び、こちらの戦力を増やしたかったのですよ』
今度こそ青娥の顔から完全に余裕が消えた。
ヨーヨーマッは蓮子を救うためだけにちんたらと演説を続けていたわけではないッ!
この音を聴いてやってくるであろう加勢者が到達する為の『時間稼ぎ』の意味もあったッ!
その二人組は監獄のフェンスの上を猛スピードで『滑空』して、蓮子とヨーヨーマッの側に着地して一声を上げる。
「刑務所の方からやかましい音が流れてくるかと思えば…とんだヘヴィーな状況だったみたいだな。嬉しいねェ」
「人様の腕につかまっておきながら…カッコつけないでください露伴先生ーッ!」
翼をバタバタさせて必死に飛ぶ幻想郷の天狗妖怪の腕につかまって降臨したのは、杜王町が誇る最強の漫画家。
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段々と明るく照らし出された刑務所の広場には現在5名の影が伸びる。
宇佐見蓮子。ヨーヨーマッ。霍青娥。岸辺露伴。射命丸文。
互いが互いの顔を交互に見合わせ、それぞれの思惑に果てる。最初に声をあげたのはヨーヨーマッであった。
『来て頂けて助かりました。わたくしはヨーヨーマッ。こちらの宇佐見蓮子様の僕であるスタンドになります。
最初に申し上げておきますが、わたくしとご主人様はゲームに『乗っておりません』。アナタ方はどちらになりますか?』
ヨーヨーマッ自身のスタンスはどちらかと言えばゲームに乗る側ではあったのだが、彼はこの場ではとりあえず蓮子の意志を尊重しておく。
「フン…スタンド使いか。この状況を見たところ…君達はあの天女みたいな女に襲われてるってとこか。
ぼくは岸辺 露伴。漫画家だ。こっちの鳥人間は射命丸 文。そうは全く見えないが、新聞記者らしい。
そうだな…ぼく達は『乗っていない』。あっちの女は『乗っている』って認識でいいのか?」
露伴は青娥を指差してそう聞いた。殺し合いのスタンス確認は一番重要な事なのだ。
『そういう事になります。彼女はかなり危険な存在…今ここで倒しておいた方が得策かと思われますが…』
「この岸辺露伴に指図するなよな。スタンドなんかおよびじゃあない。ぼくはそっちの彼女に聞いたんだ」
そう言って露伴は今度は蓮子を指差して聞いた。蓮子は突然自分に話が振られて慌てる。
「え…わ、私ですか?え、えーとえーと…」
確かに自分はこのゲームに乗っていないのだが、青娥がこのゲームに積極的に乗っているかと問われれば微妙な線ではあった。
青娥は『危険人物』だが、ヨーヨーマッが分析したとおり彼女には『悪意』があるわけではない。子供のような無邪気さで自分の気の赴くままに動いているだけだろう。
現に、さっきのヨーヨーマッとの交渉では青娥は自分を解放してくれたし、むしろその後青娥に対して『だまし討ち』を仕掛けたのは自分達なのだ(ヨーヨーマッが独断でやっただけだが)。
だが、青娥に一度は殺されかけたのも事実でもある。そのことを思い出して蓮子は段々ムカッ腹が立ってきた。
(そう…そうよ!なんで私があの女に同情するみたいな気持ちになってんのよ!あいつは危険な奴だってのにッ!)
子供の可愛い悪戯ならば叱ってやるだけでいいが、今回は人の生き死にに関わっている。叱って済む問題ではないのだ。
故に蓮子はほんの少しの罪悪感を感じながらも、堂々と露伴に言ってみせた。
「あの人は『乗った』人ですッ!私達今まで襲われていましたッ!た…助けてくださいッ」
「……あらあら。これは手痛いしっぺ返しを喰らってしまいましたわねぇ…」
蓮子の反撃に青娥はそれでも不敵に微笑んだ。彼女の状況は一転して不利となる。
そこで今まで沈黙を保ってきた文が口を開いた。露伴を抱えて飛んできた疲れか、少し息が荒いが。
「露伴先生、あの女性はさっき話したように幻想郷の住人…霍青娥という名の邪仙で、いわゆる『仙人』です。
彼女は本質的には悪い人間ではないですが、かなり厄介な相手ですよ…自分の行動がいかに他人の迷惑になるかを分かっていない、自己中心的な方ですから」
「成る程ね…僕はそういう自分さえ良ければ他人の迷惑を考えない奴が一番嫌いなんだ」
尤も、ここにいる天狗の文も、発言した露伴本人も自分本位の塊の様な人間である事は間違いないのだが。
その時、今にも戦いが勃発しようとする中で蓮子が露伴たちに向けて口を開いた。
「あ…あの!実はこの建物の中にまだ私の友達が居るんですッ!
ジョニィ・ジョースターって言うんですけど、私達突然すごく怖いスタンド使いの男に襲われて…ッ!
あの人、ジョニィが今も一人で戦ってるんですッ!お願いします!彼を助けてやってくださいッ!」
それを聞いた露伴と文は同時に顔を見合わせる。
「ジョニィ…『ジョースター』…?露伴先生、それって先生のお知り合いのジョセフ・ジョースターさんと何か関係が?」
「ムゥ…名簿であらかじめ確認はしていたが、可能性は高いな。何にせよ、その彼を助けに行かないわけにはいかないだろう。」
そう言って露伴はデイパックの中をごそごそしたと思ったら、例のマジックポーションを一つ取り出し、文に向けて投げ渡した。
「わっ!おとと…っろ、露伴先生…?何故コレを私に?(嫌な予感が…)」
「決まっているだろう。アンタがそのジョニィを助けに行ってやってくれ。鴉天狗の飛翔速度ならあっという間だろう?ポーションは一つだけ持っていけよ。ぼくはこっちの女を何とかしよう」
「え…えええぇぇぇ~~~~!?私がその『すごく怖いスタンド使い』と戦えって言うんですかぁ~~ッ!?
先生の無敵の『ヘブンズ・ドアー』で何とかしてくださいよォーーーッ!」
文は露伴からの突然の無茶振りに抵抗しようとする。
露伴の能力『ヘブンズ・ドアー』の詳細はここに来るまでに文は既に聞き出していた(文が強引に聞き出したようなものだったが)。
そのかなり最強に近い能力なら大抵のスタンドには優勢に戦えるだろうと思った末の考えだ。
だが露伴に対してはどんな理屈も簡単に言いくるめられてしまう。
「おいおい、ぼくは今言ったばかりだぜ?事はかなり急いでいるらしい。
空を飛べる君のスピードなら大事にならないかもしれないし、鴉天狗って連中はどうやらかなり強い種族らしいじゃないか。スタンド使い相手でも充分戦えるだろう。
それにあの『仙人』とかいう女の力は未知数だ。その相手をぼくがしてやると言うんだ、それじゃあ不服なのか?それともこの岸辺露伴の頼みを断ると言うのかい?」
ここで『だが断る』とキッパリ言えるほど文は器量が高くなかった。
「ろ、露伴先生のバカーーッ!鬼ーーッ!ろくでなし漫画家ーーーーッ!!」
かくして文は露伴のわがまま(?)に文句を垂れながらも、自慢の翼を羽ばたかせてジョニィ救出作戦を実行するために飛び立つのだった。
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『お話は丸く収まったみたいですね。安心しました』
ヨーヨーマッは内心ホッとしていた。先述したが、彼の『サイレンの音で助けを呼ぶ』と言う作戦にはやはり高いリスクはあった。
この場に現れる人間が必ずしも『正しい者』とは限らない。ゲームに乗った者が現れる可能性も有り得たのだから。
『蓮子を救出する』『霍青娥を倒す』。両方やらなくてはいけないのが従順なる僕のツライ所である。
そういう意味においても、ヨーヨーマッの作戦は功を奏した。
文の出立を見守った露伴は青娥の方へ体を向きなおして気楽な表情で話しかける。
「さて…仙人、『霍青娥』とか言ったかな?お前の簡単な情報は射命丸から事前に聞いているぜ。
妖しげな仙術や、『壁をすり抜けられる程度の能力』を駆使するらしい。実にくだらない能力だな。尤も、ぼくとしては千年以上生きた仙人にはスゴク興味はあるんだが。
おっと下手に動くなよ。その瞬間ぼくはお前に攻撃を叩き込むつもりでいる」
「…どうやら完全にこちらが悪者扱いされたみたいですわね。あーあ、私はDISCが欲しかっただけなんだけどねぇ。
見逃して欲しいと言っても聞いてくれないんでしょう?」
対して青娥は露伴とはまた別な意味でリラックスした雰囲気で不満を漏らした。
(な…なんか凄い状況になってきちゃった。これってつまり、『殺る』か『殺られるか』の勝負がこれから始まるって事だよね…?)
露伴から少し離れた場所で二人の対決を見守っていた蓮子は、これから目の前で『殺人』が行われるかもしれないと考えた瞬間、言い様のない恐怖が再び頭をもたげてくる。
自分達が今居るこの舞台は本当に『死』と隣り合わせの世界。昨日までメリーと馬鹿をしながら過ごして来た現実は既に過去の残像。
『どうかご安心をご主人様。貴方様の安全はわたくしがお守りいたします。
それより、あの二人の戦いをよく目に焼き付けておいてください。ご主人様もいつかは『その時』が来るでしょうから…』
-傍で怯える蓮子にヨーヨーマッは、ただ淡々と、一言だけ告げた-
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霍青娥は平面上はにこやかな笑みで露伴を見据えていたが、その心中では穏やかとは言えなかった。
蓮子からスタンドに関するあらゆる情報を聞き出せたのは良いが、歩くパイナップルの様な不気味なスタンド如きに交渉では上手を取られ、挙句にあっさり虚偽にハメられ人質を失う始末。
最も欲しかったスタンドDISCも手に入らず、どころか未知の新手を呼ばれた上に青娥がゲームに『乗った者』みたいな流れにされ、今や彼女の状況はかなり危険な立場にある。
更に何の因果か、あの鬱陶しい新聞記者まで露伴の隣に付いて来ている。幻想郷の情報通である彼女から『かなり厄介』と念を押されれば、それだけで説得力が出てくる。もうこちらの弁解など通る筈もない。
実際青娥は、DISCさえ渡してくれれば本当に蓮子を解放するつもりであり、それ以上向こうを傷付けるつもりだって無かった(尤も気まぐれな彼女の事だからそうであるとも限らないが)。
(…もう!あの鴉天狗さえ居なければこの殿方一人ぐらい説得できたかもしれないのに!
仮にマトモに戦ったとして、私が負ける事など考え難いですけど、問題は『スタンド』と言う存在…
あの天狗…さっき『無敵のヘブンズ・ドアー』とか叫んでましたけども…どんな能力かしら?
無敵と言うぐらいですからかなり自信あるのでしょうね。…もの凄く興味ありますわ。
…そういえばそろそろ『一時間』経つ頃合かしら。『使う』チャンスを与えてくれるほどこの殿方がおマヌケなら良いけども…)
遠くの場所が微かに騒がしい。どこかで誰かが戦っているのであろうか。
露伴と青娥はお互い睨み合っており、蓮子とヨーヨーマッもそれを固唾を呑んで見守る。
一瞬、世界が止まったように感じるほどの静寂が辺りを包み込んだ。
---青娥の腕が這うように動き出し、そして…
「ヘブンズ・ドアーッ!!」
その一動作を見逃さなかった露伴が、すかさず右腕を振り上げ目にも止まらぬスピードで空中にスタンド像を描いていく。
そこから具現化した露伴のスタンドは数メートル離れているにも関わらず、瞬間!青娥に何の行動も起こさせずに彼女の体を『本』にしたッ!
「ッ!?」
あまりの一瞬の出来事に青娥だけでなく、周りの蓮子達ですら何が起こったか理解出来ずにいた。
全身の力が抜けていく感覚に青娥は思わず膝を突いて自分の右手を眺める。
「こ、れは…?手が、紙に…?あなた、何を…ッ!」
「動くな、と言った筈だぜ。命まではとらないさ。今の所はだが。」
鼻歌でもひとつ歌いだしそうな軽やかな足取りで露伴が一歩一歩青娥に歩を進めていく。
いよいよ絶体絶命となった青娥は、しかしこの状況に置かれてさえもッ!
笑ったッ!
(『ヘブンズ・ドアー』…これが彼のスタンドの力!『相手を本にする能力』なのね!面白いわッ!
さっきの『天候を操る能力』や『生命を生み出す能力』のあの方達もそうだけど、やっぱりスタンド使いって最高に面白いッ!
決ーめた♪あの素敵な『コロネの彼』に持っていく『手土産』!スタンドDISCをいっぱい集めてプレゼントしましょう!)
(この会場にDISCは後どれ位あるのかしら?)
(他にはどんな能力があるの??)
(私が気に入る能力はあるかしら~♪)
溢れ出す知的好奇心はもう止められない。
呆れた事に彼女は目の前に迫る露伴の事などそっちのけで、頭の中にあるのはこの未知なる力『スタンド』への興味で埋まっていた。
そして同時に、邪仙としての彼女のこのロワイヤルにおけるスタンスはこの瞬間決定する。
『参加者の持つスタンドDISCを根こそぎ強奪するッ!』『彼に会ってそのDISCは献上しようッ!』
青娥は考えた。支給品の配布が完全にランダムで行われてるのではないならば、スタンド使いにわざわざスタンドDISCを支給するのも非効率な話である。
つまり主催者達はスタンド使い『でない者』中心にDISCを支給しているハズだ。ならばそいつ等を襲っていけば次第にDISCも集まっていくだろう。
奪う際に戦闘になるかもしれないが、先に殺してしまってはDISCが手に入らない。まずはDISCを奪って、後は逃げるなりそのまま殺すなり好きにしよう。
「おい、さっきから何をニヤついているんだ?おっと何を考えているかは言わなくてもいいぜ。すぐに分かるからな。
とりあえず、まずはお前に30分程眠っていてもらうか」
(…って、目を覚ましなさい私!これからどうするかよりも、まずこの場をどう切り抜けるかでしょッ)
気付けば露伴がすぐそこまで迫ってきている。命までは奪わないと言ってたが、どちらにしろここで捕まってしまうわけには絶対にいかない。
露伴が半分本になりかけている青娥のページの切れ目に命令を書き込もうと右手をあげた瞬間だった。
ゴ ゴ オ オ ォ オ ゥ ゥ ン ……………! ! ! !
東の方から耳を劈く轟音が聞こえた。まるで旅客機でも墜落してきたかのようなその轟音は、この場の全員の気を一瞬引くには充分であった。…ただ一人、青娥を除いて。
「………っ!?何だ今の音は!?東からだ、近いぞ!確かあそこはD-2…『猫の隠れ里』があったエリアだが…
ムッ…!?」
露伴はほんの一瞬だけ青娥から目を離してしまった。それが彼の『致命的なミス』だった。
再び青娥の方に注意を向けてみれば、青娥の姿が何処にもない。慌てて辺りを見回したが、周りには蓮子とヨーヨーマッしか見当たらない。
「しまった…っ!この露伴とした事が、なんてザマだッ!みすみす彼女を逃がしてしまったのか…!?
…いや、彼女は『本』になったままだ。その状態でこれほど素早く動けるわけがない…!」
「きゃあッ!!」
青娥の姿を探す露伴の背後で蓮子の叫び声が響いた。すぐさま振り向いた露伴は蓮子の様子がおかしい事に気付く。
「蓮子ッ!?どうしたッ!」
露伴の危惧もむなしく、露伴の側を離れていた蓮子は悲鳴を上げた瞬間に突然地へ崩れ落ちた。
(気絶させられているッ!敵はあの一瞬、何らかの方法で蓮子に攻撃したのか!何故蓮子をッ!?
しかもぼくのヘブンズ・ドアーの能力は依然進行中ッ!デカイ動きは出来ない筈だ!
…いや、これは催眠術だとか超スピードだとかいうよりも…成る程、もっと『チャチ』なものだな)
「この岸辺露伴の目を誤魔化せると思ったかッ!くらえ『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」
瞬間、再び露伴はヘブンズ・ドアーを発現させる。狙いは蓮子のすぐ側の一見、『何もない空間』ッ!
だが露伴の漫画を描く事によって鍛えられた鋭い観察眼は、『彼女』の姿を見落とさなかったッ!
「!!キャ…ッ!」
ド ォ ォ ーーーー ン ッ !
短い悲鳴と共に青娥の姿が空間から『いきなり現れた』ッ!今度こそヘブンズ・ドアーの攻撃は炸裂し、青娥の意識を完全に奪うッ!
「…ふぅ。危なかったが、『30分意識を失う』と書き込んでやった。
どうやら透明になってぼくから身を隠してたようだが、近くでよく目を凝らせばうっすら見えてるぜ。
コイツは…仙人の能力、というよりも『支給品の機能』か?光学の迷彩スーツといったところか。何にせよ、ちょっぴり肝を冷やしたかな」
露伴の推察したとおり青娥の支給品は『河童の光学迷彩スーツ』。着る事で周りの風景に溶け込み、透明な状態になる事が出来る。
青娥がこのGDS刑務所に辿りついた時点ではスーツの『バッテリー』が切れていたが、蓮子への長時間の尋問中に充電に必要な『一時間』が経過していたのだ。
先の謎の轟音により露伴が気を取られていた隙に彼女はすかさずスーツの電源を入れその身を隠したのだが、露伴に対しては一時しのぎの抵抗でしかなかった。
「さて…鴉天狗に続いて仙人というのはぼく自身凄く興味がある種族だが、連続でのスタンド使用にかなり体力を使ってしまうのでね、まずはお前がぼく達にとって『吉』か『凶』かだけを確認させてもらうぜ」
露伴が文に対してそうした様に、支給品のポーションさえ使用すれば青娥の生い立ちや能力等々をじっくり時間をかけて読めただろうが、手元にあるポーションのストックは残り2本。
好奇心を優先させて貴重な回復薬を消耗するのも馬鹿馬鹿しい。故に露伴は本当に大事な部分だけを先に読んでしまう事にした。気絶している蓮子の介抱はまた後で良いだろう。
(コイツが危ない思考をしている危険人物なら一言『再起不能になる』と書き込むだけでとりあえずはぼくの勝利だ。
射命丸のように『この異変を皆で解決する』と書き込むことも可能ではあるが、なるべくしたくない。
アイツの場合は生きる為に『仕方無く』ゲームに乗った人種であり、まだ『殺し』に対して罪悪を感じる、一応は『正しい側の人間』(妖怪だが)かもしれない。しかしコイツは違う)
(射命丸から事前に聞いていた通り、コイツは物事の基準を測る『善悪のものさし』が無いらしい。
『善』も無く『悪』も無く、ただ自分のやりたいことだけを好き勝手に行う。洗脳するとはいえ、そんな不安定な奴と行動するのは危険だ)
つまるところ、今の露伴に必要な情報は青娥という存在が害悪なる者なのか。それをハッキリさせる為に露伴はページを開いて読み進めていく。
ページにはたった今行われていた攻防が記されていた。
『スタンド使いって凄く素敵♪私もスタンドが欲しい!』
『新手が二人乱入して来た。天狗の方は知り合いだけど、あの殿方はスタンド使いかしら?』
『彼のスタンド能力が謎。迷彩スーツを使いたいけど、迂闊に動けないわね』
『何よこれ!?手が紙に……こんな能力もあるのね!ますます素敵♪』
『決ーめた♪スタンドDISCを集めるわよ!そしてコロネの彼にあげちゃうわッ!』
『なんの音かしら?ビックリしたけど今がチャンスッ!彼女のDISCを
そこまで読み進めて、本の文字はピッタリと途切れている。これが『最新』の出来事なのだろう。
露伴はふと最後の文章に疑問を持つ。
(…彼女の、DISC?さっきから気になってたがスタンドDISCとは何の事だ…?それに彼女…『彼女』だと…?
待てよ…そういえばさっきコイツは透明になって何故わざわざ蓮子を気絶させたんだ…?ぼくを攻撃するわけでもなく何故蓮子を…?)
露伴は知らなかった。この会場にスタンドDISCなる物が支給され、それを使えば『誰でも』スタンドを手に入れられるという事を…
蓮子が元々からのスタンド使いではなく、DISCによって能力を会得したスタンド使いという事を…
そして、いつの間にか蓮子の側についていたヨーヨーマッが消えている事を…
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …………
露伴の額に一筋の汗が流れる。
『スイませェん、露伴様…。『ご主人様』をお守りする事がわたくしの役目なのです。どうか恨まないでください』
直後に背後から不気味に低く響いた声が露伴の神経を凍らせた。
振り向く暇も無く、一瞬で勝負は決した。
ヨーヨーマッのどんな物質もたちまち溶かす唾液が露伴の全身を襲うッ!
「な…何ィィィーーーーーーッ!?ガ…ハ……ッ…よ、ヨーヨーマッ……貴様…ッ!?」
露伴は背後からの不意打ち攻撃に成す術も無く、全身に風穴を開けられながら地面にドサリと倒れる。
意識が朦朧とする露伴の眼前で、ヨーヨーマッの攻撃によりヘブンズ・ドアーが解除された事で意識を取り戻した青娥が、ゆっくりと立ち上がってヘラヘラした笑みで露伴を見下していた。
「まさか…相手を本にしちゃう上に、文字を書き込んで好きに制御する能力なんてねぇ…ちょっと強すぎやしないかしら?
でも残念ね。気絶する直前にお嬢ちゃんのDISCを抜き取って、私に挿入させてもらったわ。瞬間、スタンドを発動すればこちらのヨーヨーマッさんは既に私の操り人形ってわけね♪」
ヨーヨーマッのスタンドタイプは『自動操縦』。普通、本人がダメージを受ければそれはスタンドにも影響する。
もしヨーヨーマッのタイプが『近接』または『遠隔』タイプのスタンドだったならば、青娥が意識を失った時点でそのスタンドも同時に消失する。
だが露伴にとって不運な事に、本体がいくら意識を失おうと『自動操縦』であるヨーヨーマッには影響は無い。
呑気してページを読みふけている内に、背後から魔の手が迫ってくることに気付かなかった事が露伴の敗因だったッ!
(くッ…!ぼくとした事が…しくじった…。この岸辺露伴がこんな軽薄な女に出し抜かれるとは…ッ!
スタンドの過剰使用で反撃する体力も残っていない………万事休す、か)
青娥の不敵な笑みを最後に、露伴の意識は途切れる。
彼が最後に思った事は
-もう、漫画が描けないな…-
であった…
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
ヨーヨーマッの攻撃により敗れた露伴を見下ろしながら青娥はじっと考えていた。
(やれやれだわ…自分の実力には結構自信があったのですけど、結局終始劣勢のままでしたわね。スタンド使い…恐ろしい方々ね…
とはいえ、やる事は決まったわ。会場にあるスタンドDISCを色々と収集して、ある程度集まったら『彼』を探し出しましょう。
あれほどの『王者の気質』を持った殿方ですもの、そう簡単に死にはしないでしょう♪)
頭の中でジョルノの顔(コロネも)を浮かべるだけでニヤついてしまう青娥は恋する乙女そのものだったが、やはり彼女の行動の本質は邪仙の本質。
深い『闇』の様な欲望を持って生きていくのだ。それを邪魔するようなら、誰だろうが容赦しない。
「そうと決まれば早速行動しましょう!ヨーヨーマッついて来なさいな」
『それは良いのですがご主人様、この『岸辺露伴』はいかが致しましょう?生かしておいては後々厄介になると思われますが…』
ヨーヨーマッが露伴を指差し、主人に向けて意見を発する。
「あ…そうね、彼のことを考えていたので忘れてましたわ。確かにこの殿方の能力は危険ね。
まっ『一応』殺しておきましょうか♪」
そして青娥は意識の無い露伴の首元に向けて右腕を振りかざし、そして---
ド ゴ オ オ オ ォ オ ゥ ゥ ン ……………! ! ! !
「ッ!?」
先程の轟音よりも更に大きい爆発音が再び青娥の耳を貫いた。青娥は思わず露伴に振り下ろしていた腕を止め、音のした東の方向に顔を向ける。
「ちょっとちょっと、さっきから何?ビックリするじゃない!」
そう言いながらも青娥は少しだけワクワクしながらもう一つの支給品である双眼鏡をデイパックから取り出してその方向を覗く。
距離から言ってD-2『猫の隠れ里』から響いてきたらしい。そしてその場所から黒い噴煙がゴウゴウと噴き出していた。明らかに何者かが戦っている。
青娥の判断は早かった。
「……ヨーヨーマッ!!あの音のした方へ行くわよ!!」
『いえ…それは構いませんが、ですから岸辺露伴は…』
「あーうるさいわ貴方!分かっています!殺せばいーんでしょー殺せばッ!全く…同じ部下でも芳香の方がよっぽど静かね…」
半ばヤケクソの様に青娥はヨーヨーマッに返答し、今度こそ露伴の息の根を止めようと腕を振り上げるが……
「待って下さいッ!」
今度は自分の後方から聞こえてきた少女の声に、またしても青娥の攻撃は中断される。
「~~~ッ!!…もう何ですのさっきからッ!頼むから明日にしてくださる!?」
幾度もの自分の行動への妨げに、流石の青娥も怒声を抑えられない。
最高に不機嫌な表情を隠さずに振り返った青娥の目に映ったのは、先程青娥自ら気絶させDISCを奪ってやった宇佐見蓮子がヨタヨタしながら立ち上がっていた。
「…あらあら、貴方起きちゃったの?今の爆発音で目を覚ましたのかしら?それで、私に何か用…?」
「…ろ、露伴さんを殺すのはやめて下さいッ!そのDISCは差し上げますから、どうか…お願いッ!」
「差し上げる…?勘違いしないで、このDISCは私が貴方から『奪った』物よ?既に貴方の頼みを聞く義理もありませんわ。こちらのヨーヨーマッの方がまだマシな交渉術を持ってるわね」
「……っ!あ、アナタ、スタンドDISCを集めたいんでしょう!?だ…だったら私が『手伝ってあげる』ッ!
この会場中のDISCを一人で集めるなんてかなり無謀な行為よ…ッ!それを私が手伝うと言ってるの!アナタについて行かせて…!」
青娥は蓮子のある意味、無茶で馬鹿げた頼みをじっくり神妙な面持ちで聞き入れた。そして…
「………へええぇぇぇ?さっきまで自分達を襲っていた相手についていくですってぇ?それ本気で言ってますのね?」
青娥は先程と一転、今度は朗らかな笑みを浮かべながら蓮子に微笑む。それを聞いてヨーヨーマッが青娥に意見を出す。
『ご主人様。言うまでも無い事ですが蓮子様は貴方様に対して大なり小なり『反感』の心を持っています。
そのような方の同行を許可すると言う事は…』
「お黙りなさいなヨーヨーマッ。貴方は今は私の部下。主人の決定に口出しは無用よ?
良いじゃないそっちの方が面白そうで♪」
威圧するように青娥は自分の僕の意見を一蹴する。
(ヨーヨーマッ…。)
蓮子は内心で少しショックを受けていた。
生意気で口うるさかったヨーヨーマッは、それでも自分のスタンドとして今まで尽力してくれたのだ。
自分が青娥に捕まった時も、ヨーヨーマッは彼女を救う為にあれやこれやの労力を尽くしてくれた。
その彼が、今や青娥の意のままに動く召使い。蓮子としては複雑な気分であった。
「蓮子ちゃん?貴方、確かに言ったわよね?私のDISC集めのお手伝いをしてくれると確かに言った。
その言葉に…嘘はありませんわね?」
蓮子は青娥の冷たく放った言葉に、またしても冷や汗を流す。
彼女の言葉は、DISCを集める為なら『どんな命令』でも絶対にこなせという事を暗に示していた。
「……は、はい……。約束、します…。だから、露伴さんを助けてやって、下さい……。お願いします…」
蓮子はそう言って、深々と頭を下げた。もはや露伴を救う為にはこうするしかない。
「…来なさいな。これからさっき爆発のあった東へと向かいます。あそこには…どんなスペクタクルが待ち構えてるんでしょうね…♪」
---宇佐見蓮子は泣いていた。
霍青娥という存在への恐怖からでもあるが、自分に力が無い事に対して彼女はひたすら悔しかった。
自分も戦う力が欲しい。『悪』に立ち向かう力が欲しい。『弱者』を守れる力が欲しい。
ジョニィは無事だろうか。救援に向かった射命丸さんは無事だろうか。
メリーは、今どこに居るのだろう。
メリーに会いたい…
こうして、結果的に蓮子は露伴の命を救う事が出来た。
霍青娥と宇佐見蓮子の両2名は『石作りの海』を後にし、次なる目的地『猫の隠れ里』を目指し足を運ぶ。
一方は好奇心。一方は恐怖と悔しさを胸に秘めて…
彼女達を巻き込む『運命の輪』は 少しずつ 少しずつ 廻り始める。
見えない『何か』が ぐるぐると縛って逃げられない様に 静かに二人を取り囲んでいく…
そして二人の向かう先には、動きを止めてボロボロに崩れ去った『運命の輪』に取り残された………
---かつて『幻想郷の大賢者』と呼ばれた、一人の鳴かぬ少女の姿が 在った---
【C-2 GDS刑務所・女子監 広場/早朝】
【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(大)、首筋への打撃(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:メリーと一緒に此処から脱出するために、とりあえずは青娥の命令に従う。
1:今は青娥に従う。
2:メリーとジャイロを探す。
3:いつまでも青娥に従うわけにはいかない。隙を見て逃げるか…倒すか…。
4:・・・強くなってメリーを守りたい。
[備考]※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※DISCに関する更なる詳しい情報をヨーヨーマッから聞いてます。
【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)
[装備]:スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部、河童の光学迷彩スーツ(バッテリーは殆ど満タン)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらジョルノにプレゼント♪
2:蓮子をDISC収集のための駒として『利用』する。
3:まずはD-2の『猫の隠れ里』へ向かうわよ♪
4:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
5:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※ジョルノにDISCの手土産とか言ってますが、それ自体にあまり意味は無いかもしれません。やっぱりDISCを渡したくなくなるかも知れないし、彼女は気まぐれですので。
※スタンド及びスタンドDISCについてかなりの知識を得ました。現在スタンドDISC『ヨーヨーマッ』装備中。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
--- <早朝> GDS刑務所 女子監 広場 ---
「…つまり、蓮子は青娥とかいう女に連れ去られた、と…。成る程、理解したよ。」
「ああ…。ここに彼女の死体が無いという事はその可能性が高い。…すまない、ジョニィ。全てはこの岸辺露伴のミスだ。」
「いや、アンタのせいじゃないよ、露伴。君は蓮子を守る為に出来る限りを尽くした。それに蓮子がまだ生きてるなら後を追う事も可能だ」
ジョニィは青娥達が向かったであろう、未だ黒煙に噴かれる東の方向を眺めながら、深くうなだれる露伴にフォローを入れた。
しかしそれで気の済む露伴ではない。露伴は蓮子を守れなかった事を悔やむと同時に、激しい憤りを感じていた。
(この岸辺露伴が…何たるザマだ…ッ!女の子一人守れずみすみす敵に奪われ、敗北し、そのうえ奴に『生かされている』…だと…ッ?
あのクソッタレ女ッ!敗北したぼくをあんな『見下した目』で見やがった!そのうえ、奴は『気まぐれ』に『止めを刺さずに』次なる興味対象へ早々と心変わりしてさっさとここを去っていった…ッ!
許せない…許せるわけが無いぞ霍青娥め…ッ!この岸辺露伴を怒らせたこと!後悔させてやるッ!)
ジョニィ達が
ヴァニラ・アイスを撃退してこの広場へ戻って来た時には既に蓮子と青娥の姿は無く、代わりに地面に拳を打ち付ける露伴の姿があった。
蓮子がこの場に居ない事が分かったジョニィはひとまず自分の事を話し、露伴と文のこれまでの経緯・経歴を聞いたのだった。
そして露伴たちの最終目的が主催者の打倒だという事を聞いて、自分の目的と合致した事に安心する。
ジャイロやメリーを探し出すにしても、主催者を倒すにしても、まずは仲間が必要なのである。
すぐに蓮子を追いたいが、別の危険人物に出会ってしまうのはなるべく避けたい。
ダメージを負ったままの状態ではすぐに出発する事も出来ないので、身体を少し癒す為に三人はこの場で休息を取る事にした。
「文、気分はどうだい?良くなった?」
「え、えぇ。もうだいぶ良くなりましたよ。三人の中では私だけが無傷ですので…心配はご無用です!先程はあまりの熾烈な戦いの後でしたので少し眩暈がしただけですから!」
そう言って射命丸文は笑顔でジョニィに返す。力こぶアピールまでする始末だ。
「なら良かった。さっきは急にうずくまって驚いたよ。もし少しでも体調が優れないならちゃんと言ってくれよ?」
「ありがとうございます、ジョニィさん。ところでこれからどうするんです?『彼女』を追いますか?」
「あぁ、少し休んだら東へ行く。露伴によると『猫の隠れ里』で誰かが戦っていた可能性が高い。蓮子たちは恐らくそこに向かったのだろう。
彼女を救出したら…僕は親友を探し出す。そして仲間を集め…あの主催者を『倒す』つもりだ。
無謀に思うかもしれないが、誰かがやらなくてはいけない事だ。文、危険だと思うなら君は無理してついてこなくても良いぞ?」
これだ…ジョニィさんの時折見せる、この『黄金の精神』…。『今の私に足りないモノ』を彼は持ってる…。
本当に羨ましい…
「…いえ、私も一度はジョニィさんと約束した身…出来ることがあるならお手伝いしますので。
記者たる者、不屈の精神と根性、そして情熱が何より大切ですから…」
「…君が居てくれると心強いさ。『スケール』が見つからない時は頼むぞ?」
二人はさっきみたいにお互い小さく笑いあい、ジョニィは文の側を離れた。
それを眺める文はジョニィが自分の側を離れたのを確認して、その顔色を急速に動揺させる。
(なんて事なの…岸辺露伴の『ヘブンズ・ドアー』ッ!本にした相手に文字を書き込み自由に操る無敵のスタンド能力…ッ!
まさかこの私とした事が今まであの男に良い様に『洗脳』されていたなんて…ッ!屈辱的ッ!!)
---射命丸文は本来の自分の記憶を取り戻していた。
知っての通り、岸辺露伴と射命丸文の邂逅はあまり穏やかとは言い難いものだった。
出会い頭からお互い腹の探り合い、そして最終的には露伴の『先手』により文は反撃を封じられた形になる。
意識を失った文の情報を読み進める事で露伴は射名丸文という存在を優勝狙いの『危険人物』と判断し、多少の葛藤あれど文のこの殺し合いでのスタンスを『優勝狙い』から『異変解決のための共闘』と改竄した。
結果、現在の露伴と文という『紛い物のチーム』が誕生したのだが、不安要素はあった。
露伴本体の『再起不能』または『意識不明』による『ヘブンズ・ドアー』能力の解除である。
露伴の先程の攻防、そして敗北によって彼の意識はしばらくの間途切れてしまった。
この事が現在洗脳中であった文への改変効果がプッツリと途切れてしまう結果に繋がる。
即ち、『自分に起きた事を忘れる』『皆で協力して生き残る』の書き込みが消滅し、『自分だけでも生き残る』という文本来の目的が復活してしまったのだッ!
(…とはいえ、私の記憶が戻ってきた事を岸辺露伴には絶対に悟られてはダメ!
彼に少しでも疑問を持たれた瞬間、再びあのヘブンズ・ドアーで洗脳…いや、最悪『危険』とみなされ排除されるかもしれないし、それだけは絶対に阻止しなくては…)
これから文は露伴たちと何気なく行動し、洗脳が続いている『フリ』をしなければならない。
容易ではないが、優勝を狙うのであれば味方は多いほうが良いのだ。しばらくはこれで身を守れるかもしれない。
またはもう一つの案として、露伴に悟られる前に『暗殺』する方法があるが、これもリスクはある。
それは『ジョニィ・ジョースター』の存在だ。
先のヴァニラ・アイスとの死闘の中で彼が見せた『漆黒の殺意』。
彼は目的の為ならその『暗黒面』を持って冷徹に、容赦なく人を殺せるという『漆黒の心』を持つ人間だ。
いかに文が彼の本質に『黄金の精神』がある事を見抜いたとしても、ジョニィのそれは漆黒の殺意とは紙一重のもの。
その殺意は場合によってはいとも簡単に文に向く事だってありえる。文が露伴を攻撃しようとした瞬間、ジョニィは躊躇う事無く文を撃ち抜くかもしれない。
(だったら、岸辺露伴を暗殺した後、同時にジョニィさんも…殺すしか…)
実を言えば文はジョニィを殺す事はなるべくしたくない。
殺さずに済むのならそもそも人殺しだってしたくないのだが、文はジョニィの持つ『黄金の精神』に微かな希望を感じていた。
目的は必ず遂行するという、黄金なる意志を持つジョニィのような男がもしこの会場に他にも居るのなら、そしてそういう者達が一つに団結する事が出来れば…
『もしかして主催者に対抗出来る』かも…。文はジョニィに対して無意識下でそう感じていた…
(私…『卑怯者』だ……。
『立ち向かう』事も出来ずに、ただ、『傍に立つ』事しか出来ない…。『狡猾』で、『愚か者』…。
いえ、それどころか…彼らを『殺す』事まで考え始めてる……)
(私も、ジョニィさんみたいな『勇気』を持つ事が出来れば…
でも今は、本当に怖い。死にたく、ない
どうしよう…私、どうすれば……?)
『死』や『不吉』の象徴である鴉という生き物は、逆にまた『死の穢れを祓う神の使い』の象徴でもある。
幻想に生きる狡猾で賢明な鴉天狗は、これから彼らの『宿命』にどんな影響を与えていくのか
それはまだ、誰にも分からない…
【C-2 GDS刑務所・女子監 広場/早朝】
【ジョニィ・ジョースター@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、全身削り取られた痕多数(出血は止まっている)
[装備]:壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部、聖人の遺体・脊髄、胴体@ジョジョ第7部(体内に入り込んでいます)
[道具]:不明支給品(0~1)、基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロと会い、主催者を倒す
1:メリーとジャイロを探す。
2:蓮子達を追跡。青娥は始末する。
3:ヴァニラ・アイスも必ず始末する。どいつもこいつもお前らを!!今度追撃するのは僕らの番だ!!
4:体内の遺体については保留。
5:DIO…何者だ?ディエゴとは別人のようだが。
[備考]
※参戦時期はSBR24巻、ヨーロッパ行の船に乗り込んだ直後です。
※蓮子とは、メリーの名前の情報を共有しました。
※岸辺露伴から杜王町のスタンド使い、射命丸文から幻想卿および住人の情報を得ています。
※タスクACT4は制限により使用不可ですが、ACT3までなら射命丸文の翼を見て発動が可能です。
※ジョニィはヴァニラ・アイスのクリーム突破法に、馬を使った『完全なる黄金回転』が有効だと推察しています。
タスクACT4は制限がかかってますが、『黄金回転』を操る技術者がこの世界にもう一人存在する筈です。
※なお、この後ジョニィは約束どおり射命丸文の強引で執拗な『インタビュー』(出身、経歴等々)をちゃっかり受けました。
【
岸部露伴@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(中)、背中に唾液での溶解痕あり
[装備]:マジックポーション×2
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:情報を集めての主催者の打倒
1:ジョニィと共に蓮子の救出。
2:ついでにマンガの取材。
3:霍青娥…絶対に許さんッ!
4:射命丸に奇妙な共感
[備考]
※参戦時期は
吉良吉影を一度取り逃がした後です。
※ヘブンズ・ドアーは相手を本にしている時の持続力が低下し、命令の書き込みにより多くのスタンドパワーを使用するようになっています。
※射命丸文より幻想郷および住人の情報得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
※射命丸文の洗脳が解けている事にはまだ気付いていません。しかしいつ違和感を覚えてもおかしくない状況ではあります。
【射命丸文@東方風神録】
[状態]:疲労(中)、露伴による洗脳は現在解除されている
[装備]:拳銃
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:今回の異変を取材しつつも、自分は生き残る
1:今は、露伴に洗脳されている『フリ』を続けなければ…
2:『逃げる』か『暗殺』か…今はまだ決められない。
3:『黄金の精神』を持つ者…主催者に対抗出来る、のか…?
4:とりあえずジョニィさんにはちゃんとインタビューした
[備考]
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※岸辺露伴より杜王町のスタンド使い、ジョニィの能力や経歴等の情報を得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
--- <早朝> GDS刑務所 医療監房 一階 ---
「ハァーーッ……ハァーーッ……ハァーーッ……………ッ!」
医療監房の一部屋で亜空の瘴気ヴァニラ・アイスは疲労困憊の身体で自身を治療していた。
先のジョニィ・ジョースターや射命丸文との壮絶な死闘により、ヴァニラはジョニィの『漆黒の殺意』の前に破れ、逃走せざるを得ない状況にまで追い込まれた。
「……危なかった。あの、ジョニィの『殺意』と『能力』は…危険だ。決してこの世に存在してはならぬ存在…。
あのまま左腕を捨てなかったら、私はジョニィの『暗黒空間』に引き込まれ、バラバラにされていただろう…」
今のヴァニラの状態は悲惨なものであった。
左腕は肘から先が無残にも千切られており、その全身には数発の『衛星』に貫かれた痕が痛ましく残っている。
だが不思議な事に、クリームで噛み千切ってボロボロになった筈の右腕はいつの間にか傷が修復されており、全身から流れる血も既に止まっている。
普通ならば失血死してもおかしくないぐらいの血の量を流した筈だが、ヴァニラはかろうじて意識を保っていた。
「…何なのだ、この右腕は?凄まじいエネルギーを感じる…。
こいつが支給品に入っていた時はただのハズレかと思い、特に気にも留めていなかったが…」
ヴァニラの支給品は『聖人の遺体』(右腕、胴体、脊髄)であった。
ジョニィとの最後の場面、ヴァニラのデイパック内に入っていた『コレ』は、『脊髄』と『胴体』がジョニィの元に、『右腕』がヴァニラの元にそれぞれ吸い寄せられた。
遺体はヴァニラの気付かぬ内に彼の右腕と同化し、その圧倒的な『奇跡』の力によって今もヴァニラは生き永らえる事が出来ている。
…とはいえ、まだまだ行動を起こせる様な状態ではない。
今のヴァニラに出来る事は『休息』であった。
悔しかった。参加者一人殺す事が出来ずに今自分はこうしておめおめと生き延びている。
DIO様のお役に立てずして何が『忠誠』か。
敵を前にして逃げ出す、その哀れにして愚劣なる心の何が『忠義』なのだ。
情けないを通り越して笑いすら出てくる。
……だが、今はそれでいい。
『結果』だ。要は結果さえ出せれば、あとはそれでいいのだ。
『忠誠』も『忠義』も、『結果』に結びつかぬならクソの役にも立たない。
これから先、恐らく戦いはもっと厳しくなる。
この会場に主君の『敵』となる者が後何人居るかは分からないが、どちらにしろ万全を整えて戦地に赴かなければ自分の命すら守れない。
ヴァニラ・アイスは戦場に死にに行くのではない。『生きて』敵を殺し尽くさなければならないのだ。
敬愛する主君を脅かす不届き者は誰であろうと許さない。
ジョースターも、その他の参加者も、全ては『生贄の羊』。
これは『試練』。そして『試練』は流される血で終わる。
全ての参加者を皆殺しにしたのちに、私はDIO様の前で然るべき『死』を迎え入れよう…
『帝王』はあのお方なのだ。
ヴァニラ・アイスは深く意志を固め、『その時』をじっと待つ
薄暗い部屋の中で、ただじっと、『黒き殺意の炎』を燻らせ続けている
【C-2 GDS刑務所・医療監房 一階/早朝】
【ヴァニラ・アイス@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、左腕切断、右腕損傷(今は完治)、全身に切り傷と衛星の貫通痕(治療中)
[装備]:聖人の遺体・右腕@ジョジョ第7部(ヴァニラの右腕と同化しております)
[道具]:不明支給品(本人確認済み)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために皆殺しにする
1:DIO様、貴方のために全てを葬りさりましょう
2:ジョースター一行は最優先で抹殺する
3:ジョニィも含めジョースターの血族はやはり危険ッ!
4:…今は身体を休めなければ。
[備考]
※参戦時期はジョジョ26巻、DIOに報告する直前です。なので肉体はまだ人間です。
※ランダム支給品は本人確認済みです。
※聖人の遺体の右腕がヴァニラ・アイスの右腕と同化中です。残りの脊髄、胴体はジョニィに渡りました。
○聖人の遺体(脊髄・右腕・胴体)@ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティールボールラン
ヴァニラ・アイスに支給される。スティールボールラン世界の北米大陸に散らばっている、腐ることのない聖人の遺体。
心臓、左手、両目、脊椎、両耳、右手、両脚、胴体、頭部の9つの部位に分かれて存在しているとされる。
手にした者の体内に入り込み、スタンド能力を発現させる、半身不随のジョニィの足を動かすなど、数々の奇跡的な力を秘めているが、このバトルロワイアルではスタンド能力を新たに発現させることはできない。
但し、原作中で既に聖人の遺体によりスタンド能力を発現させていた参加者(大統領、ジョニィ)が遺体を手放すことでスタンド能力を失うことはない。
(一時的に遺体の力でスタンド能力『スキャン』を獲得していたことのあるジャイロと、大統領が遺体を全て集めて発動する『D4C・ラブトレイン』の扱いについては、後の書き手さんにお任せします。)
最終更新:2014年11月05日 11:47