官民連携防災メタバース
概要
官民連携防災メタバースとは、日本政府が構想する、防災デジタルプラットフォームを基盤とした官民連携型の情報共有・サービス連携環境である。
内閣官房が2025年4月4日に開催した「防災庁設置準備アドバイザー会議(第4回)」の補足資料において、
防災デジタルプラットフォームを基盤とする官民連携防災メタバースの構築
という表現で示された。
国や地方公共団体が保有する防災情報に、民間企業、研究機関、医療・福祉機関、物流事業者、NPOなどが持つ情報やサービスを接続し、災害対応に利用できる環境を構築する構想である。
名称に「メタバース」が含まれているが、資料で示されている中心的な内容は、VR空間やアバターを用いた仮想世界の構築ではない。
防災情報、データ、システム、民間サービスなどを相互に接続し、多数の関係者が利用できるデジタル上の共有環境を「メタバース」と表現したものとみられる。
基本情報
| 項目 | 内容 |
| 名称 | 官民連携防災メタバース |
| 分類 | 防災政策、防災DX |
| 提唱主体 | 日本政府 |
| 関係機関 | 内閣官房、内閣府防災担当など |
| 基盤 | 防災デジタルプラットフォーム |
| 中核システム | 新総合防災情報システム(SOBO-WEB) |
| 主な参加主体 | 国、地方公共団体、民間企業、研究機関、医療・福祉機関、NPOなど |
| 資料への登場 | 2025年4月 |
| 整備状況 | 構想・検討段階 |
背景
日本では、地震、津波、豪雨、台風、火山噴火などの災害が発生するたびに、国、都道府県、市町村、指定公共機関、民間企業などが個別に情報を収集してきた。
一方、組織ごとに使用するシステムやデータ形式が異なるため、災害発生時に必要な情報を迅速に共有できないことが課題となっている。
また、避難所、物資、医療、道路、電力、通信、住宅などの情報が複数のシステムに分散し、災害対応に当たる機関が全体状況を把握しにくい場合がある。
こうした課題を解決するため、政府は防災分野におけるデータ連携とシステム連携を進めている。
官民連携防災メタバースは、この防災DXを官民全体へ拡張する構想として示されたものである。
防災庁設置準備アドバイザー会議
官民連携防災メタバースの構想は、2025年4月4日に開かれた「防災庁設置準備アドバイザー会議(第4回)」の資料に掲載された。
同会議では、主に以下の議題が取り上げられた。
- 防災教育および周知啓発
- 防災意識の向上
- 防災DXの推進
- 防災技術の研究開発
- 官民の情報連携
- 災害対応で利用するデータの標準化
防災庁設置準備アドバイザー会議は、防災庁の設置に向け、政府が強化すべき防災施策や組織体制について外部有識者から意見を聴取するために設置された会議である。
構想
官民連携防災メタバースでは、政府が整備する防災デジタルプラットフォームを基盤として、官民が保有する情報や機能を接続することが想定されている。
防災情報の共有
国や地方公共団体が保有する災害情報を、関係機関が迅速に利用できるようにする。
共有対象としては、以下のような情報が想定される。
- 被害状況
- 避難指示
- 避難所の開設状況
- 道路の通行状況
- 河川やダムの情報
- 停電や断水の状況
- 通信障害
- 医療機関の稼働状況
- 救援物資の在庫と輸送状況
- 被災者支援に必要な情報
民間サービスとの連携
行政が保有する情報だけでなく、民間企業が保有するサービスやデータを災害対応に利用することが想定されている。
想定される分野には、以下のようなものがある。
- 物流
- 通信
- 電力
- 交通
- 地図
- 衛星
- ドローン
- 医療
- 福祉
- 住宅
- 保険
- 決済
- 避難支援
これにより、行政機関だけでは確保できない人員、設備、技術、データを災害対応へ活用することが可能になる。
防災資源情報の標準化
政府資料では、国が防災資源情報を標準化し、基礎自治体が共同利用できる分散型のインベントリを構築する構想も示されている。
インベントリとは、利用可能な人員、物資、設備、施設、車両などの情報を一覧化したものである。
防災資源の情報形式を統一することで、異なる自治体や組織の間でも必要な資源を検索し、共有しやすくなる。
分散型インベントリ
防災資源のインベントリについては、国が共通仕様を提供し、原則として都道府県ごとに構築する分散型の方式が想定されている。
一つの巨大なデータベースにすべての情報を集中させるのではなく、各地域が情報を管理しながら、共通仕様によって相互に連携できる構成である。
これにより、地域の実情に応じた管理と、広域災害時の情報共有を両立させる狙いがある。
SOBO-WEB
官民連携防災メタバースの中核となるシステムとして、新総合防災情報システム「SOBO-WEB」が位置付けられている。
SOBO-WEBは、内閣府が運用する災害情報共有システムである。
国や地方公共団体などが収集した災害情報を地図上に集約し、関係機関による状況把握や意思決定を支援する。
従来の総合防災情報システムを更新したもので、災害対応に必要な情報を一元的に表示・共有する機能を持つ。
官民連携防災メタバースでは、SOBO-WEBを中心として、さまざまな災害対応システムや民間サービスを連携させることが想定されている。
防災デジタルプラットフォーム
防災デジタルプラットフォームとは、災害に関するデータやシステムを組織の違いを越えて連携させるための情報基盤である。
各組織が保有するシステムを完全に統合するのではなく、共通のデータ形式や接続方式を用いることで、必要な情報を相互利用できるようにする。
官民連携防災メタバースは、防災デジタルプラットフォーム上に形成される官民共同の情報利用環境として位置付けられている。
想定される利用場面
発災直後
地震や豪雨などの発生直後に、国、自治体、消防、警察、自衛隊、民間企業などが収集した情報を共有する。
これにより、被害が集中している地域や、支援を優先すべき地域を早期に把握する。
避難所支援
避難所の開設状況、収容人数、物資の在庫、医療・福祉上の需要などを共有する。
不足している物資や人員を把握し、他の自治体や民間企業から支援を送る際に利用する。
物資輸送
食料、飲料水、医薬品、衛生用品などの在庫と輸送状況を把握する。
道路の通行状況や物流事業者の輸送能力と組み合わせることで、物資の輸送経路や配分を調整する。
医療・福祉
病院の稼働状況、患者の受入能力、医薬品の不足、要配慮者の情報などを関係機関で共有する。
高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦など、個別の支援を必要とする被災者への対応に利用する。
広域災害
複数の都道府県にまたがる巨大災害では、地域ごとに構築されたインベントリを連携させる。
被災していない地域の人員、車両、物資、施設などを検索し、被災地域へ応援を送るために利用する。
復旧・復興
住宅被害、インフラ被害、支援制度、復旧工事などの情報を共有し、発災直後から復旧・復興まで一貫した支援に利用することも想定される。
メタバースという名称
一般的なメタバースは、利用者がアバターを介して活動する三次元仮想空間を意味することが多い。
一方、官民連携防災メタバースについて政府資料が示している中心的要素は、以下のようなものである。
- 防災情報の共有
- データの標準化
- システム間連携
- 官民サービスの接続
- 防災資源の検索と融通
- 関係機関による共同利用
このため、少なくとも公表資料の段階では、VRChatのような没入型仮想空間を直接意味するものではない。
複数の行政機関、自治体、企業、研究機関などがデジタル上で情報と機能を持ち寄る共有空間を、比喩的または概念的に「メタバース」と呼んでいるものと考えられる。
将来的に三次元地図、デジタルツイン、アバター、VR訓練などが接続される可能性はあるが、政府資料だけから、それらの実装が決定しているとはいえない。
デジタルツインとの違い
デジタルツインは、現実の都市、建物、道路、河川などをデジタル空間に再現し、現実のデータを反映する技術または仕組みである。
官民連携防災メタバースは、特定の三次元空間を再現する技術そのものではなく、複数の情報システムやサービスを連携させる政策構想である。
ただし、将来的には災害シミュレーション、三次元都市モデル、浸水予測、避難シミュレーションなどのデジタルツイン技術が、構成要素として接続される可能性がある。
期待される効果
官民連携防災メタバースの構築により、以下の効果が期待される。
- 災害状況の迅速な把握
- 組織間の情報格差の縮小
- 救援物資の効率的な配分
- 広域応援の迅速化
- 民間技術の防災利用
- 自治体職員の負担軽減
- 重複した情報入力の削減
- 避難所支援の効率化
- 被災者支援の迅速化
- 復旧・復興までを含む情報の継続利用
課題
データ形式の統一
組織ごとに異なる形式で管理されている情報を、共通形式へ変換する必要がある。
施設名、物資名、被害区分などの表記が統一されていなければ、システム間で正確に情報を交換できない。
情報の正確性
災害時には、古い情報、重複情報、誤情報が大量に発生する可能性がある。
誰が情報を登録し、誰が確認し、どの時点の情報を最新とみなすかを明確にする必要がある。
個人情報
被災者、避難者、患者、要配慮者などの情報には、個人情報や医療情報が含まれる場合がある。
官民で情報を共有する際には、利用目的、閲覧権限、保存期間、第三者提供などについて厳格な管理が必要となる。
サイバーセキュリティ
防災情報システムがサイバー攻撃を受けた場合、災害対応そのものが妨害される可能性がある。
不正アクセス、データ改ざん、サービス停止、偽情報の入力などへの対策が必要となる。
通信障害
大規模災害では、停電や通信設備の損傷によってインターネットへ接続できなくなる可能性がある。
衛星通信、無線通信、オフライン利用などを含め、通信が不安定な状況でも機能する設計が求められる。
自治体間の格差
大規模自治体と小規模自治体では、職員数、予算、デジタル技術の導入状況などに差がある。
小規模自治体でも運用できる共通基盤や、国による技術的・財政的支援が必要となる。
民間事業者との責任分担
民間サービスを災害対応に利用する場合、障害発生時の責任、費用負担、データの権利、サービス終了時の対応などを事前に定める必要がある。
整備状況
官民連携防災メタバースは、政府資料で示された政策構想であり、公表資料の段階では、同名の独立したサービスが一般向けに運用されているわけではない。
具体的なシステム構成、参加事業者、運用開始時期、利用者向け機能などは、今後の防災DX政策や防災庁の組織設計とともに検討されるものとみられる。
したがって、本構想について記述する際は、完成済みのメタバースサービスではなく、政府が検討する防災情報連携構想として扱う必要がある。
関連する政策・システム
- 防災庁
- 防災DX
- 防災デジタルプラットフォーム
- 新総合防災情報システム
- SOBO-WEB
- 防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム
- 災害時情報集約支援チーム
- ISUT
- デジタルツイン
- スマートシティ
- 防災資源インベントリ
- 災害情報共有
沿革
| 年月日 | 出来事 |
| 2025年1月30日 | 防災庁設置準備アドバイザー会議が設置される |
| 2025年4月4日 | 同会議の第4回会合が開催され、防災DXと防災技術研究開発について議論される |
| 2025年4月 | 会議の補足資料に「防災デジタルプラットフォームを基盤とする官民連携防災メタバースの構築」が掲載される |
関連項目
- 防災
- 減災
- 防災庁
- 内閣府
- 内閣官房
- 防災DX
- メタバース
- デジタルツイン
- SOBO-WEB
- 官民連携
- 災害対策
- 自治体DX
参考資料
- 内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議(第4回)議事次第」
- 内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議(第4回)補足資料」
- 内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議の開催について」
- 内閣府「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)」









