あぜんとする整備班の面々を歯牙にもかけず、
二人は白熱した問答を繰り広げている。
いつまでもシャワー室を占拠し続けるわけにもいかず、
というよりも口頭で説明するには複雑すぎるために、
手早く身支度を済ませて場所を変えたのだが、
もうすでに試験用の広場は使用許可時間を過ぎていたため、
仕方はなしとこうして整備班たちが集う休憩室に場所を移していた。
同席している整備員からすればたまったものではないが、
中には面白おかしく二人を観察しているものもいる。
時には彼らからも一言二言何かを述べたり、
あるいは合いの手を入れたり、説明に細やかな注釈をいれたりする。
そうこうするうちに誰かがホワイト・ボードを持ち出してきて、
たちまちのうちにそれは真っ黒になるまで書き込まれていく。
「まーつまり左手の操縦桿はとにかく軽いんですよ。
何せ三百六十度ありとあらゆる方向に動かせますしね。
で、これが機体中央にある最終制御用ユニットを軸に、
両脇にある運転用ユニットと連結した両脚パネルと連動して・・・・」
書き足されは消され、消されは書き足され、
それを繰り返すたびに少女の説明もスピードを増す。
のほほんと、とろそうな印象とは裏腹に、
ボードを走る両腕と舌の軽やかさはフル・スロットルだ。
今描かれているのはジェリスヘレムの基本外見構造と、
内部機関の大まかな所定位置。
ぎりぎりの、説明禁止事項に抵触しない程度で、
少女はできうる限り図面に引き起こして説明している。
ジェリスヘレムの基本構造は非常に端的なもので、
コクピットと動力・燃料を積んだ大型の球体ユニットを中心に、
土星の輪のような形をしたカメラ・センサーを走らせるための、
円形状のレールが縦に二本、斜めに交差するように二本囲っている。
高度あるいは深度に合わせてカメラ位置を移動させるためなのだろうか、
都合十七個のカメラが、その図に描かれている。
その多くは電子制御機能に任せるためのサブ・カメラだろうが、
パイロットが手動で動作させるターゲティング・カメラも存在するはず。
個別で可動するように特別細工してあるのだろうが、
他のカメラと接触しないためにどのような機構制御を施してあるかは、
にこりと小首をかしげてはぐらかしていた。
カメラの動作環境が説明不可なんて変わったものね。
そんなことをキティは思うが口にはしない。
したところで説明は期待できないのだし、
それならばもっと別のことを質問したほうが有意義だからだ。
黄金の少女はまだまだ絵を描き続けている。
今度は先ほどの球状機体に、ドラム缶のようなものを接続している。
その横には、エイのようなものを付けている機体も描いている。
拡張機能を取り付けた、正規ユニット・・・・
『ヘレムナンバーズ』の大まかな外見なのだろう。
どう見ても球体に三角錐やエイやドラム缶やライフルが取りついている絵にしか見えないが、
これは簡略化された絵出会って実際は違うのだろう。
何せ直接手足の生えているあたりが笑いを誘う。
正直間抜けな絵面でしかない。
実物はもっと格好がいいドラム缶や、
スタイリッシュなビート板に違いない。
さすがにキティも苦笑いを隠し切れず、
それを見咎めた少女が指をさして非難する。
「あーっ!笑いましたね、今くすりと笑いましたねアナタッ!
んもう、あたし画力ないのは知ってますけど笑わないで下さいよぅ」
口調の割にはおこった風でもなく、それでも幾分か丁寧に線を書き加える。
「ああ、別におかしくて笑ったわけではなくてよ?
ただちょっと、そんな外見なのに、
画期的な新技術が使われているのが信じれないだけだわ」
「いやー画期的な新技術なんてものはありませんよ。
あるのはちょっとした興味と工夫とかかったお金の結果だけですから」
「・・・・どういう意味かしら?」
フォローをしたつもりだが、逆に諭されるような感触に、
キティは少年のように太い眉を形よく歪めて疑問を投げかける。
彼女からしてみればジェリスヘレムの機能は画期的なもので、
それこそ超科学の粋を尽くした技術力の結晶といった感だ。
しかし少女はそれを否定する。
『そんなものはどこにもない』。
『ありふれた技術しかない』。
「要は、ケーキみたいなもんなんですよ。
最初にお砂糖を作る技術とか、クリームを生成する方法なんかがあって、
それらを寄せ集めることでイチゴのショート・ケーキができちゃうわけなのです。
もちろんお砂糖とかの作り方っていうのも、別の何かから生まれた方法です。
で、イチゴのショート・ケーキだけじゃなくて、たまには他の味のものを食べたいな、
なんて考えた人が、いろいろと試行錯誤してチーズ・ケーキを作っちゃうわけです。
で、そのうちレシピが変わっていって、最初に作ったチーズ・ケーキとは全然違う、
味も作り方も変わった『作りやすくておいしいチーズ・ケーキ』になるんです。
そうすると最初のイチゴのショート・ケーキも進化します。
美味しくなったりボリュームが増えたり、イチゴたっぷりになったりとか!
ついでに今まで作られてなかったチョコレート・ケーキやタルト、
あるいは全然違う全く新しいお菓子に挑戦する人だってでてきちゃうんです。
科学も技術もそれと一緒なんですよ。
ゼロから始まる超技術なんて生まれません。
理論か元となる技術かちょっとした手違いとか勘違い、
あるいは材料をちょっと変えただけとかで、
全く新しい『何か』が生まれるんです。
ジェリスヘレムもそれと一緒です。
『テラドライバー・システム』って呼ばれるあの技術も、
他の人が一生懸命考えたり頑張った結果生まれただけなんです。
たまたまそれが理解し難いだけで、何の特別もないんですよ。
もしかしたら今こうしてあたしたちが使ってるのは奇跡的なものなのかもしれません。
けど、それは結局のところ早いか遅いかの違いだけで、
それこそ量子学上の猫みたいなもんで、ひょっとしたらここではないどこか、
アメリカとかロシアとかで発見アーンド開発されたかも、程度の違いしかないんです。
だから、そんなごく普通のモノなんですから、ちゃんと覚えれば誰でも乗れます。
キティさんだって、今にあの機体を思う存分動かせるはずなんです!」
「おいおい嬢ちゃん、チタンやジェラルミンをスポンジと一緒にせんでくれよ。
俺らケーキ職人なんかじゃないんだぜ」
「あーそうだな、俺ら甘ったるいもん嫌いだし」
「え、自分甘いもん結構イケるんですけど」
長い長い熱弁に、ここぞとばかりに男たちが口をはさむが、
しかし誰一人として少女の言葉を否定しようとはしない。
そのことにキティは驚愕を覚えるも、同時に得心もいった。
「特別だと考えてしまうから特別にしか見えなくなる。
特別なもののテストに来たのだから、私も特別だと勘違いしてしまう。
・・・・それじゃあ、私もダメな人間ね。納得したわ。
自分自身が選ばれた人間だと思ってしまったもの。
そんなことは考えず、流れに身を任せて、何も身構えず、
何も特別だと感じず、ありのままに動かせばいい・・・・
難しいわね、なかなか。今の私では、到底アレを乗りこなせそうにないわ」
お手上げ、と言わんばかりにもろ手を挙げて嘆息する。
敗北を認めながらも表情はすがすがしく、
だけども自分の限界を認める。
こんなにも素直に自分の力量を推し量れるのは、
きっと少女の例えが上手だったこと、雰囲気が柔らかなこと、
そして何よりも自分がまた人を好きになれたからだろう。
だけどもキティはすべてをあきらめたわけでもなく、
ごく普通の、当たり前の事なんだと少女が語る以上は、
自分にも決して不可能な行為ではないはずだと闘志を燃やしている。
減らず口だと、あきらめが悪いと、だれかがそう言うかもしれない。
だけども、捨てきれない理由を持っている以上は、
少女の言う『当たり前』にすべてを賭けるつもりだった。
「もーそんなことゆー口はこれですか、えい、えい」
「ふぉ、ふぉっひょやへて・・・・」
「あ、いけない!」
「・・・・ふぅ、まったく・・・・で、どうかしたのかしら?」
伸ばされたホホをもみしだきながら、
キティは突然跳ねるように飛び上がった少女に疑問を向ける。
「その、ちょっとジョーシに今回のテストの結果をですね、
伝えに行かなきゃいけないわけでー・・・・そのー、えっと、ごめんなさい!
今から急いで行ってくるんで、続きは休んでる整備員さんとかに聞いてください!」
「あ、ちょっと・・・・」
OKの言葉も聞かずに、少女はくるりと身をひねり駆けだす。
その背は常に全力疾走。
まるで追いかけ鬼のように、黄金の輝きがともに流れる。
明るくて性格もよく、頭も冴えて才能もある。
おまけに小柄ながらに可愛く、素敵な笑顔を持っている。
そんな黄金の彩に包まれた少女を、
自分の汚らしい復讐のために関わらせてしまうことを、
灰色にくすんだ瞳をぐっと瞑りながら少なからず罪悪感を覚える。
だけどもこれは決めたことなのだ、そう自分に強く言い聞かせるように、
彼女はあっけにとられたままの男たちに言葉を発する。
利用できるものを駆使し、得られる情報を奪い尽くすため。
「まったく、あの子は元気そのものね・・・・。
申し訳ないけれどもあなた方の質問させてもらうわね。
テスト時に被弾した際左腕に力が入ってしまって、
機体がものすごくバランスが崩れてし現象について聞かせてもらうわ。
操縦桿の軽さやシステムのせいだとはあの子の説明で理解したのだけども、
正直こう・・・・どうやって耐えればいいかというか、踏ん張ればいいのかわからなくて・・・・」
少女にああまで頼まれたのだ、きっと男たちは自分の質問に答えてくれるはず。
そう確信をもって問いかけたのだが、
しかし望んだ言葉は返ってこない。
「いやー・・・・済まないんだが、操縦に関しては俺ら力になれねーわ」
「・・・・え・・・・?」
「俺らに説明できるのは機体の大まかなシステムとか機構周りで、理論どまり。
実践に関してはあの子以外だーれもなーんも教えてやれんよ、すまないね」
意外な言葉に戸惑いを隠せず、
キティは短い髪に深爪した指を食い込ませ掻き毟る。
その様子は、きれいすぎるほど整った英語の発音からは、
想像できないほどに荒々しい、文字通り『男のような』しぐさ。
「いやね、ココだけの話だけど、整備班でアレ動かせるのあの子だけなのよ。
つーか基地内全部見ても、マジモンの専属パイロット以外じゃあの子だけじゃないかなー」
「ちょ、ちょっと待ってくださらないかしら?
じゃあつまり、正規パイロットじゃないのに動かせるあの子がおかしい、と?」
「おかしいっつったらなんかまるで非難してるみたいだけど、正直その通りだわ」
ぞっと、背筋に冷たいものが走る。
『理解し難いだけで、何の特別もないんですよ』/少女はそう言った。
『ちゃんと覚えれば誰でも乗れます』/少女は確かにそう言った。
『キティさんだって、今にあの機体を思う存分動かせるはずなんです』/そう言ってくれた。
だが現実として、それができる存在がここにはいない。
少なくとも、正規のパイロットの、
五人しか存在していないと男たちは言うのだ。
その事実に、キティは動揺を隠し切れない。
「だいたいあの子が乗り始めたのってたしか、
メンテナンス終わった後にパイロットにチェック頼んだら、
『めんでーくせーから明日やるわー』とか言いやがってお手上げ状態になっちまった時、
『あ、じゃーあたしやってみますねー』とか言い出したのが始まりだったよな」
「そーそー、で、主任が『ジャーやってお味噌』とか言い出してよぉ」
「完全面白半分だったよな」
「マー別に壊されてもも一回直すだけだし、仮に壊れてもだ、
こっちが頼んでんのにチェックサボったパイロットが悪いんだしな。
始末書書くのはあっちもいっしょだーってことで、主任がきれちまってな」
「なのにあのお嬢ちゃん、危なっかしながらもあっさり操っちまって」
「そーそーそーだよなー、それでうっかり俺ら惚れちまって」
「今じゃこっそりファンクラブなんて作っちまって・・・・ん、どした?」
愚痴と感想と賞賛に交じって、彼女がつぶやいた言葉を男たちは聞き逃していた。
もっとも、それが聞こえていたとしても、
ここにいた男たちは全員、その意味を知ることはなかっただろう。
その言葉は、彼女の母国語。
イタリア語。
二人は白熱した問答を繰り広げている。
いつまでもシャワー室を占拠し続けるわけにもいかず、
というよりも口頭で説明するには複雑すぎるために、
手早く身支度を済ませて場所を変えたのだが、
もうすでに試験用の広場は使用許可時間を過ぎていたため、
仕方はなしとこうして整備班たちが集う休憩室に場所を移していた。
同席している整備員からすればたまったものではないが、
中には面白おかしく二人を観察しているものもいる。
時には彼らからも一言二言何かを述べたり、
あるいは合いの手を入れたり、説明に細やかな注釈をいれたりする。
そうこうするうちに誰かがホワイト・ボードを持ち出してきて、
たちまちのうちにそれは真っ黒になるまで書き込まれていく。
「まーつまり左手の操縦桿はとにかく軽いんですよ。
何せ三百六十度ありとあらゆる方向に動かせますしね。
で、これが機体中央にある最終制御用ユニットを軸に、
両脇にある運転用ユニットと連結した両脚パネルと連動して・・・・」
書き足されは消され、消されは書き足され、
それを繰り返すたびに少女の説明もスピードを増す。
のほほんと、とろそうな印象とは裏腹に、
ボードを走る両腕と舌の軽やかさはフル・スロットルだ。
今描かれているのはジェリスヘレムの基本外見構造と、
内部機関の大まかな所定位置。
ぎりぎりの、説明禁止事項に抵触しない程度で、
少女はできうる限り図面に引き起こして説明している。
ジェリスヘレムの基本構造は非常に端的なもので、
コクピットと動力・燃料を積んだ大型の球体ユニットを中心に、
土星の輪のような形をしたカメラ・センサーを走らせるための、
円形状のレールが縦に二本、斜めに交差するように二本囲っている。
高度あるいは深度に合わせてカメラ位置を移動させるためなのだろうか、
都合十七個のカメラが、その図に描かれている。
その多くは電子制御機能に任せるためのサブ・カメラだろうが、
パイロットが手動で動作させるターゲティング・カメラも存在するはず。
個別で可動するように特別細工してあるのだろうが、
他のカメラと接触しないためにどのような機構制御を施してあるかは、
にこりと小首をかしげてはぐらかしていた。
カメラの動作環境が説明不可なんて変わったものね。
そんなことをキティは思うが口にはしない。
したところで説明は期待できないのだし、
それならばもっと別のことを質問したほうが有意義だからだ。
黄金の少女はまだまだ絵を描き続けている。
今度は先ほどの球状機体に、ドラム缶のようなものを接続している。
その横には、エイのようなものを付けている機体も描いている。
拡張機能を取り付けた、正規ユニット・・・・
『ヘレムナンバーズ』の大まかな外見なのだろう。
どう見ても球体に三角錐やエイやドラム缶やライフルが取りついている絵にしか見えないが、
これは簡略化された絵出会って実際は違うのだろう。
何せ直接手足の生えているあたりが笑いを誘う。
正直間抜けな絵面でしかない。
実物はもっと格好がいいドラム缶や、
スタイリッシュなビート板に違いない。
さすがにキティも苦笑いを隠し切れず、
それを見咎めた少女が指をさして非難する。
「あーっ!笑いましたね、今くすりと笑いましたねアナタッ!
んもう、あたし画力ないのは知ってますけど笑わないで下さいよぅ」
口調の割にはおこった風でもなく、それでも幾分か丁寧に線を書き加える。
「ああ、別におかしくて笑ったわけではなくてよ?
ただちょっと、そんな外見なのに、
画期的な新技術が使われているのが信じれないだけだわ」
「いやー画期的な新技術なんてものはありませんよ。
あるのはちょっとした興味と工夫とかかったお金の結果だけですから」
「・・・・どういう意味かしら?」
フォローをしたつもりだが、逆に諭されるような感触に、
キティは少年のように太い眉を形よく歪めて疑問を投げかける。
彼女からしてみればジェリスヘレムの機能は画期的なもので、
それこそ超科学の粋を尽くした技術力の結晶といった感だ。
しかし少女はそれを否定する。
『そんなものはどこにもない』。
『ありふれた技術しかない』。
「要は、ケーキみたいなもんなんですよ。
最初にお砂糖を作る技術とか、クリームを生成する方法なんかがあって、
それらを寄せ集めることでイチゴのショート・ケーキができちゃうわけなのです。
もちろんお砂糖とかの作り方っていうのも、別の何かから生まれた方法です。
で、イチゴのショート・ケーキだけじゃなくて、たまには他の味のものを食べたいな、
なんて考えた人が、いろいろと試行錯誤してチーズ・ケーキを作っちゃうわけです。
で、そのうちレシピが変わっていって、最初に作ったチーズ・ケーキとは全然違う、
味も作り方も変わった『作りやすくておいしいチーズ・ケーキ』になるんです。
そうすると最初のイチゴのショート・ケーキも進化します。
美味しくなったりボリュームが増えたり、イチゴたっぷりになったりとか!
ついでに今まで作られてなかったチョコレート・ケーキやタルト、
あるいは全然違う全く新しいお菓子に挑戦する人だってでてきちゃうんです。
科学も技術もそれと一緒なんですよ。
ゼロから始まる超技術なんて生まれません。
理論か元となる技術かちょっとした手違いとか勘違い、
あるいは材料をちょっと変えただけとかで、
全く新しい『何か』が生まれるんです。
ジェリスヘレムもそれと一緒です。
『テラドライバー・システム』って呼ばれるあの技術も、
他の人が一生懸命考えたり頑張った結果生まれただけなんです。
たまたまそれが理解し難いだけで、何の特別もないんですよ。
もしかしたら今こうしてあたしたちが使ってるのは奇跡的なものなのかもしれません。
けど、それは結局のところ早いか遅いかの違いだけで、
それこそ量子学上の猫みたいなもんで、ひょっとしたらここではないどこか、
アメリカとかロシアとかで発見アーンド開発されたかも、程度の違いしかないんです。
だから、そんなごく普通のモノなんですから、ちゃんと覚えれば誰でも乗れます。
キティさんだって、今にあの機体を思う存分動かせるはずなんです!」
「おいおい嬢ちゃん、チタンやジェラルミンをスポンジと一緒にせんでくれよ。
俺らケーキ職人なんかじゃないんだぜ」
「あーそうだな、俺ら甘ったるいもん嫌いだし」
「え、自分甘いもん結構イケるんですけど」
長い長い熱弁に、ここぞとばかりに男たちが口をはさむが、
しかし誰一人として少女の言葉を否定しようとはしない。
そのことにキティは驚愕を覚えるも、同時に得心もいった。
「特別だと考えてしまうから特別にしか見えなくなる。
特別なもののテストに来たのだから、私も特別だと勘違いしてしまう。
・・・・それじゃあ、私もダメな人間ね。納得したわ。
自分自身が選ばれた人間だと思ってしまったもの。
そんなことは考えず、流れに身を任せて、何も身構えず、
何も特別だと感じず、ありのままに動かせばいい・・・・
難しいわね、なかなか。今の私では、到底アレを乗りこなせそうにないわ」
お手上げ、と言わんばかりにもろ手を挙げて嘆息する。
敗北を認めながらも表情はすがすがしく、
だけども自分の限界を認める。
こんなにも素直に自分の力量を推し量れるのは、
きっと少女の例えが上手だったこと、雰囲気が柔らかなこと、
そして何よりも自分がまた人を好きになれたからだろう。
だけどもキティはすべてをあきらめたわけでもなく、
ごく普通の、当たり前の事なんだと少女が語る以上は、
自分にも決して不可能な行為ではないはずだと闘志を燃やしている。
減らず口だと、あきらめが悪いと、だれかがそう言うかもしれない。
だけども、捨てきれない理由を持っている以上は、
少女の言う『当たり前』にすべてを賭けるつもりだった。
「もーそんなことゆー口はこれですか、えい、えい」
「ふぉ、ふぉっひょやへて・・・・」
「あ、いけない!」
「・・・・ふぅ、まったく・・・・で、どうかしたのかしら?」
伸ばされたホホをもみしだきながら、
キティは突然跳ねるように飛び上がった少女に疑問を向ける。
「その、ちょっとジョーシに今回のテストの結果をですね、
伝えに行かなきゃいけないわけでー・・・・そのー、えっと、ごめんなさい!
今から急いで行ってくるんで、続きは休んでる整備員さんとかに聞いてください!」
「あ、ちょっと・・・・」
OKの言葉も聞かずに、少女はくるりと身をひねり駆けだす。
その背は常に全力疾走。
まるで追いかけ鬼のように、黄金の輝きがともに流れる。
明るくて性格もよく、頭も冴えて才能もある。
おまけに小柄ながらに可愛く、素敵な笑顔を持っている。
そんな黄金の彩に包まれた少女を、
自分の汚らしい復讐のために関わらせてしまうことを、
灰色にくすんだ瞳をぐっと瞑りながら少なからず罪悪感を覚える。
だけどもこれは決めたことなのだ、そう自分に強く言い聞かせるように、
彼女はあっけにとられたままの男たちに言葉を発する。
利用できるものを駆使し、得られる情報を奪い尽くすため。
「まったく、あの子は元気そのものね・・・・。
申し訳ないけれどもあなた方の質問させてもらうわね。
テスト時に被弾した際左腕に力が入ってしまって、
機体がものすごくバランスが崩れてし現象について聞かせてもらうわ。
操縦桿の軽さやシステムのせいだとはあの子の説明で理解したのだけども、
正直こう・・・・どうやって耐えればいいかというか、踏ん張ればいいのかわからなくて・・・・」
少女にああまで頼まれたのだ、きっと男たちは自分の質問に答えてくれるはず。
そう確信をもって問いかけたのだが、
しかし望んだ言葉は返ってこない。
「いやー・・・・済まないんだが、操縦に関しては俺ら力になれねーわ」
「・・・・え・・・・?」
「俺らに説明できるのは機体の大まかなシステムとか機構周りで、理論どまり。
実践に関してはあの子以外だーれもなーんも教えてやれんよ、すまないね」
意外な言葉に戸惑いを隠せず、
キティは短い髪に深爪した指を食い込ませ掻き毟る。
その様子は、きれいすぎるほど整った英語の発音からは、
想像できないほどに荒々しい、文字通り『男のような』しぐさ。
「いやね、ココだけの話だけど、整備班でアレ動かせるのあの子だけなのよ。
つーか基地内全部見ても、マジモンの専属パイロット以外じゃあの子だけじゃないかなー」
「ちょ、ちょっと待ってくださらないかしら?
じゃあつまり、正規パイロットじゃないのに動かせるあの子がおかしい、と?」
「おかしいっつったらなんかまるで非難してるみたいだけど、正直その通りだわ」
ぞっと、背筋に冷たいものが走る。
『理解し難いだけで、何の特別もないんですよ』/少女はそう言った。
『ちゃんと覚えれば誰でも乗れます』/少女は確かにそう言った。
『キティさんだって、今にあの機体を思う存分動かせるはずなんです』/そう言ってくれた。
だが現実として、それができる存在がここにはいない。
少なくとも、正規のパイロットの、
五人しか存在していないと男たちは言うのだ。
その事実に、キティは動揺を隠し切れない。
「だいたいあの子が乗り始めたのってたしか、
メンテナンス終わった後にパイロットにチェック頼んだら、
『めんでーくせーから明日やるわー』とか言いやがってお手上げ状態になっちまった時、
『あ、じゃーあたしやってみますねー』とか言い出したのが始まりだったよな」
「そーそー、で、主任が『ジャーやってお味噌』とか言い出してよぉ」
「完全面白半分だったよな」
「マー別に壊されてもも一回直すだけだし、仮に壊れてもだ、
こっちが頼んでんのにチェックサボったパイロットが悪いんだしな。
始末書書くのはあっちもいっしょだーってことで、主任がきれちまってな」
「なのにあのお嬢ちゃん、危なっかしながらもあっさり操っちまって」
「そーそーそーだよなー、それでうっかり俺ら惚れちまって」
「今じゃこっそりファンクラブなんて作っちまって・・・・ん、どした?」
愚痴と感想と賞賛に交じって、彼女がつぶやいた言葉を男たちは聞き逃していた。
もっとも、それが聞こえていたとしても、
ここにいた男たちは全員、その意味を知ることはなかっただろう。
その言葉は、彼女の母国語。
イタリア語。
『Piu vecchio fratello・・・・』。
意味は、・・・・『お兄ちゃん』。
きっと、万感を込めてつぶやいた言葉なのだろう。
だが悲しいかな、その悲痛な思いを込めてつぶやかれた言葉は、
誰にも理解されることなく、消えた。
意味は、・・・・『お兄ちゃん』。
きっと、万感を込めてつぶやいた言葉なのだろう。
だが悲しいかな、その悲痛な思いを込めてつぶやかれた言葉は、
誰にも理解されることなく、消えた。