「それでねー、このストラップを買うのに物凄ーく並んだんだよー。もう、それで疲れちゃってね」
「まあ、そうなんですか。でも、苦労した甲斐あってか、とっても可愛らしいストラップですね。それに、つかささんにとても良くお似合いです」
「えへへ、そうかな……。あ、そうそう。ゆきちゃんの分もあるから、あげるねー。ゆきちゃんにも似合うと思うよ」
「まあ、ありがとうございます。大切にしますね」
私の後ろからは、さっきから楽しそうな会話が聞こえている。話が途切れることはなく、ずーっと話は弾んでいるようだ。……つかさとみゆきは、いつもこんな風に仲が良かったっけ? ……いや、考えてみれば、こんな会話は何てことない友人同士の会話だ。それだというのに、私は何で苛立っているんだ?
どうも、今日の私、いや最近の私は心中穏やかではない。一体、どうしたことだろう。大学受験という問題が、目の前に迫りつつあることを考えると、精神面が乱れるのはどう考えてもよくない。ただでさえ体重のことで悩んでいるというのに、本当に神様は意地悪ね……。
さて、今、私たちは何をしているかというと、秋葉原駅から徒歩五分ほどのところにあるそば屋さんの順番待ちをしている。このそば屋は、昨日、こなたに紹介されたお店で、結構おいしいらしい。
というわけで、いつもの仲良し四人組でこのそば屋さんに来た……というわけなんだけど、何だかつかさとみゆきが楽しげで、何故かいらいらしている私なのであった。はあ、と大きく溜息も出てしまう。
こうなったのも、一週間前のせいかもしれない。
一週間前、こなたとつかさが風邪で休んだので、私は学校ではみゆきと二人きりだった。あの日は色々と思い出に残ることがあったけど、長いのでそれは割愛。そしてその後に、私はみゆきと二人で、こなたとつかさのお見舞いをしていたのだ。
問題は、そのつかさを見舞ってから、みゆきが帰った後のこと。帰るみゆきを見送ってから、私はもう一度、つかさの顔を見に行った。すると、つかさはこんなことを言い出した。
「……今日のお姉ちゃん、何だかうれしそうだね。何かあったの?」
「え? そ、そうかしら。特に何もなかったと思うけど……」
当然、嘘だ。何もなかったといえば嘘になる。だけど、あれは……私と、みゆきだけの秘密。そうしておいたほうがいいと思った。
しかし、少し私の様子がおかしいことに気付いたのか、
「でも、今日の二人は、いつもより妙に仲がいいよね。絶対、何かあったでしょ」
眉をひそめて、つかさは言った。何だか詰問されている感じだ。
「……いや、だからね、別に何もないわよ?」
「そう……? なら、いいんだけど……」
「そうよ、そうよ。それより、つかさは早く風邪を治しちゃいなさい。いい?」
私がそう聞くと、こくんとつかさは黙って頷いた。
私はそれにほっとして、つかさの部屋を出た。ところが、
「……負けないんだから」
……出る直前に、私はそんな声を聞いた気がした。あくまでも、気がした、っていう程度だけど。もしかしたら、つかさの妙な態度に苛立ったせいで聞こえた私の幻聴かもしれない。でも、今となっては、真実は藪の中だ。
でも、そんなことがあったからか、私の心はそれからずっともやもやとしていた。このやりきれない思いは何なんだろう。何故、私は心にわだかまりを抱えているのだろう。考えてもますますわからなくなるだけだった。
そんな風に曇りゆく私の心とは裏腹に、今日の東京の空は憎いくらいに晴れ渡っていた。そして、つかさとみゆきは、未だに楽しそうに会話をしている。両々相まって、ますます私のイライラは募っていった。
「かがみー」
「……ん、何?」
横にいるこなたが話しかけてきた。
「どうかしたのー? なんか変だけど……。何か悩んでいるの?」
その言葉に、私は一気に心臓が跳ね上がるような衝撃を覚えた。こなたに様子がおかしいと咎められたということは、イライラが何らかの形で外に出てしまっているということだ。その事実が、私を動揺させた。
それでも、何とか悟られぬよう、顔と声だけは何とか平静に保ち、慎重に私は答える。
「別に……何でもないわよ」
「ふーん、そうー? だったらいいんだけどね……」
その答えだけで、こなたは納得してしまったようで、それきり私を問い詰めることはなかった。いや、私に何かわけがあると見込んで、聞くのを遠慮しただけかもしれない。こういうときのこなたの勘が、妙に鋭いしね……。
全く、今日は一体どうなるのだろう。私は、とても不安だった。今日一日を楽しく過ごせるのだろうか……と。
「まあ、そうなんですか。でも、苦労した甲斐あってか、とっても可愛らしいストラップですね。それに、つかささんにとても良くお似合いです」
「えへへ、そうかな……。あ、そうそう。ゆきちゃんの分もあるから、あげるねー。ゆきちゃんにも似合うと思うよ」
「まあ、ありがとうございます。大切にしますね」
私の後ろからは、さっきから楽しそうな会話が聞こえている。話が途切れることはなく、ずーっと話は弾んでいるようだ。……つかさとみゆきは、いつもこんな風に仲が良かったっけ? ……いや、考えてみれば、こんな会話は何てことない友人同士の会話だ。それだというのに、私は何で苛立っているんだ?
どうも、今日の私、いや最近の私は心中穏やかではない。一体、どうしたことだろう。大学受験という問題が、目の前に迫りつつあることを考えると、精神面が乱れるのはどう考えてもよくない。ただでさえ体重のことで悩んでいるというのに、本当に神様は意地悪ね……。
さて、今、私たちは何をしているかというと、秋葉原駅から徒歩五分ほどのところにあるそば屋さんの順番待ちをしている。このそば屋は、昨日、こなたに紹介されたお店で、結構おいしいらしい。
というわけで、いつもの仲良し四人組でこのそば屋さんに来た……というわけなんだけど、何だかつかさとみゆきが楽しげで、何故かいらいらしている私なのであった。はあ、と大きく溜息も出てしまう。
こうなったのも、一週間前のせいかもしれない。
一週間前、こなたとつかさが風邪で休んだので、私は学校ではみゆきと二人きりだった。あの日は色々と思い出に残ることがあったけど、長いのでそれは割愛。そしてその後に、私はみゆきと二人で、こなたとつかさのお見舞いをしていたのだ。
問題は、そのつかさを見舞ってから、みゆきが帰った後のこと。帰るみゆきを見送ってから、私はもう一度、つかさの顔を見に行った。すると、つかさはこんなことを言い出した。
「……今日のお姉ちゃん、何だかうれしそうだね。何かあったの?」
「え? そ、そうかしら。特に何もなかったと思うけど……」
当然、嘘だ。何もなかったといえば嘘になる。だけど、あれは……私と、みゆきだけの秘密。そうしておいたほうがいいと思った。
しかし、少し私の様子がおかしいことに気付いたのか、
「でも、今日の二人は、いつもより妙に仲がいいよね。絶対、何かあったでしょ」
眉をひそめて、つかさは言った。何だか詰問されている感じだ。
「……いや、だからね、別に何もないわよ?」
「そう……? なら、いいんだけど……」
「そうよ、そうよ。それより、つかさは早く風邪を治しちゃいなさい。いい?」
私がそう聞くと、こくんとつかさは黙って頷いた。
私はそれにほっとして、つかさの部屋を出た。ところが、
「……負けないんだから」
……出る直前に、私はそんな声を聞いた気がした。あくまでも、気がした、っていう程度だけど。もしかしたら、つかさの妙な態度に苛立ったせいで聞こえた私の幻聴かもしれない。でも、今となっては、真実は藪の中だ。
でも、そんなことがあったからか、私の心はそれからずっともやもやとしていた。このやりきれない思いは何なんだろう。何故、私は心にわだかまりを抱えているのだろう。考えてもますますわからなくなるだけだった。
そんな風に曇りゆく私の心とは裏腹に、今日の東京の空は憎いくらいに晴れ渡っていた。そして、つかさとみゆきは、未だに楽しそうに会話をしている。両々相まって、ますます私のイライラは募っていった。
「かがみー」
「……ん、何?」
横にいるこなたが話しかけてきた。
「どうかしたのー? なんか変だけど……。何か悩んでいるの?」
その言葉に、私は一気に心臓が跳ね上がるような衝撃を覚えた。こなたに様子がおかしいと咎められたということは、イライラが何らかの形で外に出てしまっているということだ。その事実が、私を動揺させた。
それでも、何とか悟られぬよう、顔と声だけは何とか平静に保ち、慎重に私は答える。
「別に……何でもないわよ」
「ふーん、そうー? だったらいいんだけどね……」
その答えだけで、こなたは納得してしまったようで、それきり私を問い詰めることはなかった。いや、私に何かわけがあると見込んで、聞くのを遠慮しただけかもしれない。こういうときのこなたの勘が、妙に鋭いしね……。
全く、今日は一体どうなるのだろう。私は、とても不安だった。今日一日を楽しく過ごせるのだろうか……と。
―――結論から言うと、それは杞憂だった。この後、私たちはそば屋さんでそばを食べた後、休日の東京で興じたわけだが、それはえも言われぬくらい楽しいものになった。
秋葉原でいつもどおりのノリで暴走するこなたとか、ウインドウショッピングを楽しむはずが、ファンシーショップに目を輝かせたつかさが衝動買いしてしまったりとか、豆知識やら受験やら学校行事やらと、話題の提供に事欠かないみゆきとか。
客観的に見れば、あまりにも普通過ぎる女子高生の休日。しかし、その日常が、私にはとても楽しかった。
こんな楽しい日々がいつまでも続けばいい――。そうは思っても、いずれ別れの時は来る。そのことは、一週間前に認識していることだ。そして、こんな言葉もある。青春の特権といえば、一言も以ってすれば無知の特権であろう。……これは三島由紀夫の言葉だ。
ああ、その通りだ。全く、無知であることは、何故こんなに楽しいんだろう! 無知とはある意味、純粋さでもある。そう、私たちは、社会のことを何一つ知らなくともいい。純粋に、自分の欲求に従い、ただ青春を謳歌していればいい。それが青春なのだ。
今になって私は、何故三島があんな事件を起こして死んだかも分かる気がする。つまり、三島は失われた青春を取り戻そうとしたのだ。だからこそ、「法治国家」という社会に対抗して、自らの欲求の赴くままに、あんな事件を起こした。そして自分の願いが叶わないことを知って、それに絶望して死を選んだ―――。
この三島のように、知らないことは幸せで、真実を知ることは、残酷だ。そして、そのことを、私はこの翌朝に実感することとなる。
秋葉原でいつもどおりのノリで暴走するこなたとか、ウインドウショッピングを楽しむはずが、ファンシーショップに目を輝かせたつかさが衝動買いしてしまったりとか、豆知識やら受験やら学校行事やらと、話題の提供に事欠かないみゆきとか。
客観的に見れば、あまりにも普通過ぎる女子高生の休日。しかし、その日常が、私にはとても楽しかった。
こんな楽しい日々がいつまでも続けばいい――。そうは思っても、いずれ別れの時は来る。そのことは、一週間前に認識していることだ。そして、こんな言葉もある。青春の特権といえば、一言も以ってすれば無知の特権であろう。……これは三島由紀夫の言葉だ。
ああ、その通りだ。全く、無知であることは、何故こんなに楽しいんだろう! 無知とはある意味、純粋さでもある。そう、私たちは、社会のことを何一つ知らなくともいい。純粋に、自分の欲求に従い、ただ青春を謳歌していればいい。それが青春なのだ。
今になって私は、何故三島があんな事件を起こして死んだかも分かる気がする。つまり、三島は失われた青春を取り戻そうとしたのだ。だからこそ、「法治国家」という社会に対抗して、自らの欲求の赴くままに、あんな事件を起こした。そして自分の願いが叶わないことを知って、それに絶望して死を選んだ―――。
この三島のように、知らないことは幸せで、真実を知ることは、残酷だ。そして、そのことを、私はこの翌朝に実感することとなる。
―――
明くる日の月曜日、私はつかさと一緒に、電車に揺られていた。
糟日部は、我が町鷹宮から約20分。もうそろそろ着くだろう。ふっと、右を見てみれば、つかさがつり革につかまりながら、目をつぶり、うとうとと首を揺らして、まどろんでいた。立ちながら寝るとは何とも器用な奴ね……。
おまけに、目の前に座っているおばさんにくすくすと笑われている。全くもう。だらしのない。
「つかさー。起きなさい。もう少しで駅よー」
「うーん、あと五分だけー……」
どうも、つかさは、五分寝たらどれだけ時間をロスしてしまうことになるか考えたことがないらしい。せめて、高校生のうちに、この悪い癖は治してもらわないと……。精神的には成長したつかさも、何故か生活習慣だけはからきしダメで、姉としては、ほとほと心配だ。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく、糟日部、糟日部です。野田線ご利用のお客様はお乗換えです。お忘れ物ございませんようお気をつけ下さい。この電車は、区間急行浅草行きです。糟日部の次は、てんげん台に止まります。途中の二ノ割、竹里には止まりません』
そして、とうとうつかさが起きないうちに、電車はスピードを落とし始めてしまった。やがて、電車は完全に停車し、ドアが開くと同時に、どっと人が降りていく。
さすがに、つかさを置いていくわけにはいかないので、私は、つかさの片腕を掴んで強引に一緒に下車させることにした。
「う、うわぁっ……。お、お姉ちゃーん? な、何が起こっているのー?」
程なくして、つかさがこの上なく驚いた声を出した。まあ、驚くのも無理はないわよね。まどろんでいたところに、腕を掴まれて、あまつさえ歩かされているんだから。でも、この混雑では振り返るのも面倒なので、前を向きながら私は訳を話すことにする。
「あのままじゃ、あんた、寝過ごしちゃいそうだったから、降りさせただけよ。ともかく、早く目を覚ましなさい」
「ん……ふぁ~い……」
……ちっとも信用できないぞ。
そんなことを思いながら、改札を抜け、駅を出る。そこで、ようやく、私はつかさから腕を放した。
いつもと何ら変わりない駅前。天気は快晴。一週間の始まりとしては、幸先がいい、清々しい朝だ。澄み切った空を朝に見ると、何だか晴れがましい気持ちになる。だから、今日の私の心は、空と同じ、快晴だった。
「気持ちのいい朝ねー」
天を仰ぎながら、私は言った。
「あはは、そだね。今日もいいことあるといいねー」
つかさもようやく、寝ぼけ眼から復活したようで、愛嬌笑いをしながら、そんなことを言った。
そんな朝の会話をしながら、バス乗り場に近づいていくと、見知った影がバスを待っていた。やがて、その影は私たちに気付き、
「あら? おはようございます、かがみさん、つかささん」
丁寧にもゆるりとお辞儀をしながら、挨拶をした。
「お、みゆき、おはよー」
「おはよう、ゆきちゃーん」
「朝会うのは珍しいわね。どうしたの?」
手を振ってみゆきに挨拶をするのもそこそこに、私はそんなことを聞いてみた。確か、みゆきはいつもは一本早いバスに乗っているはずだったからだ。
みゆきは、はにかんで、
「お恥ずかしながら、今日は、少し寝坊しまして。いつもより遅い電車になってしまいました。でも、そのおかげでお二人と会えたのですから、不幸中の幸い、かもしれませんね」
そんなことを言った。どことなく落ち着きがあるその話し方とたたずまいは、見るものも落ち着かせる。忙しい朝には、みゆきは丁度良い存在なのかもしれない。
「へえ、ゆきちゃんって今よりもっと早く起きてるんだ。私にはできそうにないなあ」
「つかさだって、もう少し早く起きれるでしょー」
「えへへ、ゴメンね。そのせいで、いつもお姉ちゃんを待たせているよね」
「まあね。あまり早く来すぎてもなんだからさ」
そんな他愛無い姉妹の会話を、みゆきはニコニコとしながら聞いていた。しかし、私の言葉で何かを思い立ったのか、ああ、とみゆきは声を出し、
「そういえば、泉さんはご一緒じゃないんですか?」
と聞いた。
「ん、そういえばいないわね。ま、どうせ、ゲームやりすぎて寝坊した、とかそんなくだらない理由でしょ」
「遅刻されないとよろしいのですが……」
みゆきは不安げな顔をして言った。
でもまあ、たまにぐらい遅刻しないと、あいつはいつまでも生活習慣を改めようとしないでしょ。たまにはいい薬よ。
そんなことをみゆきに言おうかと思った私だったが、どうやら「噂をすれば影がさす」という諺は正しいようだった。
「みんなー! ごめん、ごめーん!」
その声に振り向くと、青髪の女子高生がこちらに向かって走ってくるのが見えた。自然と私の口からは溜息が出る。こんなことを言うのは奴しかいない。
やがて、その女子高生は、私たちの前で止まり、ぜいぜいと肩で息をして、
「いやー、間に合った、間に合ったー」
額の汗を腕でぬぐった。
私は呆れた面持ちで、こなたを注意する。
「間に合ったは間に合ったけど、もう少し余裕を持ちなさいよ」
「そんなこと言ったってねえ、私は寝てないんだ!」
「ネタが古い」
わざと、刺々しく聞こえるような声を私は出したが、こなたはそれを無視し、
「いやー、私ってボキャ貧だからさー」
「……冷めたピザみたいなギャグね」
「んー、ブッチホンを馬鹿にするなー」
……だから、ネタが古いっての。
助けを求めるように、私が困ったような顔をして振り返ると、つかさとみゆきはくすくすと笑っていた。
「みゆきさんは、ブッチホンって覚えてるー?」
「いいえ、記憶にございませんね」
……みゆき。みゆきまで、そんな昭和脳に付き合わなくていいのよ。付け上がるだけなんだから。
「恥ずかしながら帰ってまいりましたー」
つかさはつかさで、変なことをのたまってるし。はあ……。私たちって、本当に18歳よね……?
そんな私の疑問をよそに、時間は過ぎていき、やがてバスが到着した。到着と同時に、生徒が流れ込む。
私たちもそれに続いてバスに入ったけど、四人固まって座れる状況ではなかったので、私はつかさと、こなたはみゆきと隣がけで座ることになった。私たちが着席してから程なくして、バスも出発する。
「ふう。今日もようやく動き出したわね」
後ろへと流れ行く糟日部の景色を眺めながら、私はつかさに話しかけた。
「そだね。そういえば、今日調理実習あるけど、お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、き、聞かないでよ。……全くもう。双子なのに、どうしてこういう技能は似ないのかしらねえ」
「うーん、完全に同じだったら、それは双子じゃなくてクローンだもん。似ているけど、少し違う。それが双子じゃないかな……。それでも、私とお姉ちゃんはとっても似ていると思うけどね」
「そう? こなたには、あまり似てないって言われたけど。顔とか髪以外に何かある?」
「……え。う、うーんと例えばね……」
何故かつかさは、そこで言いよどんだ。視線をあちらこちらに移し、どこかつかさの様子は挙動不審だった。
そんなに言いづらいことなのか……? そんな言いづらい特徴など、身に覚えはないはずなんだが。
「例えば? どうしたのよ?」
埒が明かないので、私の方から言葉を促してやる。
その言葉にようやく決心したのか、つかさは辺りをきょろきょろと見回し、周りをはばかるような様子で、私の耳にそっと口を寄せて、こう囁いた。
「例えば……ゆきちゃんが好きだってこと」
その瞬間、私の身体を電撃が迸ったような、そんな衝撃が走った。正直言えば、このときの私は、まだ少し眠気があった。しかし、その眠気も今や完全に吹き飛んでしまった。私は、驚きの声さえ上げられず、ただつかさの顔を見つめるだけだった。
そして、当のつかさはというと、私の反応がよほど予想外だったらしく、驚きの表情を浮かべて、私の顔を覗き込んだ。
「まさか、とぼけるつもりじゃないよね?」
つかさの質問が、どこか刺々しく聞こえるのは、私の錯覚だろうか。
「いや、とぼけるも何も……」
私は答えようもなく、俯いて言いよどむ。
急に好きだって言われても……そんな自覚はなかった。いや、みゆきを嫌いなつもりなんて微塵もない。好きか嫌いかで問われたら、好きに決まってる。そうだ、私にあの高良みゆきを嫌う理由なんて何もない。
誰にだって優しく、聖人君子、成績優秀の高良みゆきを嫌う理由なんて、どこにもない。いるのは、成績などの劣等感から、一方的に妬む奴くらいだ。というか、いたら、私が許さない。
ただ、ここでつかさが聞いているのは、どう考えても友愛の感情で好きかを問うているのではない。明らかに、恋愛感情で好きかを聞いている。それで好きかと聞かれれば、私は何故か即答できなかった。
私が黙っていると、
「だって、最近、二人とも妙に仲がいいんだもん。一週間前の二人も、何だか恋人みたいだったよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そりゃあ、確かにみゆきのことは好きだけど、別にそんな目で見てるわけじゃ……」
「本当? 本当に断言できる?」
「つ、つかさはどうなのよ。好きなの?」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に私は耐え切れず、私は話題を転換させた。
「……うん。多分、好きなんだと、思う。一緒にいて楽しくて。ずっとそばにいたいと思えて。相手のことをもっと知りたくなって……。これって、好きってことだよね……?」
「……そう……だと思うけど」
それは、好きなのには違いないだろう。ただ、どうなんだろう。恋愛感情なのか、友情の延長線にあるものなのか、それが私には、いまひとつ分からない。定義が曖昧模糊としている以上、断定は出来ない。
だから、私の答えは自然と曖昧なものになってしまっていた。
「女の子を好きになることって……おかしいことかな?」
真っ直ぐに私を見つめ、つかさはそんなことを言った。その瞳には、確固たる意思が感じられた。たとえ、ここで私が質問を拒否したとしても、つかさは自分の意思を貫き通すだろう。だから、私は、弱々しげな答えしか出せなかった。
「いや……そんなことないわよ……」
私は、そんなつかさの顔を見るのに耐え切れず、窓の外へと視線を移しながら答えた。
しかし実際、彼ら、彼女らはただマイノリティな指向を持っているだけで、何人たりともそれを拒否することはできないのだ。できたとしたら、それは差別であって、憲法違反に値する。弁護士志望の私にとっては、許せない話だ。
でも、ただそうだとしても。憲法は国家、公務員を縛るものであって、国民は縛られない。結局のところ、同性を好きになったら、待っている先は不幸だけなんじゃないかと、私は思った。しかし、そんなことをつかさに言えるはずがなかった。
「じゃあ、お姉ちゃんはどうするの?」
「……え?」
予想外の質問に、私は慌ててつかさに視線を移す。相変わらず強い意志を持った青紫色の瞳が、私を見つめていた。
「お姉ちゃんは、自分の想いを、どうするの?」
もはや黙るしかなかった。
私は、みゆきのことを恋愛感情で好きなのだろうか? そんなこと考えたことがない。だから、それすら分からない以上、今答えるべき回答などなかった。
視線に困り、私はみゆきの方を一瞥した。私から見て、右斜め前の席に座り、みゆきはこなたと楽しそうに話していた。それを見て、また私の心が曇りだし、何故だか胸が痛んだ。
そんな進退窮まった中、私の頭にふと浮かんできたのは、あの三島由紀夫だった。前に言ったとおり三島は、一回青春を失っている。だからこそ、あんな事件を起こした。
三島は何故青春を失ってしまったのだろう? 彼は、青春時代に、仮面を被って生きていた可能性がある。だからこそ、三島は大っぴらに青春を謳歌することが出来なかったんじゃないか、それが私の考えだった。
では、三島は何のために仮面を被っていたんだろう? その答えは「仮面の告白」など数々の著作からうかがい知ることが出来る。彼は、大きい秘密を持っていた。だから、仮面を被らざるを得なかった。
すなわち、三島由紀夫は、同性愛者だったのだ。
糟日部は、我が町鷹宮から約20分。もうそろそろ着くだろう。ふっと、右を見てみれば、つかさがつり革につかまりながら、目をつぶり、うとうとと首を揺らして、まどろんでいた。立ちながら寝るとは何とも器用な奴ね……。
おまけに、目の前に座っているおばさんにくすくすと笑われている。全くもう。だらしのない。
「つかさー。起きなさい。もう少しで駅よー」
「うーん、あと五分だけー……」
どうも、つかさは、五分寝たらどれだけ時間をロスしてしまうことになるか考えたことがないらしい。せめて、高校生のうちに、この悪い癖は治してもらわないと……。精神的には成長したつかさも、何故か生活習慣だけはからきしダメで、姉としては、ほとほと心配だ。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく、糟日部、糟日部です。野田線ご利用のお客様はお乗換えです。お忘れ物ございませんようお気をつけ下さい。この電車は、区間急行浅草行きです。糟日部の次は、てんげん台に止まります。途中の二ノ割、竹里には止まりません』
そして、とうとうつかさが起きないうちに、電車はスピードを落とし始めてしまった。やがて、電車は完全に停車し、ドアが開くと同時に、どっと人が降りていく。
さすがに、つかさを置いていくわけにはいかないので、私は、つかさの片腕を掴んで強引に一緒に下車させることにした。
「う、うわぁっ……。お、お姉ちゃーん? な、何が起こっているのー?」
程なくして、つかさがこの上なく驚いた声を出した。まあ、驚くのも無理はないわよね。まどろんでいたところに、腕を掴まれて、あまつさえ歩かされているんだから。でも、この混雑では振り返るのも面倒なので、前を向きながら私は訳を話すことにする。
「あのままじゃ、あんた、寝過ごしちゃいそうだったから、降りさせただけよ。ともかく、早く目を覚ましなさい」
「ん……ふぁ~い……」
……ちっとも信用できないぞ。
そんなことを思いながら、改札を抜け、駅を出る。そこで、ようやく、私はつかさから腕を放した。
いつもと何ら変わりない駅前。天気は快晴。一週間の始まりとしては、幸先がいい、清々しい朝だ。澄み切った空を朝に見ると、何だか晴れがましい気持ちになる。だから、今日の私の心は、空と同じ、快晴だった。
「気持ちのいい朝ねー」
天を仰ぎながら、私は言った。
「あはは、そだね。今日もいいことあるといいねー」
つかさもようやく、寝ぼけ眼から復活したようで、愛嬌笑いをしながら、そんなことを言った。
そんな朝の会話をしながら、バス乗り場に近づいていくと、見知った影がバスを待っていた。やがて、その影は私たちに気付き、
「あら? おはようございます、かがみさん、つかささん」
丁寧にもゆるりとお辞儀をしながら、挨拶をした。
「お、みゆき、おはよー」
「おはよう、ゆきちゃーん」
「朝会うのは珍しいわね。どうしたの?」
手を振ってみゆきに挨拶をするのもそこそこに、私はそんなことを聞いてみた。確か、みゆきはいつもは一本早いバスに乗っているはずだったからだ。
みゆきは、はにかんで、
「お恥ずかしながら、今日は、少し寝坊しまして。いつもより遅い電車になってしまいました。でも、そのおかげでお二人と会えたのですから、不幸中の幸い、かもしれませんね」
そんなことを言った。どことなく落ち着きがあるその話し方とたたずまいは、見るものも落ち着かせる。忙しい朝には、みゆきは丁度良い存在なのかもしれない。
「へえ、ゆきちゃんって今よりもっと早く起きてるんだ。私にはできそうにないなあ」
「つかさだって、もう少し早く起きれるでしょー」
「えへへ、ゴメンね。そのせいで、いつもお姉ちゃんを待たせているよね」
「まあね。あまり早く来すぎてもなんだからさ」
そんな他愛無い姉妹の会話を、みゆきはニコニコとしながら聞いていた。しかし、私の言葉で何かを思い立ったのか、ああ、とみゆきは声を出し、
「そういえば、泉さんはご一緒じゃないんですか?」
と聞いた。
「ん、そういえばいないわね。ま、どうせ、ゲームやりすぎて寝坊した、とかそんなくだらない理由でしょ」
「遅刻されないとよろしいのですが……」
みゆきは不安げな顔をして言った。
でもまあ、たまにぐらい遅刻しないと、あいつはいつまでも生活習慣を改めようとしないでしょ。たまにはいい薬よ。
そんなことをみゆきに言おうかと思った私だったが、どうやら「噂をすれば影がさす」という諺は正しいようだった。
「みんなー! ごめん、ごめーん!」
その声に振り向くと、青髪の女子高生がこちらに向かって走ってくるのが見えた。自然と私の口からは溜息が出る。こんなことを言うのは奴しかいない。
やがて、その女子高生は、私たちの前で止まり、ぜいぜいと肩で息をして、
「いやー、間に合った、間に合ったー」
額の汗を腕でぬぐった。
私は呆れた面持ちで、こなたを注意する。
「間に合ったは間に合ったけど、もう少し余裕を持ちなさいよ」
「そんなこと言ったってねえ、私は寝てないんだ!」
「ネタが古い」
わざと、刺々しく聞こえるような声を私は出したが、こなたはそれを無視し、
「いやー、私ってボキャ貧だからさー」
「……冷めたピザみたいなギャグね」
「んー、ブッチホンを馬鹿にするなー」
……だから、ネタが古いっての。
助けを求めるように、私が困ったような顔をして振り返ると、つかさとみゆきはくすくすと笑っていた。
「みゆきさんは、ブッチホンって覚えてるー?」
「いいえ、記憶にございませんね」
……みゆき。みゆきまで、そんな昭和脳に付き合わなくていいのよ。付け上がるだけなんだから。
「恥ずかしながら帰ってまいりましたー」
つかさはつかさで、変なことをのたまってるし。はあ……。私たちって、本当に18歳よね……?
そんな私の疑問をよそに、時間は過ぎていき、やがてバスが到着した。到着と同時に、生徒が流れ込む。
私たちもそれに続いてバスに入ったけど、四人固まって座れる状況ではなかったので、私はつかさと、こなたはみゆきと隣がけで座ることになった。私たちが着席してから程なくして、バスも出発する。
「ふう。今日もようやく動き出したわね」
後ろへと流れ行く糟日部の景色を眺めながら、私はつかさに話しかけた。
「そだね。そういえば、今日調理実習あるけど、お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、き、聞かないでよ。……全くもう。双子なのに、どうしてこういう技能は似ないのかしらねえ」
「うーん、完全に同じだったら、それは双子じゃなくてクローンだもん。似ているけど、少し違う。それが双子じゃないかな……。それでも、私とお姉ちゃんはとっても似ていると思うけどね」
「そう? こなたには、あまり似てないって言われたけど。顔とか髪以外に何かある?」
「……え。う、うーんと例えばね……」
何故かつかさは、そこで言いよどんだ。視線をあちらこちらに移し、どこかつかさの様子は挙動不審だった。
そんなに言いづらいことなのか……? そんな言いづらい特徴など、身に覚えはないはずなんだが。
「例えば? どうしたのよ?」
埒が明かないので、私の方から言葉を促してやる。
その言葉にようやく決心したのか、つかさは辺りをきょろきょろと見回し、周りをはばかるような様子で、私の耳にそっと口を寄せて、こう囁いた。
「例えば……ゆきちゃんが好きだってこと」
その瞬間、私の身体を電撃が迸ったような、そんな衝撃が走った。正直言えば、このときの私は、まだ少し眠気があった。しかし、その眠気も今や完全に吹き飛んでしまった。私は、驚きの声さえ上げられず、ただつかさの顔を見つめるだけだった。
そして、当のつかさはというと、私の反応がよほど予想外だったらしく、驚きの表情を浮かべて、私の顔を覗き込んだ。
「まさか、とぼけるつもりじゃないよね?」
つかさの質問が、どこか刺々しく聞こえるのは、私の錯覚だろうか。
「いや、とぼけるも何も……」
私は答えようもなく、俯いて言いよどむ。
急に好きだって言われても……そんな自覚はなかった。いや、みゆきを嫌いなつもりなんて微塵もない。好きか嫌いかで問われたら、好きに決まってる。そうだ、私にあの高良みゆきを嫌う理由なんて何もない。
誰にだって優しく、聖人君子、成績優秀の高良みゆきを嫌う理由なんて、どこにもない。いるのは、成績などの劣等感から、一方的に妬む奴くらいだ。というか、いたら、私が許さない。
ただ、ここでつかさが聞いているのは、どう考えても友愛の感情で好きかを問うているのではない。明らかに、恋愛感情で好きかを聞いている。それで好きかと聞かれれば、私は何故か即答できなかった。
私が黙っていると、
「だって、最近、二人とも妙に仲がいいんだもん。一週間前の二人も、何だか恋人みたいだったよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そりゃあ、確かにみゆきのことは好きだけど、別にそんな目で見てるわけじゃ……」
「本当? 本当に断言できる?」
「つ、つかさはどうなのよ。好きなの?」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に私は耐え切れず、私は話題を転換させた。
「……うん。多分、好きなんだと、思う。一緒にいて楽しくて。ずっとそばにいたいと思えて。相手のことをもっと知りたくなって……。これって、好きってことだよね……?」
「……そう……だと思うけど」
それは、好きなのには違いないだろう。ただ、どうなんだろう。恋愛感情なのか、友情の延長線にあるものなのか、それが私には、いまひとつ分からない。定義が曖昧模糊としている以上、断定は出来ない。
だから、私の答えは自然と曖昧なものになってしまっていた。
「女の子を好きになることって……おかしいことかな?」
真っ直ぐに私を見つめ、つかさはそんなことを言った。その瞳には、確固たる意思が感じられた。たとえ、ここで私が質問を拒否したとしても、つかさは自分の意思を貫き通すだろう。だから、私は、弱々しげな答えしか出せなかった。
「いや……そんなことないわよ……」
私は、そんなつかさの顔を見るのに耐え切れず、窓の外へと視線を移しながら答えた。
しかし実際、彼ら、彼女らはただマイノリティな指向を持っているだけで、何人たりともそれを拒否することはできないのだ。できたとしたら、それは差別であって、憲法違反に値する。弁護士志望の私にとっては、許せない話だ。
でも、ただそうだとしても。憲法は国家、公務員を縛るものであって、国民は縛られない。結局のところ、同性を好きになったら、待っている先は不幸だけなんじゃないかと、私は思った。しかし、そんなことをつかさに言えるはずがなかった。
「じゃあ、お姉ちゃんはどうするの?」
「……え?」
予想外の質問に、私は慌ててつかさに視線を移す。相変わらず強い意志を持った青紫色の瞳が、私を見つめていた。
「お姉ちゃんは、自分の想いを、どうするの?」
もはや黙るしかなかった。
私は、みゆきのことを恋愛感情で好きなのだろうか? そんなこと考えたことがない。だから、それすら分からない以上、今答えるべき回答などなかった。
視線に困り、私はみゆきの方を一瞥した。私から見て、右斜め前の席に座り、みゆきはこなたと楽しそうに話していた。それを見て、また私の心が曇りだし、何故だか胸が痛んだ。
そんな進退窮まった中、私の頭にふと浮かんできたのは、あの三島由紀夫だった。前に言ったとおり三島は、一回青春を失っている。だからこそ、あんな事件を起こした。
三島は何故青春を失ってしまったのだろう? 彼は、青春時代に、仮面を被って生きていた可能性がある。だからこそ、三島は大っぴらに青春を謳歌することが出来なかったんじゃないか、それが私の考えだった。
では、三島は何のために仮面を被っていたんだろう? その答えは「仮面の告白」など数々の著作からうかがい知ることが出来る。彼は、大きい秘密を持っていた。だから、仮面を被らざるを得なかった。
すなわち、三島由紀夫は、同性愛者だったのだ。
―――
時は過ぎ、放課後になった。今日は二者面談があったのだが、今はちょうど二者面談を終わったところで、私は生徒指導室の前で窓越しに空を眺めていた。気がつけば、日は、既に空を赤く染め、窓を通して廊下を赤く照らしている。意外にも二者面談が長引いてしまったようだ。
さっさと帰るか、と思ったとき、今日が委員会の日だということを思い出す。確か、桜庭先生が今朝にそう言っていた。ってことは、みゆきはまだいるのか、なんてことを思い、私の足は自然と、学級委員会が行われている三年A組へ向いていた。
歩いていると、自然と今朝のことが思い出された。そして、思い出さなくてもいいのに、つかさの言葉が勝手に頭の中で再生される。
さっさと帰るか、と思ったとき、今日が委員会の日だということを思い出す。確か、桜庭先生が今朝にそう言っていた。ってことは、みゆきはまだいるのか、なんてことを思い、私の足は自然と、学級委員会が行われている三年A組へ向いていた。
歩いていると、自然と今朝のことが思い出された。そして、思い出さなくてもいいのに、つかさの言葉が勝手に頭の中で再生される。
『例えば……ゆきちゃんが好きだってこと』
『多分……好きなんだと思う』
『お姉ちゃんは、自分の思いをどうするの?』
『多分……好きなんだと思う』
『お姉ちゃんは、自分の思いをどうするの?』
私はもう一度、これらの言葉を反芻した。どうも、つかさは本気らしい。いや、それだけならまだいい。問題は、つかさの質問の矛先が私に向けられたことだ。私は、つかさの質問に何一つ明確に答えられず、曖昧模糊な回答に終始してしまった。
実際、どうにも答えられないというのは正直な気持ちだ。だって、他に何を言えばよかったというの? あのときの私、いや今の私だって、明確な答えを私は持ち合わせていない。
気がつけば、私は3年A組前に着いていた。案の定、A組ではまだ委員会が行われていて、今は担当の先生が総括しているようだった。私はそこで首を振って、考えるのをやめた。いつまでも後ろ向きに考えても仕方ない。それに、考えることはいつでも出来るんだしね。
「ま、というわけで、勉学に良く励んでくださいー。では、陵桜学園高等部第三学年学級委員会を閉会しますー。学年委員長、号令ー」
「起立、礼」
「ありがとうございました」
号令の途端に、わらわらと教室内が騒がしくなる。そして、程なくしてぞろぞろと生徒が教室から出てきた。
その中に、みゆきもいた。隣には、B組の副委員長を従えて、何か二言三言言葉を交わしていたようだった。多分、委員会について話しているんだろう。やがて、会話も終わり、副委員長が帰宅の途につくと、みゆきはこちらに気付いた。
「あ、かがみさん。もしかして、待っておられましたか」
「うん、二者面談で遅くなったから、一緒に帰ろうと思ってね」
「ええ、是非。……ですが、まだ次のスクールバスには早い時間ですね」
その言葉に、私は腕時計を見てみる。確かに、次のスクールバスまでには四十分ほど、余裕があった。
「どうでしょう、屋上で風でも浴びませんか?」
「ああ、いいわね。何だか気持ちよさそうだし」
「ふふ、では参りましょうか」
そのまま、私たちは他愛無い会話をしながら屋上へと向かった。二人分の足音と声が、廊下に響いては消えていく。放課後の学校は、人が少ない。おかげで、廊下を貸しきってしまったような感覚に襲われ、他人を気にすることなく、私たちは会話を楽しんでいた。
幸いにも、まだ屋上への立入規制はかかっておらず、私たちは容易に屋上へ上がれた。ひとたび、空の下へ出ると、私たちを夕日影が迎えた。子供の頃、夕日が出るまで遊びに明け暮れた当時の光景がまざまざと目に浮かぶ。これをノスタルジーというのだろうか。
そうでなくとも、沈みつつある夕陽に赤く染め上げられた糟日部の景色はまさに絶景だった。一日のうち、町が赤く染め上げられるのは、ほんのわずかな時間でしかなく、すぐに闇が街を覆ってしまう。それだけに、夕日の景色というのは、儚く、とても切ない。
しかし、だからこそ、私たちはその一瞬の景色に見とれてしまうのだろう。一生のうちで何回見れるか分からない最も美しい景色。それに魅せられてしまう人間こそ、人間という存在は何とも儚く切ないのだろうと思う。しかし、目の前に掲げられた夕焼けの街は、やはりどう考えても美しく、私たちを魅了させてしまう。
「……綺麗ですね」
その美しさに引き込まれて、放心状態にあった私たちの沈黙を破ったのは、みゆきの言葉だった。確かに、綺麗、としか言いようがない。
「そうね……。何だか、映画のワンシーンみたいだけど、これも、ただの日常の景色の一つに過ぎないのよね」
「事実は小説より奇なり、という言葉があります。ちょっと意識してみれば、ただのありふれた光景も、結構新鮮に見えるものですよ。私たちは、日常の中にこそ非日常を見いだす存在ですからね」
「なるほどね。ただのありふれた光景……か。それでも、そのありふれた光景は一日一日、少しずつ変わっていったわよね。でも、私はその変化に暫く気付けないことばっかりだったわ……」
脳裏を、こなた、つかさ、そしてみゆきの顔が掠める。日々の日常の中から、三人とも大きく精神的に成長していることを、私は感じ取っていた。しかし、その成長する過程を私は見ていなかったのだ。
「……You were not afraid when spring became summer, or when summer became fall. Changes are natural.」
「え?」
ふと呟いたみゆきの英文に、私は対応できず、間抜けな声を漏らしてしまう。
みゆきは、私のその様子に苦笑いして、
「あなたは春が夏になり、夏が秋になったとき、怖がらなかった。変化というものは自然なものなのです……という意味です。アメリカの教育学者、レオ・ブスカーリアの「葉っぱのフレディ」という本にあった文です」
「……いい言葉ね」
「ええ、私も好きです。ドストエフスキーは、人間を「全てに慣れ得るもの」と定義しました。それを証明したのが、このブスカーリアの言葉かもしれません。もっとも、この言葉は葉っぱに対しての言葉なんですけどね」
その言葉に、もう一度、つかさの顔が思い浮かばれる。明らかに、つかさの心は変化している。そして、私も。何だか分からないけど、一週間前を境に何かが変わってしまった。しかし、その変化も自然と慣れてしまうものなのかもしれない……。
何だか怖い。変化というものは、結局慣れえてしまう。どんなに生まれた綻びも、時が経てばそれに順応してしまうわけだ。もしかしたら、綻びに気付かず、その綻びを正常と受け取ってしまうことがあるかもしれない。それは、とても恐ろしいことだ。それとも、知らないことは幸せ、なのだろうか。
「何か、お悩みですか?」
「……えっ?」
その言葉に、私は、目の前にいるみゆきの顔に、こなたの顔が重なって見えた。昨日そば屋前でも同じことをこなたに聞かれたからだ。あのときのこなたも、今のみゆきも、二人とも顔を曇らせていた。
「その……顔が曇っているように見えましたので。……何だか、一週間前と何だか同じような顔をしていました」
その言葉に、私の頭を一週間前の記憶が駆け巡った。ライトノベルで盛り上がった会話。膝枕をさせてもらって、下から見上げたみゆきの顔。ポカポカと屋上を照らしていた太陽と青空。それら全てが、脳裏を掠めていった。
考えてみれば、あれからたったの一週間しか経っていない。それなのに、私には遠い昔のように思えた。……まあ、色々あったってわけよね。
「……少し、疲れてるのかもしれないわね」
それは、あながち嘘でもない。疲れているのは本当のことだ。
「それは、確かにそうも見えます。ですが、本当に原因は疲労だけですか?」
私は、うつむき、そして黙ってしまった。本当のことを言っていいものか。いや、言えるわけがない。何せ、目の前にいるのは“当事者”なんだから。
「かがみさん?」
黙る私を心配したのか、ひょいっと、みゆきに顔を覗き込まれた。
目の前にみゆきの顔がある。その瞳は、二年前、初めて会ったときと同じで、とても綺麗で、そしてらんらんと輝いていた。それは、どんな闇にとらわれても決して、輝きをやめることがない、そんな輝きに見えた。
そして、いつしか、みゆきの顔に見とれていることに気付き、慌てて私はみゆきから目をそらした。それでも、みゆきの輝いた瞳は、脳裏に焼き付き、忘れてはくれなかった。
結局、私は意を決し、少しぼかして話すことにした。
正確に言えば、みゆきの瞳の輝き、その裏に隠された意志の強さに負けたのだ。思えば、今までみゆきに愚痴を漏らしてきたのも、無意識にこの瞳に魅せられてきたからかもしれない。そして、もう一つの理由として、あの瞳は、今朝のつかさと相通じるものがあったようにも思えたのもある。
私は話した。私はある人に、何やら言葉で言い表せない感情を抱いていると。しかし、それが恋慕か、単なる憧れか、さっぱり分からないと。……ただ、つかさのことは言わなかった。こればかりは、とても言える気にならなかった。いや、言うことが私の中で許せなかった。
私が話し出すと、みゆきは最初、驚いたような目をした。でも、すぐ顔を引き締め、また一週間前と同じように、黙って目を瞑りながら私の話を聞いていた。やがて話し終わると、みゆきは慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと話し出した。
「……そのようなことは、いずれ、あるかもしれない、と思っていました。ただ、そういう人が現れるのは、何となくつかささんが最初のような気がしておりまして。かがみさんが最初とは、少し意外でした」
「まだ決まったわけじゃないわ。それを見極める為に、みゆきにも話したんだから」
「そうでしたね、すみません。でも、何はともあれ、その人を……好意的に見ていることは確かなのでしょう?」
その質問に即答は出来なかった。でも、確かに「好き」なことは間違いない。それは、偽りのない私の本心だ。
「確かに……その通りよ。でも、仮にその人に恋愛感情を抱いているとしても、本当にその人のことを好きになっていいものか、とも思っているのよ。恋は……罪悪だって言うしね」
「恋は罪悪……? ああ、夏目漱石ですか」
こなたやつかさならクエスチョンマークを浮かべるような示唆にも、ちゃんとみゆきは答えられる事に私は感心した。……まあ、教科書に出ている小説なんだから、クエスチョンマークを浮かべられては、かなり困ることなんだけど。
ともかく、夏目漱石が発表した作品の中に「こころ」というものがある。これには、「先生」という登場人物が登場し、彼は作中で「恋は罪悪」というセリフを残す。彼は、親友が思いを寄せる相手を知っておきながら、その相手と結婚してしまう。
結果、親友は自殺し、「先生」も罪悪感にさいなまれてしまい、「先生」も自殺してしまうという、少し後味の悪いものだ。これは乃木希典将軍の殉死に影響されて書いたといわれる。
「恋は罪悪、なんて言わないでください。人が人を好きになって何が悪いんです? どうして逃げようとするんですか? それは……お相手の方にも失礼というものですよ」
そう話すみゆきの顔は、口元こそ笑みをたたえていたが、目だけは真剣で、心の中まで射込まれるような視線だった。しかし、その“お相手”が目の前にいるなんて、言えるわけもなく。私はまた黙ってしまった。
すると、みゆきはすっと目じりを下げて、
「まだ、お気持ちも整理がつかないでしょう。ですが、決して逃げないで下さい。そして一人でふさぎこまないで下さい。困ったときは、私が、ついてますから。こんな私でもお役に立てられるなら、立ちたいと、思いますから」
「……ありがとう」
そんなみゆきの気持ちをとてもありがたいと思ってから、急に申し訳ない気持ちで一杯になった。思えば、一週間前もこうしてみゆきに甘えてしまって、今も甘えてしまっている。そして、更にこれからも甘えていいという。
ややもすれば、私たちはみゆきに頼りがちだ。それなのに、何も考えずに、その恩恵だけを享受して、全然みゆきに何もしてあげていない。本当に、みゆきは聖人君子なのだ。
「……みゆきは、どうして……どうして、そんなに人のために頑張れるの?」
それはふとした私の疑問だった。
「え?」
「だって、いつも私たちが、みゆきに迷惑ばかりかけて。それなのに、私たちは何もしてあげられていないじゃない」
「いいんですよ」
「だって、そんな……」
反論しようとすると、みゆきは口に指を立てて、しーっ、と言った。仕方なく、反論をやめる。
そしてみゆきは悪戯っぽく微笑むと、
「私は皆さんのお役に立てればそれでいいのです。かがみさんやつかささん、それに泉さんは、私のような人と友人になってくださいました。これは、それに対する罪滅ぼしをしているだけなのです」
「罪滅ぼしって……何を……」
物騒な言葉に私は、途端に反論を加える。しかし、みゆきはまたも私の言葉を遮った。
「ちょっと、今から独り言を言いますね。あくまでも独り言だから、聞き流して結構です」
そういわれると、聞きたくなる。でも、わざわざ言うことだから、あまり楽しそうな話じゃなさそうだ。
みゆきは、フェンスのそばまで近づき、夕日を見つめながら話し始める。
「私は昔から、何かと他の方々に頼られる質(たち)でした。同級生の皆さんに、頼られ、慕われる、そんな存在でした。しかし、それはあくまで委員長としてであって、友人としてみてくれる人はほとんどいませんでした。
それでも、クラスの委員長、という事実だけが私にとっての人との接点でした。私が「委員長」という記号である限り、私は他の方々とのつながりが出来ます。そうでしか、私は友人というものを作れなかったのです。ただ、本当の友人と思える人は出来ませんでした。しかし、」
そこでみゆきは言葉を切る。私は黙って、その横顔を眺めながら、話を聞いていた。今思えば、このとき私は、みゆきを睨みつけていたのかもしれない。
みゆきの顔は、どこか寂しそうだった。視線もどこかぼんやりとしていて、焦点が定まっていない。西日に照らされたみゆきは、全身が紗をかけたように烟り、実体か幻影かを曖昧にしていた。勿論、私の錯覚であるだろうけど。
正直言ってしまえば、親友のこんな顔は見たくないし、こんな話だって聞いてられなかった。でも、逃げ出すわけにはいかなかった。みゆきが私たちにいつも何かしてくれたのと同じように、今は私が何かしてあげるべきなのだ。
やがて、みゆきは、再びゆっくりと話し出す。
「かがみさんは、私と本当の友人のように接してくださいました。それは、泉さんとつかささんにしても同じことが言えます。かがみさんたちと会えて、私は本当に救われたのです。毎日が本当に楽しく送れるようになったのです。
ですから……私は、量りきれない罪を被ったのです。泉さん、かがみさん、つかささん、お三方には無理を強いてしまいました。皆さん、本当にいい方ですのに、私なんかのダメ人間に……無理に付き合わせてしまいました」
それは、みゆきが今まで隠してきた真情だった。みゆきは今まで、人知れず、ずっと耐えながら苦しんできたのだ。それでも、たとえその事実があったことを差し引いたとしても――その言葉は聞き捨てならなく、私の頭の中では何かが切れた。
「違う!」
私の大声とともに、パシン、という乾いた音が屋上に響いた。気付けば、私はみゆきの頬を平手でひっぱたいていた。自分でもこんなことが出来たのかと、正直言って驚いてしまう。
みゆきは、叩かれた頬を押さえて、目をパチパチさせていた。信じられないというような目だ。そして、あの意志の強さは瞳から消えていた。
私は臆することなく、言葉をたたきつける。そうでもしないと、心の収まりがつかなかったのだ。
「違うわ、みゆき。私もつかさもこなたも、みんな、みゆきを本当の友達、親友だと思っている。それを……どうして、わかってあげられないの?」
「っ……」
みゆきの顔が少し引き攣る。でも、構ってられるか。このままじゃ、みゆきは自分をいつまでも卑下したままだ。
みゆきを救う為には、少し厳しいことも言ってあげないといけない。いつまでも、親友に迎合したままでは、親友の為にならない。正しい道に進む為には、厳しいことも言ってあげないといけない。それが、親友たる私の務めだ。
「みんな、みゆきのことを親友だと思っているの。みゆきに頼りたいこともあるし、頼られたいこともあるの。少なくとも、私はみゆきを含めて、みんなを信頼しているわ。でも、みゆきは私たちの事を信頼していないの?」
「それは……」
「それなのに、それなのに、私たちは無理を強いられている? 冗談じゃないわよ! 私は、今まで一度たりとも無理を強いて、みゆきと付き合ってきたんじゃない! ただ、心のそこからみゆきを尊敬して、そしていつまでも友達でいたい、そう思っているだけなのに!」
「……」
「今だって、一人でうじうじと悩んでいて……。私たちって、そんなに信頼できないわけ!? もっと……私たちを頼りなさいよっ……!」
私は、そこまで言って、みゆきを抱きしめた。無我夢中だった。ちっぽけな自分に出来ること、それを探したとき、私に思いついたのはこれしかなかった。
みゆきの身体は柔らかく、そして温かかった。制服越しに伝わる体温が、みゆきはここにいるということを実感させ、私は心底安心する。
「あ……あはは……」
腕の中で、みゆきは乾いた笑いを出した。
「……みゆき?」
「すみません……御迷惑をおかけして……これこそ、私の罪だったんですね……。一人で勝手に考え込んで、親友を頼らないなんて……最低です。本当の私の罪は……親友に頼りきれなかったこと……」
「……いいのよ。分かれば、ね」
その瞬間、急に罪悪感が私を襲った。
本当のことを言えば、最低なのは私のほうだ。親友の痛みにもまったく気付けず、何が親友なのか。苦しんでいるのを分かっているのにひっぱたくなんて、何が親友なのか。そう考えれば、さっきまで私がみゆきに説いていた言葉も、何たる偽善か。
本当は、私は、私なんかの方が……みゆきの親友を名乗る資格がない。それなのに、みゆきは許してくれた。その優しさが、私にとっては、甘くほろ苦かった。いっそのこと、罵倒し返されたほうが、私にとっては救われたかもしれない。
それなのに、みゆきは、本当に優しかった。
「ふふっ……。相変わらず、ツンデレ、ですね。でも、でも……そんな友達想いで、とっても優しいかがみさんが、私は大好きですよ」
顔を上げて、みゆきはそういい、笑みを作った。その瞳には、またあの輝きが戻っていた。
その言葉は、本当に本心からだったんだろう。だけど、私の心にはその言葉が深く突き刺さった。みゆきに、大好きだといわれて、とても心が痛かった。親友である資格さえないのに、自分のことを棚に上げて、みゆきをしかっている自分。その光景は、想像しただけで、ひどく滑稽なものだった。
私は、バスで問われたつかさの問いへの答えを持ち合わせていなかった。そして今も、みゆきの謝辞に対する答えを持ち合わせていない。
親友の苦しみに気付けなかったばかりか、その親友をひっぱたき、あまつさえその親友の想いにもさっぱり応えられない。今の私は、世界一の最低な奴だった。
気付けば、私の頬を涙が伝っていた。そうだ、私は泣いていた。こちらは、励ましている側だというのに、それなのに、私は泣いていた。みゆきは、ひどくやつれた表情をしながらも笑っているのに。私は、笑えなかった。
みゆきは、強かった。心の弱さを克服し、その壁を上れる強さがあった。でも、私にはそれがなかった。だから、今、笑うことが出来ず、そればかりか、涙まで流している。私は、みゆきよりずっとずっと弱かった。その証拠に、決して離すまいとがっしりと抱きしめているのは、みゆきじゃなくて私のほうだった。
どこか遠いところに行ってしまうような、そんなことを言うみゆきが、私は怖かった。だから、私はみゆきを放したくなかった。つまり、今、私がやっている事だって……私の、柊かがみの、わがまま。
自分だけじゃなく、親友であるみゆきまで騙している自分。そんな、弱い、とても弱い自分。そんな自分が嫌になった。
そんなときにあるというのに、今、私は自分の気持ちがはっきりと分かってしまった。私は、私は……みゆきを、放したくない。しかし、放さなければ放さないほど、私の心は痛んでいくのだ。
またあの三島由紀夫の言葉が思い出される。そう、無知はいいことだ。自分の気持ちなど、知ることなかった。苦しむくらいなら、こんな恋など、抱くべきじゃなかった……。
実際、どうにも答えられないというのは正直な気持ちだ。だって、他に何を言えばよかったというの? あのときの私、いや今の私だって、明確な答えを私は持ち合わせていない。
気がつけば、私は3年A組前に着いていた。案の定、A組ではまだ委員会が行われていて、今は担当の先生が総括しているようだった。私はそこで首を振って、考えるのをやめた。いつまでも後ろ向きに考えても仕方ない。それに、考えることはいつでも出来るんだしね。
「ま、というわけで、勉学に良く励んでくださいー。では、陵桜学園高等部第三学年学級委員会を閉会しますー。学年委員長、号令ー」
「起立、礼」
「ありがとうございました」
号令の途端に、わらわらと教室内が騒がしくなる。そして、程なくしてぞろぞろと生徒が教室から出てきた。
その中に、みゆきもいた。隣には、B組の副委員長を従えて、何か二言三言言葉を交わしていたようだった。多分、委員会について話しているんだろう。やがて、会話も終わり、副委員長が帰宅の途につくと、みゆきはこちらに気付いた。
「あ、かがみさん。もしかして、待っておられましたか」
「うん、二者面談で遅くなったから、一緒に帰ろうと思ってね」
「ええ、是非。……ですが、まだ次のスクールバスには早い時間ですね」
その言葉に、私は腕時計を見てみる。確かに、次のスクールバスまでには四十分ほど、余裕があった。
「どうでしょう、屋上で風でも浴びませんか?」
「ああ、いいわね。何だか気持ちよさそうだし」
「ふふ、では参りましょうか」
そのまま、私たちは他愛無い会話をしながら屋上へと向かった。二人分の足音と声が、廊下に響いては消えていく。放課後の学校は、人が少ない。おかげで、廊下を貸しきってしまったような感覚に襲われ、他人を気にすることなく、私たちは会話を楽しんでいた。
幸いにも、まだ屋上への立入規制はかかっておらず、私たちは容易に屋上へ上がれた。ひとたび、空の下へ出ると、私たちを夕日影が迎えた。子供の頃、夕日が出るまで遊びに明け暮れた当時の光景がまざまざと目に浮かぶ。これをノスタルジーというのだろうか。
そうでなくとも、沈みつつある夕陽に赤く染め上げられた糟日部の景色はまさに絶景だった。一日のうち、町が赤く染め上げられるのは、ほんのわずかな時間でしかなく、すぐに闇が街を覆ってしまう。それだけに、夕日の景色というのは、儚く、とても切ない。
しかし、だからこそ、私たちはその一瞬の景色に見とれてしまうのだろう。一生のうちで何回見れるか分からない最も美しい景色。それに魅せられてしまう人間こそ、人間という存在は何とも儚く切ないのだろうと思う。しかし、目の前に掲げられた夕焼けの街は、やはりどう考えても美しく、私たちを魅了させてしまう。
「……綺麗ですね」
その美しさに引き込まれて、放心状態にあった私たちの沈黙を破ったのは、みゆきの言葉だった。確かに、綺麗、としか言いようがない。
「そうね……。何だか、映画のワンシーンみたいだけど、これも、ただの日常の景色の一つに過ぎないのよね」
「事実は小説より奇なり、という言葉があります。ちょっと意識してみれば、ただのありふれた光景も、結構新鮮に見えるものですよ。私たちは、日常の中にこそ非日常を見いだす存在ですからね」
「なるほどね。ただのありふれた光景……か。それでも、そのありふれた光景は一日一日、少しずつ変わっていったわよね。でも、私はその変化に暫く気付けないことばっかりだったわ……」
脳裏を、こなた、つかさ、そしてみゆきの顔が掠める。日々の日常の中から、三人とも大きく精神的に成長していることを、私は感じ取っていた。しかし、その成長する過程を私は見ていなかったのだ。
「……You were not afraid when spring became summer, or when summer became fall. Changes are natural.」
「え?」
ふと呟いたみゆきの英文に、私は対応できず、間抜けな声を漏らしてしまう。
みゆきは、私のその様子に苦笑いして、
「あなたは春が夏になり、夏が秋になったとき、怖がらなかった。変化というものは自然なものなのです……という意味です。アメリカの教育学者、レオ・ブスカーリアの「葉っぱのフレディ」という本にあった文です」
「……いい言葉ね」
「ええ、私も好きです。ドストエフスキーは、人間を「全てに慣れ得るもの」と定義しました。それを証明したのが、このブスカーリアの言葉かもしれません。もっとも、この言葉は葉っぱに対しての言葉なんですけどね」
その言葉に、もう一度、つかさの顔が思い浮かばれる。明らかに、つかさの心は変化している。そして、私も。何だか分からないけど、一週間前を境に何かが変わってしまった。しかし、その変化も自然と慣れてしまうものなのかもしれない……。
何だか怖い。変化というものは、結局慣れえてしまう。どんなに生まれた綻びも、時が経てばそれに順応してしまうわけだ。もしかしたら、綻びに気付かず、その綻びを正常と受け取ってしまうことがあるかもしれない。それは、とても恐ろしいことだ。それとも、知らないことは幸せ、なのだろうか。
「何か、お悩みですか?」
「……えっ?」
その言葉に、私は、目の前にいるみゆきの顔に、こなたの顔が重なって見えた。昨日そば屋前でも同じことをこなたに聞かれたからだ。あのときのこなたも、今のみゆきも、二人とも顔を曇らせていた。
「その……顔が曇っているように見えましたので。……何だか、一週間前と何だか同じような顔をしていました」
その言葉に、私の頭を一週間前の記憶が駆け巡った。ライトノベルで盛り上がった会話。膝枕をさせてもらって、下から見上げたみゆきの顔。ポカポカと屋上を照らしていた太陽と青空。それら全てが、脳裏を掠めていった。
考えてみれば、あれからたったの一週間しか経っていない。それなのに、私には遠い昔のように思えた。……まあ、色々あったってわけよね。
「……少し、疲れてるのかもしれないわね」
それは、あながち嘘でもない。疲れているのは本当のことだ。
「それは、確かにそうも見えます。ですが、本当に原因は疲労だけですか?」
私は、うつむき、そして黙ってしまった。本当のことを言っていいものか。いや、言えるわけがない。何せ、目の前にいるのは“当事者”なんだから。
「かがみさん?」
黙る私を心配したのか、ひょいっと、みゆきに顔を覗き込まれた。
目の前にみゆきの顔がある。その瞳は、二年前、初めて会ったときと同じで、とても綺麗で、そしてらんらんと輝いていた。それは、どんな闇にとらわれても決して、輝きをやめることがない、そんな輝きに見えた。
そして、いつしか、みゆきの顔に見とれていることに気付き、慌てて私はみゆきから目をそらした。それでも、みゆきの輝いた瞳は、脳裏に焼き付き、忘れてはくれなかった。
結局、私は意を決し、少しぼかして話すことにした。
正確に言えば、みゆきの瞳の輝き、その裏に隠された意志の強さに負けたのだ。思えば、今までみゆきに愚痴を漏らしてきたのも、無意識にこの瞳に魅せられてきたからかもしれない。そして、もう一つの理由として、あの瞳は、今朝のつかさと相通じるものがあったようにも思えたのもある。
私は話した。私はある人に、何やら言葉で言い表せない感情を抱いていると。しかし、それが恋慕か、単なる憧れか、さっぱり分からないと。……ただ、つかさのことは言わなかった。こればかりは、とても言える気にならなかった。いや、言うことが私の中で許せなかった。
私が話し出すと、みゆきは最初、驚いたような目をした。でも、すぐ顔を引き締め、また一週間前と同じように、黙って目を瞑りながら私の話を聞いていた。やがて話し終わると、みゆきは慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと話し出した。
「……そのようなことは、いずれ、あるかもしれない、と思っていました。ただ、そういう人が現れるのは、何となくつかささんが最初のような気がしておりまして。かがみさんが最初とは、少し意外でした」
「まだ決まったわけじゃないわ。それを見極める為に、みゆきにも話したんだから」
「そうでしたね、すみません。でも、何はともあれ、その人を……好意的に見ていることは確かなのでしょう?」
その質問に即答は出来なかった。でも、確かに「好き」なことは間違いない。それは、偽りのない私の本心だ。
「確かに……その通りよ。でも、仮にその人に恋愛感情を抱いているとしても、本当にその人のことを好きになっていいものか、とも思っているのよ。恋は……罪悪だって言うしね」
「恋は罪悪……? ああ、夏目漱石ですか」
こなたやつかさならクエスチョンマークを浮かべるような示唆にも、ちゃんとみゆきは答えられる事に私は感心した。……まあ、教科書に出ている小説なんだから、クエスチョンマークを浮かべられては、かなり困ることなんだけど。
ともかく、夏目漱石が発表した作品の中に「こころ」というものがある。これには、「先生」という登場人物が登場し、彼は作中で「恋は罪悪」というセリフを残す。彼は、親友が思いを寄せる相手を知っておきながら、その相手と結婚してしまう。
結果、親友は自殺し、「先生」も罪悪感にさいなまれてしまい、「先生」も自殺してしまうという、少し後味の悪いものだ。これは乃木希典将軍の殉死に影響されて書いたといわれる。
「恋は罪悪、なんて言わないでください。人が人を好きになって何が悪いんです? どうして逃げようとするんですか? それは……お相手の方にも失礼というものですよ」
そう話すみゆきの顔は、口元こそ笑みをたたえていたが、目だけは真剣で、心の中まで射込まれるような視線だった。しかし、その“お相手”が目の前にいるなんて、言えるわけもなく。私はまた黙ってしまった。
すると、みゆきはすっと目じりを下げて、
「まだ、お気持ちも整理がつかないでしょう。ですが、決して逃げないで下さい。そして一人でふさぎこまないで下さい。困ったときは、私が、ついてますから。こんな私でもお役に立てられるなら、立ちたいと、思いますから」
「……ありがとう」
そんなみゆきの気持ちをとてもありがたいと思ってから、急に申し訳ない気持ちで一杯になった。思えば、一週間前もこうしてみゆきに甘えてしまって、今も甘えてしまっている。そして、更にこれからも甘えていいという。
ややもすれば、私たちはみゆきに頼りがちだ。それなのに、何も考えずに、その恩恵だけを享受して、全然みゆきに何もしてあげていない。本当に、みゆきは聖人君子なのだ。
「……みゆきは、どうして……どうして、そんなに人のために頑張れるの?」
それはふとした私の疑問だった。
「え?」
「だって、いつも私たちが、みゆきに迷惑ばかりかけて。それなのに、私たちは何もしてあげられていないじゃない」
「いいんですよ」
「だって、そんな……」
反論しようとすると、みゆきは口に指を立てて、しーっ、と言った。仕方なく、反論をやめる。
そしてみゆきは悪戯っぽく微笑むと、
「私は皆さんのお役に立てればそれでいいのです。かがみさんやつかささん、それに泉さんは、私のような人と友人になってくださいました。これは、それに対する罪滅ぼしをしているだけなのです」
「罪滅ぼしって……何を……」
物騒な言葉に私は、途端に反論を加える。しかし、みゆきはまたも私の言葉を遮った。
「ちょっと、今から独り言を言いますね。あくまでも独り言だから、聞き流して結構です」
そういわれると、聞きたくなる。でも、わざわざ言うことだから、あまり楽しそうな話じゃなさそうだ。
みゆきは、フェンスのそばまで近づき、夕日を見つめながら話し始める。
「私は昔から、何かと他の方々に頼られる質(たち)でした。同級生の皆さんに、頼られ、慕われる、そんな存在でした。しかし、それはあくまで委員長としてであって、友人としてみてくれる人はほとんどいませんでした。
それでも、クラスの委員長、という事実だけが私にとっての人との接点でした。私が「委員長」という記号である限り、私は他の方々とのつながりが出来ます。そうでしか、私は友人というものを作れなかったのです。ただ、本当の友人と思える人は出来ませんでした。しかし、」
そこでみゆきは言葉を切る。私は黙って、その横顔を眺めながら、話を聞いていた。今思えば、このとき私は、みゆきを睨みつけていたのかもしれない。
みゆきの顔は、どこか寂しそうだった。視線もどこかぼんやりとしていて、焦点が定まっていない。西日に照らされたみゆきは、全身が紗をかけたように烟り、実体か幻影かを曖昧にしていた。勿論、私の錯覚であるだろうけど。
正直言ってしまえば、親友のこんな顔は見たくないし、こんな話だって聞いてられなかった。でも、逃げ出すわけにはいかなかった。みゆきが私たちにいつも何かしてくれたのと同じように、今は私が何かしてあげるべきなのだ。
やがて、みゆきは、再びゆっくりと話し出す。
「かがみさんは、私と本当の友人のように接してくださいました。それは、泉さんとつかささんにしても同じことが言えます。かがみさんたちと会えて、私は本当に救われたのです。毎日が本当に楽しく送れるようになったのです。
ですから……私は、量りきれない罪を被ったのです。泉さん、かがみさん、つかささん、お三方には無理を強いてしまいました。皆さん、本当にいい方ですのに、私なんかのダメ人間に……無理に付き合わせてしまいました」
それは、みゆきが今まで隠してきた真情だった。みゆきは今まで、人知れず、ずっと耐えながら苦しんできたのだ。それでも、たとえその事実があったことを差し引いたとしても――その言葉は聞き捨てならなく、私の頭の中では何かが切れた。
「違う!」
私の大声とともに、パシン、という乾いた音が屋上に響いた。気付けば、私はみゆきの頬を平手でひっぱたいていた。自分でもこんなことが出来たのかと、正直言って驚いてしまう。
みゆきは、叩かれた頬を押さえて、目をパチパチさせていた。信じられないというような目だ。そして、あの意志の強さは瞳から消えていた。
私は臆することなく、言葉をたたきつける。そうでもしないと、心の収まりがつかなかったのだ。
「違うわ、みゆき。私もつかさもこなたも、みんな、みゆきを本当の友達、親友だと思っている。それを……どうして、わかってあげられないの?」
「っ……」
みゆきの顔が少し引き攣る。でも、構ってられるか。このままじゃ、みゆきは自分をいつまでも卑下したままだ。
みゆきを救う為には、少し厳しいことも言ってあげないといけない。いつまでも、親友に迎合したままでは、親友の為にならない。正しい道に進む為には、厳しいことも言ってあげないといけない。それが、親友たる私の務めだ。
「みんな、みゆきのことを親友だと思っているの。みゆきに頼りたいこともあるし、頼られたいこともあるの。少なくとも、私はみゆきを含めて、みんなを信頼しているわ。でも、みゆきは私たちの事を信頼していないの?」
「それは……」
「それなのに、それなのに、私たちは無理を強いられている? 冗談じゃないわよ! 私は、今まで一度たりとも無理を強いて、みゆきと付き合ってきたんじゃない! ただ、心のそこからみゆきを尊敬して、そしていつまでも友達でいたい、そう思っているだけなのに!」
「……」
「今だって、一人でうじうじと悩んでいて……。私たちって、そんなに信頼できないわけ!? もっと……私たちを頼りなさいよっ……!」
私は、そこまで言って、みゆきを抱きしめた。無我夢中だった。ちっぽけな自分に出来ること、それを探したとき、私に思いついたのはこれしかなかった。
みゆきの身体は柔らかく、そして温かかった。制服越しに伝わる体温が、みゆきはここにいるということを実感させ、私は心底安心する。
「あ……あはは……」
腕の中で、みゆきは乾いた笑いを出した。
「……みゆき?」
「すみません……御迷惑をおかけして……これこそ、私の罪だったんですね……。一人で勝手に考え込んで、親友を頼らないなんて……最低です。本当の私の罪は……親友に頼りきれなかったこと……」
「……いいのよ。分かれば、ね」
その瞬間、急に罪悪感が私を襲った。
本当のことを言えば、最低なのは私のほうだ。親友の痛みにもまったく気付けず、何が親友なのか。苦しんでいるのを分かっているのにひっぱたくなんて、何が親友なのか。そう考えれば、さっきまで私がみゆきに説いていた言葉も、何たる偽善か。
本当は、私は、私なんかの方が……みゆきの親友を名乗る資格がない。それなのに、みゆきは許してくれた。その優しさが、私にとっては、甘くほろ苦かった。いっそのこと、罵倒し返されたほうが、私にとっては救われたかもしれない。
それなのに、みゆきは、本当に優しかった。
「ふふっ……。相変わらず、ツンデレ、ですね。でも、でも……そんな友達想いで、とっても優しいかがみさんが、私は大好きですよ」
顔を上げて、みゆきはそういい、笑みを作った。その瞳には、またあの輝きが戻っていた。
その言葉は、本当に本心からだったんだろう。だけど、私の心にはその言葉が深く突き刺さった。みゆきに、大好きだといわれて、とても心が痛かった。親友である資格さえないのに、自分のことを棚に上げて、みゆきをしかっている自分。その光景は、想像しただけで、ひどく滑稽なものだった。
私は、バスで問われたつかさの問いへの答えを持ち合わせていなかった。そして今も、みゆきの謝辞に対する答えを持ち合わせていない。
親友の苦しみに気付けなかったばかりか、その親友をひっぱたき、あまつさえその親友の想いにもさっぱり応えられない。今の私は、世界一の最低な奴だった。
気付けば、私の頬を涙が伝っていた。そうだ、私は泣いていた。こちらは、励ましている側だというのに、それなのに、私は泣いていた。みゆきは、ひどくやつれた表情をしながらも笑っているのに。私は、笑えなかった。
みゆきは、強かった。心の弱さを克服し、その壁を上れる強さがあった。でも、私にはそれがなかった。だから、今、笑うことが出来ず、そればかりか、涙まで流している。私は、みゆきよりずっとずっと弱かった。その証拠に、決して離すまいとがっしりと抱きしめているのは、みゆきじゃなくて私のほうだった。
どこか遠いところに行ってしまうような、そんなことを言うみゆきが、私は怖かった。だから、私はみゆきを放したくなかった。つまり、今、私がやっている事だって……私の、柊かがみの、わがまま。
自分だけじゃなく、親友であるみゆきまで騙している自分。そんな、弱い、とても弱い自分。そんな自分が嫌になった。
そんなときにあるというのに、今、私は自分の気持ちがはっきりと分かってしまった。私は、私は……みゆきを、放したくない。しかし、放さなければ放さないほど、私の心は痛んでいくのだ。
またあの三島由紀夫の言葉が思い出される。そう、無知はいいことだ。自分の気持ちなど、知ることなかった。苦しむくらいなら、こんな恋など、抱くべきじゃなかった……。
―――気付けば、夕日は地平線上から消えていた。まもなく、闇が、糟日部の街を覆うことになるだろう。
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- 続きが気になる -- 名無しさん (2008-10-19 14:35:03)
- な -- 名無しさん (2008-10-18 21:59:20)
- せつね -- 名無しさん (2008-09-23 22:29:26)