ガラスの壁 第8話に戻る
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9. (かがみ視点)
こなたは、私の姿を見た時、最初は信じられない、といった感じで瞼を大きくあけていたが、
やがてのんびりとした口調で言った。
やがてのんびりとした口調で言った。
「やあ、かがみん。奇遇だねえ」
緊張感が卵の欠片ほどもない。
「奇遇じゃないわよ! 」
「じゃあ。かがみは何で、私たちがココに来ることを知っていたの? 」
「うっ…… 」
私は言葉につまった。もちろん、偶然でこんな場所にいるはずがない。
今日の夕方、買い物に出かけていたつかさから、携帯に電話があったのだ。
ちょっと特別な食材を手に入れるために、わざわざ幸手市にある専門店まで
出かけていたらしい。
緊張感が卵の欠片ほどもない。
「奇遇じゃないわよ! 」
「じゃあ。かがみは何で、私たちがココに来ることを知っていたの? 」
「うっ…… 」
私は言葉につまった。もちろん、偶然でこんな場所にいるはずがない。
今日の夕方、買い物に出かけていたつかさから、携帯に電話があったのだ。
ちょっと特別な食材を手に入れるために、わざわざ幸手市にある専門店まで
出かけていたらしい。
―― 『お、お姉ちゃんっ』
つかさは、明らかにおろおろとしながら話してくる。
『あのね。こなちゃんと、ゆたかちゃんがね…… 』
つかさが伝えた内容は『衝撃的』の一言だった。
何しろ、こなたと、小早川ゆたかちゃんが、一緒にラブホテルに入っていったという話だったから。
『間違いないのね。つかさ』
『えっと。かなり暗かったから、はっきりとまでは分からなかったけど 』
つかさが嘘をつくことはないけど、見間違えという可能性までは否定できない。
電話を切った後、居ても立ってもいられなくなって、私は家を抜け出すことにした。
つかさは、明らかにおろおろとしながら話してくる。
『あのね。こなちゃんと、ゆたかちゃんがね…… 』
つかさが伝えた内容は『衝撃的』の一言だった。
何しろ、こなたと、小早川ゆたかちゃんが、一緒にラブホテルに入っていったという話だったから。
『間違いないのね。つかさ』
『えっと。かなり暗かったから、はっきりとまでは分からなかったけど 』
つかさが嘘をつくことはないけど、見間違えという可能性までは否定できない。
電話を切った後、居ても立ってもいられなくなって、私は家を抜け出すことにした。
つかさの教えてくれた場所まで自転車を走らせると、30分もしないうちにホテルがみえてくる。
建物の外観は、本当に派手なお城としか言い様がない。
私は、ホテルの出入り口から少し離れた場所で、張り込みをすることに決めた。
建物の外観は、本当に派手なお城としか言い様がない。
私は、ホテルの出入り口から少し離れた場所で、張り込みをすることに決めた。
北風が絶えず吹き込んできて、ひたすら寒い。
コートの襟を立てて、歯の根をガチガチと鳴らしながら震えてしまうが、ひたすら我慢するしかない。
その結果、私はホテルでいちゃいちゃしているであろう、追跡対象に対して、理不尽なほどの
憤りを抱くことになってしまっていた。
コートの襟を立てて、歯の根をガチガチと鳴らしながら震えてしまうが、ひたすら我慢するしかない。
その結果、私はホテルでいちゃいちゃしているであろう、追跡対象に対して、理不尽なほどの
憤りを抱くことになってしまっていた。
腕時計を見ると既に9時を回っており、あきらめて帰ろうとして自転車に跨った時、
出入口から二人の女性が現れる。
思い切って近寄ってみると、確かにこなたと小早川ゆたかちゃんだ。
二人は幸せそうに寄り添っており、手を繋いで夜道を歩いている。
出入口から二人の女性が現れる。
思い切って近寄ってみると、確かにこなたと小早川ゆたかちゃんだ。
二人は幸せそうに寄り添っており、手を繋いで夜道を歩いている。
私は夢中になって、二人の前に立ちふさがった――
「もしかして、張り込みをしていたのかな? 」
寒さで震えている私を見て、こなたが皮肉っぽい口調で尋ねてくる。
「う、うるさいわね。そんなの関係ないじゃない。そんなことより、高校生がこんなホテルなんて
行って良いと思っているの! 」
話題を強引に変えて、怒りの声をあげる。
「…… 」
私の激しい非難に、こなたは一転して黙り込んでしまった。
「こなた。あなたはいいかもしれないけどね。ゆたかちゃんはまだ高校1年生なのよ。
少しは場所をわきまえなさいよ」
私はなじるように責める。
寒さで震えている私を見て、こなたが皮肉っぽい口調で尋ねてくる。
「う、うるさいわね。そんなの関係ないじゃない。そんなことより、高校生がこんなホテルなんて
行って良いと思っているの! 」
話題を強引に変えて、怒りの声をあげる。
「…… 」
私の激しい非難に、こなたは一転して黙り込んでしまった。
「こなた。あなたはいいかもしれないけどね。ゆたかちゃんはまだ高校1年生なのよ。
少しは場所をわきまえなさいよ」
私はなじるように責める。
しかし、反撃してきたのは、こなたではなくて、隣に立っているもっと小柄な少女だった。
「お姉ちゃんのせいじゃないんです」
「ゆーちゃん!」
小さく叫ぶこなたを左手で制すると、ゆたかちゃんは一歩前にでた。
小早川ゆたかちゃんは瞳に力をこめて、私を見上げる。
今まで、彼女については病気がちで、こなたに似ずに素直で、とても可愛らしい一年生という
印象しかもっていなかった。しかし――
「お姉ちゃんのせいじゃないんです」
「ゆーちゃん!」
小さく叫ぶこなたを左手で制すると、ゆたかちゃんは一歩前にでた。
小早川ゆたかちゃんは瞳に力をこめて、私を見上げる。
今まで、彼女については病気がちで、こなたに似ずに素直で、とても可愛らしい一年生という
印象しかもっていなかった。しかし――
「私が、お姉ちゃんを強引に誘ってここに来たんです。責めるなら私を責めてください」
ゆたかちゃんは、私が知らなかった烈しい一面をみせてくる。
彼女の眼差しは強くて澄んでいて、それだけに、私の荒れた心を余計に苛立たせてしまう。
ゆたかちゃんは、私が知らなかった烈しい一面をみせてくる。
彼女の眼差しは強くて澄んでいて、それだけに、私の荒れた心を余計に苛立たせてしまう。
「ゆたかちゃん。よく聞いて。高校生はこんなところに行ってはいけないの。それくらいは分かるわよね」
常識の仮面をつけて説教する自分が、酷く滑稽に思えるけれど、仕方がない。
「分かっています。でも、私、こなたお姉ちゃんが大好きなんです。
お姉ちゃんのこと、いっぱい知りたいんです」
掌をぎゅっと握り締めて、大きな瞳を潤ませながら、とても恥ずかしい台詞を臆面もなく言い切った。
常識の仮面をつけて説教する自分が、酷く滑稽に思えるけれど、仕方がない。
「分かっています。でも、私、こなたお姉ちゃんが大好きなんです。
お姉ちゃんのこと、いっぱい知りたいんです」
掌をぎゅっと握り締めて、大きな瞳を潤ませながら、とても恥ずかしい台詞を臆面もなく言い切った。
(こなたが好きなのは、あなただけじゃないのよ…… )
喉まで出掛かってくる言葉を懸命に抑える。
(どうして、こなたはゆたかちゃんを好きになっちゃったの? )
私のココロが鋭い悲鳴をあげる。
勇気がないから。こなたが好意を見せてくれることもあったのに怒ってばかりいたから。
理性が、理由をいくつもあげてくるけど、感情としては断じて認めたくはなかった。
こなたの一番近い位置にいるのは私であるはずで、ゆたかちゃんなんかじゃない!
喉まで出掛かってくる言葉を懸命に抑える。
(どうして、こなたはゆたかちゃんを好きになっちゃったの? )
私のココロが鋭い悲鳴をあげる。
勇気がないから。こなたが好意を見せてくれることもあったのに怒ってばかりいたから。
理性が、理由をいくつもあげてくるけど、感情としては断じて認めたくはなかった。
こなたの一番近い位置にいるのは私であるはずで、ゆたかちゃんなんかじゃない!
「ゆたかちゃん。ワガママはいい加減にしなさい」
「かがみ…… 」
気がつくと、こなたが暗い顔をしていた。今まで見たことも無い、憂鬱そうな表情だ。
普段は眩しいほどに煌いている濃紺の瞳が、どんよりと濁っている。
「かがみ…… 」
気がつくと、こなたが暗い顔をしていた。今まで見たことも無い、憂鬱そうな表情だ。
普段は眩しいほどに煌いている濃紺の瞳が、どんよりと濁っている。
「今日は、もう帰るからさ…… 」
こなたは囁くように言って、私を睨んでいたゆたかちゃんの肩をぽんと叩くと、
背中を見せて歩き出した。後を追ったゆたかちゃんは、すぐにこなたに寄り添う。
こなたは囁くように言って、私を睨んでいたゆたかちゃんの肩をぽんと叩くと、
背中を見せて歩き出した。後を追ったゆたかちゃんは、すぐにこなたに寄り添う。
私は、呆然として二人を見送ることしかできなかった。
何をやっていたのだろう?
自転車のペダルを踏んで家に戻る間、絶えず自責の念が襲ってくる。
ラブホテルに出入りする瞬間を抑えたからって、こなたがゆたかちゃんと
別れることなんてありえないのに。
ストーカーみたいなことをして、こなたに好かれることなんかないのに……
自転車のペダルを踏んで家に戻る間、絶えず自責の念が襲ってくる。
ラブホテルに出入りする瞬間を抑えたからって、こなたがゆたかちゃんと
別れることなんてありえないのに。
ストーカーみたいなことをして、こなたに好かれることなんかないのに……
明後日の火曜日には、こなたとゆたかちゃんの話は、3年C組でも噂になっていた。
「柊っ」
昼休みに日下部が声をかけてくる。とても元気で、ちょっとおばかな、八重歯が特徴的なクラスメイトだ。
5年連続で同じクラスだったけど、親しくなったのは最近のことである。
「ちびっこに恋人がいるって本当か? 」
相変わらずデリカシーの欠片もない発言だが、噂好きの女子高生としては、ごく普通の話題に
すぎないのかもしれない。
「知らないわよ」
「え―― 柊はちびっこの友達だろ。話を聞いてないのか」
あまりにも素直な反応に、思わず苦笑してしまう。
「みさちゃん…… 」
いつものように日下部の隣に佇んでいた峰岸が、困ったような顔で首を左右に振る。
峰岸は大和撫子という表現がぴったりと似合う、おしとやかだが芯の強い女性だ。
「柊っ」
昼休みに日下部が声をかけてくる。とても元気で、ちょっとおばかな、八重歯が特徴的なクラスメイトだ。
5年連続で同じクラスだったけど、親しくなったのは最近のことである。
「ちびっこに恋人がいるって本当か? 」
相変わらずデリカシーの欠片もない発言だが、噂好きの女子高生としては、ごく普通の話題に
すぎないのかもしれない。
「知らないわよ」
「え―― 柊はちびっこの友達だろ。話を聞いてないのか」
あまりにも素直な反応に、思わず苦笑してしまう。
「みさちゃん…… 」
いつものように日下部の隣に佇んでいた峰岸が、困ったような顔で首を左右に振る。
峰岸は大和撫子という表現がぴったりと似合う、おしとやかだが芯の強い女性だ。
「あっ、ごめんな、聞いちゃいけない話だよな」
素直に謝れる日下部が羨ましい。どうしても素直になれない私は、自ら好んで、
底の見えない深みに嵌ってしまっているのに。
素直に謝れる日下部が羨ましい。どうしても素直になれない私は、自ら好んで、
底の見えない深みに嵌ってしまっているのに。
「こなたの相手なら知っているわよ」
私は本当にへそ曲がりだ。相手があっさりと引くと、逆の事をしてしまう。
「えっ、いいのか? 」
日下部は、目をまるくしながら言ったが、どうせ、学校中にひろまっているんだから、
もう話しても構わないだろう。
「一年生の、小早川ゆたかちゃんよ」
「えっ、あの、チアで一緒にやった…… 更にちびっこい子か? 」
「ええ、そうよ」
ほとんど自暴自棄になりながら、はっきりと頷く。
「あの子、女の子じゃね? 」
「その通りよ」
日下部の質問の一つ一つに答えてあげる。意地になっているのかもしれない。
「だから言いにくかったのか。ごめんな。柊」
「いいの。気にしないで」
私は、困った顔をした日下部に向けて言った。
日下部と峰岸が自席に戻った後、寒気に襲われて、自分の身体を抱きしめた。
私は本当にへそ曲がりだ。相手があっさりと引くと、逆の事をしてしまう。
「えっ、いいのか? 」
日下部は、目をまるくしながら言ったが、どうせ、学校中にひろまっているんだから、
もう話しても構わないだろう。
「一年生の、小早川ゆたかちゃんよ」
「えっ、あの、チアで一緒にやった…… 更にちびっこい子か? 」
「ええ、そうよ」
ほとんど自暴自棄になりながら、はっきりと頷く。
「あの子、女の子じゃね? 」
「その通りよ」
日下部の質問の一つ一つに答えてあげる。意地になっているのかもしれない。
「だから言いにくかったのか。ごめんな。柊」
「いいの。気にしないで」
私は、困った顔をした日下部に向けて言った。
日下部と峰岸が自席に戻った後、寒気に襲われて、自分の身体を抱きしめた。
こなたが、生徒指導室に呼ばれたのは、その日の放課後だった。
夕方、鞄に教科書を詰め込んでいた時、つかさが教室に飛び込んで、私に縋り付きながら、
悲鳴まじりの声をあげる。
「お姉ちゃん…… こなちゃんがっ」
つかさの表情が蒼白になっていた。
教室は人がまだ残っている為、廊下につかさを連れて行ってから、詳しい話を聞く。
学校から帰ろうとしたこなたが、桜庭先生に呼ばれて生徒指導室に入ったとのことだ。
「桜庭先生? 黒井先生じゃなくて」
夕方、鞄に教科書を詰め込んでいた時、つかさが教室に飛び込んで、私に縋り付きながら、
悲鳴まじりの声をあげる。
「お姉ちゃん…… こなちゃんがっ」
つかさの表情が蒼白になっていた。
教室は人がまだ残っている為、廊下につかさを連れて行ってから、詳しい話を聞く。
学校から帰ろうとしたこなたが、桜庭先生に呼ばれて生徒指導室に入ったとのことだ。
「桜庭先生? 黒井先生じゃなくて」
何故こなたの担任の黒井先生が呼び出さないのか…… 私は不審を覚えて尋ねたが、
詳しい事情を知らないつかさは、首を横に振るだけだった。
「お姉ちゃん。やっぱり、ゆたかちゃんとの話なのかな」
「そうね」
私はカバンを持ち上げながら頷いた。
「私、帰るね…… 」
「えっ!?」
つかさは、戸惑った声をあげた。
詳しい事情を知らないつかさは、首を横に振るだけだった。
「お姉ちゃん。やっぱり、ゆたかちゃんとの話なのかな」
「そうね」
私はカバンを持ち上げながら頷いた。
「私、帰るね…… 」
「えっ!?」
つかさは、戸惑った声をあげた。
生徒指導室に連れられたこなたの事は、とても気になっている。
しかし、今日の昼過ぎから身体が酷くだるくなっていて、
とても学校に長居はできそうになかった。
「お姉ちゃんは、こなちゃんのこと、心配じゃないの? 」
つかさの不満そうな質問に答えようとした時、視界がぐらりと揺れる。
「お姉ちゃん? 」
身体がふらついてしまい、つかさの表情が変わる。
急速に視界が端の方から暗度を増し、目の前にいる妹の顔がおぼろげになる。
「おねえちゃんっ!? 」
しかし、今日の昼過ぎから身体が酷くだるくなっていて、
とても学校に長居はできそうになかった。
「お姉ちゃんは、こなちゃんのこと、心配じゃないの? 」
つかさの不満そうな質問に答えようとした時、視界がぐらりと揺れる。
「お姉ちゃん? 」
身体がふらついてしまい、つかさの表情が変わる。
急速に視界が端の方から暗度を増し、目の前にいる妹の顔がおぼろげになる。
「おねえちゃんっ!? 」
意識が暗転した。
「柊さん。目が覚めたようですね 」
瞼を開くと、天原ふゆき先生が穏やかに微笑んでいる。
窓の外は既に暗くなっている。
「お姉ちゃん。良かったあ」
顔を横にむけると、つかさがほっとしたような笑顔を浮かべている。
「私…… 」
どうやって保健室に入ったのか、全く覚えていない。
病院でなくて保健室ということは、つかさの助けを借りたにしろ、
歩いて保健室にたどり着いたということは確かなんだろうけど、思い出せない。
瞼を開くと、天原ふゆき先生が穏やかに微笑んでいる。
窓の外は既に暗くなっている。
「お姉ちゃん。良かったあ」
顔を横にむけると、つかさがほっとしたような笑顔を浮かべている。
「私…… 」
どうやって保健室に入ったのか、全く覚えていない。
病院でなくて保健室ということは、つかさの助けを借りたにしろ、
歩いて保健室にたどり着いたということは確かなんだろうけど、思い出せない。
「過労からくる風邪だと思います」
白衣姿の天原先生は静かに歩み寄ってきて、風邪薬と水の入ったコップを渡してくれる。
「柊さん。無理をしていませんでしたか? 」
「すみません…… 」
冬空の下、ホテルの前で長い間、張り込みをしたツケが、今頃になって回ってきたのだろう。
白衣姿の天原先生は静かに歩み寄ってきて、風邪薬と水の入ったコップを渡してくれる。
「柊さん。無理をしていませんでしたか? 」
「すみません…… 」
冬空の下、ホテルの前で長い間、張り込みをしたツケが、今頃になって回ってきたのだろう。
先生は、余った薬を戸棚に仕舞うと、穏やかな顔のまま伝えた。
「今から職員会議があるので席をはずします」
「は、はい」
心が刺すように痛む。
「あっ…… あの、天原先生」
「なんでしょう」
私は、少し躊躇ったけれど、敢えて尋ねてみた。
「もしかして、こなたの話なんでしょうか? 」
私の言葉を聞いた時、先生はつらそうな表情に変わっていた。
「今から職員会議があるので席をはずします」
「は、はい」
心が刺すように痛む。
「あっ…… あの、天原先生」
「なんでしょう」
私は、少し躊躇ったけれど、敢えて尋ねてみた。
「もしかして、こなたの話なんでしょうか? 」
私の言葉を聞いた時、先生はつらそうな表情に変わっていた。
「それを、言うことはできないのです」
天原先生はゆっくりと歩いて扉をあけると、振り返って言った。
「帰るときは、暖房を止めておいてくださいね」
天原先生はゆっくりと歩いて扉をあけると、振り返って言った。
「帰るときは、暖房を止めておいてくださいね」
扉が閉まってから、小さな椅子に座っているつかさに尋ねる。
「つかさ。こなたはどうなったの? 」
つかさは座ったまま首を振った。
「生徒指導室に入るとこまでしか見ていないけど。でも、もう学校を出ていると思うよ」
「そう」
私は頷いて、小さく息を吐いた。
生徒指導室での事情徴収が終わったことを受けて、職員会議が開かれるのだろう。
「お姉ちゃん。歩いて帰れる? もし駄目ならお父さんに電話しようか」
つかさの言葉に私はかぶりを振った。
「ううん。大丈夫だから…… 心配させて悪かったわ」
「う…… うん」
つかさの掌を借りてベッドから立ち上がり、乱れた制服を整える。
「つかさ。こなたはどうなったの? 」
つかさは座ったまま首を振った。
「生徒指導室に入るとこまでしか見ていないけど。でも、もう学校を出ていると思うよ」
「そう」
私は頷いて、小さく息を吐いた。
生徒指導室での事情徴収が終わったことを受けて、職員会議が開かれるのだろう。
「お姉ちゃん。歩いて帰れる? もし駄目ならお父さんに電話しようか」
つかさの言葉に私はかぶりを振った。
「ううん。大丈夫だから…… 心配させて悪かったわ」
「う…… うん」
つかさの掌を借りてベッドから立ち上がり、乱れた制服を整える。
すっかりと暗くなった通学路を妹と歩いていく。
空は厚い雲に覆われており、今夜は冬の星座を臨むことはできない。
服用した風邪薬の為に、頭がぼんやりとなりながら、こなたの顔を思い浮かべた。
脳裏に浮かんだ小柄な想い人は、いつものように、少しだけ皮肉っぽい笑みを私に向けていた。
空は厚い雲に覆われており、今夜は冬の星座を臨むことはできない。
服用した風邪薬の為に、頭がぼんやりとなりながら、こなたの顔を思い浮かべた。
脳裏に浮かんだ小柄な想い人は、いつものように、少しだけ皮肉っぽい笑みを私に向けていた。
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ガラスの壁 第10話へ続く
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- かがみ……かわいそう…… -- 名無しさん (2008-05-08 20:50:41)