「ぬぅ……ッ!? ガ……ハァ……! ハァ……!」
薄暗い寝室の壁に、西洋ランプに照らされた大きなシルエットが映される。
影絵は大きく揺らめき、歪に形容された口角から覗く牙と思わしき先端からは幾粒もの雫が滴っている。男の血であった。
「ク…………フゥー……! …………クク」
影の持ち主は自分の顔面、その左半面を憎々しげに掴み、男性にしてはいやに美しい爪をこれでもかと食い込ませている。その長い指の隙間それぞれから血流がジワジワ枝分かれしながら生み出され、唇や顎を伝ってベッドシーツを赤黒く染めているのだ。
ひとしきり苦しんだだろうか。半分まで覆われた視界のまま、男は気でも違ったかのように笑みを零し始めた。
「ククク……! クハハハ……ッ! フッフッフ……!」
やがて男は自らに食い込ませていた爪を外し、狂笑と共にその全容を明らかにする。
妖艶とも評された彼の顔立ちは、今やその半分がドス黒い血に塗れていた。左瞼の上から、まるで恐竜の爪か何かに引っ掻かれたかのような切り傷が、縦一文字に大きく線引かれている。
潰されているのだ。その男───DIOの左眼球は、突然に切り開かれた裂傷によって使い物にならなくなっていた。
どう見ても大事だという容態とは裏腹に、男は視界の半分を血塗れとしながら、どうしようもない嬉々を隠すことなく振り撒いていた。
「今……『
空条承太郎』が死んだ。この左目、そして首のアザによる疼きで理解(わか)る……!」
DIOはたちまちにベッドから飛び降り、誰とも見ていない寝室の中、観客すら居ないたった一人のステージ上で空を仰ぎ、両の腕を広げ上げた。
スポットライトを浴びた孤独な演者が眉を開く。眼中に受けた代償など眼中にも無いとでも言わんばかりに、狂喜に満ちる。
人を辞めた吸血鬼DIOにとって、ジョースターの名が持つ意味は深く重い。始まりのジョースター、『ジョナサン』から初めて敗北を味わったあの日から、ディオは、DIOは、『運命』に固執し始める事となる。
克服すべき恐怖。乗り越えるべき宿命。DIOにとってジョースターは、生涯を賭して必ず倒さねばならない敵ッ!
「乗り越えたぞ……! 100年掛かってしまったが……今ッ! オレはジョースターを超えたッ! 堂々と! 正面から! 勝ったッ!!」
愉悦に浸らないわけがない。
快哉を叫ばないわけがない。
諸手を挙げないわけがない。
宿願なのだ。苦渋を舐めさせられた存在なのだ。ただの一度として勝てなかった一族なのだ。
その相手に─────
「勝ったッ!」
「運命を克服したぞッ!」
「ジョジョにッ!」
「ジョースターにッ!」
「勝利者はこのオレだッ!」
「乗り越えたのはこのDIOだッ!」
「フーハッハハハハハァァーーーーーーッ!!!」
静寂を憚らない唯独りの狂笑が、紅魔を支配した。
歓喜はまるで人間のそれの様に。男は唯々、満悦に浮かれた。そこに悪辣な計謀も、最悪の意志も、差し込まない。
倒すべき宿敵を、討った。彼にとって、男にとって、拳を握りあげるには充分すぎる戦果が得られたのだから。
先程流された放送にて、承太郎の名は呼ばれていない。ジョニィなる未知のジョースター姓の名はあったが、その事実はディエゴの口から直に伝えられている。
だが今……なんの前触れなくDIOの左目から突如として血が噴出した。先の戦いで承太郎のスタープラチナから受けた最後っ屁による裂傷だったが、それは巫女の血を吸い完璧に癒やした筈だった。
「クク……なるほど。執念の篭った傷は癒えにくいと耳にしたことはあるが、あながちオカルト話でも無さそうだ」
生涯分の笑いを吐き出したと言えるほどに笑い尽くしたDIOは、左目をガリガリと掻き毟りながら低めのデスクに腰を落とした。
流石は承太郎と称えるべきか、ただでは死ななかったらしい。奴はしっかりと置き土産を遺し逝ったのだ。まさに大健闘と言えよう。
左目がこれでは難儀だ。等価交換とも言える代償だが、果たして一人二人の血を吸った程度でこの傷は塞がってくれるだろうか。
……安いものだろう。眼球の一つや二つ、本当に安い出費だ。なんなら手足だって厭わない。
───二人目だ。これでジョースター抹殺は、二人目。
「何処の馬の骨かは分からんが、件のジョニィを討ったのは
チルノとこいしだったか。そして承太郎はこのオレ自らが。悪くないペースだ」
取り出した名簿と地図を叩きつけるようにデスクに敷く。自らに流れる血をインクにしてDIOは、名簿の「
空条承太郎」の欄に爪先で激しく横引いた。
今にも軽快な口笛を吹き荒らしでもしそうな顔色で、次にDIOは地図を見やる。大雑把な星痣レーダーによればだが、消滅しかけていたアザの反応はこの紅魔館をグルリと一周し、一度北に向かった後に南下していた。
そして暫くの時を置き、完全に消滅。同時に開いた左目の傷を考えれば、間違いなく死んだのは承太郎だという確信があった。
そして収穫はそれだけに終わらない。アザの反応といえば、承太郎の死より前にも一度、数多に散らばっていた反応が一つ、消失していることをDIOは確認している。
アザの一つにはプッチが混ざっている為、ジョースターの誰かとは限らないが……しかし高確率であの一族のものだろう。放送直後の出来事なのですぐさまの人物確認は難しいが。
だが、まだ『居る』。ジョースターはこの地に、まだまだ多く居る。5人か6人か……正確な所は未だ掴めないが、これでは真の『勝利』とは言えない。
ジョルノをジョースターの一人としてカウントするべきかは判断の困る所だが、とにかく目標は『全ジョースターの抹殺』。さっきまでは高らかに大笑いしていたが、こんな所で勝った気になっていてはまた100年前の焼き直しだ。
今回の放送において最も驚愕した事が、DIOが一番に信頼を置く部下『
ヴァニラ・アイス』脱落の報。彼は間違いなくDIOの切り札であり、おいそれと失っていい人材ではない。
スタンドの凶悪さ然り、ある種異常なまでの忠誠心然り。
チルノとこいしを質屋に入れたってヴァニラ程の男は到底買えないだろう。それ程に惜しい部下を易々と手放した。あまりに手痛い打撃だ。
いったいどこの誰が奴を討てたというのか。カイロの時はポルナレフ・アヴドゥル・イギーらにやられたと聞いたが、この殺し合いにも奴らに匹敵する戦力が居ることは確かだ。
チルノ。
古明地こいし。極めつけに
ヴァニラ・アイス。
確定したジョースター二人の脱落に対しこちらの戦力は三人削られたと言えよう。DIO陣営は、頭領を除けば後はプッチ、ディエゴ、青娥の三人。恐竜化させた
八雲紫と、アヌビス神でチェーンアップを施した
宇佐見蓮子を加えれば五人。不満とまでは言わないが、より万全を期すならもう少し補充を加えたい所だ。
とはいえ生憎と日中に出歩ける体質ではなく、お眼鏡に叶う人材を見繕う勧誘にも中々精を出せない。こいしを連れてきた時のように、プッチがその役目を担ってくれるのなら幾分は楽なものなのだが。
「……となれば、やはりメリーか」
壁に背を預けながら、DIOは深い思案に沈んでいく。現状、DIOに出来る事で一番実を結べそうなものがメリーを手中に収めることである。
それは戦力の増強という即物的な目的でなく、ともすればそれ以上の魅力がメリーという少女には内包されている可能性があるからだ。
『境目を見る能力』……なんとも曖昧で、要領を得ない名称だが、事実DIOはその能力を彼女との最初の対話によって実体験したようなものだ。
肉の芽の中に侵入し、まるで我が夢の如く意思を顕現させ体験する。本来は絶対に侵入不可である結界を越えて、精神だけを飛ばしてきたというのだ。
境目を超える。一言に言うが、それは一体どういう事象を起こすのか?
メリーは、あの目で、あの足で、“何処まで”行けるのか?
そしてそれは、DIOの目的にどう関与できるか? 果たして利用に足る存在なのか?
まだ、分からない。分からないからこそ、手に入れる価値は大いにある。
八雲紫との関係にしたって捨て置けるものでは無い。あの二人を『引力』の様に引き逢わせてみよう。そこから生まれる『何か』は、きっとDIOにとっても意味のあるモノとなるだろう。
「精々、大親友を籠絡しておいてくれよ。───蓮子」
じっくりと。
メリーという、まだ見ぬ天下一品の料理を下ごしらえするかのように、焦らずゆっくり味を付けていき───最後に盛り付けてみせよう。
【DIO(
ディオ・ブランドー)@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:左目裂傷、多少ハイ、吸血(紫、霊夢)
[装備]:なし
[道具]:大統領のハンカチ@第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、頂点に立つ。
1:天国への道を目指す。
2:永きに渡るジョースターとの因縁に決着を付ける。
3:神や大妖の強大な魂を3つ集める。
4:ディエゴたちの帰還を待ち、紫とメリーを邂逅させる。
5:ジョルノとはまたいずれ会うことになるだろう。ブチャラティ(名前は知らない)にも興味。
[備考]
※参戦時期はエジプト・カイロの街中で承太郎と対峙した直後です。
※停止時間は5→8秒前後に成長しました。霊夢の血を吸ったことで更に増えている可能性があります。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※名簿上では「DIO(
ディオ・ブランドー)」と表記されています。
※
古明地こいし、
チルノの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民、幻想郷についてより深く知りました。
また幻想郷縁起により、多くの幻想郷の住民について知りました。
※自分の未来、プッチの未来について知りました。ジョジョ第6部参加者に関する詳細な情報も知りました。
※主催者が時間や異世界に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。
※恐竜の情報網により、参加者の『6時まで』の行動をおおよそ把握しました。
※
八雲紫、
博麗霊夢の血を吸ったことによりジョースターの肉体が少しなじみました。他にも身体への影響が出るかもしれません。
※ジョナサンの星のアザの反応消滅を察していますが、誰のものかまでは分かってません。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『
マエリベリー・ハーン』
【真昼】C-3 紅魔館 吸血鬼フランドール・スカーレットの部屋
空を旅するのも、遠い地の果ての友と会話するのも、かつては夢想の戯れだった。
人類は皆、夢を魅続けてきたのだ。そして、翼を生やしたいと願ってきたのだ。
とうとう彼らの謳う科学は、人々を宇宙へと駆り立てた。子供たちの夢はやがて知識となり、知識の集合体が科学の翼となった。
我々に必要な物は、『夢』である。
そして夢へと羽ばたくには、『翼』が必要である。
「ねえメリー? 元気出しなって。私がついてるじゃないの」
ここは夢なのかな。それとも現かしら。
今、私は夢の中の胡蝶なのか。それとも胡蝶の見る夢の中のメリーなのか。
胡蝶の夢。夢と現の『境目』が判然としない事を喩えた故事。
「ねえメリー? 知り合いや友達が死ぬって凄く悲しいことよ。でも仕方ないじゃん。DIO様にとっての邪魔者だったんだからさあ」
今の私に、境目を見る能力はあってないようなもの。ここが夢なのか現実なのかすら、分かり得ないでいる。
胡蝶のように、空を翔ぶ羽が欲しい。堕ち続ける親友の手を取って、あの空へと羽ばたけるような羽が……翼が欲しい。
「ねえメリー? 私の話聞いてる? 私はね、メリー。本当に貴方のことを想って言ってるのよ」
一足先に夢から覚めた我が親友・
宇佐見蓮子。
いまだに夢を捨てきれない私・マエリベリー。
人間は空を飛ぶ為に、空を翔んだ。今の私があの空を駆けるには、夢が必要なんだ。
それはきっと、子供のように無邪気な夢。混じり気のない、純粋無垢な夢こそが翼を創る原動力。
ああ。だとしたら、何ということだろう。
私にはこの夢を直視する勇気が足りない。ツェペリさんが語ったような勇気が、私には足りないんだ。
いや、少し違う。この勇気を、私は一体何処に向けて解放すればいいのかが分からない。標が無いんだ。
勇気を絞って空を翔んだ先が……『悪夢』だとしたら。私は今度こそ、暗黒の空に向かって永遠に堕ちていく。それが何よりも、怖い。
満天の輝きで暗闇を穿つ、何処に立とうとも決して見失わない黄金のような夢が……私には足りていなかった。
私には…………羽が無い。空に堕ちる蓮子の手を取る為に翔ける、羽が。
「ねーえーメリーー?? いい加減に私と───」
「うるさい。蓮子の声で、私に話し掛けないで」
拒絶。虫のように絶え間なく鳴き続ける、蓮子にとても良く似た声を私はこれ以上耳に入れたくなかった。私の頭の中は……もう、パンクしそうだ。
───
第二回放送。その死者の読み上げの中に、神子さんの名前があった。
「豊聡耳、さんだっけ? あの邪仙の弟子みたいな人だって聞いたけど」
「……貴方達が、あの人を……殺したの?」
ひまわり畑で起こった忌まわしき出来事が、頭の中で再生される。神子さんは、ポルナレフさんの肉の芽を消滅させた功労者の一人で、私たちの集団のリーダーみたいな役を担っていた。
女性なのに気丈で肝が座ってて、だけども奔放でどこか子供っぽいところもあって。人の上に立てるカリスマを備えてる……そんな人だったと思う。
私なんかより、全然強い女性だった。あのひまわり畑で青娥って人と……蓮子が襲ってきた時だって、率先して皆を守りながら戦っていた。
あの人が……死んだ?
「本当はね、メリー以外の奴らは全員殺す予定だったんだけどね。ていうか、殺したと思ってたんだけど」
死んだ。殺された。全員殺そうとしていた、と……蓮子はあっけらかんに喋っている。何事でもないように、大学のカフェで会話するかのように、彼女の表情は日常のそれと大差ない。
唯一、瞳の中には何も映っていないことを除いては。
「青娥さんの秘中の策でね。てっきりあの場の全員を化け物が喰べちゃったと思ったんだけどなあ。まさか一人も呼ばれないなんて。結局、成果は青娥さんが直接殺した女一人だったわけね」
阿求も、幽々子さんも、ポルナレフさんも、ジャイロさんも、みんな殺そうとしていた。そう、言っている。
「正直、ビックリしたのはこっちの方よ。一筋縄じゃあいきそうにないわね、アイツら」
DIOに支配されていることは分かっている。ポルナレフさんの時を考えれば、肉の芽の支配力が尋常でないモノだということは身に染みていた。
それでも、そんな言葉をよりによって蓮子の声で聞きたくなんてなかった。
「ひょっとしたらメリーを奪い返そうとここまでやって来るかもね。まあDIO様だっていらっしゃるし、もし来たって私がこのアヌビス神で返り討───」
「いい加減にしてよ」
限界が来ていたのかもしれない。あるいは、最初から私の頭は限界だったのかも。
気付いたら私は蓮子の前に立っていた。
「どうして……? どうして、そんな酷いことが言えるの?」
「酷い? メリー。酷いっていうのは……」
怖気もせずに、蓮子は下ろしていた腰を上げ、私と同じ目線まで立ち上がってきた。気持ちの悪い微笑まで携えて、小刻みに震える私の頬に指をそっと当てながら彼女は言い返す。
「貴方の方よ。……酷いじゃないメリー。どうして貴方は私と一緒になってくれないの?」
感情の不存在(バーチャル)。
蓮子の意志は、今や現には無い。遠い遠い境目の向こう側に、漂うように堕ち続けている。
この虚無の瞳の中へ、私は手を伸ばせない。結界の向こうへと翔んでいけない。
「そんなにアイツらが大事? 私よりも?」
「アンタは……蓮子じゃないわ」
「蓮子よ。貴方の大好きな
宇佐見蓮子。ほら、よく見てみてよ……」
蓮子のしなやかな指が、私の頬をツツゥと伝い唇へと触れてくる。私の指が(自分で言うのも何だけど以前に蓮子から言われた)ピアニストのように綺麗で繊細な指だとしたら、彼女はバイオリニストのように細長く、ちょっぴり力強い指をしている。
それが今、私の唇を柔らかく押し付ける様になぞっていく。傍から見れば、私たち二人はとても蠱惑的に映るんでしょうね。
「ねえ……見てよメリー。私を、見て……」
反対側の手で、蓮子は私の肩をグイと掴む。そして、そっと……少しずつ……蓮子は私の身体を自分の方へと寄せてきた。
まるで舞台で見たロミオとジュリエットだ。この場合ロミオは蓮子で、ジュリエットは私になるのだろう。次第に私と蓮子は抱き合わせる様な形を取っていた。どうしてだか、腕に力が入らない。これ以上、蓮子を拒絶できない。
彼女の左腕が、私の肩から背へと絡ませながら降りていく。優しげでありながらも、強く……強く撫ぜられる。
「ねえ……来てよメリー。私の中に、来て……」
近い。蓮子の顔が、とても近い。鼻と鼻がくっ付きそうなくらい。
官能的だった。未だかつて見たことのない親友の妖艶な姿が、私の瞳を釘付けにした。女同士であることも忘れ、私の内の情欲が蓮子を求め始めていた。
「一つになろう。……メリー」
突き放さなければならない。これは仮初の姿だ。私の弱みに付け込んだ、甘い蜜を垂らした毒々しい花弁なのだ。
心では分かっているのに……身体は、肉体は、蓮子を受け入れる姿勢から離れようとしない。彼女の何処までも底深い瞳の色に、私は惹かれ始めている。
「あ……っ れん、っ、こ……やめ……!」
「やめない……ほら」
視界がぼやけ始めた。今にも口付けを交わせる距離で、私の理性と全身が蕩け始める。柔らかな繭の中にでも包まれたような、初めての極楽が全身を覆う。
まず嗅覚。目の前の蓮子の匂いが鼻腔を刺激し、小さな声が漏れた。甘美な果実を絞り出したようなフェロモンが私をすぐにも虜にさせる。……蓮子って、こんな匂いするんだ。
次に触覚。蓮子の右手が、私の首に添えられる。いつの間にか私の両腕は自然と彼女のシャツの下をまさぐり、腰まで回っていた。いつまでも触れていたくなる温かな餅肌が、益々私の情欲を刺激する。……離したくない。
更に視覚。今の蓮子は女の私にすらも余りに魅力的に映った。こんなにも綺麗な瞳を、私自身の色に染め上げたいという独占欲まで湧いてくる。……本当、素敵よ蓮子。
そして聴覚。蓮子の心臓の音が、私の鼓動と重なる。吐息の音一つ一つが、狂おしく刺激的なリズムを奏でた。色の篭った嬌声は果たしてどちらのものだろう。……どっちでもいいや。
最後は───味覚。黒っぽい服装の癖に、肌だけは新雪みたいに透き通っている彼女。その雪の上に仄かな艷を塗る朱唇が……
私の───
唇に───
愛し合う男女の様に絡み付いたまま、私の口は塞がれた。
「ん……!? ん……れ、ん……!」
「ん……ぁ、メリィ……! は、ぁ……」
紛れもないファーストキス。痺れる様な感触が私の口内を伝い、自分でもよく分からない声と弛緩が顔を出した。
蓮子は私の唾液を貪るように求めて吸い付き、同じように私も蓮子の肉体を求め始め───────
私は、頭の中が真っ白になって。
上気する蓮子の吐息を感じながら、なすがままにされて。
吸い込まれる。
───私は星を見ていた。
廃れた神社の、長ったるい石段の上に腰掛けて。空には満天の星空。横には……大好きな親友がいて。
恋人みたいに指と指を絡めて、私と蓮子は冬の寒天の下で暖をとっていた。暖かい手だ。冷えきった心には丁度良い。
「今年も、メリーと一緒に年越せたね」
ねずみ色の空を仰ぎながら、蓮子は言った。その横顔が、私にとってはなにより愛おしい。
「あけましておめでとう、蓮子」
私は二度と離さない。この手を、この人を、二度とは。
「うん。……Happy New year。おめでとうメリー」
私も───────堕ちよう。蓮子と一緒に……ずっと。
「そして……Happy New world。『新たな世界』よ」
ずっと。
ずっと。
ずっと。
ずっと。
ずっと。
「───────いらっしゃい。メリー」
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
ずっと一緒。
どこか遠くの空の下。除夜の鐘は止むことなく鳴り続けていた。
「カタン」
───────はっ!?
意識が戻れば、そこは草臥れた神社でなく、さっきまでの子供部屋。眼前には蓮子が。いつの間にか私は、親友から押し倒されていた。
いや……そんな事より……!
「さ、触らないでっ!」
「ありゃ」
一気に現実を自覚する。私は今……今まで、何を!?
驚きのあまり腰に跨っていた蓮子を突き飛ばし、私は壁まで海老みたいに後ずさった。口元には“何故か”ベトベトした液体のような……いや、忘れよう。覚えてるけど忘れよう。さっきのはナシ。ノーカンだ。どうかしてた。悪夢よ。
「ちぇ~。もう少しだったのに」
おどけた様子で立ち上がった蓮子は、たいした動揺も焦りも見せずにケロッとしてみせる。
ゾッとした。今、“もう少し”と言ったの?
もう少しで、私は…………
「なーんでそっちに戻っちゃうかなあ。……私の魅力がまだまだだった? 女としての自信失っちゃうわ」
蓮子は帽子を被っていなかった。さっき、私がまんまと溺れてる最中に彼女がそっと外したんだ。
そして、『視た』。
蓮子の額に巣食う、悪魔の…………
「あ、あっち行ってっ! それを私に……見せないでッ!」
誘われたのだ。蓮子を支配する肉の芽を直視し、私は再びあの夢の中に誘われた。
打って変わって私の体は震え始める。動悸も止まらない。本当に危なかった。蓮子は───いや、DIOは、私の『境目を見る能力』を逆手に取って強制的に『あっち側』へと引き摺り込もうとしてたんだ。
後一歩で、恐らく私はあのDAY DREAMからは戻ってこれなかっただろう。蓮子と永遠に仲良く空を堕ち続けていたに違いない。
偶然にも何かの物音で私は覚醒できた。命拾いした。
(……いえ、偶然、だったのかしら)
物音のした方向を見やると、そこには『傘』が床に転がっていた。壁に立てかけられたそれが、ズルリと倒れたんだろう。
(あれ……? あんな傘、私は紙から出した覚えないんだけど……)
私の支給品───『
八雲紫の傘』。
ミステリアスな装飾を施した、けれども普通の傘。まさか傘に命を救われるなんて中々無い体験だけども。
八雲、紫さん……? 貴方が、助けてくれたの?
倒れた傘を、壊れ物でも扱うようにゆっくり持ち上げてみた。本当に至って変な所はない傘に見える。どこか守り神のような、神秘的な雰囲気だ。……気のせいかもしれない。
(八雲、さん。私、貴方と逢ってみたい。……助けて)
ぎゅっと胸に抱いた傘へと、私は想いを寄せる。勇気だけでは、人は空を翔べない。この空を翔けるには、光が必要なんだ。
道を照らす黄金の光こそが、闇を祓う唯一の標。悔しいけど、それは私一人じゃ叶わない夢。
(助けて……助けてください……! お願い、誰か……)
もう、限界が近いかもしれない。私も、蓮子も、このままだと完全に堕ちてしまう。
恐怖に負けちゃう……! DIOの手に、堕ちちゃう……!
「メリー……怖がらないで? ね、そんな傘なんか捨てちゃってさぁ────私と一緒になろ?」
いや……いや……助けて……! お願い……
誰でもいい……私と、蓮子を……助けてください……!
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【真昼】C-3 紅魔館 フランドール・スカーレットの部屋
【
マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:精神消耗、衣服の乱れ、『初めて』を奪われる
[装備]:なし
[道具]:
八雲紫の傘@東方妖々夢、星熊杯@東方地霊殿、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。ツェペリさんの『勇気』と『可能性』を信じる生き方を受け継ぐ。
1:蓮子を見捨てない。
2:
八雲紫に会いたい。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。
※『境目』が存在するものに対して不安定ながら入り込むことができます。
その際、夢の世界で体験したことは全て現実の自分に返ってくるようです。
※ツェペリと
ジョナサン・ジョースター、
ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
※ツェペリとの時間軸の違いに気づきました。
【
宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:健康、肉の芽の支配、衣服の乱れ、『初めて』を得た
[装備]:アヌビス神@ジョジョ第3部、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
[道具]:針と糸@現地調達、基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:DIOの命令に従う。
1:メリーをこのまま閉じ込め、篭絡する。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※アヌビス神の支配の上から、DIOの肉の芽の支配が上書きされています。
現在アヌビス神は『咲夜のナイフ格闘』『止まった時の中で動く』『星の白金のパワーとスピード』『銀の戦車の剣術』を『憶えて』います。
最終更新:2021年05月29日 23:03