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Lover's Dream

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「ゆーちゃん、デートをしよう!」
 夏休みのある日の事です。お昼ご飯を食べ終えて、洗い物を済ませた私にそうお姉ちゃんが声を掛けてきました。
「えっと……うん、大丈夫! 今日の分の宿題はは終わらせたから平気だよ」
「よし、じゃあ早速行こう!」
「ちょ、ちょっと待ってよぅ。まだ着替えてないってば!」
「あははは、そりゃそうだ。じゃあ準備出来たら呼んでね~」
 そう言うと、お姉ちゃんは居間で本を読み始めちゃいました。タイトルを見てちょっとビックリ……
「お姉ちゃん、英会話始めるの?」
「ん? あぁそんなに本格的じゃないよ。たまに外国人のお客さんも来るからさ。オーダーとか簡単な受け答えくらいは出来た方がいいかなってね」
 顔を上げてそんな風に笑いながら言うと、再び本に目を落とします。
 その横顔はとても真剣で格好良くて、思わず見惚れてしまいました。

 駅まで並んで歩きながら、行き先とか全然聞いてなかったのを思い出しました。
 最近なかなか時間が合わなくて、2人っきりでのお出掛けは久し振りだったので舞い上がってしまったみたいです……
「今日はどこに行くの?」
「んーっとね。夕方くらいに行きたい所があるんだけど、それまでは特に決めてなかったな。ゆーちゃんはどっか行きたいとこは?」
「そうだね……あ、画材屋さんって近くにあるの?」
「あるよー。私の目的地はアキバだし。んじゃそっちを先に行っちゃおうか」
「うん。それでお姉ちゃんの用事は何時からなの?」
「こっちは4時半に着けば問題なし。だからゆっくり買い物してもだいじょーぶ」
 そう言いながら優しく頭を撫でてくれます。
 普段なら子供扱いされてるような気がするのですが、お姉ちゃんにこうされるのは嬉しいのでされるがままです……惚れた弱みってこういうのを言うんでしょうか?

 秋葉原に着くとまず私の買い物を済ませる事にしました。
 絵本や練習用の絵を色々描いているとあっという間にスケッチブックがなくなってしまう事があり、最近はひよりちゃんにお勧めの画材を教えてもらっていたりします。
 まだまだプロの人達には遠く及ばないですが、こなたお姉ちゃんやおじさん、ゆいお姉ちゃん達から私の絵や話が好きだと言われると嬉しくて、もっといっぱい上手に描こうと頑張れるんです。

 私の買い物が済むと、お姉ちゃんと一緒にパソコンのお店に向かいました。
 お店の中は人が一杯で、繋いだお姉ちゃんの手をぎゅっと握り締めていないとすぐはぐれてしまいそうです。
 そんな中をお姉ちゃんはすいすいと泳ぐようにすり抜け、目当ての品物を幾つも手にしていきます。
 そうしながら私がはぐれたり転んだりしないように気遣ってくれて、感心すると同時に嬉しく思ってしまいます。

 それぞれの買い物を済ませると、時間は4時を過ぎていました。
「んじゃそろそろ行こっか」
「うん。って言っても私は詳しく知らないよ? お姉ちゃん、いくら聞いても全然教えてくれないし」
「んっふっふっふ。まぁ着いてからのお楽しみって事で、ね?」
 そう言ってウィンクを1つ。こうしたちょっとした事も綺麗に決まるお姉ちゃんがちょっと羨ましいです。
 連れられた先は古めかしい茶色い扉のお店でした。看板には『Cafe&Bar Sunny Dream』……
「って、お姉ちゃん?! こ、ここって……」
「ん? あー平気平気。ここは未成年オッケーのお店だから」
「え? そう、なの?」
「うん、そうなの。ほら『Cafe&Bar』ってなってるっしょ。昼間はお酒を出さない喫茶店なんだ。それにお酒頼むには身分証見せないとダメなのだよ」
「ふぅん、こういうお店もあるんだね」
「んじゃ入りましょうかね。ようこそお越し下さいました、お嬢様」
 そう言って扉を開けてくれるお姉ちゃんは映画に出てくるような執事さんのようで、動作の一つ一つが格好良く見えます。
 カランというベルの澄んだ音に迎えられて中に入ると、落ち着いた雰囲気のお店でした。
 手前にはテーブル席が幾つか、奥にはカウンターがあって、テレビで見るようなまるでバーそのものに見えます。
 カウンター中でグラスを磨いているお店の人が私達の方を見て、
「いらっしゃい、こなたさん。お連れの方は初めまして、ですね。こちらのカウンターにどうぞ」
 そう言って席を指し示してくるので、お姉ちゃんと一緒にカウンターの席に座ります……高くてちょっと苦労しちゃいましたけど。
「こんにちわ、マスター。今日は無茶言ってすみません」
「いえいえ。そうじろうさんとは昔からの付き合いですからね。それにこの時間帯は暇なんですよ」
 そう苦笑しながらおしぼりを手渡してくれてました。
 受け取って改めて周りを見渡すと、私達以外は誰もいません。
「今日は私達だけの貸切だよ、ゆーちゃん」
 ニヤニヤしながらお姉ちゃんがそう言いました。
「か、貸切?!」
「そ。お父さんからのプレゼントだって。そろそろ1年経つっしょ、私達が付き合い始めてから」
「そ、そうだけど……でも本当にいいの? ここまでしてもらっちゃっても?」
「お父さんも嬉しいんでしょ。私に可愛い恋人さんが出来て、進路って言うか目的もちゃんと見つけて、ね。それもこれもゆーちゃんのお陰だと思えば安いもんだって言ってたし」
 そう言うお姉ちゃんはどこか照れ臭そうです。
「それにどうしても気が引けるって言うなら、今度肩叩きでもしてあげたら? お父さんってば単純だから、それだけで大喜びすると思うよ?」
「うーん……じゃあお言葉に甘えちゃおう、かな」
「そうそう、折角なんだし楽しまなくちゃね。じゃあマスター、注文はお任せしちゃいますね」
「かしこまりました。お2人とも未成年と言う事ですから、アルコールは禁止ですよ」
「あははは、勿論ですって。ね、ゆーちゃん」
「あ、はい。それにこんな素敵なお店だと何を頼んでいいのか分かりませんし……」
「いえ、普段は喫茶店もやっていますからコーヒーや紅茶もありますよ。ですが今日はそうじろうさんのお願いでお2人にちょっとお洒落なものを、という話ですから」
 マスターさんはそんな風に言いながら、銀色の容器――シェイカーと言うんでしたっけ――に何種類かのジュースと氷を入れて、それをリズムよく振り始めました。
 しばらくしてそれをグラスに注いで、グレープフルーツとオレンジを飾って私達の前に置いてくれました。
「お待たせしました。『プッシーキャット』です。『可愛い子猫』という意味ですね」
 零さないようにそっと持ち上げて、
「それじゃ、ゆーちゃん。かんぱーい」
「うん、かんぱーい」
 お姉ちゃんのグラスとそっと触れさせて、ゆっくり口をつけます。
 フルーツの甘みや酸味、冷たさが外の熱気で火照った体に気持ちいいです。
「ぶっちゃけミックスジュースなんだけどね~。こうして作ってもらうと何故か美味しいんだよね~」
「うん、普段飲むジュースと全然違うね。とっても美味しいです!」
「お口に合ったようで何よりです。こうしたノンアルコールカクテルも色々ありますから、うちに来ていただければまたお作りしますよ」
 笑いながらマスターさんはチョコの盛り合わせを出してくれました。
「バーと言うのは敷居が高いと思われがちですが、もっと気軽に入っていいものですよ。何を頼めばいいか分からなくても、バーテンダーに好みを言っていただければそれに合わせてお出ししますから」
「そうなんですか?」
「ええ。流石にドラマや小説などのようなイメージに合わせて、と言うのはなかなか難しいですけれど、ね」
「でも、これなんか正にゆーちゃんにピッタリなカクテルですよね」
「え?」
「だって『可愛い子猫』なんてゆーちゃんそのものじゃん?」
「そ、そんな……可愛い、なんて」
 お姉ちゃんからの突然の不意打ちに耳まで真っ赤になったのが分かります……
「なるほど。確かにそうですね」
「マ、マスターさんまで! からかわないで下さい!」
 そんな風に話しながら、静かに流れるBGMと共に時間はゆっくりと流れていきました。

 その後また違ったカクテルを幾つか作ってもらい、お姉ちゃんと交換したりして色んな味を楽しみました。
「では、これが最後のカクテルになりますね」
 差し出されたのはクリームがかったオレンジ色のカクテルですが、グラスが1つなのにストローが2本ついています。
「『ラバーズ・ドリーム』と言います。ですが、お2人にはその夢をぜひ叶えていただきたいと思います」
 そう言って優しく微笑むマスターさん。
 お姉ちゃんを見ると、同じようにニッコリとしています。
「あの……ありがとうございます、マスターさん!」
「ありがとう、マスター……じゃ、いただこっか、ゆーちゃん」
 そう言うとほっぺに軽くキスをしてくれました。
 甘酸っぱい、どこか穏やかな恋人達の夢……今はまだ私達のようにごく僅かの人が見る夢だけど、いつか皆で見られるように、これが夢で終わらないように頑張ろう、そう思いながら一時の夢を楽しみました……

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