【track 5 : 栗色の繰糸師と手の空いた料理人】
――パァンパパンッ!
「「「ハッピーバースデー! みなみちゃん!!」」」
玄関のドアが開ききると同時に、クラッカーの音に続いて全員の声がきれいに重なった。
そんな出迎えを受けた岩崎ちゃんは……ふふ、驚いてる驚いてる。
目をまんまるに見開いて、不意打ちで手品でも見せられたみたいな顔。
でも……んー、ちょっと驚きすぎじゃないかしら。唖然、茫然を通り越して、愕然としている感じ。
みんなよっぽど上手に隠してたのね。
「――みなみさん」
完全に固まってしまった岩崎ちゃんの、背後。
その両肩に、そっと手を添えながら、高良ちゃんが優しく語り掛ける。
「どうです? これで、分かっていただけましたか?」
少し意味の分からない言葉は、外での会話の続きなのかな?
ひょっとしたら、今日のことをみんなが内緒にしてるのを仲間はずれにされたみたいに感じて、
それで嫌われたとか思っちゃったのかも。
岩崎ちゃん、わりと思いつめるタイプみたいだし。
「――え? ……なんで、これ……」
ぎこちない動きで首を振り返らせながら、強張った声。
高良ちゃんは糸目になって微笑んだ。
「ですから、お誕生日のお祝いです。みなみさん、あなたの」
「私の……? ――え? でも私は」
「ええ、分かっています。でも、ほら。今はとりあえず、前を向いてください」
「前を……」
うわ言のようにオウム返しをしつつ、岩崎ちゃんがこちらに向き直る。
泳ぐ視線が私たちをなぞって、最後に止まったのは、やっぱり小早川ちゃんのところだった。
単に集団の先頭にいるからってだけじゃ、なさそうよね?
「……」
その小早川ちゃんは、私の位置からだとよく見えないけど、ぽかんとしているみたい。
見とれちゃってるのかな?
まぁ、気持ちは分かる。
岩崎ちゃんのあの格好、高良ちゃんがさせたのかしら。
白に近いピンクのワンピースの上に、レース編みのカーディガンを羽織っている。
どちらもシンプルなデザインだけど、よく見れば丁寧な刺繍や編み込みがしてあって、可愛らしい。
髪にも手が入っていて、顔には控えめながらもメイクまでしてある。
彼女の、普段は隠されている少女らしさを引き出しつつ、クールでスマートな印象も損なっていない。
いいなぁ。
今度、みさちゃんのこともコーディネートしてもらえるよう頼んでみようかしら。
「……ゆたか?」
「あ――う、うんっ。おめでとう、みなみちゃん」
声をかけられて我に帰った小早川ちゃんが、最高の笑顔を浮かべながら
抱えていた大きな花束を差し出した。
「……」
抑揚のない動きで受け取る岩崎ちゃん。
まだかなり茫然としていて、理解できないものを前にした顔で花束を見下ろしている。
うぅん。
みんなにも不安が広がり始めてるし、もう少し詳しく説明してあげた方がいいんじゃないかしら?
そう思って、でも私が言うのも不自然だから、とりあえず高良ちゃんに視線を飛ばす。
すると一瞬の間を置いて、こくこくとうなずいてくれた。
ちゃんと通じたみたい。
「みなみさん」
またぎこちなく首を回す岩崎ちゃんに、高良ちゃんは少し申し訳なさそうに眉を下げる。
「すみません、驚かせてしまったようですね。私が皆さんにお教えして、お願いしたんです」
目を見開く岩崎ちゃん。
「お友だちと過ごす誕生日の楽しさを、思い出していただきたくて……差し出がましかったでしょうか」
「あ……いえ……」
そして反応に困ったような横顔。
「――あ、でもっ!」
そこに田村ちゃんが割り込んだ。
「頼んでくれたのは高良先輩だけど、来たのはみんなの意思だよ? みんなが、一人一人が
岩崎さんを祝いたいって思って――思ったから」
一生懸命ね、田村ちゃん。
顔を赤らめて、不器用な感じに上ずった声で。本当に友達のことを思ってる気持ちがよく分かる。
演技なんて少しも混じってない。
私にはできない言い方ね。
「だからみんな、来たんだよ。――そうっスよね?」
最後の一言は、私たちに向けて。
そうすると、まるで事前に示し合わせていたみたいに、みんなが一斉にうなずいた。
もちろん、私も。
誘われた状況がちょっと特殊だったけど、祝いたいという気持ちにウソはない。
田村ちゃんや小早川ちゃん、他のみんなには及ばないまでも、ね。
「……」
岩崎ちゃんにゆっくりと理解の色が広がり始めた。
駄目押しをするように、田村ちゃんが付け加える。
「あと、内緒でやろって言ったのも私。ご、ごめんね? そんなに驚くとは思わなかったから……」
「……じゃあ……」
そして何かを言いかけた岩崎ちゃんが、ふらりとよろめいた。
「――みなみちゃん!?」
「岩崎っ」「岩崎さん!」「ミナミ!?」
後ろに立っていた高良ちゃんがすぐに肩を支えたから倒れたりはしなかったけど、
それでも一同に緊張が走った。
でも、それもすぐに、軽く戸惑ったような空気に変わる。
「……みなみさん? 大丈夫ですか?」
「……はい」
その口元が、小さく、でもはっきりと分かる程度に弧を描いていたから。
みさちゃんの腕がぴくりと動いて、ポケットに差し込まれるのが見えた。
「立てますか?」
「はい」
高良ちゃんに促されて、岩崎ちゃんがゆっくりと立ち直る。
またゆっくりと……ううん、今度は、じっくりと。私たちを見回して、そして微笑んだ。
そんな出迎えを受けた岩崎ちゃんは……ふふ、驚いてる驚いてる。
目をまんまるに見開いて、不意打ちで手品でも見せられたみたいな顔。
でも……んー、ちょっと驚きすぎじゃないかしら。唖然、茫然を通り越して、愕然としている感じ。
みんなよっぽど上手に隠してたのね。
「――みなみさん」
完全に固まってしまった岩崎ちゃんの、背後。
その両肩に、そっと手を添えながら、高良ちゃんが優しく語り掛ける。
「どうです? これで、分かっていただけましたか?」
少し意味の分からない言葉は、外での会話の続きなのかな?
ひょっとしたら、今日のことをみんなが内緒にしてるのを仲間はずれにされたみたいに感じて、
それで嫌われたとか思っちゃったのかも。
岩崎ちゃん、わりと思いつめるタイプみたいだし。
「――え? ……なんで、これ……」
ぎこちない動きで首を振り返らせながら、強張った声。
高良ちゃんは糸目になって微笑んだ。
「ですから、お誕生日のお祝いです。みなみさん、あなたの」
「私の……? ――え? でも私は」
「ええ、分かっています。でも、ほら。今はとりあえず、前を向いてください」
「前を……」
うわ言のようにオウム返しをしつつ、岩崎ちゃんがこちらに向き直る。
泳ぐ視線が私たちをなぞって、最後に止まったのは、やっぱり小早川ちゃんのところだった。
単に集団の先頭にいるからってだけじゃ、なさそうよね?
「……」
その小早川ちゃんは、私の位置からだとよく見えないけど、ぽかんとしているみたい。
見とれちゃってるのかな?
まぁ、気持ちは分かる。
岩崎ちゃんのあの格好、高良ちゃんがさせたのかしら。
白に近いピンクのワンピースの上に、レース編みのカーディガンを羽織っている。
どちらもシンプルなデザインだけど、よく見れば丁寧な刺繍や編み込みがしてあって、可愛らしい。
髪にも手が入っていて、顔には控えめながらもメイクまでしてある。
彼女の、普段は隠されている少女らしさを引き出しつつ、クールでスマートな印象も損なっていない。
いいなぁ。
今度、みさちゃんのこともコーディネートしてもらえるよう頼んでみようかしら。
「……ゆたか?」
「あ――う、うんっ。おめでとう、みなみちゃん」
声をかけられて我に帰った小早川ちゃんが、最高の笑顔を浮かべながら
抱えていた大きな花束を差し出した。
「……」
抑揚のない動きで受け取る岩崎ちゃん。
まだかなり茫然としていて、理解できないものを前にした顔で花束を見下ろしている。
うぅん。
みんなにも不安が広がり始めてるし、もう少し詳しく説明してあげた方がいいんじゃないかしら?
そう思って、でも私が言うのも不自然だから、とりあえず高良ちゃんに視線を飛ばす。
すると一瞬の間を置いて、こくこくとうなずいてくれた。
ちゃんと通じたみたい。
「みなみさん」
またぎこちなく首を回す岩崎ちゃんに、高良ちゃんは少し申し訳なさそうに眉を下げる。
「すみません、驚かせてしまったようですね。私が皆さんにお教えして、お願いしたんです」
目を見開く岩崎ちゃん。
「お友だちと過ごす誕生日の楽しさを、思い出していただきたくて……差し出がましかったでしょうか」
「あ……いえ……」
そして反応に困ったような横顔。
「――あ、でもっ!」
そこに田村ちゃんが割り込んだ。
「頼んでくれたのは高良先輩だけど、来たのはみんなの意思だよ? みんなが、一人一人が
岩崎さんを祝いたいって思って――思ったから」
一生懸命ね、田村ちゃん。
顔を赤らめて、不器用な感じに上ずった声で。本当に友達のことを思ってる気持ちがよく分かる。
演技なんて少しも混じってない。
私にはできない言い方ね。
「だからみんな、来たんだよ。――そうっスよね?」
最後の一言は、私たちに向けて。
そうすると、まるで事前に示し合わせていたみたいに、みんなが一斉にうなずいた。
もちろん、私も。
誘われた状況がちょっと特殊だったけど、祝いたいという気持ちにウソはない。
田村ちゃんや小早川ちゃん、他のみんなには及ばないまでも、ね。
「……」
岩崎ちゃんにゆっくりと理解の色が広がり始めた。
駄目押しをするように、田村ちゃんが付け加える。
「あと、内緒でやろって言ったのも私。ご、ごめんね? そんなに驚くとは思わなかったから……」
「……じゃあ……」
そして何かを言いかけた岩崎ちゃんが、ふらりとよろめいた。
「――みなみちゃん!?」
「岩崎っ」「岩崎さん!」「ミナミ!?」
後ろに立っていた高良ちゃんがすぐに肩を支えたから倒れたりはしなかったけど、
それでも一同に緊張が走った。
でも、それもすぐに、軽く戸惑ったような空気に変わる。
「……みなみさん? 大丈夫ですか?」
「……はい」
その口元が、小さく、でもはっきりと分かる程度に弧を描いていたから。
みさちゃんの腕がぴくりと動いて、ポケットに差し込まれるのが見えた。
「立てますか?」
「はい」
高良ちゃんに促されて、岩崎ちゃんがゆっくりと立ち直る。
またゆっくりと……ううん、今度は、じっくりと。私たちを見回して、そして微笑んだ。
「……ありがとう」
わぁ……
思わず、息を呑む。
キレイな顔してるから、笑ったら可愛いだろうなと思ってはいたけど、これは想像以上――
思わず、息を呑む。
キレイな顔してるから、笑ったら可愛いだろうなと思ってはいたけど、これは想像以上――
――ピロリンっ♪
と?
今のは……携帯カメラのシャッター音?
突然響いた場違いなその音に、全員の視線が集中する。
「うっしゃーっ! 極上スマイル、撮ったどーっ!!」
みさちゃんだった。
……どうやら、もう気持ちを切り替えたみたいね。
「ちょっと日下部っ、何やってんのよっ」
「ん? ほら、これ」
失礼に当たるその行為を叱りつけようとした柊ちゃんだったけど、差し出された液晶画面を見ると、
「ぉ……」
固まっちゃった。
「いーだろー、極上スマイル。ずっと狙ってたんだー」
「そ……それにしたって、もうちょっと場の空気ってもんを読みなさいよっ」
あらあら。
柊ちゃんも欲しいのかしら……なんて、言ってる場合じゃなさそうね。
「いーじゃん。こんな大事なこと黙ってたバツだって」
「なるへそ。それは一理あるかもね」
「まっ! ちょっ! 日下部先輩っ、それはダメだと前にもっ!」
泉ちゃんがここぞとばかりに、田村ちゃんが焦った調子で割り込んだ。柊ちゃんの表情が強張る。
「あんた……たち、まで」
「いえっ!? 私は否定派っスよっ?!」
「かがみも欲しそうな顔したじゃん」
「……っ!」
うぅん。これはちょっと、良くないかも。
柊ちゃんは、まあいいとして。
田村ちゃんはむきになってるし、泉ちゃんも、そろそろ感づき始めてはいるみたいだけど、
さっきから必要以上に邪魔されてご機嫌斜め気味だし。
「みさきち、私にも……かがみ?」
「ぜってーヤダ」
「くっ――日下部先輩っ! 貸してくださいっ! てか消してくださいっス!」
「ちょ……なにそんな焦ってんのひよりん?」
なんて、考えてる暇もなさそうね。
人前で動くのは嫌いなんだけど……仕方ない、か。
まず、不安そうに四人を見つめてる妹ちゃんと、そちらに忍び寄ってるパトリシアちゃんとの間を
わざと横切って、みさちゃんの後ろに回りこむ。
「みさちゃん」
そして肩越しに声をかけて、
「え?」
「えいっ」
反対側から、ひょいと携帯電話を取り上げた。
「え? あやの? ……あれっ?」
「峰岸?」
「峰岸さん?」
「峰岸先輩?」
あっけに取られる四人。あとの二人は、とりあえず無視。
「ダメよ、みさちゃん。岩崎ちゃんが困ってるじゃない。柊ちゃんも、落ち着いて。ね?」
そう言って玄関扉の方を示しながら自分も見ると、案の定。
岩崎ちゃんは恥ずかしそうに頬を染めて、そしていい感じに困惑した顔になっていた。
その傍らの、少し驚いたようになってる小早川ちゃんが目に入る。
「ご、ごめん、あやの。悪かったから、返してくれぇ」
「うん。――でも、ちょっと待ってね?」
言いつつ、みさちゃんの携帯を素早く操作する。
登録されてるアドレスの中から一つを選んで、今の写真を添付して送信。のち削除。
十秒ほどで終わらせると、折りたたんで返してあげた。
「はい」
「な、何したんだよ……って! 消えてる!?」
「大丈夫。消す前にちゃんと、小早川ちゃんのパソコンに送っといたから」
「へっ!? わ、わたしですか?!」
驚きの声を上げる小早川ちゃんに、私以外の全員の視線が集中する。
私が目を向けたのは、
「岩崎ちゃん」
「え? ……あ、はい」
「ごめんね? 消しちゃうのはちょっともったいなかったから。本当に嫌だったら、小早川ちゃんと
相談して決めてね?」
「え……」
赤くなったまま固まる彼女を確認して、今度は、
「泉ちゃん」
「はっ、はいっ!」
「小早川ちゃんのパソコンだけど、セキュリティは大丈夫よね?」
「へ? ……あ、ああ、うん。ばっちりだけど……」
「ありがと。――柊ちゃん」
「な……なに」
「そんな感じで、許してあげてくれないかな? みさちゃんのこと」
「……」
信じられないものを見る目をされた。
けど、そのまま気まずそうに目を伏せると、小さくうなずいてくれた。
「……分かったわよ」
「ありがとう。ごめんね?」
ふぅ。
よかった。みんな収まってくれたみたいだし、一安心ね。
それにしても、ヘンな汗かいちゃった。やっぱり人前でやると緊張する。
(……いやはや、見事なモンだね。サスガだね)
と、
(コ……コレガ OH-OKA Judgment なのデスね……!)
(知っているのパティ!? って違うから! ……てゆーか峰岸先輩ってこんなキャラだったっスか?)
(いやいや、こんなモンじゃないよ? あの人だけは怒らせちゃダメだよ、二人とも?)
泉ちゃんたちがひそひそと囁きあってるのが聞こえる。
もう、恥ずかしい。だからイヤだったのに。
(なにぃ? ちびっ子、お前あやの怒らせたのか?)
(え? ……あぁいや、まあ。昨日誘ったときに、ちょとふざけて……)
(ちょっとであやのが怒るかよ。やめとけよ? シャレになんねんだから)
「……みさちゃん?」
さらに加わってきたみさちゃんを、軽く睨んであげる。
「っ! な、なんでもないっ! 何も言ってない!」
「まったくもう……」
ため息。
でも、ありがと。
私が口を挟みやすいように、入ってきてくれたのよね。……たぶん、意識はしてないと思うけど。
今のは……携帯カメラのシャッター音?
突然響いた場違いなその音に、全員の視線が集中する。
「うっしゃーっ! 極上スマイル、撮ったどーっ!!」
みさちゃんだった。
……どうやら、もう気持ちを切り替えたみたいね。
「ちょっと日下部っ、何やってんのよっ」
「ん? ほら、これ」
失礼に当たるその行為を叱りつけようとした柊ちゃんだったけど、差し出された液晶画面を見ると、
「ぉ……」
固まっちゃった。
「いーだろー、極上スマイル。ずっと狙ってたんだー」
「そ……それにしたって、もうちょっと場の空気ってもんを読みなさいよっ」
あらあら。
柊ちゃんも欲しいのかしら……なんて、言ってる場合じゃなさそうね。
「いーじゃん。こんな大事なこと黙ってたバツだって」
「なるへそ。それは一理あるかもね」
「まっ! ちょっ! 日下部先輩っ、それはダメだと前にもっ!」
泉ちゃんがここぞとばかりに、田村ちゃんが焦った調子で割り込んだ。柊ちゃんの表情が強張る。
「あんた……たち、まで」
「いえっ!? 私は否定派っスよっ?!」
「かがみも欲しそうな顔したじゃん」
「……っ!」
うぅん。これはちょっと、良くないかも。
柊ちゃんは、まあいいとして。
田村ちゃんはむきになってるし、泉ちゃんも、そろそろ感づき始めてはいるみたいだけど、
さっきから必要以上に邪魔されてご機嫌斜め気味だし。
「みさきち、私にも……かがみ?」
「ぜってーヤダ」
「くっ――日下部先輩っ! 貸してくださいっ! てか消してくださいっス!」
「ちょ……なにそんな焦ってんのひよりん?」
なんて、考えてる暇もなさそうね。
人前で動くのは嫌いなんだけど……仕方ない、か。
まず、不安そうに四人を見つめてる妹ちゃんと、そちらに忍び寄ってるパトリシアちゃんとの間を
わざと横切って、みさちゃんの後ろに回りこむ。
「みさちゃん」
そして肩越しに声をかけて、
「え?」
「えいっ」
反対側から、ひょいと携帯電話を取り上げた。
「え? あやの? ……あれっ?」
「峰岸?」
「峰岸さん?」
「峰岸先輩?」
あっけに取られる四人。あとの二人は、とりあえず無視。
「ダメよ、みさちゃん。岩崎ちゃんが困ってるじゃない。柊ちゃんも、落ち着いて。ね?」
そう言って玄関扉の方を示しながら自分も見ると、案の定。
岩崎ちゃんは恥ずかしそうに頬を染めて、そしていい感じに困惑した顔になっていた。
その傍らの、少し驚いたようになってる小早川ちゃんが目に入る。
「ご、ごめん、あやの。悪かったから、返してくれぇ」
「うん。――でも、ちょっと待ってね?」
言いつつ、みさちゃんの携帯を素早く操作する。
登録されてるアドレスの中から一つを選んで、今の写真を添付して送信。のち削除。
十秒ほどで終わらせると、折りたたんで返してあげた。
「はい」
「な、何したんだよ……って! 消えてる!?」
「大丈夫。消す前にちゃんと、小早川ちゃんのパソコンに送っといたから」
「へっ!? わ、わたしですか?!」
驚きの声を上げる小早川ちゃんに、私以外の全員の視線が集中する。
私が目を向けたのは、
「岩崎ちゃん」
「え? ……あ、はい」
「ごめんね? 消しちゃうのはちょっともったいなかったから。本当に嫌だったら、小早川ちゃんと
相談して決めてね?」
「え……」
赤くなったまま固まる彼女を確認して、今度は、
「泉ちゃん」
「はっ、はいっ!」
「小早川ちゃんのパソコンだけど、セキュリティは大丈夫よね?」
「へ? ……あ、ああ、うん。ばっちりだけど……」
「ありがと。――柊ちゃん」
「な……なに」
「そんな感じで、許してあげてくれないかな? みさちゃんのこと」
「……」
信じられないものを見る目をされた。
けど、そのまま気まずそうに目を伏せると、小さくうなずいてくれた。
「……分かったわよ」
「ありがとう。ごめんね?」
ふぅ。
よかった。みんな収まってくれたみたいだし、一安心ね。
それにしても、ヘンな汗かいちゃった。やっぱり人前でやると緊張する。
(……いやはや、見事なモンだね。サスガだね)
と、
(コ……コレガ OH-OKA Judgment なのデスね……!)
(知っているのパティ!? って違うから! ……てゆーか峰岸先輩ってこんなキャラだったっスか?)
(いやいや、こんなモンじゃないよ? あの人だけは怒らせちゃダメだよ、二人とも?)
泉ちゃんたちがひそひそと囁きあってるのが聞こえる。
もう、恥ずかしい。だからイヤだったのに。
(なにぃ? ちびっ子、お前あやの怒らせたのか?)
(え? ……あぁいや、まあ。昨日誘ったときに、ちょとふざけて……)
(ちょっとであやのが怒るかよ。やめとけよ? シャレになんねんだから)
「……みさちゃん?」
さらに加わってきたみさちゃんを、軽く睨んであげる。
「っ! な、なんでもないっ! 何も言ってない!」
「まったくもう……」
ため息。
でも、ありがと。
私が口を挟みやすいように、入ってきてくれたのよね。……たぶん、意識はしてないと思うけど。
「……あの、みなさん?」
なんとなく場が止まったところに、高良ちゃんが手と声を挙げた。
「いつまでも立ち話もなんですから……」
「……そうね。せっかく準備もしたんだし」
「そ、そうっスね。行きましょう」
そして柊ちゃんに続いて、田村ちゃんもみんなを促す。
でも、うぅん。ちょっと動揺を見せすぎじゃないかしら。
こういうことに慣れてない、というか、向いてないみたいだから仕方がないのかも知れないけど、
それじゃ岩崎ちゃんが不審に思っちゃうじゃない。
しょうがないなあ。
「さ、小早川ちゃん」
ま、あっちはあっちでもう置いておこう。
「は……はい」
って、そんな尊敬の眼差しみたいなのを向けられても、困るんだけど……
「ほら、ちゃんと岩崎ちゃんをエスコートしてあげないと、ね?」
「へっ!?」
「……!」
あら、赤くなっちゃって。岩崎ちゃんも。
ほんと、微笑ましいなぁ、この子たち。
「あ……わ、わかりましたっ。――みなみちゃん」
みんなが見守る中、だけどほとんど二人だけの世界で。
差し出された小さな手を、少しだけ大きな細い手が、握る。
「……ゆたか」
「うん、行こっ!」
そのままみんなを追い抜いてリビングへと向かう二人を見送って、私は再び集団の後尾を歩く。
時間にして数秒、距離にして数メートル。
先頭の二人が廊下から消えたタイミングで、
なんとなく場が止まったところに、高良ちゃんが手と声を挙げた。
「いつまでも立ち話もなんですから……」
「……そうね。せっかく準備もしたんだし」
「そ、そうっスね。行きましょう」
そして柊ちゃんに続いて、田村ちゃんもみんなを促す。
でも、うぅん。ちょっと動揺を見せすぎじゃないかしら。
こういうことに慣れてない、というか、向いてないみたいだから仕方がないのかも知れないけど、
それじゃ岩崎ちゃんが不審に思っちゃうじゃない。
しょうがないなあ。
「さ、小早川ちゃん」
ま、あっちはあっちでもう置いておこう。
「は……はい」
って、そんな尊敬の眼差しみたいなのを向けられても、困るんだけど……
「ほら、ちゃんと岩崎ちゃんをエスコートしてあげないと、ね?」
「へっ!?」
「……!」
あら、赤くなっちゃって。岩崎ちゃんも。
ほんと、微笑ましいなぁ、この子たち。
「あ……わ、わかりましたっ。――みなみちゃん」
みんなが見守る中、だけどほとんど二人だけの世界で。
差し出された小さな手を、少しだけ大きな細い手が、握る。
「……ゆたか」
「うん、行こっ!」
そのままみんなを追い抜いてリビングへと向かう二人を見送って、私は再び集団の後尾を歩く。
時間にして数秒、距離にして数メートル。
先頭の二人が廊下から消えたタイミングで、
「――峰岸、さん」
さらに後ろから、声をかけられた。振り返る。
待ち受けていた、疑うような探るような眼差しは、まるで似合っていなかった。
黄色いリボンが不安げに揺れている。
「なぁに? 妹ちゃん」
「……」
あら。
なんだか、ビクってなっちゃった。特に怖がらせるような顔も声も作ってないんだけど。
まあ、この子は最初から私のことを避けているような素振りがあったっけ。
「……何か、知ってるんですか?」
「……」
ひょっとしたら、みさちゃん並に勘がいいのかも知れないわね。
「何かって、何を?」
「お……お姉ちゃんの、ことです」
上ずった声で、なぜか敬語になっているけど、目だけは逸らさない。
「柊ちゃん? ……いいえ、知らないわ」
「……」
うそだ。
と、その目は言っている。
でも、そんなこと言われも、ね。
三日前の昼休み以来、私やみさちゃんのことを色々と調べるのに忙しかったらしい泉ちゃんと
ろくに話ができていないみたいではあるけど。
その間に柊ちゃんに何があったかまでは、私は本当に知らないし、分からない。
「だったら――さっき、何を言ってたんですか、お姉ちゃんに。廊下で内緒話、してましたよね?」
……あらあら。
見られてたんだ。
「うーん……ないしょ。ちょっとした、元気の出るおまじないってところかな?」
「……」
わ、怖い顔。
そんな顔、あなたにはして欲しくないな。
似合わないから。
「でも、本当に。何に悩んでるかは知らないのよ。――私より、泉ちゃんに訊いてみたら?」
「……こなちゃんも、何も知らないって」
ああ。そういえば台所で、二人で何か話してたっけ。
ええっと、確か……
待ち受けていた、疑うような探るような眼差しは、まるで似合っていなかった。
黄色いリボンが不安げに揺れている。
「なぁに? 妹ちゃん」
「……」
あら。
なんだか、ビクってなっちゃった。特に怖がらせるような顔も声も作ってないんだけど。
まあ、この子は最初から私のことを避けているような素振りがあったっけ。
「……何か、知ってるんですか?」
「……」
ひょっとしたら、みさちゃん並に勘がいいのかも知れないわね。
「何かって、何を?」
「お……お姉ちゃんの、ことです」
上ずった声で、なぜか敬語になっているけど、目だけは逸らさない。
「柊ちゃん? ……いいえ、知らないわ」
「……」
うそだ。
と、その目は言っている。
でも、そんなこと言われも、ね。
三日前の昼休み以来、私やみさちゃんのことを色々と調べるのに忙しかったらしい泉ちゃんと
ろくに話ができていないみたいではあるけど。
その間に柊ちゃんに何があったかまでは、私は本当に知らないし、分からない。
「だったら――さっき、何を言ってたんですか、お姉ちゃんに。廊下で内緒話、してましたよね?」
……あらあら。
見られてたんだ。
「うーん……ないしょ。ちょっとした、元気の出るおまじないってところかな?」
「……」
わ、怖い顔。
そんな顔、あなたにはして欲しくないな。
似合わないから。
「でも、本当に。何に悩んでるかは知らないのよ。――私より、泉ちゃんに訊いてみたら?」
「……こなちゃんも、何も知らないって」
ああ。そういえば台所で、二人で何か話してたっけ。
ええっと、確か……
“――こなちゃん、ほんとにお姉ちゃんに何もしてないの?”
“つかさまで? してないって何も”
“じゃあ、昨日はどこに行ってたの? 放課後”
“え? いやだからそれは、みさきちたちを誘いにだよ”
“どうして、こなちゃんが日下部さんたちを?”
“なんでって、かがみのため……ってゆーか、かがみがこっちに来なくなった件で”
“え? じゃあこなちゃん、知ってるの? 理由”
“あ、うん。聞いたよ。つかさも聞いたんだね。……かがみから?”
“うん”
“そか。うん、イロイロ考えてね。蚊帳の外は悔しかったし、かといってケンカするのもアレだし。
だから逆に私とあっちが仲良くできれば解決かと思って。で、成功したんだけど……”
“そうなんだ……だったら、なんで……”
“わかんないけど……今は下手にいじらない方がいいんじゃないかな”
“……心配じゃないの? お姉ちゃんのこと”
“そんなわけないじゃん。……でも今はタイミングが、さ。パーティーがブチ壊しになっちゃマズイよ”
“……そうかも知れないけど……”
“つかさまで? してないって何も”
“じゃあ、昨日はどこに行ってたの? 放課後”
“え? いやだからそれは、みさきちたちを誘いにだよ”
“どうして、こなちゃんが日下部さんたちを?”
“なんでって、かがみのため……ってゆーか、かがみがこっちに来なくなった件で”
“え? じゃあこなちゃん、知ってるの? 理由”
“あ、うん。聞いたよ。つかさも聞いたんだね。……かがみから?”
“うん”
“そか。うん、イロイロ考えてね。蚊帳の外は悔しかったし、かといってケンカするのもアレだし。
だから逆に私とあっちが仲良くできれば解決かと思って。で、成功したんだけど……”
“そうなんだ……だったら、なんで……”
“わかんないけど……今は下手にいじらない方がいいんじゃないかな”
“……心配じゃないの? お姉ちゃんのこと”
“そんなわけないじゃん。……でも今はタイミングが、さ。パーティーがブチ壊しになっちゃマズイよ”
“……そうかも知れないけど……”
そんな感じだったかしら?
小早川ちゃんが不思議そうにしてたから、私が話し相手になってたのよね。
もちろんそれはイヤじゃなかったけど。私もあの子のことは気に入ってるし。
まぁ、それはそれとして。
「だったら、柊ちゃんの方から言ってくれるのを待つしかないんじゃない? 私とみさちゃんは、
そうしようって決めたけど」
「……」
ああ、素直な目だ。
怯えとか疑いとかが混じっているけど、それでも純粋な、柊ちゃんを想う気持ちが表れている。
きれいだな。
そう思った。
「――行きましょ」
それは、もう随分前に私がなくしてしまったもの。
いや、最初から持ってなんかいなかったのかも知れない。
だから向き合うのは、辛い。
「脇役の私たちが、主役を待たせるわけにはいかないわ」
返事を待たずに歩き出す。
廊下にはもう他に誰にもいない。
とっくに待たせちゃってるかな。怪しまれてなければいいけど。
「――本当にそれでいいんですか?」
「……」
いいに決まってるじゃない。
だって私は、
小早川ちゃんが不思議そうにしてたから、私が話し相手になってたのよね。
もちろんそれはイヤじゃなかったけど。私もあの子のことは気に入ってるし。
まぁ、それはそれとして。
「だったら、柊ちゃんの方から言ってくれるのを待つしかないんじゃない? 私とみさちゃんは、
そうしようって決めたけど」
「……」
ああ、素直な目だ。
怯えとか疑いとかが混じっているけど、それでも純粋な、柊ちゃんを想う気持ちが表れている。
きれいだな。
そう思った。
「――行きましょ」
それは、もう随分前に私がなくしてしまったもの。
いや、最初から持ってなんかいなかったのかも知れない。
だから向き合うのは、辛い。
「脇役の私たちが、主役を待たせるわけにはいかないわ」
返事を待たずに歩き出す。
廊下にはもう他に誰にもいない。
とっくに待たせちゃってるかな。怪しまれてなければいいけど。
「――本当にそれでいいんですか?」
「……」
いいに決まってるじゃない。
だって私は、
「本当に――あなたはお姉ちゃんのお友だちなんですか?」
足が止まる。
意識して止めたわけじゃなく、勝手に、思わず止まった。
再度振り返る。
「当たり前じゃない」
でも表情までは崩れない。
「ただ、今日は岩崎ちゃんの日だから。……柊ちゃんも、そう思ってるはずよ?」
「それは……でもっ」
お願い。
もう黙って。
「高良ちゃんもね」
「――!?」
きれいな瞳が困惑に揺れる。
冷たい風に吹かれたロウソクの炎のように。
「だから、今日が終わったら、一緒に考えましょ? 柊ちゃんのために何ができるのか」
「……わかりました」
項垂れるようにうなずく妹ちゃん。
納得はしてないだろう。でも、諦めてはくれたみたい。
ふぅ。
さてと、それじゃ――待たせちゃったこと、みんなにはどう言い訳しようかな。
意識して止めたわけじゃなく、勝手に、思わず止まった。
再度振り返る。
「当たり前じゃない」
でも表情までは崩れない。
「ただ、今日は岩崎ちゃんの日だから。……柊ちゃんも、そう思ってるはずよ?」
「それは……でもっ」
お願い。
もう黙って。
「高良ちゃんもね」
「――!?」
きれいな瞳が困惑に揺れる。
冷たい風に吹かれたロウソクの炎のように。
「だから、今日が終わったら、一緒に考えましょ? 柊ちゃんのために何ができるのか」
「……わかりました」
項垂れるようにうなずく妹ちゃん。
納得はしてないだろう。でも、諦めてはくれたみたい。
ふぅ。
さてと、それじゃ――待たせちゃったこと、みんなにはどう言い訳しようかな。