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電話箱
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電話箱 03/07/07
小さな駅から少し歩いた商店街の外れに小さなベンチがひとつ。その裏は大きな倉庫らしき建物のシャッターがひとつだけ開いており、ころころ太った柴犬がいたので軽く口笛を吹くと目が合った瞬間あらぬ方を向く。つられてそちらを見たら電話がひとつある。
よく目にする透明の電話ボックスとは違って三方板囲い、まるで田舎の便所の佇まいだが、腰の高さに一枚棚があり、そこに黒い電話が乗っている。随分古い雰囲気であってこれは電話ボックスより電話箱と呼ぶほうが明かに相応しい。そう思って近付くとベンチの看板には「タクシー乗り場」とある。タクシー乗り場なら道路には白線で何か書いておき、タクシーが待機しているべきだが、そこはまだ一応商店街の道路であるから白線はない。タクシーもいない。このベンチはタクシー会社が設置しただけなのだろうと白と青の二色に塗られた電話箱を通り過ぎてしばらくすると、どうも何かが引っ掛かる。この勘は大切にしているので立ち止まり、戻ってみた。あった。これだ。
「タクシー呼出専用電話」
専用電話であったか。それなら古くても不審はない。そう思ってまた歩き出す。まだ何か引っ掛かっている。何だろう。専用電話なら内線のようなものか。料金がいらないとか。もう一度戻ってみた。戻って正解であった。これは面白い。
「いつも○○交通をご利用頂き 誠にありがとうございます。
タクシーを呼びたい時は
1 受話器を置いたまま 右のレバーを5〜6回廻す
2 受話器をとる
3 名前だけ伝える 」
とあり、横に立て掛けられていた看板には
「○○交通株式会社 連 絡 所 」
棚には小さいガラスの灰皿と烏龍茶の空缶、そして黒い電話機。レバーとは何かと思ってよく見ると本体右から鉛筆削りそのままのレバーが突き出している。これを廻すらしい。どちらの方向に廻すのか判らないので軽く動かしてみたが、前後どちらにも動く。それでもおそらく自転車のペダルと同じ向きに廻すのであろうと見当をつけた。悪戯防止に本当の客だけを選り分ける一手間というわけではもちろんなくて、どうやら発充電のレバーらしい。
しかしダイアルがない。ダイアルがない以上これは受話器を上げると交換手に繋がる型の電話機であることが判る。今時の日本で交換手はそうそういないので、この電話は直接タクシー会社に繋いであるのだろう。内線と同じ仕組みかもしれない。しかし電気代電話代を払わずに済ませるために手回し充電の古い電話機を用い、電話線はもしかしたらタクシー会社まで文字通り「直接」伸びているのではないだろうか。
しかし古そうな電話機だ。本体と受話器を結ぶコードは螺旋状に捩れてはいない黒く太いコードより正に電線と呼ぶべき代物だ。受話器自体はダイヤル電話時代のありふれた武骨な形のもので、手に持つ部分は色褪せたガムテープが巻かれている。本体の裏を見たくてひっくり返そうとしたら棚に据え付けられているらしく動かなかった。
ベンチの看板にはタクシー会社の電話番号が明記してあるので実用的な面での存在意義としては微妙なところにあるが、感傷的な面から見てこの呼出電話、是非いつまでも残すべきである。いつか観光名所になるかもしれないし、そうなるとタクシー会社は大いに面目を施し、そして大いに儲かる筈だ。
さて。ではこれからレバーを五・六回廻してタクシーを呼び、織姫にでも会いに行くとしようか。
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