東雲志津乃:戦艦大和・OP

「辞めて下さい、人を呼びますよ……」
レンガの壁を背に、数人の男に囲まれながらもその声は気丈で、瞳は揺るぎない力を讃えている
東雲志津乃は路地裏で暴漢に襲われていた
両親を亡くし、5年
夫を亡くし、4年
その間働き詰めであったが、最近ようやく経営が安定してきたこともあり、旅館を従業員に任せ、休暇を兼ねて単身ヨーロッパへ旅行していた
新婚旅行の思い出を追いかけるように欧州各地を転々としていた中、事件は起こった
憂いを帯びた顔で、単身旅を続ける和服美人、それは、卑劣な悪漢たちにとって格好の獲物であった。

男たちが嫌らしい笑みを浮かべて近寄る
「いやっ……」
抵抗し、殴られた
唇が切れ、血がこぼれ落ちる
瞬間、奇蹟が起こった
眩いほどの光とともに何かが飛び出し、暴漢たちを瞬く間に制圧する
「……わたしたちを起こしたのはあな……た?」
「……やまと、そう、よん……で」
それが、東雲志津乃とアーチャーの出会いであった

 事件の後始末を終え、宿泊地に戻り、改めてアーチャーと向き合う志津乃
そして、彼女から聖杯戦争の知識を教えられたのであった
「マスターの実力では、きけ……ん」
「だから、わたしたちを、じがいさせ……て」
たどたどしい口調ながら、最後にはこう締めくくった
魔力も少なく、魔術師として未熟極まりない志津乃ではアーチャーを十全に使いこなすことは難しい
事実、アーチャーは幾つかのスキルが使えず、万全とは言い難い極めて不利な状況であった
「……いいえ」
一瞬の逡巡、拒絶
「……どうし、て」
「あの事件、既に他の参加者に見られたかもしれません」
「そうだとすると、今降りることはかえって危険です」
「差し出がましいお願いですが、もう少し様子を見させていただけませんか?」
打算だけではない
彼女は目の前の童女の姿に、いたかもしれない子供の姿を重ねていた
夫との間に子がいれば、同年代だっただろう
他人であるのは間違いない、それでも子は子
故に自害を命じることは、家族を次々と亡くした志津乃にとっては、自身の命の危険よりも受け入れがたい事だった
「……りょうか……い」
「わたしたちは、やまと、せんかんやま……と」
「これより、マスターのしきかに、はいりま……す」
「ありがとうございます」
「改めて、よろしくお願いしますね、大和ちゃん」
「ええ、私の事は志津乃と、そう呼んで下さい」
ここに契約はなされ、新たな役者が舞台に舞い降りる

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最終更新:2016年09月29日 16:20