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ガラスの壁 第5話

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 5. (ゆたか視点)


 金曜日の昼休み、講堂で一緒にお弁当を食べ終わった後、私はいつものように
こなたお姉ちゃんに、キスをねだった。
 しかし、お姉ちゃんは首を振って断って、
「いますぐ、退散するなら、ゆーちゃんに黙ってあげてもいいんだけどな」
と、誰もいないはずの舞台裏に向けて威嚇した。

 誰かが覗いている!

 とても怖くなって、お姉ちゃんの腕にしがみつく。
「怖い…… 怖いよ。おねえちゃん」
 お姉ちゃんは表情を和らげると、頭を優しく撫でてくれる。
「出て行ったみたいだね」
「そ、そうなの? 」
「うん。ゆーちゃんは心配しなくても、大丈夫だから」
「う、うん」
 ぬくもりを感じながら頷いたけど、一旦わきあがった不安は消えてくれない。

「一体、誰がこんなこと? 」
 動揺を紛らわそうとした私の質問に、こなたお姉ちゃんは深刻そうな顔つきを
隠すことなく言った。
「よく…… わからない」
「そっか」
 お姉ちゃんを、困らせる気持ちは全くなかったから、敢えて問い詰めなかった。
 私の知っている誰かだとは思う。
 でも、そんな嫌な事をするなんて信じられないし、信じたくもなかった。


 従姉妹のこなたお姉ちゃんとは、昔から仲がとてもよかったけれど、
それ以上の想いを抱くことはなかった。
 私の気持ちに変化が訪れたのは今年になってからだ。
 春に陵桜に合格してから、通学に便利な伯父さんの家にお世話になることによって、
お姉ちゃんと一緒に生活することになった。
 こなたお姉ちゃんは、交友範囲も広いし、料理も上手だし、何よりとても
優しかったから、憧れが恋愛感情に変わるのに、さほど時間はかからなかった。

 ところが「好き」という想いを、肝心のお姉ちゃんに伝えることは、
中々できなかった。
 お姉ちゃんも女の子ということもあったけれど、引っ込み思案という
私の性格も大いに災いしていたと思う。
 それでも、お姉ちゃんと顔を合わす度に、鼓動はひどく速まってしまい、
終いには、想いを伝えないことには、心臓が破裂してしまいそうになっていた。

 結局、私はありったけの勇気を振り絞って、銀杏が舞い落ちる11月半ばに告白した。

「こなたお姉ちゃん。大好きです」

 お姉ちゃんは霞のかかったような微笑みを浮かべると、緊張でカチコチになり、
顔を真っ赤にして震えている私を、そっと抱きしめてくれた。
 晩秋の冷気に包みこまれているはずなのに、身体は火照るように熱かった。


 念願がかなって両想いとなったが、最初は何をすればいいのか戸惑った。
 しかし、お姉ちゃんとキスをして、その先の事もするようになって、少しずつ
「付き合っている」という実感がもてるようになってきた。

 同時に、お姉ちゃんと少しでも多くの時間を、一緒に過ごしたいと思うようになった。
 お姉ちゃんは高校3年生で、大学に進学するかどうかは、聞いていなかったけれど、
同じ高校で過ごす時間は僅かしか残されていなかった。

 私は、お姉ちゃんの卒業までに、少しでも「高校の思い出」をつくりたくて、
一週間前、お姉ちゃんにお昼ごはんを一緒にしたいとお願いした。
 お姉ちゃんは黙って少し考えた後、賛成してくれた。
 食べる場所については、既に穴場と思われる場所を見つけていた。
 古い講堂は、昼の間は鍵がかかっていないのにも関わらず、誰も使っていないという、
理想的な場所だ。
 学年の違う私達にとって、講堂での時間は、二人きりになれる貴重なひとときだった。


 翌週の火曜日、私が席につくと、どことなく周囲の空気が冷ややかなものに
変わっていた。
 今ひとつ気分の乗らない間に4時間目が過ぎ、講堂に行こうとお弁当を
持って立ち上がった時、数人の女生徒が取り囲んだ。

「泉先輩のところに行くのかしら? 」
「え…… 何故そんなこと? 」
 私はひどく戸惑いながら、彼女達を見上げた。
「小早川さん。あなた、泉先輩と付き合っているって噂が立っているわ」
「!? 」
 いきなり攻撃を受けて、呆然としている私に向けて、次の矢が放たれる。
「さしずめ、恋人同士の逢引ってとこかしらね」
 嫌な言い方だ。私は頬を膨らまして反論した。
「誰と会おうが、関係ないでしょう」

 しかし、彼女達は冷ややかな表情を浮かべたまま、爆弾を投げつけた。
「そうね。関係ないわ。でも、講堂でエッチなことをするのはいただけないわ。
小早川さん」
「なっ…… 」

 ショックで目の前がぐらりとゆれた。どうして? 誰が見たの?
「学校での性行為は、生徒手帳に禁止されていないから、してもいいと
思っているのかしら? 」
「もう少し自重されてはいかが? 」
「あどけないお顔で、泉先輩をたぶらかすのはおやめになったら? 」

 わざとらしい丁寧口調の嫌味を、立て続けに浴びせかけられる。
 私は耐え切れなくなって、背を向けて逃げ出した。後ろから哄笑が
追い討ちをかけた。

 混乱した私は、ただひたすら、頼れるお姉ちゃんと会いたくて、
講堂に向かってよろよろと歩いていく。
 しかし、昇降口で下駄箱に手を伸ばすと、二人の先輩が私の前に立っていた。
「こなたのところにいくのかしら。ゆたかちゃん? 」
 かがみ先輩が、これまた冷たい口調で言った。私は俯いたまま横切ろうとする。


 どん……
「な、何をするんですか? 」
 露骨に道を塞がれて私は、よろめいて尻餅をついてしまう。
「お、お姉ちゃん…… 」
 妹のつかさ先輩があたふたした口調で、たしなめているけど、かがみ先輩は
立ちふさがったままだ。

「通してください」
 蚊の鳴くような声で抗議をするけれど、かがみ先輩は冷ややかな表情のまま
見下ろしている。
「これ以上、ゆたかちゃんに掻き回されて欲しくないの」

 この人は何を言っているんだろう?

 お姉ちゃんに会いたい一心で、私の口調は激しいものに変わっていた。
「あなたとお話することは何もありません。どいてください」
「なっ」
 普段の私からは想像もできない程の冷ややかな物言いに、かがみ先輩は絶句する。

 立ち上がった私は、かがみ先輩と、つかさ先輩の間をすり抜けた。
「こなたは、ゆたかちゃんの占有物じゃないわ」
 小走りに遠ざかる私の背中にかがみ先輩の言葉が突き刺さる。
 涙を必死で堪えながら、校庭を駆け抜け、講堂の入り口で佇んでいる
お姉ちゃんを見つける。
 私は無我夢中で、胸に飛び込んで泣きじゃくった。

「ど、どうしたの? ゆーちゃん」
 こなたお姉ちゃんは、最初は驚いていたけれど、すぐに私を優しく撫でてくれた。
 この時、私はお姉ちゃんさえいれば、誰もいらないと強く思った。
 そして、こなたお姉ちゃんも、私だけを見て欲しかった。

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ガラスの壁 第6話へ続く








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  • この手の話がこんなに面白いとは思わなかったよ -- 名無しさん (2008-12-28 19:00:34)
  • ドロドロ怖い…… -- 名無しさん (2008-05-08 20:10:12)
  • 結構完成度が高くて驚いた。GJ
    -- 九重龍太 (2008-03-23 13:15:46)

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