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近くて遠い

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 時間ってものは実際に過ごしてみると実に早く感じるものだ。
 楽しかった三年間の高校生活も残すところ半年ほどとなった頃。
 私の心には色々な感情が膨れ上がり渦巻いていた。





 近くて遠い





 沈み掛けた茜色の夕日に染められた教室で、私は最後の書類を纏め終わる。
「やっと終わったわぁ」
 伸びをして呟く。
 教室の壁掛け時計で現在の時刻を確認すると、既に五時を回ろうとしていた。下校時刻は刻々と迫っており、窓からグラウンドを見渡しても殆どの運動部は片付けを始めている。
 委員会の仕事がすっかり長引いちゃったわね。
 机の上に積み重なったプリントを見遣りながら思う。
 部活動に所属していない私達がこんな時間まで学校に居る事は珍しい。
 それだけ、滅多に見る事の出来ない教室からの太陽は綺麗で印象的だった。
 私の他にもう一人、この教室に居る人にも見せてあげたかった。
「こなた、終わったわよー」
 私が振り返ると、こなたは後ろの席で眠っていた。
『悪い、今日は委員会で遅くなりそうだから先に帰ってて』
『あー、私待ってるよ。どうせ暇だし』
 授業が全て終了してから交わした会話が私の頭の中に蘇る。
 帰って勉強でもしてなさいと言ったら、期末試験の日が近付いている事を思い出したつかさは帰路に着いたのだが、こなたはそれでも待つと言ってくれた。
 普段のこなたの性分から推測すれば、試験の日程を覚えていないか一夜漬けをするかのだちらかだ。今日勉強する事は恐らくないだろう。
 それでも、どんな理由にせよ待っていると言ってくれた事が嬉しかった。
 こなたの優しさを感じながら、私は安らかな寝息をたてているこなたの寝顔を覗き込んだ。
 万有引力に対抗している一本のアホ毛、長い睫毛、穏やかで小さな子供みたいな顔。
 最初は写メでも取ってやろうかと考えていたが、実際には考える事もなくこなたの表情に見入っていた。
「う~ん……」
 こなたの小さな唸り声で、私は現実の世界に引き戻された。すっかり見入ってたわ。
「……ずっと俺のターン……」
 どんな夢見てんだよ。
 もう少し私の声に気付かず睡眠を続けるこなたを見ていたかったが、ずっとこうしているわけにもいかないので起こす事にする。
「おーい、起きろー」
 耳元で言って右肩を数回叩いた。
「う~……後五分……」
 多少予想していた台詞が返ってきた。こなたは机に突っ伏したまま顔を下に向けた。完全にまだ寝るつもりらしい。
 ああもう!これじゃあこなたの顔が見れないじゃない!
 って違うだろ私。
 やましい雑念を振り払ってこなたをどうやって起こそうかと思案したが、私は教師から仕上げたプリントを職員室まで持ってくるよう言われた事を思い出す。
「こなた、私先生にプリント提出してくるから後五分で起きるのよ」
「うあーい……」
 本当に分かったのか疑ってしまうような返答を確認すると、少し心配になったが私は完成した書類をクリアファイルに入れて教室を出る。
「ちゃんと起きとくのよー」
 扉を完全に閉める前にもう一度言ってみた。こなたが何も反応しない事からまだ起きていないのだろう。
 私は溜息をつきながらドアを閉め、職員室までの最短ルートを脳内に描き始めた。

 ストーブを使っているからだろう、職員室は教室よりも遥かに温度が高かった。長居したい衝動に駆られたが、こなたをいつまでも待たせる事はなるべく避けたかったのでさっさと用事を済ますべく私は担任の机に向かう。
「はいご苦労様」
 頼まれたものを渡してミッションコンプリート。
「失礼しました」
 出る時に型に嵌った台詞を言い暖かい職員室のドアを閉める。途端に風も吹いていないのに寒気に襲われた。
 身を縮こまらせながら冷たい床の廊下を歩く。これならまだ夕焼けに映える教室の方が幾分か暖かい。
 私はこなたが起きている事を祈りながら来た道をそのまま戻り始めた。
 寒さの所為だろう、自然的に早足になってしまい普段より道程が短く感じられる。こなたを待たせるのも悪いと思ってるしね。
 二つの理由の相乗効果で私はあっという間に教室へ戻ってきた。
「お待たせー……ってあれ?」
 私はドアを開けながらそう言ったが、室内の何処にもこなたの姿は見当たらなかった。
「こなた?」
 つい先程まで夢の世界に旅立っていた人の名前を呼ぶ。しかしその声が静まり返った教室で反響するだけで、目当ての人の返事は聞こえない。
 取り敢えずこなたが寝ていた席に行ってみると鞄は掛かっていた。前の席にもちゃんと私の鞄がある。つまりまだ校内にはいるはずなのだ。
 だがこなたがこの状況で行きそうな場所が思い付かない。強いて挙げるとしたらトイレぐらいだ。
 急に尿意でも催して便所に駆け込む友人の姿を思い浮かべながら私は中途半端に戻された椅子を引いて腰を下ろした。
「まさかこっちが待たされるとは思わなかったわ……」
 そんな事を考えながら気長にこなたを待つ。トイレではないにしても荷物を教室に置いているのだから戻ってくるには違いないだろう。
「ん……?」
 何をして待っていようか考える私は、椅子と密接している部分を通して伝わってくるあるものに気付いた。
 それは職員室の暖房器具よりも私の心に暖かさをくれる、こなたの温もり。
「……暖かい」
 正直な感想を短い言葉にする。
 人工的に作り出されたものとは明らかに違う、心に染みていくような暖かさは私がこなたを好きだという事を再認識させた。
 こなたと時間を共にする事でいつのまにか芽生えていた感情。
 心の奥から湧き上がってきて止まらない想いが私を支配していった。
 机に額をぶつけるような体勢を取る。窓から見える美しい夕焼けの風景が真っ暗な世界へと変わっていった。
「はぁ……」
 正直に言うと、辛い。
 私はこんなにもこなたの事を想っているのにこなたは振り向いてくれない。
 神様は何と残酷な運命を用意してくれたのだろうか。
「こなたぁ……」
 闇に染まる光のない空間。
 まるでその暗闇は不安、光明は希望を象徴しているかのようだった。
 もう少しで終わりを迎える楽しかった唯一無二の高校生活。
 卒業すれば私達はそれぞれの進路を選ぶだろう。偶に連絡を取り合う事はあっても、会う機会は激減するのは目に見えている。
 その内お互い忙しくなって、話す事もメールをする事も減ってしまって―――
 胸に秘めている想いが消えてしまうのではないだろうか。
 私はそれが怖かった。
 この気持ちを伝える事が出来たらどんなに楽だろう。
 だが、ありとあらゆるしがらみやらが私をそうさせてくれない。
 女同士だなんて周りからどんな目で見られるか分かったものではない。
 同性間の結婚が許されない日本で、両親は納得してくれるのだろうか。
 ―――そしてこなたは私を受け入れてくれるのだろうか。
 不安な事はこんなにも見付かるのに、それに相応した希望は用意されていない。
 それだけで挫けそうになる。私の望み通りになる確率なんてもしかしたらないかもしれない。
 想いをぶつけたとしてもその先どうなるかは誰にも分からない。後悔しない、こなたを後悔させないなんて言い切れない。
 それでも―――
 私の中に諦めるという選択肢は存在しないのだ。
「こなた……好き……」
 誰も居ないのに、誰にも聞こえないように呟いた。
 聞かれてはいけない事ではないのに……むしろ伝えたい想いなのに。
 溢れ出す気持ちと涙は留まる術を知らず、私の心をこなた一色にしていく。
 そしてその想いは―――
「んっ……」
 私の右手を下半身の大切な部分へと移動させた。

 指を這わせると、其処は涙とは違う液体で濡れているのが下着越しでもはっきりと分かった。
「誰も来ないよね……」
 室内を見渡し確認するように呟いた。
 教室に私以外の人物は居なかったがこなたの荷物はある。
 普通に考えて誰も来ないとは言えないのだが、それでも私は見付かるかもしれない状況下での自慰行為を止めようとは思わなかった。
 最愛の人の温もりに触れれば、求めずにはいられない。
 私は上履きを脱ぎ捨てて両の足を椅子の上に乗っけた。大股を開いて背凭れに背中を預けると、邪魔なスカートを捲り上げる。
 腰を浮かせて淡い桃色のお気に入りのショーツに手を掛ける。太股の辺りを通過させて足先まで移動させると、微かな水気で光る秘肉が割れ目を形作っている自らの秘所が露わになった。
 愛液を纏っている湿った部分と丸まって足首へと抜かれた下着との間には透明な糸が引いている。それが私の視界に入ってくるのとほぼ同時に独特の匂いが私の鼻を擽った。
「ん……はぁ……」
 直接触れると、下着を介している時とは比べ物にならないほどの甘い痺れが私の身体に迸った。それが合図になったかのように喘ぎ声が口から漏れて身体が震える。
 今までは静寂を漂わせていた放課後の教室が私の立てるいやらしい水音で充満していく。
「はっ……はぁん……」
 快楽を求めひたすらに己の秘所に愛撫を続ける。溢れ出てくる愛液と興奮は増加する一方だ。
 ベトベトになった中指で割れ目を探ると、その場所を発見した私の一指は吸い込まれるように沈み込んでいった。
「ひゃうっ!」
 より一層強い刺激が触っている箇所を起点に駆け巡る。それが全身に伝わりきる前に快感の虜となった私の身体が撥ね上がった。
 ああ、そろそろ止めないと……こなたが来ちゃう……!
 思えば思うほど指の動きは激しさを増していった。
「も~、かがみんはえっちだなぁ」
 人間の想像力とは実に偉大なものだ。私の中で形成された、こんなにも淫らで貪欲な私を受け入れてくれる、理想郷の住人のこなたが自慰に耽る現実の私に話し掛けてきた。
 目を瞑ってこなたと私だけの世界を暗闇の一部に作り出す。
「しょ、しょうがないじゃない……んあっ」
「かがみのあそこ、こんなに濡れてるよ」
 こなたは私の快楽を得る為の原点を覗き込んで呟いた。悪戯が好きそうな子供みたいな表情でじっと見られている私の大事な部分は、その事実に興奮を覚え蜜を滲ませている。
「ああっ……そんなに見ないでぇ……」
 悩ましげに訴える空想上の世界の私。その姿を現実の私とシンクロさせる。
「ああん……ああっ……」
 錯覚や妄想と言われればそれまでなのだが、こなたに見られていると思い込むだけで私はますます興奮していった。

 その時、こなたが私の右手を掴んで動きを制止した。
「こ、こなた?」
「最後は私がイかせてあげるよ」
 そう言ったこなたはもう一人の私の秘所に顔を近付けると舌を這わせた。
「はあぁ……!ああん!」
 今までよりも大きな音量で嬌声が漏れた。
 それは現実世界の私にも影響を及ぼす。
「ああっ!こなた……!こなたぁ!」
 想像上で小さな舌を使って割れ目を舐め上げていく愛しの人。
 その人の名前を叫びながら私は近付きつつある絶頂の時を迎えようとしていた。
「ああっ……!私、もうっ……!」
「遠慮しなくて良いんだよ?」
 その台詞を聞いた瞬間、私の中で何かの糸が切れた。
 そして―――
「んんっ……んはぁ……!ふあぁぁ!!」
 ついに達した。
 痙攣する身体は大きく仰け反り、愛液が間歇泉のように勢い良く湧き出てくる。
「はぁ……はぁ……」
 こういうのをうっとりとした表情と言うのだろうか、私は目を細めて事後の感慨に耽っていた。
 ただあまりのんびりしている暇はなかった。いつこなたが、はたまた他の誰かがこの教室にやってくるか分からないのだ。私はポケットティッシュを取り出して後始末を始めた。
 自分の秘所を綺麗にしてから中途半端な所に留まっていたショーツをはき、椅子や床に散った白濁色の液を拭き取る。それを教室のゴミ箱に捨てる事は躊躇われたので新しいもので更に包みポケットに入れた。
 自分が座っていたこなたの席の周囲と自分の服装を丹念にチェックする。急きながらやったにもかかわらずそれらは殆ど数分前の状態に変わりなく戻っていた。
「あー、ごめんごめん。待った?」
 教室の片方の扉が動いて生じる音と共に、先程まで私の気持ちを高ぶらせていた声が聞こえる。私の欲望が付け足した艶やかな声調ではなく、のんびりとした感じで。
「もー、何処行ってたのよー」
 私は本心の表情を急造した仮面を被って隠した。今はまだ伝える事の出来ない恋心をも覆い隠す、冷たく脆い仮面。
「いやー、ちょっとトイレにねー」
 頭を掻きながら説明するこなたを愛しく感じると同時に、負の感情もまた心の中で禍々しい渦を巻き始める。
「まぁ良いわ、帰りましょう」
 私は机に掛けてあったこなたの鞄を手に取り微笑んで手渡す。
「アイアイサー」
 こなたはそれを笑顔で受け取ると室外へ向けて歩き出した。私もその後を追う。
 向けられた小さな背中に私は不安を覚えた。
 それはすぐにでも触れられそうなほど近く、分厚い壁を隔てたあまりにも遠い存在だったから。


















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コメント:
  • (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-05 17:37:07)
  • 素晴らしいです。かがみ好きの
    私の待ち望んだ作品!! -- チャムチロ (2012-10-16 14:55:22)

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