kairakunoza @ ウィキ

優しい翼

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匿名ユーザー

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「ふぅ……とりあえず今夜はこのくらいにしておくかな」
 執筆中の小説も一区切りついて伸びをしつつ時計を見れば、既に2時を回っていた。
 こなたとゆーちゃんも部屋で寝てる頃だろうな、と思いながら冷蔵庫からビールとつまみになりそうな物を取り出して居間へ行く。
 1人でビールを飲みながら仏壇に目をやれば、いつも通りかなたが優しい笑顔でこちらを見ていてくれる。
 軽く酔いを感じながら仏壇の前に座り、微かに線香の香りが残る中、リンを静かに鳴らしてかなたへ語りかける。
「時間が経つのは早いものだなぁ。この前高校生になったと思ったら今日は卒業式だよ」
『子供が成長するのはあっという間ね、そう君』
「全くだよ。そんなに急いで大きくならなくてもいいのになぁ。まぁ体は小さいままだけどな」
『本当にね。私が望んだのとは全く逆に育っちゃったわね』
「背はお前に似ず、性格は俺に似ず、だったかな」
『ええ。背はしょうがないかも知れないけど、趣味は全面的にそう君の英才教育のおかげね』
 うぐ……苦笑交じりの響きが痛いところを突く。
「し、仕方ないだろ! 俺にはこんな育て方しか出来なかったんだから!」
『ふふ、そうかも知れないわね……でも、趣味はともかく真っ直ぐないい子に育ってくれたわ』
「ああ、本当にな。俺の事を反面教師にでもしたのかな?」
『何言ってるの。そう君がいい事とダメな事をちゃんと教えたからでしょ』
「え? そ、そうか? いやぁそんな事したっけかなぁ、ははは」
『誤魔化さなくてもいいのよ、そう君? ずっと見てきたんだもの。ちゃんとわかってるわ』
 労わるような声音に優しげな笑顔がすぐに思い出されて、思わずこっちも頬が緩んでしまう。
「そっか。俺達の事、見ててくれたんだ」
『そうよ。私が死んで挫けそうだったそう君がちゃんと立ち直るところも、ゆきちゃん達に支えられながらこなたの面倒を見てくれた事も。そう君とこなたが仲良く遊ぶところも、全部見てたのよ』
「ありがとうな、かなた」
『ううん、お礼を言うのは私の方。私はただ見てる事しか出来なかったのに、そう君は1人でも頑張ってこなたを育ててくれた。本当にありがとう』
「かなたの方こそ何言ってるんだ。俺1人じゃ何も出来なかったよ。ゆきやゆいちゃん達がいてくれたから頑張れたんだぞ。何より、お前が空のどこかで見てると思ったらいつでも頑張る気力が湧いてきたんだからな」
『そう、かな?』
「ああ、そうだとも。だから見てるしか、なんて言うなよ。これからもずっと見守っててくれよ?」
『うんっ!』
 かなたの心の底からの笑顔を思い浮かべながら、ふと気づいた事を聞いてみる。
「そういや、ずっと見てたって事はだ。こなたとゆーちゃんが付き合ってるのも知ってる、よな?」
『ええ。女の子同士で恋するなんてビックリしたけど、そう君が言ってたように2人が幸せなら私も心から祝福するわ。そう君が信じた、私達の子供ですもの。親が祝わなくてどうするの?』
「そう言ってくれて嬉しいよ」
 最後の、いかにも心外だ、と言う口調は拗ねたような表情と共に紡がれるんだろうな。
 何にしても、かなたの言葉にほっと一安心する。
「それにしても、夢とは言えお前と話せてよかったよ。小説家ってのはこういう時には得だな。豊富な想像力の賜物だ」
『え? 夢じゃないわよ』
「……は?」
『だから、夢じゃなくて実際にお話してるんだってば』
 その言葉に振り向けば、そこには純白のワンピースを着て、大きな翼を静かにはためかせるかなたが微笑んでいた……
「かなた、なのか?」
『ええ。久し振りね、そう君』
「本当に、夢じゃないんだな?」
『疑り深いのね。これでどう?』
 かなたは拗ねたような顔をすると、俺のほっぺを摘んで
『それっ。ほっぺうにょ~~ん♪』
 割と強く引っ張ってきた。
「いたいいたい! いたいってば、かなた!」
『ふふふ。どう? 信じる気になった?』
「ああ、信じるよ。何より、かなたが俺をこんな風に騙す訳ないもんな」
 そう言って悪戯っぽく笑うかなたを抱き締めると、確かな感触と温もりが腕に、体に感じられる。
 突然の事にかなたはビックリしたようだが、すぐに微笑むと抱き締め返してくれた。
「それにしても、どうしてこんな事になったんだ?」
『神様のご褒美、かな? そう君達が頑張ったから、こうして会わせてくれたのかも知れないわね』
「そっか……なかなか粋な事をする神様もいるんだな」
 正直言って神様なんて大して信じていなかったが、こうしてかなたに会わせてくれるならこれからは毎日でもお祈りしてみるか、そう言えばかがみちゃん達の実家が鷹宮神社だったから巫女さんにも会えるな、なんて我ながら不謹慎なことを考えていると
『そう君? 巫女さんに会えるからお参りしようとか考えてないかしら?』
 と、ほっぺを膨らませたかなたが腕の中から俺を睨みつけていたので
「いやいやいや! そんな事は、ないぞ、うん!」
 慌てて今の考えの後半部分を頭から削除する。
 まだ疑わしそうなかなただったが、呆れたような溜め息をつくと
『そう君らしいわ、全く。 でも無理にそんな事をしなくても、今まで通りに毎日楽しく過ごしてくれれば、前向きに過ごしてくれればまたいつか会えるわ』
「そんなものなのか?」
『ええ。特別な事は必要ないの。そう君達がそう君達らしく精一杯生きてくれれば、神様もそれをちゃんと見ていてくれるのよ』
「ん、わかった」
 かなたの言葉を胸に刻みつけて力強く頷く。
『それじゃ、そろそろ行かないと』
 そう言うかなたの姿は徐々に透き通っていって、体越しに俺の腕が見えるようになっていく。
「え? もう行っちまうのか? せめてこなた達に会ってやれないのか?」
『今回は挨拶するだけだったから……でも、夢で会うくらいなら出来るかも』
「そっか。じゃあ次はいつ会えるかな?」
『そうね……お盆の頃には会えるようにお願いしてみるわ。それならそう君やこなただけじゃなくて、ゆーちゃんにもゆっくり会えそうだしね』
「よし。じゃあ今度は2、3日はいられるように俺も頑張るぞ!」
『でも頑張り過ぎて体を壊しちゃダメよ?』
「わかってるよ。そんな事をしたらこなた達まで迷惑掛けちまうからな」
『じゃあ、もう行くね』
「あ。ちょっと待った!」
『なぁに、そう君?』
 翼をゆっくりと広げるかなたをもう一度抱き寄せて、その唇をちょっと強引に奪う。
『んっ! んん……んぅ』
 さすがに驚いたようだが、すぐに力を抜いて俺を受け入れてくれると、優しく抱き締めてくれた。
『んっ……ぷはっ、もう! そう君ってば!』
「はは、悪い悪い。でもせっかく会えたんだから、な?」
『む~~……えいっ。お返しよ!』
 かなたはそう言いながら首に腕を絡めてくると、唇が軽く触れ合わせるだけだが、確かな温もりの伝わるキスをくれた。
『それじゃまたね。そう君』
「ああ。またな、かなた」
 微笑み合いながら再会の約束を交わすと、かなたの姿はゆっくりと消えていった……

 朝食の準備を済ませてこなた達を呼びに行くと、2人して抱き合いながらこなたのベットで安らかな寝息を立てていた。
「2人とも朝だぞー!」
「ん……おはよー、お父さん……って、何勝手にドア開けてるのさ?!」
「ちゃんとノックしたし、声も掛けたぞ。起きなかったのは2人じゃないか」
「え? そうなの? ゴメン、全然気づかなかったよ」
「それにしてもアレだ。朝からいい物を見せてもらったよ」
 そう言ってニヤニヤと抱き合ったままの2人を眺めると、こなたの顔が一気に赤くなる。
「今更恥ずかしがる事もないだろう? 夕べや夏休みの告白に比べたら大した事ないじゃないか」
「いいからとっとと出てけ~~!」
「ん~……どうしたの、お姉ちゃん? だめだよ、かなたさんにそんな事言ったら……」
「いや、ゆーちゃん。おかーさんに言ったんじゃないから……って、そうだ。お父さん」
「ん? どうした?」
「夕べお母さんに会ったよ。多分夢だったと思うけど、間違いなくあれはお母さんだった」
「そうか」
「私も見ましたよ、おじさん。私達の事をちゃんと認めてくれて、励ましてくれました」
「今度はもっといっぱいお話しようね、って約束もしたんだよ」
「そいつぁよかったじゃないか。じゃあ今度会う時に恥ずかしくないよう頑張らないとな」
「もちろんだよ! って、あれ? 驚かないの? 信じてくれるの?」
「2人がそう言うなら本当の事なんだろう。父親の俺が、娘のお前達を信じなくてどうするんだ?」
「う、えと、あー……ありがと」
「それより2人とも。朝ご飯が冷めちまうぞ。先に行ってるからな」
「あ、はい。あっ! おじさん、おはようございます」
「ん。おはよう、ゆーちゃん」
 そんな風に話を切り上げてこなたの部屋を出る。
 窓の外はいい天気で。
 朝日が照らす中、1枚の白い羽根がひらひらと空に舞っていった。



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  • いい話ですなー -- 空我 (2010-01-20 23:35:51)
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