ふう、ふうと息を整えながら髪を結わい、
前髪を軽く撫でつけながらドアをノックする。
返事はない。
が、光は曇りガラスから漏れているので中に人はいるのだろう。
少女は気にせず「失礼します」とだけ述べて扉を開く。
乱雑な部屋だ。
収納という言葉を忘れられたのか、
ところ構わず書物や書類の類が所せましと机の上に積まれている。
時折ペンや事細かな小物も挟まっており、歪な形に変形している。
電子化の発達した昨今では例を見ないほどの乱雑さ加減だ。
そんなひどい有様の、それこそ整頓という言葉とは無縁の部屋の奥に、
そこだけは何も積まれていないデスクで一人の男が書類に目を通している。
さながらモーセが海を割ったかのようだ。
とはいえ腕を限界まで伸ばしたまま横に振れば、
何かしらに触れてしまい押し倒してしまうのは明白だったが。
「報告の前に、お茶を飲みたいんだが、何がいいかね?」
視界の端にでも捉えたらしくずいぶんとぶっきらぼうな言葉を出す。
にこりともしていないが、かといってしかめっ面でもない。
さながら徹夜明けのテンションだ。
いや、もしかしたら本当に長い間睡眠をとっていないのかもしれない。
もっとも、こんがりと日によく焼けた、
白人特有の赤銅色の肌から疲れの色を読み取るのは、なかなかに難しい。
「あー・・・・梅昆布茶とか宇治抹茶とかチャイなんかは流石にないですよねー?」
「そんなけったいな名前のものはないな」
これでもかと積まれた書類をかき分けるように、
水分を出し切ったかのようにひび割れた肌をした老人が這い出る。
どこか梅干しを彷彿させる姿だが、背筋はぴんと伸びきっているため、
実際の年齢よりもどこか若々しさを漂わせている。
「まあ、コーヒーでいいか。ミルクも砂糖もないが、君もいるかね?」
「あー、はい、それじゃいただきますハイ。
ブラックも全然イケるんで、大丈夫です」
「フムン、じゃあ茶会としゃれ込みながら今回の様子を聞こうかね、お嬢さん」
こぽこぽと、背後で何かが注がれている音がする。
おそらくは煮詰まったコーヒーだろう。
あまり味は期待できないかな、などと思いながらも、
少女は手短に、今回のテスト参加者の評価を述べていった。
そのどれもが・・・・やはりというべきか、最悪である。
マチョズム思考の男たちは力任せというか、
今までの経験で培った持論で動こうとするきらいがあり、
まともに動かすことができたのはほんの一握り、
さらにその中でも満足に動かせた人間はといえば、
残念ながら該当者なしという結果だ。
「やはり、現状では兵力の増強は無理か。
やれやれ、仕事が一部の人間に固まるなぁ」
「あ、でも、おひとり見込みのある人がいました。
キティさんは熱心に私に操作の手ほどき求めてましたし、
今回の中では三番目くらいに成績よかったですから可能性アリです。
半年くらい別地の試験基地でみっちりと特訓したらイけると思うんですけど・・・・」
「キティ?そんな名前の志願者はいなかったはずだが・・・・」
あ、いけね、と少女はちらりと先のとがった舌をだし、
「愛称ですハイ。本名は、クーデレ・ドエロス・アイザックさん」
「あー・・・・あのかわいそうな名前のお嬢さん」
ある程度、日本語由来の英単語を理解しているらしく、
眼前の男は苦笑いを込めたほほえみを浮かべる。
OTAKU言語は割と軍人に浸透しやすい様で、
基地外に出ることのかなわない隊員は日本からのANIMEが唯一の娯楽になっているらしい。
隊長ともいえど例外ではなく、
読書と水泳と女遊びを除けばそれくらいしか趣味として成立できないのだ。
御多分から漏れている少女のほうが異例なくらいだ。
この基地には、意外にも腐った女性、
HUJOSHIやKIPHUJINも多いのだから。
「ウォッホン、まあそれはともかくだ、
君がそう言うのならその御嬢さんには推薦状を与えることにしよう」
「本当ですか?やった、キティさん喜ぶといいなぁ」
手放しで喜ぶ姿を見て、ちくりと良心が痛む。
これから告げなければならないことを思うと、
コーヒーなどとは比べ物にならない苦渋が口内に広がる。
だが、告げなければならない。
それが隊長の役目なのだから。
決死の思いで、口を開き、息を吸い、
瞳をいくばくか伏せ、声を出す。
「喜んでいるところ済まないが、もう一件、話がある」
「あ・・・・はいっ、なんでしょうか」
「今、我々は深刻なパイロット不足にある。
いろいろと手違いや事故、辞退などが相次いでな。
まあ、増員こそしたいのだがままならぬ状況なのだ」
「はぁ・・・・」
はぁ、とは気のない返事だ、と隊長は思う。
同時に、それもそうだろう、という憐憫も浮かぶ。
この子は軍人ではない。
軍属ではあるものの、本来なら無害な一般人だ。
「だから、まぁー・・・・そのぉ・・・・」
「・・・・そこから先は私が話そう」
切り出せない隊長に代わり、先ほどの老人が声をかける。
はっと、素の表情をさらけ出してしまう隊長とは異なり、
まるで精巧な石膏像のように表情一つ変えることなく老人が後を続ける。
「ホァン・ケロウィン・ムラカミ予備二等技師曹。
当ジェリスヘルム部隊・ジェリコチームの隊長からの命だ。
当日をもってして、君にはジェリコチーム六番目の隊員、
ヘレム・Pの臨時パイロットとしての任務を与える!
謹んではげみたまえ。君には一切の拒否権は・・・・ない!」
前髪を軽く撫でつけながらドアをノックする。
返事はない。
が、光は曇りガラスから漏れているので中に人はいるのだろう。
少女は気にせず「失礼します」とだけ述べて扉を開く。
乱雑な部屋だ。
収納という言葉を忘れられたのか、
ところ構わず書物や書類の類が所せましと机の上に積まれている。
時折ペンや事細かな小物も挟まっており、歪な形に変形している。
電子化の発達した昨今では例を見ないほどの乱雑さ加減だ。
そんなひどい有様の、それこそ整頓という言葉とは無縁の部屋の奥に、
そこだけは何も積まれていないデスクで一人の男が書類に目を通している。
さながらモーセが海を割ったかのようだ。
とはいえ腕を限界まで伸ばしたまま横に振れば、
何かしらに触れてしまい押し倒してしまうのは明白だったが。
「報告の前に、お茶を飲みたいんだが、何がいいかね?」
視界の端にでも捉えたらしくずいぶんとぶっきらぼうな言葉を出す。
にこりともしていないが、かといってしかめっ面でもない。
さながら徹夜明けのテンションだ。
いや、もしかしたら本当に長い間睡眠をとっていないのかもしれない。
もっとも、こんがりと日によく焼けた、
白人特有の赤銅色の肌から疲れの色を読み取るのは、なかなかに難しい。
「あー・・・・梅昆布茶とか宇治抹茶とかチャイなんかは流石にないですよねー?」
「そんなけったいな名前のものはないな」
これでもかと積まれた書類をかき分けるように、
水分を出し切ったかのようにひび割れた肌をした老人が這い出る。
どこか梅干しを彷彿させる姿だが、背筋はぴんと伸びきっているため、
実際の年齢よりもどこか若々しさを漂わせている。
「まあ、コーヒーでいいか。ミルクも砂糖もないが、君もいるかね?」
「あー、はい、それじゃいただきますハイ。
ブラックも全然イケるんで、大丈夫です」
「フムン、じゃあ茶会としゃれ込みながら今回の様子を聞こうかね、お嬢さん」
こぽこぽと、背後で何かが注がれている音がする。
おそらくは煮詰まったコーヒーだろう。
あまり味は期待できないかな、などと思いながらも、
少女は手短に、今回のテスト参加者の評価を述べていった。
そのどれもが・・・・やはりというべきか、最悪である。
マチョズム思考の男たちは力任せというか、
今までの経験で培った持論で動こうとするきらいがあり、
まともに動かすことができたのはほんの一握り、
さらにその中でも満足に動かせた人間はといえば、
残念ながら該当者なしという結果だ。
「やはり、現状では兵力の増強は無理か。
やれやれ、仕事が一部の人間に固まるなぁ」
「あ、でも、おひとり見込みのある人がいました。
キティさんは熱心に私に操作の手ほどき求めてましたし、
今回の中では三番目くらいに成績よかったですから可能性アリです。
半年くらい別地の試験基地でみっちりと特訓したらイけると思うんですけど・・・・」
「キティ?そんな名前の志願者はいなかったはずだが・・・・」
あ、いけね、と少女はちらりと先のとがった舌をだし、
「愛称ですハイ。本名は、クーデレ・ドエロス・アイザックさん」
「あー・・・・あのかわいそうな名前のお嬢さん」
ある程度、日本語由来の英単語を理解しているらしく、
眼前の男は苦笑いを込めたほほえみを浮かべる。
OTAKU言語は割と軍人に浸透しやすい様で、
基地外に出ることのかなわない隊員は日本からのANIMEが唯一の娯楽になっているらしい。
隊長ともいえど例外ではなく、
読書と水泳と女遊びを除けばそれくらいしか趣味として成立できないのだ。
御多分から漏れている少女のほうが異例なくらいだ。
この基地には、意外にも腐った女性、
HUJOSHIやKIPHUJINも多いのだから。
「ウォッホン、まあそれはともかくだ、
君がそう言うのならその御嬢さんには推薦状を与えることにしよう」
「本当ですか?やった、キティさん喜ぶといいなぁ」
手放しで喜ぶ姿を見て、ちくりと良心が痛む。
これから告げなければならないことを思うと、
コーヒーなどとは比べ物にならない苦渋が口内に広がる。
だが、告げなければならない。
それが隊長の役目なのだから。
決死の思いで、口を開き、息を吸い、
瞳をいくばくか伏せ、声を出す。
「喜んでいるところ済まないが、もう一件、話がある」
「あ・・・・はいっ、なんでしょうか」
「今、我々は深刻なパイロット不足にある。
いろいろと手違いや事故、辞退などが相次いでな。
まあ、増員こそしたいのだがままならぬ状況なのだ」
「はぁ・・・・」
はぁ、とは気のない返事だ、と隊長は思う。
同時に、それもそうだろう、という憐憫も浮かぶ。
この子は軍人ではない。
軍属ではあるものの、本来なら無害な一般人だ。
「だから、まぁー・・・・そのぉ・・・・」
「・・・・そこから先は私が話そう」
切り出せない隊長に代わり、先ほどの老人が声をかける。
はっと、素の表情をさらけ出してしまう隊長とは異なり、
まるで精巧な石膏像のように表情一つ変えることなく老人が後を続ける。
「ホァン・ケロウィン・ムラカミ予備二等技師曹。
当ジェリスヘルム部隊・ジェリコチームの隊長からの命だ。
当日をもってして、君にはジェリコチーム六番目の隊員、
ヘレム・Pの臨時パイロットとしての任務を与える!
謹んではげみたまえ。君には一切の拒否権は・・・・ない!」