ツンデレがいる。
「――勘違いしないで。そりゃ、私の言い方もマズかったけど、とにかく、誤解なのっ」
一瞬の錯覚はやっぱり錯覚でしかなくて。
この世界はやっぱり三次元でしかなくて。
「ただ、あいつらが……私とあんたが仲が良すぎて間に入れそうにないだとか、私らにはお互い
さえいれば恋人なんか必要ないだろうとか……」
「……」
なのに私の目の前には。
二次元にしか存在しないはずの、ツンデレがいる。
「べ、別に私はそんなのぜんぜん気にしてないのよっ? ただ、あんたはどう思うかな、って……
別に心配したわけじゃなくてっ、だから――」
「……」
いや、ちょっと違うかな。
これは、ツンデレというよりは。
「だから、つまり――ほら、あんただったらそんなの聞いたら、なに言い出すかわかったもんじゃ
ないじゃない? だから下手なリアクションをしないように釘を刺しとこうと思って……」
「……」
そうだ。
これは、このひとは。
「――あぁもうっ!! あんたも何か言いなさいよっ!!」
かがみだ。
私のよく知っている、柊かがみが、ここにいる。
一瞬の錯覚はやっぱり錯覚でしかなくて。
この世界はやっぱり三次元でしかなくて。
「ただ、あいつらが……私とあんたが仲が良すぎて間に入れそうにないだとか、私らにはお互い
さえいれば恋人なんか必要ないだろうとか……」
「……」
なのに私の目の前には。
二次元にしか存在しないはずの、ツンデレがいる。
「べ、別に私はそんなのぜんぜん気にしてないのよっ? ただ、あんたはどう思うかな、って……
別に心配したわけじゃなくてっ、だから――」
「……」
いや、ちょっと違うかな。
これは、ツンデレというよりは。
「だから、つまり――ほら、あんただったらそんなの聞いたら、なに言い出すかわかったもんじゃ
ないじゃない? だから下手なリアクションをしないように釘を刺しとこうと思って……」
「……」
そうだ。
これは、このひとは。
「――あぁもうっ!! あんたも何か言いなさいよっ!!」
かがみだ。
私のよく知っている、柊かがみが、ここにいる。
「何かって……」
まぁ、言いたいことはとりあえず一つしかないんだけど。
言いたいというか、訊きたいというか。
「えっと……かがみ?」
「な、なによ」
「抱きしめて欲しいの?」
「そっ……!」
あ、沸騰した。
「そんなこと言ってないわよっ!!」
「いや、言ったじゃん。思いっきり言ったじゃん」
「だっ、だからそれは――言い間違いよっ!」
また、それ?
「だったらホントは何を言うつもりだったのさ」
「それは――だからっ! 今それを説明してんでしょうが! 黙って聞けよっ!」
「や、だって。何か言えって」
「うるさいっ!」
「……」
なんか、もう。
さらに支離滅裂になってる。さっきまで以上に言動が意味不明だ。
だけど。
わからないのに。かがみが何を言ってるのか、やっぱりさっぱりわからないのに。わからないという
点ではさっきまでとまったく同じなのに、気持ちがぜんぜん違う。
足元が砕け散りそうな不安も、泥が凍りついたみたいな胸のしこりも、まるで湧いてこない。
きれいさっぱりなくなったってわけじゃなく、まだ少し引きずってはいるけど、新たに湧いてくることは
なくなった。
「だから……つまり私は、釘を……――そう! それよ! あんたが噂を聞いたときにちゃんと対応
できるように! この件に対しての二人の認識を共通のものにしておこうと思ったのよ! そのため
にあんたがどう思うか聞きたいの!」
「はぁ……」
いやそんな、「上手く誤魔化してやったぞ! これでどうだ!」みたいな顔で言われても。
って、あれ?
なんか、わかる。
かがみの考えてることが、言葉の裏に隠そうとしてることが、なんとなくわかる……気がする。
「……私が、どう思うか?」
ちょっと試してみよう。
「そ、そうよ。答えて。正直に」
「さっき言ったよね? イヤだって」
「……」
あ、落ち込んだ。
予想通りの反応だ。
「ん~……でも、」
なら、こういう仕草をすれば、
「で、でも、なに?」
やっぱり。ちょっと持ち直して、期待するような顔になった。
その顔に向かって、ムフフと笑ってみる。
「かがみと、って部分だけは、ちょっと嬉しいかな」
「っ……!」
おー、赤くなった赤くなった。
となれば次に言ってくるのは、
「あ、あんたが――」
そんなことばっか言うから変なウワサを……って、あら?
来ない。
震える唇をぎゅっと引き結んで、言いかけた何かを押しとどめて飲み込んで、かがみは私から
顔を背けた。
「――すぅっ……、……はぁ……――」
深呼吸。
制服の胸のあたりを片手で握り締めて、上半身をフルに使って呼吸を整えてる。
落ち着け、落ち着くんだ……と、自分に言い聞かせてる、みたいな。
しばらくそうやってから、おもむろに顔を上げる。まだかなり赤いけど、真剣な顔。
「……それは、どういう意味?」
「どう、って……」
戸惑う。
また、ちょっとわからなくなった。
「真面目に、正直に答えて。それ聞いて私がどう思うとか、そんなこと考えなくていいから。ってか
また変な気を回したりしたら今度こそぶっとばす」
強い口調。
強い視線。
なんとなく緩んでいた空気が、再び張り詰めたものへと戻っていく。
「え、えっと……」
「……」
「と……とりあえず、座っていい?」
一旦逃げる。
でもそれも「正直な気持ち」だ。かがみもさっき言ってたけど、立ったままじゃ喋りにくい。
「……そうね」
少しだけ眉をしかめてかがみが言うのを受けて、なんとなくほっと息をついて、ベンチに座りなおす。
さて……と、あれ?
紅茶がない。
慌てて首を巡らせて――すぐに見つけた。地面に落ちてる。中身がぶちまけられてる。
いつの間に……
「ほら」
と、目の前に緑色が突き出された。緑茶のペットボトルだ。
顔を向けると、自分も座りなおしてたかがみが差し出してくれていた。
「あ、ありがと」
素直に受け取って、ひとくち。
まろやかな渋みがするりと喉に落ちていく。
おいしい。
この銘柄を飲むのは初めてじゃないけど、こんなに美味しかったっけ。かがみがくれたからかな。
って、そーいやこれ、間接キスだ。
「……」
まぁ、どうってことないけど。
「――それで?」
「え?」
「どういう意味なの?」
「あ……あぁ、うん」
そうだった。
意味。
ヘンなウワサを立てられるのはイヤだけど、それが「かがみと」って部分だけはちょっと嬉しい。
さっき私が言った、その意味。発言の意図。
それは……
「……面白い反応、してくれるかなって、思って……」
「……」
「い、いつものかがみみたいな……だってさっきまでのかがみ、ちょっと怖かったんだもん」
「……」
なんで、何も言ってくれないの?
ホントだよ? ウソなんか言ってないよ? それとも、こういう答えじゃ、だめなの?
「……はぁ……」
ため息。
心臓がきゅうっと締め上げられる。
「じゃあ、質問を変えるわ」
「え……?」
まぁ、言いたいことはとりあえず一つしかないんだけど。
言いたいというか、訊きたいというか。
「えっと……かがみ?」
「な、なによ」
「抱きしめて欲しいの?」
「そっ……!」
あ、沸騰した。
「そんなこと言ってないわよっ!!」
「いや、言ったじゃん。思いっきり言ったじゃん」
「だっ、だからそれは――言い間違いよっ!」
また、それ?
「だったらホントは何を言うつもりだったのさ」
「それは――だからっ! 今それを説明してんでしょうが! 黙って聞けよっ!」
「や、だって。何か言えって」
「うるさいっ!」
「……」
なんか、もう。
さらに支離滅裂になってる。さっきまで以上に言動が意味不明だ。
だけど。
わからないのに。かがみが何を言ってるのか、やっぱりさっぱりわからないのに。わからないという
点ではさっきまでとまったく同じなのに、気持ちがぜんぜん違う。
足元が砕け散りそうな不安も、泥が凍りついたみたいな胸のしこりも、まるで湧いてこない。
きれいさっぱりなくなったってわけじゃなく、まだ少し引きずってはいるけど、新たに湧いてくることは
なくなった。
「だから……つまり私は、釘を……――そう! それよ! あんたが噂を聞いたときにちゃんと対応
できるように! この件に対しての二人の認識を共通のものにしておこうと思ったのよ! そのため
にあんたがどう思うか聞きたいの!」
「はぁ……」
いやそんな、「上手く誤魔化してやったぞ! これでどうだ!」みたいな顔で言われても。
って、あれ?
なんか、わかる。
かがみの考えてることが、言葉の裏に隠そうとしてることが、なんとなくわかる……気がする。
「……私が、どう思うか?」
ちょっと試してみよう。
「そ、そうよ。答えて。正直に」
「さっき言ったよね? イヤだって」
「……」
あ、落ち込んだ。
予想通りの反応だ。
「ん~……でも、」
なら、こういう仕草をすれば、
「で、でも、なに?」
やっぱり。ちょっと持ち直して、期待するような顔になった。
その顔に向かって、ムフフと笑ってみる。
「かがみと、って部分だけは、ちょっと嬉しいかな」
「っ……!」
おー、赤くなった赤くなった。
となれば次に言ってくるのは、
「あ、あんたが――」
そんなことばっか言うから変なウワサを……って、あら?
来ない。
震える唇をぎゅっと引き結んで、言いかけた何かを押しとどめて飲み込んで、かがみは私から
顔を背けた。
「――すぅっ……、……はぁ……――」
深呼吸。
制服の胸のあたりを片手で握り締めて、上半身をフルに使って呼吸を整えてる。
落ち着け、落ち着くんだ……と、自分に言い聞かせてる、みたいな。
しばらくそうやってから、おもむろに顔を上げる。まだかなり赤いけど、真剣な顔。
「……それは、どういう意味?」
「どう、って……」
戸惑う。
また、ちょっとわからなくなった。
「真面目に、正直に答えて。それ聞いて私がどう思うとか、そんなこと考えなくていいから。ってか
また変な気を回したりしたら今度こそぶっとばす」
強い口調。
強い視線。
なんとなく緩んでいた空気が、再び張り詰めたものへと戻っていく。
「え、えっと……」
「……」
「と……とりあえず、座っていい?」
一旦逃げる。
でもそれも「正直な気持ち」だ。かがみもさっき言ってたけど、立ったままじゃ喋りにくい。
「……そうね」
少しだけ眉をしかめてかがみが言うのを受けて、なんとなくほっと息をついて、ベンチに座りなおす。
さて……と、あれ?
紅茶がない。
慌てて首を巡らせて――すぐに見つけた。地面に落ちてる。中身がぶちまけられてる。
いつの間に……
「ほら」
と、目の前に緑色が突き出された。緑茶のペットボトルだ。
顔を向けると、自分も座りなおしてたかがみが差し出してくれていた。
「あ、ありがと」
素直に受け取って、ひとくち。
まろやかな渋みがするりと喉に落ちていく。
おいしい。
この銘柄を飲むのは初めてじゃないけど、こんなに美味しかったっけ。かがみがくれたからかな。
って、そーいやこれ、間接キスだ。
「……」
まぁ、どうってことないけど。
「――それで?」
「え?」
「どういう意味なの?」
「あ……あぁ、うん」
そうだった。
意味。
ヘンなウワサを立てられるのはイヤだけど、それが「かがみと」って部分だけはちょっと嬉しい。
さっき私が言った、その意味。発言の意図。
それは……
「……面白い反応、してくれるかなって、思って……」
「……」
「い、いつものかがみみたいな……だってさっきまでのかがみ、ちょっと怖かったんだもん」
「……」
なんで、何も言ってくれないの?
ホントだよ? ウソなんか言ってないよ? それとも、こういう答えじゃ、だめなの?
「……はぁ……」
ため息。
心臓がきゅうっと締め上げられる。
「じゃあ、質問を変えるわ」
「え……?」
「あんた、私のこと、どう思ってるの?」
喉が、詰まった。
息ができない。
日はすっかり落ちて、辺りはもうだいぶ暗いけど、至近に迫ったかがみの顔は、よく見えた。
眉がきつく吊り上がっていて、口元は固く引き結ばれていて。
だけど、ほんの少し、震えてた。
緊張、してるんだ。かがみも。
同じなんだ。私と。
「ぁ……」
息が――できる。
わかる。
こういうとき、何を言うべきなのか。
どんな答えが望まれているのか。
でも、本当にそれを言っていいんだろうか。
遠慮はいらない。気遣いもいらない。かがみはそう言ってくれたけど。
この気持ちは、本当に言うべきことなのか。
これを伝えるべき相手は、本当にかがみで合ってるのか。
わからない。
けど、たぶん。
言えるのは、たぶん、今このときしか、ない。
「わたし、は……」
口を開いた――――まさにその瞬間!
息ができない。
日はすっかり落ちて、辺りはもうだいぶ暗いけど、至近に迫ったかがみの顔は、よく見えた。
眉がきつく吊り上がっていて、口元は固く引き結ばれていて。
だけど、ほんの少し、震えてた。
緊張、してるんだ。かがみも。
同じなんだ。私と。
「ぁ……」
息が――できる。
わかる。
こういうとき、何を言うべきなのか。
どんな答えが望まれているのか。
でも、本当にそれを言っていいんだろうか。
遠慮はいらない。気遣いもいらない。かがみはそう言ってくれたけど。
この気持ちは、本当に言うべきことなのか。
これを伝えるべき相手は、本当にかがみで合ってるのか。
わからない。
けど、たぶん。
言えるのは、たぶん、今このときしか、ない。
「わたし、は……」
口を開いた――――まさにその瞬間!
――みっ、みっ、みらくるっ、みっくるんるんっ♪
ズコーっ!!
突如鳴り響いた調子っ外れな歌声に、冗談抜きでズッコけた!
「なにっ! いったいなにっ!?」
いや私の携帯の着うたなんだけど!
いったい誰なのこのタイミングで!
「……」
ああああかがみも呆れてる。
突如鳴り響いた調子っ外れな歌声に、冗談抜きでズッコけた!
「なにっ! いったいなにっ!?」
いや私の携帯の着うたなんだけど!
いったい誰なのこのタイミングで!
「……」
ああああかがみも呆れてる。
――すーなーおぉに~スキーとー、言ーえーなーいーキミーもー、ゆーうーきーをーだぁしーて~♪
うるさいよっ!!
喧しい二つ折りのキカイをポケットから引っ張り出して、へし折らんばかりの勢いで開いてやると、
液晶のディスプレイに表示されていたのは、
「……もしもし」
『ああ、こなた。なにやってるんだこんな時間まで。心配するじゃないか。遅くなるときは連絡入れろ
って、いつも言ってるだろう』
「……おとーさん……」
だった。
『え? ……な、なんだ? どうした、こなた』
私の発した、なんかドス黒い声に、スピーカーの向こうで戸惑う気配。
息を限界まで吸い込んだ。
喧しい二つ折りのキカイをポケットから引っ張り出して、へし折らんばかりの勢いで開いてやると、
液晶のディスプレイに表示されていたのは、
「……もしもし」
『ああ、こなた。なにやってるんだこんな時間まで。心配するじゃないか。遅くなるときは連絡入れろ
って、いつも言ってるだろう』
「……おとーさん……」
だった。
『え? ……な、なんだ? どうした、こなた』
私の発した、なんかドス黒い声に、スピーカーの向こうで戸惑う気配。
息を限界まで吸い込んだ。
「――空気読んでよっ! せっかく良いムードだったのにっ!!」
我ながら無茶を言う。
『はっ!? ちょ、ちょっと待てムードってなんだ! 誰かと一緒なのか!?』
「……。今日、遅くなるから」
『なっ……!? ま――待てこなた! 男か!? 男なのか!? お父さんそんなの認めな』
ぶつんっ。
終了ボタンを力の限りに押し込んで強引に通話を終わらせる。そのまま電源も切る。
まったく。
今度こそ誰からの着信も逃すまいと音量を最大にしといた結果がコレだよ。
「ちょ、ちょっとこなた」
「ん?」
「なに、やってんのよあんたは。おじさんなんでしょ? そんな言い方したら誤解しちゃうじゃない」
誤解、か。
「いーんだよ。誤解させとけば」
携帯をポケットにしまう。
うん、誤解だ。
だから助かった。
「いいわけないでしょ。――ああもう」
「いいんだってば」
自分の携帯を取り出そうとするかがみを、そっと手で押さえる。
「それより、聞いて。返事するから」
「あ……」
はっとして、かがみは素直に手を止めた。
その顔をまっすぐに見つめながら、今度こそ正直な答えを、私は言った。
「かがみのこと、私は好きだよ」
「……!」
吊り目が見開かれる。
私はそれから目を逸らして、また正面を向く。顔を――反応を見ながらじゃ、この先は話しにくい。
「私さ、さっきまで様子がおかしかったでしょ」
そうだ。今ならわかる。
さっきまでの私はマトモじゃなかった。冷静なつもりで、でも決定的なところが狂ってた。
「……うん」
「それね、かがみと離れなきゃいけないって思ったからなんだよ。たぶん」
もう友だちじゃいられない。
二度と寄りかかっちゃいけない。
そんなことを思って、拗ねて、自棄になってた。かがみや他のみんなのことを考えているつもりで、
だけど本当のところは何も信じられなくなって逃げ出そうとしてただけだったんだ。
さらにはその反動なのかなんなのか、雰囲気に流されて間違ったことを口走りそうにもなったし。
「そのぐらい、かがみのことが好きなんだと思う」
向き直る。
かがみは息を呑んでいた。
自然と微笑むことができた。
「でもね、安心していいよ。だからどうしろとか、そういうことは何も言わないから」
「え……?」
「好きは好きだけど、友だちとしての範囲内だから。付き合いたいとか、恋人になって欲しいとか、
そんなことは思ってない。私はかがみのこと、そんなふうには、見てないから」
そう。
それが本心。それが誤解。
その証拠に、例えばこうして真正面から顔を見つめてても胸が高鳴ったりとかはしないし、唇に
目を奪われたりってこともない。だからこそ、間接キスぐらいならどうってことなくできてしまう。
セクハラまがいのスキンシップも、あくまで反応が面白いからやってるだけ。
私が性的な意味で女の子に萌えるのは、やっぱり二次元限定でしかないんだ。
「……だったら、『私と』って部分が嬉しいってのは、なんなのよ」
眉を寄せてかがみが訊く。
それは――
「それは、正直よくわかんない。――ただ、」
「ただ?」
「うん。ただ、これが例えばつかさやみゆきさんとって話だったら、喜べなかったと思う」
その違いはなんだろう。
二人のことももちろん好きだけど、かがみに対するそれと、何が違うんだろう。
方向性か、それとも度合いの問題か。
「私は、つまり……」
「うん?」
「つまりあんたから見て私は、つかさやみゆきとは別ってこと?」
「ん……そ、だね」
やっぱりよくわかんないけど。
「かがみは、特別かな」
「……」
かがみが顔をしかめる。難しそうに。
「そんな顔しないでよ。性的な意味でってわけじゃホントにないんだからさ」
「べ、別にそんな心配してないわよ。ただ……」
目を逸らされた。
「ただ?」
「私も……たぶんなんだけど――その前に。お茶返して」
「あ、はい」
そういえば借りっぱなしだった。差し出して、突き出してきた手に握らせる。
「ありがと」
「ちなみに間接キスになりますが、よろしいか?」
試しにそんなことを言ってみる。けど、
「…………んなもん、今さら気にしないわよ」
動揺はほとんど見られなかった。
言葉どおり、そのままひとくち。動作が若干わざとらしいってゆーか、逆に見せ付けるように唇を
突き出し気味にしてる感じがしないでもないけど。
「むぅ、つまんない」
「茶化すな。――ってゆーか、私も同じなのよ。たぶん」
「え?」
「だから、」
また、ひとくち。
「私もあんたのことは、好きか嫌いかで言えば好きだけど、あんたと同じで変な意味じゃないってこと」
「……。好きか嫌いかの二択なら、好き?」
「そうよ。悪い?」
「うん。悪い」
思わず、といった感じで向き直ってくる。
軽くショックを受けたような顔。
「好きか嫌いか、どーでもいーか。三択で答えて」
「んなっ……!?」
ショックが重くなった。
目を見開いたその顔に、ムフフと笑みを向けてやる。
「あーごめんごめん。ツンデレにはちとキビシー問題だったね」
「だから私はそんなんじゃないって!」
「じゃー答えて?」
「っ……!」
あっさり引っ掛かった。
うわ、なんか、やっぱ、楽しい。
「……嫌いじゃないし、どうでもよかったら今ここにいないわよ」
苦虫を噛み潰したような顔で、背けて、ぼそぼそとかがみは答えた。
「むぅ……まぁいいでしょう」
「なんで偉そうだよ」
腕を組んで反り返ってやると、ジト目で睨んできた。
そしてため息。
「ってゆーかね、そんなことはわかってんのよ。問題なのはその先なの」
「先って?」
「だから――」
吐いた分よりさらに大きく息を吸い込んで、かがみは再度、私の目を見据えてくる。
真剣そのものの眼差し。
だけど気圧されることは、もうなかった。
「私は……私も、あんたのことは普通に友だちだと思ってた。――つかさの、とかじゃないわよ?
最初はそうだったかも知れないけど、今は違うんだからね」
「……うん」
うなずく。
素直に、信じられた。
「……。でも、あいつらが噂してるのを聞いて、わかんなくなったのよ。私にとってあんたは、本当に
“ただの友だち”なのか、って」
そういえばさっきから何度かそんなことを言ってた気がする。けどやっぱり、よくわからない。
「どういうこと?」
「例えば……他の、みゆきとか日下部とか峰岸とか相手なら、それで納得できるのよ。友だち――
ううん。親友、かな。でもあんたの場合はそうじゃなかった」
「私は、親友じゃない?」
「違くてっ。……別に、親友でもいいわよ。あんたさえ良ければ」
ツンデレだ。
「ただ、それだけじゃない何かがある気がするの。ただし、れ、恋愛感情とかじゃないわよっ。それ
は何度も考えたし確認もしたから、間違いないわ」
どもられると説得力ないんですが。
ってゆーか、
「確認って、どうやって」
「……今もやってるわ。正面から顔見てもドキドキとかしないし、さっき教室で手とか握られたけど、
それも別に平気だった。恋愛感情だったらそれじゃ済まないでしょ?」
「……」
なるほど。
一概には言えないんじゃって気もするけど、私もそれはおんなじだしね。なんとなくわかった。
でも、
「ええと、つまり……」
声をこぼしつつ、思わず首を捻る。
「それが何か、マズいの?」
「マズいってゆーか……つまり私は、私とあんたの関係を、はっきりと定義したいの」
わかんないなぁ。
言ってることはだいぶ理解できたけど、かがみが何にそこまでこだわってるのかが、いまいち
ピンとこない。
「親友、じゃダメなの?」
「だから……」
額に手を当てて、呻くようにため息。
「別にダメってわけじゃないけど、それだとみゆきとか日下部とか峰岸と一緒になっちゃうじゃない。
あんただけは、なんか違うのよ」
「そりゃ違うでしょ。私とその三人とじゃ、タイプがぜんぜん」
「それを言うなら三人ともそれぞれ違うでしょ。あんただけおかしな方向にズレてるの」
「おかしな方向って?」
「それがわからないから言ってんでしょうがっ」
どうしろと。
「……意識しすぎなんじゃないの?」
「どういうことよ」
「だから、その――男子たち? ソレがヘンなウワサしてるの聞いたせいで、釣られてヘンに意識
しちゃってるだけなんじゃ、ってこと」
「……その可能性なら、私も考えたわよ」
「でも違った?」
「うん」
頭を抱えたくなる。
なんなんだ、それ。
「ってゆーか、あんたは気にならないの? あんたも似たようなもんなんでしょ?」
「ん? ……うん。かがみだけは特別だよ。でも、それで十分じゃない? 特別な親友」
「……でも、それじゃ……」
「なに?」
「…………それじゃ、困るのよ」
わっかんないなぁ! もう!
さっきまでとは別の意味で食い違ってる。なにかこう、根本的なところでズレがあるってゆーか。
そーいやかがみって元もとは理系なんだよね。私たちと同じ組になりたいから文系選んだって
だけで。その辺りが、関係してるのかな。
なんてゆーかこー、数学的ってゆーか、方程式とか化学式みたいなものを人間関係にも適用
しようとしてる、みたいな。冷たいってわけじゃなく、それがかがみなりの誠実さなんだろうけど。
でも、だとしたら私じゃ力になれないよ。
『はっ!? ちょ、ちょっと待てムードってなんだ! 誰かと一緒なのか!?』
「……。今日、遅くなるから」
『なっ……!? ま――待てこなた! 男か!? 男なのか!? お父さんそんなの認めな』
ぶつんっ。
終了ボタンを力の限りに押し込んで強引に通話を終わらせる。そのまま電源も切る。
まったく。
今度こそ誰からの着信も逃すまいと音量を最大にしといた結果がコレだよ。
「ちょ、ちょっとこなた」
「ん?」
「なに、やってんのよあんたは。おじさんなんでしょ? そんな言い方したら誤解しちゃうじゃない」
誤解、か。
「いーんだよ。誤解させとけば」
携帯をポケットにしまう。
うん、誤解だ。
だから助かった。
「いいわけないでしょ。――ああもう」
「いいんだってば」
自分の携帯を取り出そうとするかがみを、そっと手で押さえる。
「それより、聞いて。返事するから」
「あ……」
はっとして、かがみは素直に手を止めた。
その顔をまっすぐに見つめながら、今度こそ正直な答えを、私は言った。
「かがみのこと、私は好きだよ」
「……!」
吊り目が見開かれる。
私はそれから目を逸らして、また正面を向く。顔を――反応を見ながらじゃ、この先は話しにくい。
「私さ、さっきまで様子がおかしかったでしょ」
そうだ。今ならわかる。
さっきまでの私はマトモじゃなかった。冷静なつもりで、でも決定的なところが狂ってた。
「……うん」
「それね、かがみと離れなきゃいけないって思ったからなんだよ。たぶん」
もう友だちじゃいられない。
二度と寄りかかっちゃいけない。
そんなことを思って、拗ねて、自棄になってた。かがみや他のみんなのことを考えているつもりで、
だけど本当のところは何も信じられなくなって逃げ出そうとしてただけだったんだ。
さらにはその反動なのかなんなのか、雰囲気に流されて間違ったことを口走りそうにもなったし。
「そのぐらい、かがみのことが好きなんだと思う」
向き直る。
かがみは息を呑んでいた。
自然と微笑むことができた。
「でもね、安心していいよ。だからどうしろとか、そういうことは何も言わないから」
「え……?」
「好きは好きだけど、友だちとしての範囲内だから。付き合いたいとか、恋人になって欲しいとか、
そんなことは思ってない。私はかがみのこと、そんなふうには、見てないから」
そう。
それが本心。それが誤解。
その証拠に、例えばこうして真正面から顔を見つめてても胸が高鳴ったりとかはしないし、唇に
目を奪われたりってこともない。だからこそ、間接キスぐらいならどうってことなくできてしまう。
セクハラまがいのスキンシップも、あくまで反応が面白いからやってるだけ。
私が性的な意味で女の子に萌えるのは、やっぱり二次元限定でしかないんだ。
「……だったら、『私と』って部分が嬉しいってのは、なんなのよ」
眉を寄せてかがみが訊く。
それは――
「それは、正直よくわかんない。――ただ、」
「ただ?」
「うん。ただ、これが例えばつかさやみゆきさんとって話だったら、喜べなかったと思う」
その違いはなんだろう。
二人のことももちろん好きだけど、かがみに対するそれと、何が違うんだろう。
方向性か、それとも度合いの問題か。
「私は、つまり……」
「うん?」
「つまりあんたから見て私は、つかさやみゆきとは別ってこと?」
「ん……そ、だね」
やっぱりよくわかんないけど。
「かがみは、特別かな」
「……」
かがみが顔をしかめる。難しそうに。
「そんな顔しないでよ。性的な意味でってわけじゃホントにないんだからさ」
「べ、別にそんな心配してないわよ。ただ……」
目を逸らされた。
「ただ?」
「私も……たぶんなんだけど――その前に。お茶返して」
「あ、はい」
そういえば借りっぱなしだった。差し出して、突き出してきた手に握らせる。
「ありがと」
「ちなみに間接キスになりますが、よろしいか?」
試しにそんなことを言ってみる。けど、
「…………んなもん、今さら気にしないわよ」
動揺はほとんど見られなかった。
言葉どおり、そのままひとくち。動作が若干わざとらしいってゆーか、逆に見せ付けるように唇を
突き出し気味にしてる感じがしないでもないけど。
「むぅ、つまんない」
「茶化すな。――ってゆーか、私も同じなのよ。たぶん」
「え?」
「だから、」
また、ひとくち。
「私もあんたのことは、好きか嫌いかで言えば好きだけど、あんたと同じで変な意味じゃないってこと」
「……。好きか嫌いかの二択なら、好き?」
「そうよ。悪い?」
「うん。悪い」
思わず、といった感じで向き直ってくる。
軽くショックを受けたような顔。
「好きか嫌いか、どーでもいーか。三択で答えて」
「んなっ……!?」
ショックが重くなった。
目を見開いたその顔に、ムフフと笑みを向けてやる。
「あーごめんごめん。ツンデレにはちとキビシー問題だったね」
「だから私はそんなんじゃないって!」
「じゃー答えて?」
「っ……!」
あっさり引っ掛かった。
うわ、なんか、やっぱ、楽しい。
「……嫌いじゃないし、どうでもよかったら今ここにいないわよ」
苦虫を噛み潰したような顔で、背けて、ぼそぼそとかがみは答えた。
「むぅ……まぁいいでしょう」
「なんで偉そうだよ」
腕を組んで反り返ってやると、ジト目で睨んできた。
そしてため息。
「ってゆーかね、そんなことはわかってんのよ。問題なのはその先なの」
「先って?」
「だから――」
吐いた分よりさらに大きく息を吸い込んで、かがみは再度、私の目を見据えてくる。
真剣そのものの眼差し。
だけど気圧されることは、もうなかった。
「私は……私も、あんたのことは普通に友だちだと思ってた。――つかさの、とかじゃないわよ?
最初はそうだったかも知れないけど、今は違うんだからね」
「……うん」
うなずく。
素直に、信じられた。
「……。でも、あいつらが噂してるのを聞いて、わかんなくなったのよ。私にとってあんたは、本当に
“ただの友だち”なのか、って」
そういえばさっきから何度かそんなことを言ってた気がする。けどやっぱり、よくわからない。
「どういうこと?」
「例えば……他の、みゆきとか日下部とか峰岸とか相手なら、それで納得できるのよ。友だち――
ううん。親友、かな。でもあんたの場合はそうじゃなかった」
「私は、親友じゃない?」
「違くてっ。……別に、親友でもいいわよ。あんたさえ良ければ」
ツンデレだ。
「ただ、それだけじゃない何かがある気がするの。ただし、れ、恋愛感情とかじゃないわよっ。それ
は何度も考えたし確認もしたから、間違いないわ」
どもられると説得力ないんですが。
ってゆーか、
「確認って、どうやって」
「……今もやってるわ。正面から顔見てもドキドキとかしないし、さっき教室で手とか握られたけど、
それも別に平気だった。恋愛感情だったらそれじゃ済まないでしょ?」
「……」
なるほど。
一概には言えないんじゃって気もするけど、私もそれはおんなじだしね。なんとなくわかった。
でも、
「ええと、つまり……」
声をこぼしつつ、思わず首を捻る。
「それが何か、マズいの?」
「マズいってゆーか……つまり私は、私とあんたの関係を、はっきりと定義したいの」
わかんないなぁ。
言ってることはだいぶ理解できたけど、かがみが何にそこまでこだわってるのかが、いまいち
ピンとこない。
「親友、じゃダメなの?」
「だから……」
額に手を当てて、呻くようにため息。
「別にダメってわけじゃないけど、それだとみゆきとか日下部とか峰岸と一緒になっちゃうじゃない。
あんただけは、なんか違うのよ」
「そりゃ違うでしょ。私とその三人とじゃ、タイプがぜんぜん」
「それを言うなら三人ともそれぞれ違うでしょ。あんただけおかしな方向にズレてるの」
「おかしな方向って?」
「それがわからないから言ってんでしょうがっ」
どうしろと。
「……意識しすぎなんじゃないの?」
「どういうことよ」
「だから、その――男子たち? ソレがヘンなウワサしてるの聞いたせいで、釣られてヘンに意識
しちゃってるだけなんじゃ、ってこと」
「……その可能性なら、私も考えたわよ」
「でも違った?」
「うん」
頭を抱えたくなる。
なんなんだ、それ。
「ってゆーか、あんたは気にならないの? あんたも似たようなもんなんでしょ?」
「ん? ……うん。かがみだけは特別だよ。でも、それで十分じゃない? 特別な親友」
「……でも、それじゃ……」
「なに?」
「…………それじゃ、困るのよ」
わっかんないなぁ! もう!
さっきまでとは別の意味で食い違ってる。なにかこう、根本的なところでズレがあるってゆーか。
そーいやかがみって元もとは理系なんだよね。私たちと同じ組になりたいから文系選んだって
だけで。その辺りが、関係してるのかな。
なんてゆーかこー、数学的ってゆーか、方程式とか化学式みたいなものを人間関係にも適用
しようとしてる、みたいな。冷たいってわけじゃなく、それがかがみなりの誠実さなんだろうけど。
でも、だとしたら私じゃ力になれないよ。
「――ってかさ」
「うん?」
私の声に、難しそうな顔がこちらに向く。
「別に今日中に答え出す必要とかないなら、続きは明日にしない? もう真っ暗だよ?」
「あっ……」
そして慌てたように周囲に巡らせて、うなずいた。
「……そうね。ごめん」
「や、いいけど。――よっと」
弾みをつけてベンチから立ち上がって、放ったらかしだった紅茶の缶を拾う。
あーあ、ほとんどこぼれちゃってる。もったいない。せっかくかがみが買ってくれたのに。
えっと……あれ? ゴミ箱がない。撤去されちゃったのかな?
ま、いーや。どっか途中にあるだろう。
「……悪かったわね、ヘンなことに付き合わせて」
自分も立ち上がりながら、ぽつりとこぼすようにかがみが言った。
「いいよ。必要だったんでしょ?」
「うん……」
煮え切らない声だ。
表情の方は、よくわからない。暗いし。
「ま、確かに解決しなかったけどさ」
だから歩み寄った。
「でもコレって、たぶんそんなすぐに答えが出るような問題じゃないと思うよ? だからとりあえず、
今日のところは問題の共有ができたってことで満足しとこーよ」
そしてにっこりと笑いかけると、しかし目を逸らされてしまった。
「……そう、ね」
むぅ。
なんだろう。まだ何かあるのかな。そんな態度じゃまた不安になっちゃうよ。
「ねぇ、かがみ」
「ん……?」
「一つお願いがあるんだけど」
「……なに?」
視線が戻ってきた。
少し安心する。
だけど、まだ足りない。
「目、閉じて?」
言うと、かがみは一瞬きょとんとして、次にぎょっとなって、一歩下がった。
思わず苦笑いだ。
「そんな警戒しないでよ。別にキスなんかしないからさ」
「そ、そんなこと思ってないわよ……でも、本当でしょうね」
「信じてってば」
「……分かったわよ」
諦めたように息をついて、そして一歩下がった体勢のまま、かがみは目を閉じた。
それを確認すると私は、まず空き缶とカバンをベンチに置きなおして、それから。
「うん?」
私の声に、難しそうな顔がこちらに向く。
「別に今日中に答え出す必要とかないなら、続きは明日にしない? もう真っ暗だよ?」
「あっ……」
そして慌てたように周囲に巡らせて、うなずいた。
「……そうね。ごめん」
「や、いいけど。――よっと」
弾みをつけてベンチから立ち上がって、放ったらかしだった紅茶の缶を拾う。
あーあ、ほとんどこぼれちゃってる。もったいない。せっかくかがみが買ってくれたのに。
えっと……あれ? ゴミ箱がない。撤去されちゃったのかな?
ま、いーや。どっか途中にあるだろう。
「……悪かったわね、ヘンなことに付き合わせて」
自分も立ち上がりながら、ぽつりとこぼすようにかがみが言った。
「いいよ。必要だったんでしょ?」
「うん……」
煮え切らない声だ。
表情の方は、よくわからない。暗いし。
「ま、確かに解決しなかったけどさ」
だから歩み寄った。
「でもコレって、たぶんそんなすぐに答えが出るような問題じゃないと思うよ? だからとりあえず、
今日のところは問題の共有ができたってことで満足しとこーよ」
そしてにっこりと笑いかけると、しかし目を逸らされてしまった。
「……そう、ね」
むぅ。
なんだろう。まだ何かあるのかな。そんな態度じゃまた不安になっちゃうよ。
「ねぇ、かがみ」
「ん……?」
「一つお願いがあるんだけど」
「……なに?」
視線が戻ってきた。
少し安心する。
だけど、まだ足りない。
「目、閉じて?」
言うと、かがみは一瞬きょとんとして、次にぎょっとなって、一歩下がった。
思わず苦笑いだ。
「そんな警戒しないでよ。別にキスなんかしないからさ」
「そ、そんなこと思ってないわよ……でも、本当でしょうね」
「信じてってば」
「……分かったわよ」
諦めたように息をついて、そして一歩下がった体勢のまま、かがみは目を閉じた。
それを確認すると私は、まず空き缶とカバンをベンチに置きなおして、それから。
抱きついた。
「!?」
あったかい感触が小さく跳ねた。
「ちょっ……!」
「じっとして」
三次元も捨てたもんじゃないね。
こうして触れあって、温もりを感じることができるから。
「じっとしてじゃないわよっ。い、言い間違いって言ったでしょっ。私は別にこんなこと――」
「私がしたいから、だよ。――言ったでしょ? お願いだって」
「……っ」
それほど力は込めてないから、振りほどこうと思えば簡単にできるはず。
だけどかがみは、胸を大きく上下させながら、逆に身体の強張りを少しずつ解いていってくれた。
嬉しい。
「ねぇ」
「……なによ」
「その、定義? はともかくとしてさ、つまり今までどおりでいいってことだよね? 私たち」
「……できれば自重して欲しいけどな、こういうことは」
「わかってる。人前じゃやらないようにするよ。……でも二人っきりのときなら、いいよね?」
「だっ――なんであんたはいちいちそういう言い方なのよっ!」
「ふひひっ、さーせん」
ホントに、なんでだろうね。
かがみに対する私の「好き」は、あくまで「友だちとして」の範囲内だけど、実はかなりボーダー
ギリギリなのかも知れない。
ちょっとした弾みで“許されざる側”に転がり落ちてしまうような、そんな危うい位置にいるのかも。
あったかい感触が小さく跳ねた。
「ちょっ……!」
「じっとして」
三次元も捨てたもんじゃないね。
こうして触れあって、温もりを感じることができるから。
「じっとしてじゃないわよっ。い、言い間違いって言ったでしょっ。私は別にこんなこと――」
「私がしたいから、だよ。――言ったでしょ? お願いだって」
「……っ」
それほど力は込めてないから、振りほどこうと思えば簡単にできるはず。
だけどかがみは、胸を大きく上下させながら、逆に身体の強張りを少しずつ解いていってくれた。
嬉しい。
「ねぇ」
「……なによ」
「その、定義? はともかくとしてさ、つまり今までどおりでいいってことだよね? 私たち」
「……できれば自重して欲しいけどな、こういうことは」
「わかってる。人前じゃやらないようにするよ。……でも二人っきりのときなら、いいよね?」
「だっ――なんであんたはいちいちそういう言い方なのよっ!」
「ふひひっ、さーせん」
ホントに、なんでだろうね。
かがみに対する私の「好き」は、あくまで「友だちとして」の範囲内だけど、実はかなりボーダー
ギリギリなのかも知れない。
ちょっとした弾みで“許されざる側”に転がり落ちてしまうような、そんな危うい位置にいるのかも。
「――よっし! かがみ分補充かんりょー」
手を下ろす。
一歩離れて、ベンチから空き缶とカバンを拾い上げて――そうやって、両手をふさいだ。
「なんだよ私分って」
「別名ツンデレ分。現代人の必須栄養素の中でも最重要なものの一つだよ」
そして歩き出す。
公園の出口に向かって、ゆっくりと。
「どうやらその『現代』とやらにはお前しか存在してないらしいな」
「オーケー、ツッコミ分も確保」
「……このやろう……」
隣を歩きながら、額に手を当てて苛立たしげにかがみは呻く。
「てかさ、かがみ、顔赤いよ? ソノ気はないんじゃなかったの?」
「それはっ――そう、だけど……仕方ないでしょ、ああいうスキンシップとか、慣れてないんだから」
二人で並んで公園を出る。
「そっか。ごめんね、私は慣れてるんだ。おとーさんがあんなだから」
――その、直前で。
手を下ろす。
一歩離れて、ベンチから空き缶とカバンを拾い上げて――そうやって、両手をふさいだ。
「なんだよ私分って」
「別名ツンデレ分。現代人の必須栄養素の中でも最重要なものの一つだよ」
そして歩き出す。
公園の出口に向かって、ゆっくりと。
「どうやらその『現代』とやらにはお前しか存在してないらしいな」
「オーケー、ツッコミ分も確保」
「……このやろう……」
隣を歩きながら、額に手を当てて苛立たしげにかがみは呻く。
「てかさ、かがみ、顔赤いよ? ソノ気はないんじゃなかったの?」
「それはっ――そう、だけど……仕方ないでしょ、ああいうスキンシップとか、慣れてないんだから」
二人で並んで公園を出る。
「そっか。ごめんね、私は慣れてるんだ。おとーさんがあんなだから」
――その、直前で。
「あ……」
足が止まった。
ほとんど自動的に、隣を見上げる。
「かがみ」
「な、なによ」
かがみも、あと一歩ってところで、止まった。
「かがみは、私のことが普通に好きで、でも別に興奮したりとかはない、んだよね?」
「そうだけど……え? 急になに?」
戸惑ってる。
構うことなく私は続けた。
「私もそれはおんなじ。でも、会えなくなるとか、近くにいられなくなるとかはイヤ。できれば一生の
友だちでいたいと思ってる。――かがみは、どう?」
「それは……まぁ、否定はしないけど」
戸惑いながらも、かがみは答えた。
少し曖昧だけど、答えてくれた。
だったら。
「だったら私、知ってるよ。それに近い関係を、なんて言うか」
頬が緩む。
かがみは目を見開いた。
「な、なに!? 教えて!」
勢い込んでくる。
期待に満ちたその姿に、ますます顔が緩む。気持ちが抑えられなくて、私はニンマリと笑った。
人差し指を一本、立てた。
ほとんど自動的に、隣を見上げる。
「かがみ」
「な、なによ」
かがみも、あと一歩ってところで、止まった。
「かがみは、私のことが普通に好きで、でも別に興奮したりとかはない、んだよね?」
「そうだけど……え? 急になに?」
戸惑ってる。
構うことなく私は続けた。
「私もそれはおんなじ。でも、会えなくなるとか、近くにいられなくなるとかはイヤ。できれば一生の
友だちでいたいと思ってる。――かがみは、どう?」
「それは……まぁ、否定はしないけど」
戸惑いながらも、かがみは答えた。
少し曖昧だけど、答えてくれた。
だったら。
「だったら私、知ってるよ。それに近い関係を、なんて言うか」
頬が緩む。
かがみは目を見開いた。
「な、なに!? 教えて!」
勢い込んでくる。
期待に満ちたその姿に、ますます顔が緩む。気持ちが抑えられなくて、私はニンマリと笑った。
人差し指を一本、立てた。
「夫婦」
あ。
なんか久しぶりかも知れない、この仕草。
「……」
「……」
「……はぁっ!?」
あはっ、凄い顔。
パースが狂ったみたいだ。
「つまりかがみは私のヨメってことだね!」
「いやちょっと待て。なに言ってんだ、なんでそうなる」
引きつったようなしかめっ面で、早口で、かがみ。
それをまぁまぁと制しつつ、私は話を続ける。
「最後まで聞いてよ。――うちってほら、お母さんいないじゃん」
「……」
って、固まっちゃった。
うぅん、やっぱコレ関係の話ってムダに重過ぎるよね。自分じゃ個性の一つぐらいにしか思って
ないのに。テンション下がるなぁ。
「そんな顔しないでってば。単に、だからうちには夫婦ってものも存在しないってことだよ」
「…………じゃあなんで、そんなこと言えるのよ」
「知らないから、考えてみたことがあるんだよ。ゆーちゃんの実家に遊びに行ったときに叔母さん
たちを観察してみたりとか。そしたらそんな結論が出たわけ。好きあってるけどがっついてなくて、
でも離れたくないと思ってる、って。かがみのトコもそんな感じじゃない?」
「それは……」
お、揺らいだ。
よぉしトドメだ。
「つまり私はかがみのヨメってことだね!」
「に、二回も言うな!」
うわぁ、どうしよ。
嬉しい。ってか楽しい。
ニヤニヤが止まんない。
「そんなの――そんな、それは、なんか違うだろ! おかしいだろ!」
この反応。
これこそ、かがみだ。
「よおっし結論出たね。じゃー帰ろーっ」
公園の外に、一歩、踏み出す。
「聞けよっ! ってか! お前やっぱりわかってないだろ!」
そして歩き出すと。
かがみも追いかけてきてくれる。
「そういうことばっか言うから――って! 待てっ! 待ちなさいよこなたっ!」
名前を呼んでくれる。
「ほらかがみ、早くっ。帰り遅くなっちゃうよっ」
「だからっ! 待てって言ってんでしょうがっ!」
私が呼ぶと、答えてくれる。
それっぽっちのことが。
すごく、嬉しい。
なんか久しぶりかも知れない、この仕草。
「……」
「……」
「……はぁっ!?」
あはっ、凄い顔。
パースが狂ったみたいだ。
「つまりかがみは私のヨメってことだね!」
「いやちょっと待て。なに言ってんだ、なんでそうなる」
引きつったようなしかめっ面で、早口で、かがみ。
それをまぁまぁと制しつつ、私は話を続ける。
「最後まで聞いてよ。――うちってほら、お母さんいないじゃん」
「……」
って、固まっちゃった。
うぅん、やっぱコレ関係の話ってムダに重過ぎるよね。自分じゃ個性の一つぐらいにしか思って
ないのに。テンション下がるなぁ。
「そんな顔しないでってば。単に、だからうちには夫婦ってものも存在しないってことだよ」
「…………じゃあなんで、そんなこと言えるのよ」
「知らないから、考えてみたことがあるんだよ。ゆーちゃんの実家に遊びに行ったときに叔母さん
たちを観察してみたりとか。そしたらそんな結論が出たわけ。好きあってるけどがっついてなくて、
でも離れたくないと思ってる、って。かがみのトコもそんな感じじゃない?」
「それは……」
お、揺らいだ。
よぉしトドメだ。
「つまり私はかがみのヨメってことだね!」
「に、二回も言うな!」
うわぁ、どうしよ。
嬉しい。ってか楽しい。
ニヤニヤが止まんない。
「そんなの――そんな、それは、なんか違うだろ! おかしいだろ!」
この反応。
これこそ、かがみだ。
「よおっし結論出たね。じゃー帰ろーっ」
公園の外に、一歩、踏み出す。
「聞けよっ! ってか! お前やっぱりわかってないだろ!」
そして歩き出すと。
かがみも追いかけてきてくれる。
「そういうことばっか言うから――って! 待てっ! 待ちなさいよこなたっ!」
名前を呼んでくれる。
「ほらかがみ、早くっ。帰り遅くなっちゃうよっ」
「だからっ! 待てって言ってんでしょうがっ!」
私が呼ぶと、答えてくれる。
それっぽっちのことが。
すごく、嬉しい。
やっぱり私は、危うい位置にいるらしい。
ちょっとした弾みで“許されざる側”に転がり落ちてしまうような、そんな位置に。
だけど実際に堕ちてしまうことは、きっとない。
ボーダーギリギリの崖っぷちだけど、そこにはちゃんと柵があるから。
たとえ全力で寄りかかっても、しっかりと受け止めて支えてくれる、優しくて誠実できれいな柵が。
だけど実際に堕ちてしまうことは、きっとない。
ボーダーギリギリの崖っぷちだけど、そこにはちゃんと柵があるから。
たとえ全力で寄りかかっても、しっかりと受け止めて支えてくれる、優しくて誠実できれいな柵が。
「だってもうこんな真っ暗だよ? おとーさん心配してるだろーなー。誤解してるだろーし」
「あんたが自分で誤解させたんだろうが。……付き合わせたのは、悪かったけど」
「あんたが自分で誤解させたんだろうが。……付き合わせたのは、悪かったけど」
ここから堕ちるってことは、その柵を――かがみを、壊してしまうってことだ。
そんなの、できるわけがない。
実行した時点で全てが無意味になってしまうようなこと、どうしてやろうなんて思えるだろう。
少なくとも私はイヤだよ。それがどんなにナイスなボートでも、絶対に乗りたくなんかない。
そんなの、できるわけがない。
実行した時点で全てが無意味になってしまうようなこと、どうしてやろうなんて思えるだろう。
少なくとも私はイヤだよ。それがどんなにナイスなボートでも、絶対に乗りたくなんかない。
「でしょ? だからさ、かがみ。このままうちに来て一緒に説明してよ」
「はぁ? なんでそんなことしなくちゃいけないのよ」
「はぁ? なんでそんなことしなくちゃいけないのよ」
私が私であり、かがみがかがみである限り、私たちが恋人関係を結ぶことは決してない。
だから、たぶんそう遠くない将来、かがみは私じゃない誰かと恋人になる。
それはきっと、辛い。
だから、たぶんそう遠くない将来、かがみは私じゃない誰かと恋人になる。
それはきっと、辛い。
「だってこんなに遅くなったの、かがみのせいじゃん。それに最近ブッソーだし、送ってってよ」
「あんたなら平気だろ。ってか私はどうすんのよ」
「あんたなら平気だろ。ってか私はどうすんのよ」
でも、そうなったら、そのときは。
「大丈夫だよ」
私は、このままでいよう。
「おとーさんに送らせるから。車で」
「って、そんなわけにいかないでしょ。悪いわよそんなの。結局迷惑かけちゃうじゃない」
「って、そんなわけにいかないでしょ。悪いわよそんなの。結局迷惑かけちゃうじゃない」
それまでとまったく変わらずに、かがみにべたべたしてやろう。
キミがかがみのカレシだろうが、かがみは私のヨメなんだゾって、笑って言ってやろう。
そうやって、思いっきりヤキモチ妬かせてやろう。
それはきっと、凄く楽しい。
キミがかがみのカレシだろうが、かがみは私のヨメなんだゾって、笑って言ってやろう。
そうやって、思いっきりヤキモチ妬かせてやろう。
それはきっと、凄く楽しい。
「だーいじょーぶ。喜んでやってくれるって。その方が私も安心できるし。――おとーさんは嬉しい。
私は安心。かがみは安全。何か問題あるかね?」
私は安心。かがみは安全。何か問題あるかね?」
相手にとってはたまったもんじゃないだろうけど、最後には笑って許してくれると思う。
かがみが選ぶような相手なら。
かがみが選ぶような相手なら。
「……わかったわよ。そこまで言うなら、そうしてあげるわよ」
「やたっ! わ~いっ」
「だからくっつくな! ……ったく、何がそんなに嬉しいのよ」
「やたっ! わ~いっ」
「だからくっつくな! ……ったく、何がそんなに嬉しいのよ」
そして何より、私とかがみが、女同士だから。
「だって今は少しでも一緒にいたい気分なんだもん。明日からはみさきちと共有しなきゃいけないし」
「っ……きょ、共有とか言うな。私が善意であんたらの世話してやってんでしょーが」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「ツンデレ言うなっ!」
「っ……きょ、共有とか言うな。私が善意であんたらの世話してやってんでしょーが」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「ツンデレ言うなっ!」
許されていないからこそ、許される。
そんな関係を、私たちは築くことができる。
そんな関係を、私たちは築くことができる。
「あ、そーいやかがみは家に連絡しなくていいの?」
「ん? あぁ、つかさに言っといたから、大丈夫よ」
「ん? あぁ、つかさに言っといたから、大丈夫よ」
その関係に名前はない。
ただの友だちでもないし、恋人同士でもない。もちろん夫婦でも、パートナーでもバディでもない。
親友とも、ちょっと違う。
ただの友だちでもないし、恋人同士でもない。もちろん夫婦でも、パートナーでもバディでもない。
親友とも、ちょっと違う。
「むー、自分ばっかり用意が良くてズルいよね」
「うるさいわね。…………あ」
「ん?」
「あ、いや。つかさで思い出したんだけど……まぁ、ぜんぜん関係ない話よ」
「うるさいわね。…………あ」
「ん?」
「あ、いや。つかさで思い出したんだけど……まぁ、ぜんぜん関係ない話よ」
そんな名前や定義なんか必要ない。
「お。いーね、ムダ話。なんか久しぶりな気がするよ」
「そうか? まぁ、そうか。――でもこれ、あんたに言ってわかるのかな?」
「そうか? まぁ、そうか。――でもこれ、あんたに言ってわかるのかな?」
私とかがみは、
「なになに?」
「えっとね――」
「えっとね――」
“私とかがみ” だ。
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- ふ~む…これは、深い作品ですね…最高です!!!! -- 名無しさん (2008-11-10 20:44:21)
- 親友より上・・・心友?とか -- 名無しさん (2008-10-27 09:24:15)
- 深いです。
最高です。 -- 名有りさん (2008-10-26 02:21:53) - 深く考えさせられました。
長々と書けませんが、こういう関係が実は一番好きなのかもしれません
こなかが最高!! -- 名無しさん (2008-10-22 19:32:08) - その関係に名前がなければ、作ってしまえばいい。
・・・超親友?
-- 名無しさん (2008-10-22 04:21:15) - この二人ならきっとたとえどっちかが男でもこなたとかがみの関係は揺らがないでしょう
ただ恋愛は出来なさそう
こなたにとってかがみより大きい存在なんて出来る可能性は低いでしょうし
実はかがみみがみゆきが告白されたと勘違いしたと思ったままの気が
つかさが同姓を否定できなかったのは誰のせいでしょうかねぇ -- 名無しさん (2008-10-22 01:05:05) - 二人が一線を軽く飛び越えてしまう作品に慣れてしまった中、この様な作品はまた新鮮で違った気持ちになりますね。この二人はいつまでもこの二人のままが一番だと思います。
べっ、別に百合展開を期待してたなんてゲフンゲフン -- 名無しさん (2008-10-21 06:00:12) - こな×かが、大好きですが・・・
本当にありそうな、こういうこな×かがも、良いものですね。
ちょっと切なくて、でもある意味最良のこな×かがと思いました。
作者様、ありがとう。 -- 名無しさん (2008-10-20 14:48:11)