いきなり出鼻をくじかれた。
心の中も含めて準備は万端、あとはお互いの気持ち……認識を確かめ合うだけ、だったのに。
心の中も含めて準備は万端、あとはお互いの気持ち……認識を確かめ合うだけ、だったのに。
“――場所、変えない?”
また人が来るかも知れないから――そんなことを言われてしまっては、従わざるを得ない。
というわけで、こなたと二人、駅へと続く大通りを歩いている私なのであった。
昨日の帰りの電車を思わせるオレンジ色の街並みは人通りも少なくて、なるほど、確かにこれ
ならそう悪い条件でもない。
問題があるとすれば、人が少ないとはいえ皆無ではない点と――
というわけで、こなたと二人、駅へと続く大通りを歩いている私なのであった。
昨日の帰りの電車を思わせるオレンジ色の街並みは人通りも少なくて、なるほど、確かにこれ
ならそう悪い条件でもない。
問題があるとすれば、人が少ないとはいえ皆無ではない点と――
「人に聞かれたくない話は外を歩きながらってのが、私の持論でね」
「……ソレはアレか? つまり私はアンタに殺されるのか?」
「へ?」
「デスノでしょ。無理やり読まされたから知ってるわよ」
ふざけた台詞をのたまうこなたに、釘を差す気で返してやると、
「……」
きょとんとして、
「……そっか」
そして俯いてしまった。
「? こなた?」
「あ……ごめん。なんでもない。――ごめん」
「……ソレはアレか? つまり私はアンタに殺されるのか?」
「へ?」
「デスノでしょ。無理やり読まされたから知ってるわよ」
ふざけた台詞をのたまうこなたに、釘を差す気で返してやると、
「……」
きょとんとして、
「……そっか」
そして俯いてしまった。
「? こなた?」
「あ……ごめん。なんでもない。――ごめん」
――このように、こなたの様子がおかしいことだ。
体調でも悪いのだろうか。だったら日を改めるべきかも知れない。
考えてみれば、私の方は準備万端だけど、こなたにとっては寝耳に水な話だろう。だとしたら
フェアじゃない。
いや、ならばなおさら、ある程度は耳に入れておくべきとも言えるし……うぅむ。
「それより、話ってなんなの?」
「あ……あぁ、うん……」
不意に向き直られて、とっさに目を逸らしてしまう。
調子が狂う。
いやまぁ、こなたにはいつも調子を狂わされっぱなしなわけだけれども。それにしたって、こんな
パターンは初めてだ。こんなこなたは初めてだ。なんだか凄く――緊張、してしまう。
ちらりと横顔を盗み見る。
髪に隠れてよく見えない。胸に手を当てたりしている。やはり体調が悪いのか――と、
目が合った。
「――っ」
かと思ったら、物凄い勢いでそっぽを向かれてしまった。
一瞬だけ見えた横顔は、赤かったのはまぁ夕陽のせいだろうけど、表情の方が。
やっぱり見たことのないものだったような気がする。
うぅむ。
先にこっちの違和感を払拭しておくべきだろうか。
「……ねぇ、かがみ」
「ん……?」
「話があるんだよね?」
「……うん」
どうしたものか。
「それってさ、私に何かを言っておきたいの? それとも何か訊きたいの?」
うん?
声のトーンが、なんだか変わった。抑揚が極端になくなった、というのか。
「あー…………うん。両方、かな」
「それは、別々のこと?」
「え? ……いや、言った上で、聞きたい……んだけど」
「そか。じゃあ――つまり、私に何か知らせることがあって、それを私がどう思うか訊きたい、とか?」
そして突然饒舌になる。
「う、うん。そうね。そういうこと」
ええと、ええと。
なんだこれは。
「勉強とか進路とか、そういう話?」
戸惑う私を無視するように、こなたはさらに質問を重ねてくる。
「え? あぁいや、そういうんじゃないの」
そしてまた胸に手を当てたり。
「じゃあ、つかさやみゆきさんは関係ある?」
「え? いや、つ、つかさは――」
関係ある……けど、それを言うとまた話がややこしくなる。気がする。最初から言う気もないし。
それに関しては、私とつかさ――でもなく、ほぼつかさ個人の問題だから。
「――いや、うん。二人とも関係ない。私とあんたの問題よ」
首を振る。
「ってゆーか、ごめん。ちょっと待って」
そして足を止めた。
こなたも立ち止まり、こちらを見上げてくる。
「何が?」
「いや、だから、話があるって言ったのは私なのに、こんな調子で。……ただ、その、ね? やっぱ
歩きながらじゃ喋りにくいってゆーかさ」
身振り手振り、あと愛想笑いなんかも交えてまくし立てる。あぁもう顔が熱い。
夕陽のせいだけじゃないんだろうなぁ。
「……」
対照的に、こなたは平然としている。
顔の半分が影に覆われていることもあいまって、機嫌が悪そうにも見える。
その表情もまた、珍しい。こいつに影は似合わない。……いや、というかむしろ逆に似合ってる?
――じゃなくて。
「どこか入る?」
「いや、だから人目は……」
提案を、即座に否定。これからする話は他の人に聞かせるわけにはいかないのだ。
聞かれても別に不都合が生じるわけではないのだけど、なんというか、つまり、恥ずかしいから。
あ、今鼻で……笑っては、いないか。口を開けずにため息をついただけだ。
体調でも悪いのだろうか。だったら日を改めるべきかも知れない。
考えてみれば、私の方は準備万端だけど、こなたにとっては寝耳に水な話だろう。だとしたら
フェアじゃない。
いや、ならばなおさら、ある程度は耳に入れておくべきとも言えるし……うぅむ。
「それより、話ってなんなの?」
「あ……あぁ、うん……」
不意に向き直られて、とっさに目を逸らしてしまう。
調子が狂う。
いやまぁ、こなたにはいつも調子を狂わされっぱなしなわけだけれども。それにしたって、こんな
パターンは初めてだ。こんなこなたは初めてだ。なんだか凄く――緊張、してしまう。
ちらりと横顔を盗み見る。
髪に隠れてよく見えない。胸に手を当てたりしている。やはり体調が悪いのか――と、
目が合った。
「――っ」
かと思ったら、物凄い勢いでそっぽを向かれてしまった。
一瞬だけ見えた横顔は、赤かったのはまぁ夕陽のせいだろうけど、表情の方が。
やっぱり見たことのないものだったような気がする。
うぅむ。
先にこっちの違和感を払拭しておくべきだろうか。
「……ねぇ、かがみ」
「ん……?」
「話があるんだよね?」
「……うん」
どうしたものか。
「それってさ、私に何かを言っておきたいの? それとも何か訊きたいの?」
うん?
声のトーンが、なんだか変わった。抑揚が極端になくなった、というのか。
「あー…………うん。両方、かな」
「それは、別々のこと?」
「え? ……いや、言った上で、聞きたい……んだけど」
「そか。じゃあ――つまり、私に何か知らせることがあって、それを私がどう思うか訊きたい、とか?」
そして突然饒舌になる。
「う、うん。そうね。そういうこと」
ええと、ええと。
なんだこれは。
「勉強とか進路とか、そういう話?」
戸惑う私を無視するように、こなたはさらに質問を重ねてくる。
「え? あぁいや、そういうんじゃないの」
そしてまた胸に手を当てたり。
「じゃあ、つかさやみゆきさんは関係ある?」
「え? いや、つ、つかさは――」
関係ある……けど、それを言うとまた話がややこしくなる。気がする。最初から言う気もないし。
それに関しては、私とつかさ――でもなく、ほぼつかさ個人の問題だから。
「――いや、うん。二人とも関係ない。私とあんたの問題よ」
首を振る。
「ってゆーか、ごめん。ちょっと待って」
そして足を止めた。
こなたも立ち止まり、こちらを見上げてくる。
「何が?」
「いや、だから、話があるって言ったのは私なのに、こんな調子で。……ただ、その、ね? やっぱ
歩きながらじゃ喋りにくいってゆーかさ」
身振り手振り、あと愛想笑いなんかも交えてまくし立てる。あぁもう顔が熱い。
夕陽のせいだけじゃないんだろうなぁ。
「……」
対照的に、こなたは平然としている。
顔の半分が影に覆われていることもあいまって、機嫌が悪そうにも見える。
その表情もまた、珍しい。こいつに影は似合わない。……いや、というかむしろ逆に似合ってる?
――じゃなくて。
「どこか入る?」
「いや、だから人目は……」
提案を、即座に否定。これからする話は他の人に聞かせるわけにはいかないのだ。
聞かれても別に不都合が生じるわけではないのだけど、なんというか、つまり、恥ずかしいから。
あ、今鼻で……笑っては、いないか。口を開けずにため息をついただけだ。
……うん?
何か、違和感が……
「確かアッチに、公園あったよね。そこでいい?」
と、
こなたが私――の、後ろの方を眺めながら呟くように言った。振り返ると、道路を挟んで銀行や
レストラン、中古車屋なんかが並んでいる。公園なんかあったっけ?
まぁ、あるというのならあるのだろう。知らないけど。
「う、うん」
よし、仕切りなおしだ。
「確かアッチに、公園あったよね。そこでいい?」
と、
こなたが私――の、後ろの方を眺めながら呟くように言った。振り返ると、道路を挟んで銀行や
レストラン、中古車屋なんかが並んでいる。公園なんかあったっけ?
まぁ、あるというのならあるのだろう。知らないけど。
「う、うん」
よし、仕切りなおしだ。
「――はい」
「ありがと」
ベンチに座るこなたに、その辺の自販機で買った缶紅茶を手渡す。
私も隣に腰を下ろし、自分の緑茶を、さっそく一口。
「……ふぅ」
人心地。
ちらりと見ると、こなたはまだ口をつけず、というか開封すらぜず、成分表示なんかをぼんやりと
眺めている。
そういうのを確認したがる人ってたまにいるけど……こなたもそうだっけ?
「こういう時ってさ」
「ん?」
「マンガやドラマだったら問答無用だよね。いきなり缶を差し出しながら、『コーラと烏龍茶、どっちに
する?』とか、『ココアでよかった?』とか。普通買う前に訊くよね」
言いながら、今度は両手で挟んでコロコロさせて弄んだり。
「……だから、買う前に訊いたじゃないの」
「そだね」
かと思えば、水滴でもついたのか、制服のスカートで手を拭ったり。
挙動不審というわけではない。
ないのだが、その姿にはやはり違和感を覚えてしまう。
まぁ、明らかに普段より大人しいというか抑揚がないというか、それは分かるのだが。それだけじゃ
なくて、もっと決定的な違いがあるような。
「――話って?」
「え? ――あ、ああ。うん」
急に話題を戻すなよ。
胸中で毒づきながら、もう一度念のため辺りを見回す。
狭い公園だ。
ブランコと砂場、ベンチが一台。残りを占めるグラウンドスペースは、そう呼べるほどの広さはない。
走り回るのにも苦労しそうだ。子どもの遊び場としては不向きだろう。
周囲は背の高い木に囲われていて見通しも悪いし、痴漢とか出そうだ。しかし被害者となる女性は
訪れそうもない。……なんでこいつ、こんな場所知ってたのかしら。
まぁ、どうでもいいか。
もう一口だけお茶を飲んで、私は口を開いた。
「――噂を聞いたのよ」
今度はすんなり声に出せた。
予定していた台詞だ。まず噂話ということにして、例の男子三人組の会話を、多少の脚色を加えた
上でこなたに聞かせる。インパクトというか、私と同じように感じてもらうためだ。そして私が思った
ことを打ち明けて、どういうことなのかを二人で考える。
そういう計画を立てた。
「どんな?」
一秒ほどの間を置いて、こなたが言った。
私は息を吸い、そして吐き出す。
「その……驚かないで聞いて欲しいんだけど……」
「分かった」
って、あっさりしてやがるな。
首を向けると、今度は目は合わなかった。無表情で正面を見つめている。
――また、違和感。
「その……ね?」
「うん」
頷きを受けて、さらに一呼吸。
最初の言葉を、発する。
「ありがと」
ベンチに座るこなたに、その辺の自販機で買った缶紅茶を手渡す。
私も隣に腰を下ろし、自分の緑茶を、さっそく一口。
「……ふぅ」
人心地。
ちらりと見ると、こなたはまだ口をつけず、というか開封すらぜず、成分表示なんかをぼんやりと
眺めている。
そういうのを確認したがる人ってたまにいるけど……こなたもそうだっけ?
「こういう時ってさ」
「ん?」
「マンガやドラマだったら問答無用だよね。いきなり缶を差し出しながら、『コーラと烏龍茶、どっちに
する?』とか、『ココアでよかった?』とか。普通買う前に訊くよね」
言いながら、今度は両手で挟んでコロコロさせて弄んだり。
「……だから、買う前に訊いたじゃないの」
「そだね」
かと思えば、水滴でもついたのか、制服のスカートで手を拭ったり。
挙動不審というわけではない。
ないのだが、その姿にはやはり違和感を覚えてしまう。
まぁ、明らかに普段より大人しいというか抑揚がないというか、それは分かるのだが。それだけじゃ
なくて、もっと決定的な違いがあるような。
「――話って?」
「え? ――あ、ああ。うん」
急に話題を戻すなよ。
胸中で毒づきながら、もう一度念のため辺りを見回す。
狭い公園だ。
ブランコと砂場、ベンチが一台。残りを占めるグラウンドスペースは、そう呼べるほどの広さはない。
走り回るのにも苦労しそうだ。子どもの遊び場としては不向きだろう。
周囲は背の高い木に囲われていて見通しも悪いし、痴漢とか出そうだ。しかし被害者となる女性は
訪れそうもない。……なんでこいつ、こんな場所知ってたのかしら。
まぁ、どうでもいいか。
もう一口だけお茶を飲んで、私は口を開いた。
「――噂を聞いたのよ」
今度はすんなり声に出せた。
予定していた台詞だ。まず噂話ということにして、例の男子三人組の会話を、多少の脚色を加えた
上でこなたに聞かせる。インパクトというか、私と同じように感じてもらうためだ。そして私が思った
ことを打ち明けて、どういうことなのかを二人で考える。
そういう計画を立てた。
「どんな?」
一秒ほどの間を置いて、こなたが言った。
私は息を吸い、そして吐き出す。
「その……驚かないで聞いて欲しいんだけど……」
「分かった」
って、あっさりしてやがるな。
首を向けると、今度は目は合わなかった。無表情で正面を見つめている。
――また、違和感。
「その……ね?」
「うん」
頷きを受けて、さらに一呼吸。
最初の言葉を、発する。
「私とあんたが、付き合ってるんじゃないか――って」
……なんか大幅に端折ってしまった。
いや、まぁ、インパクトという点では、このぐらいの方がいいだろう。
うん。
よし。
さて――それじゃあこなたの反応は……
いや、まぁ、インパクトという点では、このぐらいの方がいいだろう。
うん。
よし。
さて――それじゃあこなたの反応は……
「……」
って無反応かよっ!
なんか普通に紅茶飲んでるし!
もっとこう、驚いた顔するとか、思わずこっちを向いてしまうとか、ないのかそういうのは!
あぁ、もう。
言い方間違えたかな。やはりもう少し詳しく、というか正確に伝えるべきか?
だとしたらどんなふうに――いや待て。
こなたが動いた。
こっちを向いた。
そしてひとこと。
「……え?」
というか、一音。
こなたが返してきた反応は、たったそれだけだった。
聞いてなかったのかと一瞬思う。
しかし、さすがにソレはないと信じたい。眉が、ぎゅう、っと八の字になっているし。
とっさに意味を理解し切れなかった、とかそんな感じだろう。たぶん。
「だ、だから――私とあんたが、そういう、関係なんじゃないか、って……」
「……」
重ねて言うと、ようやく表情が動いた。
眉から、目、鼻、口と、上から順繰りに塗り替えられるようにして、しかめっ面になった。
「誰がそんなこと言ったの?」
「だから、噂で――」
「ウワサを、誰から聞いたの?」
語気も少しずつ強まってきている。
これは、つまりアレか。
ラノベなんかでもよくある、脳に浸透するまでに時間がかかった、というヤツか。
なんかこなたみたいな言い草だけど。ってゆーか――これって、怒ってる?
「いや……壁越しに話してるのを聞いただけだから、誰とかは分かんないわ。向こうも私に聞かれた
とは知らないと思う。ただ、知らない声だった。男子だったけど」
視線をはずし、前を向き、用意しておいた台詞を並べる。
そういう反応も予想しないではなかったけど、可能性は低いだろうと踏んでいた。例えば「泣き出す」
と同じぐらい、あり得ないと。
実際は笑い飛ばすとか。茶化してくるとか、何かのアニメネタで返してくるとか、そっち方向だろうと
当たりをつけていた。当たりをつけて、私は、その対策ばかりを練っていた。
しかし今のこいつからは、そんなリアクションは何故だかまるで想像できない。
始める前は考えようとするまでもなくいくらでも浮かんでいたのに。しまいには「じゃあウワサどおりに
なっちゃおう♪」とかいって迫ってくるなんてパターンまで出てきて、その対策まで考えたというのに。
ちなみに、もちろん鉄拳制裁だ。
「……それで?」
「それで、って……」
こなたが訊く。私は言葉に詰まる。
なんだか息苦しい。
こんな空気は想定外だ。これなら、ふざけた態度に出られた方がまだやりやすい。
「……だから、どう思う?」
「どう思えってのさ」
尋ね返すと、呆れたような口調。こちらを攻めるニュアンスも少し混じっているような。
少し、怯む。
「ん……まぁ、そうね」
「そうねじゃないよ。なにそれ? なんでそんな――そんな話になるの? わけわかんないよ」
そんな話。
私とこなたが、仲が良すぎるという、あいつらの話。
あいつらが、そんな話をした、その理由。
「それは――」
言いかけて、口をつぐむ。
「あんたのせいだ」。
そんなことは言えない。
いや、それが大きいのは確かなんだけど。こいつが人前でべたべた引っ付いてくるのが一番の
原因ではあるんだけど、私の方にも責任はあるから。
過剰反応なのだ、いつも。
ちょっとしたことですぐに顔を赤くして。声を張り上げて。
しかもそうなってしまうのがこなた相手のときだけとあれば、変なふうに勘ぐられるのも、仕方ない
などとは断じて言わないが、あり得ないことだとも言い切れない。
……そういえば、そっちはどうしてだろう。
何度も言うようだけど、私がこなたに対して抱いているのは恋愛感情でも性的欲求でもない。その
はずだ。なのに、突付かれたり抱きつかれたりすると――総じて“接近”をされると、落ち着かなく
なって、顔が熱くなって、パニックになってしまう。
女同士なのに。
それは、なぜだ?
これが他の誰かだったら…………うん? 他の誰か?
待て。
そうだ。
他の人は、こなた以外は、私にそんなことはしない。強いて言うなら日下部がごくたまにからかって
くることぐらいか。でもそれも、失言の揚げ足取りとかダイエット関係への揶揄なんかが主で、こなた
みたいな過剰なスキンシップはしてこない。
一度だけ脇腹をつままれたことがあるけど、思わず引っ叩いたら二度としなくなったし。
他に“接近”してくるのといえば……つかさ、か。
いや、でも。それもどちらかというと私の方から構いに行ってるって感じだ。つかさの方からは、昔は
よく私の布団に潜り込んできたりしてたけど、高校に上がったころを境になくなった。
いのり姉さんやまつり姉さんは、そもそもそういうことをしてこなかった。
するとやっぱり、こなただけか。
なんか普通に紅茶飲んでるし!
もっとこう、驚いた顔するとか、思わずこっちを向いてしまうとか、ないのかそういうのは!
あぁ、もう。
言い方間違えたかな。やはりもう少し詳しく、というか正確に伝えるべきか?
だとしたらどんなふうに――いや待て。
こなたが動いた。
こっちを向いた。
そしてひとこと。
「……え?」
というか、一音。
こなたが返してきた反応は、たったそれだけだった。
聞いてなかったのかと一瞬思う。
しかし、さすがにソレはないと信じたい。眉が、ぎゅう、っと八の字になっているし。
とっさに意味を理解し切れなかった、とかそんな感じだろう。たぶん。
「だ、だから――私とあんたが、そういう、関係なんじゃないか、って……」
「……」
重ねて言うと、ようやく表情が動いた。
眉から、目、鼻、口と、上から順繰りに塗り替えられるようにして、しかめっ面になった。
「誰がそんなこと言ったの?」
「だから、噂で――」
「ウワサを、誰から聞いたの?」
語気も少しずつ強まってきている。
これは、つまりアレか。
ラノベなんかでもよくある、脳に浸透するまでに時間がかかった、というヤツか。
なんかこなたみたいな言い草だけど。ってゆーか――これって、怒ってる?
「いや……壁越しに話してるのを聞いただけだから、誰とかは分かんないわ。向こうも私に聞かれた
とは知らないと思う。ただ、知らない声だった。男子だったけど」
視線をはずし、前を向き、用意しておいた台詞を並べる。
そういう反応も予想しないではなかったけど、可能性は低いだろうと踏んでいた。例えば「泣き出す」
と同じぐらい、あり得ないと。
実際は笑い飛ばすとか。茶化してくるとか、何かのアニメネタで返してくるとか、そっち方向だろうと
当たりをつけていた。当たりをつけて、私は、その対策ばかりを練っていた。
しかし今のこいつからは、そんなリアクションは何故だかまるで想像できない。
始める前は考えようとするまでもなくいくらでも浮かんでいたのに。しまいには「じゃあウワサどおりに
なっちゃおう♪」とかいって迫ってくるなんてパターンまで出てきて、その対策まで考えたというのに。
ちなみに、もちろん鉄拳制裁だ。
「……それで?」
「それで、って……」
こなたが訊く。私は言葉に詰まる。
なんだか息苦しい。
こんな空気は想定外だ。これなら、ふざけた態度に出られた方がまだやりやすい。
「……だから、どう思う?」
「どう思えってのさ」
尋ね返すと、呆れたような口調。こちらを攻めるニュアンスも少し混じっているような。
少し、怯む。
「ん……まぁ、そうね」
「そうねじゃないよ。なにそれ? なんでそんな――そんな話になるの? わけわかんないよ」
そんな話。
私とこなたが、仲が良すぎるという、あいつらの話。
あいつらが、そんな話をした、その理由。
「それは――」
言いかけて、口をつぐむ。
「あんたのせいだ」。
そんなことは言えない。
いや、それが大きいのは確かなんだけど。こいつが人前でべたべた引っ付いてくるのが一番の
原因ではあるんだけど、私の方にも責任はあるから。
過剰反応なのだ、いつも。
ちょっとしたことですぐに顔を赤くして。声を張り上げて。
しかもそうなってしまうのがこなた相手のときだけとあれば、変なふうに勘ぐられるのも、仕方ない
などとは断じて言わないが、あり得ないことだとも言い切れない。
……そういえば、そっちはどうしてだろう。
何度も言うようだけど、私がこなたに対して抱いているのは恋愛感情でも性的欲求でもない。その
はずだ。なのに、突付かれたり抱きつかれたりすると――総じて“接近”をされると、落ち着かなく
なって、顔が熱くなって、パニックになってしまう。
女同士なのに。
それは、なぜだ?
これが他の誰かだったら…………うん? 他の誰か?
待て。
そうだ。
他の人は、こなた以外は、私にそんなことはしない。強いて言うなら日下部がごくたまにからかって
くることぐらいか。でもそれも、失言の揚げ足取りとかダイエット関係への揶揄なんかが主で、こなた
みたいな過剰なスキンシップはしてこない。
一度だけ脇腹をつままれたことがあるけど、思わず引っ叩いたら二度としなくなったし。
他に“接近”してくるのといえば……つかさ、か。
いや、でも。それもどちらかというと私の方から構いに行ってるって感じだ。つかさの方からは、昔は
よく私の布団に潜り込んできたりしてたけど、高校に上がったころを境になくなった。
いのり姉さんやまつり姉さんは、そもそもそういうことをしてこなかった。
するとやっぱり、こなただけか。
……うん?
こなただけが、私にくっついてくる?
こなただけに、私は正体不明の感情を寄せている?
……ちょっと待て?
それは、つまり、どういう……――って、うお!?
「こ、こなた……?」
心に浮かびかけた、なんだか無性に危険な予感のする何かに、思わず隣に視線を転じると。
こなただけに、私は正体不明の感情を寄せている?
……ちょっと待て?
それは、つまり、どういう……――って、うお!?
「こ、こなた……?」
心に浮かびかけた、なんだか無性に危険な予感のする何かに、思わず隣に視線を転じると。
「……」
こなたが死にそうな顔をしていた。
どんよりと暗いオーラが目に見えるようで、今にもそれに押しつぶされてしまいそうな、脱力体勢。
なんだこれ?
何が起きた?
少し考え事をしている隙に、こいつに何が起きた?
「あの……」
呼びかけに応じて、小さな肩がひくりと揺れた。
「……かがみは……」
声も酷い。
ざらざらと、乾ききった舌を無理やりに引きずっているような。
「え……?」
「かがみは……どう、思ったの? そのウワサ」
かなり聞き取りにくかったけど、どうにか聞こえた。
訊いてくるのではと事前に想定していた質問の一つだ。やや気を取り直し、ゆっくりと答える。
「ムカついたわ」
「……だよね」
受けて、こなたはさらにダウン。
……ん?
どんよりと暗いオーラが目に見えるようで、今にもそれに押しつぶされてしまいそうな、脱力体勢。
なんだこれ?
何が起きた?
少し考え事をしている隙に、こいつに何が起きた?
「あの……」
呼びかけに応じて、小さな肩がひくりと揺れた。
「……かがみは……」
声も酷い。
ざらざらと、乾ききった舌を無理やりに引きずっているような。
「え……?」
「かがみは……どう、思ったの? そのウワサ」
かなり聞き取りにくかったけど、どうにか聞こえた。
訊いてくるのではと事前に想定していた質問の一つだ。やや気を取り直し、ゆっくりと答える。
「ムカついたわ」
「……だよね」
受けて、こなたはさらにダウン。
……ん?
って! 間違えたっ!
今のは、「へ~え? かがみはそれを聞いてどう思ったのかなぁ~?」とか、そんなふうに調子に
乗ってきやがった場合にぶった切ってやるための台詞だ。使いどころがぜんぜん違う。こんなの、
まるで追い討ちじゃないか。
「……うん……私も、ちょっとイヤかな。そんなふうに思われるのは……」
焦っている間にも、こなた自身がさらに追い討ち。
自嘲気味とかそんなレベルじゃない。
「そ、そう」
相槌打ってる場合か!
訂正だ。訂正をしないと――
「珍しいよね……」
「え?」
「……かがみと私の意見が、合うなんて、さ……」
な、なに? 何を言ってる?
いや、確かにまぁ、そうだけど。私が真剣になることにはこなたはまるで興味を示さず、こなたが
夢中になるものは私にはどうでもいいとしか思えない。そんな感じに私たちが常に正反対だった
というのは、その通りではあるけれど。
「そ、そうだけど……ちょっと待ってよこなたっ」
「……何を?」
「何って、だから――」
なんだ――なんだっけ。
そう。
そうだ。訂正、そして謝罪。
でもその前に。
「とっ、とにかくこなた! こっち見なさい! 私の目を見て話しなさいっ!」
このまま俯かせてたら駄目だ。せめて顔だけでも上げさせないと。
「……」
深い。
深い、深い。地の底まで届きそうなため息を吐いて。
こなたが、首を、もたげる。
「っ……!」
息を呑む。
乗ってきやがった場合にぶった切ってやるための台詞だ。使いどころがぜんぜん違う。こんなの、
まるで追い討ちじゃないか。
「……うん……私も、ちょっとイヤかな。そんなふうに思われるのは……」
焦っている間にも、こなた自身がさらに追い討ち。
自嘲気味とかそんなレベルじゃない。
「そ、そう」
相槌打ってる場合か!
訂正だ。訂正をしないと――
「珍しいよね……」
「え?」
「……かがみと私の意見が、合うなんて、さ……」
な、なに? 何を言ってる?
いや、確かにまぁ、そうだけど。私が真剣になることにはこなたはまるで興味を示さず、こなたが
夢中になるものは私にはどうでもいいとしか思えない。そんな感じに私たちが常に正反対だった
というのは、その通りではあるけれど。
「そ、そうだけど……ちょっと待ってよこなたっ」
「……何を?」
「何って、だから――」
なんだ――なんだっけ。
そう。
そうだ。訂正、そして謝罪。
でもその前に。
「とっ、とにかくこなた! こっち見なさい! 私の目を見て話しなさいっ!」
このまま俯かせてたら駄目だ。せめて顔だけでも上げさせないと。
「……」
深い。
深い、深い。地の底まで届きそうなため息を吐いて。
こなたが、首を、もたげる。
「っ……!」
息を呑む。
なんだ、これ。
真正面からはっきりと見えたその顔は――なんなんだ、これは。本当にこなたなのか。
面影がない。情動がない。生気がない。顔色がない。人間味がない。
なんにもない。
それに――そうだ。
ようやく気付いた。
先ほどからずっと付きまとっていた違和感。その正体がようやく分かった。
“笑顔”がなかったんだ。
教室で見たときから、今までずっと、こなたは一度も笑ってない。
面影がない。情動がない。生気がない。顔色がない。人間味がない。
なんにもない。
それに――そうだ。
ようやく気付いた。
先ほどからずっと付きまとっていた違和感。その正体がようやく分かった。
“笑顔”がなかったんだ。
教室で見たときから、今までずっと、こなたは一度も笑ってない。
こなたが、笑っていない。
こんなの初めてだ。
少なくとも私が知る限り、こいつはいつでも笑っていたのに。
野球が延長して深夜アニメの録画に失敗したと怒っていたときだって、カラオケで英語の曲が歌え
なくてテンパっていたときだって、正月におみくじで凶を引いて落ち込んでいたときだって、ケーキ
バイキングで泣きながら食べ残しを処理していたときだって。
こなたは、いつでもその顔のどこかに、あるいは仕草に、笑顔の欠片を浮かべていたのに。
今は、それが、ない。
どうして?
いったい何が?
私が見ていなかった隙に、こいつに何が起こったんだ!?
少なくとも私が知る限り、こいつはいつでも笑っていたのに。
野球が延長して深夜アニメの録画に失敗したと怒っていたときだって、カラオケで英語の曲が歌え
なくてテンパっていたときだって、正月におみくじで凶を引いて落ち込んでいたときだって、ケーキ
バイキングで泣きながら食べ残しを処理していたときだって。
こなたは、いつでもその顔のどこかに、あるいは仕草に、笑顔の欠片を浮かべていたのに。
今は、それが、ない。
どうして?
いったい何が?
私が見ていなかった隙に、こいつに何が起こったんだ!?
「……かがみは、優しいよね」
「な、何がよ」
い、いきなりなんだ。何を言い出す。
「でもさ、もういいよ。そういうの」
ちょっと待て。
本当に何を言っている。
「私のことなんか、もう構わなくていいよ。私ももう、なるべく甘えないようにするからさ」
「なっ――」
なに、を……
「な、何がよ」
い、いきなりなんだ。何を言い出す。
「でもさ、もういいよ。そういうの」
ちょっと待て。
本当に何を言っている。
「私のことなんか、もう構わなくていいよ。私ももう、なるべく甘えないようにするからさ」
「なっ――」
なに、を……
「そしたらもう、ヘンなウワサ立てられることも、ないよね?」
――あ。
笑った。
口角が少しだけ、上がった。
「だっ――」
でも。
そんなのは違う。
そんなのは、アンタの笑顔じゃない。泉こなたは、そんな卑屈に笑ったりしない!
「――誰がそんなこと言ってるってのよっ!」
立ち上がる。
座ってなんかいられない。
「だ、だって、イヤなんでしょ?」
戸惑った顔。
戸惑った声。
そんなに自分の発言に自信があったのか。
「そんなこと言ってないわよっ!」
「い――言ったじゃん! ムカついたって!」
声量が跳ね上がる。
それは、確かに。でも、
「言ったけどっ……でも嫌だなんて言ってない!」
「なに言ってんの? イヤだからムカついたんでしょ!?」
なるほど。
筋は通っている。だけど、
「それはっ――とにかく違うのよ! そんなことが言いたいんじゃなくて、私は――」
私は、目を逸らした。
後悔が込み上げる。
完全に、間違えた。言い方と言う順番を、肝心なところで見極め損ねた。
何をやってるんだ私は。
何が、準備万端だ。
笑った。
口角が少しだけ、上がった。
「だっ――」
でも。
そんなのは違う。
そんなのは、アンタの笑顔じゃない。泉こなたは、そんな卑屈に笑ったりしない!
「――誰がそんなこと言ってるってのよっ!」
立ち上がる。
座ってなんかいられない。
「だ、だって、イヤなんでしょ?」
戸惑った顔。
戸惑った声。
そんなに自分の発言に自信があったのか。
「そんなこと言ってないわよっ!」
「い――言ったじゃん! ムカついたって!」
声量が跳ね上がる。
それは、確かに。でも、
「言ったけどっ……でも嫌だなんて言ってない!」
「なに言ってんの? イヤだからムカついたんでしょ!?」
なるほど。
筋は通っている。だけど、
「それはっ――とにかく違うのよ! そんなことが言いたいんじゃなくて、私は――」
私は、目を逸らした。
後悔が込み上げる。
完全に、間違えた。言い方と言う順番を、肝心なところで見極め損ねた。
何をやってるんだ私は。
何が、準備万端だ。
「……ごめん」
「――え?」
目を向けなおす。
なに?
謝罪?
「そうだよね……急にそんなふうになったら、つかさとみゆきさんがヘンに思うよね」
また、ぽそぽそと。疲れたように。
そんなことを、言ってるわけじゃない……けど。
「……そうよ。変なこと言うな」
まぁ、いい。落ちついたのなら、それで。とりあえずそういうことで、別にいい。
私も落ちつけ。
ケンカしにきたんじゃないんだ。あくまで話し合い――でもなくて。
言ってしまえばこなたに助けてもらおうとして、私はこうしているんだ。にしては妙に偉そうだけど。
とにかく、もう一度仕切りなおさないと。
どこから訂正したものか。
やはり最初からか?
そうね。あいつらの話を変に端折った部分から……いや。その前に、変な気を回す必要はないと、
そこに釘を刺しておいて……というか。そんなふうに考えたりおかしな笑い方したりする、その精神
状態をまずどうにかしておくべきかも知れない。――と、
「――かがみ」
こなたが顔を上げた。
うん? なんだか、目にいくらか生気が戻った気がする。
「な、なによ」
「アレさ、もう返事、した?」
「は? な、何がよ」
「決まってるでしょ。ラブレターだよ」
「……」
いきなり何の話だよ。
というか、なんだ? ひょっとしてさっきまでの話は終わったとことになってるのか?
思わず額に手を当てる。ため息。
「もう断ったわよ、そんなの……」
「……」
「……」
「……なんで!?」
うおっ?
「いつ!? 昨日はまだって言ってたよね!?」
なんでそんな……なんなのよ、本当に。
ってゆーか本当に気付いてないのかよ。元はといえばあの封筒の出所はあんただってのに。
「だからそれは……今日よ。今日の昼。そっち行かなかったでしょ」
とっさに出任せを並べつつ、腕を組んでそっぽを向く。
うん。これは突き通すべき嘘だ。下手に本当のこと言ったらまた話がややこしくなる。
「でも、なんで!? なんで断るのさ!」
「なんでって、そんなの……受ける理由がないからに決まってるでしょ。付き合いたいと思える相手
じゃなかったってゆーか……」
正確には顔も名前も知らないし、そもそも存在すら怪しいんだけど。
「なに言ってんの!? あるじゃん理由なら! 男子と付き合ったらヘンなウワサも晴れるじゃん!」
「なっ……!」
何を、言い出す。
「そんな理由で付き合えるわけないでしょ! 相手にとっても失礼じゃない!」
怒鳴る。
こなたが目を見開く。ってか話繋がってたのかよ。
「そんなの…………別に、いいじゃん、そんなの。始めなんかどうでも。付き合ってるうちに好きに
なれるかもしんないじゃん」
「それは……」
「そうだよ。それに、かがみいつも言ってるじゃん。カレシ欲しいって」
「――って! 言ってないわよ! 人を万年発情期みたいに言うな!」
反射的にまた怒鳴る。
こなたは泣きそうな顔になる。
なんでそんな顔するのよ。
なんでショック受けてんのよ。
こんなの、いつもと同じツッコミじゃないの。
「なんで、そんな、ムキになるの? もっと普通に、付き合ったらいいだけだよね? そしたらヘンな
ウワサも消えるんだよ? そしたら、私だって自然に離れていけるし、そしたらもう宿題見せる必要
もなくなるんだよ? ゲマズにもムリしてついてこなくていいんだよ? 良いコトづくめじゃん」
「それのどこがいいことなのよ! できるわけないでしょそんなこと!」
なんなんだ。なんなんだそれは。
できるわけがない。そんなの、どれ一つだって認められるわけがない。
目を向けなおす。
なに?
謝罪?
「そうだよね……急にそんなふうになったら、つかさとみゆきさんがヘンに思うよね」
また、ぽそぽそと。疲れたように。
そんなことを、言ってるわけじゃない……けど。
「……そうよ。変なこと言うな」
まぁ、いい。落ちついたのなら、それで。とりあえずそういうことで、別にいい。
私も落ちつけ。
ケンカしにきたんじゃないんだ。あくまで話し合い――でもなくて。
言ってしまえばこなたに助けてもらおうとして、私はこうしているんだ。にしては妙に偉そうだけど。
とにかく、もう一度仕切りなおさないと。
どこから訂正したものか。
やはり最初からか?
そうね。あいつらの話を変に端折った部分から……いや。その前に、変な気を回す必要はないと、
そこに釘を刺しておいて……というか。そんなふうに考えたりおかしな笑い方したりする、その精神
状態をまずどうにかしておくべきかも知れない。――と、
「――かがみ」
こなたが顔を上げた。
うん? なんだか、目にいくらか生気が戻った気がする。
「な、なによ」
「アレさ、もう返事、した?」
「は? な、何がよ」
「決まってるでしょ。ラブレターだよ」
「……」
いきなり何の話だよ。
というか、なんだ? ひょっとしてさっきまでの話は終わったとことになってるのか?
思わず額に手を当てる。ため息。
「もう断ったわよ、そんなの……」
「……」
「……」
「……なんで!?」
うおっ?
「いつ!? 昨日はまだって言ってたよね!?」
なんでそんな……なんなのよ、本当に。
ってゆーか本当に気付いてないのかよ。元はといえばあの封筒の出所はあんただってのに。
「だからそれは……今日よ。今日の昼。そっち行かなかったでしょ」
とっさに出任せを並べつつ、腕を組んでそっぽを向く。
うん。これは突き通すべき嘘だ。下手に本当のこと言ったらまた話がややこしくなる。
「でも、なんで!? なんで断るのさ!」
「なんでって、そんなの……受ける理由がないからに決まってるでしょ。付き合いたいと思える相手
じゃなかったってゆーか……」
正確には顔も名前も知らないし、そもそも存在すら怪しいんだけど。
「なに言ってんの!? あるじゃん理由なら! 男子と付き合ったらヘンなウワサも晴れるじゃん!」
「なっ……!」
何を、言い出す。
「そんな理由で付き合えるわけないでしょ! 相手にとっても失礼じゃない!」
怒鳴る。
こなたが目を見開く。ってか話繋がってたのかよ。
「そんなの…………別に、いいじゃん、そんなの。始めなんかどうでも。付き合ってるうちに好きに
なれるかもしんないじゃん」
「それは……」
「そうだよ。それに、かがみいつも言ってるじゃん。カレシ欲しいって」
「――って! 言ってないわよ! 人を万年発情期みたいに言うな!」
反射的にまた怒鳴る。
こなたは泣きそうな顔になる。
なんでそんな顔するのよ。
なんでショック受けてんのよ。
こんなの、いつもと同じツッコミじゃないの。
「なんで、そんな、ムキになるの? もっと普通に、付き合ったらいいだけだよね? そしたらヘンな
ウワサも消えるんだよ? そしたら、私だって自然に離れていけるし、そしたらもう宿題見せる必要
もなくなるんだよ? ゲマズにもムリしてついてこなくていいんだよ? 良いコトづくめじゃん」
「それのどこがいいことなのよ! できるわけないでしょそんなこと!」
なんなんだ。なんなんだそれは。
できるわけがない。そんなの、どれ一つだって認められるわけがない。
「なんで? 大丈夫だよ。私、かがみがいなくても、大丈夫だよ」
「なっ――」
絶句。
待て。
待ちなさい。
待ちなさいよ!
「……あんた、マジで言ってんの?」
「当たり前だよ。私、かがみが構ってくれなくても、つかさに冷たくしたりなんか……」
「何の話だよっ!? つかさのことなんか関係ないでしょ!」
いや、ちょっと待て。私も待て。関係ないってなんだ。だってこれは半分はつかさのためで。
「なんで? つかさがいるから、つかさの友だちだから、かがみは私に……」
「なんでそうなるのよっ! あんた私を馬鹿にしてるのか?!」
なんだ、これ。
本当にもう、なんなんだこれは。こいつはなんなんだ。
このこなたは、なんなんだ。
「……してない。してないよ。馬鹿になんてしてない。むしろかがみが馬鹿にされないようにって、
ヘンな目で見られないようにって――そう思って言ってんじゃん!」
立ち上がる。
こなたも、髪を振り乱してベンチから立ち上がる。
手にしていたミルクティーの缶が落ち、独特のたわむような金属音を響かせて転がった。
そういや私のお茶はどこいった。
「それが余計なお世話なのよ! ……分かってない。あんたぜんっぜん分かってないっ!」
いや、分かるわけないだろう。
こんな言い方じゃ通じる話も通じない――
「わかんないよ……かがみが何を言ってるのか、ぜんぜんわかんないっ! 私とレズ友だなんて
言われて、それがムカつくんでしょ!?」
「れっ……!?」
そんな――そんな酷い受け取り方してたのか。
そんな伝え方をしてしまったのか、私は。
「だから私は――」
「そんな言われ方されてない!!」
さらに声を張り上げる。
「私たちが凄く仲がいいって、そういうことをちょっと言ってただけよあいつらは!」
「はぁ!?」
こなたの声も裏返る。
呼応するように髪が波打つ。
「なにそれ? ぜんぜん違うじゃん」
「だ、だからそれは、言い間違いってゆーか……」
「言い間違いってレベルじゃないよ! ぜんぜん違うじゃん!」
「だから、それは――わざと、でもあって……」
「なに、それ」
そして茫然。
途方に暮れた、迷子のような顔。さっき教室の入り口で、私の手を握ってきたときと同じ表情。
目の前のものが信じられず、だけど信じたくてたまらない――そんな、目。
堪らなくなって顔を背ける。
「た――試したかったのよ……」
声が震える。
「試すって、何をさ」
「だから――私も最初は、付き合ってるんじゃないかって、さっき言ったみたいに言われたように
感じて、だから、つまり――」
舌が回らない。
「――でも冷静になって考えたら、そうじゃないって、分かって……そうしたら分からなくなって……
私とあんたって、なんなのかって……」
もどかしい。
イライラする。
「……わかんない。わかんないよ。私、バカだから――私にも分かるようにちゃんと言ってよっ!」
ああ、もう。
やめてくれ。
そんな――あんたにそんな涙声なんか出されたら、私は、どうすればいいか分からない。
「だからっ……!」
声が擦り切れる。力が入りすぎて両手が痛い。俯いた首が引きつりそうだ。
イライラする。
窒息しそうなほどに、イライラする。
「――私はっ!」
私は、なんだ。何が言いたいんだ。
もういい。なんでもいい。なんでもいいから――とにかく言葉を届かせろ! こなたに!
絶句。
待て。
待ちなさい。
待ちなさいよ!
「……あんた、マジで言ってんの?」
「当たり前だよ。私、かがみが構ってくれなくても、つかさに冷たくしたりなんか……」
「何の話だよっ!? つかさのことなんか関係ないでしょ!」
いや、ちょっと待て。私も待て。関係ないってなんだ。だってこれは半分はつかさのためで。
「なんで? つかさがいるから、つかさの友だちだから、かがみは私に……」
「なんでそうなるのよっ! あんた私を馬鹿にしてるのか?!」
なんだ、これ。
本当にもう、なんなんだこれは。こいつはなんなんだ。
このこなたは、なんなんだ。
「……してない。してないよ。馬鹿になんてしてない。むしろかがみが馬鹿にされないようにって、
ヘンな目で見られないようにって――そう思って言ってんじゃん!」
立ち上がる。
こなたも、髪を振り乱してベンチから立ち上がる。
手にしていたミルクティーの缶が落ち、独特のたわむような金属音を響かせて転がった。
そういや私のお茶はどこいった。
「それが余計なお世話なのよ! ……分かってない。あんたぜんっぜん分かってないっ!」
いや、分かるわけないだろう。
こんな言い方じゃ通じる話も通じない――
「わかんないよ……かがみが何を言ってるのか、ぜんぜんわかんないっ! 私とレズ友だなんて
言われて、それがムカつくんでしょ!?」
「れっ……!?」
そんな――そんな酷い受け取り方してたのか。
そんな伝え方をしてしまったのか、私は。
「だから私は――」
「そんな言われ方されてない!!」
さらに声を張り上げる。
「私たちが凄く仲がいいって、そういうことをちょっと言ってただけよあいつらは!」
「はぁ!?」
こなたの声も裏返る。
呼応するように髪が波打つ。
「なにそれ? ぜんぜん違うじゃん」
「だ、だからそれは、言い間違いってゆーか……」
「言い間違いってレベルじゃないよ! ぜんぜん違うじゃん!」
「だから、それは――わざと、でもあって……」
「なに、それ」
そして茫然。
途方に暮れた、迷子のような顔。さっき教室の入り口で、私の手を握ってきたときと同じ表情。
目の前のものが信じられず、だけど信じたくてたまらない――そんな、目。
堪らなくなって顔を背ける。
「た――試したかったのよ……」
声が震える。
「試すって、何をさ」
「だから――私も最初は、付き合ってるんじゃないかって、さっき言ったみたいに言われたように
感じて、だから、つまり――」
舌が回らない。
「――でも冷静になって考えたら、そうじゃないって、分かって……そうしたら分からなくなって……
私とあんたって、なんなのかって……」
もどかしい。
イライラする。
「……わかんない。わかんないよ。私、バカだから――私にも分かるようにちゃんと言ってよっ!」
ああ、もう。
やめてくれ。
そんな――あんたにそんな涙声なんか出されたら、私は、どうすればいいか分からない。
「だからっ……!」
声が擦り切れる。力が入りすぎて両手が痛い。俯いた首が引きつりそうだ。
イライラする。
窒息しそうなほどに、イライラする。
「――私はっ!」
私は、なんだ。何が言いたいんだ。
もういい。なんでもいい。なんでもいいから――とにかく言葉を届かせろ! こなたに!
「――ただあんたに抱きしめて欲しいのよっ!!」
「……」
「……」
「……え?」
……え?
「……」
「……え?」
……え?
――って!
ちょっと待て何を言ってるんだ馬鹿か私はぁああああああああああああああああああああっ!!
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- ここで終わるのかぁぁぁ!!続き、続きおぉぉぉ!! -- 名無しさん (2008-11-10 20:17:52)
- 続きがぁぁあああああ -- 名無しさん (2008-10-14 00:03:20)
- 続きっ!!早く続きが見たいっ…!!なかなかじらされるなあ… -- 名無しさん (2008-10-13 21:04:08)
- 作者さん、続き頼みまっせ~!! -- kk (2008-10-13 21:00:30)
- 続きwwwwwwwwwwwwwww -- 名無しさん (2008-10-13 13:07:59)
- そこで終わらせないでww -- 名無しさん (2008-10-13 09:51:57)
- ぬぉぉぉ、続きが気になるぅぅうううううううううううっ!! -- 名無しさん (2008-10-13 08:35:25)