- 15.かがみの
『彼女』に違和感を覚えたのは、出会った最初の時からだ。
どうしてかは分からない。
何故か彼女はそこに居た。
私の知るはずのない……彼女が。
こなたはおじさんの事が大好きだった。
おじさんもこなたが大好きだった。
でも、互いのベクトルは何処かずれていて……上手く交じり合わない。
それは当然だ。
その間には居た。
そう……彼女が。
「よく、辿り着いてくれました」
彼女が笑う。
その屈託のない笑顔が眩しくて、思わず戸惑う。
「あ……貴方は、何なの?」
その動揺を隠すように一度深呼吸してから、もう一度強く出る。
まだ私には分からない。
彼女が敵か、味方か、すらも。
「安心してください、私は貴方に危害を加えるつもりはありません」
もう一度、笑顔が光る。
その笑顔に、またドキリ。
あ、安心しろって言われても……まだ全然信用出来ないんですけど。
「ここでは人目につきますね……どうぞ、中に」
彼女の対屋に招かれる。
……どうしよう。
この正体もまだ分からない彼女に、身を任せていいものか。
でも、動かなければ始まらない。
ああもぅ……蛇の道は蛇よ!
「ふふ、そう身構えなくても結構ですよ」
「い、いい加減答えてよ……貴方は、何なの?」
中で彼女と向かい合って座る。
まだ彼女の表情は、笑顔のままだ。
「だって……貴方の所為なんでしょ? こなたとおじさんが、不仲なのは」
「……」
少し、彼女の表情が陰った気がした。
「あの二人には少し、辛い事をしました」
そう、本当ならあの二人の仲は平穏なはずだ。
おじさんは超がつくほど溺愛してるし、こなただっておじさんの事を大事にしてる。
その二人の間に……『彼女』が入ってしまった。
その彼女に関する話に触れた時にこそ……私の体が違和感を教えてくれたんだ。
「確かに私は、この体の女性ではありません。仮の体を借りた仮初の器……そう貴方と、似てますね」
月夜に照らされ、彼女の顔が妖しく微笑む。
ルナティックとはまさにそれ……男性だったら押し倒してたわね。
もう隠す必要はないか。
「じゃあやっぱり違うのね……かなたさんじゃ」
彼女は、かなたさん。
おじさんの妻で、こなたの……お母さん。
……のはず。
私の知ってるのは、ね。
「そうですね……少し最初から話をしましょうか」
視線を空の月に向け、少し遠い目をするかなたさん。
「『この世界』が何か、貴方にはもう分かってるんでしょう?」
「まぁ……それは、ね」
「ふふ、やっぱり貴方は賢い子」
SFものでは常識よ。
ちょっと前にこなたが見せてくれた漫画にさえ載ってたわ!
「『枝状分岐宇端末点』。ここはその、一つです」
少し説明を加えよう。
貴方も生きるうえで、考えることがあるでしょう?
『もしあの時、こうなっていたら』って。
そう、よく言う『もしも』の世界。
平行世界……パラレルワールド、ってやつね。
枝状分岐宇端末点はそれの概念みたいなもの。
地球を含む宇宙そのものが、枝状にどんどん分岐して、無数の時空が平行に存在するって考えなわけ。
その枝の先一つ一つが……私たちの世界。この平安の世界。
分岐してすぐの時空ほど、似たような世界ってわけ。
ちなみに「宇」は空間。「宙」は時間を指すことになる。
「本来人間はその『単一世界』の中でしか生きられません」
そりゃそうよ。
選んだ道がどうであれ、引き返すことは出来ない。
その一方通行のベクトルこそが、人生。
人が、人間が生きる道。
「しかし私は、その様々な枝の先を行き来し……『存在する属性』を自由に持つことが出来ます」
……。
ええと。
ちょっと待て。
何処かで聞いた事がある。
自由に、ということは最小から最大まで。
存在する属性を最大限に持てる存在。
私たちは、確実に『存在』している。
それを属性とするならば、それを最大限に持っているものも存在するはず。
『それすなわち……の存在証明である』
「ま、まさかっ! かっ……かかか」
「……稀に、私の存在に気がつく人が居ます。そう……貴方のように」
ニコリとまた笑い、心臓が揺れる。
「貴方をずっと、見守っていましたよ……かがみ。よく、頑張りましたね」
ああ、そうか。
何でさっきからこの笑顔に惹かれるのかようやく分かった。
全てを愛し、全てに愛される存在……それが、彼女。
……気が遠くなるから、深く考えるのはやめよう。
「ここはあなたの世界とは遠く枝の離れた世界。それは貴方には分かるでしょう?」
まぁ、そりゃあね。
何処からどう分岐すれば時代まで違うわけよ。
こりゃ大分枝分かれが上って事ね。
天地創造生命誕生ぐらいよ、きっと。
「そして『存在する』属性を最大限に持った時、私はその『単一世界』に関わることを許されます」
それにたまに気がつく人間が居るわけね。
そして気づいた人間が、『それ』を神聖化していったのかもしれない。
……まぁ、私の推論だけどね。
「でもそれはあくまで仮の姿……だから、必ず拗れが生じます」
そして、私も気がついた。
かなたさんの姿を借りた、『存在』に。
その存在が、こなたとおじさんの間に拗れが生まれた。
きっとこの世界のかなたさんも私の知るように……亡くなっているのだろう。
そしてこなたとおじさん、お互いが居ないはずのかなたさんに甘えてしまった。
……本当に甘えるべきは、お互いであるはずだったのに。
こなたはかなたさんに甘えっぱなしだし、おじさんはそれを見て面白くないからこなたを邪険にするし。
もしかしたら私の世界でも、かなたさんが生きてたらそうなってたとか?
まぁ……それもまた、一つの平行世界の例なのかもしれないけど。
……頭が痛くなってきた? 私もよ。
「これは死者を冒涜する行い……いつか体を借りたお返しをするつもりです」
お返し、ねぇ。
多分また何処かの世界で、お礼をするつもりなのだろう。
まぁそれは単一世界にしか生きれない私には知りようがないわけだけど……『貴方』はもしかしたら、知ってるかもね。
だって、私たちより高次元を生きる『貴方』には見えるでしょ?
様々な枝の先……億千の平行世界を、ね。
「あー、まぁ分かったわ。とりあえずは納得しましょ」
「ありがとう、貴方なら納得してくれると思ってました」
と、また笑う。
納得するしかないでしょ、こんな目にまであってんだから。
時をかけるってレベルじゃねーぞ!
「……そこは納得したわ。でも、何で私がここに居るわけ?」
全部ひっくるめて信じようじゃない。
ここが私の世界とは違うのも、この目の前に居るのがかなたさんであってかなたさんじゃないのも。
だから問題はそこじゃない。
この違う世界に、何で私が居るのかってことよ!
単一世界に生きられないのが、人間だって言ったじゃない!
「そうですね……そこを次は話しましょうか」
かなたさんが一度咳払いをし、私を治める。
心臓の鼓動が速くなる。
……ようやく分かるんだ。
私がここに来た理由。
中心で大きく回る、謎の歯車の正体が。
「私は今まで、色んな世界を見てきました……色んな世界を、色んな貴方たちを」
へぇ、色々あったんでしょーね。
まぁでもそこまで違うって事は……。
「それはもう様々で……貴方が男性だったり、こなたが50人居たり」
どんなだよそれ!
ま、まあ色々あるでしょうね。一杯世界があるんだから。
それより許可はとらなくていいのか!? どどんまい! 土下座!
「それに……」
「それに?」
そこで一度、区切る。
ん? なんか顔が赤くないか?
「……ぶっ」
鼻血吹いた!
「み、みさこな……ハァハァ」
喘いでやがる! 自重しろ! つかマイナァーーー!
「……はっ、とと」
慌てて持ち直すかなたさん。
だ……駄目かも、この人。
「ええと、何処まで話しましたっけ」
何処も話してもねーよ!!
「ああええとそうそう、色んな世界を見てきました……」
今更笑顔見せてもルナティックの欠片もなし!
ああ、神聖なイメージが崩れていく。
人の夢と書いて、まさに儚い。
こんなのを敬ってたのかと思うと泣けてくる。
「まぁほら、事実は小説より奇なりといいますし」
だからお前が言うなやぁ!
「うぅ、ぶったぁ……そう君にも殴られた事ないのにぃ」
「ああもぅ……いいから進めて」
「あーえっとぉ、色んな貴方たちを見てきたわけでー」
すねんな!
「い、痛い痛いっ。ま、まじめにやりますからっ」
かなたさんの耳を鋭角に千切ったら大人しくなった。
……万能だなぁ、これ。
「オホン、ええと……私は今まで色々な世界を見てきました」
で、結局最初まで戻るのかよ。
いいや、これ以上口を挟まないでおこう。
「そしてこの世界……平安の世界に辿り着きました。そして、一人の少女に出会ったんです」
「少女?」
「ええ、少女……ただの人間の、少女のはずでした」
何よそれ。
人間の皮をかぶった悪魔でした、とかってオチ?
「少女には願いがありました」
淡々と話を進めていくかなたさん。
早く結論に行って欲しいけど少しは我慢しなきゃ。
まぁ聞いておくか。
「願い?」
「ええ、『花』が欲しかったんです」
花?
フラワー?
何よそれ、わざと分かりにくくしてない?
「でもその花の梢は高くて……手が届かなかったんです」
ああ、あったわねそんなことわざも。
なんか前にもどっかで見たわよ、そんな台詞を。
「貴方なら、そんな時どうしますか?」
「私なら?」
またそんな唐突な。
ええと、花に手が届かないわけよね。
「そうね……簡単よ、木に登ればいいじゃない」
「ええ、貴方ならそうでしょうね」
少しかなたさんの表情が、憂う。
「でもその少女には、『鎖』があったんです」
……。
はて、何処かで聞いた単語だ。
「その鎖が体を縛る限り、少女には木を登ることも出来ません」
その鎖が何なのか……私には大体分かる。
この平安の世界、特有の鎖。
「少女は苦しみ、悲しみ……とうとう諦めました。私にはそれが、見ていられませんでした」
それで何、彼女の前に現れたって?
まさに降臨ってやつね。
喜んだんじゃない? それで夢を叶えてあげたんでしょ?
「そして私は彼女に、見せてしまったんです」
「見せた? 何を……」
何を、なんてのは愚問だ。
かなたさんの視線が、それをまっすぐと見てるじゃないか。
……私を。
ちょ、ちょっと待って。
その流れは強引すぎないか!?
「そう……貴方、です」
「な、何で私なのよ!」
ああもう、まだ話が見えない。
少女が悲しんでいて、私を見せたって?
まったく意味が分からない!
「……貴方の世界は、『特別』なんです」
「はぁ?」
思わず声が漏れる。
何だって?
私の世界が、特別?
そりゃまぁ、そんなの私には分かりようがないけど。
だって、私は私の世界しか知らないんだから。
「この世界は平安の時代である事以外は……ほとんど一緒です。私がいつも体験する、様々な平行世界と」
……ああ、また何か難しくなってきた。
えっと……何だって?
「この世界と貴方の世界……違うものが、ありますよね? それが貴方の世界を、『特別』だという理由です」
わざと私を見てもう一度尋ねる。
そうだ、私は見つけたじゃないか。
私の世界と、『違う』もの。
……。
じゃ、じゃあ何!?
そういう事!?
そ、そんなの私は認めないっ!
だってそれじゃあ、それじゃあ……!
「そう、貴方は『異端』……私が見てきたほとんどの世界で、貴方はこなたに恋をしてる」
「なっ……」
思わず言葉を詰まらせる。
ほとんどの世界で、私がこなたを好き? 笑えない冗談よ! 戯言にも程がある! 実はこなかが作品が多すぎる皮肉だったんだよナナンダッテー!
「そ、そうだとしても! それが何の関係があるわけ!?」
い、いいわよ。そこも認めてやろうじゃない!
どうせ私には関係ないこと。だって、私は私。他の世界なんて関係ない!
「私は少女に諦めて欲しくなかった。貴方という存在を見せて……もう一度希望を持って欲しかった」
私が希望?
じゃあ何。
その花に手が届かない……って誤魔化してるけど、つまりは好きな人に想いが伝えられないってわけでしょ?
鎖は身分。その梢の高さこそ、身分の差。
つまりこの時代にはありがちな……身分違いの恋ってヤツ!
それで私を見せて……諦めることないって伝えた、と。
こうやって身分のない世界でも、自分が好きなはずの人をないがしろにしてる人も居る。
だからこんな風になっちゃいけないと伝えた……って失礼な! 勝手に人を反面教師にすんな!
……ん?
「でも彼女には私の意志は伝わりませんでした……彼女はあろうことか貴方すら憎み、貴方をこの世界に連れ出したんです」
……おい。
ちょっと待て。
「そう、全てはその少女が……」
「悪い、とか言い出さないわよね?」
「うっ……」
かなたさんの顔が強張る。
やっぱり……。
さてはこの野郎、有耶無耶にしようとしやがったな!
「じゃあ何、結局私が巻き込まれたのは……あんたの所為じゃない!」
「……やべ、ばれた」
ばればれだよ!
「やっちゃった。メンゴ☆」
可愛く言っても許すか!
さっきか妙に言い回しが長いかと思えば……誤魔化してただけかい!
「み、耳っ! 耳がとれますっ!」
一回とれろそんな耳!
「だ、だから手助けしてたじゃないですか」
「どこが手助けよ! 直接言いにくればいいじゃない!」
「そ、それは出来なかったんです……『少女』が、それを許してくれなかった。だから私に出来たのは、見守ってヒントを送る事だけで……」
「ヒント!? あの意味の分かんない文のこと!?」
胸倉を掴む。
もう相手が誰かなんて関係あるか!
「ひ、ひぅっ。が、頑張って考えたんですよ?」
「意味が分かんなすぎよ! 何よ最後のラテン語は!」
「いや……そっちのがかっこいいかなぁーって」
こ・の・ク・ソ・野・郎!
「フタエノアッー!」
あぁ……頭が痛くなってきた。
じゃあ何。
結局の原因は、こいつで……さらにその少女の逆恨みだって?
……ん?
ちょっと待って、おかしくないか?
怒りでちょっと頭が麻痺してた。
冷静になろう、クールダウンクールダウン。
「く、KOOLになれ……かっがー」
てめーは黙ってろ! 粉砕! 玉砕! 大喝采!
「……きゅぅ」
変態外人をも白目にしたネックハンギングツリーで黙らせてる間に、思考を巡らせる。
何だ、何がおかしい? 少女にこいつが私を見せた。うん、そこまではいい。
それで、私がここに……この世界に、連れて来られた。
そうここよ、ここ!
「ねぇ、何でその子は……そんな事が出来たわけ?」
「へっ?」
「最初に言ったわよね、普通の人間だって」
「……」
かなたさんが一度俯く。
「彼女の悲しみは……それはそれは深いものでした」
悲しみの度合いは、人それぞれだ。
それは、他の誰にも分からない。
その悲しみがどれだけ深いのかは……その本人にしか分からない。
他の誰にも、共感できやしない。
「その悲しみは……超えてしまったんです。人を、人の力を」
……。
ええと。
何だって?
「私も知りませんでした……人の、人間の誰かを想う力がこんなに強いだなんて」
はぁ……もうここまで来たら、納得するしかないのか。
ともかくその少女は超えたんだ……人を。
……こいつの所為で。
「それで、その力で私を?」
「ええ……彼女は貴方を憎んでいます」
「な、何よそれ!」
私は巻き込まれただけじゃないわけ!?
恨まれることなんて何もしてないわよ私!
だいたい彼女彼女言いすぎよ!
そんなやつに二人称使うな!
「ああもぅ、誤魔化さなくていいわ。一体誰なの? その少女……この馬鹿げた祭りの、主催者は」
「……」
かなたさんがようやく俯いた顔を上げ、私を見る。
小さく息を吸い込むのが私の耳に聞こえた。
そのまま淡々と唇を開き……『少女』の名前を告げた。
どうしてかは分からない。
何故か彼女はそこに居た。
私の知るはずのない……彼女が。
こなたはおじさんの事が大好きだった。
おじさんもこなたが大好きだった。
でも、互いのベクトルは何処かずれていて……上手く交じり合わない。
それは当然だ。
その間には居た。
そう……彼女が。
「よく、辿り着いてくれました」
彼女が笑う。
その屈託のない笑顔が眩しくて、思わず戸惑う。
「あ……貴方は、何なの?」
その動揺を隠すように一度深呼吸してから、もう一度強く出る。
まだ私には分からない。
彼女が敵か、味方か、すらも。
「安心してください、私は貴方に危害を加えるつもりはありません」
もう一度、笑顔が光る。
その笑顔に、またドキリ。
あ、安心しろって言われても……まだ全然信用出来ないんですけど。
「ここでは人目につきますね……どうぞ、中に」
彼女の対屋に招かれる。
……どうしよう。
この正体もまだ分からない彼女に、身を任せていいものか。
でも、動かなければ始まらない。
ああもぅ……蛇の道は蛇よ!
「ふふ、そう身構えなくても結構ですよ」
「い、いい加減答えてよ……貴方は、何なの?」
中で彼女と向かい合って座る。
まだ彼女の表情は、笑顔のままだ。
「だって……貴方の所為なんでしょ? こなたとおじさんが、不仲なのは」
「……」
少し、彼女の表情が陰った気がした。
「あの二人には少し、辛い事をしました」
そう、本当ならあの二人の仲は平穏なはずだ。
おじさんは超がつくほど溺愛してるし、こなただっておじさんの事を大事にしてる。
その二人の間に……『彼女』が入ってしまった。
その彼女に関する話に触れた時にこそ……私の体が違和感を教えてくれたんだ。
「確かに私は、この体の女性ではありません。仮の体を借りた仮初の器……そう貴方と、似てますね」
月夜に照らされ、彼女の顔が妖しく微笑む。
ルナティックとはまさにそれ……男性だったら押し倒してたわね。
もう隠す必要はないか。
「じゃあやっぱり違うのね……かなたさんじゃ」
彼女は、かなたさん。
おじさんの妻で、こなたの……お母さん。
……のはず。
私の知ってるのは、ね。
「そうですね……少し最初から話をしましょうか」
視線を空の月に向け、少し遠い目をするかなたさん。
「『この世界』が何か、貴方にはもう分かってるんでしょう?」
「まぁ……それは、ね」
「ふふ、やっぱり貴方は賢い子」
SFものでは常識よ。
ちょっと前にこなたが見せてくれた漫画にさえ載ってたわ!
「『枝状分岐宇端末点』。ここはその、一つです」
少し説明を加えよう。
貴方も生きるうえで、考えることがあるでしょう?
『もしあの時、こうなっていたら』って。
そう、よく言う『もしも』の世界。
平行世界……パラレルワールド、ってやつね。
枝状分岐宇端末点はそれの概念みたいなもの。
地球を含む宇宙そのものが、枝状にどんどん分岐して、無数の時空が平行に存在するって考えなわけ。
その枝の先一つ一つが……私たちの世界。この平安の世界。
分岐してすぐの時空ほど、似たような世界ってわけ。
ちなみに「宇」は空間。「宙」は時間を指すことになる。
「本来人間はその『単一世界』の中でしか生きられません」
そりゃそうよ。
選んだ道がどうであれ、引き返すことは出来ない。
その一方通行のベクトルこそが、人生。
人が、人間が生きる道。
「しかし私は、その様々な枝の先を行き来し……『存在する属性』を自由に持つことが出来ます」
……。
ええと。
ちょっと待て。
何処かで聞いた事がある。
自由に、ということは最小から最大まで。
存在する属性を最大限に持てる存在。
私たちは、確実に『存在』している。
それを属性とするならば、それを最大限に持っているものも存在するはず。
『それすなわち……の存在証明である』
「ま、まさかっ! かっ……かかか」
「……稀に、私の存在に気がつく人が居ます。そう……貴方のように」
ニコリとまた笑い、心臓が揺れる。
「貴方をずっと、見守っていましたよ……かがみ。よく、頑張りましたね」
ああ、そうか。
何でさっきからこの笑顔に惹かれるのかようやく分かった。
全てを愛し、全てに愛される存在……それが、彼女。
……気が遠くなるから、深く考えるのはやめよう。
「ここはあなたの世界とは遠く枝の離れた世界。それは貴方には分かるでしょう?」
まぁ、そりゃあね。
何処からどう分岐すれば時代まで違うわけよ。
こりゃ大分枝分かれが上って事ね。
天地創造生命誕生ぐらいよ、きっと。
「そして『存在する』属性を最大限に持った時、私はその『単一世界』に関わることを許されます」
それにたまに気がつく人間が居るわけね。
そして気づいた人間が、『それ』を神聖化していったのかもしれない。
……まぁ、私の推論だけどね。
「でもそれはあくまで仮の姿……だから、必ず拗れが生じます」
そして、私も気がついた。
かなたさんの姿を借りた、『存在』に。
その存在が、こなたとおじさんの間に拗れが生まれた。
きっとこの世界のかなたさんも私の知るように……亡くなっているのだろう。
そしてこなたとおじさん、お互いが居ないはずのかなたさんに甘えてしまった。
……本当に甘えるべきは、お互いであるはずだったのに。
こなたはかなたさんに甘えっぱなしだし、おじさんはそれを見て面白くないからこなたを邪険にするし。
もしかしたら私の世界でも、かなたさんが生きてたらそうなってたとか?
まぁ……それもまた、一つの平行世界の例なのかもしれないけど。
……頭が痛くなってきた? 私もよ。
「これは死者を冒涜する行い……いつか体を借りたお返しをするつもりです」
お返し、ねぇ。
多分また何処かの世界で、お礼をするつもりなのだろう。
まぁそれは単一世界にしか生きれない私には知りようがないわけだけど……『貴方』はもしかしたら、知ってるかもね。
だって、私たちより高次元を生きる『貴方』には見えるでしょ?
様々な枝の先……億千の平行世界を、ね。
「あー、まぁ分かったわ。とりあえずは納得しましょ」
「ありがとう、貴方なら納得してくれると思ってました」
と、また笑う。
納得するしかないでしょ、こんな目にまであってんだから。
時をかけるってレベルじゃねーぞ!
「……そこは納得したわ。でも、何で私がここに居るわけ?」
全部ひっくるめて信じようじゃない。
ここが私の世界とは違うのも、この目の前に居るのがかなたさんであってかなたさんじゃないのも。
だから問題はそこじゃない。
この違う世界に、何で私が居るのかってことよ!
単一世界に生きられないのが、人間だって言ったじゃない!
「そうですね……そこを次は話しましょうか」
かなたさんが一度咳払いをし、私を治める。
心臓の鼓動が速くなる。
……ようやく分かるんだ。
私がここに来た理由。
中心で大きく回る、謎の歯車の正体が。
「私は今まで、色んな世界を見てきました……色んな世界を、色んな貴方たちを」
へぇ、色々あったんでしょーね。
まぁでもそこまで違うって事は……。
「それはもう様々で……貴方が男性だったり、こなたが50人居たり」
どんなだよそれ!
ま、まあ色々あるでしょうね。一杯世界があるんだから。
それより許可はとらなくていいのか!? どどんまい! 土下座!
「それに……」
「それに?」
そこで一度、区切る。
ん? なんか顔が赤くないか?
「……ぶっ」
鼻血吹いた!
「み、みさこな……ハァハァ」
喘いでやがる! 自重しろ! つかマイナァーーー!
「……はっ、とと」
慌てて持ち直すかなたさん。
だ……駄目かも、この人。
「ええと、何処まで話しましたっけ」
何処も話してもねーよ!!
「ああええとそうそう、色んな世界を見てきました……」
今更笑顔見せてもルナティックの欠片もなし!
ああ、神聖なイメージが崩れていく。
人の夢と書いて、まさに儚い。
こんなのを敬ってたのかと思うと泣けてくる。
「まぁほら、事実は小説より奇なりといいますし」
だからお前が言うなやぁ!
「うぅ、ぶったぁ……そう君にも殴られた事ないのにぃ」
「ああもぅ……いいから進めて」
「あーえっとぉ、色んな貴方たちを見てきたわけでー」
すねんな!
「い、痛い痛いっ。ま、まじめにやりますからっ」
かなたさんの耳を鋭角に千切ったら大人しくなった。
……万能だなぁ、これ。
「オホン、ええと……私は今まで色々な世界を見てきました」
で、結局最初まで戻るのかよ。
いいや、これ以上口を挟まないでおこう。
「そしてこの世界……平安の世界に辿り着きました。そして、一人の少女に出会ったんです」
「少女?」
「ええ、少女……ただの人間の、少女のはずでした」
何よそれ。
人間の皮をかぶった悪魔でした、とかってオチ?
「少女には願いがありました」
淡々と話を進めていくかなたさん。
早く結論に行って欲しいけど少しは我慢しなきゃ。
まぁ聞いておくか。
「願い?」
「ええ、『花』が欲しかったんです」
花?
フラワー?
何よそれ、わざと分かりにくくしてない?
「でもその花の梢は高くて……手が届かなかったんです」
ああ、あったわねそんなことわざも。
なんか前にもどっかで見たわよ、そんな台詞を。
「貴方なら、そんな時どうしますか?」
「私なら?」
またそんな唐突な。
ええと、花に手が届かないわけよね。
「そうね……簡単よ、木に登ればいいじゃない」
「ええ、貴方ならそうでしょうね」
少しかなたさんの表情が、憂う。
「でもその少女には、『鎖』があったんです」
……。
はて、何処かで聞いた単語だ。
「その鎖が体を縛る限り、少女には木を登ることも出来ません」
その鎖が何なのか……私には大体分かる。
この平安の世界、特有の鎖。
「少女は苦しみ、悲しみ……とうとう諦めました。私にはそれが、見ていられませんでした」
それで何、彼女の前に現れたって?
まさに降臨ってやつね。
喜んだんじゃない? それで夢を叶えてあげたんでしょ?
「そして私は彼女に、見せてしまったんです」
「見せた? 何を……」
何を、なんてのは愚問だ。
かなたさんの視線が、それをまっすぐと見てるじゃないか。
……私を。
ちょ、ちょっと待って。
その流れは強引すぎないか!?
「そう……貴方、です」
「な、何で私なのよ!」
ああもう、まだ話が見えない。
少女が悲しんでいて、私を見せたって?
まったく意味が分からない!
「……貴方の世界は、『特別』なんです」
「はぁ?」
思わず声が漏れる。
何だって?
私の世界が、特別?
そりゃまぁ、そんなの私には分かりようがないけど。
だって、私は私の世界しか知らないんだから。
「この世界は平安の時代である事以外は……ほとんど一緒です。私がいつも体験する、様々な平行世界と」
……ああ、また何か難しくなってきた。
えっと……何だって?
「この世界と貴方の世界……違うものが、ありますよね? それが貴方の世界を、『特別』だという理由です」
わざと私を見てもう一度尋ねる。
そうだ、私は見つけたじゃないか。
私の世界と、『違う』もの。
……。
じゃ、じゃあ何!?
そういう事!?
そ、そんなの私は認めないっ!
だってそれじゃあ、それじゃあ……!
「そう、貴方は『異端』……私が見てきたほとんどの世界で、貴方はこなたに恋をしてる」
「なっ……」
思わず言葉を詰まらせる。
ほとんどの世界で、私がこなたを好き? 笑えない冗談よ! 戯言にも程がある! 実はこなかが作品が多すぎる皮肉だったんだよナナンダッテー!
「そ、そうだとしても! それが何の関係があるわけ!?」
い、いいわよ。そこも認めてやろうじゃない!
どうせ私には関係ないこと。だって、私は私。他の世界なんて関係ない!
「私は少女に諦めて欲しくなかった。貴方という存在を見せて……もう一度希望を持って欲しかった」
私が希望?
じゃあ何。
その花に手が届かない……って誤魔化してるけど、つまりは好きな人に想いが伝えられないってわけでしょ?
鎖は身分。その梢の高さこそ、身分の差。
つまりこの時代にはありがちな……身分違いの恋ってヤツ!
それで私を見せて……諦めることないって伝えた、と。
こうやって身分のない世界でも、自分が好きなはずの人をないがしろにしてる人も居る。
だからこんな風になっちゃいけないと伝えた……って失礼な! 勝手に人を反面教師にすんな!
……ん?
「でも彼女には私の意志は伝わりませんでした……彼女はあろうことか貴方すら憎み、貴方をこの世界に連れ出したんです」
……おい。
ちょっと待て。
「そう、全てはその少女が……」
「悪い、とか言い出さないわよね?」
「うっ……」
かなたさんの顔が強張る。
やっぱり……。
さてはこの野郎、有耶無耶にしようとしやがったな!
「じゃあ何、結局私が巻き込まれたのは……あんたの所為じゃない!」
「……やべ、ばれた」
ばればれだよ!
「やっちゃった。メンゴ☆」
可愛く言っても許すか!
さっきか妙に言い回しが長いかと思えば……誤魔化してただけかい!
「み、耳っ! 耳がとれますっ!」
一回とれろそんな耳!
「だ、だから手助けしてたじゃないですか」
「どこが手助けよ! 直接言いにくればいいじゃない!」
「そ、それは出来なかったんです……『少女』が、それを許してくれなかった。だから私に出来たのは、見守ってヒントを送る事だけで……」
「ヒント!? あの意味の分かんない文のこと!?」
胸倉を掴む。
もう相手が誰かなんて関係あるか!
「ひ、ひぅっ。が、頑張って考えたんですよ?」
「意味が分かんなすぎよ! 何よ最後のラテン語は!」
「いや……そっちのがかっこいいかなぁーって」
こ・の・ク・ソ・野・郎!
「フタエノアッー!」
あぁ……頭が痛くなってきた。
じゃあ何。
結局の原因は、こいつで……さらにその少女の逆恨みだって?
……ん?
ちょっと待って、おかしくないか?
怒りでちょっと頭が麻痺してた。
冷静になろう、クールダウンクールダウン。
「く、KOOLになれ……かっがー」
てめーは黙ってろ! 粉砕! 玉砕! 大喝采!
「……きゅぅ」
変態外人をも白目にしたネックハンギングツリーで黙らせてる間に、思考を巡らせる。
何だ、何がおかしい? 少女にこいつが私を見せた。うん、そこまではいい。
それで、私がここに……この世界に、連れて来られた。
そうここよ、ここ!
「ねぇ、何でその子は……そんな事が出来たわけ?」
「へっ?」
「最初に言ったわよね、普通の人間だって」
「……」
かなたさんが一度俯く。
「彼女の悲しみは……それはそれは深いものでした」
悲しみの度合いは、人それぞれだ。
それは、他の誰にも分からない。
その悲しみがどれだけ深いのかは……その本人にしか分からない。
他の誰にも、共感できやしない。
「その悲しみは……超えてしまったんです。人を、人の力を」
……。
ええと。
何だって?
「私も知りませんでした……人の、人間の誰かを想う力がこんなに強いだなんて」
はぁ……もうここまで来たら、納得するしかないのか。
ともかくその少女は超えたんだ……人を。
……こいつの所為で。
「それで、その力で私を?」
「ええ……彼女は貴方を憎んでいます」
「な、何よそれ!」
私は巻き込まれただけじゃないわけ!?
恨まれることなんて何もしてないわよ私!
だいたい彼女彼女言いすぎよ!
そんなやつに二人称使うな!
「ああもぅ、誤魔化さなくていいわ。一体誰なの? その少女……この馬鹿げた祭りの、主催者は」
「……」
かなたさんがようやく俯いた顔を上げ、私を見る。
小さく息を吸い込むのが私の耳に聞こえた。
そのまま淡々と唇を開き……『少女』の名前を告げた。
―月は、嫌いだ。
少女が荘厳に輝く月の下で、悔しさに唇を噛みしめます。
―あの花と一緒。
―そこにあるのに、絶対に触れられない。
―絶対に届かない。
満ちかけた月が視界に入り、少女を苛立たせます。
『彼女』は『鍵』を手に入れました。
そしてとうとう神に辿り着いたのです。
その事実が、少女の心の炎をさらに燃やします。
―でもいい。
―もう終わる。
―もうすぐ終わる。
―あの憎らしい月が満ちる頃には、全て。
少女が荘厳に輝く月の下で、悔しさに唇を噛みしめます。
―あの花と一緒。
―そこにあるのに、絶対に触れられない。
―絶対に届かない。
満ちかけた月が視界に入り、少女を苛立たせます。
『彼女』は『鍵』を手に入れました。
そしてとうとう神に辿り着いたのです。
その事実が、少女の心の炎をさらに燃やします。
―でもいい。
―もう終わる。
―もうすぐ終わる。
―あの憎らしい月が満ちる頃には、全て。
「……」
言葉を失ったのは、私だ。
かなたさんの放った一言が耳から入り、逆からまた抜け出ていく。
まだ脳が痺れてる気がする。
あははっ、そんな馬鹿な。と笑い飛ばせればどんなにいいだろう。
溢れ出る感情が、じわじわと足から上がってくる。
汗が背中を伝うだけで、その部分が痛いくらい敏感に反応してくる。
「これが、私の伝えられる全てです」
かなたさんが頭を垂れる。
彼女は教えてくれた。
かなたさんの正体。
世界の秘密。
そして、黒幕……中心で回る、歯車を。
……。
ま、まぁいいわ。
確かに『そいつ』が全ての元凶だってのは驚いたわよ。
でも、もう関係ないでしょ?
だって、私はこの人に辿り着いた。
そうよ……これで、終わりでしょ?
「明日、です」
「えっ?」
だけど、私の衝撃はまだ収まらなかった。
かなたさんが顔をあげ、私を見る。
まっすぐに、ただ私を。
「明日が、『期限』……最後の、満月です」
「なっ……」
最後?
期限?
な、何よその不吉な単語!
だってもう終わった!
もう、何も残っちゃ……。
『期限は……まで』
「!」
言葉がゆっくりと蘇る。
そうだ。
最初の手紙。
あれが一番分かりやすかったじゃないか!
そのまま、書いてあった。
それを今の今になってようやく思い出した。
今の今。そう……最後の、最後に。
『期限は』
「期限は……次の満月、まで」
ようやく全ての文が脳から蘇り、口から紡がれていく。
汗が溢れ、不快に顔を伝う。
「明日がその日です。どうか……悔いのない一日を」
「ど、どういうことよ! これで終わりでしょう? 私は貴方に辿り着いた。貴方の力で全部解決するんじゃないの!?」
思わず声が荒くなり、立ち上がる。
「……ごめんなさい。私の力は、私だけにしか使えない」
じゃ、じゃあ何。
必死になって探してたのも、全部徒労!?
体中から力が抜け、膝をつく。
い、いや……まだよ、まだ負けるな私。
今までそんな事、何度だってあったじゃないか。
……あぁ、でもやっぱりショック。
「あなたが元の世界に帰るためには……貴方自身が、見つるしかないんです」
つまりは……ふりだし。
一枚目の手紙は言う。神は言う。
そうよ、もう完全に思い出した。
『貴方が失ってしまった『何か』が必要です』
ここまで引っ張って何よそのオチ!
くそっ、思い出し損よこれじゃあ!
「失くしたもの、だっけ?」
「ええ」
「教えてくれたりは?」
「……それは、出来ません。私が教えてしまえばきっと……貴方はもう手にすることは出来ないでしょう」
期限はあと、一日。
本当にこれが……最後の戦いってやつね。
はぁ……色々情報が頭に入りすぎて今日はもう疲れた。
今日はもう、休もう。
休息も大切よ。
そう……最後の戦いに向けて、ね。
「かがみ」
部屋を立ち去ろうとしたとき、かなたさんが私を呼び止める。
「どうか、心挫けぬように。心折れぬように……それだけを、切に願っています」
最後に見た笑顔が、荘厳な月の光に照らされる。
それに……ありがとう、と返そう。
形はどうあれ、貴方も私を助けてくれたんだしね。
また一つ、教えられちゃったわ。
今度はとうとう……『神様』に、ね。
言葉を失ったのは、私だ。
かなたさんの放った一言が耳から入り、逆からまた抜け出ていく。
まだ脳が痺れてる気がする。
あははっ、そんな馬鹿な。と笑い飛ばせればどんなにいいだろう。
溢れ出る感情が、じわじわと足から上がってくる。
汗が背中を伝うだけで、その部分が痛いくらい敏感に反応してくる。
「これが、私の伝えられる全てです」
かなたさんが頭を垂れる。
彼女は教えてくれた。
かなたさんの正体。
世界の秘密。
そして、黒幕……中心で回る、歯車を。
……。
ま、まぁいいわ。
確かに『そいつ』が全ての元凶だってのは驚いたわよ。
でも、もう関係ないでしょ?
だって、私はこの人に辿り着いた。
そうよ……これで、終わりでしょ?
「明日、です」
「えっ?」
だけど、私の衝撃はまだ収まらなかった。
かなたさんが顔をあげ、私を見る。
まっすぐに、ただ私を。
「明日が、『期限』……最後の、満月です」
「なっ……」
最後?
期限?
な、何よその不吉な単語!
だってもう終わった!
もう、何も残っちゃ……。
『期限は……まで』
「!」
言葉がゆっくりと蘇る。
そうだ。
最初の手紙。
あれが一番分かりやすかったじゃないか!
そのまま、書いてあった。
それを今の今になってようやく思い出した。
今の今。そう……最後の、最後に。
『期限は』
「期限は……次の満月、まで」
ようやく全ての文が脳から蘇り、口から紡がれていく。
汗が溢れ、不快に顔を伝う。
「明日がその日です。どうか……悔いのない一日を」
「ど、どういうことよ! これで終わりでしょう? 私は貴方に辿り着いた。貴方の力で全部解決するんじゃないの!?」
思わず声が荒くなり、立ち上がる。
「……ごめんなさい。私の力は、私だけにしか使えない」
じゃ、じゃあ何。
必死になって探してたのも、全部徒労!?
体中から力が抜け、膝をつく。
い、いや……まだよ、まだ負けるな私。
今までそんな事、何度だってあったじゃないか。
……あぁ、でもやっぱりショック。
「あなたが元の世界に帰るためには……貴方自身が、見つるしかないんです」
つまりは……ふりだし。
一枚目の手紙は言う。神は言う。
そうよ、もう完全に思い出した。
『貴方が失ってしまった『何か』が必要です』
ここまで引っ張って何よそのオチ!
くそっ、思い出し損よこれじゃあ!
「失くしたもの、だっけ?」
「ええ」
「教えてくれたりは?」
「……それは、出来ません。私が教えてしまえばきっと……貴方はもう手にすることは出来ないでしょう」
期限はあと、一日。
本当にこれが……最後の戦いってやつね。
はぁ……色々情報が頭に入りすぎて今日はもう疲れた。
今日はもう、休もう。
休息も大切よ。
そう……最後の戦いに向けて、ね。
「かがみ」
部屋を立ち去ろうとしたとき、かなたさんが私を呼び止める。
「どうか、心挫けぬように。心折れぬように……それだけを、切に願っています」
最後に見た笑顔が、荘厳な月の光に照らされる。
それに……ありがとう、と返そう。
形はどうあれ、貴方も私を助けてくれたんだしね。
また一つ、教えられちゃったわ。
今度はとうとう……『神様』に、ね。
「お姉ちゃん、朝だよ」
「ん……」
目に差し込む朝日が、私意識を乱暴に叩き起こす。
まぁ、体が勝手に起きるわけだけどね。
ああええと、どうしたんだっけ。
あのままかなたさんの部屋から戻ってきて、そのまま寝たんだっけ。
昨日私の体がしこたま泣いた所為かな、まだ頭が少し痛いのは。
しかしつかさに起こされるなんてね、いつもは私が起こす側なのに。
まぁさすがに昨日のこなたのことが尾を引いて……ん?
どうしたの? つかさ。そんな馬鹿みたいな顔して。
私の隣に何か……。
「ん……ああ、朝かー」
「!」
私の隣りで、紫の塊が体を起こしあくびをする。
……ってんなあああ!?
「んああ、おはよーかがみ。妹さん」
そこに居たのはそう……ってかもういいだろお前!
「あ、おお、おおおっおお邪魔しました!」
「ちょ、ちょっとつかさ!」
顔を真っ赤にして部屋を抜け出すつかさ。
それを呆然と見送る日下部。
ってだからなんで居るんだこの馬鹿春宮!
ええと確か昨日部屋まで連れて来てくれて、かなたさんの部屋に行くから置いてけぼりにして……。
さ、さては昨日あのまま帰らなかったな! この節操なし!
「あら? あー、えと。何か誤解させちゃったかな」
「……」
一度、日下部を睨む私。
でもすぐに視線を逸らす。
おや珍しい、いつもの鉄拳制裁が飛ぶかと思ったのに。
ああそうか、昨日は日下部に泣きついた所で記憶が飛んだのか。
「いいわ……後で、言っておくから」
顔が熱いのは多分気の所為じゃないな。
まぁ想いを寄せてない男性とはいえ、一晩共にすればそりゃ気にするわよね。
いやいやいやいや、ひ、一晩共にって結局何もなかったわよ!
私が日下部に気がつかないで隣りで寝てただけ!
しょうがないじゃない! 明かりなんて月光しかないんだから!
「あ、あー。いや、つい眠くなってそのまま、だなー」
日下部も私の様子に気がついたのか、慌てて弁護しだす。
「で、でも何もしてないからな! 何も!」
「あ、あんまり大声でそういう事言わないで……自分でもそれくらい分かるわ」
「あ……ぅ、そ、そうだよなっ」
あはははっ、と笑う日下部。
顔が真っ赤だぞ、顔が。
ああもう、こっちまで恥ずかしくなるからやめてよ!
「……じゃあ、私は仕事があるから」
「ん、了解。こっちも帰るわ」
と、一緒に部屋を出る。
一応世話になったのを気にしてるのか、ちゃんと見送る私。
やっぱ生真面目よね、こっちの私って。
ああ、こっちのがスタンダードなんだっけ?
私が異端、って言われても実感沸かないけどね。
生真面目で、しっかりもので……たまにだらしなくて。
それで、こなたが……好きで。
はっ、もはや誰だよ! って気分ね。
まぁ……私にとってはだけど。
「んじゃ、またなー」
「ええ、また」
馬に乗り、邸を出る日下部を見送る。
結局、色々助けてもらっちゃったな。
命も救ってもらったし、色々教わったし。
最後のヒントも結局……日下部に教えてもらったようなものだし。
次に会うのは、私の世界の日下部かはたまた……。
どうせなら私の知ってる『彼女』に、もう一度会いたいな。
そして、その時言うわね。
ありがとう、って。
ふふ、またいつものとぼけた顔で言うのかしら。
『何言ってんだぁ? 柊ぃ』
……ってね。
日下部だけじゃない。
峰岸だって、つかさだって。
ゆたかちゃんに、みなみちゃん。
ひよりやパトリシアさんだって。
それに……こなたにだって。
皆に、言いたい。
ありがとう。
ただ、その五文字を。
皆にただ……伝えたい。
「あ、お姉ちゃん」
邸に戻ると、つかさに出くわす。
すると、顔を合わすなり顔を真っ赤にする。
「こ、こなちゃんの事で大変だけど……あ、あんまりハメを外すのはよくないよ?」
「なっ、何の話よ!」
辺りをよく見ると、他の女房の視線も痛い。
ガッデム! この時代の女房の情報網を舐めてた!
娯楽が喋る事ぐらいしかないから、噂はすぐ伝染するんだった!
「でもみさおさんかー……確かにかっこいいもんねー」
「だから何の話よ!」
「呼び方はみさお兄ちゃん、とかいいかもねー」
「つかさぁああああああああ!」
つかさを追いかける私。
私に追いかけられるつかさ。
それを眺める女房達、雑色達。
それぞれの歯車は回っていて、誰かの歯車を回している。
日下部は私という歯車を回してくれた。
ひよりや、みなみちゃん。
もちろんつかさだって……こなただって。
他の、みんなだって。
そう……私たちは、繋がってる。
その繋がりこそが……『世界』
私は勝手に、自分を孤独だと決め付けていた。
この平安な世界に、たった一人で……孤独に戦っていくのだと。
でも、違った。
一人じゃどうにもならない時。
私の歯車が狂って止まりそうな時。
……誰かが私の歯車を直してくれる。回してくる。
それは数え切れないぐらい沢山居て……誰もが私を支えてくれた。
この世界とは、『違う』はずの私を。
上澄みであるだけの、異端の私を。
「ん……」
目に差し込む朝日が、私意識を乱暴に叩き起こす。
まぁ、体が勝手に起きるわけだけどね。
ああええと、どうしたんだっけ。
あのままかなたさんの部屋から戻ってきて、そのまま寝たんだっけ。
昨日私の体がしこたま泣いた所為かな、まだ頭が少し痛いのは。
しかしつかさに起こされるなんてね、いつもは私が起こす側なのに。
まぁさすがに昨日のこなたのことが尾を引いて……ん?
どうしたの? つかさ。そんな馬鹿みたいな顔して。
私の隣に何か……。
「ん……ああ、朝かー」
「!」
私の隣りで、紫の塊が体を起こしあくびをする。
……ってんなあああ!?
「んああ、おはよーかがみ。妹さん」
そこに居たのはそう……ってかもういいだろお前!
「あ、おお、おおおっおお邪魔しました!」
「ちょ、ちょっとつかさ!」
顔を真っ赤にして部屋を抜け出すつかさ。
それを呆然と見送る日下部。
ってだからなんで居るんだこの馬鹿春宮!
ええと確か昨日部屋まで連れて来てくれて、かなたさんの部屋に行くから置いてけぼりにして……。
さ、さては昨日あのまま帰らなかったな! この節操なし!
「あら? あー、えと。何か誤解させちゃったかな」
「……」
一度、日下部を睨む私。
でもすぐに視線を逸らす。
おや珍しい、いつもの鉄拳制裁が飛ぶかと思ったのに。
ああそうか、昨日は日下部に泣きついた所で記憶が飛んだのか。
「いいわ……後で、言っておくから」
顔が熱いのは多分気の所為じゃないな。
まぁ想いを寄せてない男性とはいえ、一晩共にすればそりゃ気にするわよね。
いやいやいやいや、ひ、一晩共にって結局何もなかったわよ!
私が日下部に気がつかないで隣りで寝てただけ!
しょうがないじゃない! 明かりなんて月光しかないんだから!
「あ、あー。いや、つい眠くなってそのまま、だなー」
日下部も私の様子に気がついたのか、慌てて弁護しだす。
「で、でも何もしてないからな! 何も!」
「あ、あんまり大声でそういう事言わないで……自分でもそれくらい分かるわ」
「あ……ぅ、そ、そうだよなっ」
あはははっ、と笑う日下部。
顔が真っ赤だぞ、顔が。
ああもう、こっちまで恥ずかしくなるからやめてよ!
「……じゃあ、私は仕事があるから」
「ん、了解。こっちも帰るわ」
と、一緒に部屋を出る。
一応世話になったのを気にしてるのか、ちゃんと見送る私。
やっぱ生真面目よね、こっちの私って。
ああ、こっちのがスタンダードなんだっけ?
私が異端、って言われても実感沸かないけどね。
生真面目で、しっかりもので……たまにだらしなくて。
それで、こなたが……好きで。
はっ、もはや誰だよ! って気分ね。
まぁ……私にとってはだけど。
「んじゃ、またなー」
「ええ、また」
馬に乗り、邸を出る日下部を見送る。
結局、色々助けてもらっちゃったな。
命も救ってもらったし、色々教わったし。
最後のヒントも結局……日下部に教えてもらったようなものだし。
次に会うのは、私の世界の日下部かはたまた……。
どうせなら私の知ってる『彼女』に、もう一度会いたいな。
そして、その時言うわね。
ありがとう、って。
ふふ、またいつものとぼけた顔で言うのかしら。
『何言ってんだぁ? 柊ぃ』
……ってね。
日下部だけじゃない。
峰岸だって、つかさだって。
ゆたかちゃんに、みなみちゃん。
ひよりやパトリシアさんだって。
それに……こなたにだって。
皆に、言いたい。
ありがとう。
ただ、その五文字を。
皆にただ……伝えたい。
「あ、お姉ちゃん」
邸に戻ると、つかさに出くわす。
すると、顔を合わすなり顔を真っ赤にする。
「こ、こなちゃんの事で大変だけど……あ、あんまりハメを外すのはよくないよ?」
「なっ、何の話よ!」
辺りをよく見ると、他の女房の視線も痛い。
ガッデム! この時代の女房の情報網を舐めてた!
娯楽が喋る事ぐらいしかないから、噂はすぐ伝染するんだった!
「でもみさおさんかー……確かにかっこいいもんねー」
「だから何の話よ!」
「呼び方はみさお兄ちゃん、とかいいかもねー」
「つかさぁああああああああ!」
つかさを追いかける私。
私に追いかけられるつかさ。
それを眺める女房達、雑色達。
それぞれの歯車は回っていて、誰かの歯車を回している。
日下部は私という歯車を回してくれた。
ひよりや、みなみちゃん。
もちろんつかさだって……こなただって。
他の、みんなだって。
そう……私たちは、繋がってる。
その繋がりこそが……『世界』
私は勝手に、自分を孤独だと決め付けていた。
この平安な世界に、たった一人で……孤独に戦っていくのだと。
でも、違った。
一人じゃどうにもならない時。
私の歯車が狂って止まりそうな時。
……誰かが私の歯車を直してくれる。回してくる。
それは数え切れないぐらい沢山居て……誰もが私を支えてくれた。
この世界とは、『違う』はずの私を。
上澄みであるだけの、異端の私を。
『貴方』にも居るでしょ?
貴方という歯車を回してくれる存在。
貴方という歯車を正してくれる存在。
それは家族だって、友達だっていい。
誰もいない? あはは、そんなはずないわよ。
だってこれを見ている『貴方たち』だって、同じものを見て、同じものに触れて。
……ほら、繋がってるじゃない。
ふふ、当然よね。
『貴方』も……貴方の世界の一つなんだから。
貴方という歯車を回してくれる存在。
貴方という歯車を正してくれる存在。
それは家族だって、友達だっていい。
誰もいない? あはは、そんなはずないわよ。
だってこれを見ている『貴方たち』だって、同じものを見て、同じものに触れて。
……ほら、繋がってるじゃない。
ふふ、当然よね。
『貴方』も……貴方の世界の一つなんだから。
私は学んだ。
この世界で、学んできた。
生きるという事を。
――それは戦い、それは抗い。
愛するという事を。
――誰かを好きになるのに、壁なんてない。
そして、繋がってるという事。
――人は、一人で生きているわけじゃない。
うん、きっと大丈夫。
私は立ち向かえる。戦える。
だって私は……一人じゃない。
みんなが、居る。
その中には、神様だって居る。あははっ、すっごく頼りないけどね。
彼女は言った。
人を想う力は、人の力を超える。
そして『少女』は……それを超えた。
私の敵は、人の力を超えた少女。
それが誰だか、貴方にはもう分かるでしょう?
それだけのヒントを、あのとぼけた神様から貰ったはずよ。
何だかんだで、口を滑らせてたからね。
あはは、あんまり馬鹿にするとバチが当たるかしら。
あんなのでも敬い奉らなきゃね、一応神様なんだし。
まぁ、それだけの事をやらかしたんだから少しは我慢してくれるでしょ。
私が今からするのは、それの尻拭い。
それの後始末。それの後片付け。
……ふふ、待たせたわね。
ようやく最後の刻がやってくる。
満月に照らされるのは私か、『少女』か。
とうとう始まるラストダンス。
さぁ貴方も……お手をどうぞ。
この世界で、学んできた。
生きるという事を。
――それは戦い、それは抗い。
愛するという事を。
――誰かを好きになるのに、壁なんてない。
そして、繋がってるという事。
――人は、一人で生きているわけじゃない。
うん、きっと大丈夫。
私は立ち向かえる。戦える。
だって私は……一人じゃない。
みんなが、居る。
その中には、神様だって居る。あははっ、すっごく頼りないけどね。
彼女は言った。
人を想う力は、人の力を超える。
そして『少女』は……それを超えた。
私の敵は、人の力を超えた少女。
それが誰だか、貴方にはもう分かるでしょう?
それだけのヒントを、あのとぼけた神様から貰ったはずよ。
何だかんだで、口を滑らせてたからね。
あはは、あんまり馬鹿にするとバチが当たるかしら。
あんなのでも敬い奉らなきゃね、一応神様なんだし。
まぁ、それだけの事をやらかしたんだから少しは我慢してくれるでしょ。
私が今からするのは、それの尻拭い。
それの後始末。それの後片付け。
……ふふ、待たせたわね。
ようやく最後の刻がやってくる。
満月に照らされるのは私か、『少女』か。
とうとう始まるラストダンス。
さぁ貴方も……お手をどうぞ。
(続)
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- これがゴッドかなたさんの原点か…… -- 名無しさん (2008-02-03 15:20:47)