kairakunoza @ ウィキ

オタクサ

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「よくもこんなに散らかせるものね」
 かがみの指摘したとおり、こなたの部屋はとても散らかっていた。具体的に表現するならば、
足の踏み場もないほどに。
「いやー、昔のあずまんがものの同人誌を読みたくなって押入れを漁ってたんだよね。それで
いろいろグッズを見つけたりして懐かしんでたらついそのまま寝ちゃって」
 そんなわけで、こなたは客であるかがみを半ば放置しながらそれらを片付けていた。
「私が来るってわかってるんだから片付けとけよな」
 せっかく二人きりなのに、という言葉を飲み込む。
 別にトキメキやらドキドキやらを求めているわけではない。ただ、こなたの方から招待した
のだから自分に構うべきではないかと思っているだけだ。ここにかがみしかいないのはこなた
がつかさやみゆきを呼ばなかったためであって、その意味を多少深読みできなくもないが、
私はあくまで友達の部屋にいるだけなのだから――と自分に言い聞かせる。
「これだけ集める情熱はどこから出てくるんだか」
 明らかに他の漫画を題材にしたと思われる同人誌も散乱しているあたり、あずまんがだけ
では済まなかったと思われた。
「あずまんがは当時1、2を争う人気作だったからネ。同人誌もいっぱい出てたよ。その後の
萌え四コマ漫画の基礎になったとも言われてて、きららみたいな四コマ雑誌ができたのも多分
あずまんがの影響だと思うよ。いやあ、私もハマったなぁ。ほら、DVDも一年生編二年生編
三年生編で別れてるやつと全6巻のやつの両方あるよ。あ、こっちはちまこれとスイングだね。
キャラソンとトリビュートアルバムもあるし……これはひめくりで……」
 かがみもこなたに勧められて漫画を読んだことがあったが、この関連商品については全く
わからなかった。熱心に萌えを語るこなたを尻目に、ただ呆れていた。
「私も高校生になったらこんな高校生活送りたいと思ったもんだヨ」
「こんなって、普通の生活じゃない」
「でもなんか違うような気がするんだよねー」
「そりゃそうでしょ」
 その漫画には飛び級で入学してくる女の子が登場する。こなたがどのレベルまで『こんな
高校生活』を求めているのか、かがみにはわからなかった。
「でもマリみてみたいなのも憧れるよね。『お姉さま……』って」
「あんたね……」
 つい三秒前まであんなにもあずまんがが好きだと語っていたのにこれかと突っ込みたくなる。
 こなたの整理整頓が進んで、とりあえず歩けるようになったので奥まで入ってベッドに腰
かけさせてもらった。
「私だったらかがみをスールにするね」
「同学年はスールになれねえだろ」
「どうせ妄想なんだからいいじゃん」
 あずまんがグッズを片付け終わって、今度はマリみて関連のものを片付け初めていた。
 同人誌は段ボールに詰めて、フィギュアはフィギュアでまとめてそっちへ。他の作品の
フィギュアも混ざっていて、かなり混然としていた。
「第一期は深夜で第二期は早朝に放送って珍しいけど、次はいつ放送するんだろうなぁ。そう
いえば第二期のタイトルは『春』だったけど、最後のレイニーブルーとパラソルをさしては
梅雨の時期だよね」
 『レイニーブルー』と『パラソルをさして』とは、作品中のエピソードのサブタイトルである。
 アニメでは大事なシーンをカットしていたりするから原作も読んでくれ――と、いつもの
かがみなら言っていたかもしれないが、考え事をしていてそれどころではなかった。
(こなたって飽きっぽいの?)
 こなたがどんなにあずまんがにハマっていたか、ついさっき語ってみせた。それにも拘らず
今度はマリみての話だ。普段の行動を見る限り、そのマリみても今はそれほど熱心ではない。
 そのレイニーブルーの中で紫陽花の花言葉について言及するシーンがある。――移り気。
 オタクは移り気だ。熱心に集めていたであろうグッズも、今は押入れの中。
 それならば、いつかは――
 いつかは、自分も飽きられる?
 いつか、当たり前に親友と言える間柄ではなくなるかもしれない。その時、こなたは他の
誰かに……。

「――み? かがみ?」
「うわっ!」
 いつのまにか、こなたが目の前にいた。
「ごめん。やっぱりかがみがいるのに放っといちゃダメだよね」
「そういうわけじゃないわよ」
 いや、本当はそういうわけなのだ。他のことに気が移って欲しくない。
「もう、かがみはツンデレだなぁ。構ってほしかったんだよね」
「こ、こら!」
 いきなり抱きつかれて困惑した。このままかがみが後ろに倒れれば、そこはベッドなのだ。
本心をわかってくれているなら、むしろこのまま押し倒――
「な、何やってんのよ!」
 それはむしろ自分の妄想への突っ込みだったのだが。
「まだ整理が終わってないからさ、自由に動けるのがベッドの上しかないんだよネ」
 そして、かがみの妄想は現実になった。こなたの体重に抑えられて、かがみは自由に動け
はしない。その事実に、心臓が早鐘を打つ。
「オタクだからついついこっちに夢中になっちゃったりするけど、ちゃんとかがみのこと
好きだよ」
「……信用できないわよ」
 たった今、移り気なところを見せられたばかりなのだ。それに、こんな展開になるなんて
全く考えていなかったからいきなり好きなどと言われても困る――というポーズをとる。
自分の本心を認めず、こなたのやってることに振り回されているだけと言い訳を続ける。
「信用してほしければ行動で示せと。かがみも大胆なこと言うね」
「言ってないわよそんなこと!」
 実質、言ったようなものなのだが。
「じゃあ、マリみて風に」
 かがみを押さえつけたまま、こなたの唇がかがみの唇の少し左に近づいてきた。それは、
マリみての作品中で行われたキスである。
「ちょ、ちょっと、何考えてんのよ!」
「……ダメ?」
 残念そうな顔で聞いてくるこなた。
「……そのキスって餞別のシーンじゃない」
 そのようなキスは作品中で二回行われ、かがみの言うようにそれは二回とも餞別の意味を
込めたものだった。
 だから、そのキスは相手を信用させるための行為には成りえない。かがみは――あくまで
表面上は――そういう意味で抗議したつもりだった。
「そっか、そうだよね」
 こなたはそれをキスをするならちゃんとやれという意味で解釈したようだった。
「……!」
 かがみが再び抗議する暇もなく、二人の唇が重なった。
 柔らかかった。暖かかった。
 キスをするというたったそれだけのことに、興奮し、息が荒くなり、目眩がした。
 不意にこなたの唇が離れる。その唇が言葉を紡ぐ。
「信用してくれた?」
「……信用してあげるわよ」
 この期に及んで『しょうがないから』というポーズをとるかがみに、こなたは反撃する。
「私も信用させてよ」
「うっ……」
 かがみがキスをし返すまでの十数分間、こなたはかがみに被さったまま無言でせがみ続けた。

 後日。
「紫陽花の花言葉なんて考えてたんだ。意外に乙女ちっくだね」
「意外ってなんだ意外って」
「知ってる? 紫陽花って他にも花言葉があるんだよ」
「そうなの?」
「うん……『強い愛情』って」

-終わり-




















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