アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

こなたルート・ふもっふ!

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 どうしてこんなことになったのだろうと俺はキリキリ痛む頭で考える。目の前には艶のある髪を膝の裏まで伸ばした小柄な少女がいて、何故か上向きに顔を上げ、目を閉じて、心なしか唇を少し突き出しているように見える。閉じられているわけでもなく少し開かれたその唇は、何故かたまらなく魅力的に見えるのは俺の目の錯覚だろうか。
 よくは分からないが、この状況で男ならどうするだろう。
 決まっているじゃないか。
 俺は一歩前に出て、彼女の肩を抱く。
 そして、唇を重ねようとした、その瞬間に、目の前の少女は跡形もなく消え去っていた。残るのは間抜けに唇と腕を突き出した、無様な格好の俺だけ。
 前のめりになっていた勢いそのままに顔面から地面へダイブして、俺は気がついた。
 なんて夢だ。


 目覚めは快適とはお世辞にも言えなかった。心臓はうるさいくらいに太鼓を叩いているし、シャツの首周りは嫌な冷たさに濡れている。
 まったく、なんて夢だ。
 動機の治まらない胸を押さえながら、大きく息を吐く。
 夢っていうものは、願望を表すとよく言われるけれど、それってきっと嘘だよな。誰か俺の今日の夢を、夢判断してくれ。俺にどんな願望があるっていうんだ。夢の中の女の子が現実世界で知っている誰かに似てたのだって、きっと意味なんかないのだ。そうに決まってる。
 毛布を跳ね上げてベッドから降りると、俺はシャツを脱ぎ捨てて、新しいものに着替えた。時計を見ると、いつもより三十分早い時間。もちろんアラームはまだなっていない。普段だったらここでもう一眠り、といくところだけど、とてもそんな気分にはなれなかった。もう一回あんな夢でも見てしまおうものなら、『もう止めて、俺のMPはとっくにゼロよ!』状態になってしまう。
 朝から憂鬱だ。制服に着替えてしまうと、俺は鞄も持って部屋を出た。どうせ寝られないならさっさと行こう。早すぎる分は駅でマガジンでも立ち読みしてればいいだろう。そう思って階下に降り、キッチン兼リビングに入る。親はもう起きているはずだ。というか、この時間なら父親の朝食の時間と噛み合うかもしれない。
「おはよ――う?」
 そこには悪夢の続きかと思えるような光景があった。朝食を運ぶ母と、それを食べている父。
 そして何故か父と朗らかに談笑している女――の子がいる。
 膝の裏まで届こうかという長い髪に、服装によっては中学生、いやさ、小学生にだって見えかねない小柄な体と童顔。
 おいクソ親父、どこで子供作ってきた。そんな言葉を俺はなんとか飲み込んだ。
「いやあ、そうか、こなたちゃんはウチの息子と同じクラスなのか」
「そうなんです。転校したてて不安だと思ったから、呼びに行ってあげようかなって」
 しゃあしゃあと答えるちびっ子同級生に、もはやいろんなものを通り越して感嘆の念すら感じる。俺はマリアナ海溝の底に届いてしまうようなため息を一つ吐くと、リビングの中に入っていって、いつもの自分の席に座った。
「おはよ、みのる」
 あー、おはよう。ていうか名前呼びなのな。親いるんだから空気呼んで欲しかった。な、親がにやにやしてるだろ? 後で大変なのは俺なんだから自重してくれないか。
「あー、そうだね、ごめんごめん。でももう手遅れ」
 は?
「さっきからさんざんみのるって言ってるし」
 朝から頭痛が止まらない。あの悪夢から始まった今日は、まだ始まって一時間と経っていないというのにこれだ。今日が終わるころにはもう俺は死んでるんじゃなかろうか。
 そう、あの訳の分からない夢からだ。
 ふと。
 夢の中の少女と、今隣に座って俺を見上げている少女が、重なる。あの時、あの夢で、俺は何をしようとしていたっけ?
「どしたの?」
 こなたにそう訝しげに言われて、俺は慌てて視線を逸らした。逸らした先で母親が含み笑いをしながら俺の前にトーストと目玉焼きを置く。その含み笑いの意味に気付かざるを得ないけれど、俺は気付かない振り。気付いてたまるもんか。さらに逃げるように逸らした視線の先で父親が感慨深げに頷いているのだって俺には見えない。見えないったら見えないのだ。
「こなたちゃんも一緒にどう?」
「あ、私は家で食べてきたんで」
「そう?」残念そうに母親は言う。「じゃあ、明日は用意しておくから食べずにいらっしゃいな」
「いいんですか?」
「もちろんよー」
 こなたはちらりと俺の方を見る。その表情が一瞬だけ変化し、声を出さずに唇だけが動く。
 計 算 通 り 。
 次の瞬間にはもうにこにこと笑顔に戻って、それじゃあお世話になっちゃいます、とか母親に向かって言っている。アレだ。やっぱりか、と思った。けれど、そう思ったらどこか肩の力が抜けるのを俺は感じる。
 なんでそうなるのか、わからなかったけど。
 俺は目の前の朝食をさっさと片づけると、鞄を持って立ち上がる。それに合わせるようにして、母が渡したのだろうマグカップでお茶を飲んでいたこなたも立ち上がった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、こなたちゃん、また遊びに来てね」
「はい、お邪魔しました」
 外面もちゃんと取り繕えるんだな、と俺は変なところに感心する。まあ、よくよく考えたらそうじゃないと昨日の朝、俺の部屋まで上がって来られないだろうし。
 玄関で靴を履く。ねえねえ、とこなたが俺の方の辺りをちょんちょんと突いてきた。
「みのるの家の庭のところに自転車あったけど、乗ってかないの?」
「まあ、駅の駐輪場分かってなかったし」
「じゃあさ、今日は乗ってかない?」
 なんとなく嫌な予感を覚えながら、それでも俺は一応抵抗してみる。
「……一台しかないぞ?」
「やだなぁ」こなたはムカつくような笑顔で言う。「二人乗りだよ、ふ・た・り・の・り!」


 いいように振り回されているという自覚はあったものの、さすがに見た目小学生なこなたを邪険にするのも気が引けて、結局言うとおりにしてしまっている自分に嘆息。朝から何回ため息ついてんだ俺。今日が終わるまでにいったい何回ため息吐いたらいいのやら。
 自転車を手で押して軽く転がしてみる。特に問題はなさそうだ。いっそパンクでもしていたらよかったのかもしれない。
「おし、後ろ座って」
「んー、こっちのほうがいいな」
 そう言うと、こなたは俺の肩に手をかけた。ああ、そういう二人乗りをしたいわけね。左足を後輪のステップにかけながら、さあ出発っ、と声を上げる。
「大丈夫?」
「たぶん」
「バランスちゃんととれよ?」
「やってみる」
 言葉にやや引っかかるものを感じたが、俺はそれを追求したりはせずに、ペダルに足をかけて、「行くぞ」と後ろに声をかけた。返事を待たずに、ぐ、とペダルを押し込む。坂道を転がるようにそろそろと進み出した自転車に、こなたが飛び乗る。俺の両肩に重さがかかる。それは想像していたほどではなく、そして心配していたほど彼女の動作は危なっかしくはなかった。
「おー」
 最初はこなたの重心がふらふらしていて危なっかしかったものの、すぐにそれも消えて、自転車は順調に走り出した。
 バランスのことを抜かせば、ペダルを漕ぐのにそう違和感はない。分かってはいたけれど、本当に軽いんだな、と俺は思う。
 あれだけ見た目が小さくて細ければまあ当然なのかもしれないけれど、何故かこなたは見た目よりも大きく見えることが多い。
 だから、こんな時にふとギャップを感じてしまうのかもしれない。
「楽しいね、クセになりそう」
「なんだ、二人乗りしたことなかったのか?」
 こなたは俺の耳元に顔を近づけるようにして、言う。
「うん。初めて」
 にしては、ちゃんとバランスとれている。もともと運動神経のいい奴なんだろう。
「私、友達少ないからさ」
「そうなのか?」
「うん」こなたが頷いた気配。「みのるが知ってる人たち。仲いいのはそれで全員だよ」
「意外だな」
「そう?」
「ああ」
 少なくとも、この三日ほどを見る限りでは、友人の少ないようなキャラには見えなかったけど。
「それは、みのるの前でそう見せてるだけだよ」
 そうかな? 俺にはそうは思えないけど。
「ほら、私オタクだし」
 関係ないだろ。
「そう言ってくれる人って、貴重なんだよ?」
 そうなのか?
「そ」
 まだ道もうろ覚えな俺は、こなたの指示に従って自転車を走らせていく。こなたの重さを感じながら、昨日よりも少し早い時間の街並みを走っていく。
 吹き抜けていく風が心地良い。流れていく風景を、どこか懐かしく感じている。肩にかかった手から、まるで絨毯に染み込むコーヒーのように、何かがじわりと浸透してくるような錯覚。
 だからかもしれない。
 こなたが明らかに遠回りの道を指示していることに、俺は気付かない振りをした。


 取り戻せないものなんてない。いつだってどんな時だって、手遅れということはない。そんな耳障りの良い言葉をまともに信じている奴なんているのだろうか。人生には厳然として取り返しのつかないことやものが往々にして存在し、いったん起こってしまったらもうどうしようもない。そして、悲しいことに、そこでゲームーオーバー、とはなってくれない。そのまま人生は続いていく。はいリセット、セーブしたところから、とできたらどんなに楽かわからないな。
 そんなことを廊下でぼんやりと考えていた休み時間。体育の後の奇数クラスは女子の更衣室になっているのでまだ中には入れない。個人的には体育の後の教室に残る制汗剤の匂いが何とも言えず気持ち悪い。が、そんなことを口に出そうものならきっと恐ろしいことになるんだろう。具体的に想像はできないが、きっと恐ろしい。それだけは分かる。
「あれ」
 そんな声が聞こえて振り向くと、そこには松葉杖をついた柊かがみさんがいた。まあ、この状態なら体育は見学だろうな。
「まだ入れないんだ」
「男は終わってるから、そっちのクラスは大丈夫だと思うけど」
「そう」
 言いながら、かがみさんはゆっくりと、松葉杖を使って歩く。俺も経験はあるけど、あれはかなり大変だ。特に階段とか、怪我してない方の足を逆に怪我してしまいそうなくらいに大変だ。
「大丈夫?」
 思わずそう聞いてしまう。そして、こっちを見た彼女の表情を見て、くだらないことを聞いてしまった、と俺は自己嫌悪した。
 きっと彼女が何度も言われて、きっと聞くのもうんざりしているであろう言葉だ。
 けれど、彼女は笑うと、
「うん、ありがとう」
 と言った。
 ごめん、と謝りたくなるのをこらえる。それを言ってしまえばまた彼女に気を遣わせてしまうに決まっている。
 それだけで、彼女は通り過ぎて行くものだと思っていた。けれど、気がついたら俺の前で足を止めてこっちを見ている彼女がいる。
「あの」
「何?」
「なかなか言う機会無くて言えなかったけど……ごめん。ありがとう」
「何のことだかわからないな」俺はそう言って、肩を竦める。
 ひょっとしたら彼女は怒るかもしれないな、と一瞬思った。それならそれでいいんじゃないかという気もした。俺の返答をどう思ったのか分からないけれど、彼女は表情をむっとしたようなものに変えたあと、それを今度は微笑みのような、でも苦笑にも見えるものにした。
つかさから聞いてはいたけど」柊さんは言う「お人好しなのね」
 心外だ。俺は貧乏くじだけは引きたくない人間なんだ。
「転校してきて真っ先に引いてる人が何言ってんだか」
 呆れたようにそう言って、彼女はくすくすと笑う。その笑顔に陰が見えなかったことが、俺の心を少しだけ軽くしてくれた。
 代理の存在に、彼女がいい気分をしていないんじゃないかとずっと思っていたから。
「なんか、押しつけちゃったみたいだけど、文化祭まで、よろしくね」
「引き受けたのは俺だしね」
「ありがと」
 そんな言葉を残して、彼女は松葉杖を使って自分のクラスへ戻っていった。視線を移すと俺のクラスからも女子がぞろぞろと出てくるところだった。そう言えば彼女に訊きたいことがあったのを思い出す。わざわざ彼女のクラスまで追いかけていって訊くような事ではない。また後で訊いてみるか。そんな事を思いながら、自分のクラスの中へ入っていく。
 予想通り、制汗剤のキツイ匂いがした。
 何故か俺の机の上に座って柊さん妹と話し込んでいるこなたも、きっとこういうの使っているんだろうな、と思う。
 何か楽しそうにしている彼女は、俺が近づくと、こっちを見て笑って、隠し持っていた制汗剤のスプレーを俺に向かって噴射して、けらけら笑っていた。


 何故か今日も、文芸部の部室に連れ込まれている。転校してきてまだ四日。既に諦観の境地に至りそうな自分が少し切ない。
 きっとこんな風に振り回される日々になるんだろう。いつか逆に振り回してやろう。そんな風に決意を固めながら昼食を食べていると、
「ねえ、みのるってさ、前の学校で付き合ってる子、いなかったの?」
 いきなり爆弾を投下するちびっ子。なんてことを言うんだ。そして柊姉妹に高良さんもそんな興味津々な顔で食いつかないでください。マジ勘弁。素直にいないというのもなんだか癪な気もしたけれど、嘘をついたところで何かプラスがあるのかと言われると、結局いろいろ追求されてボロがでるだけだと思うと、素直に言っておいた方がいいか。
「い、いない」
 そこ。あかさらまにがっかりした顔するな。傷つくじゃないか。やっぱりね、見たいな顔もやめろ。もっと傷つくじゃないか。
「まあ、そんな気はしてたけど」
「こなた、やけに自信たっぷりじゃない」
「それはだね、かがみん」こなたは人差し指を立てる。「部屋に女の影がまったくなかったからだヨ」
 部屋。影。柊姉妹は顔を合わせて何かを呟くと、「ええええ!」と悲鳴を上げた。鼓膜に響く。
「も、もうそんな関係にっ」
「うーん、みのるツンデレでさ」
「そうなの!?」
「周りに他人がいるとこうなんだヨ」
「じゃ、じゃあ二人きりの時は……!」
「そりゃあもう」
「一日でいったいどんな進展がっ」
 なんだろう。もうどこからツッコめばいいのか分からない。ポイントの切り替えを間違えた電車のように、あらぬ方向に加速していく会話。ブレーキも故障中だ。ていうか、このメンバーにブレーキって存在するのか? 柊姉はブレーキだと思ってたんだけど、勘違いだったかなぁ。昨日なんかまったりしてたのが幻のようだ。
「こなた」
「何?」
「いい加減にしとけ」
「うい」
 あっさりとこなたは引き下がる。コイツはそれでいいんだけど、置いてけぼりにされた柊姉妹はぽかんとした顔。
 ほら、さっさとフォローしやがれ。
 えーみのるがやってよー。
 自分が蒔いた種は自分で全部掘り返すもんだ。
 めんどくさいー。
 ならやんなよ。
 うー。
 アイコンタクトは一瞬。くそ、やっぱりコイツとは波長があってしまうのか。それを認めるのもなんだか悔しい気がする。
 何がどう悔しいのか明確に説明する言葉を今の俺は持っていないけれど、でもそう感じてしまうのだから仕方が無いじゃないか。
「つかさ、かがみ」こなたは二人に向き直る。「ごめん、嘘」
「はあ?」
「本当はね、自転車に二人乗りするくらいの仲なの」
 朝のことか。そしてそれは説明としてはどうなんだ。誤解を深めるだけじゃないのか、おい。
「それって、ねえ」
「ねえ、お姉ちゃん」
 何故かこなたを見て、それから俺に視線を移して、そして姉妹で顔を合わせて、頬を赤らめる柊姉妹。
 ほら、誤解深まってる。どう収集つけるつもりなんだ。てか、つける気無いのか。無いんだな?
「柊姉妹の考えてることは、たぶん違う」
「もうちょっとディープな仲だよね」
「ちょっと黙ってろ」
「うい」
「まあ」柊姉は肩を竦めると、小さく息を吐く。「仲が良いってのはよーくわかったわ」
 誤解だ。今俺は酷い誤解を受けている。謝罪と損害賠償を要求する。ついでにコッペパンも。
「ふもふも、ふもっふ」
「日本語でいい」
「みのるはかなめ派? テッサ派?」
「俺はマオ曹長とクルツがいればそれでいい」
「おおう、そっちかー。かがみは?」
「私は、どちらかと言えばかなめ派だけど」
「そう言いながらかなめの本命は」こなたはにやにや笑いながら柊姉を指さす。「本棚の奥に隠してあるソースケ×ガ」
「おおおおまえ、どうしてそれを!」
 おお、手が出た。柊姉の左ストレートをこなたはあっさりと避ける。やっぱり運動能力高いな、こいつ。
 ぎゃあぎゃあ騒いでいる俺たち(主にこなたと柊姉だけど)を見て、あらあらまあまあ、と高良さんが微笑んで左手を自分の頬に当てる。仲良しさんなんですねぇ、これからも仲良くしてくださいね。
 そんな言葉で締めくくられて、俺は脱力して机に突っ伏した。


 がたん、とカーブにさしかかって電車が揺れる。俺は吊革に掴まって立ったまま、流れていく風景を見ていた。そろそろ夕焼けが青いグラデーションに押し込まれていっている、そんな時間。隣で立っているこなたが吊革をつま先立ちして掴んでいるのが気になるといえば気になる。疲れないか。
「疲れた」
 そりゃあそうだろう。ずっと爪先で立ってればそりゃ誰だって疲れる。そう言うと、こなたは俺を見上げて、何故かにんまりと笑った。この四日間で知った、コイツがろくでもないことを考えているときの表情だった。そしてその俺の洞察は見事に当たっていた。こなたは吊革から手を離すと、吊革に掴まっている俺の腕に、ぶら下がるようにして掴まる。
 なにやってんだ。
「こんなところにいい吊革が」
 吊革じゃねえよ。
 そう言ったところで、コイツが止まるはずがない。これも学習っていうのだろうか。嫌な学習だ。
「だいぶ」こなたは言う。「素になってきたネ」
 そう言われて、俺は眉間に皺を寄せた。もしそう見えるんだったら、オマエのせいだ。イヤミを込めてそう言ったのに、こなたはその言葉に、どこか嬉しそうに笑う。ここ笑うところか?
「たぶん、笑うトコロ」
 そうなのか。まあ別に良いけどさ。
 そんなことを話していると、俺たちが降りる駅に電車が到着する。吊革から手を離して歩き出す。こなたは俺の腕に掴まったままだ。知り合いに見られたらどうなることか。こなたはそれでいいのだろう。そうやって外堀から埋めていくつもりなのは分かる。
 じゃあ、俺は?
 どうなんだ?
 まだ出会って数日。何をどう判断したら良いのかなんてわかるもんか。
 俺の腕に掴まって隣を歩いているこなたを、横目で見る。分からない。何を考えているのかなんてわからない。
 いったいどうしたいのかもよく分からない。このまま流されるままでいいのかなんてことも、わからない。
 このまま流されていったらどうなるのか、そんなことも分からない。
「自転車じてんしゃー」
 どうやら二人乗りがえらくお気に入ったらしい。俺は駅の隣の駐輪場へ入って、朝停めた自転車を引っ張り出す。一日百円が毎日だと、地味に俺の財政を圧迫しそうだ。自転車に跨ると、朝と同じように、こなたは後輪のステップに足をかけ、俺の方に手を乗せる。
「じゃ、気合い入れて行こうー」
 入れてどうする。あとは家に帰るだけなのに。
「いや、なんとなくノリで」
 テンション下げろ。

 地面を蹴り、ペダルを踏み込む。それにタイミングを合わせて、こなたも地面を蹴る。朝よりも遙かにスムーズに自転車は走り出した。んー、と気持ちよさそうな声が頭の後ろの方から聞こえてくる。やっぱり、一人で乗るときより、さほど重いとは思えない。
「みのるは」
 後ろでこなたが声を出す。耳の周りで唸る風の音に、かき消されてしまいそうな、声。
「迷惑に、思って、ない?」
 俺はその言葉を、聞こえなかった振りをした。答えることができなかった。答える言葉を、俺は持っていなかった。無言で自転車を走らせる。
 そろそろ見慣れてきた街並みの仲を、自転車は走る。こなたの指示か無くても、道は覚えていた。朝、遠回りした道ではない。
 駅からまっすぐに俺の家に帰る道。俺は何も言わなかった。こなたも何も言わなかった。同じかどうかも分からない風の音だけを、俺たちは聞いていた。

 なあ、こなた。
 訊きたいことがあるんだ。ひょっとしたら、口に出した瞬間にもう終わってしまうような、そんな疑問なのかもしれないけれど。口に出した瞬間に、一瞬で俺たちの関係を変えてしまうような、そんな言葉なのかもしれないけれど。
 いつか、たぶん、訊くことになるんだろう。
 きっと、そう遠くないうちに。
 なあ、こなた。

 おまえ、どこまで本気なんだ?

 無言のまま自転車は走り、俺の家が見えてくる。一瞬スピードを落としかけて、けれど俺は、もう一回ペダルを強く踏み込んだ。
 ぐ、と体が押さえつけられるように風の勢いが強くなり、風景が倍速で流れ出す。
「おお?」
 加速した自転車は、そのまま俺の家の前を通り過ぎる。
「みのる?」
 ほら、道を教えろ。
「え?」
 おまえの家までの道だ。俺は知らないから、指示を出してもらわないと困る。後ろを見ないで、俺はそう言った。こなたの表情を見なくても良かったのは幸運かもしれなかった。自分の表情をこなたに見られなくて済んだのはもっと幸運なのかもしれなかった。
「うん!」
 く、と俺の肩を掴んでいる手に、力が入るのがわかった。
 辺りが、もう夜の色に染まってしまっていることを、初めて知った。
「このまままっすぐー!」
 さあ、ここから先は俺の知らない道だ。こなたに見えないのをいいことに、俺は笑う。
 こなたがどんな遠回りな指示を出したって、俺にはわからない。
 わからないんだ。


こなたルート・ふもっふ!』(了)





コメントフォーム

名前:
コメント:



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー