序章(6)

 ―――なんだが凄いのが来ちまった。
 それが第一印象だった。
「…………」
 目の前に座り茶を啜る男を見る。祭服に見を包む、やたらとガタイのいい男だ。
「むっ!いかがなされたマスター殿!」
「いや、何でも無いんだけどね…」
 声がデカイのも、この男の特徴だった。
「アンタはキャスターのサーヴァント…って事でいいんだよな?」
「如何にも!我こそはキャスターのサーヴァント!真名をテュルパン!誉れ高きシャルルマーニュ十二勇士がひとり!よろしく頼みますぞマスター殿!」
「本当にデケぇな、声……」
 選んだ触媒からして、シュルルマーニュ十二勇士の一人が来るのは予想出来た。と言うよりも、それを狙って選んだ触媒だった。シャルルマーニュ本人か、あるいはローラン辺りを呼び出すのが理想だったのだが、それ以外でも全く問題はない。十分に強力な英霊だろう。
 問題はない、のだが。
(なんかやたらとキャラが濃いし。つーかキャスターに見えんし)
 なんだかなぁ、と溜息をつきそうになる。どうにも、上手く付き合っていける気がしない。
 四十路を前にして、生来のやる気の無さに磨きのかかってきた久原鎮真(くはらしずま)にとって、この熱血漢の相手は少々堪える。
 ここ、秋流(あきる)市にて行われる聖杯戦争。万能の願望機を巡る戦いに望むにあたって、流石の鎮真も少しばかり気合いを入れていたつもりだったのだが。
「しかしこの家は随分と広い!このような戦いに臨むだけあってマスター殿は一廉の人物のようですな!」
「別に、大したことねぇよ。親から継いだ家だしな」
「ほう!それでは父君が立派な方だったのですな」
「どうだか知らんけどよ。この辺は土地が良いから、昔からウチみたいな魔術師の家系がちょくちょく住み着いてんのさ」
 近木(おうぎ)辺りは恐らく今回の聖杯戦争にも参加するだろう。あそこの当主は前回の聖杯戦争にて命を落とし、まだ年若い娘が家督を継いだはずだ。彼女にとっては厳しい戦いになるだろうが。
「まあ、同情してやる余裕なんてねぇけどな…」
「むっ!何か仰られましたかな!?」
 なんでもねぇよ、と返しながら考えを巡らせる。
 現在目星が付いているマスターは、鎮真自身を除いて四人。近木の娘。この地に聖杯を持ち込み、聖杯戦争を開いたハインルードのマスター。それに、数日前から秋流を訪れている外様の魔術師が二人。
 近木の娘はともかく、いずれも油断のならない相手だ。未だ不明の、残り二名のマスターも気にかかる。
(全く、嫌になるねぇ…)
 深く溜息をつく。
 それでも、聖杯戦争の勝利は先代からの悲願だ。投げ出す訳にもいかない。
 目の前に座る男は、悩みの無さそうな顔で相変わらず茶を啜っている。
 三度溜息をつき、鎮真を天井を仰いだ。

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最終更新:2016年09月22日 03:51